金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2016年5月

その212ボーリング場と蓄音器

 


当館にはブランズウィック社の蓄音器で、大正末期に発売されたコンソールタイプの“バレンシア“と呼ばれるものがある。(この蓄音器の写真は館長ブログ29に掲載)蓄音器の”聴き比べ“で使用し、好評を博している。

クロームメッキのトーンアームは独特のS字型。ビクターやH.M.Vのものとは逆の曲がりになっており、ジュラルミンの振動板のサウンドボックスがついている。ラッパも上部の方が膨らんでおり、柾目の綺麗な材質で一見、バイオリンの胴体のようだ。ティボーのバイオリン曲「ガボットとロンド」(バッハ作曲)を聴き、「目の前で弾いているのでは!」と大阪からの女性客が語った。

 

そのブランズウィック社アルトーナ105型という卓上型蓄音器が当館に寄贈されてきた。

元々ブランズウィック社はボーリング場のレーンなどを製造、ビリヤードなどで有名な会社で、その技術で1916(大正5)年から蓄音器製造に乗り出し、1920年頃からレコードも作り始めている。

初期の蓄音器は縦横振動盤どちらでも使える兼用のサウンドボックスを用い、ラッパも木製の楕円の円錐で独特の形をしており“アルトーナ”モデルと呼ばれた。その卓上型の105型だった。

 

トーンアームは、頭の重さを変えることで針圧を重くしたり軽くしたり出来る独特のもの。縦振動、横振動の異なるレコード盤にサウンドボックスを回転させるだけで簡単に調整できるわけだ。

また、ラッパ管の太さを変えるシャッターで音量も大きくしたり小さくしたり出来るようボリューム用のノブがハンドル横についている。

前部のネットは簡単に取り外せ、木製のスプルス材のラッパを見ることもできて、目でも楽しめる。

金属部分のメッキもしっかりしており製造された時の輝きはそのままだ。本体の木製部分もマホガニー材で重厚感がある。

細部にわたり丁寧なつくりでメーカーの良心が伝わってくる。

レコード盤をかけてみた。マイカ(雲母板)の振動板のためかあるいはその板を止める弾性のある丸ひも状のゴムが硬化しているためか音はイマイチだ。アームの形状だろうか。納得できる音にはまだ届いていない。
さらなる修繕にチャレンジしたい。

 



寄贈されてきたブランズウィック社アルトーナ105型
前面のネットを外した外観

サウンドボックスを下に向け、縦振動の盤を再生

サウンドボックスを回転させて横振動の盤を再生
写真のトーンアーム右にあるレバが左右に動きヘッドの重さを変えられる

ゼンマイハンドルの右横のノブを押せば音量大。
引けば音量小になる(写真:音量大の状態)
その211蓄音器は自動で止まらなかった

 



寄贈された蓄音器のなかに「Non  Set Automatic  Stop, コロムビア蓄音器の自動停止器、使用法」と書かれた説明書がはさまっていた。

 

もともと蓄音器は回転を停止する時は手動でブレーキを使って止めていた。
レコード演奏が終わると自動的に止まる方が便利だ。そこでメーカーによって様々な自動停止装置が考案された。
ドイツ製蓄音器では一般的にオートストッパーはついていなかったという。(「昔なつかし蓄音器」鈴木啓三著より)お国柄のせいだろうか。

 

コロムビアでは、ゼンマイの心棒を直接止める方法が考え出された。
心棒に段差のあるカムを取りつけて、レバーがその段差に引っかかるかどうかで回転させたり止まらせたりする機構になっている。

レバーには調節のためにらせん状の部品がついており、これには「ファイバー」と呼ばれる薄い紙が間に挟まっている。
この紙はレバーの動きに適当な抵抗になり、スムースな回転を与える。この「ファイバー」には決してオイルを付けてはいけない。滑ってしまうのだ。

書くと複雑なように思えるが、実にシンプルでよく考えられているのに感心する。

 

ビクターでは数種のオートストッパーがある。
コロムビアのようにカムを利用した機構は、ビクターでは蓄音器本体でなくレコードを載せるターンテーブル側についている。
また、蓄音器の王様と呼ばれる「クレデンザ」のような高級な蓄音器には、櫛(くし)形のスライドするレバーとフィンガーの組み合わせたオートストッパーを採用している。
これはレコード演奏が進むと「カチ、カチ」という小さな音が耳を澄ますと聞こえる。気になると言えば気になるが、クレデンザらしいと思えばそれも一興だろう。

 

いずれにしろ面倒な?蓄音器操作を出来るだけ楽にしたいと願った当時の想いが伝わってくる。


コロムビアの自動停止器の使い方

コロムビア:段差のあるカムで停止する

ターンテーブルにカムが付いた
ビクターの停止器

櫛形のスライドレバーのビクター停止器
クレデンザ、1-90など高級器に使用された
(写真は、1-90)

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