金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2013年7月

その139「秋聲(しゅうせい)好みの蓄音器とレコード」



徳田秋聲。

室生犀星、泉鏡花とともに金沢が生んだ三文豪の1人である。金沢市東山には徳田秋聲記念館があり、秋聲に関する様々な資料が集められており、その人となりに触れることができる。

秋聲は蓄音器、レコードが好きで、数多くの音楽に関する題材を、その小説「あらくれ」「仮装人物」、随筆、評論では「新潮」「婦人公論」「レコード音楽」「新家庭」などに取り上げている。

徳田秋聲記念館にある秋聲が所有していた蓄音器は、「ゼニス スーペリア MSA」というものだ。
この蓄音器は昭和2年に発売され、卓上型の名器と呼ばれた「ビクター ビクトローラ 1-90型」をモデルにしたもの。
ラッパ部がリエントラント方式(折り曲げ型)になっている。1931(昭和6)年に東京、芝の神林工業所から発売された。
大正13年3月発売の雑誌「新潮」には「子供にそそのかされて、震災の2,3年前に奮発して買い求めた」と書かれているので、このときの蓄音器は「ゼニス」蓄音器ではなく、さらに以前から蓄音器を持っていたものと思われる。

秋聲は少年時代から聞き慣れた義太夫、常磐津、長唄など日本の楽曲を好み150~160枚ほどのレコード持っていたと書いている。(同、「新潮」より)
西洋ものは声楽、オペラから聞きはじめ、交響曲へと進んで好きになっていったようだ。

モーツアルト、ビゼー等の曲は「心をふわふわさせる」という。
特にビゼーの「スパニッシュ・セレナード」は「いつ聞いても胸が浮き立つ。ロシアが一番わかりやすい国民性を出しているように思われ、チャイコフスキーの"胡桃割り"やリムスキー・コルサコフの"シエラザード"は最も好きなひとつだ」と書いている。

昭和10年11月の「レコード音楽」には長男・一穂の勧めもあってか、
「だんだん西洋音楽の方が良くなってきた。"生"が一番だが、レコードには自由性があって、音楽選択が個人個人の趣味に適合させることができるので良い。年代順に西洋音楽を取りそろえようと思うが、この年で音楽の勉強をしても追いつかない」
と書いている。
時に秋聲数え65才、奥ゆかしさに親しみを覚える。


スパニッシュ・セレナーデ

歌劇「胡桃割り人形」

ゼニススーペリアMSAノラッパ部

ゼニス スーペリア MSAのプレート
その138「(続)小林亜星氏語る、音楽は"時代"だ」


興味深い小林亜星さんとの対談の話を続けたい。

「エロ、グロ、ナンセンス」の時代からいつのまにか戦争になっちゃった。
"空にゃ今日もアドバルーン~あたりまえでしょう"(昭和11年、美ち奴「あ々それなのに」)など歌っていたな。
「アラビアの唄」(昭和3年、二村定一)の裏面が「マイ・ブルー・ヘブン」。これなんか変な訳で「青空」なんてね。ほんとは「部屋には何もないけど、ここは私の天国よ」という寂しい歌なんです。
そろそろ淡谷のり子さんが出てくる頃です。"窓を開ければ~"(昭和13年、「別れのブルース」)なんてね。

「森の小径」(昭和15年10月)を歌った灰田勝彦さんは、昭和10年くらいに日本にきたハワイの医者の息子です。
バッキー白片さんも医者でハワイ交響楽団のティンパニー奏者なんです。
ジャズ系の人たちが結構いたんです。
日本のポップスのはしりですね。
そんなわけで、子供心にナンパ系がおもしろいと思っていたんです。

戦争がはじまりそんな唄はご法度になったんですが、灰田さんは戦争中「加藤隼戦闘隊」(昭和18年)なんて軍歌を歌っていました。
どうなっちゃたんでしょうかね、戦後は「野球小僧」(昭和26年)なんて歌っていました。

戦争中、ジャズは聞いてはダメ、いいのはクラシックのみ。
ドイツ、イタリアと三国同盟ですからオペラもOKでしたね。
また「前線に送る夕べ」という番組がNHKでありました。
録音なんてできない時代でしたから毎回マリンバ演奏を平岡養一さんが弾くんです。
ハイケンスのセレナーデです。
あれなんて欲しいレコードでした。

桜井潔とクラックスターズのタンゴの「長崎物語」を朝から晩まで疎開先の寺で聞いていました。
「亜星ちゃん、好きね」と言われましたけど、何せ1枚しかありませんからね。

レコードを出すのは博打だったのに経営者の多くの方は、「それでいくら儲かるんだ」とすぐに言う。そんなのわかるわけがない。
だから新しい曲を作らなくなった。あるレコード会社はスタジオまで売っちゃった。 (了)


三田評論25年6月号「三人閑談」で対談
左手奥は小林亜星氏、右手奥は岡田則夫氏
(大衆芸能研究家)右手前が小生

「青空」二村定一
「アラビアの唄」の裏面

「長崎物語」櫻井潔とその楽団
V40002は、戦後の盤

ハイケンスのセレナーデ
*当館所有の各盤

ページの上へ