金沢文芸館

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文芸館だより(ブログ)

文芸館だより H30年度

 8月11日(土)第4回 詩入門講座
 言葉で織り上げる楽しさと奥深さと

 朗読:井崎 外枝子(『笛』同人)
 

午後からは、第4回目となる詩入門講座を開講しました。今回から4回連続で、受講生の皆さんによる具体的な作品を通して、詩の表現について実践的に学びます。担当は詩誌『笛』同人の井崎外枝子(いざき としこ)先生です。杉原美那子、内田洋両先生も同席されました。

 

①    書くことで解放される作者

作品を完成させることが目的であるが、書くという行為は、書こうとする自分や書き進めている自分自身が解放される過程でもある。その過程をふまえて、書き終えた段階で一番書きたかったことは何かが収斂されていく。

②    表現内容の精選と吟味

何度も推敲を重ねる過程で、一番大切にしたい内容を絞り込むこと。同時に説明的な言葉やなくても支障のない言葉を省き、簡潔にする。長い詩では、作品の焦点がぼやけることが少なくない。生(なま)のまま散らかした言葉はお互いに足を引っ張り合うので、表現効果は相殺される。

③    観念的・概念的な表現をさらに突き詰める

抽象的・一般的な言葉の奥にある具体的な姿を、自分の言葉でえぐり出せないか。作者の無造作な表現・閉じた表現を突き詰めて整理し、工夫た先に、読者に通じる、響く、届くの表現が生まれ出る。

④    自分らしい、独自の視点

月並みな内容・テーマを脱して、新鮮で個性的な題材の選択や視点を持ちたい。それが読者にとっても詩にふれる喜びや共感につながる。暗喩、象徴などの強く、熱く、印象的な言葉やメッセージをしかける。不気味さ、妖しさ、不穏な気配や余韻なども詩の通奏低音として面白い。

 

それぞれの詩作品の持ち味にふれながら、改めて言葉を丹念に織り上げる「詩」の魅力やその奥深さを再確認するひとときでした。題材の切り取り方、秘められたテーマ、作者自身と題材との相似型など、詩の新たな展開や様々な可能性に気づくことでなおさら、現時点からのシンカ(進化・深化)が期待できそうです。

 

次回(9月8日)でも、皆さんからの力作と向き合えることを楽しみにしています。初めての方の参観・傍聴もできます。お気軽にご来館ください。




 8月11日(土) 第4回小説入門講座  

 言葉に対する感覚の鋭さを

 講師:小網 春美(『北陸文学』同人)

 朝方のまとまった雨の影響で、蒸し暑い「山の日」となりました。お盆休みでふるさとへの里帰りはピークを迎えているようです。

 午前中、第4回目の小説入門講座を開講しました。「小説の文章」をテーマとして、『北陸文学』同人の、小網 春美(こあみ はるみ)先生に担当していただきました。いよいよ本格的に創作に取りかかる上で、心がけたいいくつかのポイントについて確認しました。

 

①    敬愛する作家の名作・名文を読む

丸谷才一は小説家を志す上で、最も大切なことだと述べている。好きな作家の名文を書き写すことや、意味はわからなくとも繰り返し音読することも効果的である。

②    一語一語を大切にする

詩人、歌人、俳人など詩歌を創作する人は、言葉を大切にするばかりでなく、比喩表現が多彩である。また、こまめに辞書を引くことで、最も的確な言葉を見いだすこともある。正しい言葉、美しい言葉、豊かな言葉の使い手を目指したい。

③    文体の統一感や文末の変化に気配りする

「です・ます調」(丁寧体)と「だ・である調(常体)」を混用しない。

時制では過去形に固執せず、現在形を織り交ぜることで臨場感を醸成する。

④    独創的なオノマトペ(擬音語)の創造と工夫を

*(資料1)吉村 昭による林芙美子「骨」の批評から

道子は自分の体を売って、初めて四百円という金を得た。そして「ふっと舌をべろりと出した」。この舌をべろりと出したというところが肝心なのです。(中略)そして、べろりと舌を出したけれども、さめざめと泣くのです。この描写に、道子の心理というものが、もうこれ以上の表現はないというふうに書かれています。

ただ、ここで注目しておきたいのは、「べろり」「さめざめ」という表現です。こういう擬音を使うと、普通は文章が実に軽薄なものになってしまいます。(中略)それだからこそ作家はそれに変わる表現をいろいろ苦労して創りだすのです。

しかし、この『骨』における「べろり」と「さめざめ」は、これ以上の表現はないという表現になっている。それは、林芙美子が詩人だからこそできたことなのです。この「べろり」と「さめざめ」は林芙美子の言葉に対する感覚の鋭さによって初めて可能な表現となっているのです

⑤    比喩表現について

*(資料2)芳川泰久「村上春樹の比喩を考える」より

『1973年のピンボール』より

ロンドンの免税店に積み上げられたカシミアのセーターのような…

バルザックの小説に出てくるカワウソのように…

ピックルスの空瓶につめこまれた蟻の巣ほどの…

(個々の語のイメージは鮮明なのに、全体としては意味は不鮮明で、そのことが村上春樹の想像世界の不思議さを助長している)

『海辺のカフカ』より

◎女にペニスを握られた「僕」は「まるで医者が脈を取るときのように」と言ったあとで、「僕は彼女の柔らかい手のひらの感触を何かの思想みたいに感じる」。思想とペニス。この格差が独自のユーモアを生むのだ。

◎「私」がビールを冷蔵庫から出し、フランクフルト・ソーセージを炒めると、女は「重機関銃で納屋をなぎ倒すような、すさまじい勢いの食欲」を示す。

◎月曜日の朝の日比谷公園の芝生に寝転んで「私」がビールを飲むと、「飛行機が出払ってしまったあとの航空母艦の甲板みたいにがらんとして静かだった」と形容される。

食べることも戦うことも、人間の基本的な欲求ということか。

 

受講生の皆さんからは、独自のオノマトペを試みる不安、会話文の表記の仕方、基本的な原稿用紙の使い方などについて質問がありました。初稿の締め切りまであと2ヶ月となりました。不明な点は、できるだけ具体的な文章をもとにして、遠慮なくお問い合わせください。自分が書くことを想定して、作品を丁寧に読む(読み直す)ことで、新たな発見に出会い、言葉の感覚も磨かれてゆくのではないでしょうか。

次回(9月8日)も、皆さんの積極的なご参加をお待ちしています。



 8月5日(日) 第4回『朱鷺の墓』朗読会

 ペテルスブルグでの新しい共同生活へ

 朗読:髙輪 眞知子(朗読小屋 浅野川倶楽部代表)

 8月に入っても相変わらず厳しい暑さが続いています。午後から、今年度4回目となる『朱鷺の墓』朗読会が開催されました。今回は、朗読小屋・浅野川倶楽部代表の髙輪眞知子(たかなわ まちこ)さんによる朗読で、「風花の章」の末尾から「愛怨の章」の冒頭部にさしかかりました。

 

 ロシア革命により政情不安な状況の中、染乃と夫のイワーノフ、旧知の友人である機一郎の3人は、中華料理店を営みようやく落ち着いた矢先のナホトカの街を離れて、ノルウェイ経由の貨物船に乗り込んでロシアの都・ペテルスブルグに向かいます。イワーノフは新しいロシアをつくるための政治活動に参画したいという希望を実現させようとしますが、機一郎はそんなイワーノフの言動には否定的です。染乃はともかく三人で家族のように仲良く暮らしていけないものかと願いながら、金沢で初めてイワーノフと出会った13年前のことを改めて回想するのでした。

 ペテルスベルグのイワーノフの両親や妹たちの邸宅は革命政府に接収され、家族の行方も知れない状況でした。街の裏通りの壊れかけた建物の3階の貸部屋で、3人の新たな共同生活が始まります。イワーノフは機械工場の技師として勤めると共に、工場内での政治活動に積極的に関わり、民衆の結束による新しい国づくりを目指していました。一方、様々な無理を重ねてきた機一郎は心身共に衰弱傾向にあり、健康状態は日ごとに悪化してゆくばかりです。ある晩染乃は、裸で自分を抱いてほしいという機一郎の願いを受け入れます。

  

  機一郎は目を閉じたまま、染乃のなすがままにされていた。二人がすっかり生まれたままの姿になると、染乃は両腕で優しく機一郎の信じられないほど痩せほそった体を抱きしめた。染乃はその晩、イワーノフに悪いとか、恥ずかしいとかいう気持ちは少しも感じなかった。むしろイワーノフの分も一緒に、機一郎のそんなすさみ切った心を暖めてやりたいと願う気持ちでいっぱいだったのである。……染乃は機一郎の体を胸の中に抱きしめたまま動かなかった。自分がやましい気持ちでそうしているのではなく、一人の人間として痛み疲れた機一郎に生命のぬくもりを伝えようとしているのだということを、彼(イワーノフ)はきっと理解してくれるはずだと信じていた。

 

イワーノフは機一郎をいたわる染乃の思いに共感して、「革命とは人間の内面をも含めてのものでなくてはならない。愛情や、男女間の関係にも新しい革命的な考えが必要なのだ」という理念に立ち、三人が肉親や兄弟のように愛し合い、他の二人に対して変わらぬ尊敬と友情を抱いて生活するという、新しい共同生活を始めるのでした。

イワーノフに政治活動から手を引いてほしいと願う染乃ですが、言い出せないままでした。そこにイワーノフの妹であるナターシャが現れて、染乃たちの平穏な生活はまた新たな火種を抱えることになります。波乱含みに急展開する物語の中で、経済的な困窮、政治的な不安や混乱、元貴族階級という基盤の崩壊を余儀なくされる染乃とイワーノフ。そんな苦境を乗り越えて、二人が夫婦・家族として希望を持って生きる日々は訪れるのでしょうか。
 次回(9月9日)にご期待ください。



 7月28日(土) ソプラノとオルガンの夕べ~こころのふるさとを唱うV~

 懐かしい音色に浸る

 出演:直江 学美(ソプラノ歌手)
   :黒瀬 恵(オルガン奏者)

7月28日(土)、夏のナイトミュージアム2018「ソプラノとオルガンの夕べ」~こころのふるさとを唱うV~が開催されました。

 ソプラノ歌手の直江 学美(なおえ まなみ)さん、オルガン奏者の黒瀬 恵(くろせ めぐみ)さんのお二人による金沢文芸館でのコンサートは、2013年(平成25年)に行われた金沢文芸館8周年記念の、プレミアムコンサート「こころのふるさとを唱う」以降今年で5回目となります。幸いにも台風の進路からそれたため、多くのお客様にご来館いただきました。

オルガン独奏、L.モーツァルト「7月」より開幕しました。この曲は、モーツァルトのお父さんの作品で、タイトルにもあるように今の季節にぴったりな曲ですと、黒瀬さんの説明がありました。足踏みオルガンの音色はどこか懐かしく、会場は和やかな雰囲気に包まれました。目を閉じて聴いているお客様が多くみられました。

日本の歌では、よく耳にする大中 恩の「いぬのおまわりさん」や「おなかのへるうた」などが披露され、直江さんののびやかな歌声が会場に響きわたりました。

曲紹介の合間には、お二人のエピソードや、「オルガンは足踏みで空気をいれて音を出していて、今の時代スイッチがないなんて不思議ですね」などと楽しいトークで、会場を沸かせてくださいました。

ラストは、毎年恒例の「ふるさと」を会場の皆さん全員で合唱し、盛大な拍手に包まれながら閉幕しました。

また、このような素敵なイベントで皆さんとお逢いできる日を楽しみにしています。


プログラム
◆オルガン独奏

♪ L.モーツァルト:7月

◆日本の歌

♪ 大中 恩 :さっちゃん

        いぬのおまわりさん

        おなかのへるうた

        ドロップスの歌

♪ 大中 寅二:ちいさいおてて

        ヤシの実

◆オルガン独奏

♪ 大中 寅二:前奏曲

◆クラシック音楽 

♪ カッチーニ  :アヴェ・マリア

♪ バッハ=グノー:アヴェ・マリア

♪ ピアソラ   :アヴェ・マリア

   



 7月21日(土) 第3回小説講座

 短編(掌編)は長編小説の一部ではありません

 講師:剣町 柳一郎(小説家)
    宮嶌 公夫(『イミタチオ』同人)

 午後から第3回小説講座が開講されました。受講者の皆さんからお寄せいただいた15編の掌編小説の合評会でした。

前回担当の正見巌(しょうけん いわお)先生は、残念ながら体調不良により欠席でした。病床で書いてくださったコメントを当館館長の小西が順次ご紹介するとともに、小説家・剣町柳一郎(つるぎまち りゅういちろう)先生、文学誌『イミタチオ』同人である宮嶌公夫(みやじま きみお)先生がそれぞれの作品についての長所や今後の課題をアドバイスするという内容でした。話題の一部をご紹介いたします。

 

①    推敲を念入りに

限られた時間の中で作品を仕上げることの難しさ。

何度も声に出して読み返し、また、目でも見直して、完成度を高めたい。

家族、友人など身近な人に読んでもらうことが最も効果的。

作者の「くせ」が目立ちすぎないように。同語の反復は避ける。

て・に・を・は、などの助詞、句読点の細部にも留意して最適な選択を。

②    削除、省略のポイント

作品テーマに繋がりのない、あってもなくてもよい説明や描写はないか。

説明は極力簡潔に。できるだけ、展開する物語の描写の中に盛り込む。

会話でも部分的に省略した方が、テンポよく、読者の想像を引き出し、余情を生む。

実際にこんな会話があり得るか、よく吟味する。

③    描き手の視点がぶれないこと

3人称小説のはずが、登場人物の視点になったり、またもどったりしない。

短編では、書き手の視点は一貫させるのが基本。

書き手と主人公の間隔が保たれているか。

④    全体の構成・展開を明確に持つ

掌編(短編)は、長編の一部ではない。

作品全体の容量に配慮した展開(起承転結)を工夫する。

時間・場面の移動を必要最小限にする。

⑤    ユーモアある軽妙な作品

軽快に、メリハリを、ユーモラスなエピソードにも現実味(真実味)を。

何かが始まる予感を匂わせる。その伏線を丁寧に、しっかりと。

「落ち」をつけると、先に伸びない。

⑥    現実と非現実の境目

現実そのものよりは、現実にありそうな真実(虚構)を追求する。

どこで、どんな虚構を盛り込むか。不自然さ、違和感を最小限に。

読者の共感や安堵感を誘う魅力ある主人公であること。

⑦    一文の長さ・語順

短い文を丁寧に重ねるのが効果的。欲張って詰め込まない。

一文の中でも更に「贅肉」をそぎ落とす。

修飾句の位置、入れ替え、置き換えを。強調したい文に、段落を。

⑧    確かな、豊かな比喩表現を

工夫やイメージが空回りしていないか、不自然・極端でないかを吟味する。

読み手を意識して、より伝わりやすく、正確な言い回しを。

似たような他の表現と比較して、より適切なものを絞り込む。

 

 短い文章においても起承転結がなければ、断章か部分のスケッチに終わってしまいます。改めてテーマを十分に絞り込み、何をどのように描くか、(描かないで済むものは、描かない)を、優れた作品の長所を吸い取りながら、根気強く学び続けたいものです。

 

 次回担当は、剣町柳一郎先生です。角田光代『さがしもの』(新潮文庫)を再読してご参加ください。   



 7月21日(土) 第3回 俳句入門講座 

 季語が生きた句を求めて

 講師:野村 玲子(「あらうみ」同人)

 

 猛暑日のこの日、午前中に第3回目の俳句入門講座が開講されました。講師は俳誌「あらうみ」同人、野村 玲子(のむら れいこ)先生です。最終回の今回は、12名の受講者の皆さんから兼六園に取材した作品を中心に、五句ずつご準備いただきました。講座では句会の形式を模して秀作・佳作を互選し、最後に先生の指導と助言を頂くという流れでした。

 佳作として挙げられた作品の一部を、ご紹介いたします(順不同)。

 

 風薫るレモン色したインコ二羽

 

 静かなる梅雨の参道建長寺

 

 夏きざす曲水の風まっすぐに

 

 メロン切る何とはなしに華やぎて

 

 氷室の日ちくわの穴から夏のぞく

 

ふるさとの能登富士や揚羽舞う

 

 酷暑にも守る庭師の心意気

 

 母の手にならふことあり梅しごと

 

 曲水を駆け抜ける風夏来る

 

 旅の宿花一輪と梅雨ごもり

 

 ひとくちずつラムネ飲み合う若さかな

 

 下闇に根上松の小宇宙

 

 梅の実が落ちて色立つこけの上

 

曇天に梅雨をいだきて古木立

  

 晴れ間見て七夕の笹急ぎ切る

 

 ふわふわと緑のまにまに合歓の花

  

 灯籠のたもとを飾るキンシバイ

 

 ピクルスの色とりどりに夏野菜

 

 たくさんの作品が、それぞれの特色ある情景と作者の心情を描写しているように感じました。先生からも、受講者の全体的なレベルが向上してきたことを評価していただきました。最後には、季語が生きている句であるかどうか、ということを改めて吟味してほしいという念押しがありました。この講座を端緒として、受講生の皆さんが、四季の生活の中で見つけたものや心動かされたことを核として、今後も末永く俳句の創作にたずさわり、自分にも、家族や仲間へも、心に響く俳句を生み出されることを期待しております。

 

 次年度の俳句入門講座は、8月・9月・10月に開講する予定です。



 7月19日(木)出前講座 星稜中学校2学年・3学年

 つかんだイメージと選んだ言葉を吟味する

 講師:島田 鎮子(『沃野』同人)
    福島 茂(元中学校長 国語科担当)

 
 連日の危険なまでの猛暑の中、昨日に続き星稜中学校にお伺いしました。この日は、2学年(59名)が『短歌を作ろう』で、歌誌『沃野』選者の島田 鎮子(しまだ しずこ)先生、3学年(64名)は『俳句を作ろう』のテーマで、元中学校長で国語科担当の福島 茂(ふくしま しげる)先生でした。

 

 青春真っ只中、と思わせる、ロマンに満ちた2年生の作品をご紹介いたします。

 

 猛暑日に海でみんなとはしゃいだら布団の上でも波に揺られる

 

 青春の思い出初恋いい匂いそろえていったシーブリーズ

 

 何もせずふと観る青空快晴で心がからっぽ空もからっぽ

 

 よい天気玄関飛び出し外見れば想像以上にカゲロウ見えた

 

 風鈴の鳴り響く音涼しげに夏にとどろけウルトラソング

 

 夏祭り打ち上げられる花火見て夏を感じる昔も今も

 

 ふと見上げ打ち上げられる空雲ひとつ月にかかりて星は輝く

 

3年生の講座では、まず、作者自身が気づいたこと・見つけたこと・感動したことを題材としてしっかりと選び取ることが俳句の力そのものになることを確認しました。俳句の約束の基本である『有季定型』ですが、改めて季節・季語を探し出すというよりは、もともと私たちの日常生活は、衣・食・住のどれをとっても季節感・季語にあふれているので、自然に言葉を選べば、そこに季節が潜んでいるとも言えます。感動したことや内容を、じっくりと吟味することで、より豊かで、確かな言葉の表現につながることが多いものです。

 『歳時記』に収められたたくさんの例句触れることで、季語の理解を深め俳句を作る上での視野を広げることができるのです。ただし、模倣ではなく、あくまで自分らしさ、自分なりのこだわりを生かした俳句となるように工夫したいものです。

 

 2年生、3年生とも落ち着いた学習ぶりで、仲間と声を掛け合いながら意欲的に参加して頂きました。やはり、限られた時間の中で作品を仕上げることは難しいものです。改めて時間を確保した上で、十分に言葉や表現を吟味することに挑戦してください。

もう、夏休みが直前です。生徒の皆さんが楽しく充実した毎日を過ごされるように、ご活躍を願っております。



 7月18日(水)出前講座 星稜中学校1学年

 先生方の積極果敢な姿勢が生徒に伝わって

 講師:島田 鎮子(『沃野』同人)
 

 十日ほど前に、五木寛之先生ご夫妻からお中元に頂いたカサブランカが次々と開花しました。1階の交流サロンはその芳香に満ちて、暑い中に来館してくださった皆さんを楽しませてくれます。

 さらに真夏日が続くこの日、星稜中学校にお伺いしました。76名の1年生の皆さんを対象とした「短歌を作ろう」の学習です。講師は短歌誌『沃野』同人の、島田 鎮子(しまだ しずこ)先生でした。3連休に石川県中学校総合体育大会を終えたばかりですが、星稜中学校は、サッカー部が優勝、野球部が準優勝という立派な成績を納めました。短歌の題材として、部活動を選んだ作品が目を引きました。生徒さん達は全般に、とても明るく素直で積極的で、終始、和やかなムードの講座となりました。先生方の作品*に触発されるように生徒さんの作品が次々と誕生しました。一部をご紹介いたします。

 

夏の日に相手にわたる優勝旗涙こらえて強く握る手*

 

人いきれ夜空に咲いた二尺玉はかない夏と共にとけてく

 

夏休みあっというまに過ぎちゃって宿題たくさんもう午後十時

 

暑い日に汗水たらす部活動帰ってみると白紙の課題

 

夏の日は暑さこらえてクーラーがまんがまんできずにやっぱりクーラー

 

監督にお水渡そう急ぎ足急がば回れ階段にこける

 

夏祭りゲームにやきそばかき氷でも一日で終わっちゃう

 

やわらかい光差し込むバスの窓夢がさめたらなぜか終点

 

先生は歴史得意で祭り好きいつもイケメン僕のあこがれ

 

七夕のササに願いを天の川空見あげれば光の道が

 

朝顔の背が伸びるのを見るたびにいつか天までとどくと思う

 

 短歌をどう描くか、という出発点では「いいかっこうしよう」とか「うまくかこう」と気負わずに普段通りの言葉遣い、いつものおしゃべりの延長のように。ポイントは見たこと、聴いたこと、感じたことをそのまま言葉に並べること。びっくりしたこと、気づいたこと、大切にしたいこと、時にはちょっと恥ずかしいことも。自分の心をしっかり観察して、自分の言葉で描くこと。…というアドバイスを頂きました。

楽しみながら短歌に挑戦する、という姿勢や習慣をこれからも末永く大切にしてほしいものです。



 7月14日(土)第3回 詩入門講座 
 無意識の自分と向き合う

 講師:内田 洋(『禱』同人)
 

真夏の陽光照りつける午後、第3回詩入門講座が開講されました。講師は、詩誌『禱』の同人、内田 洋(うちだ ひろし)先生です。まず、自分の詩を書きたいという受講者の希望を実現するために、その過程にある悩みや自問を語り合いながら講座を展開したいという基本姿勢を確認しました。

いきなり、とにかく、詩人であろうとなかろうと書き出してみよう。詩の言葉が降りてくるのを待つのではなく、悩みながら言葉になる前の泥の塊みたいなものをいじっていると、詩の輪郭が見えてくる(平田俊子・編『詩、ってなに?』小学館2016)という積極果敢に、真摯な追求を始める端緒として…
 ①    まず、自分の好き嫌いを書く
 ②    自分って、何者?意外に難しい自己紹介を書く
 ③    暮らしている町のことを書く        

                   ・・・という提案がありました。


 また、谷川俊太郎『谷川俊太郎の33の質問』(出版新社1980)から、
 ①    白という言葉からの連想を話す
 ②    自分にとって理想的な朝の様子を描写する
 ③    自分の人生における最初の記憶について述べる 
                          ・・・という糸口も提案されました。

                   

 

 鍬   前田 良雄

 

春出し鍬は楔を締め

湿りを与える

 

父の手鍬は父の仕事の角度

 

柄は握り手次第だ

握り窪みは父の百姓量

 

いつか一本の言葉となって

 

働き詰めのなかの歳かさね

百姓鍬を残して父は去った

 

野鴉は羽ばたき低く

おらの頬をかすめた

                   『いしかわ詩人』十一集より(2018.6)

 

人が生涯に亘って使いこなさなければならない道具との密接な関係を、端的に描いた作品です。自分がどんな仕事を経験したか、そこで得たものは何か。仕事や労働に関わってきた自分自身や仲間との出会い、人間関係の構築、個性や個別性の自覚などなど、仕事を題材とした詩の切り口に挑戦するのはどうでしょうか。

自分の知らない、無意識の自分が、自分の中に潜んでいる、としたら…そのもう一人の自分に向き合い追求することも、「何を描くか」の手がかりかもしれません。

次回(8月11日)から、受講者の皆さんによる詩作品の合評を柱とした講座です。担当は、井崎外枝子(いざき としこ)先生です。

新たな受講もまだ間に合いますので、ご遠慮なく当館までお問い合わせください。

(金沢文芸館 ℡076-263-2444)



 7月14日(土) 第3回小説入門講座

自分が自分の厳しい読者であること

 講師:高山 敏(『北陸文学』主宰)
 

 夏空が広がったお盆のこの日、午前中に第3回目となる小説入門講座が開講されました。講師は同人誌『北陸文学』主宰の、高山 敏(たかやま さとし)先生です。小説の推敲について、具体的な例を踏まえながら丁寧に解説していただきました。

 「推敲」とは、より正確で適切な文章表現となるように、点検や手直しをすることですが、最終的に作品の良し悪しは推敲で決まると、言っても過言ではないほどに大切な作業です。作者自身が、自分の作品に厳しい読者となって、納得のいくまで手直しする、という姿勢が不可欠です。

 

「推敲」の要点

①    常套句、決まり文句の使用を控える

「抜けるような青い空」「うららかな春」「一面の銀世界」など、使い古された決まり文句ではなく、自分が感じたことを踏まえて自分の言葉で工夫して表現する。

②    力みすぎない

うまい文、かっこいい文を書こうとする余り、大げさで独りよがりな表現に陥りやすい。

「不幸な人物に読者の同情(共感)を引くためには、できるだけそっけなく、冷酷に突き放して書くのがいい」(チェーホフ)

③    句読点に気を配る

打つべき箇所に打つ。作者の息づかい、心のリズムを伝える。

読点の打ち方で、意味が変わったり、あいまいになったりするので、要注意。

④    漢字と仮名のバランスを適切に

漢字:仮名=3:7 が理想という説もある。

まで、ごと、くらい、こと、なかなか、また、ため、はず、ほど、できる…仮名表記で

⑤    擬音や符号はむやみに使わない

オノマトペや()、“”、!、?などが多すぎると、文章の品格が落ちる。

⑥    言葉の癖が目立っていないか

ように、ような、みたいな、すごく、すごい、とても、なにか、かしら…

作者の日常言葉の癖が露見しないように

⑦    文章のリズム、流れに配慮する

改行ですっきり整理する。短文を重ねる。接続語を多用しない。文末の変化を。

⑧    曖昧な表現と断定的な表現

説得力のある文章を追求するなら、文末は断定的に。(だ、である)

含みのある心情を追求するなら、文末はやわらかく。(だろう、かもしれない)

⑨    書いた文章を繰り返し音読する

読みにくいところ、リズム、流れ、句読点、語尾表現…

さまざまな視点から、より性格で、適切な、豊かな表現を追求する

⑩    文の「ねじれ」に気をつける

主語・述語の適切な対応、修飾・被修飾はなるべく近い位置に置く

 

プロの作家さんにとっても推敲・校正作業は創作の完成度を高める上の重要な過程といえるようです。講座の中でも、作家さんが少なくとも5回程度、多い方では10回以上も書き直して漸く出版にこぎつけたというエピソードが紹介されました。

書きながら、気づいたところを順次手直しするという方法と、一応最後まで到達したところで、全体を見渡しながら矛盾の内容に修正・加筆するという方法とが紹介されました。入門段階では、この二つを併用するのが確実では、と感じました。

 

次回は8月11日(土)で、担当は小網春美(こあみ はるみ)先生です。お誘い合わせてご参加ください。



 7月8日(日) 第3回『朱鷺の墓』朗読会

 こんな笑い方をする人ではなかった

 朗読:髙輪 眞知子(朗読小屋 浅野川倶楽部代表)
 

 広島・岡山を中心とした広範囲に亘る豪雨による洪水・浸水と地盤崩落、土砂災害等で多数の犠牲者と甚大な被害が発生してしまいました。被災地の皆様に、心からお見舞い申し上げます。

 金沢では久しぶりの青空がのぞいた午後、第3回目(通算11回目)の『朱鷺の墓』朗読会が開催されました。今回も、朗読小屋・浅野川倶楽部代表の髙輪 眞知子(たかなわ まちこ)さんによる熱の籠もった朗読でした。

 

 ロシア革命後の政情不安定な状況が続く中、染乃とイワーノフ夫婦がナホトカで経営する中華料理店も閉店を余儀なくされます。そんな折り、染乃は日本軍のシベリア進出に伴い現地で実権を持っていた源田少佐から、自分の情婦になるか大金を支払って営業継続するかを迫られます。染乃が源田少将に金を支払う条件として、金沢時代からの馴染み客である北野洋三こと雁木機一郎を呼び寄せます。機一郎は染乃との短いやりとりから、窮地に立たされた染乃の状況を推察した上で、源田をその場で殺害します。殺させたのは自分だ、殺したのは自分だ、という深い自責の念にさいなまれる染乃ですが、源田の殺害が公表されないうちに、イワーノフ、機一郎とともにペテルスブルグに旅立つことを画策します。幸いにも料理店オーナーである張分国が十分な資金を調達してくれて、貨物船で出発するめどがつきます。(「風花の章15~17」)

 

  「あの源田の死体を、おれはあのままそこの空地に放り出しておいたのだ。だが、どうやらその張氏とやらが自分のグループの手下に片づけさせたらしい」

「そうかもしれません」

「それではおれも彼には世話になったことになる」

機一郎は唇を曲げて小さく笑った。

〈この人は―〉染乃はそんな機一郎の笑い方に心を衝かれるような気がした。

〈こんな笑い方をする人ではなかったのに〉機一郎は変わった、と、染乃は思った。彼女の知っている機一郎は、大きな声で、上を向いて笑う男だった。〈それが―〉それもこれも、みんな自分のせいではないか、と考えると、染乃は心がしめつけられるような自責の念に駆られた。

 

染乃がもう金沢時代の染乃ではないように、機一郎もこの10年の辛酸に満ちた生活を経て変貌していたようです。この後、舞台はイワーノフの故郷であるロシア・ペテルスベルグヘ・・・。波乱含みの展開はまだまだ続きそうです。どうぞ、ご期待ください。



6月28日(木)出前講座 金沢市立泉野小学校
ダンゴほどの、大きいたんこぶができたよ

 講師:吉國 芳子(「ひょうしぎの会」会員)

 朝方の強い雨で、金沢に大雨警報が出されたこの日は、泉野小学校にお伺いしました。昨年に続き、2年生(102名)の生活科で「金沢の民話を知ろう」の学習でした。講師は「ひょうしぎの会」会員の、吉國 芳子(よしくに よしこ)先生です。

 はじめに、金沢に伝わる3つの代表的な民話として、先生から「芋掘り藤五郎」「飴買い幽霊」「お銀・小銀」の概略が紹介されました。この日は、「芋掘り藤五郎」「だらむこさん」「宝船寺のネズミ退治」の3作品をお話いただきました。

 

「だらむこさん」(おだんごひょいひょい)

 むかしむかし、金沢のあるところに、ひどく物忘れのひどいおむこさんがいました。おむこさんは結婚してから初めて、お嫁さんの親の家に一人で遊びに行きました。挨拶もしっかりできたので、お嫁さんの父母もひと安心。おいしい団子をつくって、おむこさんを歓迎したのです。おむこさんは団子を食べるのが初めてです。うまい、うまいとたぁくさんの団子を食べて、もうすっかり満腹です。こんなにもおいしい団子という名前をわすれてはいけないとおもって、帰り道もずぅっと「だんご、だんご、だんご、だんご・・・」と唱え続けました。川を渡るときは、たくさんの飛び石を「ひょい、ひょい、ひょい、ひょい・・・」とかけ声をかけながら進むうちに、ようやく自分の家にたどり着きました。おむこさんは、さっそく「おぉーい、ひょいがうまかった。おまえもわしにひょいをつくって食べさしてくれ。」とお嫁さんにたのみますが、「ひょい、ってなんのこと。そんなもん、知らん。」と、そっけないので、夫婦げんかになってしまいます。もみ合ううちに、おむこさんがポカリとお嫁さんの頭をたたくと、大きなこぶができてしまいました。「なにするんじゃ。あんたのせいで、こんな団子ほどもあるたんこぶができたじゃないか!」とお嫁さんもかんかんです。「お、おお。そうや。団子じゃ。ひょいじゃなくて、団子。その団子を作ってほしかったんじゃ!」とおむこさんが、正しい名前を思い出したので、二人はようやく仲直りしました、とさ。

 

 子ども達は、メモをとりながら熱心に耳を傾けて、楽しんでくれました。今日のお話に出てきた中央通町の宝船寺や兼六園の金城麗澤なども、機会があればご家族とともにぜひ訪ねてみてください。

お話会の終わり頃には、雨もやんでいました。また、秋にお伺いする予定です。



6月24日(日) 第1回『フォト&五・七・五』合評会
思い出の一瞬に言葉を添えて

 講師:中田 俊樹(俳人)

 『フォト&五・七・五』は今年で6年目(今回で通算11回目)を迎えました。すっかり常連としてご応募くださる方にはもちろん、新鮮な挑戦に踏み出した方、この展示を楽しみにしてくださる心強いファンの皆さんに支えられてきたことに、感謝いたします。講師である俳人の中田敏樹先生にも力作をお寄せいただきました。15名のご応募の中から、この日参加された8名の皆さんの40作品について、それぞれ簡単な解説をいただきながら作品を鑑賞しました。

  

  力車と舟まよう間にも日盛り     力車か舟かまよう間にも日の盛ん

  *マレーシアのペナンにて、色鮮やかな旅より。「力車」は人力車。

 

  散ってなお庭を賑わす菊桜

  *尾山神社の境内にて。枝ではこれから散る桜、地面には散った桜。

  薫風やさんざめきたりギンリョウソウ

  *卯辰山にて。花の楽しげなさざめきが心地よい。

 

  大雪に耐えて輝く細い綱

  *兼六園の雪吊りを明確にしてもよい。

  加賀鳶や粉雪散らし空に舞い     加賀鳶や粉雪熱し空に舞う

  *新春、金沢城内の出初め式。熱さ、心意気を強調する。

 

  北国の足が気になるモデル達

  *北国フォトクィーンの撮影会。伸びやかな足(脚)の美しさにフォーカス。

  

  万緑や鳥居くぐりてこうべたれ    

*「万緑」は画像から伝わるので、「日用のこけ」に。

傘寿の日ガーベラ添える夕餉卓

*卓に置かれたガーベラの色鮮やかな競演。

 

美女ランク上がる吹雪の赤い傘

*白の世界に映える赤の鮮烈さ。雪国のロマンが漂う。

蹲踞(つくばい)の紅葉に混じる一ユーロ

*1ユーロ銅貨を意外な場所で見つけた驚きと喜び。

 

色仲間春呼び寄せる福寿草

*蒲公英、山茱萸、万作など、春先に多いそれぞれの黄の花に魅せられて。

 

シャガの花倶利伽羅谷の深緑

下がり藤平家の奢り戒めて

花屑の乾ききったる古戦場

*講師・中田先生の作品より。古戦場に巡ってきた春から夏の華やぎと厳粛と。

 

時節柄、展示コーナーは『百花繚乱』の賑わいで、たくさんの方に楽しんでいただきました。した。次回(第2回)は、10月の募集を予定しています。写真と言葉はお二人の合作でも結構です。思い出の写真に、5・7・5を気軽に添えていただくことにして、・・・。    
 秋にも、皆さんからのご応募をお待ちしております。



6月20日(水)出前授業 金沢市立米泉小学校

「金沢の偉人」って、こんなにもたくさんいる!

 講師:竪畑 政行(石川県児童文化協会理事長)

 朝まで降り続いた雨がようやく上がったころ、金沢市南部の伏見川沿いに位置する米泉小学校をお訪ねしました。4年生の総合的な学習の時間で「金沢の偉人を知ろう」をテーマとする出前授業を実施しました。講師は『かなざわ偉人物語』執筆者の、竪畑 政行(たてはた まさゆき)先生です。

 竪畑先生が30年以上前の、この学校が創立して間もない頃にお勤めだったというお話を聞くと、65名の皆さんの集まった部屋全体が柔らかなムードに変わったような気がしました。

 

 まず、「マッチ箱」「書道の筆」「牛乳パック」の3つが先生から示され、「金沢の偉人と関係あるかな」「関係があるとしたら、どんな関係だろう」をいう課題が提示されました。「マッチ一本火事のもと、という言葉をつくった人」「初めて牛乳を飲んだ人」など、子どもたちは、それぞれ考えを出し合い予想を立てていきます。それを確かめる資料が配られ、先生から解説されました。「マッチ箱」は日本で初めてマッチ工場を起こした、清水誠。「筆」は仏教を広めるとともに書道家として知られた、北方心泉、「牛乳」は金沢で初めて牛乳を広めた、水登勇太郎でした。

 次は、15人の偉人とその業績をさぐる「わたしは誰でしょう」クイズでした。子どもたちは40名の偉人について紹介したプリントの難しい漢字や言葉に苦戦しながらも、友達と協力してどんどん問題を解いてゆきました。10分ほどで、全問正解に到達した子もたくさんいました。

 最後のゴールでは、これから調べたいと思う人をそれぞれ選んで発表しました。これから7月にかけて、調べ学習を進めていくそうです。図書館の『かなざわ偉人ものがたり』を活用して、金沢の偉人についての理解を深めて、まとめの段階では本多町の「かなざわ偉人館」を学年全員で見学する予定だそうです。

 

皆さんが立派な成果にたどり着いて、たくさんの金沢の偉人を身近に感じてくださることを願っています。



6月16日(土)第2回 小説講座

仲間の意欲や情熱を自分に取り込む

 講師:正見 巖(『北陸文学』同人)


 午後から、第2回目の小説講座を開講しました。講師は、『北陸文学』同人の正見 巖(しょうけん いわお)先生です。「小説の実作について①」と題して、具体的な創作のポイントを軸に、先生が経験された興味深いエピソードもお聴きしました。

 まず、作家が実際にどういうきっかけで小説を書き出すかというと・・・

*新しい原稿用紙に自分の名前を書き込むこと

*自分が言いたい一つの言葉(テーマ)があり、その場面を決めて前後を組み立てる

*一枚の写真を見つめ、そこから沸き上がる情景・イメージを描く

*友達と何気ない会話をしている最中に、話題とは全く別な何かが湧いてくる

――など、様々なケースがあるそうです。それぞれの作家がそれぞれに決まったスタイルにこだわり、大切にしていることがわかります。

 

*実作のためのポイント

1.主人公を早い段階で登場させる。

作品の冒頭がよいが、なるべく味わいのある文章、簡潔な中にもその人柄や背景が伝わるように工夫する。

2.時間・場所を示す。

設定した場面に主人公を放り込む。また、プロット(筋書き・構想)を練り上げる。

3.作品のテーマ

最初から出さない。途中で一般論を入れない。

4.情景描写・風景描写

無駄な情景は不要。説明ではなく、描写で読者に必要な状況を伝える。

登場人物の心理・心情を反映させる。 物語の「伏線」を敷く。

5.主人公に対置する人物設定を

反目、衝突するライバルとの葛藤により、主人公を際立たせる。

ストーリーに深みが出るための人物や環境を設定する。

6.異性を登場させる

男女の関わりによって作品に彩りを加える。

7.主人公の職業に精通する

自分の体験を活かす、取材・調査・研究することで現実味ある世界を描く

 

「作家は欺瞞を商う者である」と言われるほど、欺瞞(虚構)は小説にとって不可欠です。ただし、いくら欺瞞・虚構と言っても本当らしい嘘である必要があります。作品の中核が「体験に基づく真実」であり、その外側を厚く包み込むものが本当らしい、真実みのある「虚構」と言えます。この虚構が大きく、豊かであるほど味わいのある面白い作品につながるのではないでしょうか。

正見先生が『北陸文学』の同人に誘われて参加したのは、定期的な会合を通して伝わってくる会員(同人)の創作意欲や情熱を自分自身の執筆の刺激にしたい、との思いからだったそうです。

この講座でも同じような仲間の情熱や先生からの助言や激励が、受講生の皆さんにとって前向きな刺激となることを願っています。

 

 次回は、3名の講師の皆さんとともに「掌編作品」の合評を予定しています。多数の皆さんのご参加・見学をお待ちしています。



6月16日(土) 第2回 俳句入門講座

「期間」や「経過」ではなく、『その瞬間』を捕らえる

 講師:野村 玲子(『あらうみ』同人・石川県俳文学協会常任理事)

 

 穏やかに薄陽の射すこの日、第2回目の俳句入門講座を開講しました。講師は前回に続き、俳誌『あらうみ』同人の野村 玲子(のむら れいこ)先生です。11名の受講生の皆さんからお寄せ頂いた作品を読み合わせして、それぞれの作品の長所や特色に注目したり、先生からの添削やアドバイスを頂いたりするという内容でした。

 

 更衣三日ばかりを若やいで     更衣袖を通せば若やぎて

 *俳句では「瞬間」を詠むのが基本。

 

 風薫るブナ林巣穴に赤翡翠(あかしょうびん)  風薫る巣穴いくつもブナの幹

 *題材を詰め込みすぎない。

 

 朝靄の七つの尾根七尾城      夏霞七尾城址の尾根七つ

 *「朝靄」は季語にならない。語順にも工夫して。

 

 梅雨寒の着る服迷う散歩かな    梅雨寒の散歩の服を着迷うて

 *類語を工夫してすっきりと

 

 青い空赤いトマトを3箇採る    空青し真っ赤なトマト三つ採る

 *トマトの赤を強調する。

 

 黒南風や白い露草凛と咲く     黒南風や白露草の凜々と

 *助詞の工夫で表現を引き締める。

 

 夕暮れて紺青光る梅雨の間     夕暮れの気配紺青梅雨晴れ間

 *何が紺青なのかを、読み手にわかりやすく。

 

 梅雨晴れの学童の傘チャンバラに  学童の傘でちゃんばら梅雨晴るる

 *情景がわかりやすい佳作。ちゃんばらは平仮名で。

 

 雨粒に見え隠れして水馬      橋の上にアングル定め杜若

 *どちらも情景が生き生きと浮かぶ佳作。

 

 坊守りの植えし額花石段に       石段に坊守植えし額の花

 *「坊守」「額の花」の表記を適切に

 

 友が逝く幼な児案じ梅雨の朝      五月雨や友の遺せし児を案ず

 *「逝く」は過去形に。「遺児」を表記に含ませる。

 

 謳歌する書斎の内を一匹の蚊      一匹の蚊に領されし書斎かな

 *「謳歌」は大げさ。類似表現を工夫して。

 

 水面をステージの如輪舞する      水面をステージの如水馬

 *季語を交え、輪舞する主体を明確に。

 

 藩侯の雄々しき入場梅雨間近

 *無駄がなく、力強い漢語を駆使した佳作。

 

 床に映え心にしみる青もみじ      実相院広縁に映え若楓

 *実名を入れて具体的に。「青もみじ」は季語になし。

 

 全般に作品のレベルが上がったと、先生からも褒めて頂きました。今回は、仮名遣いや表記、読み仮名などについての質問も次々に飛びだし、受講生の皆さんの意気込みが伝わってきました。俳人・稲垣汀子さんの「俳句の作り方~⑩のないづくし~」を意識して、次回も果敢に挑戦して頂きたいものです。

 

①    上手に作ろうとしない     ~飾る言葉に惑わさずに

②    難しい表現をしない      ~平明さを追求する

③    言いたいことを全部言わない  ~省略で余韻をのこす

④    季題を重ねない        ~一つの季語を活かす

⑤    言葉に酔わない        ~独りよがりを避ける

⑥    人真似をしない        ~自然にうかんだ言葉を大切に

⑦    切れ字を重ねない       ~「や・かな・けり」句に一つ

⑧    作り放しにしない       ~作品を何度も見直す

⑨    頭の中で作り上げない     ~実際に五感で触れたものを

⑩    一面から物をみない      ~角度を変えて広がりを求める

 

次回(第3回・最終回)は「句会」の要領で、受講生の皆さんが兼六園で取材した吟行句を紹介し合う予定です。定時より早めの、午前10時15分から開講します。力作を期待しております。

 



6月9日(土)第2回 詩入門講座

この長い沈黙は何だろう

 講師:杉原 美那子(『笛』同人)

 午後からは、詩誌『笛』同人の杉原美那子(すぎはら みなこ)先生を講師にお招きして、第2回目の詩入門講座が開講されました。「何を どう描き どこまで描くか」をテーマとした作品鑑賞でした。

 

1.北川冬彦の作品における比喩表現

 

  馬

軍港を内蔵している

 

  戦 争

義眼の中にダイヤモンドを入れて貰ったとて、何になろう。

苔の生えた肋骨に勲章を懸けたとて、それが何になろう。

 

腸詰めをぶら下げた巨大な頭を粉砕しなければならぬ。

腸詰めをぶら下げた巨大な頭は粉砕しなければならぬ。

 

その骨灰を掌の上でタンポポのやうに吹き飛ばすのは

いつの日であらう。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

西洋剃刀の刃は透明な飴棒である。舐めてみると、瞬間、唇は

稲妻のやうに切り落とされた。これは素敵な清涼剤だ

 

*大胆で繊細で意外性のある比喩によるイメージの広がりに注目)

*修辞法の中では、「比喩表現」が決め手になる!

 

2.言語・漢字からの発想 

 

――― 海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。

そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。

               (三好達治「郷愁」より)

 

母は

舟の一族だろうか。

こころもち傾いているのは

どんな荷物を

積み過ぎているせいか。

 

幸いの中の人知れぬ辛さ

そして時に

辛さを忘れている幸い。

何が満たされて幸いになり

何が足らなくて辛いのか。

               (吉野 弘「漢字喜遊曲」より)

*注意深く見つめて気づき、見つけ出すこと、

*個性的・独創的な発見を核にして発想を膨らませる大切さ

 

3.どこまで描くか、どんなかたまりを描くか

 

私たちの鏡は破壊され

限りない悲嘆にくれた

われわれは声のかけらを集めたが

祖国の挽歌しか歌えなかった

(マフムード・ダルウィーシュ 池田修訳)

*ダルウィーシュはパレスチナの国民的詩人。

 祖国を一つの「かたまり」として現状や悲哀を詩に詠み込んでいる。

 

しずかに

語りはじめた人

かける三歳半字は書けない

語ることができる

 むかし こわい

そういうお話は嫌い

楽しいお話をして

 はちさん ねねのぴあの おともだち

 はっぴょうかい おはな はくしゅ

 

怖いお話もちょっとして

 あらし かぜさん はっぱ

きのうの春の嵐のこと?

 みんなこわれてしゅうりができないではっぱがしんで

 きょうりゅうのほねがみんなをたべて

ほおー恐竜の骨がですか

 そうだよきょうりゅうのほねにじじがたべられて

 ねねがたべられて

ママは?

 ままはたべられないでばばはたべられて

パパは?

 ……

 ……

この長い沈黙はなんだろうか

こわいおはなしもうしない

 

三歳半わらしの顔が曇った

夕立つ前 冷たい風が吹いて

座敷に立ちつくす子は

ちいさくふるえて語った

終章を捕まえて

ぴーたーらびっとしあわせはなかった

           (細野傳造「ぴーたーらびっと」より)

*どこまで描くか(描かないか)?

 パパへの沈黙が意味するもの。

 ピーターラビットが持つ、静かさ・憂い・深い森…。

 子どもが持つ、無邪気さ・残酷さ・不思議さ、直感…。

 

現代詩に限らず、詩作品の言葉やテーマを「解釈・鑑賞」する可能性や意味について、改めて考えさせられる講座でした。豊かなイメージの帆を張る、魅力を秘めた優れた作品がある一方で、解読・解釈することが困難な作品もあります。作者の感じ方を追求するとともに、読者自身も感性を磨き、受講を通して互いに謙虚に、また貪欲に学び合う姿勢を大切にして、自らの詩作につなげたいものです。

 

第3回(7月14日)の担当は、詩誌「禱」同人の、内田 洋(うちだ ひろし)先生です。お誘い合わせてご来館ください。講座の見学もお待ちしております。



6月9日(土) 第2回 小説入門講座  

身近なところから『心を打つもの』を集める

講師:小網 春美(『北陸文学』同人)

 「ストーリーをつくる」をテーマとして、第2回小説入門講座が開講されました。講師の小網春美(こあみ はるみ)先生は、同人誌『北陸文学』の最新号(4月刊、82号)に、「しずり雪」と題する百余枚の力作を発表されました。

 受講者は20名の定員に到達する盛況ぶりで、皆さんの創作に対する静かな情熱が伝わってくるような時間でした。

 

 1.小説とは「人間」を描き出すもの

【資料】小川洋子「人間の哀しさ」(随筆)より
(「私」は片足の不自由な野菜売りのおじいさんが、うまく自転車に乗れずに雨の中で自分をあざけるように弱々しく笑う場面に遭遇する)

私は夜、その光景を繰り返し思い浮かべて泣いた。泣くことが一番ふさわしいわけではないと分かっていたが、他に気持ちを表現する方法を知らなかった。単純にかわいそうに思ったからではない。手助けすべきだったのにと後悔したわけでもない。もっと根源的な感情を揺さぶられた気がした。(中略)彼の片足を覗き穴にして、私は人間の存在そのものの哀しさに触れた。そしてつまりは、自分が抱えているみすぼらしい部分に気づいてしまったのだ。おじいさんはどうにか自転車にまたがり、よろよろしながら遠ざかっていった。私はいつまでも窓の外から視線を動かせなかった。(中略)

自分が今目にしたものは何だったのか。当時は見当もつかなかった。やがて私は小説を書くようになった。涙の代わりをしてくれる表現の方法を、ようやく見つけた。書くことに迷いを感じるとき、野菜売りのおじいさんを思い浮かべる。自分にとっての小説の意味が、あの日に隠されているような気がするからだ。

 

2.失敗を怖れないこと

【資料】村上春樹「僕にとっての短編小説」より

 ○短編小説を書くことは、純粋な個人的楽しみに近い

 ○頭の中にある一つの断片からどんな物語が立ち上がるか、その成り行きを眺め、それをそのまま文章に移し変える。

 ○鋭い集中力と豊かなイマジネーションが要求される!

 ○短編小説を書くときは失敗を怖れない。前向きの失敗ならば、先につながる。 

 

3.ストーリーをつくるポイント

 ①過去の屈折した体験(病気、死別、挫折、家族関係、不条理)にアクセスする。

 ②積極的に人や情報とふれ合い、題材やテーマを探す。

 ③自分の内にあるイマジネーション(想像力)を掘り出す。

  …経験・知識(現実)と想像力(フィクション)を絡み合わせる

 ④『山場』をつくることは大切だが、「起承転結」に縛られないこと

…深いところに潜む不条理、ハプニング、意外性のある展開を。

 ⑤誰の視点で書くか、ぶれないこと。

 ⑥斬新さよりも、自分の個性を前面に出す。

 

 このほかにも、書けないときは「人間観察」をして、創作に活かす。日頃から,身の回りの様々な事象、人、物、映像、言葉に気を配り、『心を打つもの』を自分に取り込んでいく。また、つらくても、うまくいかなくても、一旦書き出すと、書く状態に入り込むことができて習慣化されることもある。そういうよい流れ(状況)を作る。・・・小網先生の実作者としての豊かな経験をもとにした貴重なアドバイスを頂きました。

  

  第3回は7月14日(土)、「推敲について」。高山 敏(たかやま さとし)先生が担当されます。



 6月5日(火)出前講座 金沢市立大徳小学校

 秋声・鏡花・犀星は、三人とも金沢の川とつながっていた

 講師:藪田 由梨(徳田秋声記念館 学芸員)
 

 30度近い暑い日になったこの日の午後、出前講座で大徳小学校に訪問いたしました。4年生の162名の皆さんを対象に、「金沢の三文豪を知ろう」をテーマとした講座でした。講師は徳田秋声記念館の藪田由梨(やぶた ゆり)学芸員さんです。

 校長先生のお話では、大徳小学校は明治6年に創立した学校で140年を越える歴史を積み重ねてきたそうです。明治6年と言えば、三文豪の一人である泉鏡花が生まれた年に一致します。校長室には、明治初期からの校長先生の写真が整然と飾られていました。

 

 体育館を会場にした講座では、「金沢の三文豪」=「金沢で生まれ育った、三人の、とても偉くて立派な、小説や詩を書いた文学者」という確認から始まりました。徳田秋声(とくだ しゅうせい)、泉鏡花(いずみ きょうか)、室生犀星(むろう さいせい)のそれぞれの作家が生まれた場所、作品の特徴や人柄などが、具体的にわかりやすく説明されました。子どもたちは、それぞれのワークシートに名前や、浅野川・犀川を書き込んだりして、熱心に学習していました。

 徳田秋声は、身近なふだんの生活をそのまま書く作家で、ダンスが好きなおしゃれな人だったこと。泉鏡花はその正反対で、心の中の想像や幻想などのファンタジーを書いた作家であり、ウサギが大好きでウサギの置物や小物を沢山集めていたこと。秋声と鏡花は浅野川の畔に生まれましたが、室生犀星は犀川のすぐそばに生まれました。詩人であり、小説家でもあり、自然や世の中の様々を美しい言葉で描くところが特色です。また、犀星は庭づくりをはじめ草花や小さな虫などを育てることにも関心が強かったそうです。

 お話の最後に、三文豪の作品が紹介されました。幅広く人々に親しまれている、室生犀星の詩です。

 

    犀  川

うつくしき川は流れたり

そのほとりに我は住みぬ

春は春、なつはなつの

花つける堤に坐りて

こまやけき本のなさけと愛とを知りぬ

いまもその川のながれ

美しき微風ととも

蒼き波たたへたり

 

これから、4年生の「総合的な学習の時間」では、三文豪を含めた金沢の偉人についての調べ学習が始まるそうです。この日の講座のように、瞳をキラキラ輝かせて友達と力を合わせて取り組んでくださることを期待しています。



6月3日(日)第2回『朱鷺の墓』朗読会

強く、勇気ある女として、どんな選択をすべきか

 朗読:髙輪 眞知子(朗読小屋 浅野川倶楽部代表)
 

 恒例の「百万石まつり」の最終日を迎えたこの日も、前日に続き素晴らしい好天に恵まれました。午後から、五木寛之原作『朱鷺の墓』の朗読会が開催されました。朗読は、朗読小屋・浅野川倶楽部代表の 髙輪眞知子(たかなわ まちこ)先生です。

 

 1917年ロシア2月革命の後、レーニンが共産党ボルシェヴィーキを指揮して武装蜂起して、ソヴィエト政権の樹立を宣言しました。翌年1月、日本政府は居留民保護の目的でヴラジヴォストークに二隻の軍艦を派遣するなど、源田少佐の予言した日本軍のシベリア進出が具体化しつつありました。これに伴い、英国、仏国、米国、中国なども戦艦を送り込んで、ヴラジヴォストークは騒然たる状況で緊迫していました。ナホトカの中華料理店の共同経営を任されて順風満帆に見えた染乃とイワーノフの生活は一転して、危険にさられてしまいます。シベリアに上陸した日本軍は、赤軍、革命派への猛烈な攻撃でシベリアを制圧してしまいます。

 源田少佐は東園の染乃に、店を日本軍の将校用のクラブにするという便宜を図る一方で、雁木機一郎に反体制的な思想からの転向を促す手紙を書くように命じます。染乃はイワーノフと相談の上、偽りの改心を迫るように見せかける手紙で、機一郎を獄中から救い出す計画を実行します。機一郎はその手紙の真意を汲み取る一方で、検事の意向を呑み、雁木機一郎は死んだものとして、「北野洋三」という別人として生き延びて、ようやく染乃との再会を果たします。そんな染乃は源田少佐から自分の情婦になるように誘惑されます。そうすれば、イワーノフも、店も、染乃自身も安全は保障されるという駆け引きでした。染乃は深い煩悶に落ちます。

 

 〈戦うしかない〉朝方、染乃はそう考えた。もう戦うしかないのだ。ここで相手の言うなりに体をまかせて軍人の情婦になる位なら、死んだほうがいい。〈だが死ぬほどの覚悟があれば、どんなことだってできる〉染乃はそう考えた。昔の自分だったら、運命の手に逆らわずに押し流されることを選んだかもしれない。だが、今はちがった。染乃はこの年月の間に、もっと強い、勇気のある女になっていた。(…中略)

〈自分が手を汚せばいいのだ。地獄におちても、それでいい〉染乃はそう考えて、心を決めた。道はひとつしかないようだった。源田少佐の脅迫に屈服して、彼の前に自分の体を差出すか、それともそれと戦うか。もしそうでなければ、イワーノフを失うことになる。そして、今の染乃にはイワーノフとの生活を抜きにして、生きている意味はなかった。…〈あたしはこの人と一緒に生き、一緒に死ぬ〉染乃はそう心の中で誓い、思わず涙を流した。その涙は人間が生きて行くために、さけることができない暗い道を歩む決心をした染乃の、魂の底からにじんだ苦い涙だった。

 

革命の勃発により各国の利権がせめぎ合う厳しい渦中で、窮地に立たされる染乃はここでどんな生き方を選択するのでしょうか。穏やかな日々はもう戻って来ないのか…。

次回(7月8日)も、ぜひご参集ください。



5月19日(土)第1回 小説講座

「突き抜けた」表現を目指して

 講師:剣町 柳一郞(小説家)
 
 午後から、第1回小説講座を開講しました。この小説講座は、過去に何らかの創作を体験した方を受講対象として、さらに表現力を磨き、創作実践の力量を高めることを目指しています。月例で開講する8回の連続講座のうち、第3回(7月)、第7・8回(11月・12月)は受講者作品の合評会です。

「短編小説の魅力」をテーマとした今回の担当は、作家の剣町柳一郞(つるぎまち りゅういちろう)先生です。先生のこれまでの創作活動を通した実感とご準備頂いた資料をもとに盛りだくさんの展開でした。資料や話題の一部をご紹介します。

 

1.短編小説を書くにあたって

①    短編小説の魅力・特徴

テンポと展開の速さが心地よい 無駄なセリフ・説明がない

とりわけ結末が大事 物語が繊細すぎると縛られる

水彩画をスケッチを描くように 盛り込む内容を欲張りすぎない

②    創作上のポイント

登場人物の面白さ・興味を創出する 人間描写を的確に

  アイデアは平凡な日常にある

  アイデアから作品へ:創作ノートを活用 全体の見直しと肉付け

  取材がベース:現地・現場の匂い、声、環境・背景、小道具など

  説明よりは丁寧な描写を優先 観念性(抽象)を避けて具体的に

  登場人物:背後に作家の人間観・生命感 リアルな言動を

  比喩表現:文章に溶け込み共感できるように 「厚み」を加える

  悪役の存在:主人公に対峙、脇役に伏線を張ると効果的

③    創作の姿勢

書き続けること 楽しみながら、のびのびと書くこと

客観性を保つために、第三者に読んでもらい手直しする

感情の起伏を丁寧に 五感を通した言葉で伝える

推敲で作品全体を見直す 「ねかせて」後に、削る

到達点は『突き抜けたもの』!…「上手」「行儀よい」を越える

 

2.作家たちからのヒント

①    村上春樹:一人で食べるカキフライはおいしいけど、寂しい。寂しいけどおいしい。孤独と自由の関係のように永遠に循環する。…自分が小説を書いていると思うと頭が重くなるけど、カキフライを揚げているんだと思うと、楽になる。

②    角田光代:私が書きたかった闇は、絶望ではなく寛容な世界に繋がっている。…日常生活の中に、まだ誰も書いていないものが絶対にある。

③    馳 星周:ストーリーの引き出しはいっぱいあったほうがいい。引き出しを増やすのは読書量である。

④    中島京子:小説にどれだけの奥行きを持たせられるか。…『過去』(経験した奥行きの中)に小説のおもしろさを探ることができる。

⑤    川本三郎:普通の言葉で書かれたもの…自分にしか書けない世界を平易な言葉で。

 

講座の終盤には、角田光代さんの短編集『さがしもの』(新潮文庫)に収録された「不幸の種」について感想を交流し、その無理のない筋書きや受け入れやすい登場人物、多彩な文末表現、不幸の種の位置づけの巧みさ、読者を飽きさせない展開など、人気作家による小説の豊かさ、確かさについて共有することができました。よい作品に触れてしっかりと感じ取り、創作に活かす姿勢をこれからも大切な習慣にしたいものです。

 

次回は、6月16日(土)午後3時開講予定です。見学や傍聴もできますので、お気軽にご来館ください。



5月19日(土)第1回 俳句入門講座

自分が感じたことを最優先に!

 講師:野村 玲子(石川県俳文学協会常任理事)

 俳句入門講座では今年度から新たな講師として、野村玲子(のむら れいこ)先生をお迎えしました。野村先生は金沢市内に在住で、俳誌『あらうみ』『ホトトギス』等の同人であり、県俳文学協会常任理事としてもご活躍中です。昨年度11月には、句集『雪月夜』を刊行されました。

 今回の初回講座では、前もって12名の受講生の皆さん全員からの作品をお送り頂き、その作品を順次読み合わせ、鑑賞しながら俳句づくりのポイントを探るという内容でした。話題になったアドバイスや添削例などをご紹介します。

 

  和漢薬商う老舗軒つばめ

  *実際の情景が見えてくるような佳作。

 

雪解けのツツドリ来る医王山    ツツドリや雪の消えたる医王山

  *「雪解け」と「ツツドリ」で季節が分かれることに注意

 

  それぞれにどこに泳ぐか五月空   それぞれにどこに泳ぐか五月鯉

  *「鯉のぼり」を明確にする。

 

  寒夜からプッチーニに入り浸る   寒夜からプッチーニを聴き浸る

  *「に」は説明的に陥る。用語を適切に。

 

  雪割草に風に薫るや帰り道     海風を頬に雪割草の道

  *「風薫る」は季語。語順に工夫を。

   

  春の暮子羊見送る二人かな     育てたる子山羊見送る春の暮れ

  *子山羊への思いが際立つ語順で。

 

  若葉摘み松の形に我が思い     枝振りに我が思いありみどり摘む

  *我が思いを込めた剪定作業であることを強調する。

 

  耳よせてゆかしき姿杜若      耳寄せて開く音聴く杜若

  *「耳」で「聴く」の流れを軸にする。

 

  色違う蝌蚪さがせば春来たり

  *「蝌蚪」(オタマジャクシ)と「春」の重なりを避けたい。

 

  倒木に新芽顔出し力湧く      倒木の芽吹いておりし力かな

  *「力」を倒木にも作者にも共有する表現で。

 

  茶筒にはまだ古茶の残りおり     茶筒にはまだ古茶のあり新茶来る

  *中句「まだ古茶の」字足らずを解消する。

 

  お日様を浴びてアスパラ顔を出し

  *「アスパラ」でなければならない特色を見いだす。言い過ぎない。

 

  百年の孤独噴き出す寒椿       魂は切り刻まれて大晦日 

  *積み重ねた思いの表現。どちらも個性的・独創的で興味深い。

 

 先生からは俳句の入門期の皆さんへ、次のような全般的なアドバイスを頂きました。

①    「歳時記」に親しむ

どんな季語(季題)があるか、どんな作例があるか。その解説を丁寧に読んで少しでも理解することが上達につながる。

②    雑記張を持ち歩く

外出先、旅先などで思いついた言葉をメモしておく習慣をつける。メモをもとにして俳句を完成させることができる。日記の延長のような感覚で、気軽に。

③    まず、自分が感じたことを中心にする

季語はあとからでもよい。はっとしたこと、驚き・発見などが俳句の核になる。

見たり、触れたりした実感を柱にする。便利な言葉、月並みな言葉は避ける。

④    語彙力を広げる

「歳時記」に限らず、違う表現・別の表現に挑戦する。「多作多捨」(たくさん作り、たくさん捨てること)を心がける。

⑤    読み返して手直しする

独りよがりで自分だけがわかる表現は避ける。時間をおいて何度でも手直しする。

 

次回・6月16日(土)は「梅雨」「アメンボウ」の題詠を中心とした講座です。積極的なご参加をお待ちしております。

 



5月13日(日)第1回 『朱鷺の墓』風花の章~愛怨の章朗読会

料理店主となった染乃に、ようやく平穏な日々が

 朗読:髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部 代表)

 
 昨年度に続き、五木寛之原作『朱鷺の墓』朗読会を開催します。今年度は「風花の章」11から「愛怨の章」の終末までの8回分(5月~12月)を読み進める予定です。朗読は、朗読小屋・浅野川倶楽部代表の髙輪眞知子(たかなわ まちこ)先生です。

 昭和43年春から『婦人画報』に連載された長編小説『朱鷺の墓』は、金沢を舞台とした五木さんの代表的な作品として知られています。

 金沢・東の廓で若手の人気芸妓だった染乃がロシア人将校のイワーノフと恋に落ち、ロシアやヨーロッパの街を流転する歳月を送ります。不思議な出会いや数奇な運命に翻弄されながらも、様々な苦難を乗り越えてたくましく、美しく生き抜く壮大な物語です。

 
* * *

【これまでのあらすじ】

主な登場人物

染乃:金沢、東郭の芸妓。暴動の最中、イワーノフに助けられたのをきっかけに結婚。

イワーノフ:ロシア人将校。日露戦争の捕虜として金沢に迎えられる。

雁木機一郎:染乃の幼なじみ。織物工場の跡継ぎながら、政治活動のため出奔する。

石河原大尉:金沢のロシア人捕虜収容所の所長。

花田屋:染乃に惚れていた金沢の旦那。

笵少年:ウラジオでの染乃の客、周からの手紙を届けた中国人の少年。以後、染乃と行動を共にする。

 

<空笛の章>

明治38年。芸妓である染乃は、日露戦争の捕虜将校一団をもてなす慰安会で笛を披露することとなる。しかし会に反感を持った市民たちは暴徒化した挙げ句に公爵カンタクージン大佐へ投石し、染乃も襲われそうになったところをイワーノフに助けられる。この一件に立腹した大佐に「ロシア人に襲われた」という嘘の証言をするよう石河原大尉は染乃と養母ハツに迫るが、二人は拒否し、ハツは自害する。

責任を感じた大尉はカンタクージン大佐へ全てを正直に打ち明け、許しを得る。染乃はイワーノフと再会して愛をあたため、夫婦となることを誓う。日露戦争終結後、必ず迎えに来ると誓い、イワーノフは一時帰国する。石河原大尉や機一郎と共にイワーノフの船を見送る染乃だったが、花田屋の旦那がけしかけた男達に突然連れ去られ、遊郭へと売られてしまう。

 石河原大尉、機一郎は手を尽くして染乃を探し出すが、染乃はすでに異郷の花町で「春太郎」として生きていた。助けを拒絶する染乃を振り切り、機一郎は染乃を連れ出す。

 平穏な日常へと戻り、事情を知らぬイワーノフとも再会できた染乃だったが、脳裏に浮かぶ辱めの記憶に苛まれる。染乃は川へ身投げしようとするが、不思議な男に引き止められて家路につく。しかし待っていたのは染乃を遊郭へ売った北前の徹だった。機一郎を人質に取られた染乃は再び娼妓として売られ、ウラジヴォストークへ向かうこととなる。

<風花の章(10まで)>

 ウラジヴォストークで娼婦として働き始めてから、三年が経っていた。染乃は自らの死を覚悟した諜報員で、客の一人であった周より日本円と手紙を受け取る。手紙には、イワーノフがイルクーツクの政治犯収容所にいることが記されていた。染乃は前借金を精算し、手紙を運んできた笵少年と共に旅立つ。

 収容所ではイワーノフが重労働に従事させらていた。染乃と笵は、収容者の家族の小屋が建ち並ぶソールスコエの村で、息子の帰りを待つ老女の家に同居することとなる。凍てついたロシアの大地で生活する中で、染乃にとって笛はなくてはならないものになった。

 五度目の秋、ついにイワーノフが収容所から解放される。抱き合う二人だが、笵少年は姿を消していた。

翌年に移ったウラジヴォストークで、染乃は馴染み客の貿易商人と偶然再会する。彼の紹介でナホトカの中国料理店・東園に夫婦で住み込みで働くことになる。その働きぶりを評価された二人は、ようやく穏やかな生活得るのであった。安らぎの中、イワーノフは仲間を裏切って出獄した自分が幸せに浸る苦しみを吐露する。染乃もまた遊郭での暗い記憶に苦悩していたが、過去を切り離し「今その瞬間」だけを信じるよう努める。

 そんな最中、東園の主人は染乃に新店舗の経営を持ちかける。東園で働く染乃の評判を聞いた笵少年は、若者らしく成長して染乃の元に戻ってきた。静まり返った夜の店内で、イワーノフ、笵少年、染乃の三人は自由な新しい生活への希望を語り合い、染乃は久しぶりに笛を持つ。その笛の音は、三人それぞれの感慨を呼び起こしていった。


* * *

 染乃とイワーノフは知人である張文国の紹介と好意的な処遇を得た上、適切な接客態度や誠実な人柄が評判となり、ナホトカの中華料理店主としてようやく落ち着いた生活を送ります。かつて染乃とともにイルクーツクの寒村で苦楽をともにした中国人・笵少年もコックとして加わり、三人が共に働くことになります。

 染乃の新しい店が予想以上に繁盛すると、今度は張から共同経営者になることを提案されて承諾します。近い将来、国際的な緊張関係が絡み合って紛争に巻き込まれることを想定し、それに対応できる経営体制を確立するためでした。そんな矢先に来店した日本軍人である源田少佐から、染乃は機関の情報収集者となることと、日本国のために在露邦人からの献金集めをすることを依頼されます。情報収集は固辞する一方、献金活動に協力することの見返りに、源田に機一郎の動静について調査することを依頼した染乃は、しばし回想に耽ります。

  

 染乃は時どき店の姿見に自分の姿をうつして見て、深い感慨にひたることがあった。三十歳の境界をこえてから、彼女はふっくらと肥りはじめているようだった。以前は頼りないほどかぼそかった腰にも、胸にも、少しずつ豊かさを加えて来、顎もやや丸味をおびて、健康な明るい感じに変わってこようとしていた。

 経済的にも、精神的にも、落ち着きと張りが出てきたせいか、染乃はかつてのあの影の薄い、淋しげな表情のかわりに、内側からふくらもうとするあたたかいものが匂うようになっていた。

 「あんたはこのごろすっかり落ちつきがでてきた」

と、イワーノフは染乃をからかうのだった。
  「ロシアの少女たちも年を取ると肥って恐ろしいマダムになる。日本人もそうだとは知らな  
  かったよ」

「意地悪ね」

染乃は苦笑しながら、姿見の中の自分の様子に眺め入った。

〈機一郎さんに会ったら、あの人はこんな私を見て何と言うだろう〉

染乃はそんなふうに、時たま機一郎のことを思い出すのだった。(中略)

〈あんなにシベリアを憧れていた人だったのに――〉

逆に女の自分がその新天地の一角に着実な地盤を固めつつある運命の皮肉さを、染乃はひどく不思議なものに思わずにはいられなかった。 

 

 第一次世界対戦が勃発した夏のある日、イワーノフは収容所時代の仲間であったザミャーチンの訪問を受けます。その友人から、ペトログラードで起きた革命によってロシア政府が崩壊し、新たにソビエト組織が誕生したことを知らされます。ザミャーチンは、この新しい政治革命の大きな渦に共に行動するように嘗ての同志であるイワーノフを誘いに来たのでした。

 

 戦争、そして革命。ようやくたどり着いた染乃夫婦の落ち着いた生活を脅かすような、不穏な気配が濃くなり、暗雲が迫ってくるようです。染乃は機一郎の消息を知ることが出来るのか。順調な料理店の経営はこれから先も続いてゆくのか…。

次回【6月3日(日)】の新たな展開にご期待ください。



5月12日(土)第1回詩入門講座

どんな現実からも目を反らさずに

 講師:井崎 外枝子(『笛』同人)

 

 午後から第1回詩入門講座が開講されました。「詩を読み、学び、書こう」をスローガンとした、8回シリーズの構成です。3回目までは詩の鑑賞中心に、4回目以降は受講者の作品をもとにした合評会を中心に展開します。

初回の担当は、詩誌『笛』同人の井崎外枝子(いざき としこ)先生でした。

 前半は詩の特色について確認し、後半は詩作品を鑑賞し解説して頂きました。

①詩の三大部門

◇叙情詩:「叙」は述べるという意味。自分の感情を述べ表すこと。抒情詩も同じ。
     純粋詩、恋愛詩、生活詩など多様。通常、詩の大半が叙情詩と言える。

◇叙事詩:歴史的な事件や英雄の事跡を述べた韻文の作品。英雄詩とも言う。

◇劇 詩:韻文体の戯曲、詩劇。

② 用 語

 POESIE(フランス)=POETRY(英語 集合体としての詩)
 POEM(一篇の詩)  POET(詩人)

③詩の三つの要素
 「リズム」「意味」「イメージ」(=「イマージュ」、言葉の絵)

 

くらし     

           石垣 りん

食わずには生きてゆけない。

メシを

野菜を

肉を

空気を

光を

水を

親を

きょうだいを

師を

金もこころも

食わずには生きてこれなかった。

ふくれた腹をかかえ

口をぬぐえば

台所に散らばっている

にんじんのしっぽ

鳥の骨

父のはらわた

四十の日暮れ

私の目にはじめてあふれる獣の涙。

 

*石垣りん(1920~2004)「石垣りん詩集」(ハルキ文庫1998)

戦後の不安定な時代状況を反映して、強い圧力のある言葉が並ぶ。厳しい現実の生活から目を反らさず生きていこうとする逞しさ、父親への疑念や反発、女性という性を越え、自らの後悔、自虐、醜さや諦念までもとことん描き切ろうとする詩人の意志が感得される。戦後を代表する女流詩人による生活詩の傑作である。

 

終電車の風景

               鈴木志郎康

千葉行の終電車に乗った

踏み汚れた新聞紙が床一面に散っている

座席に坐ると

隣の勤め帰りの婆さんが足元の汚れ新聞紙を私の足元にけった

新聞紙の山が私の足元に来たので私もけった

前の座席の人も足を動かして新聞紙を押しやった

みんなで汚れ新聞紙の山をけったり押したり

きたないから誰も手で拾わない

それを立って見ている人もいる

車内の床一面汚れた新聞紙だ

こんな眺めはいいなと思った

これは素直な光景だ

そんなことを思っているうちに

電車は動き出して私は眠ってしまった

亀戸駅に着いた

目を開けた私はあわてて汚れ新聞を踏んで降りた

 

*鈴木志郎康(1935~)「現代詩文庫・続 鈴木志郎康詩集」(思潮社1994)

あるサラリーマンの日常的な光景を、主観を抜いて淡々と描いている。ジャーナリスト(カメラマン)であった作者にとって、新聞は日々の労働の成果であり生活の糧とも言えるが、あえて汚れて踏みつけられ、けられる社会の不要物として自嘲的に描く意図は何か。しらけた時代の風潮の一端を示唆するのか。

 

この他にも、草野心平「婆さん蛙ミミミの挨拶」、若松英輔「風の電話」を紹介して頂きました。先生とも交流のあった石垣りんさんですが、生前に金沢に来られた折りは、尾山神社の正門のステンドグラスがとてもお気に入りの様子で、ゆったりと可愛らしく優しい口調でお話しされたそうです。

ともかく書くこと。多種多様の内容・題材を書き続ける中から、自分にふさわしい表現の形を絞っていくことが当面の課題です、と激励して頂きました。

 

今回の受講生は7名でしたが、質問や意見も出しやすいムードでした。次回は6月9日(土)の開催予定です。詩に関心があり、作品づくりに挑戦したい方、第2回からのご参加や見学も歓迎いたしますので、ぜひお越しください。

 



5月12日(土)第1回小説入門講座

起承転結の「転」で想定外の展開を

 講師:高山 敏(『北陸文学』主宰)

 

 風薫る5月。満開のツツジに心地よいそよ風が渡るこの日、「小説を書く力」というテーマで、今年度第1回目の小説入門講座が開かれました。担当は同人誌『北陸文学』主宰の高山 敏(たかやま さとし)先生です。

 昨年度から引き続き受講する3名を含めた13名の方が参加されました。それぞれ、どんな小説を書きたいかとお伺いしたところ、歴史小説、ミステリー、こどもたちに読んで欲しい童話といった分野から、自分の体験に沿った物語、純文学、現代人の意識の深層にせまる社会派小説など、様々な希望があり、心強く感じました。この講座を刺激にしながら書き続け、書き上げたいという声も聞かれました。性別、世代・年齢、職種や経験の差を越えて、この講座で親交を深めながら、それぞれの最高傑作となる小説を書くという価値ある挑戦に期待しています。先生からも、受講生のみなさんの思いを受けて温かい激励をいただきました。

①小説を書く基本的な手順

◇まず、経過順に書く→→→ 並べ替える →→→ 無駄な場面をカットする

◇注意点

 *場面の一つ一つが物語になっていること

 *登場人物を一人にしない

 *リアリティは日常生活の細部から

 *無鉄砲という武器を持つ(ちゅうちょなくチャレンジする!)

②書き出しから結末まで・・・

 ◇書き出しにエネルギーを注ぐ:非凡なことが起こるということを暗示する

 ◇書く内容:実際の経験や見聞やその変型、虚構も交えて

 ◇登場人物:自分の身近な人・身近なところから始める 個性を持たせて描き分ける

 ◇主題(言いたいこと)は一つに絞る

 ◇あからさまに書かない…匂わせる、ぼかすなどの工夫

 ◇主人公が抱えている「事情」(過去・現在・未来)を重視

 ◇心の中を描く…納得できない,裏切られるなどの苦渋や葛藤を

 ◇起承転結…「転」で読者の予想を越えた展開に導く

  ◇ネガティブな結末にしない…希望を含ませた余韻、想像させる余韻

 

 先生から紹介して頂いた「終着駅」「星は何でも知っている」「サトウキビ畑」といった懐かしい歌詞の例を通して、巧みな心理描写や詩的で余韻を生む表現を感得しました。

 受講生の皆さんが書きたいこと、小説として書こうとしているテーマや内容を具体的に掘り下げていくプロセスが始まりました。限られた時間ですが、積極的に意見を交わしたり、質問したりしてそれぞれの「果敢なチャレンジ」、「真の創造」につなげてほしいと願っています。

 



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