金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2013年9月

その144「紙コップの蓄音器」


夏休みに入った8月のある日、「蓄音器のしくみ~紙ラッパを作ってレコードを鳴らそう」と小学生対象にイベントを開いた。
解説、ナビゲーター役は、蓄音器の整備、修理に詳しい天谷貞夫氏と小生。

蓄音器は、電気を使わず音が出るのが最大の特徴だ。

電気の代わりにゼンマイを巻く。
ゼンマイは鋼(ハガネ)で出来ており、巻かれたゼンマイは元の形に戻ろうとする。
その力を回転運動に変えると、レコードをのせるターンテーブルがまわる。

針は、盤に刻まれている小さな音色を拾う。音は、管(ホーン)の中を通ることで増幅され、人が聞こえるよう大きくなる。

当蓄音器館で毎日3回行っている「聴き比べ」では、四角い紙の1つの隅に鉄針をセロテープで貼り付け、回転するレコード盤にそっと載せる。
針は盤に刻まれている音を拾い、紙は振動する。
その振動が、蓄音器と私たちの耳の間にある空気に伝わり、音として聞こえる。
聴いた人たちは、その音に皆一様に驚くのだ。
エジソンがしたことは、目に見えるかどうかの小さな振動を音声化し、拡大したと言ってもよい。

この紙を紙コップにすると、音はさらに大きく聞こえる。
紙コップがラッパになる訳だ。
子供たち自身で作ってもらえれば、夏休みの自由研究の一助になるのではとの想いから開いたのが上記のイベントである。

紙コップの底に長めの縫い針を貼り、クリップで弛みがないようセロテープで固定。
紙コップを持ちやすいようにするため角材にバンドをネジ止めしてコップホルダーを作り、レコード盤に針をそっと載せた。

カップ麺の発泡スチロール製のどんぶり鉢を紙コップに付け加えて大きくすると、音はさらに大きくなった。

集まった小学生たちは音が出ると一斉に歓声を上げた。
子供たちの顔が“エジソン少年”のように見えた。


蓄音器整備と修理の博士:天谷貞夫氏

作り方の解説書

針は、うまく取り付けられたかな?

「ワー、大きな音になった!」と歓声が。
ラーメン鉢をつけると、音は大きくなる
その143「秋聲がいざなう音色」

「秋聲の聴いた音楽~愛蔵の蓄音器とレコードの音初公開」と題したイベントが平成25年7月26日、徳田秋聲記念館で開催された。

秋聲自身が愛用したゼニスという蓄音器で、本人が聴いたレコード盤、好んだ曲全9曲を小生が解説、秋聲令孫・徳田章子名誉館長のお話を混ぜながら進めた。

初めの3曲は、秋聲が持っていた盤だ。
最初はラヴェル作曲「ボレロ」、ラヴェル本人が指揮をしたポリドール盤だ。
2枚目はバッハ作曲「ブランデンブルグ協奏曲第5番ニ長調その3」。コルトー、ティボー等の演奏陣によるビクター盤。
3枚目はブラームス作曲「ガボット」でピアノはヨゼフ・ホフマン演奏の米国ブランズウイック盤。

秋聲自身が小説、雑誌の中で取り上げて自ら解説や感想を述べているものが多くあるので、残り6曲はその中から選んだ。

秋聲は大正12年の震災前は日本物、特に謡曲、端唄、歌舞伎などを好んでおり、その中から松永和風の長唄「勧進帳」、松尾大夫の常磐津「子宝三番叟」の2枚を選んだ。

のち長男一穂の影響もあってか"洋物"を聞くようになった。
大正11年「婦人公論」に"あらゆる要素を具えたバイオリニスト"と書いたジンバリスト演奏の「ツゴイネルワイゼン」。
"世界的な名人"と評したコントラルトのシューマン・ハインク歌唱、シューベルトの「魔王」。
ハイフェッツ演奏、バッツィーニ作曲「妖精の踊り」。
エンディングは、昭和10年「レコード音楽」に"最も好きで、いつ聴いても胸が浮き立つ"と書いたビゼーの「スパニッシュ・セレナーデ」で締めた。

徳田章子名誉館長は「子供2人を亡くした秋聲にとって、音楽がどれほど心を癒してくれたのかと思うと胸が熱くなりました」と語った。

音色は、間違いなく秋聲の生きていた時代にいざなってくれた。
同じ空気を味わった会場一杯の人たちも同じだったに違いない。


秋聲の愛用蓄音器
「ゼニス スーペリア MSA」を囲んで
徳田章子:徳田秋聲記念館名誉館長と
(左から2人目)

上田正行:徳田秋聲記念館長(左)

藪田由梨:徳田秋聲記念館学芸員

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