金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2017年1月

その233小林幸子の父の「声の遺書」

 

始まりは、平成28年秋口、「鉄で出来た聞けないレコード盤があるんですが、、、」と、NHKテレビの“ファミリーヒストリー”のYディレクターからの電話だった。

「鉄のレコードなんて知りませんが、それはアルミなどの金属に樹脂を塗って、その上から1枚だけ直接録音する私家版ではありませんか?実際に見てみないと正確にはわかりませんが」と答えた。

早速ディレクターはその盤を持参し、当館を訪れた。それは確かに直径18㎝の私家版のSP盤だった。保存状態は良好だったが、曲目、歌手など記載されたレーベルがなかった。

聞いてみると、昭和15年にヒットした「暁に祈る」と裏面は「空の勇士」で、伴奏のないアカペラの音はハリがあっていい声だった。

 

そのレコードは、デビュー半世紀、若者たちからも「ラスボス」と呼ばれ人気歌手の小林幸子さんの父、小林喜代照さんが戦地へ赴くときに遺書として残したものだったという。余程歌が好きだったと見え、ありったけの金を持って地元新潟で録音したものだと聞いた。

当時、1枚だけ私家版としてレコードを作ることは可能だった。東京はもちろん新潟、金沢のような地方都市でも制作は出来た。

メーカーも「祖先を忘れぬため、子孫に伝えるため、自分の声を自分で聴くため、声の手紙を送るため、是非!」と、宣伝している。
自分で楽器演奏したもの、地方の素封家が上京し、東京見物の模様を録音したものなどの盤を寄贈品のなかに見つけたこともある。

音を残すということは、今ならカセット、CD、メモリーカードなど誰でも簡単に出来るが、当時はそうではなかったのだ。

材質の多くはアルミにアセテートなどの塗料、樹脂を塗り、声を直接カッテイングするものだった。また、アルミではなくボール紙を盤の芯にしたものもあった。
しかし半世紀もすればこの塗料が剥離してしまい聴けなくなったものも多い。

 

出征する想いを残した小林喜代照さんのレコードは、200万枚のヒットを生んだ娘・幸子の「おもいで酒」につながった。 

 


盤は剥離せず綺麗だった
平成29年1月5日NHKファミリーヒストリー

普通は剥離して音が聞けない

1枚だけ録音するブランク盤

先祖、子孫の声が残せるとPRしている
ヤマトレコード(蝶印マーク)は紙の芯

金沢にもあった録音盤。昭和11年
金沢、山田屋が製作
その232優雅に蓋が閉まるクレデンザ

 

ビクター・ビクトローラ・クレデンザ(型式:V V 8-30)はその音量、音質の素晴らしさから「蓄音器の王様」といわれている(写真1)。音のすごさはこのブログでも何度か書いた。

 

しかし、音だけでなく他の蓄音器にはない驚く装置も使われているのだ。
それは上蓋の開閉にエアークッションのポンプ方式が取り入れられていること。ショックアブソーバーがついているわけだ。

普通、上蓋をあげて手を離すとその蓋の自重からバタンと音を立てて閉まってしまうのだが、この蓄音器はスーとゆっくり閉じていくのだ。
特に閉まる直前は、さらにゆっくりとなる。実に優雅というか上品な動き方をする。

 

しかし長年使っているとその動作がうまく閉まらなくなる。

そうなった1台を臨時休館日に修理、整備を一緒にしている天谷貞夫蓄音器マエストロと直した。

まずは、本体裏に貼られている板を取り外す。左右の上部にある金属棒が蓋を支えるポンプだ。(写真2)この棒のなかには上蓋とつながるピストンが入っている。ピストン内部には6mmのスチールボールが2個入っており対になっている。
そのボールの間はバネがあり、ピストンの内側にあいた穴にハマるようになっている。(写真4)これで蓋は上がった位置で止まる。

穴の6cm下に1mmほどの小さな穴があり、上蓋を閉じるとこの穴から空気を押しだしてゆっくりと閉じていく。(写真3の金属棒の中央の上ほどの穴)

 

棒の内部の下にはロックナットと調整ネジがついている。(写真3の金属棒の下の方)棒の内部に5mmのスチールボールが1個あり、そのボールを受ける皿がついている。その皿の真ん中には0.5mmほどの小さな穴が開いており棒内部の空気をさらに少しづつ抜くようになっていた。
調べてみると、この穴がふさがっており、空気が抜けることが出来なくなっていた。そこで使用済みの歯ブラシで穴をあけたところ蓋は静かに閉まっていった。

 

この穴が、優雅で上品な動き方をするカナメなのだ。当時の技術者の知恵と工夫そして熱意には脱帽するしかない。


1、ビクター・ビクトローラ・クレデンザ 8-30

2、裏の板を外す、両サイドはエアーポンプ式の
金属棒があり、中央はラッパ裏側

3、上蓋をゆっくり開閉するエアーポンプ
金属棒の上の方に空気穴がある

4、スチールボールが入る穴が上部にある

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