金沢文芸館

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文芸館だより(ブログ)

文芸館だより H29年度

 4月1日(土) 第44回泉鏡花文学賞受賞作家と集う会 川上弘美さんトークショー
 「受賞作をめぐるさまざま」―川上さんの執筆の周辺について聞く―

 
 4月1日(土)の午後、金沢文芸館3階の文芸フロアにおいて、昨秋「大きな鳥にさらわれないよう」で第44回泉鏡花文学賞を受賞した川上弘美さんによるトークショーが開催されました。「受賞作をめぐるさまざま~川上さんの執筆の周辺について聞く~」と題したこの集いでは、金沢学院大学准教授の蔀際子(しとみきわこ)さんに聞き手を務めていただきました。創作活動の背景や方法、ちょっとした心がけやこだわりなど興味深いお話の連続で、人気作家である川上弘美さんの気さくで個性的な人柄にふれることができました。熱心に聞き入る60名ほどの参会の皆さんで満席となった会場は、春先のやわらかなムードに充たされました。内容の一部をご紹介いたします。

 

金沢は陰影のある町というイメージが強く、犀川と浅野川の流れや景色も魅力的です。泉鏡花や室生犀星の作風にも通じる冬の暗さや湿った空気が、この町特有の文学的な風土を醸し出しているようです。

受賞作「大きな鳥に…」は何万年か先の未来に、クローン技術や人工知能の助けを借りて辛うじて生き延びる人間を描いた作品です。東日本大震災以降、誰もがいつまでも平和なままではいられないと考えさせられることが多くなりました。平和な時代が続く中で、人類の滅亡は実感しにくいのですが、生きることの「無常」をテーマとしました。冒頭の「形見」を書き上げた時点では連作の構想はありませんでしたが、結果的に14通りの「私」が未来の人間の思いを語る形になりました。読み進めるうちに、だんだんとわかってくる作品です。

子どもの頃から、本を読むことは大好きでしたが、書くことは苦手でした。女子高校で理科教師を務める理系の人間でした。人間の自意識や自分の内部を掘り下げるようなことよりは、むしろ、生物としての人類を幻想的に描く方に関心がありました。読書では、「赤毛のアン」「モンテクリスト伯」など外国小説や児童文学の翻訳に親しみました。長編の優れた翻訳を集中して読むのが好きでした。

高校教師の時代を含めて約10年のブランクがあり、30歳台半ばで「神様」と言う作品を書き上げました。モラトリアム(猶予期間)とも言える子育ての日々の中で、子どもとも通じ合うやさしい言葉で普通に自分の表現に到達できた、ということかもしれません。その後、20年。人生の妙味を描き続けています。

支配的な気持では、作品を書き進めることはできません。設計図にしばられず自然に書き進めるうちに、登場人物が動き始めるものです。すごく正しいことを書かねば…と気負い、力んで立ち向かうのではなく、どんな飛躍や連想をどんなふうに翻らせようか、と考えるところに創作のポイントがあるように思います。また、行き詰まってもやめないで書き続けること。書きつなぐことで、作中の人物が動き出します。そうして、何度も読み返して文章の歪みをただしていく。ひとつひとつ、丁寧に磨き上げる。私はアーチスト(芸術家)であるより、そんな職人さんでありたいのです。




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