金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2010年12月

その45「犀星の童話と白秋の歌」

ようやく涼しくなった平成22年9月の半ば過ぎ、室生犀星記念館の室生洲々子名誉館長(むろおすずこ、室生犀星のお孫さん)とともに金沢市立田上小学校へ室生犀星の童話読み聞かせ会に出かけた。この会は野町小学校についで2校目である。

今回は3年生が1年生に童話「オランダとけいと が(時計と蛾)」を読み聞かせる授業である。
3年生が1フレーズづつ暗記して順番に話していくスタイルである。どの子も感情をうまく入れて話す。1年生も真剣なまなざしで聞いている。

室生犀星はその生涯に100点以上の童話を書いている。犀星は恵まれない幼少時代を過ごし、長男を1歳半の時に亡くしている。そんな体験、想いをこめて童話を書いたという。
昔話の形であったり、子供の日常の風景、動物たちの生きざまを映したものだったり、どれも優しさ、慈しみ、人生に対する真摯な思いがあふれている。

さて、犀星が生きた時代の音を聴く蓄音器の番になった。
どの曲にしようかと迷ったが「雨 雨 ふれふれ 母さんが 蛇の目で おむかい うれしいな~」の出だしで始まる「あめふり」(北原白秋作詞、中山晋平作曲、平井英子唄)に室生さんと決めた。
この曲の歌詞は優しい。
3,4,5番の歌詞を見ると
<ずぶ濡れのあの子が柳の木の下で泣いている、僕の傘を貸しましょうか、僕なら母さんの大きな蛇の目(傘)で大丈夫だよ>
と書かれている。
困っている人を見たら親切にしようと、嫌みなく爽やかに歌っているわけだ。
<ぴっち ぴっち ちゃっぷ ちゃっぷ らん らん らん>
とスキップしているリズムも秀逸だ。

この曲が出来たのは、「子供たちが幸せに暮らしてほしい」と願った犀星と同時代であった。


金沢市立田上小学校での蓄音器演奏

1年生に読み聞かせる3年生

「あめふり」唄・平井英子
その44「軍用蓄音器のグレン・ミラー」

金沢蓄音器館にボディーをカーキー色に塗った蓄音器が1台ある。その色から一目で「軍用」とわかるものだ。

それは、1939年(昭和14年)ごろアメリカ陸軍が軍用として調達したハリウッドのパシフィックサウンド社が作った「ポーテレック 9C型」と呼ばれるものである。

ボディーの外側8つの角は金属で補強されており、頑丈につくられている。
ふたを開けてみると、サウンドボックスと呼ばれる音を取り入れる針のついた部分もカーキー色に塗られており、ラッパにつなげるアームと呼ばれる部分とコイル状のスプリングで結び、ガタが起きないように工夫している。
ゼンマイを巻くハンドルも、紛失しないよう鉄の鎖でボディーに繋がれている。

さらに中の構造を調べてみると、ラッパの部分はニスを塗ったと思われる合成の紙である。
軽くていい音を出すための工夫だろうか。
ターンテーブルも12インチ(30センチ)の大型であるのも、安定した回転を求めたためだったのだろう。

ラッパの出口は、繊維を吹きつけしたメッシュの針金がふたとしてつけられている。
これにもゴミや砂が入りにくくする工夫の跡が見られる。
そのうえ長い演奏時間を可能にする小型の二重ゼンマイになっている。

ボディーのふたの裏側には注意書きがあり、30~60日でゼンマイにオイルをさすよう書いてある。
そうか、そうか。小生も油をさして、「イン・ザ・ムード」のSPに針を下ろしてみた。
軽快なグレン・ミラー・サウンドがいい音色で一杯に拡がった。
(youtubeで聞く事が出来ます)


米陸軍用蓄音器

ラッパ部、出口はメッシュの針金で

ふたの裏側の注意書き
その43「戦地に行った蓄音器」

蓄音器のふたの内側に、ちょうどサラダボールをひっくり返した形に似た円形凹面反射板がついた蓄音器が金沢蓄音器館に4台ある。
この独特の反射板のラッパは、イギリスのデッカ社が作った蓄音器である。

1台は室内に置いておくために、下の方に台がついているもので本体に「デッカリアン」と品名が描いてある。
もう3台はポータブル型で「デッカ1型」と呼ばれるものだ。角は鉄板で補強されているものもあり、頑丈につくられている。
しかし、どこにも品名、品番が描かれてなくて贋物くさいものも1台ある。

英国デッカは1914(大正3)年、初めてポータブル型の蓄音器を世に出した。
理由は、その年に起こった第一次世界大戦だった。英国軍隊の戦線のいたるところで歌や音楽が聴かれたという。
デッカ独特の逆サラダボール型のラッパが考案されたのは、簡便に使うためではないか。金属部分は音の反射を良くするためかニッケルメッキが施されており、実際にレコードをかけてみると随分とよい音色である。
大戦後もこのオリジナルな形のラッパは電気吹き込み時代まで採用された。

贋物くさい1台でも、蓄音器の取っ手の部分も金属製で丈夫に作られており、スイスのトーレンス社の2重ゼンマイがついている。
音を出すサウンドボックスもマイカ(雲母の振動板のこと)を使用した「SONATA」というスイス製である。すこぶる良質な蓄音器だ。

日本はニッチク(後のコロムビア)が昭和18年「陸軍御用満州行蓄音器」として大量に送り出している。しかし戦況は厳しくなる一方だった。

弾丸の飛んでこないつかのまの時間に兵隊たちは何を想っていたのだろう。


デッカリアン

デッカ1型

昭和18年満州行蓄音器
その42「iPodよりステキな音」

イギリス、EMG社のエキスパートシニア(1935年、昭和10年製)という蓄音器がある。金沢蓄音器館で1日3回行っている「蓄音器の聴き比べ」で使っている。

この蓄音器のラッパは、紙を貼り重ねた"パピエ・マーシュ(Papier-Marche)であり、紙の素材はロンドン市の電話帳であったという説や日本の和紙であるという説もある。

この蓄音器で人の歌声を聞くと耳元で歌い、演奏は後ろの方で奏でているように聞こえる。
当たり前だがステレオでなく、モノラルである。来館したあるレコードメーカーの社長がこの蓄音器の音色を聞き、

「どうして立体的に聞こえるのか?」

と疑問に思われた。
かけたレコードはパットブーンの「砂に書いたラブレター」である。

ベルリナーがいわゆる円盤レコードである平円盤を開発した1887年から終了した1960年までの間、SPレコード盤の生産は続いた。(その後、LP、EPレコードにとって代わられた。)

その間電気吹込みなど録音方式も随分進化したが、モノラル録音であるので立体的に聞こえないはずである。ところが、どうしたわけか特にラッパの前面の10メートルほど先に立つとよくわかるのだ。

CDは非接触、デジタルなので、ノイズはないが音は平べったく聞こえるという方々がいる。
その社長は
「うちの技術者を館によこすので、このEMG社を聞かせてやってほしい」
と言われた。技術者は来たには来たが、その秘密を解明出来ずに帰った。

そういえば、最近東京から来館した若い女性が「CDやiPodの音よりずっとステキ。立ち寄ってよかったわ」と言っていた。


英国、EMG社
エキスパート・シニア




パット・ブーン
「砂に書いたラブ・レター」
その41「音が立つ」

「エジソンの音は立っている!」
神戸から来館された山下さんと名乗るかたは、エジソン・ダイアモンド・デイスクL-35の蓄音器の奏でる音を聴いて、そう語った。

エジソン・ダイアモンド・デイスクL-35というのは、エジソンが作った平円盤用(いわゆる丸い円盤型レコード)の蓄音器である。
レコードといえば既にエジソンが発明したろう管型でなく、ベルリナーの開発した横振動の平円盤が主流となっていた。
時代に残ろうとエジソンも平円盤を開発し、徹底的に音質にこだわった。

針を縦に振動させること、針先を直線的に動かすこと、針は摩耗のもっとも少ない硬いダイアモンドを使ったこと、ノイズを減らすため3ミル(0,075ミリ)の針で毎分80回転、4分間の演奏を可能にしたこと、レコードは反らないように6ミリの厚さを持たせたことなどである。

このエジソン蓄音器と生の演奏を"共演"させるという実験をカーネギーホール始め全米各地で行った。その結果、聴衆が音の違いがわからぬほど完成度が高かったと言われている。

しかしエジソンの蓄音器、レコードともに横振動のものと比べると随分と高くなってしまい売れなかった。
エジソンのカタログを見ると最高級品でなんと6000ドル、横振動のビクター製品なら500ドルくらいだった。

金沢蓄音器館の聴き比べの時間では、エジソンのろう管型、平円盤型の蓄音器はともにその音を聴くことが出来る。

あなたも<音が立っている>体験にぜひどうぞ。


ダイアモンド・ディスクL-35

蝋管型のアンベローラ・モデル30

エジソンの平円盤、厚さが6mm

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