金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2012年4月

その102「蓋を閉じて聴く国産の蓄音器」


ポータブル型蓄音器で蓋を閉じてレコードがかかる蓄音器がある。パラゴン35型と呼ばれ、昭和10年に作られたもの。

卓上型蓄音器ならいざ知らず、持ち運びができるポータブル型蓄音器で蓋を閉じて聴くスタイルのものは珍しい。

ポータブル型は、簡単に携帯できるよう蓄音器の高さは低くするのが普通だ。
このためレコード再生する際は蓋を開けておかねばならない。蓋を開けて再生すると、針音が大きくなりノイズが増えて聞こえるのだ。
しかし、この蓄音器は、蓋を閉めたまま演奏が可能なので、スクラッチノイズと呼ばれる針音は小さくなる。
針がついているサウンドボックスをレコード盤に直角ではなく、手前に倒したために、トーンアームの高さを低くすることができた。
そのため蓋を閉めることが出来るのである。

「演奏中はこの蓋をお閉めください」

と日本語と英語で書かれている。
振動盤の材質はジュラルミンで出来ている。

音の出口であるラッパ部の出口はやや斜めになっており、外観もすっきりとデザインもいい。
ホーンは音漏れ防止のため、アスファルト漬けで接合部の隙間の小さな穴を防いでいる。
さらに、長くすると、より大きな音を出せるために折り曲げている。
開口部のグリルは金網、10インチターンテーブル、オートストッパー付き、青のレーザークロス張りのモダンな蓄音器である。

日本人の技術が生んだ独創的な蓄音器のひとつである。


昭和10年制作、パラゴン35型
幅340、奥行425、高さ295mm

演奏を聴くときに蓋を閉じる

針が付いているサウンドボックスが、
手前に倒れている
その101「<音探し>は続く」



平成24年3月、東京の国立国会図書館、京都にある同館関西館での音楽資料・情報の収集・保存と活用に関する懇談会に各々参加してきた。

1900年初めから1960年ごろまでに国内で製造された音楽・演説等のSPレコード盤を対象に、国は5万件あまりの音源のデジタル化に着手しており、それらの収集・保存と活用についていろいろ意見を求められた。
来年3月までに目標の5万音源は達成されるとのことだった。

実はこの音源、実際はもっと多く存在するのではと思う。
それが10万なのか20万音源あるのかはっきりしないのだ。
5万件とは主要メーカーのみのカタログから類推した数字の合計であり、今では消えてしまった中小メーカーのものはわからず、実物盤にあたるしかないのだ。
そこで、来年3月でデジタル化の事業は終了する予定だが、継続していく必要があるのかが、のっけからの議題となった。

NHKはもともと放送を録音しておく考えはなかったが、昭和11年ベルリンオリンピックの女子200米平泳ぎでの前畑優勝で歓喜した国民は再放送を強く願った。
録音はコロナレコードという中小レコード会社が無断で録音したのだが、それを利用せざるを得なかったのだ。
こうしてNHKもようやく録音の必要性を認めるようになったという。
また、乃木将軍の肉声は明治42年10月15日、階行社で私的で録音されたものであり、軍人らしい凛々しいその声を聴くことで彼の人となりを推し量ることが出来る。
大隈重信の演説は「・・・であります。・・・あるんである」などと彼独特の話しぶりがわかる。
唄い手が浅草、明石、金沢などの検番の芸妓名で書かれた小唄、端唄なども当時の実声を聞くことで初めて色、艶、なまめかしさがわかる。
もちろん清元、長唄など大御所と呼ばれた面々の芸の深さも聴ける。

いま「音探し」を継続しておかないと未来永劫音を残すことはできなくなるだろう。
なぜなら盤はいずれ割れたり、摩耗したり、消えていくだろうから。


日本絵本レコード(株)の「僕は軍人」

自主制作盤、ガルバーレーベル

中小のミリオンレコード

三越レーベルの童謡盤
その100「佐渡裕さんが語る蓄音器」



平成23年12月10日の朝だった。
「佐渡裕さんが、蓄音器と一緒に出てるヨー」との家人の声で、テレビの前に走った。
「にじいろジーン」という朝のTV番組だった。

指揮者・佐渡裕さんが、東京神田神保町の蓄音器店内にある英グラモフォン社のH.M.V.194型蓄音器とともに大きく映っていた。
佐渡さんは音に魅了され、かつて義理のおとうさんに蓄音器をプレゼントしたほどのファンとのこと。

「リアル感が違う」としきりに蓄音器談義を語る。
ちょうどルイ・アームストロングのレコードがかかり、「まるでサッチモを我が家へ招待して、目の前で歌ってくれているようだ。この蓄音器、ちょっとキープしておいて!うちのカミさんと相談しないといけない」と、いたく感動していた。
「音の豊かさ」を佐渡流に表した言葉だった。
クラシックばかりでなく、いろんなジャンルが"ワカる"ことが飾らぬ人柄とともに人気の秘密なのだろう。

マエストロが感動した同型機が金沢蓄音器館にある。
この蓄音器、1927~30年(昭和2~5)に作られたもので、金属部は金メッキが施されている。
キャビネットはマホガニー材で高級家具調で重厚感がある。
ラッパ全体が亜鉛板のリエントラント(折り曲げ方式)ホーンで音色も綺麗で、落ち着いた繊細な音を奏でる。
タンノイ、B&W、クオードなどイギリス一流のスピーカーメーカーの源流とも言える。

あなたも佐渡さんがいうこの「リアル感」、金沢蓄音器館で体験できる。


佐渡裕さんが聴いたHMV194蓄音器

金属部は金メッキが施されている

ルイ・アームストロングの「バラ色の人生」

HMV194の音が聞けるオリジナルCD

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