金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2015年1月

その178年末恒例行事を終えて



毎年1230日は恒例「SP盤連続4時間演奏会」。クラシックのSP盤を連続して聴いていただく会で、開館以来続けている。

使用する蓄音器は「蓄音器の王様」といわれる米国ビクターの「クレデンザ」である。

最初は「日本人なら年末と言えばベートーベンの第9でしょう!珍しいSP盤で聴いていただくことは、蓄音器館でなきゃできないのでは」との想いから始まった。

 参加される方々が増え、第9ばかりでなくいろんな曲を手軽に聴きたいとの要望も増えてきた。

そんな想いに答えるため、開館10周年記念で蓄音器でかけた名盤の音をマイクで録音し、より蓄音器の音色に近づけたCD50タイトルをオリジナル盤として発売した。たいへん好評を得、1000枚以上も売れた。

 それでも、やはり蓄音器の生音がいい!と、地元はもちろん、東京、横浜、名古屋、富山などからも毎年足を運んでくださる熱心なファンも多くいて嬉しい限りだ。

この4時間の長丁場を針交換、ゼンマイ巻きを1人で扱うのはたいへんなので、1人当50分程度の持ち時間と、毎年5人がかりでやっている。

特にゼンマイを巻くころあいが難しく、事前に全員特訓をする。皆、汗を拭きながら、器械的に何回巻けばいいというのではないのでゼンマイの固さを巻く手の感覚で覚えるのだ。文化財を扱うコツを身につけるのはなかなか難しい。

 今回は、元アンサンブル金沢バイオリン奏者、当館人気のイベント「カルテット・ローディ」のメンバーである大村俊介氏が選んだ盤をかけた。館所蔵SPの中から英国グラモフォン盤、コロムビア仏盤、コロムビア英国盤などの海外プレスが多く、貴重で盤質の良い選りすぐりの曲ばかりだ。1418時の最終はやはり第91926(大正15年)316日録音、ワインガルトナー指揮ロンドン交響楽団のコロムビア英国盤だった。

 終了後、毎年ご夫婦でお越しの奥様のコメントが当館の取り組みを評価していただいたようで嬉しかった。

「これで、お正月を迎えられるわ」

 



(曲目)

スッペ「詩人と農夫」メンゲルベルグ指揮王立アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(録音:1932)、ヨハン・シュトラウス ワルツ「南国のバラ」ワルター指揮ベルリンフィル(録音:1930)、ベートーベン バイオリンソナタ第5番ヘ長調「スプリング」クライスラー(vi)、ルップ(pi)(録音:1936)、バッハ パルティータ第1番変ロ長調BWV,825 ディヌ・リパティ(pi)(録音:1950)、ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」第13番より「イゾルデの物語と呪い」フラグスタート(sp)ドブロエェン指揮フィルハーモニア管弦楽団、ドボルザーク チェロ協奏曲ロ短調作品104 カザルス、ジョージ・セル指揮チェコフィル(プラハ録音:1937)、モーツアルト フルート協奏曲第4番イ長調K,298 パスキエ三重奏団 ルネ・ル・ロア(fl)(録音:1937)、ベートーベン交響曲第9番ニ短調作品125ワインガルトナー指揮ロンドン交響楽団 ミリアム・リセット(ソプラノ)、ミュリエル・ブランスキル(アルト)、ヒューベルト・アイスデル(テノール)、ハロルド・ウイリアムス(バリトン)(録音:1926、英国コロムビア盤)回転数は80と記載されてい


ベートーベン バイオリンソナタ第5番ヘ長調
「スプリング」(録音:1936)

バッハ パルティータ第1番変ロ長調BWV,825 
(フランス録音:1950
)

ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」第13
より「イゾルデの物語と呪い」
ドブロエェン指揮 フィルハーモニア管弦楽団
ドボルザーク チェロ協奏曲ロ短調作品104 カザルス、ジョージ・セル指揮 チェコフィル

ベートーベン交響曲第9番ニ短調作品125
ワインガルトナー指揮 ロンドン交響楽団

その1773年余りで消えたウオルドレコード

 

金沢蓄音器館には全国から多くのSPレコードが寄贈される。ヒット盤が多いが、なかには珍しい盤も含まれている。

送られた盤は、ほとんどが両面ともカビだらけ。そのカビを取るのがたいへん。いろいろ試したが、小生の一番きれいにする方法は市販のカビキラーを使うことだ。
ちょっとしたテクニックがいるが、綺麗になったSPを手にすると「丁寧に聴いていたのでは?」、「(溝の痛み具合から)こちらの面をよく聴かれたのでは?」、あまりに綺麗で「大事してそれほど聴かなかったのでは?」、などと前の持ち主の想いを馳せることが出来る。

 そんな中に、大正14年に発売され3年余りで消えたウオルドレコードが見つかった。(英文では、WORLD RECORD LTD,.
1150銭でSPが発売されていた時代、3分の150銭という低価格で発売されたSP盤だ。
イギリスで最初発売され、安くて、軽く、踏んでも割れず、団扇のようにも使えるーとそのスリーブに印刷されている。
盤はボール紙を用い、その両面にレコード盤の材料であるカイガラ虫の分泌物であるシェラックを薄く塗ってある。それが強さの秘密だ

大正14912日、大阪毎日新聞夕刊に大きな広告を掲載し、「7000万の国民に安く商品を販売することは、国民全体の大きな利益になる」と宣伝している。

 当館のウオルドの盤は哥沢、義太夫、長唄の4枚。
発売されたすべてのカタログはないが、曲目がユーザーの期待にこたえられなかったことが3年余りで消えた理由ではないだろうか。
レコードは旋律、歌詞、歌い手など曲の中身が一番大切なのだ。

さらに「50銭の価格では、仮に販売店の利益が半分あったとしても25銭、通常の150銭の盤では20%の利益としても30銭。価格が安く、販売店の利益に貢献できなかったこともあるのでは」と近代芸能史研究家・倉田喜弘氏は指摘している。

 歌詞カード裏面の注意書の文面
このレコードをおしまいになられるときは、どうぞ平らな所へひたらくお置きください。もし、でこぼこの所におくと他のレコードと同様に歪んでしまします。万一歪みましたら、とろびで少し温めて平らな板の上に紙を挟んで置き、その上に本のような平らなものを押しにしてお置きになるとすぐに直ります。さようなら。



お知らせ:「V・デスクを聴く」は2月28日14時30分より、金沢工業大学教授・ライブラリーセンター長、竺覚暁氏の解説で開催します。


ウオルドのスリーブ:解説文付き

レーベル:哥沢「新紫」

歌詞カード


歌詞カードの裏面に書かれた注意書き

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