金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2015年4月

その184大ニセモノ博覧会のレコード



平成27310日から56日まで、千葉県佐倉にある国立歴史民俗博物館で「贋物と模倣の文化史―大ニセモノ博覧会」が開かれ、45日に関連イベントとして、小生が「百年後に残る音」と題して話をする機会を得た。

「ニセモノと蓄音器・レコード」はどういう関係があるの?と思われるかもしれない。
蓄音器のニセモノはビクター、コロムビアなど一流メーカー品によく出回った。当館にもビクター品で「ビクトローラ」を「ビクトラー」とロゴマークを変えた品があるし、コロムビアマークの2本線の16分音譜を3本線にして32分音譜にデザインをかえたニセモノ蓄音器がある。
色も同色にしてパッと見には、贋物と気付かない。

 レコードもニセモノが出た。
国産SP盤が明治44年発売になったが早くもその翌年には、新譜を1枚店頭から購入し、自分でメッキして原盤を作り、そのマスターからプレスしたのだ。

桃中軒雲右衛門(とうちゅうけん・くもえもん)の盤は、高い出演料のため1380銭した。12時間労働の工員の日給30銭の時代だ。ニセモノは1円内外で売ったと言う。確実に売れるものだけを複写し、宣伝費もかけないわけで濡れ手に粟の商売だ。

象印のスタークトンの商標盤の著作権者であるリチャード・ワダマン(同じ象印でライロフォンがあるが、これは正規のドイツ輸入盤)は裁判を起こしたが、大正3年大審院でメーカー側は敗訴。心情的には理解できるが、法律がない以上無罪と裁判所は断を下した。
このため諸外国ではコピーは及びもつかないことで「コピーは日本人の発明だと驚いている」と当時の新聞は伝えている。

しかし、大正9年に著作権法が改正によりコピーは違法とされ、ようやく複写盤は一掃された。(ブログ31に記載)

 民博での講演当日は、当館にあるニッポノホンの本物盤、芳村伊十郎の「長唄 鞍馬山」とそのニセモノである2枚の「ヨシノ」と「ラビット」のレーベル盤を紹介したが、音色は遜色がなかった。

安価な複写盤によって、ヒット曲は庶民に広まった利点もあったと言えるかもしれない。



国立民博ガイダンスルームで

本物の芳村伊十郎「鞍馬山」
ニッポノホン盤

複写盤:芳村伊十郎「鞍馬山」
ヨシノレーベル

複写盤:芳村伊十郎「鞍馬山」
ラビットレーベル

その183沈黙の犀星レコード


毎年3月中旬、室生犀星の法要が犀星の幼少期に育った雨宝院で開かれる。
今年は21日(土)の14時から法要、のち小生が「蓄音器で聴く犀星の声」を担当することになった。

レコードをかけるならと、犀星が聴いた曲も聞いてみようということになった。最初はジンバリストの美盤「ツゴイネルワイゼン」。昭和25710年と4度も来日したバイオリニストのSP盤である。

2曲目は、今でも讃美歌として歌われる「星の界(よ)」(讃美歌312番「いつくしみ深き」)は、犀星の妻とみ子がピアノを弾きながら長女、朝子と歌っていた曲だ。

さらに3曲目は同時代に作詞家として活躍した西條八十(さいじょう・やそ)本人が朗読した「母の部屋」。昭和16年戦争勃発と同時に時代は英語より国語が重視され、レコード会社の社名もコロムビアはニッチク、キングは富士音響、ポリドールは大東亜、ビクターは日本音響へ変更を余儀なくされた。

娯楽用の盤の制作はもっぱら兵隊慰門用が多くなり、各レコード会社は教育レコードに活路を求めた。厚生音楽(産業音楽、レクリエーション用)、体育用などを制作し、その中に国文学、朗読研究のための作家、文学者による実声レコードがあった。その顔ぶれは犀星、西條、萩原朔太郎、堀内大学など20人ほどで生の声を聴くことで彼らの人柄が身近に感じられる。

さて、いよいよ次はメーンの犀星実声盤の出番! だが、結果は中止といったハプニングに見舞われた。
このSPは、昭和2956日に大田区馬込東にある自宅でNHKが録音した盤である。通常盤の材質はシェラックといって南方でとれるカイガラ虫の分泌物が主だが、この盤はLPレコードと同じ塩化ビニールで作られたSPだった。
シェラック盤より軽く、柔らかい盤なので、念を入れ、事前に蓄音器館で室生洲々子名誉館長と共に実際に蓄音器にかけて音質も良好なのを確認しておいた。
ところが雨宝院に持参した高級蓄音器はサウンド・ボックスが重く、針を載せても回転しないのだ。無理に演奏すると盤が傷んで聞けなくなるので涙を飲んで中止した。来場者に状況を説明し、了解してもらった。
このSPは室生犀星記念館所蔵のものなので、後日同記念館で聞けるようするとフォローしたせいか、苦情は出なかった。(平成27年7月18日18時30分より室生犀星記念館で再演します)

シェラック盤、ビニール盤の違いを思い知らされ、忘れられない会になった。




犀星が育った雨宝院




「蓄音器で聴く犀星の声」
蓄音器は卓上型の最高の蓄音器と云われる
ビクター 1-90
平成27年3月21日(土)雨宝院
(撮影:柿木英一氏)



NHKが制作した自作朗読「室生犀星」
昭和29年5月6日大田区馬込東の自宅で録音





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