金沢文芸館

ENGLISH

文芸館だより(ブログ)

文芸館だより R5年度

〇5月20日(土)第1回 小説講座 

~短編小説の魅力について~

講師: 宮嶌 公夫(「イミタチオ」同人)

 

小説講座のスタートです。第1回目講師は文学誌『イミタチオ』同人 宮嶌 公夫 (みやじま きみお)先生でした。内容を抜粋し紹介いたします。


1 小説とは?


 ①前提として
  →虚構(フィクション)である。読み手を想定して書かれている
 ②随筆(エッセイ、身辺雑記)との違いは?
  →フィクション性の高さ、語りの自在性、語り手≠作者(書き手)
 ③語り手の存在
  →書き手(=作者) ⇒語り手(≠作者) ⇒焦点化人物(≠作者、=語り手、
   ≠語り手)
  ※「主人公が三人称(彼、□□は)≠作者」はわかりやすい。
   
「一人称小説(わたしは…)は注意が必要」=作者となる場合もあり。
   わたしに作者が投影されるとフィクションではなくなる。

2 魅力ある短編小説とは?


 ①三本柱があること
  A主題(人生、人物、事件など)
   →描かれる内容の焦点が絞られている
  B構成(時間構造、空間構造、人物構成など)
   →物語世界が構築されている
  C描写
   →書きこまれる情報が制御されている
     (描く/描かない、地の文と会話文のバランスなど)
    ※地の文は説明で省略が可能。会話文は再現となる。
 ②全体として大切なこと
   →読んでいて違和感を感じさせない
    作品世界に濃密さ・奥行きの深さが確保されている
    ※薄っぺらな作品▲

3 「紅梅」から

 川端康成氏の掌編小説「紅梅」を教材に、その表現の巧みさを解説していただきました。
 〇対比が効果的に描かれている→いろいろな対比関係がみられる
    「古木の紅梅」⇔「父の死(人間の生命の短さ)」
    「明治製菓」 ⇔「風月堂」
 〇掌編小説では焦点化人物はあまり動かさないのが良い
    本小説では焦点化人物は「娘」となっている
 〇最初と最後で変わることが大切
    最初と最後で焦点化人物(娘)の心情が変わっていくことが大切
 〇文章が大変に構造的である

4 基本的な文章の書き方と基本的な原稿用紙の使い方は?

 〇14点の留意事項を紹介いただきました。一部のみ紹介します。
   ・敬体と常体の文体を混ぜないこと
   ・文の主語・述語の関係をはっきりさせ、ねじれないようにする
   ・独りよがりな表現がないか、文意がしっかりと伝わる表現になっているか
    確認する

 ☆2点目のねじれについて
   ・図書館では、ゆっくり本を読めるために、静かなスペースが確保されている。
    →ねじれが生じている。混乱が生じている。


 宮嶌先生の講座は「小説に向き合う姿勢」と「基本的な留意点」を学んだかけがえのないものとなりました。受講生の皆さんも真剣に聴き入り、今後の創作意欲を高めておられました。
 なお、本講座では、今後の課題が2点提示されました。提出〆切の課題もありますので、ご確認下さい。

A 課題……試作「掌編小説」創作について
 ① 提出〆切日 6月17日(土)第2回講座時までに提出
 ② 400字詰めの原稿用紙で3枚から5枚まで ※字数です 
 ③ お題(テーマ)
    ・時計    ・鉛筆    ・眼鏡
 ※テーマはこの3つの中から1つを選んで作成してください。1グループ7月15日(土)、
  2グループ7月22日(土)どちらかに所属いただいて合評会となります。


B 課題……小説を読んでおいてください。第4回講座8月19日(土)で使用します。
  使用教材………飛行機で眠るのは難しい
  掲載本 ………まぶた
  著者  ………小川洋子
  発行所 ………新潮文庫
  ※単行本「まぶた」(小川洋子)に掲載された短編小説です。ご準備下さい。

 今年度は、題(テーマ)が出題されての試作小説作り、少人数制での合評会等で充実した会にと工夫を取り入れました。課題が出て大変とは思いますが、より充実した講座をと思います。ご不安な点は何でも相談いただけたらと思います。受講生の皆さん、一年間、どうぞよろしくお願いします。


      



〇5月14日(日)第1回 朗読会『青春の門 自立編』

筑豊から東京へ旅立つ信介

朗読: 髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表)

 

 令和4年度の朗読は青春の門 筑豊編でした。筑豊生まれの伊吹信介が、敵対関係にある塙竜五郎一家を助けるためダイナマイトを背負い死んでいく父「重蔵」、女一人で家を守る母「タエ」、重蔵との約束を守り信介やタエを助ける竜五郎らに見守られ、幼馴染の織江との愛を育みながら成長していく物語でした。
 令和5年度は青春の門 自立編です。東京で一人暮らしを始める信介。そこで様々な人との出会いや別れを経験しながら歩んでいく信介の生き様がつづられていきます。

 第1回朗読会が、朗読小屋・浅野川倶楽部の代表 髙輪 眞知子(たかなわ まちこ)さんにより行われました。今年度は、昨年度の青春の門 筑豊編 後半部分に続き、自立編 前半部分の朗読を、12月までの8回シリーズとしてお聴きいただきます。

 今回の朗読場面を紹介します。


             *   *   *   *   *   *   

 

東京に着いた信介。信介は東京の激しい人の波を見つめながら、ここの街の人間になることを思うのでした。信介は、まず靴磨きのアルバイト学生の緒方と出会います。信介は泊まろうとした大学から追い出されて途方に暮れている時、緒方の提案で彼が住む学生下宿屋の部屋に一緒に住み始めます。二人は、家賃、食費、風呂銭もいっしょに使う共同会計で過ごすこととなります。

                        (「最初の仲間」半ばまで)

  髙輪眞知子さんの朗読会は、 皆さんが心待ちにしていたものです。髙輪さんの朗読の一言一言を聞き逃すまいとするみなさんです。部屋は独特の緊張感が交錯する中、髙輪さんの「凛」とした朗読が響き渡りました。終わった時には、皆さん今まで待ち望んでいた喜びを溢れさせるような万雷の拍手となりました。

 いよいよ、髙輪眞知子さんの朗読会 青春の門 自立編の前半部分が始まりました。第2回は6月11日(土)14時です。「最初の仲間」中間部からの朗読です。ぜひご参集ください。お待ちしております。


      



〇5月13日(土)第1回 小説入門講座 

創作へのこだわり

講師: 小西  護(「イミタチオ」同人)

 

令和5年度は、受講生13名のスタートとなりました。中学生、高校生の参加もあり、いろいろな世代の受講生同士で切磋琢磨し合う講座になればと思います。
 1回目の講師は、イミタチオ同人「
小西 護」氏です。まず、受講生の自己紹介で「講座を受講したわけ」についてみなさんからお話いただきました。「小説への憧れがあって…」「面白そうな講座だと思い…」「私は小説はよく書いていて一度見ていただけたら…」「百歳の人が小説を書いている世の中。自分もチャレンジしてみようと…」「泉鏡花記念金沢市民文学賞の松村昌子さん「姫ヶ生水」に触発され…」等、様々な動機が語られました。みなさんの話を聞きながら、拍手・笑顔・笑い声ありの和やかなスタートとなりました。

 それでは小西先生の講座から一部を紹介します。


〇創作にこだわり、書き始める


A 基礎編 自分らしさを踏まえて書き始める

1 書く目的を明確にする

 ~精神的な深化、自己改革の契機

  ・忘れられない風景、出会い、強い印象を大切に

2 読者相()を想定し絞り込む

 誰に向けて、何のために発信するのか

  ・家族、親しい友人、仲間・同人

  ・友人、知人、親戚、地域住民、同世代、子孫

  ・一般(不特定多数)の読者
3 独自性・独創性にこだわり 書き進める

 熱く高いモチベーションと冷静な判断・評価

  ・大切にしてきた風景を想い、こだわりのスタイルを見つけていく。

  ・ジャンルにこだわり、自分自身が惹かれるものを見つめていく。

  ・小説は自由なもの。相手を傷つけること以外は自由。

  ※すべての芸術は模倣から始まる 先人に学び、真似る

  ※私は梶井基次郎「檸檬」が衝撃的な出会いに 百年先にも届く矢・光がある

4 想像力と創造力を自由自在に、大胆に発揮する

 ~文学性と娯楽性、両面の追求

  ・テーマ (主題、ねらい、主旋律)
  ・モチーフ(表現の動機となる核心・中心思想)

  ・プロット(展開、筋立て、構想、仕組み)
5 多様多彩なエピソード(挿話)を織り込む
 魅力あるエピソードの蓄積・整理・活用
  ・整理・蓄積する場所(引き出し、ガラクタ箱)

  ・創作・創造につながる生活習慣(ルーティン)

  ※ルーティンは創作に、創作はルーティンにつながる オン・オフを大切に

  ※夢の「死んだ父の言葉」「何十年もあっていない人の言葉」など全てが材料に。

    書き留めていくことが大切


B 実践編 作品完成までの覚悟と実践

1 とにかく書き始める 逃げずに書き続ける

 ・ノルマを定める……一日〇ページ 一か月に〇ページ等

 ・持久力・体力・集中力の維持

2 作品完成まで 書くことを最優先に

  ・「創作」を生活サイクルの真ん中に置く

 ・自分の分身たちとの対話を楽しみ味わう

3 音読しながら どんどん推敲する

  ・木を見て森を眺める 森を眺めて木を見つめ直す

  ・退屈な説明、迷いの部分は削除し、書き直す

4 信頼できる読み手から率直な評価・感想をもらう

  ・全般の印象(展開力、テンポ、意外性、単純、予定調和…)

  ・登場人物の魅力(対立、矛盾、明かい・曖昧、善人・悪人、地味・派手、
   饒舌・寡黙)

  ・表現・表記(違和感、漢字・平仮名・片仮名…)

5 納得がいくまでこだわり 楽しみながら推敲する

  ・虚構を絡ませ、小説空間を膨らませる

  ・敢えて書き尽くさない

   …読者の読み方・想像に委ねる余裕が余韻と奥行きを生む

 『豊かな創作につなげるヒント』
  ①「つや」「あや」を磨きだす
  ②「語り手」(視点人物)が語りすぎない・出しゃばらない
  ③ささやかで見落としそうなもの、美しくて愛らしいものを活かす
  ④感覚を研ぎ澄ませて、想像した文章表現を
  ⑤時間差、空間移動による「奥行き」(立体的な構成)づくり
  ☆『創作のこだわり』=何にこだわり、積極的に関わって生きるか
            =何に注目し、どんな価値を見つめ、磨いて生きるか
  「表現力」「展開力」「求心力」 … 『人間力』(尽きることのない豊かな泉)


☆次回の課題作文(試作小説)のテーマについて 〆切日は7月8日(土)です。

 ➀「流す・流れる」    ②「忘れる・思い出す」    ③その他 

  二つをつなげてもよいし、どちらかだけでもよい

  ※涙を流す、過去の思い出を流す、水に流す、川が流れる、歳月・時間が流れる

  ※ある人の仕草、口癖、表情、過去の情景、季節・時間・天候、音・匂い・色
   など、心に映し出された素材を、大切に切り取って読み手に伝える文章を期待して
   います。
   書き出しだけ、一場面だけの短い断片でもよいでしょう。

  ➀②では書きにくい、すぐにでも書き出したい題材・情景があるという方は、③その他(自由に題材やテーマを選ぶ)で、のびのびと描いてください。

 小西先生の文芸に対しての熱き想いが溢れ出る講義でした。

 「『文学』は作家の作品を読んでいくもの。しかし『文芸』は違う。文芸は短くとも自分で作品を創り出していくこと。それこそが大切なことだ。私たちがやろうとしているのは文芸だ。」と。

 初日に課題もあり、みなさんは戸惑いながらも、笑顔で帰路につかれていきました。ある受講生の言葉です。

 「いやあ、書き方から教えてもらえると思っていたら、もう書いてみるんや。いやあ、書けるだろうか?できるかなあ。でもやらんなんなあ。」と。

  頭を抱えながらも、それでも笑顔で語る受講生の姿がありました。不安、お困りのことがありましたら、何でもスタッフに相談いただけたらと思います。一緒に歩んでまいりましょう。
 小西 護先生、充実したスタートをありがとうございました。そして受講生のみなさん、これからよろしくお願いします。


次回、第2回小説入門講座は、6月10日(土)10時30分からです。講師は、

小網春美先生で、講義『小説作りの基本とは➀』です。


      



〇5月10日(水)第1回 出前講座 三谷小学校2年

金沢の民話を学ぼう

講師: 吉國 芳子(ひょうし木の会)

 

 金沢市立三谷小学校に訪問しました。講師は吉國芳子さんです。二年生は男女各1名、計2名の笑顔いっぱいの子ども達。反応が素晴らしく、何でも積極的に答えていく子ども達。吉國さんの工夫ある読み聞かせを堪能していました。抜粋して紹介します。


・ペープサート「あめかいゆうれい」

 ペープサートでの飴買い幽霊。黒い布地に貼られていく幽霊やお坊様らの登場人物。読み進めていくうちに、黒い布が深い暗闇のように感じられました。吉國さんの声に呼応するように二人の息づかいまで聞こえてきます。静けさの中でのすごい集中力。身じろぎ一つせずに話に聴き入っています。最後は両手を広げた元気な赤ちゃんの姿絵と吉國さん演じる赤ちゃんの元気な泣き声に、やっとほっとした笑顔になる二人でした。心優しい二人の子ども達の姿に感じ入るばかりでした。
 最後には、金石の道入寺にある飴買い幽霊の絵(円山応挙作と言われる)を不思議そうな表情で見入る子ども達でした。

 優しき金沢民話を心から楽しむ子ども達の真剣な姿が大変に印象的でした。


・パワーポイント「おおかみを退治したこま犬」

 三谷小から近い金沢市鳴和「伝燈寺」に伝わる金沢民話です。
 ある夜、村の孫娘「みよ」が寝ていたところ、おおかみが家の壁を食い破って中に入り、手に食らいつかれてけがをします。そこで、伝燈寺の和尚さんが寺でかくまってくれることになります。その夜、おおかみは群れとなり寺を襲います。そして念仏を一心に唱える和尚さんがそこにはいました。

 あくる朝、見るとおおかみたちが命を落としていました。ふと見ると二匹のこま犬が傷だらけになり口に血がついていたのでした。孫のみよをおおかみから救ってくれたのはまさに二匹のこま犬だったのでした。


 最後、吉國さんは実際のこま犬の写真も見せて下さいました。その迫力ある姿に、金沢民話の不思議な世界に引き込まれていく子ども達二人でした。
「今も血はついているのかな?」そんな疑問を声にして出す純朴な子ども達でした。読み聞かせを息を呑んで聴き入る子ども達の姿がここにもありました。
 他、吉國さんは、ハーモニカ演奏、紙芝居、民話クイズ、マジックなど、大変に工夫ある内容で読み聞かせをして下さいました。そして何より集中力が継続していく素晴らしい子ども達がいました。他、三谷小学校の先生方にもたくさんの準備をいただきました。ありがとうございました。

 三谷小学校の子ども達は、素直な心で想いを私たちに伝えてくれました。耳を澄ますと聞こえてくるのは「子どもたちの息づかい」と「山で啼く鳥の声」だけでした。窓から香る木々の青葉の匂いをかぎながらの読み聞かせ。子ども達との幸せなひと時となりました。
 三谷小学校の元気な二人の子ども達、そして配慮いただいた先生方、様々な工夫をしていただいた吉國芳子さん、ありがとうございました。

 今年度の出前講座、素敵なスタートとなりました。これから一年間、様々な学校へ訪れます。どうぞ、よろしくお願いいたします。


      



ページの上へ

金沢文芸館

〒920-0902 石川県金沢市尾張町1-7-10 TEL:(076)263-2444 FAX:(076)263-2443

アクセスマップ

展示日程の一覧

金沢文化振興財団