金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2012年8月

その114「ペギー葉山の色紙」



何の連絡もなく突然、歌手・ペギー葉山さんとオーケストラ・アンサンブル金沢常任指揮者・岩城宏之さんが来館された。
ペギーさんがアンサンブル金沢と共演することになり、練習時間の合間を見つけて、岩城マエストロが当館に連れて来てくれたのだ。

館内を案内しながら、2階のE.M.G.エキスパート・シニアの蓄音器を使って、ペギーさんのデビューのころのSPレコードを一緒に聴いた。
まず、デビュー曲の1952年(昭和27)、「ドミノ」。ペギーさんは憧れのビング・クロスビーの名曲をデビュー盤に選んでいたのだ。
「プリテンド」、「火の接吻」、「枯葉」など洋楽の曲のあと、次にかけたのは国民的大ヒット曲となった「南国土佐を後にして」(昭和34年)。
今のCDとは違う臨場感に富んだ音色に、ペギーさんは懐かしい想い出に浸っていた。

「わたくし、このSP盤は持っていませんのよ」

驚いた。自身で歌った100万枚を超えた大ヒット曲のレコードを持っていないなんて!
私個人所有の1枚をプレゼントしたところ、ペギーさんは1枚の色紙にサインをし、渡してくれた。

「美しい町 美しい想い出」

その流れるような書体で書かれた色紙は今、自分の宝となっている。

2004年2月15日、雪がうっすらと降った日の午後のことだった。







(左は、いただいたペギー葉山さんの直筆サイン色紙)


E,M,Gエキスパート・シニア

「南国土佐を後にして」
その113「猫いらずレコード」


金沢蓄音器館の所蔵レコードには変わったレコードも多い。その中に「猫イラズレコード」とレーベルに書かれた1枚がある。

これは黄燐を主成分とする鼠を殺す薬、つまり猫がいらないというわけで「猫いらず」という商品を作り、これをPRしようと作られたSPレコードだ。

明治末年、商標登録出願し大正元年先願権を認められ、東京の成毛商店が作ったものだ。レコードは販売されたのか宣伝用で無料配布されたのか定かではない。
レコードレーベルには「猫より働く鼠捕り薬」と書かれ、トレードマークには鼠を取れなくなった猫の首に「免職」、針がねで作った鼠捕り器には「ハライモノ」(捨てる、いらないものの意)という札が付いている。

1面には「春雨かえ歌(笛入り)、唄:成毛商店演芸部員」もう1面には「国益演説、猫いらず本舗主人 成毛英之助」と印刷されている。雑音も多く聞き取れないところもあるが、主旨は、

「国家国民の最大の敵であり、大きな負担になっているのは、鼠である。医学博士の調べたところによると、日本では年間8千万円の損害を被っている。経済のみならず衛生上もよろしくない。国家のために家庭の常備薬として利用され、鼠の撲滅に尽力賜わらんことを願う」

と語っている。今より余程鼠が多かったのだろうか。

「猫いらず」というネーミングも奇抜だが、その宣伝用に当時まだ珍しかったレコードを利用したとは、この成毛英之助なる主人、随分と進取の精神に溢れ、マーケティング・マインドに富んだご仁だったのだろう。


「猫より働くネズミ取り薬」猫いらずレコード

猫には「免職」、ネズミ取り器に「ハライモノ」

国民の最大の敵は、ネズミだ
その112「金沢蓄音器館にしかない音源」

平成23年4月、CDアルバム「平野愛子ゴールデン・ベスト」(品番VICL63731、定価2000円)が全国発売された。
このシリーズはレコード会社10社が過去に発売されたヒット曲を歌手別に網羅したものであり、この手の集大成シリーズでは完成度が高いものだ。

平野愛子はビクターから「港が見える丘」「君待てども」などの多くのヒットを飛ばした。今、聞いても随分モダンな曲だと感じる。
平成22年、ソニーレコードの石原洵子が「港の見える丘」をリメイクしたのもわかる気がする。
淡谷のり子が「ブルースの女王」と呼ばれたが、彼女はさらに「若きブルースの女王」といわれた。
甘くけだるいアンニュイな歌声は、戦後の時代に合っていたのか、あるいは明日への希望を代弁していたのだろうか。

そのCDの中に「恋ひとたび」という曲が収められている。
これは昭和27年6月に彼女がテイチクに移籍した後の作品である。
彼女は、この歌で翌28年1月2日の「第3回紅白歌合戦」に出場している。
「恋ひとたび」は、テイチクが原盤を所有しておらず、冒頭のCDアルバムは、金沢蓄音器館所蔵のSPレコードの「恋ひとたび」を収録したものである。
当時の「紅白」は大晦日の放送でなく、新年早々に行われており、初期の「紅白」で歌われた珍しい曲と言ってもいい。

当館では、SPレコードの歌謡曲・流行歌を聞くイベントも開いているが毎回たくさんの来館者で埋まり、また随分と詳しい方々も多い。
その中でこの曲を披露したところ「さすが金沢蓄音器館だ!初めてこのSP盤を聴いた!」とおほめの言葉をいただいた。
嬉しい話だ。
そんなレコード探しの旅はまだまだ続く。


平野愛子「ゴールデンベスト」CD
品番:VICL63731
12曲目に「恋ひとたび」





テイチクに移籍した後「恋ひとたび」を発売
この盤をCD化した

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