金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2016年7月

その217レコードディレクター半世紀
  平成284月から昭和歌謡の裏表を紹介する企画として当蓄音器館で「レコードディレクター半世紀」を始めた。

 

講師は、金沢出身で東京大学を卒業し、日本コロムビアで半世紀近くにわたり歌謡曲を中心に文芸部のディレクター、制作部門の仕事をした森淑(もり・きよし)氏である。「三木容(みき・いるる)」のペンネームで多くのCD解説、音楽史を書いており、日本を代表する歌謡曲解説者の1人である。

 

戦後初の大ヒットは並木路子の「リンゴの唄」。その裏面は松竹映画「そよ風」の主題歌「そよ風」。「リンゴの唄」に隠れ、目立たぬようだがタンゴ調の名曲だ。ともに作詞はサトウハチロー。

 

森さんはサトウハチローの歌詞にはいくつかの時代性を見てとれると指摘している。

1つは食料難の時代にリンゴで人の気を誘う言葉であること。2つ目は「黙って見ている青い空」で、ここには戦争が終わりほっとした開放感の一方、漠然とした未来への不安感をいだく人々の心情が巧みに映し出されている。曲のよさだけでなく、抽象的な歌詞だったこともヒットになった要因の1つではという。

 

明るい並木路子の歌の背景には彼女自身の悲惨な戦争体験があった。昭和19年父、次兄、昭和20年には母を戦争で亡くしていた。
負の部分を表に出さず、楽天的なしたたかさを持って歌声と同じ華やかな明るさを表にして生きる、本質的に“芸能人”だったと語った。

明るい高音は男女の色恋に合わず、歌う歌と企画が狭く成らざるを得なかったが「リンゴの唄」1曲で並木路子の名前は残った。
忘れられる歌手が多い中で歌手冥利に尽きる人だろう。

 

最後に、来館者一同で歌った「リンゴの唄」はひときわ大きく聞こえた。


解説:日本コロムビア
森 淑氏


「そよかぜ」霧島昇・並木路子



「リンゴの唄」霧島昇・並木路子


その216昭和7年にラグビー応援歌があった!
 

 

全国から送られてくる寄贈SP盤の中に「慶応ラグビーマーチ」(ビクター盤、レコード番号52427、作詞・安藤復蔵、作曲・山口邪章)があった。
調べてみると、1932(昭和7)年11月に発売になっている。

昭和7年というと515日に五・一五事件が勃発した年であり、その前日には喜劇王チャップリンが来日している。一目見ようと集まった人数は4万とも8万とも言われている。ほかにも様々な事件が相次いだ年だった。

 

日本コロムビアに在籍していた新井正隆さん(慶大在学中、慶応ワグネル・ソサエティーに在部)にこの曲について尋ねたところ、指揮者・大塚淳(すなお)はワグネルの初代指揮者とのことだった。ご子息もTV,ラジオ、レコードなどで活躍したという。

さらに、当時のワグネルは現在のようなオケ、男声、女声合唱の3パートにわかれておらず、一緒に活動していたという。
確かに曲の前半分も後半も演奏のみで、歌詞は途中1番のみである。
レーベルに記載された「合唱・管弦楽」にはワグネル・ソサエティーとだけ書かれている。

慶応の応援歌「若き血」の出だしに似て、勇壮なメロディーだ。

「いさめよ わが友よ、いざゆけ、いざゆけよ、正義の旗なびき、自治の剣輝く、わが慶応、慶応、タララー」(一部歌詞不明)

昭和7年にこんな応援歌があったとはと驚かされる。

 

本年612日、地元金沢での同志社、慶応のラグビーの前夜祭でこのSP盤を紹介した。
明治32年日本初のラグビー部が慶応に誕生、同志社には明治44年に創部された。大正元年両校の対抗戦が始まった。当初慶応が勝ち続けたが、昭和7年に同志社が初勝利を収めたという。
負けた慶応を鼓舞するためレコードが作られたのかどうかわからぬが発売時期に合っている。

当日集まった慶応ラグビー部の面々も皆初めてきく音だった。「部歌」がレコードになっていた!と、一同レーベルの写真を撮りまくっていた。

レコードの影響かわからぬが、翌日の試合は2822で慶応の勝利だった。


「慶應ラグビーマーチ」
演奏・合唱:慶應ワグネル・ソサエティー

(裏面)「丘の上」
歌:田谷力三、徳山璉(たまき)

マスコミの取材を受ける両校の選手たち


第99回同慶ラグビー定期戦パンフレット
その215SONY創業者から“お宝”が! その②
 

平成284月末、SONY創業者のお1人である盛田昭夫ご夫妻の長女岡田直子さんより「盛田コレクション」として当館に蓄音器とリードオルガンが寄贈された。

 

贈られた蓄音器は、英国E.M.G.社が1933(昭和8)年ごろ作ったというマークXb(マーク・テン・ビー)だった。

この社の蓄音器の特長は、ハンドメイドされた独特の音の入り口であるサウンド・ボックスと本体から垂直に90度に曲がった紙製(パピエ・マーシュ)ラッパである。素材はロンドンの電話帳という説もある。H.M.V.、ビクターなどの高級機種の再生音よりも奥行があり、立体的に聞こえる。人の声が身近に聞こえ、演奏がその少し後ろから聞こえるのだ。ナット・キング・コールの「恋はひとすじに」のSP盤を聴いてみた。目の前で歌っているようだ。
針がレコードと擦れる際に出るスクラッチノイズもあまり気にならない。紙製ラッパのお陰だろうか。

ラッパの口径は75㎝の円形で巨大だ。ゼンマイ使用でなく電気モーターでターンテーブルを回転させているが、音は電気を使わず針でレコードの溝をなぞっているだけだ。その音量の大きさには驚きを禁じ得ない。

 

当館に運ばれて点検した際、モーターを動かすための電気コードがよじれていた。このまま通電するとショートする恐れがあるのでコードは新しいものと交換した。またターンテーブルの下には電圧を変換するトランスが内蔵されていたが、これも修理した。

電気系統は壊れていたが、電気を使わぬ箇所はオイルやグリースを補充し綺麗に磨いただけだった。案外単純な部品の方が長持ちするものと変に感心した。

 

今、13回の「聴き比べ」でこのE.M.G.マークXbとリードオルガンの音色がお聴きいただける。

聴かれた方は、皆一様に音の立体感とその音量の大きさに拍手を送る。昭和初期、すでにすごい音が英国にあり、豊かな音楽生活があったのだ。

 


E.M.G.マーク・テン・ビー
ラッパの口径は75cm


SPレコードの回転は電気モーターを
使うが、音は針を振動させるだけ


ナット・キング・コール
「恋はひとすじに」


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