金沢文芸館

ENGLISH

文芸館だより(ブログ)

文芸館だより H29年度

 12月10日(日)第8回『朱鷺の墓』朗読会

 染乃はイワーノフとともにナホトカの町へ

 講師:髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表)


 朗読小屋・浅野川倶楽部代表の髙輪眞知子(たかなわ まちこ)先生による『朱鷺の墓』(五木寛之作)の朗読会も、今年度の最終回を迎えました。

 

 シベリア・イルクーツクの郊外に位置するロシア軍の囚人収容所があるソールスコエの村で、染乃が五度目の秋を迎えたある日、イワーノフは収容所から解放され自由の身になることが出来ました。染乃と共に生活していた中国人の笵少年は、イワーノフと入れ替わりに姿を消してしまいます。年が明けて収容所が移転することを知った染乃とイワーノフは、ウラジヴォストークに移る決心をします。その町で染乃は旧知の貿易商人である中国人・楊定福と偶然に再会し、ナホトカで日本人相手にレストラン業を営む友人を紹介されます。自分の忌まわしい過去を知る男たちが多いウラジヴォストークを離れることができたことに安堵し、新天地に向かおうと決心する染乃でした。

ナホトカでは、張分国という中国人が経営する中国料理店「東園」に、夫婦住み込みで働くことになります。染乃はここで片言の中国語とロシア語を駆使しつつ、その女らしい優雅な身のこなしや謙虚で心遣いあふれる接客により、たちまちたくさんの常連客の心を掴みます。また、イワーノフも料理人の見習いとして申し分のない働きをして店の従業員から好感を持たれていました。二人にようやくくつろぎの日々が巡ってきたのでした。

*    *   *

屋根裏部屋の南に面した、たった一つの小窓からは、遠くの港のはずれと、乳房のような島影がよく見えた。霧の深い晩には、桟橋の方で、貨物船の霧笛が、重々しく響いてきた。イワーノフと染乃は、短い夜の時間が過ぎるのを怖れながら、横たわってかすかな声の二人だけの会話をかわした。

「ペテルスブルグでは、いまごろ、ひとばんじゅうあかるい。ネヴァ川だけがくろくひかってながれているのです」

「金沢じゃ兼六園の曲水に、しょうぶが咲く頃だわ。夜遅くまでのお座敷を終わって、お客さんと夜明け前に兼六園に行くの。まだ暗い曲水のあたりに、町のおじいさんや、ほかの旦那衆もみえて、待っているのよ。朝になると、固い紫色のしょうぶの蕾が、ぽっと開くの。開くときに小さな音がするんですって。それを聞こうと、町の人たちが夜明けに集まってくるの」(中略)

今では、その頃の記憶が遠い霧の中の影のようにかすんで、ぼんやり見えるだけだ。金沢に対しても、ある程度、ゆとりを持って見ることができるようになっていた。

「わたしは、いま、いちばんしあわせです」と、イワーノフが呟く。

「わたしも」染乃はイワーノフの片腕に額をおしつけて小声で繰り返す。「いまが、いちばんしあわせ」

窓の外で、鐘の音がきこえてくる。教会の鐘は波のように揺れながら、夜明けの北の街に流れていた。染乃はイワーノフのかすかないびきを聞きながら、静かに目を閉じた。

*    *   *

そんなある日、イワーノフは染乃に自分の苦しい胸の内を語ります。染乃と自由に生きることと引き替えに、自分の政治思想上の信念、自分のまことを自らねじ曲げたこと。昔の仲間はもちろんのこと、ペテルスブルグやモスクワにも近づかないことを約束した。仲間を捨て、誇りを捨てて自由になった裏切り者であり、恥知らずな人間であるという自責の念に押しつぶされそうになっているのでした。

染乃は暗い過去の傷や負い目を封印したまま、心も体も回復するとともに、金沢の芸妓だったころとは別人のように、格段に強くたくましく磨き抜かれた美しさと聡明さを併せ持った存在になります。そんな折、オーナーの張分国から、夫婦で新しい店を出して共同経営してみないかという,嬉しい提案を受けます。その秋、染乃は新規に開店した中国料理店・南園の支配人として、イワーノフは東園・南園の事務長として再出発を果たすのです。折しも行方知れずだった中国人の笵少年がすっかり成長した姿で染乃のもとに戻り、南園の料理人として働きます。3人は仲良く、それぞれの大きな夢を語り合うのでした。

(5~10)

 

一時は絶望の深淵にあえいでいた染乃ですが、様々な苦渋と辛酸の暮らしの中で幸運な出会いや偶然にも助けられて、イワーノフと共に生きる道を探り、確かな新しい生活を築いていきます。そのひたむきな姿や鼓動が、高輪先生の朗読で現実味を帯びて伝わってくるようでした。染乃と一体化していくような熱い朗読は、更に続きます。

さて、次年度は5月から『朱鷺の墓』(風花の章)十一より、朗読会を再開してまいります。たくさんの皆様のご来館をお待ちしています。

 



 12月9日(土)詩入門講座
 言葉の精錬と発酵のプロセスを大切に

 講師:井崎 外枝子(詩誌「笛」同人)
    杉原 美那子(詩誌「笛」同人)
    内田 洋(詩誌「禱」同人)

 

午後からは、やはり今年度の最終回となる詩入門講座が開講されました。講師は詩誌「笛」同人の井崎外枝子(いざき としこ)先生、同じく杉原美那子(すぎはら みなこ)先生、詩誌「禱」の内田 洋(うちだ ひろし)先生のお三方です。

『創作工房』に掲載予定の作品を、改めて受講者の皆さんからお寄せいただき、順次取り上げながら合評して、完成型に近づけるという内容でした。

 

①   詩的な深まりを追求して

・言葉を重ね並列することで、言葉の力が弱まることもある

・対句的な表現でも、前後の位置を吟味する

・詩の核心となることをしっかり描く

・具体的な話し言葉、エピソードで読者のイメージを喚起する

・「連」ごとの展開をドラマチックに

・オノマトペの効果を最大限に引き出す

②   作者のスタンスについて

・作者は対象にもたれるのではなく、心を立て直して淡々と描く

・深刻でも、深刻ぶらない。泣かない、湿らない。

・好ましい、気持ちよい笑いを誘う作者のゆとりを

・「残す」よりも「切る」(削除・圧縮する)大胆さも大切に

・何を、どのように切り取るか、どのようにつなげるか、を工夫する

③   形式へのこだわり

・文語調、五七調の長所と短所を確認する

・そのスタイルを選択する必然性があるか

・まとまり、決着を意識する一方で、行方のわからない面白さを

・改行、一行空き、段下げなどが表現内容に即しているか

 講座の結びにあたり、はじめから完成を求めて小さくまとめようとせず、ハメを外した様々な実験を試みること。たくさんの試作の中からしっくりくる言葉や光る表現を拾い上げること。感情、事象、イメージの「ごった煮」状態から、精錬・発酵の過程を経て言葉(表現)を抽出するように…というアドバイスも頂きました。

 今後も末永く詩に親しみ、自分の大切な思いを詩に託すことを通して、受講生の皆さんがますますご活躍されることをお祈りしています。

 



 12月9日(土)第8回小説入門講座 

 説得力ある表現を求めて、もう一歩

 講師:高山  敏(「北陸文学」主宰)
    小網 春美(「北陸文学」同人)

 

 放射冷却現象で氷が張るほどの、真冬のような寒い朝を迎えました。午前中、今年度最終(8回目)となる『小説入門講座』を開講しました。

 前回に引き続き、北陸文学・主宰の高山敏(たかやま さとし)先生と同人の小網春美(こあみ はるみ)先生を講師にお迎えして、受講生の皆さんの作品を順次取り上げて、合評するという内容でした。作品全体の構成や特徴、表記・表現、描写、展開内容、など様々な視点から、発表原稿完成へ向けて、最後の吟味と検討をする時間でした。

 

①   書く視点を明確に。ぶれないこと。

・「私」の1人称の視点による小説か、客観的な視点の小説か。

・客観小説ならば、主な登場者は個人名を記す。

②   何度も読み返して十分に推敲する

・地の文では、敬語は不要。(…お客様、お招き、おなかがすくなど)

・テーマに直結しない表現・描写を思い切って省く

・類似した内容を含め、表現や説明の重複を避ける

・まとまったエピソードは別の作品に活かす

・事実や体験そのままではなく、書きたいことを焦点化する

・主語と述語はかみ合っているか

・一文が長すぎないか。短めの表現が読み取りやすい。

③    題名とテーマの関連

・テーマの絞り込みをしっかりと

・題名の意図(意味)が読者に伝わる工夫

・テーマや展開を予感させる描写(伏線)

④ 用字・用語の使い分けを適切に

・「懺悔」:キリスト教では「ざんげ」、仏教では「さんげ」

・「ドタドタ」と「スタスタ」、「高齢」と「老齢」、「会う」と「遭う」

・段落、会話、漢数字の表記を揃える
 

たとえば小説の中で、「登場人物が、なぜ山に登ろうとしているのか」、「大切な局面で、人物の心を揺さぶる力があるか」など、講師の先生のきめ細かな指摘をお伺いしながら、作品の魅力・求心力となる説得力・妥当性を持った内容や展開を追求することの大切さを痛感しました。

 最終稿の締め切りは、年明けの1月7日(日)です。高山先生・小網先生からの丁寧なアドバイスを踏まえて、もうひと踏ん張りですね。皆さんの力作をお待ちしています。

 

 次年度も、4月中に各講座の新規受講生を募集する予定です。市民の皆さんからの積極的なご参加を期待しております。また、講座の見学もできますので、当館まで遠慮なくお問い合わせください。(℡263-2444)

 



 11月29日(水)出前講座 金沢市立兼六小学校

 あまのじゃくなデデッポッポウの墓は…

 講師:神田 洋子(ストーリーテラー)

 5月の連休明けから始まった今年度の出前講座も、今回が最終回となりました。訪問先は当館の校区である金沢市立兼六小学校です。ストーリーテラーの神田洋子(かんだ ひろこ)先生に講師をお願いして、76名の明るくて元気な2年生と「金沢の民話をきこう」の学習をしました。

神田先生もこの校下にお住まいで、旧味噌蔵町小学校時代から毎年のように、民話を語り聞かせてくださっています。この日も朗読の部屋のろうそくが灯り、子どもたちはすっかり民話の世界にひきこまれていきました。

 

○「おぎんとこぎん」

 仲良し姉妹のおぎんとこぎんですが、妹のこぎんの母はおぎんの継母で、姉のおぎんにとても冷たいのです。川べりに掘った大きな穴におぎんを誘い込んで、苦しめるのでした。水かさが増して溺れていくおぎんを何とか助けようとするこぎんですが、とうとう二人とも穴の中で川水に溺れて死んでしまいます。母は二人の娘失ってからようやく自分のおろかさに気づくとともに、後悔して尼さんになり、お地蔵さんにこめられた二人の霊を末永く弔い、慰め続けるのでした。

○「鳩の親子」

 母鳩の言うことをきかず、わざと反対のことばかりする子鳩がいました。川は危ないから山で遊べと言われるとわざと川で遊ぶ、という具合です。やがて母鳩が病気になりもうすぐ死ぬ日が近いというとき、母鳩は子鳩に「自分が死んだら、川のそばに墓を立てなさい」と言い残して死んでしまいます。子鳩は、自分の行いを反省し、おっかさんの最後の願いくらいはかなえてやろうと、川のそばにお墓を立てますが、ある日の大水ですっかり流されてしまいます。母鳩は、本当は山にお墓を立ててほしかったのです。ですから「デデッポッポウ、デデッポポウ・・・おっかさんのお墓が流れちゃったよ・・・」と子バトは今も河原で泣き続けているのです。

 

 このほか、「飴買いゆうれい」「だらむこさん」のお話もありました。お話が始まると子どもたちは、しっかり耳を傾け、集中して聞いてくれました。おかげで、あっという間の楽しいひとときを過ごすことができました。

 

 来年度も金沢文芸館の出前講座を開講します。新年度4月中にご案内いたします。民話の語り・読み聞かせ、金沢の偉人についての学習、金沢の三文豪についての学習、俳句・短歌を創作する学習などの出前授業です。小学校、中学校、保育園の皆さんからの積極的なご応募をお待ちしております。詳細は、当館までお気軽にお問い合わせください。

(TEL263-2444 FAX263-2443

 



 11月26日(日)第3回伝承文芸講座

 悲運の豪姫と一族を支えた加賀藩の物語

 講師:藤島 秀隆(金沢工業大学名誉教授) 

 晩秋の気配深まる穏やかな午後、金沢工業大学名誉教授・藤島秀隆(ふじしま ひでたか)先生を講師にお招きして、第3回伝承文芸講座が開講されました。今年度の最終回となるこの日のテーマは、「豪姫・その夫婦愛をめぐって」~加賀藩の美談~でした。

 加賀藩祖、前田利家公の四女である豪姫の波乱に富んだ生涯と、その豪や一族を長年にわたって支え続けた加賀藩との深い関わりを中心に、武将たちの人柄や考え方、姫たちの縁戚関係や暮らしぶり、儒学者・室鳩巣による文献資料など、たくさんの興味深いエピソードをわかりやすくお話いただきました。

藤島先生から配付された自作資料を参考にしながらまとめます。

 

1.       宇喜多家に嫁ぐまで

豪姫は前田利家の四女で、正室・まつ(芳春院)の娘として天正2年(1574)に産まれた。豊臣秀吉は子だくさんの利家夫婦に自分たちの養女にして欲しいと懇願したところ快諾された、との伝承がある。『川角太平記』に従って、豪姫2歳の時のこととすると、秀吉の居城である近江長浜城内で、正室・おねの膝元で養育されたことになる。秀吉は掌中の玉として豪姫を溺愛したと言われる。

天正10年(1582)、豪が9歳の時、秀吉の猶子である宇喜多秀家が秀吉の娘婿と決められ、婚約が交わされた。二人は兄妹のような関係だったと言える。天正16年には秀家に嫁して大阪中之島の宇喜多邸に居住し、2男1女をもうけた。

豪の豪奢な生活によって宇喜多家は財政難に陥り、家中分裂の原因になったと伝えられる。豪は病弱で、産後に大病を患うことが多かったが、その後も秀吉は豪を「秘蔵の子」として寵愛した。

2.       関ヶ原の戦い以後

 慶長5年(1600)、関ヶ原の戦いで敗れた秀家は薩摩に逃れ、島津義弘の庇護を受けた。その後、前田・島津両家による助命の懇願により、慶長11年(1606)には秀家は二人の子息とともに、八丈島に配流となった。傷心の豪は、娘とともに金沢に帰郷した。2代藩主利長の養女となるが、富田重家に嫁した。寛永11年(1634)に61歳で没し、野田山に埋葬された。

3.       宇喜多家の赦免

 八丈島に住む宇喜多一族は明治2年(1869)、恩赦によって263年ぶりに赦免され、8家族71名が東京に帰還した。長期に亘り宇喜多一族の流人生活を支えたのは,妻の実家前田家からの物品の支援だった。『古兵団』『駿台雑話』等によれば、この贈り物の発端は、澤橋兵太夫という人物の直訴に基づくものだった。

 中里恒子作『中納言秀家夫人の生涯』(講談社文庫 昭和55)は歴史的事実をしっかりと踏まえて執筆された歴史小説である。この書を通じて豪の実家である前田家が、260年にわたり八丈島に配流の宇喜多一族とその子孫の流人生活を支えるために、物品の支援を行ってきた美談が広く知られるようになった。

 

 本講座には、数年来の常連の方も含めて30名余りの皆さんの受講があり、盛況でした。改めて北陸・加賀・金沢に伝わる歴史や逸話にふれて学び直すことで、私たちの町や地域への親しみや愛情が静かに深まっていく、そんなひとときでした。

 



 11月25日(土)第2回『フォト&五・七・五』 合評会

 あざやかに残したい、その一瞬を切り取る

 講師:中田 敏樹(俳人) 

朝から冷たいみぞれが降ったりやんだり、という寒い朝を迎えました。

 午前中に、「第2回 フォト&五・七・五」の合評会が開催されました。すっかり当館の恒例となったこの企画は、ご自身が撮影された写真に五七五程度の短い言葉か一行詩などを添えた作品をお寄せ頂くものです。今回は14名の皆さんからご応募いただいた50作品余りを先日まで展示して、来館の皆さんにご披露いたしました。この日は、俳人であり写真撮影にも堪能な、中田敏樹(なかた としき)先生を講師にお招きしました。

 ご参会の皆さんに順次、自作への思いや背景などの解説、創作上の工夫などを改めてお伺いして、和やかに交流しました。その一部をご紹介いたします。

靴洗い稲束干せり田んぼ道    
フナ釣りに夢中だった少年時代の思い出と重なる秋の風景の穏やかさと稲穂の臭い

熱中症どこ吹く風のゆめ街道   
街中に繰り広げられる「よさこい」に満ちる熱気の渦にすっかり呑み込まれる時間

たたずまい秋の身空のど真中   
秋晴れの日、初めて訪ねた上高地の山河の圧倒的な輝きに感激する

穂のかなる明かりつないで君を待つ 
手に持ったススキの穂を移し込むという演出にロマンチックな香り漂う

夏の月に瀬音ざわめくおんな川  
夜空の群青、月の輝き、マンションの黒い影、きらめく川の流れという絶妙のアングル

終戦後流行し唄を思い出す    
リンゴ畑で薄化粧したようなリンゴの実の愛らしさにふれ、懐かしいあの唄を思い出す

高いビル遠くから見ると街灯の高さ目立つ 
富山市中心部のIT関連ビルとそのそばに立つ街灯に惹かれる。その孤高な美しさに。

ミーソン跡何を伝えん炎天下   
ベトナム中部の古都を訪ねた真夏の日。石碑に刻まれた文字は何を伝えようとしているのか。

クリオネの流氷ツアー海続き   
青紫の海水に遊ぶクリオネの姿。流氷が溶けたあとの彼らの行方はわからないままで。

秋風やただ今電線依存症     
電柱に絡む電線、電柱と電柱をまたぐ電線、電線の不思議な、幾何学的な模様の魅力。


 変化に富んだ、意外性に満ちた、人の声が聞こえる、植物のさざめきがやまない…魅力あふれた『フォト&五・七・五』でした。有り難うございました。次回は、5月中旬に募集する予定です。たくさんのご応募をお待ちしております。   

 



 11月23日(木)開館記念事業『和と洋の音と香り 朗読カフェ』

 豊かな時間をみがきながら

 出演:髙輪 眞知子(浅野川倶楽部代表)
    金沢室内管弦楽団

 
 この日、金沢文芸館は開館12周年を迎えました。その記念事業として金沢市の「文化施設を活用した文化の人づくり事業」に採択されたイベントが開催されました。「和と洋の音と香り 朗読カフェ」~豊かな時間が流れる~と題して、文学作品の朗読と室内音楽のコラボ、さらに別室の喫茶コーナーでは香り豊かなコーヒーを味わうという盛りだくさんな内容です。朗読と演奏は午前11時からと午後2時から、それぞれ50分ほどのプログラムでした。その主な内容は次の通りです。

 

【朗   読】  朗読小屋・浅野川倶楽部代表: 髙輪 眞知子 さん

〔午前の部〕   泉  鏡花 作 「化 鳥(けちょう)」(絵本)

〔午後の部〕   五木 寛之 作 「金沢あかり坂」(文春文庫)より 

 

【室内楽演奏】  金沢室内管弦楽団(代表: 桶谷 篤夫 さん)

〔オープニング〕 バッハ作曲「G線上のアリア」

          バッハ作曲「主よ人の望みの喜びよ」

〔クロージング〕 モーツァルト作曲「アイネクライネナハトムジーク」(午前)
          パッヘルベル作曲「カノン」(午後)

 

【喫茶コーナー】 コーヒー、ジュース、お茶、そば棒 

 

 午前・午後とも、開演前から準備した1階フロアの50席は満席となりました。指揮者の桶谷さんはじめ、13名の弦楽器による迫力ある演奏でした。髙輪さんによる浅野川界隈を舞台とした文学作品、緩急の変化に富む絵本「化鳥」と艶のある「あかり坂」の朗読と和して、心静かに秋の深まりをかみしめるひとときでした。

 今回の企画は、当館の説明ボランティアとしてご活躍中の、海福さんを中心とした有志の皆さんによる発案とサポートで運営いたしました。この日も喫茶コーナーをお任せして、ご来館の皆さんに美味しいコーヒーを楽しんでいただくことができました。足元の悪い中、お越し頂いた皆様、有り難うございました。

 ご出演の皆様をはじめ、ボランティアスタッフ、関係の皆様に、深く感謝申し上げます。

 



 11月23日(木)開館記念事業『和と洋の音と香り 朗読カフェ』

 豊かな時間をみがきながら

 出演:髙輪 眞知子(浅野川倶楽部代表)
    金沢室内管弦楽団

 
 この日、金沢文芸館は開館12周年を迎えました。その記念事業として金沢市の「文化施設を活用した文化の人づくり事業」に採択されたイベントが開催されました。「和と洋の音と香り 朗読カフェ」~豊かな時間が流れる~と題して、文学作品の朗読と室内音楽のコラボ、さらに別室の喫茶コーナーでは香り豊かなコーヒーを味わうという盛りだくさんな内容です。朗読と演奏は午前11時からと午後2時から、それぞれ50分ほどのプログラムでした。その主な内容は次の通りです。

 

【朗   読】  朗読小屋・浅野川倶楽部代表: 髙輪 眞知子 さん

〔午前の部〕   泉  鏡花 作 「化 鳥(けちょう)」(絵本)

〔午後の部〕   五木 寛之 作 「金沢あかり坂」(文春文庫)より 

 

【室内楽演奏】  金沢室内管弦楽団(代表: 桶谷 篤夫 さん)

〔オープニング〕 バッハ作曲「G線上のアリア」

          バッハ作曲「主よ人の望みの喜びよ」

〔クロージング〕 モーツァルト作曲「アイネクライネナハトムジーク」(午前)
          パッヘルベル作曲「カノン」(午後)

 

【喫茶コーナー】 コーヒー、ジュース、お茶、そば棒 

 

 午前・午後とも、開演前から準備した1階フロアの50席は満席となりました。指揮者の桶谷さんはじめ、13名の弦楽器による迫力ある演奏でした。髙輪さんによる浅野川界隈を舞台とした文学作品、緩急の変化に富む絵本「化鳥」と艶のある「あかり坂」の朗読と和して、心静かに秋の深まりをかみしめるひとときでした。

 今回の企画は、当館の説明ボランティアとしてご活躍中の、海福さんを中心とした有志の皆さんによる発案とサポートで運営いたしました。この日も喫茶コーナーをお任せして、ご来館の皆さんに美味しいコーヒーを楽しんでいただくことができました。足元の悪い中、お越し頂いた皆様、有り難うございました。

 ご出演の皆様をはじめ、ボランティアスタッフ、関係の皆様に、深く感謝申し上げます。

 



 11月18日(土)第7回小説講座

 「書くこと」は「創り上げること」

 講師:正見巖(「北陸文学」会員)
    剣町柳一郞(小説家)    
    寺本親平(小説家) 
    
 午後から、第7回目の小説講座が開講されました。今回と次回で、受講者の皆さんからお寄せ頂いた作品の合評会をして、最終的な推敲につなげることを目指します。講師である、寺本親平(てらもと しんぺい)、剣町柳一郞(つるぎまち りゅういちろう)、正見巖(しょうけん いわお)の3先生をお迎えして、7名の7作品について各先生から具体的なアドバイスや激励を頂きました。その内容の一部をご紹介いたします。

 

①   どんな読者を想定しているか

小中学生にむけた児童文学か、大人一般の読者に向けた通常の小説かで、おのずと表現も異なる。当面は後者で、書くことの基本となる姿勢や技術を磨いてはどうか。

②   子どもの会話表現について

設定した年齢に見合う会話表現になっているか、丁寧に吟味することが大切。子どもが使わないような語彙や言い回しは避ける。過去の文学作品をひもとき、子どもの会話表現や描写にどんな工夫があるか、見つけ出すことも大切である。

③   心地よい読後感を意識して

読者の立場からすると、作品の面白さ、構成の工夫、味わいのある表現、意外性など何らかの作品の魅力にふれることを期待している。異様さ、不自然、不可解、中途半端など後味が悪いままで結ぶことがないように配慮する。

④   虚構を用いて作品世界を膨らませる

素直に書きたいこと、思いついたこと、思い出したこと、実際のできごとや体験などをそのままで書くのでは小説にならない。どこを膨らませるか、どこを詳しく丁寧に書くか、虚構も交えて十分に練り上げることがポイント。

⑤   適切な作品構成のために

短い文章(断片・断章)を並列するのも方法の一つだが、読み手からすると、一連のまとまりある展開を構想して、その中に断片を埋め込んで書き進めた方が詠みやすい。また、要所を際立たせるメリハリのある構成をめざすという点から、冗長な文章を推敲して余計な部分をそぎ落とすことも必要。

⑥   文章表現のうまさ、センスについて

誰でも初めから優れた表現のセンスを持ち合わせているわけではない。お手本となる文章を熟読したり、書き写したりする作業を、地道に粘り強く積み重ねて、優れたものを真似て取り込むことで自分の表現の深化を追求していく必要がある。そうした努力や訓練を避けた安易な上達はない。

⑦   テーマの深化に向けて

純粋・素直・好人物の登場者で終始するのではなく、邪悪、不可解、矛盾、葛藤を抱えて揺れ動いたり、変化・変容したりする登場人物を設定してはどうか。さらに、暗い心理をさりげない明るさで描いたり、どうにもならない痛みや悲しみを笑いやユーモアにつないだりするなど、設定や展開も単調に陥らない工夫を。

 

たくさんの示唆に富む、先生方からの期待が込もった熱いアドバイスでした。「この人にしか書けないものだ」と感じさせるくらいの域に達するまでに、しっかりと文章の修練を重ねることが不可欠であると再確認しました。繰り返しご指導頂いたように、「書くこと」は「創り上げること」という原点を押さえて、生命感と躍動感に満ちた最終稿の完成を心待ちしております。

 



 11月18日(土) 第1回 俳句入門講座

 俳句にも「起承転結」がある!

 講師:森田 康夫(石川県俳文学協会理事長)

 冷たい雨模様となったこの日、第1回目の俳句入門講座が開講されました。講師は石川県俳文学協会理事長の、森田康夫(もりた やすお)先生です。

 先生の俳句歴はほぼ10年と比較的短いのですが、会社員としてのお仕事を退職された後、ご家族の勧めで俳句教室に通い始めたことが、俳句の世界に出会ったきっかけだそうです。今回の講座では、俳句の魅力や約束についての説明に始まり、後半には先生ご自身のお好きな俳句や俳人について、資料をたどりながら、わかりやすく丁寧にご紹介いただきました。お話の一部をご紹介いたします。

 

①   俳句の魅力(なぜ惹かれるのか)

・国語の教科書などで小・中学校から親しんでおり、心に残っている

・日本の四季や自然に親しむ中で、豊かな感性や詩情を抱いている

・「や、かな、けり」などを用いた詠嘆(深い感動)が込められている

②   俳句の約束事や特色について

・「五/七/五」の十七音からなる定型詩である

・「有季定型」…季語(季題)を入れる

・俳句はリズムと音色が織りなす調べを持つ「韻文」である

・口語表現と文語表現があるが、大半は文語表現である

・言葉の響きや背景、連想による韻文と視点の効果を追求する

・「長音(のばす音「―」)」「促音(ちいさな「つ」)」「撥音(ん)」は一音に数える

・「拗音(ちいさな「や・ゆ・よ」)」は数えない

・助詞(て・に・を・は)を大切に

③   「一物仕立て」と「取り合わせ」

○「一物仕立て」一つの素材だけを句切れなく詠んだ作品

伝統的な手法、印象が鮮明でわかりやすい

○「取り合わせ」二つのものを一句に入れて詠む

        少し離れているが、どこかでつながり季語を引き立てるように配する

        (例)かたつむり甲斐も信濃も雨の中  飯田 龍太

④   俳句を詠み続けるポイント

・暮らしの中で詠み続ける…感動、印象、写生

・たくさん作り、たくさん捨てる

・作った作品を、何度でも読み返す…推敲、リズム

・季語(季題)に語らせ、読者の共感を誘う

・準備するもの:歳時記、辞書(電子辞書)、句帳(ノート)

・事実に終わらず、「虚構」も大切

⑤   私の好きな俳句(抜粋)

さまざまな事おもひ出す桜かな    松尾 芭蕉

夏川を越すうれしさよ手に草履    与謝 蕪村

心からしなのの雪に降られけり    小林 一茶

いくたびも雪の深さを尋ねけり    正岡 子規

プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ  石田 波郷

秋深むひと日ひと日を飯焚いて    岡本  眸

炉話に合いの手打って古時計     黛 まどか

死ぬときは箸置くやうに草の花    小川 軽舟

炎天の空美しや高野山        高浜 虚子

 

 最後に先生から、漢詩の構成と同じように、俳句にも起承転結があるのではないか、という受講生への投げかけもありました。簡潔、平明でありつつも余韻を残す俳句への挑戦(実作)が早速、次回(12月16日)から始まります。皆さんの積極的なご参加をお待ちしています。参観ご希望の方も、ぜひご来館ください
 



 11月13日(月)出前講座 金沢市立泉野小学校 (2学年)

 天狗がさずけてくれたものは?!

講師:吉國 芳子(元図書館職員)

 立冬を過ぎたとはいうものの、ポカポカ陽気の心地よい日となりました。泉野小学校にお伺いするのは6月末以来。やはり2年生(99名)を対象とした出前講座で、吉國芳子(よしくに よしこ)先生による民話の学習でした。子どもたちの中には、「おひさしぶりです!」と元気にあいさつしてくれる子もあり、先生もまた一段と張り切ったご様子で民話のお話会がはじまりました。

 『天狗(てんぐ)さんの寺』

 金沢の寺町にある「妙慶寺」に伝わるお話です。犀川大橋を渡って寺町に向かう広い坂道が蛤坂(はまぐりざか)です。昔、大火事があって辺り一面が焼けてしまったのですが、不思議なことに、このお寺だけは無事でした。「さすが、天狗さんの寺や!」と人びとは感心して讃えたそうです。実はお寺が災難を避けることができたのは、昔むかし、こんな不思議な出来事があったからだそうです。

 ある日、お寺の上人さんが武蔵辺りに出かけた帰りのことです。近江町のあたりで大変な人だかりがあります。何事だろう…と不思議に思った上人さんが人をかきわけて近づいてみると、一羽の大きなトンビが売り物の魚をくわえたまま人だかりの真ん中で羽根をばたつかせていました。「たたき殺せ!」「どろぼうを許すな!」と、そばに居る男たちはすごい剣幕で、大声で叫んでいます。「まあ、待て待て。鳥でも、動物でも、むやみにその命を奪うものではないぞ。」上人さんが止めようとしても、「こんなやつを助けたら、また盗みに来るに決まってる!」「そうだ、殺してしまえ!」男たちの怒りは収まりません。トンビは哀しい目で、じっと男たちや上人を見上げていました。「まあまあ。命はひとつ。どんな命でも粗末にするものでない!よし。それなら私にこのトンビを預からせてくれ。遠くへ連れて行って、もうこれ以上みんなに迷惑をかけないようにするから…」上人さんがそこまで言うのなら…と大声を上げて怒っていた男たちもようやく振り上げたこぶしを下ろして落ち着き、あとは上人にまかせることになりました。こうして近江町の市場はなんとかいつも通りの市場にもどりました。

 寺にトンビを連れて戻った上人は、「もう、決して悪いことをしてはならんぞ」と言い聞かせてトンビを放してやりました。その夜中のことです。上人が人の気配に気づいて目を覚ますと、昼間助けてやったトンビが変身した天狗がいました。天狗はトンビに姿を変えていたのです。天狗は自分が助けて貰ったお礼として、「何か欲しい物があれば、言いなさい。何でもかなえてあげよう」というのです。上人は、「お礼などいらぬ」と言いかけましたが、「それなら、そなたの力で、この寺を末永く守ってくれぬか」と寺と寺にお参りする人びとの安全を天狗に託したのでした。すると天狗は、早速分厚い板を捜し出して、八角にかたどったかと思うと、その板に自分の爪を突き立てて、力一杯に何かを刻み始めたのです。その太く鋭い爪は、まるでトンビの爪のようです。ゴリゴリ、ガサガサと音がするたびに、木くずが辺りに飛び散ります。やがて、表には「大」、裏には「小」の文字がくっきりと彫り上がりました。厄災を防ぐ不思議な魔力のある木板が完成したのです。「これでよし。この木板が、寺を永遠に守るだろう」とつぶやくと、天狗は煙のように消えていきました。

 それから寺では、大の月には「大」、小の月には裏返して「小」を掲げ続けており、もちろん今でも妙慶寺の無事安泰を約束する、寺一番の宝物として大切にされているそうです。

 

 このほか、「ててっぽっぽう(山鳩の話)」「だんご、ひょいひょい」のお話もお聞きして、あっという間に楽しい民話の学習が終了しました。吉國先生お疲れ差でした。泉野小学校の皆さん、またお逢いしましょう。 



 11月12日(日)第7回『朱鷺の墓』朗読会 

 極寒のロシアの台地に希望の灯が

 講師:髙輪 眞知子(浅野川倶楽部代表)

 前日からの雨もすっかり上がった午後、五木寛之作・第7回『朱鷺の墓』朗読会が開催されました。朗読小屋・浅野川倶楽部を主宰である髙輪眞知子さんによるこの朗読会は、今回の7回目から第二章にあたる「風花の章」に入りました。

 

 明治42年の春、元東山の芸妓だった染乃がシベリア大陸の裏玄関とも言われるヴラジヴォストークの街の娼婦として連れて来られてから、既に三年の月日が流れていました。明治20年代から大正の初めにかけて、南洋や大陸に多くの日本人娼婦が送り出された時代でした。染乃は貿易商の松原太吉郎の従業婦という名目で渡航したのでしたが、実際は秀月楼という女郎屋の娼婦として送り込まれた一人でした。松原や中国人の身請け話にも応じない染乃は、一種不思議な静かさを持つ最も高価な娼婦として、客の男たちからも尊敬と賛美を抱かれる存在でした。

 ある晩、染乃は中国人の周という馴染みの若い男から、高額の金を授かります。秋になり、周は死を覚悟した最期の手紙で、元ロシア人将校であったイワーノフがイルクーツクの政治犯収容所にいることを知らせます。染乃にとっては何のあてもないイルクーツクでしたが、金沢で夫婦の契りを結んだイワーノフに再会したい一心で、周から託されたお金で秀月楼の借金を清算した上で、手紙を届けてくれた中国人の笵少年を誘い、ともに冬のイルクーツクに向かいます。

 その少年と滞在したホテルで、染乃が偶然に知り合った日本人新聞記者から、ペテルスブルグで起こったロシア首相暗殺未遂事件に関わる囚人たちが、郊外のソールスコエという山間の村で森林伐採に携わっていることを知ります。さっそく期待を膨らませて笵少年と向かったソールスコエでは、同じ事件の罪で囚人として収容されている家族の小屋が建ち並んでいました。染乃と少年は幸運にも、息子の安否を気遣う一人暮らしの親切な老女のもとに同居できることになりました。

 この冬から、極寒や不慣れな重労働に耐えながら囚人となったイワーノフとの再会を願う、染乃の新しい生活が始まります。そんな春先のある日染乃は、作業に向かう隊列の一員だったイワーノフとの再会を果たすことができました。その背中は曲がり片腕を失った老人のような様子でしたが、神様に深く感謝する染乃でした。

 二年目の冬を過ごすうちに、染乃にとって笛は無くてはならないものとなります。囚人の隊列を管理する若いロシア兵に促されて、自作の曲を笛で吹いたときも、近くにいたイワーノフを初めとする囚人たちやその家族にも、そこに居合わせた兵隊にも、寂しく澄んだ音が沁みていきます。

*   *  *

 笛の音はシベリアの野面に静かに流れていった。囚人たちは頭をたれ、膝の間に顔を埋めて押し黙っている。兵隊たちも黙っていた。若い兵隊が、不意にしゃっくりをするような音を立てた。彼は銃を地面に横たえたまま、背中を幹にもたせかけ、目を閉じていた。白く光る涙の粒が、ぽつりと陽に光り、若い兵隊の頬を伝って落ちた。囚人たちの輪の外側にいる女や、子供たちも黙っていた。みんな誰も言葉を発せず、葉ずれの音と、遠い遠雷の不気味な響きだけがきこえていた。

 染乃はその時、生まれて初めて味わう、異常な感じに浸って吹いていた。それは、自分が周囲の自然や、他人や、風景や、それらすべてのものとまったく一つに合一して、同じ生命のリズムの中に溶け込み生き続けているという感覚だった。(中略)

はるかに続く一本の道を、今日に限って囚人たちは歌を合唱せずに、うなだれて歩いて行った。銃を持った兵隊たちも、なぜかみんな同じ囚人のように物哀しく見えた。染乃はその時はじめて自分の持っているたった一本の粗末な笛の中にひそむ、不思議な力に気づいたのである。

*   *  *

 極寒の地で苦境にあえぐ日々の中にも、イワーノフとの再会を果たして一縷の望みを見いだし、たくましく生き抜く染乃はもう、金沢の芸妓だった染乃とは別人のようです。

 このあとも、染乃はさらに希望を膨らませていくことが出来るでしょうか。この日は、休憩なしで80分に及ぶ髙輪さんの熱のこもった朗読でした。凍てついたロシアの台地が、不思議な親しさで脳裏に広がっていく時間でした。次回は、今年度の最終回となります。多くの皆様のご来館をお待ちしています。 



 11月11日(土)第7回詩入門講座 

 棕櫚(しゅろ)の声に耳を澄まして

 講師:井崎 外枝子(「笛」同人)

 
 午後からは、第7回目の詩入門講座が開講されました。講師は詩誌「笛」同人の井崎外枝子(いざき としこ)先生です。

 受講者の作品についての合評は、今回が4回目になります。冒頭に先生から、今回提出された作品はいずれも、内容的にすっきりと整理されて、確実に好くなってきているという評価を頂きました。今回の講座では、7篇の作品について順次読み合わせをして、感想を出し合うとともに、先生からは丁寧にアドバイスをいただきました。

 表現上の安定感を得たこと、控えめに冷静な言葉選びを意識できたこと、さわやかな読後感につながる結び方の工夫、起承転結の整った構成、意外な興味深い結末、キーワードの面白さ、短編小説のような展開力…などが話題に上りました。

 最終的な提出作品の完成に向けて、…

①    説明的、作為的に流れないこと

②    言葉を精選して、情感を醸し出すこと

③    対象に語りかける面より、対象から汲み取る面を大切にすること

④    整合性や文脈通りに縛られないための、もうひと工夫   …を確認しました。

 

この日に資料として提示された、井崎先生の詩をご紹介します。次回は最終回です。傍聴や見学も含めて、皆さんの積極的なご参加をお待ちしています。

 

 

棕   櫚

 

早くオレを切れという

大屋根を越えそうだから切れという

陰気だから

日本的でないからともいう

身体じゅうに

けもののような剛毛を巻き付けているからか

おんなの髪の毛のように巻き付けているからか

芸もなくただ真っすぐに伸びているからか

庭じゅうに黄色の小花を撒き散らすからか

 

松の木や

体をひねっている松の木や

おまえより高くなっては場壊しか

サザンカや

おまえのように花をいっぱいつけないとだめなのか

ツツジよ

地に這ってみないとわからないものがあるのか

だがな

オレを植えてくれた人もいる

オレを育ててくれた人もいる

じっくり見上げて行ってくれる人もいる

 

てっぺんから輪切りにするのだという

根っこのところだけ残せばいいという

オレは切られるのか ずん胴に

オレは腰掛けになってしまうのか

なぜ立っていてはいけないのか

誰よりも高くなってはいけないのか

ああ オレはいったいだれなのか

どこからきたのか

どうしてここにいるのか

なぜいつも邪魔ものあつかいにされるのか

タワシ、ホウキ、ハケ、ナワ、ウチワ、ボウシ

オレけっこう役立っているというのに

だれも思い出そうとはしない

 

だれかきて

この髪の毛のようなものを全部取り除いてくれ

せめて最後に

わが素顔を見ておきたいのだ



 11月11日(土)第7回小説入門講座
 作品完成まで、もうひと息です

 講師:高山 敏(『北陸文学』主催) 小網 春美(『北陸文学』同人)
 
 5月にスタートした小説入門講座も、今回・次回の作品合評会を残すばかりとなりました。事前に受講生の皆さんから寄せられた個々の作品について、『北陸文学』主宰・高山敏(たかやま さとし)先生と、同誌同人の小網春美(こあみ はるみ)先生に具体的にご助言戴くとともに、受講生の皆さんからも感想やご意見をお受けするという内容でした。

 今回は、5名の5作品についての熱心な合評会でした。むろん、各作品とも主題や特長は異なり、それぞれのよさや面白さがあります。今後さらに推敲したらよいポイントとして、話題になったことの一部をご紹介します。

 

①    作品の構成について

・欲張って詰め込むと、テーマが曖昧になる。

・一行空き、章立てをして整理する。

・大きな場面転換・場面順を効果的に。

・意外な結末が好感を誘う。

②    「私小説」について

・事実や実話に引っ張られることなく「創る」姿勢を堅持する。

・虚構を交え、事実を整理してよりわかりやすく作者の意図を伝える。

・サクセス・ストーリーで結ばない。

③    表現方法や内容について

・主語と述語のつながりを明確にする。

・話し手を曖昧にしない。

・語順、文の順を吟味する。

・改行、一行空きや読点、「」を適切に用いて、読みやすくする。

・主な登場者の年齢、職業などを明らかにする。

・説明や描写の重複を避ける。

・削除または省略できる言葉に気付く。

・前後の文脈に沿う『活きた会話』を心がける。

・登場者の内面の葛藤をより丁寧に描く。

・一文を短くすると、リズムが生まれて読みやすい。

  ・「小物」を効果的に使う。題名や暗喩にも活かされる。 

④    用字・用語について

・平仮名と漢字(漢語)の使い分けを適切に

・より適切で正確な語彙を用いる。

 例:ジャケット・ブレザー・上着、バッグ・鞄、年・歳・年齢

   平然・平静、飲む・呑む、少女・彼女、

・「て」「に」「を」「は」など助詞の使い方に気配りする。

 

 作品の完成まで、もうひと息という段階にさしかかりました。今日のアドバイスや意見などを参考に、最終校正に臨んでくださることでしょう。また、今回、初めて小説を書いたという受講生が多いということでした。ぜひ、今後も末永く書き続けることで自信を深めて、創作の楽しさを満喫してほしいと期待しております。



 11月3日(金)朗読「奥の細道」とチェンバロ演奏

 文化の薫りひろがる、朗読とチェンバロ演奏でした

講師:朗読 神田洋子 チェンバロ演奏 棒田 美江  

 快晴に恵まれた文化の日の午後、古典の日(11月1日)の記念イベントとして、「朗読『奥の細道』とチェンバロ演奏」が当館で開催されました。

 1階の交流サロンに用意した50席は満席の盛況ぶりでした。朗読の神田洋子(かんだ ひろこ)さんとチェンバロ演奏の棒田美江(ぼうだ よしえ)さんは、長年のお知り合いで、息もぴったりでした。

 

 松尾芭蕉が門弟の曾良とともに「奥の細道」の旅に出たのは、元禄2年(1689)のことです。旧暦3月、弟子たちに見送られて住み慣れた江戸を立ち、一路北へ向かいます。日光を経て白川の関を越えてみちのくへ。松島から平泉を経て、奥羽山脈をまたいで日本海側に出て、山形、新潟から親不知、そして越中・加賀・福井を辿りました。さらに、近江を抜けて終着点の大垣にいたるまで、約150日間、六百里(2400キロ)の旅でした。

 芭蕉はこのとき46歳でした。有名な冒頭の文章には、歳月は永遠の旅人のようなものであり、去る年も来る年も旅人である。自分もちぎれ雲のように風に誘われてさすらいの旅に出たいという気持ちが抑えきれずに旅支度をすすめた、とあります。その中で、これまでの住まいを人に譲ったという一節があることからも、これが生涯最後の旅であり、再び江戸に戻ることはないという、並々ならぬ覚悟が感得できます。

 金沢での滞在は10日間ほどですが、門人やその知人などの手厚いもてなしを受けています。金沢・加賀で詠まれた句の一部をご紹介します。

    わせの香や分け入る右は有磯海

    塚も動け我が泣く声は秋の風

    秋涼し手毎にむけや瓜茄子

    あかあかと日はつれなくもあきの風

    むざんやな甲の下のきりぎりす

    石山の石より白し秋の風

    山中や菊は手折らじ湯の香り

 

 旅を愛し、旅の中で俳諧を通して風雅を極めようとした芭蕉の軌跡をたどる「奥の細道」でした。その全編にわたる神田さんの朗読と棒田さんが奏でるチェンバロのコラボに続き、後半はチェンバロによるミニコンサートでした。「主よ人の望みの喜びよ」(バッハ)、「カノン」(パッフェルベル)など5曲が披露されました。文芸館はコンサートホールと化して、参会の皆さんに、文化の日にふさわしい優雅なひとときを楽しんでいただきました。

 



 10月25日(水)出前講座 さくら保育園・俳句 

 楽しく言葉さがしができました

講師:中田 敏樹(俳人)


 まだ平仮名も書くことも覚束ない年長の子どもさんたちに、俳句が作れるのかな??という不安を抱えながら出かけた出前講座でした。講師の中田敏樹(なかた としき)先生は、そんな懸念をものともせず、26人の明るく無邪気な子どもさんたちに丁寧に語りかけ、向き合ってくださったおかげで、ほとんどの子が「うれしい」「楽しい」実感を素直に言葉につなぎ、俳句を仕上げることができました。

また、園の保育士さんたちの温かいサポートも、とても心強かったです。有り難うございました。

*作品から

      ケンだまが じょうずになって うれしいな

      おさんぽで バッタつかまえ たのしいね

      ハロウィンで おかしもらって うれしいな

      おいもほり いっぱいほって うれしかった

      かわにいって しろいとりみた すてきだな

      おばけやしき おばけいっぱい でてこわい

      かわらでね バッタをひとつ みつけたよ

      あしたのてんき たいようだ

      あかぐみで リレーはしって たのしかった

      だいすきな いちごだいふく たべたいよ

      かまきりの かまのところが かっこいい

 

 ひらがなを書くのが苦手な子でも、間違いを気にせず、大きな字で書いていました。初めのうち「はいく、わからない!」と悩んでいた子も、先生たちのヒントやアドバイスを受けて、だんだんと元気が出て来ました。たくさんの子が、自分の俳句を見せながら、みんなの前で発表できました。五七五でなくても、言葉をさがしてつなぐ面白さを味わっているようでした。これからも、楽しい俳句をつくってくれることでしょう。 



 10月22日(日)第2回伝承文芸講座

 加賀百万石の礎を築いた芳春院まつの物語です

 講師:藤島 秀隆(金沢工業大学名誉教授)

 
 台風が接近してひときわ風雨が強まる午後、金沢工業大学名誉教授、藤島秀隆(ふじしま ひでたか)先生を講師にお招きして、第2回目の伝承文芸講座が開催されました。今回のテーマは「戦国乱世を生きた良妻賢母」~利家の正室まつ(芳春院)の生涯~でした。先生ご自身の著作である講義資料の一部をご紹介いたします。

 

①   結婚まで

まつは天文16年(1547)に尾張国沖之島で生まれた。父は織田信長の弓頭を務めた篠原主計といわれる。母は利家の生母の姉であり、利家とまつは従兄妹同士だった。数え4歳のとき、前田利家の両親である利春夫妻に引き取られて成長した。利春夫妻は包容力があり、夫婦円満だったことは事実であり、そうした両親のすぐれた資質を利家・まつとも受け継いでいると言える。永禄元年(1558)に、まつ十二歳の時、十歳年上の利家と結婚した。これは、主君織田信長の命によるものであったが、幼時から兄のように慕っている利家との結婚はごく自然なものであったと思われる。

②   利家夫婦の第一の危機

 永禄2年の利家による拾阿弥斬殺事件。信長が寵愛していた同朋衆の拾阿弥が自分の刀の笄(こうがい)を盗んだことに怒った利家が、拾阿弥を斬り殺した。このことが信長の勘気を被り出仕停止、家中追放の処分となった。その後、斉藤龍興との戦いで武功を挙げたことが認められ、ようやく帰参を許された。その間のまつのやりくり算段と育児はみごとだったと評価できる。

③   利家夫婦の第二の危機

 信長没後の織田家中の抗争に巻き込まれたこと。天正11年4月の賤ヶ岳の戦いでは、柴田勝家に与しながらも戦意を見せず、戦線離脱して府中城(福井県武生市)に兵を撤収している。早くから秀吉の勧誘に応じて、利家は中立的な立場をとらざるを得なかっかった。利家は勝家および秀吉と親しい間柄で、戦意を持たなかったと思われる。まつは長男利長に対して、秀吉側に従軍することを強く勧めたという。心ならずも敵味方に分かれた秀吉と利家の関係修復と斡旋に心をくだき、両者の仲を復活させたまつの努力は、賢夫人と賞賛するに値する。

④   利家夫婦の第三の危機

 天正12年、佐々成政の大軍が加越能三国の要衝である末森城を急襲したこと。まつは救援軍派遣に慎重だった家臣たちを鼓舞し、叱咤激励するとともに、蓄財に努めてきた利家に、援軍のために蓄財を擲つように強く皮肉り利家を怒らせた。結果的にはこのまつの判断が援軍の士気を高め、末森城の厳しい戦いに勝利の道を開くことになった。まつは女丈夫としての力量を遺憾なく発揮したと言える。

⑤   慶長の危機

まつと長男利長にとっての最大の危機。利家の没後、利長は徳川家康の勧めで帰国していたが、利長謀反の風評が京都・大阪に流れた。利長の懸命の弁明は家康に受け入れられず、母のまつ(芳春院)を人質として江戸に差し出すことで、窮地を救われることとなる。慶長5年に芳春院は金沢を発つに際して、「侍は家を立てることが第一である。私は年老い、覚悟も出来ている。母を思うため、前田の家をつぶすようなことがあってはならない。少しも心にかくるな。…」という伝言を託す。芳春院自身が、自らを犠牲にする勇気と決断によってこの最大の危機を免れることができた。芳春院の江戸滞在は15年間に及んだのち、帰国を許された。元和3年、金沢城にて没。享年七十一。

 

芳春院まつは、夫の利家と二人三脚の人生を歩み続け、加賀百万石の基礎を支えた賢夫人であり、糟糠の妻であった。実子、側室の子など併せて十九人の面倒を見、行く末までも見届けた管理能力と鋭い洞察力は卓越している。

 

次回(11月26日、午後2時より)は、第3回のテーマは「豪姫、その夫婦愛をめぐって」です。ぜひお誘い合わせの上、ご来館ください。



 10月21日(土)第6回小説講座

 講師:正見 巖(『北陸文学』同人)

 受講生の皆川有子さんが、市民文学賞を受賞しました。

 19日(木)に、第45回泉鏡花記念市民文学賞の審査結果が発表され、本講座受講生である皆川有子さんの短編小説集「ダイヤモンドな日々を」に授与されることが決定しました。おめでとうございます。

 
 魅力ある主人公を描き出すこと

 午後から、「北陸文学」同人の正見巖(しょうけん いわお)先生をお迎えして、第6回目となる小説講座が開催されました。今回のテーマは「実作についてⅡ」~実作の要諦~で、先生ご自身の豊かな経験を踏まえて、小説を創作するためのポイントを具体的に指摘して頂き、学習しました。

 

①    主人公をなるべく早く登場させる。

…小説全体のバランスに配慮して。文章の中からその「人」が分かるように描く。

②    時間と場所を示す。…情景の描写を通して、読者が理解できるように。

③    テーマや要約を最初に出さない。 

…テーマは文章全体からにじみ出るものを、読者が感じ取るように

…一般論、解説、道徳的な教訓、清潔一辺倒を避ける

④    無駄な情景描写や説明は不要。

  …テーマやストーリー展開に直結しているかどうか

  …簡潔明瞭、メリハリのある展開を創出する

⑤    主人公に対峙する人物を登場させる。

…主人公との反目や衝突により、作品が深まる

⑥    異性を登場させる。

…男性・女性の様々な違いやよさを際立たせるための人物設定を

⑦    主人公の職業に精通する。…よく調べる。積極的に取材する

⑧    風景描写に登場人物の心情を重ねる。…季節の推移も効果的に活かす

⑨    心理描写を時間の推移と重ねる。…日常から身近な人間観察を習慣づける

⑩    会話と地の文のバランスを適切に。

⑪    文章の最後では、蛇足に注意。総括しない。

⑫    句読点に注意。…必ず声に出して読み、読点の位置を決める。

⑬    十分に推敲する。

  …時間をおき、あたためた後に手直しする、一文の長さにも配慮する

  …より適切な表現を模索する、題名の工夫

 

 どんな文章の場合にも通じることですが、常に読者のことを念頭において創作すること。自分の世界に浸る余り、思い込みの強い、独りよがりな文章になりがちです。また、作者と主人公(登場人物)は同一人物ではないことを再認識して、しっかりとした人物設定をすること。そうすることで、登場人物が独りでに動き出す。また、読者を味方につけるような魅力ある主人公を描き出して欲しい、というアドバイスも頂きました。

 小説講座も、あと2回の作品の合評会を残すばかりとなりました。先生からの温かい激励を追い風にして、充実した作品が完成することを願っています。



 10月21日(土)第3回短歌入門講座

 読み手の共感を引き出すために

 講師:島田鎮子(歌誌『沃野』選者)

 

 短歌入門講座は今年度の最終回となりました。講師は歌誌「沃野」選者の島田鎮子(しまだ しずこ)先生です。今回は「歌会を楽しもう~共感ということ~」がテーマでした。受講生の皆さんの作品をあらかじめ先生に見て頂いて個々の添削を受けるとともに、受講者がお互いに意見や感想を交流するという内容でした。歌会(合評)に臨む姿勢として…

①    生の反応を楽しむ

②    なぜ、そう受け取られるのか、を考える

③    様々な批評から、作品の「読み」を考えてみる

④    作品の批評を通して、共感が生まれ、言葉の奥深さ、伝わることのすばらしさが実感できる 

というポイントを確認しました。

 短歌には結論や説明、理屈は不要であること、表現された言葉を通してお互いの作品を楽しみ味わうこと、読み手に通じないところや誤解が生じる部分があるとしたら、どのように修正すべきか考えを深めて、改めて表現を吟味すること、が大切です。

 

*具体的な添削・修正の例

○「腕を振り上げ一息に打つ」→「一息に打つ腕振り上げて」倒置法を活かす。

○(入道雲が)「沸きたつ」→「湧きたつ」用字・用語の吟味。

○「手首を小さく振る君に」→「小さく手を振り笑む君に」詩的な言葉選び。

○「旅の魅力に引きずられ」→「旅の魅力に抗し難く」結句につながる優しさ。

○テーマを焦点化し、より深く絞り込む。

○全部を言い尽くすよりは、余情を残し、読者の想像力に委ねる。

○辞書に掲載された言葉を使いこなす。

*当面の課題として・・・

○作品が生まれたら何度も音読して、より適切な表現に進む。

○リズムを大切に。なるべく具体的に。言葉の響きと流れを大切に。

○他の人の意見を聞く。よい仲間を持つ。

 

今後の表現活動の継続と発展を期す方へ、金沢文芸館・短歌講座受講者OB会からのご案内もありました。詳しくは、当館までお問い合わせください。(℡0762-263-2444)

島田先生の長年に亘る活動や成果の一端が、10月15日の北陸中日新聞(朝刊)にも掲載されました。先生はじめ受講生の皆様の、今後の一層のご活躍を期待しております。



 10月14日(土)第7回 詩入門講座

 詩にふさわしい言葉、詩的な表現とは・・・

 講師:内田 洋(詩誌『禱』同人)

 

午後からは、第6回詩入門講座が開講されました。今回の講師は詩誌『禱』同人の内田洋(うちだ ひろし)先生です。前回に引き続き、受講生の皆さんからお寄せ頂いた作品を読みながら、詩の創作への姿勢を確立し、より豊かな作品世界を目指すという内容でした。先生からのアドバイスや話題に上ったことの一部をご紹介します。

とにかく詩を書いてみよう!ということで、8月には書く手がかりとして、石垣りん「摘み草」と谷川俊太郎「自己紹介」の二篇が紹介されました。自分を語りたいという思いで、心の内にある何らかのイメージを完結させること。そのための言葉をさぐりつつ、自分自身を吐露することで詩が生まれます。広い意味では詩はどれも「自己紹介」であり、タイトルは変わっても「自己紹介」の作業を続けて自分自身を対象化していくもの、と言えます。

①    形式を整える…文語体と口語体、定型詩と自由詩、常体と敬体など

②    題材を整える…数を揃えたいときには、フィクションを挟むのも効果的

③    肯定的な感情を押し出すと共感を誘いやすい

④    新しい気づきや不思議な体験を盛り込む

⑤    主語と述語の対応を適切に

⑥    意外性あるアイデアやメタファー(暗喩)を活かす

⑦    会話は曖昧を避けて具体的に表現する

⑧    表現内容の連続性、バランス、矛盾に対応する

⑨    人間をとりまく動植物の存在と人間との関係性に注目する

⑩    自分の生活感、ちょっとした秘密、ユーモアなどを挿入する

*イメージのふくらむ詩的な表現を吟味する

「晩夏」…空調が要らなくなったオフィス、静かさと落ち着き

「帰りの切符を握りしめて」…遠くに出かける不安との確執

「海へ(と)つながる坂道」と「海に降りていく坂道」

「文語体の(詩集)の押し花」…時代の経過、静止した詩の言葉

「机の上のコップ」…透明感、空虚、寂しさ

 

  次回(11月11日)は、実作の合評会の4回目。担当は、詩誌『笛』の同人である井崎外枝子先生です。受講者の皆さんの力作をお待ちしています。



 10月14日(土) 第6回 小説入門講座

  さすがに、名作の描写はひと味違いますね!

 講師:小網 春美(「北陸文学」同人)

 キンモクセイの甘い香りが、町のあちらこちらからゆるやかな風に乗って流れてくる頃を迎えました。文芸館では、愛らしいサネカズラの花も咲き終わり、その花の後には立派な房状の実をつけて、日ごとに生長しています。

 

 穏やかな秋の日の午前中に、第6回小説入門講座が開講されました。今回は講師に同人誌「北陸文学」の小網春美(こあみ はるみ)先生をお迎えして「描写の力」というテーマでした。

 この日が小説作品の提出期限で、受講生の皆さんのほとんどの作品が揃ったのですが、今後も末永く小説の創作に携わって頂くことを想定して、小説における描写について改めて注目しました。

 

①   自然描写のポイント

○山河、町の姿、季節・気候や天候など、人体以外に関わるものすべてが含まれる。

○北陸人は辛抱強い、など、人間の内面、性質とも関連づけて描く。

○日頃から「書くこと」を意識して、しっかりと観察する習慣をつける。

【夏目漱石「こころ」より】

  割合に風のない暖かな日でしたけれども、何しろ冬のことですから、公園のなかは淋しいものでした。ことに霜に打たれて蒼味を失った杉の木立の茶褐色が、薄黒い空の中に、梢を並べて聳えているのを振り返って見た時は、寒さが背中へ齧り付いたような心持ちがしました。

 

②   心理描写のポイント

○比喩表現を工夫して、心の裏側に潜む微妙な襞を描き出す。

○他のどの表現形式にも勝る、小説の特長である。

○断定的な表現を避け、「…のようだ」「…かもしれない」と含みのある表現を工夫する。

 そうして読者にゆとりを持たせることで、作品の奥行きを広げる。

【村上春樹「海辺のカフカ」より】

  君の心は長い雨で増水した大きな川に似ている。地上の標識はひとつ残らずその下にかくされ、たぶんもうどこか暗い場所に運ばれている。そして雨は河の上にまだ激しく降り続いている。

 

③   人物描写のポイント

○服装や持ち物には、個性を反映させる。また、声、ルックス、癖にもこだわる。

○主人公の設定は、魅力あるキャラクターであることを基本に、丁寧に。

○名前、年齢、家族構成、性格、趣味・趣向なども工夫して。意外性も交える。

【川端康成「雪國」より】

 女の印象は不思議なくらい清潔であった。足指の裏の窪みまできれいであろうと思われた。山々の初夏を見てきた自分の眼のせいかと、島村は疑ったほどだった。その伏目は濃い睫のせいか、ほうっと温かく艶めくと島村が眺めている内に、女の顔はほんの少し左右に揺れて、また、薄赤らんだ。

 細く高い鼻が少し寂しいけれども、その下にちいさくつぼんだ唇はまことに美しい蛭の輪のように伸び縮みがなめらかで、黙っている時も動いているかのような感じだから、もし皺があったり色が黒かったりすると、不潔に見えるはずだが、そうではなく濡れ光っていた。

 

 このほか、比喩表現の大切さ、時代や場所の設定を早めにすること、五感に訴える表現を工夫すること、時系列を工夫して「空間」(立体感)をつくること、といったアドバイスを頂きました。

 いよいよ、次回(第7回・11月11日)からは提出作品の合評です。仲間の作品をしっかり読むことが、自分の創作にも活かされ、今後の成長につながるとの激励を頂きました。合評会に積極的にご参加ください。また、講座の傍聴(オブザーバーとしての参加)もお待ちしています。

 



 10月1日(日) 第6回『朱鷺の墓』朗読会

 イワーノフと再会できた染乃に、更なる試練が

 講師:髙輪 眞知子(浅野川倶楽部代表)

 

 秋晴れの午後、朗読小屋・浅野川倶楽部主宰の高輪眞知子(たかなわ まちこ)さんによる第6回目の『朱鷺の墓』朗読会が開催されました。

 

機一郎と忠吉によって海の見える町の深夜の遊郭から救い出された染乃は、一旦、白山麓の村に身を潜めて虚脱状態の日々を送りますが、その後東京の本郷の家に移り、ひっそりと暮らします。五月のある日、そんな機一郎と染乃のもとに石河原大尉が訪ねて来て、イワーノフが日本に戻ってきていることを告げます。金沢に染乃がいないとわかったイワーノフが当分の間、横浜の貿易商社に勤めながら染乃を探しているという情報に、染乃は動揺を隠しきれません。…自分の体は男たちに変えられてしまった。染乃はもう死んだ。毎晩違う男に抱かれる遊郭の女なのだから、自分を抱いて欲しい…とまで機一郎に迫ります。機一郎はそんな染乃の辛さを真摯に受け止める一方、イワーノフを捜し出して、二人はようやく再会を果たします。

 

「いろんな事がありました」と染乃は言った。
イワーノフはうなずいて、「わかります。あなたはとてもやせて、つかれたかおをしています。でも、もうだいじょうぶ。げんきになって、はやくペテルスブルグへゆきましょう。ロシアのなつ、とてもすばらしいです」
「ペテルスブルグ-」染乃は小声でその見知らぬ都の名前をつぶやいてみた。前にイワーノフから聞いたその美しい都が頭に浮かんだ。大きな川が流れていて、森の多い古い都だという。金沢のような街だろうか、と染乃は考えたものだった。だが、いま、イワーノフの口から聞くその都は、染乃にとって遠く無縁な存在なのだ。

「そめのさん」イワーノフの手が、優しく染乃の背中をなでた。彼の熱い息が耳もとにかかる。染乃は不意に体の奥からよみがえってこようとする怖ろしい感覚を、必死で圧し殺そうとしていた。イワーノフにだけは、自分の体の変貌を知らせたくない、と染乃は思った。

 

 そんな染乃は、意識朦朧としたまま一人で月の夜道をさまよい歩くうちに、川の流れに身投げする寸前で越部という不思議な男に救われます。その男と身の上話で一晩語り明かしたあげく家に帰ると、染乃は待ち伏せていた北前の徹にあっけなく捕らえられ拉致されてしまいます。徹は染乃に強引に証文の拇印を押させて、染乃を遊女として浦塩(ウラジオストク)に送り込もうとしているのでした。

 一難去って、また一難。とうてい、染乃の力では及ばない陥穽に落ち込んでしまいました。ここで「空笛の章」は終了です。次章では、染乃に希望の光が差す展開を期待しましょう。次回の朗読は、11月12日(日)です。ぜひ、ご参集ください。

 



 9月24日(日) 第1回 伝承文芸講座

 安宅関も勧進帳の読み上げもフィクションだった!?

 講師:藤島 秀隆(金沢工業大学名誉教授)


 秋晴れの午後、第1回伝承文芸講座を開講しました。会場の3階の交流サロンは、40名を越える熱心な受講生でほぼ満席でした。講師は今年で当館の講座が10年目となる、金沢工業大学名誉教授の藤島秀隆(ふじしま ひでたか)先生です。昨年までの「口承文芸」は名称・内容ともに時代の推移とともに下火となったことから、文献資料を踏まえた「伝承文芸」として再スタートすることとなりました。

 今回のテーマは、「『義経記』と富樫氏の伝承」でした。

 文治5(1189)年4月、源義経は藤原泰衡軍に襲われ、奥州衣川の館で自害します。それから約200年後に『義経記』(八巻・作者不詳)が成立します。ここに描かれる義経の活躍の大半は、史実に登場しない時期のものに限定されます。有名な安宅伝説は、巻七「判官北國落ち」に描かれています。

 文治2(1186)年1月末、義経は京を出て藤原秀衡を頼って奥州平泉に身を隠すことを決心します。義経主従は山伏一行に変装し、途中の危機をかわしながら大津から越前へと進みます。加賀国では、安宅、根上がり、下白山、剣権現を経て、一行を宮の越に先行させる間に、弁慶は単独で富樫氏の館に乗り込みます。弁慶はここで東大寺再建の勧進の山伏と名乗り、富樫氏から多大な寄進を受けます。更に倶利伽羅峠を越えて、越中国の如意の渡し場で役人に見とがめられたので、弁慶は下人姿の義経を扇で容赦なく打ち据えることで疑いを晴らし、船に乗ることができました。

 以上が「義経記」における加賀国関係の伝承の概要です。加賀・能登地方には「義経記」のほか、中世芸能の能「安宅」、幸若舞曲「富樫」・「笈さがし」等による伝承から派生した伝説地が七十箇所もありますが、これは熊野信仰や白山信仰の影響による所産と考えられます。「義経記」と富樫氏の伝承との主な差違は、次の通りです。

 

①    安宅には梯川の渡し場はあったが、関所はなかった。

②    富樫氏は好意的な態度で弁慶に接し、家来ともども勧進に応じた。

③    弁慶が義経を打擲したのは、越中国如意の渡し場である。

④    勧進帳を読む趣向はない。

⑤    北國の関所は越前国の愛発山に設けられていた。

 

「義経記」と民間伝承との狭間にある興味深い違いについて、学習することができました。次回(10月22日)は、加賀藩祖・前田利家の正室であった「芳春院・まつ」の伝承について学びます。どうぞお楽しみに。

 



 9月16日(土) 第5回小説講座
 「背伸びして」「あざとく」「自覚して」書くこと

 講師:寺本 親平(『北陸文学』会員)


 午後から、第5回目となる小説講座を開催しました。今回は「小説のすがた」と言うテーマで、色川武大『空襲のあと』と室生犀星『鮠の子』の二つの短編小説を事前に読んでくることが課題でした。講師は作家の寺本親平(てらもと しんぺい)先生です。

 

小説を書くにあたり、表現することに自覚的であるということが前提になります。自己表現と言っても、自然に浮かび上がってくるのを待つといった漫然としたものであっては小説にならない。なぜ、小説を書きたいのか。小説に何を求めているのか、だからどんな表現に拘るのかを、粘り強く自己検証してほしい。表現者としての意識をどれだけ高めていくかということ、それは、自分の表現を自分が求める方向へと適切にコントロールしていくことである。一流のアスリートは自分のコンディション、課題に即した練習、体調管理などをとことん検証し、見極め、磨いている。小説を書くこともこれと相似しており、日々の入念な下準備が求められる。

ともかく、粘り強く書きたいことを追求し続け、しつこく書き続けること。地道に下積みの努力を重ねるほかない。そうして、総合的な『人間力』を高めてほしい。

 

◇◇◇ 色川武大『空襲のあと』より ◇◇◇

 帰宅して、その時は罹災者が家内に鈴なりという事情を知らなかった。一番奥の子供部屋に行こうとして、八畳の客間を横切った。昼間だったが雨戸をしめきっていてまっくらで、それはいつものことでなんの不思議もない。

 足が万年床に触れた。その次ぎに出した足が、ぐにゃっと柔らかい、しかしごりごりしたものを踏んだ。ぎゃっという悲鳴を私はきいた。

 私が踏んだのは老婆の顔であり、ぐにゃっと柔らかいものはその鼻であった。私は今でもそのときの足裏の感触を思い出すことができる。ぐにゃっと柔らかい、しかしごりごりした存在感の塊であった彼女を。

 ウメさんという名だったと思う。白髪頭の小さい婆さんで、私の生家に現れた当初から活発に動きまわり、そのうえ勝ち気らしいよくとおる声だったので、ほとんど婆さん一人が家内でしゃべりちらしているような趣だった。そうして明るいところで私と会って、踏みつけたことを私が謝罪しても、ムスッとして笑わなかった。

 

 足で老婆の顔を踏んでしまう場面を、自分なりの表現で書こうとしてもそう簡単にできるものではない。すぐれた表現には、そこにたどり着くまでの確かな積み上げがある。特殊な状況や心情をここまで書けるということに注目し、参考にして欲しい。創作への深い追求と拘りは、擬人化した鮠を何匹も書き分けて独特の小説世界を築いた室生犀星にも同じことが言える。

 身の丈に合ったものを書くというレベルを超えて、背伸びすることも必要である。例えば、引きこもる時期があったとしても、自分の好きなことを徹底的に追求し、藻掻き続ける過程を経て、自分の「出口」にたどり着くことができればよいのではないか。

 創作の段階では、書いた文章を声に出して何度でも読み返し、納得がいくまで添削する。自分の「包丁」を徹底的に、自覚的に磨く必要がある。また、経験したことに想像力を働かせないと小説にはならない。その意味で、虚構を交える「あざとさ」も求められる。

 

 紹介された異色の短編小説を参考にしながら、小説を書くことへのひたむきで粘り強い修練と決してひるまない覚悟を、寺本先生から改めて伝授して頂きました。小説の構想を練る上で、背中を押されるひとときでした。

 



 9月16日(土) 第2回 短歌入門講座

 テレフォンカードの二つの穴に秘められた思い

 講師:島田 鎮子(『沃野』選者)

9月も半ばとなり、朝晩の涼しさが際立つ頃となりました。曇り空の午前中に、第2回短歌入門講座が開催されました。講師は歌誌『沃野』の選者である島田 鎮子(しまだ しずこ)先生です。今回は「その発想を一首に」~作品の心を伝えるために~というテーマで、短歌を詠む上での心がけや姿勢について、実作を味わいながら学びを深めました。

 まず、創作の基盤として大切にしたい、先人の3つのキーワードです。

①    短歌は詩である。     (三枝 浩樹)

②    思いは深く、言葉は平明に。 (山本かね子)

③    短歌一生。        (上田三四二)

詩とは、真実に向かって心を下ろすことでできるもの。ともかく、作り続けることが、生きた証となります。

創作に臨む具体的な姿勢は・・・

①    難しい言葉や漢字、言葉遣いをしなくても、奥深い作品は作られる。

②    作品の心(テーマ)に合った言葉選びをする。

③    短歌のリズムは心のリズム。 …何度も声に出して読み、推敲する。

④    実感(直感)を大切に。   …一言の実感や具体が作品を活かす。

⑤    好きな歌人の作品を読み味わう。

短歌は言葉の響きや緊張を楽しむ芸術。楽しい、淋しい、かわいいなどの常套句で説明してしまうことは避ける。作者と読み手との心の交流ができる空間(ゆとり)が必要。

 
【作品例】亡き夫の財布の中に残りいし二つ穴あくテレフォンカード

悲しみ、寂しさ、思いやり、なつかしさ、後悔など、複雑で深い心情を言葉の裏に秘めて表現した秀作です。入院中の夫が、自分にかけてきた電話を思い起こしている作品です。「二つ穴あく」という具体に込められた思いを想像することが出来ます。話したこと、話すこと(聞くこと)ができなかったが夫が話したかったこと、3つめの穴に寄せる思い・・・など。安易に読み手にわかってもらおうとしないで、作者が自分の心を掘り下げ、そこにおりていくことがポイントです。

感じる心を養う(感性を磨く)には近道はありません、日頃から自分が好きな歌人の作品や優れた作品をたくさん読み味わうこと。また、何の、どんな表現に感動するか。感動している自分の状況から、新しい自分を発見することもできます。

 

*** 参考作品から ***

老いし母が此の世の庭に焚く花火夏の名残のくれなゐの華     (山本かね子)

きしきしと春のキャベツの巻き堅しともあれ明日はよきことのあれ (道浦母都子)

ろうそくの炎初めて見せやれば「ほう」と原始の声をあげたり   (俵  万智)

すずしろとう清らなる名に横たわる大根でんと中年のごと     (島田 鎮子)

(*下線部は注目したい優れた表現です。)

 

最後に、次回(最終回)の実作の合評会に向けて質問や意見交換がありました。漢字、平仮名、一時空き、ルビ、固有名詞など表記への細部の拘りは、もっと後でよいこと。声と目でしっかりと味わうことを確認しました。
 受講者の皆さんの活発で明るいムードが、10月21日(土)に予定している最終回の合評会でも続くことを期待しています。

 



 9月13日(水) 出前講座 金沢市立押野小学校2学年

金沢に伝わる、なかよし姉妹の物語をご紹介します

 講師:神田 洋子(ストーリーテラー)

押野小学校での出前講座にお邪魔しました。2年生(72名)の総合的な学習の時間の一環で「金沢の民話を聞こう」がテーマでした。今回の講師は、神田洋子(かんだ ひろこ)先生です。

 会場である2階の集会室は、地域の木材があしらわれ、木の味わいを活かした素敵なお部屋でした。床材も全面に木の優しさや柔らかさが広がり、子どもさんたちはいい姿勢を意識しながら、集中してお話に耳を傾けてくれました。ロウソクの灯りがともると、お話会の始まりの合図です。先生は、「読み聞かせ」ではなく、終始、対面で子どもたちの様子や反応を確かめながら、3つのお話を披露してくださいました。

 

 おぎんとこぎんは、母親は違いますがとても仲良しの姉妹です。おぎんのお母さんが亡くなったので、こぎんのお母さんがお嫁に来て、おぎんの新しいお母さんになったのです。8歳の姉・おぎんは、周りの人から「かわいい」「きれい」とほめてもらえるのに、5歳の妹・こぎんはあまりほめてもらえないことを、お母さんはいつもがまんしていました。お父さんが、江戸に仕事で出かけて、金沢にいなかったある日、お母さんは、おぎんとこぎんを連れて、山に出かけます。お昼ごはんが済んで姉妹が昼寝をしている最中に、お母さんはこぎんだけをそっと起こして、さっさと山を降りてしまいます。あとから目が覚めたおぎんは、お母さんもこぎんもいないので、困り果ててしまいますが、山道に落ちていた糸くずをたどって、なんとか一人で山を降りることが出来ました。この糸は、こぎんがおぎんのことを案じて、お母さんに気付かれないように落としておいたのでした。ほっと安心した姉妹は、抱き合って喜びました。

 また別の日のこと。お母さんは「今度こそ・・・」と、こぎんにお宮参りをさせている間に、おぎんを犀川べり連れだし、自分の落とし物をさがさせます。お母さんは、自分が前もってつくっておいた大きな落とし穴の中をさがすことをおぎんに指図します。おぎんが言われたとおりにその穴に入ると、深すぎて地面に這い上がることができません。それを承知で、お母さんはそこから立ち去ってしまいます。お参りから帰ったこぎんはおぎんがいないのが心配でしたが、近所の人に犀川の川辺でなないかと教えてもらいます。そこで大きな穴にはまっているおぎんをみつけますが、幼いこぎんにはどうすることもできません。穴の中には水がしみ出しており、おぎんはだんだんとしみ出た水の中に沈んでいくのでした。「どこまで水がきてるの?」と何度も、何度もおぎんに尋ねるこぎんですが、水かさはずんずん増えて、おぎんの膝から腰へ、さらに首にまでつかってしまいます。そうするうち、こぎんも誤って足を滑らせて穴の中に落ちてしまい、かわいそうに、仲良し姉妹は二人とも暗くて深い穴の中でおぼれて死んでしまうのです。

 お母さんはたいそう驚き悲しむとともに、自分のしたことを心から後悔して、二人の供養をするために髪を落とし、尼さんになります。さらに、姉妹をとむらうお地蔵さんも作られて、二人の伝説とともに今でも残っているそうです。また、「どこまで水がきたかいな・・・」という手まり歌も、歌い継がれているそうです。これが、金沢に伝わる『おぎんとこぎん』のお話です。

 このほか、『あめかいゆうれい』『芋掘り藤五郎』のあわせて3つの民話が語られました。

子どもさんたちは最後にロウソクの灯が消えるところまで、きちんとした態度でお話会に参加してくれました。ほんとうに楽しくて、気持ちよいひとときでした。

 



9月11日(月)出前授業「俳句を作ろう」 金沢市立押野小学校

初めての俳句づくりに挑戦しました

 講師:福島 茂

金沢市郊外にある押野小学校1年生(2学級・64名)の皆さんを対象に、初めての「俳句」に挑戦する出前授業を実施しました。講師は元金沢文芸館館長で、中学校国語科の授業のご指導の経験豊かな、福島 茂(ふくしま しげる)先生です。

まず、「8月19日って、何の日か知ってる?」という先生の問いかけに、「はいくの日!」という答えが返って来たのには驚かされました。次は、俳句の3つの約束についての説明があり、1年生の作品例が示されました。

①    はっとおどろき、気づいたこと

②    いつのことか ・・・「季語」を一つだけ

③    くみたてをかんがえる・・・「五七五」

「ヒメジョオン みんなあつまれ めだまやき」

「フジのはな まんかいになり こぼれそう」

また、一面の夏の緑、鮮やかな夕陽の景色、プール水遊び、夜空に広がる花火、にぎやかなお祭りなど、様々な写真を見てもらい、子どもたちが俳句を書くヒントにしました。初めのうちは「何書けばいいかわからん」「むずかしい!」という声も聞こえてきました。それでも、「できた!」というつぶやきとその紹介に釣られるように、次々に『初めての俳句』が誕生していきました。エンジンがかかると、あとは、二つめ、三つめと書いていく頼もしい姿も見受けられました。

 

子どもさんたちの作品の一部です。

 なないろの かがやくにじは きれいだな

 いつのひか まっかにそまる あきのやま

 プールでは みずがつめたい ひやひやと

 ぺんぎんの ぷーるきらきら はいりたい

 からふるな はなびさいごに おちてくる

 あかいひは うめぼしみたい たべたいな

 

素直で、とても元気な子どもさんたちとふれ合いながら、俳句の学習をスタートできました。これからも先生方や上級生に学びながら、楽しい俳句を作ってくれることでしょう。

 



 9月10日(日) 第5回『朱鷺の墓』朗読会

 誇り高い芸妓の染乃は、いつしか「春太郎」に

 講師:髙輪 眞知子(浅野川倶楽部代表)

 前日に続き、秋晴れの空が広がりました。文芸館前のサネカズラが、葉陰にひそやかに淡い黄色の花を咲かせています。その可憐な姿は心をなごませてくれます。

 

 午後から、第5回目の五木寛之作『朱鷺の墓』朗読会が開催されました。石河原大尉と雁木機一郎は、「北前の徹」の手先である暴漢たちによって連れ去られて行方のわからない東山の芸妓・染乃を探し出し、救出するために忠吉という男を雇います。忠吉はかつて「北前の徹」に騙されて、妻を浦塩(ウラジオストク)に売り飛ばされたという苦い経験を持ち、遊郭の事情に詳しい男です。半年が経過する間に、染乃は日本海に近いある花町に売られ、絶望のどん底で陵辱され、慣らされた挙げ句に、「大野楼の春太郎」と名乗る娼婦として生活する日々を送ります。その居場所をようやく突き止めた忠吉とともに、機一郎は間違いなく春太郎が染乃であることを確かめますが、染乃は人が変わったようなあり様で、自分の気持ちで娼婦になったことを機一郎に告げます。

その晩の、機一郎と忠吉の会話です。

 

「だが、おれにはわからんのだ。染乃がなぜ死なずに客を取ることを決めたかということが。ある女に会って、心を変えた、と染乃は言った。それがどういうことか、くわしくは話さなかった。だが、おれの知っている染乃という女は死んでも自分の誇りは守る女だった。それがどうして―――」

「女はわからんもんです」

「いや、何かが染乃の上にあったのだ。おどされ、いためつけられて、それに負けたとは思えん。染乃は自分の気持ちで店に出た、とおれに言ったよ」

「しかし―――」

「あの時の染乃の目の色は、嘘をついている目ではなかったな」

二人は黙り込んだ。冷えた空気が襟元から流れ込んできて、機一郎は思わず肩をすくめた。赤い夜具の上に、しどけなく脚を開いて横たわっていた染乃の姿が、思いがけないなまなましさで迫ってきた。(中略)

「あんな商売をしていると、人間が変わるものです。もう、昔の染乃さんじゃありますまい。旦那は、それでもやはりあの人を連れもどしなさるお気持ちですか」

「うむ」

「それならそれでいいでしょう。いざとなったら―――」

忠吉はそれ以上言わずに、両手をぱちりと闇の中で打ち合わせた。

 

翌日の夜遅く、二人は大野楼に忍び込みます。忠吉が周囲の注意を引きつける隙に、機一郎は強引に染乃を連れ出します。予定通り、船に乗り込んでその町を脱出することはできました。ただし、「私は前の染乃とは別な人間になったのです。大野楼の春太郎という娼婦です」と語る染乃でした。機一郎には、自分の知らない奇怪な世界に踏み込んだ染乃は、そこに何を見たのだろうという疑念が浮かぶのでした。(14から16まで)

 

今回は前回以上に、これ以上ないというくらいに更に重苦しく、緊迫した場面の連続でした。朗読の髙輪眞知子さんも染乃の心情を際立たせるように、思いを込めてひときわ熱く演じてくださいました。ロシアから間もなく戻ってくるはずのイワーノフの影は、遠く、薄くなるばかりです。ここから先、別人になってしまったという染乃とともに過ごす新しい生活に期待を寄せているはずのイワーノフに、どんな再会が待ち受けているのでしょう。

次回(10月1日(日))に、ぜひご参集ください。




 9月9日(土) 第5回詩入門講座 

 最高の感動を最高の言葉で

 講師:杉原 美那子(『笛』同人)
 

午後から、5回目の詩入門講座が開講されました。今回の講師は、詩誌『笛』同人の杉原美那子(すぎはら みなこ)先生でした。受講者の第2作となる作品を読みながら、詩を創作する上での課題やポイントを確認していきました。その中で話題になったことの一部をご紹介します。

①    題材のスケールが伝わる工夫を

…例えば「山」と言っても千差万別。表現の中で、読者がイメージできるヒントを。

②    擬声音・擬態音を効果的に

…反復、変化などを通して全体の連鎖や流れが見えてくるように

③    気持ちよい、心地よい展開で結ぶと・・・

…温かい気持ちが広がり、読み手も救われる

④    どの場面(瞬間)を書くか、どのように書くかを吟味して

…まとめた表現にするか、具体的な表現にするか

…感傷的に陥っていないか、客観的に対象化すべきところ

⑤    詩の主人公と作者自身とを切り離してとらえる

…個別の条件を限定せず、想像力を働かせること

…事実を離れて、大胆に構想することも

⑥    年齢に縛られないで

…作品の中では若返ることも、老いることもできる

⑦    訴える・投げかける、開き直る、だけでよいか

…「負の感情」は表現しやすいが、その内面・裏側を深くえぐる

…自分は、そこで、誰と、何と、どう向き合うかを明確に

⑧    たくさん書くことの是非

…丁寧でわかりやすい反面、メリハリがなく平板になる

 

 まとめの意見交換では、「いい詩とは、どんなものか」ということが改めて問題提起されました。時代背景、世代(年齢)男女、生活環境などによって様々な「書き手」と「読み手」が存在する以上、単純にひと括りにすることはできません。ただし、作者の深い感動に共感し,読み手に響いていく表現を追求することが大切なポイントになるのではないか、ということ。まず、作者自身が、自分に響いてくる、自分にとって最高の言葉(表現)に拘って書き進める必要があることを確認しました。

「はっきり・くっきり・どっきり」が傑作写真のキーワードだそうですが、中でも、「どっきり」=「深い感動」をどう切り取るか。平熱でない、尋常ではない状況の下で、どんな言葉をどのように厳しく選び、紡ぐか、が詩の創作に問われているのではないでしょうか。




 9月9日(土) 第5回小説入門講座

 ピン!ときたことをすかさずメモして創作に活かす

 講師:高山 敏(『北陸文学』主宰)

 久しぶりの快晴に恵まれ、素晴らしい運動会日和となったこの日の午前中に、第5回小説入門講座が開催されました。今回は講師に同人誌『北陸文学』主宰の高山 敏(たかやま さとし)先生をお迎えし、「創作のこだわり」をテーマとした講座でした。

 

 まず、創作に必要なことをまとめた、先生の手作り資料についてご説明されました。特に強調されたのは、人物をしっかり描くことです。そのポイントは・・・

 ①    見た目(外見)に対して、人物の内面を描くために感性を磨く。

 ②    人物の言動にある背景や理由を読者に伝える。

 ~人間は何らかの思いを抱えており、その思いは言動や表情に出る~

 ③    人間の心の揺らぎ(動き、変化など)をしっかりと描く。

 ~温かさ・優しさの一方で、ふと垣間見る冷徹さにも着目する~

 ④    自然でも人物でも、細かく観察した上で描く。

ということです。
 全体的な構成や工夫に関わることでは・・・

 ①    出来事の内容や原因などの説明は、簡潔に表現する。

 ②    作品の「初め」と「終わり」は、特に意識して書く。

 ③    作品の「山場」を作る。

 ④    性急に結論を求めず,人物の思いを焦らずに展開する。

 ⑤    敢えて作者の嫌いな人物を描くことで、主人公を際立たせる。

といったアドバイスを頂きました。また、「芸はいかに盗むか、だ!」という先輩の言葉を踏まえ、ただ漫然と本読んだり、誰かと話したりするのではなく、「これは大切だ!」とピンときたことをすぐにメモして、創作に活かす習慣をつけることの大切さを学びました。

 

 講座の後半では、私小説作家として独特な作品世界を構築したことで知られる、車谷長吉(くるまたに ちょうきつ)さんの文章やコメントなどを参考資料としながら、小説を書くために必要不可欠と言える「経験」「勉強(読書)」「思索」「覚悟」「魂の強さ」について確認しました。

10月半ばの作品提出に向けて、書くことの難しさや大変さを認識するとともに、それを何としても乗り越えて進まなければ、という思いが交錯するひとときでした。




 8月25日(金)ナイトミュージアム「きいてみまっし 金沢の三文豪!」

過ぎゆく夏を惜しみながら

 講師:舘  文子 川坂 悦子 
    田村 紀子 髙輪 眞知子 (浅野川倶楽部)

 朝から降り続いた雨もやんだ夕方、ナイトミュージアム「きいてみまっし 金沢の三文豪!」が開催されました。朗読小屋・浅野川倶楽部から、髙輪眞知子(たかなわ まちこ)さんをはじめ4名の皆さんにご出演いただき、室生犀星、徳田秋声、泉鏡花の作品を情感豊かに、しっとりと朗読して頂きました。プログラムをご紹介します。

 

【第一部】

    犀星作品 「ほたるのうた」     朗読:舘  文子  さん

    秋声作品 「蛍のゆくえ」      朗読:川坂 悦子 さん

    鏡花作品 「蓑   谷」      朗読:田村 紀子 さん

  【第二部】

    犀星作品 「小景異情」    朗読:川坂 悦子 さん

    秋声作品 「おぼろ月」    朗読:舘  文子 さん

    鏡花作品 「ほ  た   る」        朗読:髙輪眞知子 さん

 

  この夕は、1階・交流ホールがほぼ満席となる50名の皆さんにお越しいただきました。第一部は、蛍を中心にした郷愁とロマン、第二部では、犀星の初期の代表的な作品「小景異情」をはじめ、季節ごとの風物や変化を味わいつつ、言葉の響きやリズム感をゆっくりと味わうひとときでした。

一部、二部とも30分という短い時間でしたが、過ぎゆく夏をなごり惜しみ、どこかやるせなく淋しげな余韻を漂わせながら、詩や小説の言葉の一つ一つが、やさしく心に沁みていくようでした。




 8月24日(木)のまりんの紙芝居劇場
 ちびっこ忍者が大蛇をやっつけたよ

 講師:野間成之/のまりん(のまひょうしぎの会代表)

 とても蒸し暑い午後でしたが、夏休み恒例『のまりんの紙芝居劇場』が開催されました。「のまりん」の愛称でおなじみの、野間成之(のま しげゆき)先生は76歳。小学校や図書館などでご活躍中です。たいへんな人気者で、たくさんの子どもたちはもちろん、お母さんたちからも好かれています。声や表情ばかりでなく、体じゅうからあふれ出るエネルギーを感じさせられるほど若々しく、まさに“元気はつらつ”です。

この日は、午前中にも市内の小学校から招かれて、2回(2時間)公演されたそうですが、さらに当館でも、2時からと3時からの2回、紙芝居や手遊びを通して、保育園児や小学生あわせて50人もの子どもたちに、とびきり楽しいひとときをプレゼントして頂きました。

 「まんまるまんま たんたかたん」は、ちびっこ忍者が、お父さんから預かった手紙をお爺さんのもとに届けるお話です。その途中でこわいこわい大きな蛇に睨まれて、もう少しで呑み込まれそうになり、絶体絶命のピンチです。でも、子どもたちの応援で見事に分身の術を使い、まず3人に、さらに100人以上になって大蛇の周りを駆け回り、大蛇をやっつけることができました。お父さんの大切な手紙も無事にお爺さんにわたすことができて、めでたし、めでたし…。のまりんの大きな声や面白いしぐさに、子どもたちは大喜び。歓声の連続でした。

 このほか、「やまんばと3にんのきょうだい」や「でっかいぞ でっかいぞ」「さんごのくにのおきゃくさま」も演じていただきました。のまりんが「紙芝居は、日本にしかないんですよ!」と話すと、「ニッポンでよかったぁ」という声もありました。子どもさんにとって、夏休みのよい思い出のひとつになったことでしょう。のまりんは、秋にはシンガポールで紙芝居を披露する予定だそうです。これからますますお元気で、末永く活躍されることを願っています。また、来年も文芸館でお逢いしたいですね。





 8月19日(土) 第4回 小説講座
 《書き手》の視点で作品を読む

 講師:剣町 柳一郎(小説家)

 午後から、第4回小説講座が開催されました。今回の講師は、小説家の剣町柳一郞(つるぎまち りゅういちろう)先生です。

受講生の皆さんには事前に、江國香織さんの短編小説集『つめたいよるに』(平成8年・新潮文庫)を読んでくることが課題でした。今回の講座では、作品集の中から主に「鬼ばばあ」「スイート・ラバーズ」「晴れた空の下で」「ねぎを刻む」を取り上げ、受講生の感想を交えながら、創作で大切にしてほしいことを先生から具体的に解説していただくという展開で進みました。

冒頭から改めて、読むことの大切さを強調されました。漫然と読書するのではなく、飽くまでも《書き手》の視点で読むことによって、描写の巧みさ、面白さや奥行きを発見できます。たとえば、「鬼ばばあ」の書き出しでは…

 

時夫は、マンションの駐車場にとめてある赤い車のかげにしゃがみこんで、じっと息をつめていた。うすぐらい駐車場にたかたかと足音がひびき、心臓が、いたいほどドキドキする。
「ゆたかみーつけっ。真理子みーつけっ」
 ひろしがさけび、みんないっせいに走り出した。駐車場をとびだす空気がうす青く、もう夕方がはじまっている。わーっという歓声があがり、ひろしがカンをけって、今度はゆたかが鬼になる。
 カポーン。あちこちへこんだあきカンが、まのぬけた音をたててもう一度けられ、鬼をのこしてみなかけだした。…


仲間とかくれんぼをしている時夫の緊張した気持ちとともに、夕暮れが迫るあたりのひそやかなアパートの情景が想像できます。「空気がうす青く、もう夕方がはじまっている。」という巧みな描写にも「カポーン」というさりげない擬音にも、この場面にふさわしい寂寥感が滲み出ています。

 

先生から、文章を書く上で最低限のこととして示された資料の一部をご紹介します。

①    文末に変化をつけ、一本調子を避ける。

②    句読点をしっかりつけて、読みやすくする。

③    普段から文章を書く習慣をつける。

④    本を読むこと。映画を観ること。セリフを残す。

⑤    ものごとを客観的に見る習慣をつける。

⑥    自分の言葉で比喩を工夫する。

⑦    ストーリーでは、意外性とあたたかさを大切にする。

⑧    最初・最後の一行が勝負。

⑨    観察をふまえ、細部に描写力を。

⑩    フィクションを愉しくつくる。少しの嘘とリアリティを。

⑪    いろんな視野からテーマを発想する。

⑫    やさしい言葉を使い、共感を得る文章を。

⑬    表現の引き出しを豊かに持つ。

⑭    映画、芝居、絵画から学ぶ。とりわけ、自然から学ぶ。

⑮    言葉のパワーを信じ、読み手の心をつかむ。

 

このほか、受講生からの質問にお答えする中で、小説では説明を避けて、描写を追求する。必要な会話を無駄なく使う。ストーリーの背景を読者にわからせる方法を工夫する。できるだけ真実味のあるフィクションを織り込む。自分が尊敬する作家の文章を書き写す。作品は厳しい読み手に批評してもらう・・・。といった実作に活かすことができる貴重なアドバイスを頂きました。




 8月19日(土) 第1回 短歌入門講座

 ふだんから使っている言葉で表現すること

 講師:島田 鎮子(「沃野」選者)

 旧盆のUターンラッシュも一段落というタイミングの週末、第1回目の短歌入門講座が開講されました。講師は短歌誌「沃野」選者で石川県歌人協会常任幹事の、島田鎮子(しまだ しずこ)先生で、13名の受講生にご参加頂きました。

短歌入門講座は、川柳入門講座、俳句入門講座と同じく、3回シリーズという《短期決戦》です。今回は、「短歌へのご招待」~新しい自分の発見を~というテーマで、前半は短歌の特色や約束、作品創作の基本についての解説を中心に、後半は実際の作品を通して、表現された心情や情景、表現の特色などを味わい、楽しむという内容でした。一部をご紹介いたします。

 

①   短歌とはどういうものか

近世までは「和歌」。近世以降は「短歌」が一般的。

言葉の響きやリズムを味わう定型詩。

耳で言葉の響きを味わい、眼でかなや漢字の配分を楽しむ。

生活の様々なシーンで、心を届けることができる。

②   短歌の約束ごとは?

5・7・5…上の句  7・7…下の句 の五句三十一音の構成

一行書きが基本。字余り(三十一音を越える)・字足らず(三十一音に満たない)。

③   短歌の基本

文体…「文語文体」と「口語文体」。「混合文体」。

かなづかい…「歴史的かなづかい」と「現代かなづかい」

④   短歌を作るにあたって

与謝野晶子「じっと観、じっと愛し、じっと抱きしめて作る。何を、真実を」

「真実」=「実感」 紙と鉛筆と辞書を身近に。

すぐメモする。部分だけでも可。声に出して詠む。読み直して推敲する。

心と言葉のスパーク。自分の中に眠っている自分(言葉)に出会う。

 

講座の中で先生からご紹介頂いた秀作から、伊藤一彦編『百歳がうたう百歳をうたう』より、五首を挙げてみました。

 

夢にみし君が笑顔にほほ染めてかがみのぞくよ人なき部屋に

一世紀歩み来たけどまだ元気生くる種蒔く菜園に立つ

「年だから」なんと寂しい言葉かなそのひと言でかたづけられる

この世にてあの世を思う夕まぐれほわんほわんと合歓の花咲く

鳥海の四季を眼界に転変の日遠くして古里に老ゆ

 

受講者からの質問に対しても、歯切れよいお応えでした。言葉・表記・季節など、書く前からあれこれ拘ったり、迷ったりしないこと。また、短歌は自分の「心」を表現するために「もの」「こと」「季節」などを借りる形式である。ふだんから使っている言葉を「詩」(短歌)としてどう活かすか、どんどん挑戦してほしい…というアドバイスに背中を押していただきました。




 8月12日(土) 第4回 詩入門講座

 自分自身に向き合い、表現を掘り下げること

 講師:井崎 外枝子(詩誌「笛」同人)

 午後からは、第4回目となる詩入門講座が開講されました。今回の講師は、詩誌『笛』同人の井崎外枝子(いざき としこ)先生でした。今回から受講生による実作品をもとに、作品についての参加者相互の感想や意見交換などとともに、講師の先生にさらなるステップアップに向けて具体的な課題や改作のためのポイントを中心にアドバイスして頂くという流れで、講座を展開してゆきます。

 今回は6名の6作品について、それぞれの作品内容を押さえ、作者の意図や思いもお聴きしながら吟味していきました。井崎先生からの感想やアドバイスをご紹介します。

 

①   詩には決まり事はない。作者の思い描く自由な表現がある。

抽象的な表現は分かりづらいが、「感じる」ことも意味があり、大切である。

明確な説明が求められる時代風潮だが、詩とは別問題だ。

自分の得意分野や得意領域の素材(語彙)を作品に活かす。

②   起承転結の中で、「承」と「転」の展開を豊かに描く。

テーマを展開させるモチーフ(具体的な造形要素)を充実させる。

たくさん書いて、不要な部分を大胆に削除する。

全部書こうとするのではなく、大切なことがらを選んで書く。

③   自分の感覚を磨き、テーマを掘り下げる。

自分自身に問いかけ、自分の現実に厳しく向き合う。

描きたい核心を見つめ、真摯に言葉(表現)を追求する。

言葉(表現)を練ることは、心を掘り下げることである。

④   虚構を交えて、リアリティを深める。

まとめすぎは、はみだしすぎにも及ばない。

想像力を膨らませて、メリハリある表現を追求する。

 

最後に先生から、生活詩人としては石垣りんが貴重なお手本なので、ぜひ、詩集に触れてほしい、というアドバイスがありました。今後の実作の充実に向けて、自分自身と向き合い、書きたい内容やテーマを見つめ直して言葉を紡ぎ出すこと、また、これからも過去に発表された秀作にじっくりとふれて、味わってみることが大切であると痛感しました





 8月12日(土) 第4回 小説入門講座

 さらに続きがある、と思わせる短編をめざして

講師:小網 春美(「北陸文学」会員)

 
 「山の日」に続く3連休の中日に、小説入門講座が開催されました。今回の講師は、『北陸文学』同人の、小網春美(こあみ はるみ)先生でした。

第4回目のテーマは「小説の文章」で、創作の前提として日頃から大切にしたい習慣、小説作品の執筆にあたり心がけたいことや注意すべきことを具体的に解説して頂きました。その一部をご紹介します。

 

①   名文を読んだり、書き写したりする。

何事も優れたお手本を真似ることから始まる。

優れた文章には、豊かな語彙や豊かな人生観が潜んでいる。

②   なるべく易しい言葉で表現する。

ただし、語彙の豊かさがないと考えも貧弱なままになる。

文章を重くしたい場合は、漢語や難解な表現を織り混ぜる。

③   短編小説には、短い文が向いている。

短い文は素朴、明確、圧力感がある。長い文は「ねじれ」に注意する。

④   より適切な表現となるよう辞書を活用する。

電子辞書、通常の辞書、大きめの辞書、類語辞典など

⑤   常体(だ・た・である調)と丁寧体(です・ます)を使い分ける。

通常は常体で書く。丁寧体は特別な意図がある場合に限る。

⑥   文章がすべりすぎないように注意する。

スラスラと調子よく書けるときは、抑え目に。自分の文章に酔わない。

作中人物は簡単に泣かさない、簡単に殺さない。

場面にそぐわない内容は、思い切って削除する。

⑦   余韻・余情を残す表現を書き切る。

体言止めや「…」は最小限に。

⑧   会話の文章では、「生きた会話表現」を工夫する。

主語、性別、上下関係など、会話内容だけで表現できる。

日常会話を写し取るのではなく、作者の心を通して書く。

⑨   オノマトペ(擬音語、擬態語)を工夫する。

陳腐にならないように、作者の独創性を発揮する。

⑩   「書き出し」と「結び」に心血を注ぐ。

作品の書き出しや結びの一行、一ページで作品の善し悪しが決定づけられる!

 

オノマトペと書き出しの工夫については、具体的な資料をもとに、すぐれた作品の表現について学習しました。

盛りだくさんの内容でしたが、随時質疑応答もあり、終始なごやかなムードで展開しました。「短編では、この小説の続きがあると思わせる」という結びも印象的でした。




 8月6日(日) 第4回 五木寛之作『朱鷺の墓』朗読会

 別れ、怒り、絶望。染乃に重すぎる戦いが始まる。

 朗読:髙輪 眞知子

 迷走の挙げ句に台風5号が九州に急接近した影響もあり、金沢は朝から気温が30℃に達しました。午後の猛暑の中、今回も朗読小屋・浅野川倶楽部を主宰する髙輪眞知子(たかなわ まちこ)さんによる『朱鷺の墓』朗読会が開催されました。

 明治38年秋、日露戦争がようやく終結して講和条約が結ばれた頃、染乃はロシア人将校であるイワーノフとの逢瀬を重ね、兼六園内の捕虜将校収容所で仮の祝言をあげます。ところが新しい生活を始める間もなく、イワーノフを含むロシア捕虜団一行は敦賀の港から一旦故国に帰ることになります。

 

 「待ってます」染乃はイワーノフの胸にすがって言った。

「かならず帰ってきてください」「かならず」

急げ、とカンタクージン大佐が振り返って言った。イワーノフ少尉は染乃を機一郎のほうへ押しやると、一度あとを振り返って小走りに隊列へもどった。将校団の一行は、整然と歩調をそろえて動いていった。

 染乃は遠ざかって行く長身のイワーノフの姿を目をこらしてみつめていた。哀しいという感情より、もっと切迫したものが胸にあふれた。

「泣くな」と機一郎が言った。

「泣いてなんかいません」染乃は機一郎を振り返って言った。

「ほう。本当だ。北陸の女は情がこわい所があるからな。見かけは優しいが、なかなかどうして」

 そう言われたとき、染乃は急に熱いものがこみあげてくるのを感じた。彼女は顔を伏せて、唇をかみ、涙をこぼすまいとじっとこらえた。来年のクリスマスまでに・・・と言ったイワーノフの声が、くっきりと頭にのこっていた。彼が自分にとってかけがえのない分身であることを、染乃はその時はっきりと感じたのだった。

 

イワーノフとの再会を約束したばかりの染乃でしたが、その帰路に石河原大尉や機一郎ともども数人の若い男たちに取り囲まれて襲撃されます。とりわけ染乃は、「北前の徹(テツ)」という男に拉致された挙げ句、抵抗むなしく陵辱されてしまいます。徹は金沢の花田屋からの指図を受けて、日本に大きな戦争被害をもたらしたロシアやロシア人捕虜への憎悪や反発、さらには自分の意に反してロシア人捕虜の「妾」になろうとする染乃を容赦なく絶望の淵に突き落としたのです。

今回は、緊張で張り詰めたシーンの連続で急展開しました。周囲からの誤解や偏見のはけ口となって身も心もズタズタになるほど痛めつけられて、もはや死ぬことしか考えられない染乃はここから復活できるのでしょうか。きっと、必死で復活することでしょう。次回にご期待ください。




 7月29日(土) ソプラノとオルガンの夕べ

 懐かしいメロディーに魅了されて

 出演:直江 学美(ソプラノ歌手)
    黒瀬 恵(オルガン奏者)

 

 金沢では花火大会や地域の夏祭りなどで賑わう夕刻、夏のナイトミュージアムのイベントとしてすっかり恒例になった『ソプラノとオルガンの夕べ』~こころのふるさとを唱うⅣ~が開催されました。今年もソプラノ歌手の直江学美(なおえ まなみ)さんとオルガン奏者の黒瀬恵(くろせ めぐみ)さんに、夏らしい和装でご出演いただきました。

 開演の2時間以上も前から、お二人の入念な音合わせやリハーサルが行われる一方、開演時刻までには、1階フロアの40の椅子は満席となりました。直江さんの柔らかく伸びやかな歌声と、黒瀬さんが奏でる温かく懐かしい足踏みオルガンの音色が調和して、「われは海の子」などのおなじみの日本の歌からベートーヴェン作曲のクラシック音楽、さらにはオルガン独奏曲がこじんまりした古い洋館内一杯に響き渡りました。

 また曲紹介の合間には、お二人の音楽にまつわる楽しいエピソードなどもお伺いできて、終始なごやかなムードでした。最後のプログラムである「夏の思い出」の後には、アンコールに替えて、会場の皆さん全員で「ふるさと」を合唱しました。ご参集の皆さんのそれぞれの思いがこもった元気あふれる「ふるさと」となり、たくさんの笑顔と大きな拍手に包まれて閉会しました。

 

 当館での直江さんと黒瀬さんによる『ソプラノとオルガンの夕べ』は、これで4回(4年)連続の開催となりました。ともに金沢出身で輝かしいキャリアと豊かな音楽性の持ち主である、直江さん、黒瀬さんが今後ますますご活躍されるよう、市民の皆さんとともにお祈りしています

 




 7月15日(日) 第3回 小説講座

 『安直』を避け、一字一句を検証しながら!

 講師:正見 巌(「北陸文学」会員)
    剣町 柳一郞(小説家)
    寺本 親平(小説家

 
 午後からは第3回小説講座が開講されました。今回までの課題であった原稿用紙3枚から5枚程度の掌編作品を持ち寄り、3名の講師の先生に講評して頂くという内容でした。1回目、2回目の講座で学んだ創作への心構えや留意事項が確実に反映されているか、ということが評価のポイントでした。

 13の作品に対するそれぞれの作品講評の中で、講師の正見巌(しょうけん いわお)、剣町柳一郞(つるぎまち りゅういちろう)、寺本親平(てらもと しんぺい)の3先生が、今後の創作の充実に向けて改めて強調されたことがらの一部をご紹介します。

①   言葉や表現を厳しく、丁寧に検証(吟味)する。

最適な表現・表記であるか

読み手に伝わりやすいか

句読点の位置や表記は適切か

手垢のついた、類型的な表現に陥っていないか

②   内容やテーマにふさわしい表現・構成を工夫する。

語り口調ならば一貫性を持たせる

説明調や論文調を避け、『内面』に迫る

設定や構成に無理・矛盾はないか

抽象的、独断的、装飾的に偏っていないか

③   人間の本質(葛藤、愛憎など)を追求する。

書こうとしていることを絞り込む

読み手を揺さぶり動かし、共感を誘う表現を

表現を深化させるもう一つの工夫を

暗示や余韻を大切に(説明しすぎない)

 

共感を誘ったり、余情が伝わったりする巧みな表現について具体的に指摘を受ける一方、何度も何度も読み返し、最も適切な表現を厳しく追及してたどり着くことの大切さを再三再四、確認することができました。数枚の小品だからこそ『徹底的に文章を検証する』ことが必要不可欠ですね。

当面の目標である30枚の作品の創作に向けて、たくさんのヒント、たくさんの激励をいただきました。受講生の皆さんの一層の奮起を期待しています。次回(第4回・8月19日)は、「小説を読む」をテーマとして、剣町柳一郞先生を講師にお迎えします。




 7月15日(土) 第3回 川柳入門講座

 「世界に一つだけの花」川柳で自己表現しませんか。

  講師:城山 悠歩(石川県川柳教会事務局長・北国川柳社)

 もう梅雨明けが近いのでは、と思わせるような真夏の陽射しが照りつけるこの日、第3回目(最終回)の川柳入門講座が開催されました。

 講座の前半では、宿題となっていた「急かす」「スペシャル」「雑詠(自由)」について、8名の受講者の皆さんによる72作品が紹介されました。講師の城山先生が作品を順々に読み上げたあと、3段階評価した結果とその理由を説明されました。優良作品の一部をご紹介いたします。

◇「急 か す」 急かされて開き直れば道見える

         バックミラー急かす車の憎い顔

         急かしても草食系の横目線

         昼飯はもりかかけかと急かす腹

         杯が早く早くと寄ってくる

         急かすベル勇気をくれて好きと言う

◇「スペシャル」 お気楽に今日はスペシャル家事放棄

         特殊技能日本が誇る町工場

         スペシャルと文字だけ躍るまがいもの

◇「雑詠(自由)」 「ノー」と言う生き方気付く五十歳

         誰か手を一人暮らしのシップ貼り

         年金日歳を取るのも悪くない

         何も無いことの幸せ沁みる宵

         淀む世に中学棋士の爽やかさ

 

 次に、川柳の作句に当たり注意すべき「9か条」を確認しました。

①    五・七・五の定型を守っているか。

②    題(テーマ)に即しているか。

③    表記(漢字、ひらがな、カタカナ)は適切か。

④    同じような内容の言葉を重ねていないか。

⑤    独りよがりな表現や内容になっていないか。

⑥    説明句・報告句になっていないか。

⑦    思わせぶりな表現を避ける。

⑧    てにをは(助詞)に注意する。

⑨    奇抜な発想に矛盾はないか。

後半には、席題「空」に挑戦しました。20分という制限時間の中で、皆さん順調に作品を完成させ、作句を通して互いに交流することができました。

講座の結びに当たり、講師の城山先生からは新聞やテレビの川柳作品募集に積極的に応募することや柳社の句会に参加するように、と背中を押していただきました。やはり、川柳は自分で作る楽しみに、一番の手応えや喜びが実感できるものです。最も手軽で、最も制限の少ない文芸が川柳です。表現することで確実に記録(記憶)され、末永く輝き続ける、自分自身にとってかけがえのない作品となることでしょう。

この講座を機会に、これからも1人でも多くの方が作品づくりを続け、より深く川柳の世界に踏み込んでくださることを期待しています。

 

【参  考】 ~どなたでも投句、参加できます。~

★「北国川柳社」の句会案内

 8月19日(土)午後1時より

 石川県女性センター(金沢市三社町1-44)℡:076-263-0115

  宿題:「困る」「後世」・雑詠

 席題あり(各3句) 会費:500円

 投句:82円切手3枚同封(句会報「きたぐに」呈)

 〒921-8107  野田町4-64 城山 悠歩 宛 ℡:076-244-5921

★石川県川柳協会・川柳文化祭

 川柳大賞:課題「開」(1人2句)県内在住者 1,000円

 7月31日(月)必着

 投句先:〒924-0812 白山市橋爪744-42  浜木 文代 宛 




 7月12日(水) 第10回 出前講座

 夏らしい、元気な俳句ができました!

  講師: 竪畑 政行(石川県児童文化協会理事長)
      小西 護(金沢文芸館館長)

 

朝から真夏日となったこの日、西南部小学校で、夏休み前最後の出前講座が開講されました。とても元気な111名(4学級)の3年生を対象とした「楽しい俳句を作ろう」の授業でした。今回は、県児童文化協会の竪畑政行(たてはた まさゆき)先生と金沢文芸館館長の小西 護(こにし まもる)の2名が、2学級ずつを担当いたしました。

 

 小学校3年生の国語科の教科書には、・・・

  古池や蛙飛びこむ水の音      閑かさや岩にしみ入る蝉の声 (芭蕉)

  春の海終日のたりのたりかな    菜の花や月は東に日は西に  (蕪村)

  雪とけて村いつぱいの子どもかな  痩せ蛙まけるな一茶これにあり(一茶)

の六句が掲載されており、子どもたちは「五・七・五」と「季語」の約束についても学習したそうです。

 この日は「夏」の俳句に挑戦し、俳句作りを楽しむことが一番の目的でした。夏といえば、もうすぐ夏休み。子どもたちのテンションも高く、「好きなこと・好きなものから書いてみたら・・・」とアドバイスするまもなく、何人もの子が第一句を作り上げました。

 夏は一年中で、一番活気にあふれ、行動範囲も広がり、心も体も成長する季節。また、子どもたちが何と言っても楽しみなのが夏休み。家族や親戚や友達とのびのびと過ごすことができる最高の季節ですね。先生が言うまでもなく、好きな食べ物(スイカ、アイス、そうめん…)、好きな昆虫(カブトムシ、クワガタ、テントウムシ…)、好きな行事(花火、夏祭り、プール、キャンプ)、好きな草花(ひまわり、アサガオ…)などなど、次々と題材を見つけては書き進めました。

①    小さい「や」「ゆ」「よ」は数えない。「ん」「ー」「っ」は数える。

②    季語はなるべくひとつにしぼること

③    お話を作るというより、そのまま言葉をならべること

④    ほかの言い方で五や七を作れないか考えること

⑤    思い出したり、想像したりすること

など、大切なアドバイスを受けて、ほとんどの子が「清書」とお絵かきまでたどり着くことが出来ました。教室は『暑かった』ですが、子どもたちの挑戦する気持ちも『熱かった』ようで、子どもらしい楽しい俳句作品が出来上がりました。

 誰もが楽しみにしている夏休みが、すぐそこです。どうぞ、元気でお過ごしください。

 




 7月9日(日) 第3回「朱鷺の墓」朗読会

 イワーノフの求愛を受けて、自由な世界へ

  朗読:高輪 眞知子(浅野川倶楽部代表)

 

福岡県と大分県の大雨による土砂災害の影響で、約2000名もの人々が避難所生活を強いられているというニュースが連日報道されています。北陸の大雨は、一段落というところですが、梅雨明けまでもうしばらく。連日の天気予報や前線の動きに注目して、警戒を怠らないことが必要です。

 

真夏日となったこの日の午後、3回目の「朱鷺の墓」朗読会が開催されました。

養母の杉野ハツが自ら命を絶って間もなく、染乃は石河原大尉と共に兼六園内の将校捕虜収容所を訪ね、カンタクージン大佐とイワーノフ少尉に再会します。大佐が染乃を気に入ったことから、戦争が終結した後にロシアに連れ帰りたい意向があることを聞かされます。主を失ってからの杉乃屋は休業中で、広い湿った家の中でひとり、孤独な日々を送る染乃を大尉はこんなふうに諭します。

「こんな暗い陰気な町だけが人間の世界じゃなか。お前が公爵大佐どののお気にいったということは、お前に新しい世界がひらけるということじゃ。」

「こんな、何百年も人間が体を曲げて生きて来たような所から飛び出して、別な生き方をしてみる勇気はないかのう。…」

また別の日に、石河原大尉はイワーノフを連れて杉乃屋の染乃を訪ね、公爵大佐の愛人になることをイワーノフから説得させようとします。そのイワーノフの顔を立てて恩返しするためなら、と染乃は心が傾きますが、イワーノフ自身がそれをきっぱりやめさせるのでした。イワーノフは自分が染乃に恋したことを告白し、求愛します。その日、意気投合したイワーノフと雁木機一郎が楽しく文学を語り、ロシア民謡を歌っていることに反発した花田屋の主人の一味が、道を挟んだ向かいの宴席から杯を投げつけたことから、イワーノフはその破片で右目に大けがを負い病院に運びこまれてしまいます。

その傷が癒える間もなくイワーノフは染乃と逢瀬を重ね、正式に求婚します。染乃にとってイワーノフは、自分の存在の一部のように感じられていくのでした。

「本当にロシアへ渡るのかどうか、その辺のことは考えても想像がつかなかった。ただ、この陰湿な花街の隅から自由な広々とした世界へ抜け出すのだという期待だけが、彼女の心の中で大きくふくらんでいこうとしているのだった。」 (以上7~9梗概)

 

日露戦争は終結へ。ロシア軍の捕虜でありながら特別な待遇で金沢での生活を送る大佐やイワーノフ、それを受け入れる立場の石河原や機一郎に対し、鋭く反発する一部市民の感情、さらに、その対峙する両者の狭間で激しく揺れ動く染乃…。

これからの二人の恋の行方に注目しましょう。

 




 7月8日(土) 第3回 詩入門講座

 とにかく書き出してみよう。

  講師:内田 洋(詩誌「禱」同人)

 
 3回目となる今回の詩入門講座の講師には、詩誌「禱」の同人である内田洋(うちだ ひろし)先生をお迎えしました。

講座の前半では、詩の鑑賞からもう一歩踏み込んで、「いきなり、とにかく、詩であろうとなかろうと書き出してみよう!」という姿勢で、果敢に挑戦するためのポイントについて、平田俊子・編「詩、ってなに?」(小学館2016)を参考にしながら、ご説明いただきました。

 ①   詩の言葉を待つのではなく、自分から迎えにいく。

 目についたもの、ふと頭に浮かんだこと、思い出したこと

 聞こえた音、気になる単語、好きな人(もの)の名前など、自由に

 ②   「わたし」=「書き手自身」である必要はない。

 別の「わたし」を虚構する。ただし、両者の共通部分もあり。

 ③   詩は言葉そのものを楽しみ、味わう芸術である。

 題材の端緒…自分の好き嫌い、自己紹介、今暮らしている町、など

 

後半には、実際にパロディ創作に挑戦しました。

 

「摘み草」    石 垣 りん (1984年)

東京丸の内で摘み草をした

昭和十年代のはじめ

私は十歳台のなかごろ。

 

銀行へ通う

出勤の道すがら

袴の裾をひるがえし

 

舗道の脇をちょっと駆けのぼると

原っぱが開けた。

クローバー

タンポポ

ハルジョオン

職場の机に飾るには

貧弱すぎる野の花だった。

 

あらからおよそ半世紀…

(以下省略)

 

この続きを、受講者が自分の言葉で書き継いで作品を完成させるという課題です。半世紀の推移に伴う経年変化、風景の転換、花の行方、自分自身の心情の変化など…第6回目までの宿題ですので、このブログの読者の皆さんも、ぜひ挑戦してください。

次回(8月12日)から、受講者の実作品について批評し合う段階に進みます。積極的にご参加ください。

 




 7月8日(土) 第3回 小説入門講座

 まず、自分自身が文章の厳しい読者となること!

 講師:高山 敏(「北陸文学」主宰)  

 真夏日の8日、第3回目の小説入門講座が開講されました。今回は講師の高山敏(たかやま さとし)先生をお迎えして、小説原稿の推敲について具体的な事例をふまえ、実際の推敲の方法や考え方を丁寧に学びました。

 推敲(文章の字句や表現を何度も練り直すこと)に入るときには、書き上げてから時間を置き、冷静な状態で行うことが大原則です。作品の善し悪しは推敲で決まる、という気持ちで、自分の作品に対して厳しい読者となり、納得がいくまで書き直すことが大切です。

 そこで先生からは誤字・脱字の修整はもとより、以下のような多項目にわたり、具体的な推敲の視点が示されました。

①    常套句、決まり文句を控える。   

②    力みすぎの表現になっていないか。  

③    飾り、気どり、格好つけた、美辞麗句を控える。

④    句読点に配慮し、読み違いを防ぐ。

⑤    文章中に擬音や符号を使いすぎない。

⑥    漢字と仮名のバランスに配慮する。

⑦    書き手の言葉の癖が目立っていないか。

⑧    接続語を多用しない。

⑨    音読して、文章のリズムや流れに配慮する。

⑩    同じ言葉、同じ言い回しを多用しない。

⑪    不要な箇所をそぎ落とす。

⑫    曖昧な言い方、または断定的な言い方に偏らない。

⑬    言葉の順序は適切か。

⑭    主語・述語が対応しているように注意する。

 

講座の最後にいくつもの例文を通して、推敲の実践的な練習に挑戦しました。しっかりとした「推敲」(手直し・練り直し)こそが、文章の品格を生むということを、具体的に、わかりやすく学ぶことができました。




 7月5日(水)第9回 出前講座 金沢市立額中学校1年生
 『詩の言葉』って、これでいいかな

  講師:島田 鎮子(沃野選者)

 前日の大荒れの天候もこの日はようやく落ち着き、金沢市の南部にある額中学校で9回目の出前講座がありました。額中学校では、この日約158名の1年生が8つの講座に分かれて学ぶ『文化講座』が開催されました。その中の19名が「短歌」について学びました。講師は文芸館の短歌講座を担当しておられる、島田鎮子(しまだ しずこ)先生です。

 講座の前半では先生から、短歌とは何かということを中心に、「唐歌」「和歌」「俳句」それぞれの特長について学びました。五七五七七の区切りに注意して、実際の短歌を読んでみることで、短歌のイメージを膨らませました。

 先生が特に強調されたのは、普通に社会で使う言葉(表現)ではなく、『詩の言葉(表現)』になるように意識すること。

(例1)      大仏の前で並んで写真撮るわたしたちってかわいい大きさ

(例2)      大仏の前で並んで写真撮るわたしたちってとても小さい

 「とても小さい」は普通の社会で使う言葉だから▲、「かわいい大きさ」が詩的で◎

 どちらの言葉も、たくさん知っていないと使いこなせない。だからともかく、今からたくさん本を読んで言葉の力を育てて欲しい、とのことでした。生徒たちは、初めは少し緊張気味でしたが、しだいに笑顔も増え、反応もよくなっていきました。

 

 さて、講座の後半は短歌を作る時間です。何を書くか?!でなかなか題材を絞られない生徒がいる一方で、もう数分で一首をまとめた生徒もありました。校内を見回り身近な題材を見つけた生徒、緩やかな緑の丘が続く雨上がり外の景色を眺めて書き始めた生徒…予定の時間内に先生のアドバイスも受けながら、それぞれ3首ほど出来ました。

 最後は今日の自分の最高傑作を選び、短冊に清書して仕上げました。新しい筆ペンに苦戦しながらも生徒全員の作品が完成し、受講者全員の前で発表しました。作品の一部をご紹介します。

 

夏休み仏壇前に正座する 亡きじいちゃんと会話する時

山の色月日がたつと変わりゆく 私の心も変わる季節へ

額の町緑が続く山並みの はてなく続くこれが美し

友達がとなりで爆睡笑ってる それみて僕は落書きをする

自転車でペダルをこいで行く先は 緑広がる草原の場所

夏休みプール祭りかき氷 そして勉強ああ地獄かな

校内はいろんな文化にたくさんの人 みんな集中みんな協力

 

短歌に込められた素直な気持ち、優しい気持ち、強い思い、巧みな色遣いなど、先生からもたくさんの視点からお褒めいただきました。生徒の皆さんが最後まで集中力を保ち作品を仕上げた満足感にあふれ、ほっとした表情を見せてくださったことが印象的でした。また、機会をみて短歌づくりに挑戦し、コンクールにもぜひ応募して欲しいと期待しています。




 7月4日(火)第8回出前講座 金沢市立西南部小学校2年生
 助かった赤ちゃんが立派なお坊さんになったよ

  講師:吉國 芳子(元図書館職員)
 

 梅雨前線の影響で、金沢市に大雨洪水警報!という日に、西南部小学校で今年度8回目となる出前講座が開催されました。先週に続き、2年生(89名)に「金沢の民話」を紹介してくださったのは、『ヨッシーおばさん』こと、吉國芳子先生です。

 吉國先生は、金沢の三大民話の一つとして伝えられている「飴(あめ)買いゆうれい」のお話を、オカリナ、拍子木などの効果音たっぷりに、紙芝居を使って語り聞かせてくださいました。ゆうれいという題名や不気味な効果音に、身をすくめるお子さんもいました。

 

 昔むかし、金沢のあるところに、とうべいという飴売りがいました。ある晩、おなかに赤ちゃんのいる若い女の人が「今晩、泊めてもらえないか」と訪ねて来たので、とうべいは近くのお寺を紹介してやります。その女は、次の日もまた次の日も…、毎晩続けて、夜遅くにとうべいのところに飴を買いにきます。不思議に思ったとうべいが女の後をつけていきますが、お寺の墓場あたりで見失ってしまいます。と、その墓のかげから元気のよい赤ちゃんの泣き声が響いてきました。そばには、あの女の人が息絶えて横たわっていました。とうべいはすぐに和尚さんを呼んで、赤ちゃんを助けます。女は、出なくなったお乳の代わりに赤ちゃんに飴を食べさせて、必死で赤ちゃんの命を守ろうとしたのでした。和尚さんはたいそう心を動かされ、この男の赤ちゃんをお寺で預かり、大切に育てます。やがて、成長した男の人は立派なお坊さんとなって活躍したそうです。

 

 お母さんの必死な思い、その思いを受けて、貴い命を守り育てた飴売りのとうべいや和尚さん、そんなご恩に報いるために精進したお坊さんの話は、金沢の金石地区や森山地区などに伝えられているそうです。このほか、「芋掘り藤五郎」「宝船寺のねずみたいじ」のお話もありました。2年生の皆さんは、とてもしっかりした態度で、お行儀よくお話を聞いてくれたので、吉國先生も満足げなご様子でした。




 6月26日(月)第7回 出前講座 泉野小学校2年生
「芋掘り藤五郎」の「芋」ってサツマイモ?!

  講師:吉國 芳子(元図書館職員)

  文芸館横の枯木橋に、ガクアジサイが咲きそろいました。

 昨日の肌寒い雨があがり、すがすがしい青空に緑が映えるこの日、泉野小学校2年生を対象に「民話を聞こう~金沢について知ろう~」をテーマとして、出前講座が開催されました。今回、担当してくださったのは、吉國芳子(よしくに よしこ)先生です。

  マルテに集まった99名の2年生は、とても元気にあいさつしたり、「静かにしてください!」と自分たちで注意し合ったりして、この日の学習に一生懸命取り組んでいました。吉國先生は以前、泉野図書館にお勤めだったこと、「ヨッシーおばさん」と呼ばれていることといった自己紹介をするうちに、子どもたちの気持ちをぐんぐん引きつけていきました。

 

 最初のお話は、『芋掘り藤五郎』です。貧しいけれどとても働き者の藤五郎は、観音様のお告げで、ある日突然、美しいお嫁さんを貰うことになります。ところが、お嫁さんのお父さんが持たせてくれた立派な嫁入り道具黄も、金も着物も、村人に全部分け与えてしまいます。お嫁さんは悲しむのですが、藤五郎は「そんなものなら、芋を洗っている泉にいくらでもある」と平気です。そんなある日、二人で芋掘りに出かけ、いつもの沢で芋をざぶざぶ洗うと、藤五郎の言うとおりたくさんの黄金(砂金)がさざ波をたてていたのでした。二人はこの黄金のおかげで、末永く幸せに暮らしました。この沢が「金洗いの沢」で「金沢」の地名のもとになりました。「金洗いの沢」は「金城麗澤」と呼ばれて今でも兼六園の隅にあり、その澄んだわき水は絶えることなく湧き出ています。

 このお話は読み聴かせではなく、吉國先生はすべて表情豊かに語り聴かせ、現在の金城麗澤の写真もご紹介されました。ちなみに、この「芋」はサツマイモではなく、ジネンジョ(ナガイモ)のことだそうです。

このほか、中央通町に伝わる「宝船寺のねずみたいじ」と金石地区に伝わる「子そだてゆうれい」のお話も楽しくお聴きしました。子どもたちの熱心に聴く姿、精一杯メモをとる姿に好感が持てました。




 6月25日(日) 第1回『フォト5・7・5』合評会
 なかなかの力作がそろいました

 

 講師:中田 敏樹(俳人)

 6月1日に開始した『フォト5・7・5』の展示終了に併せて、合評会が開かれました。『フォト5・7・5』は自作の写真に5・7・5の俳句、川柳、一行詩などを添えて応募して頂く企画です。今回は18名の皆さんから、約70作品のご応募を頂きました。素敵な作品を展示させて頂き、有り難うございました。
 この日の合評会では、俳人で写真撮影にもお詳しい中田敏樹(なかた としき)先生に講師をお願いし、10名の参加者の皆さんから、それぞれ作品の背景やご苦労などをお聞きしました。先生からは、俳句作品の手直しのヒントや写真撮影についてのアドバイスも頂きました。「これは、才能ありだ!」という声も聞かれるなごやかなムードとともに、勇壮な能登のお祭りの見所、四季に応じた音楽性を盛り込む工夫、子どもさんの成長の軌跡と言える懐かしい瞬間、朝方・日の出前後や夕方・日の入り前後のシャッターチャンス、漢詩調や反復法の工夫、俳句が先か写真が先かなど…。初めて挑戦した方、ベテランの方、常連さんなど、それぞれの作品の面白さや特長を味わい、楽しく学びながら、興味深い情報交換ができました。
なお、出品して頂いた皆さんには、本館の招待券もお分けしております。写真・五七五とも自作であれば、過去(思い出)の作品でも結構です。次回は10月頃の募集を予定しております。今回同様、ギャラリーのスペースが埋まるほどの、皆さんからの積極的なご応募をお待ちしております。




 6月17日(土) 第2回 小説講座 
 小説の実作について

 講師:正見 巖(「北陸文学」会員)

降り注ぐ太陽の光が、かえって間近な雨の季節を強く予感させるような快晴の日が続いています。やはり青空の広がった本日の午後、第2回小説講座が開催されました。今日の講座は「実作について①」と題し、実際に小説を書いていくうえでの具体的なアドバイスを「北陸文学」会員の正見巖先生よりいただきました。

 ①提出課題のテーマ「川」または「橋」について―藤沢周平『闇の穴』(新潮社)の文庫解説より紹介― 
「川」は日本人にとって無常観の象徴であった。『方丈記』の冒頭に代表されるように、人の世の無常を表象している。「橋」は「決断」、「思案」、「悪の契機」など、様々なイメージを持つ。花街へ身をおとす少女の渡る橋、刑場へ向かう男が渡る橋。「橋」は二つの世界を分ける結界の役割を持つ。

②小説とエッセイ(随想)との違い

 エッセイ…自分の体験に基づく。虚構を排して事実の中に真実を求める。

 小説…虚構の世界。事実と虚構の組み合わせ。餡と饅頭皮にたとえると、餡は一般道徳や社会規範・実体験で、そこに虚構の皮を被せる。異常、不健全な社会や人、アンモラル、毒など。皮の部分は書き手の創造で膨らんでいく。この皮の厚みが面白さに繋がる。

③構想図(プロット・見取図・設計図)を書く

・書きたいセリフ、場面、風景等を時系列順に箇条書きで書く

・主人公と他の登場人物を2段に分け、人物の行動や時間・場所及び、会話や心理描写を対応させる。

 など、色々な書き方がある。形式は各自で自由に書いていけば良い。

④書くきっかけについて

 作品へ取り掛かる際の発端について。作家によって様々なきっかけがある。原稿用紙に自分の名前を書けば一気に書いてしまえる、二人の美男役者が寄り添っている写真を見て発想が沸いた、会話をする中で、話の内容とは全く関係のないアイデアが浮んだ、など。

自身の場合―内川の山奥にある寺の隅で、「金沢城本丸のあたりに魔界があったので、利家がここへ移した」という内容の看板を見つけた。それが『尾山城魔界』の着想のきっかけとなった。

⑤執筆開始

 導入部の大切さ…初めが肝心。ここで引きつけられなければ読者は読むのをやめてしまう。

 結末の大切さ…映画のラストシーンを思うと分かるように、ここを印象深いものにしなくてはならない。短編の場合、最後の一行を決めてからとりかかるのを勧める。

⑥推敲の大切さ

 書き終えてから少なくとも2~3日は引出しの中へ。時間を置いて見直すと、書いていたときには気付かなかった多くのことに気付く。描写の過不足を見つけてただす必要がある。(心理描写、体感描写、人相描写、服装描写、風景描写ほか)

 自身の書いた『御成敗』という作品でも、雑誌に掲載されてから見直すと、副主人公の人相は詳細に描かれているのに対し、主人公の人相描写は抜けていたということがあった。人物ごとの描写のバランスにも気を付ける。

 

 ご自身の経験も交えて、分かりやすくアドバイスをいただきました。

次回は7月15日(土)、「提出作品についてのミニ合評会」です。「川」もしくは「橋」

についての課題作品を、寺本先生と剣町先生が講評します。受講生の皆様の作品をお待ちしています。




 6月11日(日) 第2回 『朱鷺の墓』朗読会 
 加賀の人間は、柔らかそうで硬い・・・

 朗読:髙輪 眞知子(浅野川倶楽部代表)


 雨上がりの日曜の午後、朗読小屋・浅野川倶楽部主宰の高輪眞知子さんによる第2回目の『朱鷺の墓』朗読会がありました。作品のこれまでの梗概です。

 明治38年3月、日露戦争の渦中で日本軍が奉天でロシア軍に大勝を収めた後、約六千人ものロシア人捕虜を金沢に受け入れることになりました。金沢では第七連隊の施設や東西別院、大乗寺、天徳院などの寺院のほか、将校捕虜のために兼六園内の勧業博物館も改装して収容所にあてられます。市民の関心も高く、ロシア軍歩兵連隊長のカンタクージン到着に際しては、金沢駅に多数の市民が駆けつけました。復活祭を祝う日には、その将校たちの要望に応えて、ハーグ条約に基づく捕虜慰問という名目で市内十数名の芸妓が演芸を披露することになります。日本側からも、軍の幹部や県庁、警察の首脳らが招かれました。ところが、こうした動きに反発する市民の一団が、会場近くで要人や芸者の俥をひっくり返したり、収容所に投石したりする事件が発生し、カンタクージン隊長に怪我を負わせてしまいます。東の人気芸妓である染乃もこの騒動にまきこまれ、日本人に乱暴される寸前のところで若いロシア人将校によって助けられます。ロシア人捕虜に乱暴され陵辱されたという身勝手な噂や批判にも、染乃は屈することはありませんでした。(1~4)

事件の真実をねじ曲げてでも日露双方の対面を守り、事態の収拾を図ろうとする捕虜収容所長の石河原大尉の求めにも、染乃は決して妥協しません。その石河原の仲介で、染乃は捕虜収容所に出向きカンタクージン隊長と面会します。ここで、あの夜自分を救い出してくれたロシア人将校のイワーノフと再会するのです。(5~7)

 

「加賀の人間は、柔らかそうで硬い。どこか冷たいもんが心の奥深いところにあるようじゃ。意気に感じるのが九州男児じゃが、加賀の女には通じんと見える」石河原大尉のこの言葉は含蓄が深いように感じます。そんな堅さ・強さを秘めた染乃ですが、ここからイワーノフとの関係がどのように進んでいくのか…。ご期待ください。

 この日は30名ほどの皆さんにご参会頂きました。ちょうど百年ほど前の金沢を舞台に、日露戦争という大きな歴史の影で揺れ動き、悩み抜き、幸せを追い求めた若き芸妓の鼓動やつぶやきに耳を傾けてみませんか。




 6月10日(土) 第2回 詩入門講座
 たくさんの詩と向き合いました

 講師:杉原 美那子(詩誌「笛」同人)
 
 県内をご訪問中の皇太子殿下が、金沢城近辺でのイベントに参加されたこの日の午後は、時折強い雨が降る荒れ模様の天候となりました。

 詩入門講座の2回目。今回の担当は詩誌『笛』の同人である杉原美那子(すぎはら みなこ)先生でした。受講者がそれぞれにお気に入りの詩作品を持ち寄って、その魅力を紹介しながら鑑賞するという内容でした。9人の受講者と先生が車座になったことで、お互いの表情や様子が見え、じっくりと集中して詩を味わおうとする一体感が湧いてくるひとときでした。

 鑑賞した詩の中の一部について、ご紹介します。

 

◇「瞬間」(ホルヘ・ルイス・ボルヘス、鼓直・訳)より

 狂いのない時計の歩みは単なる連続であり虚妄である。

 年歳もまた空虚な歴史に劣らず漠々たるものがある。

 朝と夜の間には、数々の苦悩と、

 光輝と、不安の深淵が口を開けている。

 真夜中のくもった鏡に

 映るのは自分の顔ではない。

 つかの間の今日という日は、儚くもまた永遠である。

 それ以外の天国も地獄も望んではならない。

★難解な外国の詩だが、過去・現在・未来を凝視する哲学的な深さに惹かれる。

 

◇「橋刑」(中谷泰士)より

 さようなら。どこかで子どもの声が聞こえてきた。橋を渡る人は家路へと急ぐ。「みんな、さよなら。また逢えるよね。」つぶやくと自分が固まってしまいそうだった。まだ家に帰れない。影像は橋に満ちて、夜が地面に染みていく。水の流れと川原が融けだした。ふいに電燈がつき、通り過ぎた影像たちがパントマイムを始めた。僕は勇気を出して、夜の闇に手を振って、呟いた。「今晩もよろしく」

★不思議な題名の散文詩。夏の夕方の静かで切ない情景に酔い、吸い込まれる。

 

◇「千曲川旅情の歌」(島崎藤村)より

 いくたびか栄枯の夢の  消え残る谷に下りて

 河波のいざよふ見れば  砂まじり水巻き帰る

 嗚呼古城なにをか語り  岸の波なにをか答ふ

 過へを静かに思へ    百年もきのふのごとし

 千曲川柳霞みて     春浅く水流れたり

 ただひとり岩をめぐりて この岸に愁ひを繋ぐ

★五七調の文語定型詩。締まった表現で、静かにしみじみと旅情が漂う。

 

◇「ちいさい庭」(石垣りん)より

 老婆はいまなお貧しい家に背をむけて

 朝顔を育てる。

 たぶん

 間違いなく自分のために

 花咲いてくれるのはこれだけ、

 青く細い苗

 老婆は少女のように

目を輝かせていう

 空色の美しい如露が欲しい、と

★自分自身の心境に重複。「老婆」に到達したという自覚、ささやかな希望と微笑ましさ。

 

◇「裸の王様」(湯川初音)より

 幾重にも重なる轍の道の行方には

 鉄格子の窓に見つけた金色の庭

 日が昇るのも沈むのも目をくれないで

 飛び立って行けるあなたは

 天を舞う鷹のよう

 どうかその戦いをやめないで怖くても

 夢の中のことでもここになくても

★なぜか惹かれる歌詞。裸の王様である「あなた」は自分の分身かもしれない。

 

◇「へや」(岡真史)

 たびから帰り

 自分のヘヤを

 みつめてみると

 どこもちがってないのに

 なんか

 ちがう風におもわれる

★12歳で自殺した少年の詩。12歳とは思えない優れた感性に共感。

 

◇「一握の砂」(石川啄木)より

 東海の小島の磯の白砂に

 われ泣きぬれて

 蟹とたわむる

★少年時代の複雑な思い出に重なる。遊びに夢中なのに「おえつ」が聞こえるような…。

 

◇「貝殻のような詩」(品川美智子)

 寄せては返す波のように

 繰り返される日日の生活

 私の詩は

 その日常の砂浜に

 残された貝殻のようなものだ

 全き形で

 残されたものはほとんどない

 多くはかけらに過ぎないけれど

 手にとって眺めれば

 過去の記憶を

 うっすらとにじませて

★わかりやすい言葉で、素直な実感を伝えている。

 

◇「考える」(徳沢愛子)

 あしたのこと 考えとっと

 きときとの希望が 手をあげる

  未知のこと考えとっと

  ぽこぽこ喜びが 湧いてくる

 活きることを 考えとっと

 決意を促す者が 後ろに立てる

  いいことを一つ 考えつくと

  明るうらと 光り出すもんがある

 あんたのことを 考えとっと

 微笑が ほんにゃりこぼれてくる

  動かんと 考えとっと

  どっかで 炸裂の予感がしる

★金沢方言詩。方言のよさと、方言でなくてはならいものとの見極めが大切。

 

 先生からは、金子光晴「洗面器」、黒田三郎「紙風船」、高村光太郎「冬が来た」、中原中也「一つのメルヘン」、井上靖「猟銃」、宮沢賢治「永訣の朝」、金子みすず「大漁」、吉野弘「生命は」などの詩が紹介されました。また、鑑賞の合間で、擬態語(オノマトペ)や反復法、定型詩と自由詩、口語詩と文語詩、散文詩などの表現技法やジャンル分けについて、具体的にご説明頂きました。

 次回は、7月8日(土)の開催で、担当は内田洋先生です。新規の受講もお待ちしています。ぜひ、お誘い合わせてご参集ください。




 6月10日(土) 第2回 小説入門講座

 自分の中に秘めた『想像力』を掘り出そう

講師:小網 春美(「北陸文学」会員)

 第2回の小説入門講座のテーマは「ストーリーをつくる」で、担当は「北陸文学」同人の小網晴美(こあみ はるみ)先生でした。受講の動機はそれぞれ違っても、共通の目標は『金沢創作工房』に発表する短編作品を書き上げることです。この目標達成の基本姿勢として、先生から「心の苦しみや屈折を形にしたものが小説である」という小説家の小川洋子さんの言葉が投げかけられました。誰でも身近に体験する様々な不条理や屈折を「節」として、よい小説の土台を築いてゆくことがポイントです。

 また、よい短編小説を丁寧に読むことで、何をどう書くかという課題へのヒントを掴むことが不可欠であることから、日本の作家では、夏目漱石、芥川龍之介、志賀直哉、永井龍男、三浦哲郎、安岡章太郎など。外国の作家では、ヘミングウェイ、チェーホフ、メリメ、マンロー、オコナーなどが紹介されました。以下、短編小説の題材探しや実際の書き方についてのアドバイスです。

○日頃から面白い友人や特徴ある仲間などとふれ合い、積極的に「人」の輪に入る。

○随想のままではではなく、人物の心の中をのぞき込み、会話や心情をふくらませる。

○すべてが傑作であることはないので、失敗を恐れずに挑戦する気持ちで臨む。

○エピソードや事件は少なく、場所も大きく動かさない。

○主人公はあくまでも単独で、登場人物も4人程度におさめる。

○大人でも子どもの頃の想像力にアクセスできる(村上春樹)。

◎自分自身が秘めている、ストーリーをつくる想像力を掘り出す。

◎創作の視点がぶれないように留意し、わからないことは想像力で補う。

 

 先生が準備された随想「風のいたずら」の表現をたどりながら、随想から小説に発展させるポイントや具体例を提示していただき、小説へのジャンプが身近に感じられました。

 次回は、7月8日(土)です。皆さんのご参加をお待ちしています。




 6月8日(木) 第5回 出前講座 さくら保育園

 雨の日にふさわしいお話会でした

 講師:前田 泉(金沢おはなしの会)

 細かい雨が降り続いて、もうすぐ梅雨入りかな…と思わせるこの日、桜町の住宅街にある「さくら保育園」で出前講座が開催されました。今回、24名の年中さんにお話の読み聞かせをお願いしたのは、「金沢おはなしの会」の前田 泉(まえだ いずみ)さんです。

 

 『あかちゃんかたつむりのおうち』(いとうせつこ・作、島津和子・絵、福音館)では、食いしんぼの赤ちゃんかたつむりが緑の葉っぱやタンポポの花を毎日毎日食べるのですが、食べ過ぎておうちに入れなくなるのでは、と心配になります。テントウムシやちょうちょも気にかけて、注意してくれます。でも、大丈夫。自分の体だけでなくおうちの殻も大きく育ち、すてきな模様も広がっていることに気づいたのです。それからは安心して食べ続けて、いつのまにか立派なおとなに成長するというお話でした。

『かばくんのふね』(岸田衿子・作、中谷千代子・絵、福音館)では、雨の日が何日も何日も続いて、動物園がすっかり水浸しになってしまいます。やがて、洪水が起こって、小さい動物たちは困り果てるのですが、それを救ったのがかばくん。大きなおおきな背中にたくさんの動物の子どもたちを乗せて、まるで船のようにゆうゆうと洪水の中を泳ぎ回り、みんなの命を守ります。やがて雨がやんで、動物たちもひと安心。また元通りの、楽しく元気な動物園にもどることができましたというお話です。

どちらも雨の季節にふさわしい、楽しいお話で、子どもたちは大喜びでした。ほかにも、指人形や指遊び、鳥の鳴き声クイズ、「おみやげあんころもち」など、振り付けも交えた盛りだくさんなプログラムで、あっという間のひとときでした。子どもたちの愛らしい笑顔があふれ、歓声が最後まで響いていました。





 6月6日(火) 第4回 出前講座 大徳小学校4年生
 『秋声・鏡花・犀星』三文豪について学習しました

 講師:藪田 由梨(徳田秋声記念館学芸員)

 新緑がきらめく好天の日、大徳小学校4年生を対象に今年度4回目の出前講座が開催されました。小学校に隣接する大徳公民館の2階ホールに、元気いっぱいの137名が集まりました。今回の講師は、徳田秋声記念館の学芸員・藪田由梨(やぶた ゆり)先生です。

 今回は「金沢の三文豪を知ろう」というテーマでした。まず、「金沢の三文豪」とは、金沢に生まれ育った、三人の、文学で、優れた仕事をした偉い人、ということを確認しました。三人の写真を先生が示しただけで、子どもたちは即座に、徳田秋声、泉鏡花、室生犀星の名前を正確に答えることができました。先生からはプレゼンを使って三人の生没年、作品の特徴、人柄などわかりやすい説明があり、子どもたちは用意されたプリントに、必要なことを一生懸命に書き込んでいました。たとえば、毎日の生活や女性の姿を丁寧に描いた秋声と想像や夢の中の世界を描いた鏡花とは、まるで正反対の作風で、実際に仲が好くないこともあったとか。大好きなうさぎグッズのコレクターであった鏡花ですが、犀星も「動物詩集」を出すほど動物好きで特に猫を可愛がっていたこと、ところが秋声は動物嫌いだったこと。秋声は洋服を着こなして社交ダンスが得意だった一方、犀星は庭造りなど古風な趣味だったこと。さらに、浅野川河畔に生まれ育った鏡花と秋声に対して、犀川べりに生まれ犀川をこよなく愛した犀星の詩も紹介されました。「犀星の犀は、犀川の犀だ!」と、大切な発見もありました。そうして、三文豪マップが出来上がりました。

 子どもたちの感想では、これから図書館で三文豪それぞれの作品を読んだり、調べたりしたい、という積極的な声を聞くことが出来てとてもうれしく感じました。





 5月29日(月) 珍本をご紹介します
 大正時代の金沢に俳句の革新を追求した人たちがいた

 

 先般『ギャラリー三田』(尾張町1-8-5)のご主人、三田裕一さんから「未翁南圃俳句集」(大正14年刊、92ページ)を当館に頂きました。とりわけ、冒頭に芥川龍之介と室生犀星の序文があることから珍しいものではないかとのご指摘をお受けして、確認した内容の一部をご紹介します。
 今から90余年前、大正末期の金沢で「北聲會(ほくせいかい)」という俳句結社のもとに、俳句の革新を目指す若者、学者やベテラン俳人が集まり研鑽を積んでいたこと。その輪の中に、室生犀星や芥川龍之介も加わって親交を深めていたことが垣間見える貴重な資料です。
 6月から1ヶ月間ほど館内に展示して、皆さんにも実際にこの本を手にとってご覧頂けるようにしたいと考えてます。ぜひ、ご来館ください。

「未翁 南圃 俳句集」について
著 者:桂井健之助(未翁)、太田敬太郎(南圃)
発行日:大正14年11月1日
印刷所:高桑盛文堂  (金沢市横傳馬町17-1)
編集・校正:小松為一 (金沢市高岡町94-31)
発行所:北 聲 會  (金沢市高岡町94-1) 
賣捌所:石井書店   (金沢市片町78-1)  
頒 価:壹圓五拾銭 サイズ 15cm×17cm
*句集の構成
序      藤井紫影 大谷繞石 臼田亜浪 芥川龍之介 室生犀星 野村満花城
画(3点) 「まるめろ」故筏井竹の門  「馬  牛」富田渓仙  「満州風俗」松下紫人
装  丁  玉井 敬泉
表紙木版  同人・咲香朗刻 小松砂丘(為一)手刷
援  助   玉井敬泉画伯 越前製紙家・岩野平三郎 書舗・石川氏
未翁句集  83句
南圃句集  77句 (全160句を収録)

*芥川龍之介の序文
 御両氏の句集の出るよし、室生君から承り、祝着に存じて居ります。わたしは句を学ぶことも浅く、又御両氏の作品を拝見する機会も少ないものですから、今度お出しになる句集に就いては、何も申し上げることは出来ません。しかし昨十三年の首夏、室生君を訪ねかたがた、始めて金沢に一週間を送り、御両氏にも何かと御世話になつたことは、わたしの一生の追憶のうちでも最も愉快なものの一つになつて居ります。あの時のわたしは御両氏の他にも室生君や小畠貞一君と何とかいふお茶屋へ行き、『草餅』や『蝸牛』の句を作りました。派手な色彩の多い中に痩躯鶴の如き桂井さんの句を案じてゐられる姿は未だにはつきりと覚えて居ります。太田さんも--わたしは私かに太田さんを酒客だらうと思つてゐましたが、殆ど杯をとられないのには少なからず意外の感をなしました。恰幅の好い太田さんのサイダアのコツプを前にしたまま、筆を持つて考へてゐられる容子もやはり忘れることは出来ません。忘れることの出来ないと言へばあのお茶屋から出て来た時、何処か昔寂びた家並みの空に薄い月の出ていたのも忘れられぬことの一つになりました。わたしの庭は今竹の落葉に毎日雨ばかり降って居ります。金沢も定めし若葉は老い、あをくさの店は杏を盛り、犀川の水は増して居りませう。かう言ふことは御両氏の句集に何の関係もないものかも知れません。けれどもわたしには金沢を思ふことは即ち御両氏を思ふことですから聊か曾遊の記憶を記してわたしの序に代へることにしました。
            大正十四年七月四日          芥 川 龍 之 介 記

*室生犀星の序文
  二友二笑
 未翁さんと南圃さんに始めて会ったのは私の十七くらいのときで北聲會の席上であつた。紫影先生(藤井紫影)の姿が町で見られたころだつた。
 未翁さんとほんとに親しくしたのは、昨年の滞郷中であると言つてもよい。或る晩、未翁さんをたづねると家族とは別な部屋の机の上で俳句の選をして居られた。手あぶりに埋火を抱いた静かさ以上のどこか寂然とした姿で、雨戸を繰つて夜の庭などを見せられた。若輩の私には親切で何彼と教へてもらつた。
 此間上京されたときに、横浜の親戚から貰つてきたのだと言つて、山百合を一本持つてこられたが、自ら朝早い庭の寒竹のしげみの中に植えるようにと、自分でそこに植られたりもした。--その山百合は既う蕾をあたまにいただいている。
 南圃さんの家で小集があつた晩に、妹さんが客がかへつたあとで兄さんに尋ねた。
 『あんな小さい子が兄さんのお友達ですか?』
 私は当時十七くらゐだつた。跡に妹さんは赤倉家に嫁ぎ、そこの主人、錦風、赤倉勇次郎氏に私はいろいろお世話になつた。錦風氏亡きのちも当時の妹さんである未亡人とは、いま親戚のやうにおつきあひをして貰つてゐる。そして、『あんな小さい子が兄さんのお友達ですか?』の話がでて笑ひのたねになつた。
 この二老友は私にとつて名誉な友人である。人間はたくさんの友はいらない、洗いつくされた私の過去をそつくり知つてゐて、そして私にはいつも気強い味方になつてくれるのは、南、未、両先輩である。若し口さがなく故郷に私の風評がながれたときがあつても、この老友と語れば豁然として何ものかをいやされるであらう。未は茶人風で、南は古武士のおもかげをもつている。南は朱鞘を差し、未は細身な脇差をはさんでゐる。
 乙丑初夏                          於東京 室 生 犀 星

〔注〕藤井紫影は四高教授、国文学者。明治31年から「北聲會」を指導したが、犀星も指導を受けています。四高教授時代に北國新聞に掲載された俳句約3万点の中から、2000点余りを選句した北國句集「蕪(かぶら)すし」は、郷土の貴重な資料として高く評価されています。犀星の句も10句含まれています。
〔注〕小松砂丘は俳人、画人。木地師を生業として生涯金沢に住みました。俳句、画、文筆に優れ、郷土が生んだ最後の文人と言われています。臼田亜浪の「石楠(しやくなげ)」に参加し最高幹部同人として活躍。昭和16年には石川県俳人協会の初代会長となりました。また、俳画にも優れ、金城画壇の同人としても活躍しました。
〔注〕芥川龍之介が関東大震災後、金沢に転居していた室生犀星を訪ねて来たのは、大正13年5月15日。犀星は兼六園内の三芳庵別荘に宿を依頼しています。滞在中、前田家代々の墓がある野田山を散歩したり、つば甚、北間楼、西ののとやなどのお茶屋に行ったりしました。龍之介は金沢の風物に感心し、金沢の方言を俳句に詠み込んだりしています。俳句の席では、未翁、南舗らも同席したと推察できます。19日には、大阪に向けて立っていきました。
〔注〕赤倉勇次郎(錦風)は、犀星の金沢地方裁判所の上司で俳句に長けていました。犀星は明治43年(23歳)に初めて上京した際に、赤倉を頼り一時寄宿しています。

 太(おお)田(た)南圃(なんぽ)(太田敬太郎)
1874~1945 郷土史家。金沢市大藪小路(現片町2丁目)生まれ。父親は機械工業に指導的役割を果たした太田篤敬で、南圃も機械製作に従事し、のちに織物組合の書記となりました。また、県立図書館の属託として史実調査、整理に精魂を傾けた。『神社研究の参考資料』(昭和13年)や野田山墓誌採録についての「掃苔の跡を追うて」(昭和15)等にうかがい知ることができます。
 地方の俳人としての活動は明治35年からで、松下紫人が金沢を離れた大正3年頃より桂井未翁とともに北聲會の指導的役割を果たしました。室生犀星とも親交深く、犀星を訪ねて来県した芥川龍之介を野田山に案内したりしています(大正13年)。こうした交わりの様子は犀星の作品「梨翁と南枝」(昭和15年新潮1月号)によく描き出されています。南圃の句集は大正14年末に長老としての未翁、南圃の紙碑として北聲會が刊行した「未翁南圃俳句集」のみです。

  桂(かつら)井(い)未(み)翁(おう)(桂井健之助)
 1868~1945 俳人。富山県今石動町門前町(現小矢部市)に生まれ。16歳の頃から俳句に興味を持ち、楚笛、未央と号しました。電信技師、銀行員、城端町助役などを経て、33歳で金沢へ移住。老舗菓子店石川屋に勤務中から四高の教授・学生をはじめ文人との交流を重ね、困窮時代の室生犀星を陰ながら支えました。「未翁南圃俳句集」が大正14年(1925)北聲會から刊行されています。同15年から晩年まで「北國俳壇」の選者及び顧問。不明だった誕生日が近年、12月16日とわかりました。

北聲會(ほくせいかい)
明治30年(1897)兼六園内の環翠亭(奇観亭の隣で現在は空き地)で俳句会を開いたのが始まりで、明治・大正の郷土俳壇に新生面を開き、多くの優れた俳人の鍛錬の場となりました。正岡子規と郷里を同じくする四高の学生竹村秋竹の主唱によって生まれた句会であり、当時の加賀地方の俳句会が旧態依然としているのに飽き足らず、これからの俳句は子規の新風によらねば時代に乗り遅れるとしての呼びかけでした。句会発足の翌年藤井紫影が四高教授として赴任し、指導的立場に立ったのも好都合だった。同41年紫影が北聲會の句を中心にして選句刊行した「蕪すし」は好著として伝えられています。紫影のあとには大谷繞石(四高教授)や松下紫人(第9師団法幹部)が赴任しました。金沢に四高や第9師団司令部があったことが幸いしています。このほか主な作家に、室生犀星、太田南圃、桂井未翁、小松砂丘、倉知漁村らがいました。

【参考資料】 「石川県大百科事典」(平成5年 北國新聞社)
「犀 星」(平成14年 室生犀星記念館)
「室生犀星全集」第8巻、別巻一(昭和51年 新潮社)





 5月24日(水) 第3回出前講座 森山町小学校4年生

 自分が深く調べたい偉人を見つけよう

 講師:竪畑 政行(石川県児童文化協会理事長) 

 新校舎の改築工事に向けた準備が進む、金沢市立森山町小学校で第3回出前講座が開かれました。4年生の総合的な学習で、「金沢には、どんな偉人がいるかな」をテーマとして、子どもたちがこれから調べたい偉人を見つけるための授業です。講師は第1回出前講座に続き、「かなざわ偉人物語」の著者である、竪畑政行(たてはた まさゆき)先生でした。全8巻で構成される「かなざわ偉人物語」から抽出した40名の資料と、その中からクイズ形式で14名の偉人の名前を探し当てる資料を比べながら、金沢の偉人への理解を広げる学習が中心でした。

 参加した55名の子どもたちは、友達とも相談しながら人名を探すクイズを、どんどん解いていきました。10分後には半数を超える子が全問正解する、という集中力でした。授業のまとめでは、自分がこれから深く調べたい偉人を一人選ぶことができました。小野太三郎、八田與一、室生犀星などの有名な偉人に混じって、マッチの製造と輸出で活躍した清水誠、事業の収益でたくさんの科学者を支援した安宅弥吉、耕地整理では日本の先駆けとなった高多久兵衛などの名前も挙がりました。

 これからの学習でも友達と協力して、それぞれの偉人のたゆみない努力や業績が、今日の私たちの生活につながっていることを感じ取ってほしいものです。




 5月20日(土) 第1回 川柳入門講座
 自分の感動を自分の言葉で

 講師:城山 悠歩(石川県川柳教会事務局長・北国川柳社同人)

 川柳入門講座は今年度、5・6・7月の3回実施されます。講師は石川県川柳協会事務局長で、北国川柳社同人の城山悠歩(しろやま ゆうほ)先生です。

 第1回目の今回は「川柳とはどんな文芸か」というテーマに先立ち、古代の和歌に始まる日本文学の歴史を遡り、俳句・川柳・短歌の流れを学習しました。室町時代の俳諧連歌から派生した「俳句」と「川柳」は言わば兄弟同士ですが、川柳には俳句の約束である「有季定型」や「切れ字」はなく、人間生活そのものを現代仮名遣いで描くのが原則です。

 川柳の特色である三要素としては、

①    「穿ち」:風刺や皮肉も交え、物事の本質、人情の機微を表現すること。

②    「滑稽」:心の底から湧き出るようなユーモア、滑稽さ。

③    「軽み」:軽妙洒脱、豪快でキレのよいこと。枯淡と洗練。

が挙げられますが、先生からは「ドラマ性」の創出にもこだわってほしいという要望がありました。終始歯切れよい先生の解説を受けて、8名の受講生からの積極的な質問も多く、川柳を書くことへの心構えや大切な視点が浮き彫りになりました。ともかく自分を出すこと。自分自身の感動、気づきを五・七・五で表現することがポイントのようです。

 早速、次回に向けて「偉い」「バック」の題詠が宿題となりました。『短期決戦』へ受講生の皆さんの果敢な挑戦を期待しています。



 5月20日(土) 第1回 小説講座
 あきらめず、しぶとく、しつこく書き続けること

講師:寺本 親平(小説家)

 夏の到来を感じさせるような好天の午後、第1回小説講座が開催されました。地元作家を講師にお迎えして、学びを深めながら実作につなげることを目指しています。今年度の本講座の受講者18名の内ほぼ半数が過去の受講経験者で、中には5回以上という方も含まれています。講座での更なる研鑽を通して、小説作品の質的な向上と充実を期しています。今回の講師である小説家・寺本親平先生も本講座のベテラン講師です。

先生からはこれから本格的に小説を書き進める上での基本姿勢、もう一歩踏み込むための『覚悟』を熱く語って頂きました。

①    この講座は、小説を書きたいという同じ目的を持つ人の集まりである。書くことは孤独な作業であるが、他者と対峙して、外に向かって意識を開くことが大切だ。

②    小説を書く上で、「ポエム(詩情・感受性)」と「批評性(他者の眼で判断する力)」の二つは欠かすことができない。個々に育んでいかなければならない。

③    「書くこと」と「読むこと」との両方とも大切である。読むことで、書くための背景が形づくられる。この背景が書く行為を支える推進力になる。

④    優れた小説を書く『近道』はない。無駄な努力の積み重ねを、しぶとく、辛抱強く重ねる中で、自分だけの文体、独自の文章を綴ろうとする努力が必要だ。

⑤    小説を書くには、言はばやけくそのような活力が求められる。ツルハシで地面を掘り起こすことに似ている。生半可な知識や経験といった余計な武器は捨てることだ。

 

まとめの質疑応答の中では、創作へのモチベーションの持ち方について、自分の在り方を見つめ直し、新しいことに挑戦する、自分の不利やマイナスを生かすなど、自分自身を鼓舞する手段を見つけること。また、思い通りにならないことこそが「宝」だという逆転の発想に立つ、という貴重なアドバイスも頂きました。

次回は、6月17日(土)午後に開催いたします。



 5月14日(日) 第1回 『朱鷺の墓』朗読会
 金沢を舞台とした艶のある文章をお楽しみください

 朗読:髙輪 眞知子(浅野川倶楽部代表)

 朗読小屋・浅野川倶楽部を主宰する髙輪眞知子さんによる朗読会も、9年目を迎えました。今年度から五木寛之作『朱鷺の墓』を3年間にわたって全4章の朗読をお楽しみ頂く予定です。『朱鷺の墓』の第1部「空笛の章」は昭和43年から翌44年にかけて、「婦人画報」に連載されました。五木さんが金沢で生活をしていた時期と重なります。

 金沢浅野川界隈が舞台となる「空笛の章」では、東廓・杉乃屋の人気芸妓である染乃とロシアの青年将校イワーノフとの恋愛が描かれます。時は日露戦争の渦中にある明治38年。物語はその戦争捕虜として金沢の収監所に送られてきたイワーノフと染乃の劇的な出会いから始まります。杉乃屋の常連客で染乃のお気に入りでもある機一郎との心の絆は、穏やかな金沢言葉や周辺の情景と共にしっとりと描き出されています。

 この日は80分ほどの朗読でしたが、艶のある作品世界にいつの間にか吸い込まれてしまうような感覚でした。

2回目は6月11日(日)午後2時からです。ぜひ、お誘い合わせてご参集ください。




 5月13日(土)  第1回 小説入門講座
 小説を書く力とは…

 講師:高山 敏(「北陸文学」主宰)

 5月13日(土)に当館3階・文芸サロンで、今年度第1回目の小説入門講座が開催されました。12月までの8回シリーズで、第2土曜日の午前10時30分に開始時刻として定期開催する予定です。今回の講師は、同人誌『北陸文学』主宰の高山敏先生でした。

 16名の受講者の大半は、今回初めて小説に挑戦する方々です。先生から提示された、海月ルイさんの随筆「負けない組」(北陸中日・2006.6.13夕刊)を読み、筆者の思いやその幼なじみであるAさんの奔放な生き方、表現方法などを中心にそれぞれの感想を交えながら話し合いました。Aさんの生き方に好感を持つ筆者の温かい視線や、Aさん自身のわがままや横暴ぶりの裏に見え隠れするずるさやしたたかさにまで話が及びました。

先生からは…

①    小説を書く力の原点となるものは、実体験・追体験などの経験であり、自他の人生の経験をいかにものにするかにかかっている。

②    自分自身にとって、決して忘れられない経験(思い出)を切り口にする。

③    現在と過去とは密接に関係しているが、過去は現在を生かすためにある。

④    登場人物の性格や特徴を描き分ける上では、テレビドラマが参考になる。

⑤    書き進める中で入れるかどうか迷った文章は、削除するほうがよい。

といったアドバイスがありました。

 文章から読み取ったことを積極的に発言し、自らの創作や表現につなげようとする受講者の皆さんの果敢な姿勢に、先生も深く感心したご様子でした。




 5月13日(土) 第1回 詩入門講座
 自分の感性を大切にして

 講師:井崎 外枝子(詩誌「笛」同人)

 5月13日(土)の午後、今年度の詩入門講座がスタートしました。第1回目の講師は詩誌「笛」の同人である井崎外枝子先生でした。初回の顔合わせということで、8名の受講者への自己紹介も含めて、詩作への思いをお話されました。

 …二十歳台の半ばに「笛」の同人に参加して以来、自分の感性をもとにして、一行、次の一行、また次の一行と書き続けて半世紀余りが経過した。その間に、親・友人・夫の死などを経験し、書くことしかない、苦しいがそれしかない、という思いはつのる。書くタイミングを逃さないことも大切で、三年も五年も経過すると、書けるものも書けなくなる。

 また、子どもの詩には、目からウロコが落ちるような面白さがある。子どもはいつわらないし、うまく書こうともせず、体当たりで書いているから、言葉にも新鮮な輝きがある。私たち大人も自分の中に、子どものような自分が棲んでいるのではないか。ここに集まった皆さんも例外ではない。自分の感性を大切にして、共に心の拠り所となる潤いのある言葉を追い求める機会にしたい…。

 講座の後半では、杉田平一「希望」、菊田守「世界の裂け目」、沢田敏子「からだかなしむひと」などの作品を鑑賞しました。先生からの問いかけやヒントを踏まえて、詩に盛り込まれた感覚的で繊細な表現、意外な言葉の連鎖や展開、表記や句読点の工夫や効果などいくつもの視点から、作品に託された作者の思いをさぐり、味わうことができました。

 

 『詩は答えではなく、問いである』ということを念頭におきながら、講座は展開します。第2回(6月10日)からの参加も可能です。詩を書いてみたい方、ぜひご来館ください。




 5月11日(木)  第2回出前講座 清泉中学校3年生  
 高峰譲吉の3つの業績について学びました

講師:増山 仁(金沢ふるさと偉人館学芸員)

5月11日(木)に今年度第2回目となる出前講座が、金沢市立清泉中学校3学年の生徒(170名)を対象に開催されました。講師は「金沢ふるさと偉人館」の学芸員・増山仁(ますやま・ひとし)さんです。『世界で活躍した金沢の偉人』というテーマで、高峰譲吉と八田與一の業績を中心とした講話でした。

消化剤タカジアスターゼやアドレナリンの発見・抽出という理化学研究で知られる高峰譲吉ですが、11歳で長崎に留学、大阪と東京で学問を修めた後、26歳でイギリスに留学するという異色の経歴の持ち主です。その後アメリカに渡り、日本に古くから活用されてきたコウジ菌を使ったウイスキーづくりの量産を目指しますが、失敗。その醸造の過程で生まれたのがタカジアスターゼです。その立ち直り速さと発想の転換の的確さこそが、高峰譲吉の真骨頂ではないかと、増山学芸員さんは強調します。「近代バイオテクノロジーの父」と賞賛される一方で、アメリカ合衆国にたくさんの桜の樹をプレゼントしたり、日本家屋を建てて外国人の大勢の友達を招いたりして国際親善に貢献したことから「無冠の大使」とも呼ばれたそうです。さらに、アドレナリンなどの特許で得た収益を元手に、新しい特許取得につないで次々と事業を大きく展開したことから「ベンチャー企業の先駆け」とも称されるといいます。こんなふうに、偉人の業績を異なる角度から調べてみるとさらに興味が広がることでしょう。

この他、授業ではプレゼンを活用しながら、八田與一や藤井健次郎、木村栄などにもふれ、特徴的な部分についての解説がありました。ランチルームでの盛りだくさんの内容でしたが、170名の生徒の皆さんは終始しっかりと集中した態度で参加していました。生徒はそれぞれに調べる偉人を絞り込み、これからの調べ学習の成果を『偉人新聞』にまとめる予定とお聞きしました。ぜひ、偉人の意外な横顔(プロフィール)にも迫ってほしいと期待しています。




 5月8日(月) 第1回 出前講座  金沢市立粟崎小学校4年生
 金沢の偉人について学びました!

講師: 竪畑 政行(石川県児童文化協会理事長)

 ゴールデン・ウイーク明けの5月8日(月)に、金沢市立粟崎小学校4年生(81名)の皆さんを対象に、今年度第1回目の出前講座が開催されました。今回のテーマは「偉人について学ぼう」で、講師は「かなざわ偉人物語」の執筆者でもある竪畑政行(たてはた・まさゆき)先生でした。

 まず、「偉人ってどんな人かな?」という先生の問いに、子どもたちから元気いっぱいの反応がありました。「みんなのためにつくした人」「やさしい人」「かしこい人」「新しい発明をした人」「生活に役立つことをした人」「歴史に名前を残した人」「経験や努力で人のためにかつやくした人」などなど。続いて、資料から知っている偉人の名前に○をつけました。台湾でダム建設を成し遂げた八田與一、女学校を設立した加藤せむ、思想家として活躍した三宅雪嶺、さらには地元出身で今回の会場校である粟崎小学校の充実・発展に貢献した木谷吉次郎の名前も挙がりました。

 友達から紹介された偉人の資料をみんなで読み合わせして、それぞれの偉人が活躍した内容を確認すると共に、先生からはとっておきのエピソードをお聞きして、理解を深めることができました。子どもたちはそんな説明を聞きながら、これからの授業でもっと調べたい人を選んでいました。

 今回の出前授業を皮切りに、子どもたちは図書館の「かなざわ偉人物語」を活用しながら偉人についての学習を進めて、将来に向かって大きく夢をふくらませてくれることでしょう。




 4月1日(土) 第44回泉鏡花文学賞受賞作家と集う会 川上弘美さんトークショー
 「受賞作をめぐるさまざま」―川上さんの執筆の周辺について聞く―

 
 4月1日(土)の午後、金沢文芸館3階の文芸フロアにおいて、昨秋「大きな鳥にさらわれないよう」で第44回泉鏡花文学賞を受賞した川上弘美さんによるトークショーが開催されました。「受賞作をめぐるさまざま~川上さんの執筆の周辺について聞く~」と題したこの集いでは、金沢学院大学准教授の蔀際子(しとみきわこ)さんに聞き手を務めていただきました。創作活動の背景や方法、ちょっとした心がけやこだわりなど興味深いお話の連続で、人気作家である川上弘美さんの気さくで個性的な人柄にふれることができました。熱心に聞き入る60名ほどの参会の皆さんで満席となった会場は、春先のやわらかなムードに充たされました。内容の一部をご紹介いたします。

 

金沢は陰影のある町というイメージが強く、犀川と浅野川の流れや景色も魅力的です。泉鏡花や室生犀星の作風にも通じる冬の暗さや湿った空気が、この町特有の文学的な風土を醸し出しているようです。

受賞作「大きな鳥に…」は何万年か先の未来に、クローン技術や人工知能の助けを借りて辛うじて生き延びる人間を描いた作品です。東日本大震災以降、誰もがいつまでも平和なままではいられないと考えさせられることが多くなりました。平和な時代が続く中で、人類の滅亡は実感しにくいのですが、生きることの「無常」をテーマとしました。冒頭の「形見」を書き上げた時点では連作の構想はありませんでしたが、結果的に14通りの「私」が未来の人間の思いを語る形になりました。読み進めるうちに、だんだんとわかってくる作品です。

子どもの頃から、本を読むことは大好きでしたが、書くことは苦手でした。女子高校で理科教師を務める理系の人間でした。人間の自意識や自分の内部を掘り下げるようなことよりは、むしろ、生物としての人類を幻想的に描く方に関心がありました。読書では、「赤毛のアン」「モンテクリスト伯」など外国小説や児童文学の翻訳に親しみました。長編の優れた翻訳を集中して読むのが好きでした。

高校教師の時代を含めて約10年のブランクがあり、30歳台半ばで「神様」と言う作品を書き上げました。モラトリアム(猶予期間)とも言える子育ての日々の中で、子どもとも通じ合うやさしい言葉で普通に自分の表現に到達できた、ということかもしれません。その後、20年。人生の妙味を描き続けています。

支配的な気持では、作品を書き進めることはできません。設計図にしばられず自然に書き進めるうちに、登場人物が動き始めるものです。すごく正しいことを書かねば…と気負い、力んで立ち向かうのではなく、どんな飛躍や連想をどんなふうに翻らせようか、と考えるところに創作のポイントがあるように思います。また、行き詰まってもやめないで書き続けること。書きつなぐことで、作中の人物が動き出します。そうして、何度も読み返して文章の歪みをただしていく。ひとつひとつ、丁寧に磨き上げる。私はアーチスト(芸術家)であるより、そんな職人さんでありたいのです。




ページの上へ

金沢文芸館

〒920-0902 石川県金沢市尾張町1-7-10 TEL:(076)263-2444 FAX:(076)263-2443

アクセスマップ

展示日程の一覧

金沢文化振興財団