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金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2012年10月

その120「"箱のオーケストラ"登場」


平成24年9月、地元新聞、レコード業界新聞などに「逸品"箱のオーケストラ"金沢蓄音器館に展示」と大きく記事が踊った。

元日本レコード協会長、佐藤修氏(元ポニーキャニオン㈱社長、現相談役)が19世紀に作られた演奏装置2台を当館に寄贈されたことを紹介したものである。
これは当館にとって実にありがたい贈り物で感謝に堪えない。

ともに「ミュージック・ボックス」と呼ばれ、1台はピアノ線を使ってあるので「バレルピアノ」、もう1台はオルガンのように空気を動力にする「サロンオルガン」という代物だ。

1850年代ごろフランスで製造され、シンバル、ベル、タンバリン、ラッパなどを組み込み、その音色は「オーケストラ」に例えられ、収集家に珍重される逸品である。

「バレルピアノ」は自動演奏ピアノの初期のもので、ゼンマイ式でコインを入れるとシリンダー(バレル)に付いたピンがハンマーをはじいて音を出す。
「ジュークボックス」のはしりといってもいい。シンバル、ドラムが内蔵されている。

「サロンオルガン」は19世紀後半に作られ、ちょうど蓄音器と同世代だ。
シリンダーのほか本物のラッパ、タンバリン、ベルが内蔵され、ハンドルを手回しで音をならす。
2台ともとても賑やかな音色だ。
当時の人たちは、結構豊かな音楽生活を楽しんでいたことがわかる。

当館には、既にオルゴール2台、自動再演ピアノ1台があるが、これらの「ミュージック・ボックス」が加わったことで、19世紀を彩った音楽エンタテインメントの幅が広がった。

メーンコレクションである600台以上の蓄音器と合わせると、全国に誇れる内容ではないかと思える。


サロンオルガン

バレルピアノ

2Fに設置
その119「西条八十、朗読のレコード」

金沢蓄音器館に作詞家・西条八十自身の朗読したSPレコードがある。「母の部屋」、片面は「奈良の一夜」(コロムビア、レコード番号28854)の一枚だ。

第二次大戦が激しくなってくると、国策で娯楽的なレコードはほとんど戦地へ慰門品として送ることを優先し、国民のために生産することは次第に困難になってきた。そこでレコード会社は教育用に活路を見出そうとし、軍部もこれを推奨したという。
厚生音楽(産業音楽、リクレーション用)、体育用、国語用などである。
昭和16年、国文学の鑑賞と朗読研究として、作家たち自身の朗読レコードが発売された。歴史的にも貴重な価値を持つ音源と言えよう。
北原白秋、佐藤春夫、堀口大学、萩原朔太郎、佐々木信綱、斉藤茂吉、与謝野晶子、土岐善磨、前田夕暮、釈迢空、室生犀星など多くの歌人たちが録音した。
(室生犀星本人朗読の「こころ・足羽川・蝉垣・春の庭」のSPレコードは石川近代文学館に保存されている)

さて、西条八十のレコードのことである。
「ごめんください、おかあさん」で始まる「母の部屋」は久しぶりに入った部屋で母と二人きりでの思い出の長編詩である。

「おかあさん」と何度も語りかけている。西条八十の心のうちにある母への想いが伝わってくる。この年老いた母は亡くなっていたのだろうか?
文章だけではなく、本人の肉声を残しそれを聞けることは、自分の横にその人がいるように思える。身近に感じられるのだ。再現装置レコードならではの醍醐味である。

◆少し長いが、全文を掲載する。小生がレコードから書き起こした。
「母の部屋」  作・西条八十

ごめんください、おかあさん。久しぶりに貴方の部屋に入ります。

今日は妻も子供たちも、女中も出かけて、あなたと私だけが留守居です。お眼の悪い貴方は、桜の散る春の午後もみみずくのように炬燵にかがまっていらっしゃる。

おかあさん。何もかもが変わりましたが、あなたの部屋だけは昔のままですね。死んだお父さんの油絵、黒く光った洋ダンスも、マホガニーのオランダ時計もみんな僕が幼い日、親しんだものです。そうして、あなたはそれらのものの中で、一日中昔のことをずっと回想していらっしゃる。

おかあさん、春の日が陰りましたよ。こう一尺も離れぬところであなたのお顔を眺めるのは本当に久しぶりです。妻や子供や新しい家庭の進入者たちのために僕等は長くこうした機会を奪われていました。
こんなに黄色いシミがありましたのが、あなたのお手でしたか。

おかあさん、あなたはいつからそのメガネをかけたのでしたか。そうして、なんという白髪の薄くなりよう。僕は今、新しい陸地を発見した船乗りのように驚きの眼で貴方を見守ります。生みの親であるあなたを熟視して、僕は底気味の悪い戦慄さえを感じています。

こうして二人向かいあっていると、世界は何もかも昔のようじゃありませんか。
死んだ朝鮮の姉が、まだそこの縁側の椅子で編み物をしているような気がします。再縁した妹がもうすぐお針から戻ってくるような気もします。

さあ、おかあさん。ボツボツ昔の話でもしましょうよ。僕もやっと今、仕事が片付いたところです。
春の陽は長いようでも直に暮れます。まもなく可愛い進入者たちの笑い声が、小さな靴音が玄関の敷石に聞こえるでしょう。


詩の朗読レコード「母の部屋」
コロムビア 28854
朗読:西条八十

昭和10年当時の西条八十
(コロムビア50周年記念誌より)
その118「新温泉町の蓄音器ギャラリー」

平成24年6月28日兵庫県新温泉町の浜坂駅前に整備を進めてきた、まち歩き案内所「松籟庵(しょうらいあん)」が完成した。そのオープン記念式典に招かれ、「蓄音器とまちづくり」と題して記念講演をしてきた。
「松籟庵」は築100年の古民家をリフォームした木造2階建ての施設で、町の観光情報発信と地域住民の活動拠点として、活用が期待されている。

同町はかつて、蓄音器針では日本一の生産量を誇る町だった。この由来から蓄音器ギャラリーを併設して案内所を作ろうと、本年2月、岡本町長ら3名が金沢蓄音器を視察のため来館。さらに開館前には運営ノウハウ、職員の研修などを目的に再度来館。その熱心さには驚きを禁じ得なかった。
「松籟庵」は囲炉裏のあるフリースペース、掘りごたつのある和室、かつて地場産業として隆盛を誇った縫い針「みすや針」とレコード針の展示スペース、そして蓄音器ギャラリーがある。ギャラリーには当館から貸し出したものや住民から寄贈された蓄音器やSPレコードがあり、試聴も可能だ。

講演前日、郷土史家の岡部良一氏に町を案内していただいた。醸造元の森家の酒蔵を中心とした「以命亭(いめいてい)」から始まり、山陰線で最長の「桃観トンネル」、「余部鉄橋」などさらにそこでの落盤事故の犠牲者を日本人、朝鮮人の区別なく弔った「久谷八幡神社招魂碑」。市街地を流れる味原川沿いの「あじわら小路」、地質遺産を含む「ジオパーク」、町内1300軒は自宅で温泉が出ること、カニだけでなく「蛍イカ」は全国1位の漁獲高などなど。自らを育んでくれた土地に深い愛着を抱いていることが熱く伝わってくる解説ぶりだった。

この愛郷心あふれる岡部さん、そして施設作りに研究の労を惜しまない町長―まちづくりの要は「人」だ。自然、食、生活などエコライフに相応しい土地柄に電気を使わないエコな蓄音器をどうマッチさせていくか。地域住民参加の鉄道唱歌、味原川のイメージにあう童謡や唱歌のイベントなども一考だろう。


新温泉町の紹介パンフレットの数々
山陰線、以命亭、ジオパークなど






講演の模様
(新温泉町商工観光課提供)

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