金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2016年10月

その225サボテン針と針削り

SPレコード盤に刻まれた音を再生するには、ふつう鉄針や竹針が使われる。当館では鉄針を使っている。鉄針は線径の太さ、針の形状(しゃもじのような楕円針、先端が曲がった針、先端が急に小さくなる砲弾型の針など)、鉄に含まれる炭素の含有量の多少などでも随分と音色、音量が変わる。

 他にもタングステン針(タングステン鋼を使い、固いために針が減りにくいので10回針とも言われる)、セラミック針(というと聞こえはいいが九谷焼のような陶器を利用した針)、ガラス針、バラのとげを使った針、サボテンのとげを使った針などもある。
鉄が軍需物資だったこともありいろんな代用品が考案された。よりいい音を求めたためだが、それぞれに利点、欠点がある。

 東京からの来館者から「自宅にサボテンの鉢植えがあるのでサボテン針を作ってみた。一度聴いてみて」と鉢植えの写真を見せながら、サボテン針をいただいた。

サボテンのとげは56㎝くらいあるので、とげ1本から針は3本くらい作れるという。

早速、そのサボテン針を使ってみた。音は竹針同様やさしい音色だ。ただ、10インチ盤(25cm)片面はなんとか持ちこたえるが、12インチ盤(30㎝)では演奏時間が長いため針先はかなり減るとのことだった。

「針先が減ったら、先端を紙やすりで研ぐと何度も使えるから」とアドバイスもいただいた。

 一方、愛知県の方からは「竹針は針先が減ると、竹針はさみでチョキンと切って再利用するが、サボテン針の場合は針先が減ったら、これで削るといい。簡単に再生できるから」と“Cactus Needle Sharpener”なる自作品をいただいた。丸いヤスリが回転して、綺麗に針先がとがる。

 作る心、科学する心、デザインする心を持ったいろんな好事家(こうずか)がいる。その顔は、みな活きいきして実に明るい


ビクターの10回針パッケージ
いったん針を取り付けると10回まで
針を動かさぬように書かれている




サボテン針
 左の3本はアメリカ製、右3本は東京からの来館者の製作



愛知県の方が作った”サボテン針削り”
右のハンドルを回転すると、左のやすりで
針先が研磨される



サボテン針を取り付けたところ

その224“ニセモノ”にも出番あり

平成288月、SPレコードとともに1台のポータブル蓄音器も一緒に寄贈されてきた。

 蓄音器は汚れてはいたが壊れていなかった。蓋を開くと、“ニュー・チニー”と大きくマークシールが貼られていた。

「はて、あの芸術品の蓄音器のチニー(館長ブログその94に詳しい)が新型のポータブル蓄音器を作ったのか?」と驚いた。

 まずは、針と振動板がついたサウンドボックスを調べた。90gと随分軽い。ビクター、コロムビアなど他社の多くは150g前後あるが、これは鉄ではなくベークライト製だった。三越オリジナル蓄音器と同じだ。(同ブログその63に詳しい)

サウンドボックスの外観は、コロムビアによく似ている。針をつけて指先でチョンとはじいてみると綺麗な音がした。これなら大丈夫、きちんと鳴る。

ゼンマイも切れていないので、グリース、オイルを交換して何度も油を循環させた。回転はスムースで変な音も出ないことを確認した。

内蔵されている音の出口であるラッパ部が10㎝程度と短く、これなら大きな音色は出ない。やはりそうだった。とても“チニー”の製品とは思えない。

ただ、針を入れておく“針入れ”の形状がユニークで、蓄音器の持ち運びの際も針が飛び出ないよう工夫されている。

 ラッパを短くし、サウンドボックスの材料を変えることで製造コストを下げ、当時高価だった蓄音器の値段を下げたのだろう。メーカーものなら安くて30円はしたが、半値以下で販売したと思われる。三越オリジナル蓄音器は1350銭だった。

大正末期評判の高かったチニーの蓄音器名に似せた名前を使い、見栄えもよくし、安くてもいい蓄音器だと大いにアピールしたと思う。

この“ニュー・チニー”だけでなく様々なうさんくさい?名前をつけた蓄音器が販売された。一種のパクリとも言えるが、それだけ蓄音器に人気があったことがわかる。さらに低価格がその普及をあと押しした。


"ニュー・チニー”ポータブル蓄音器
左手前に丸いキャップをかぶった針入れが
付いている


ふたの裏にある”ニュー・チニー”の
ギターのマーク


ベークライト製のサウンド・ボックス
「カーネーション NO.10」
重量は90g


ラッパが短く、大きな音は出ない

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