金沢文芸館

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文芸館だより(ブログ)

文芸館だより R元年度

10月13日(日) 五木寛之『金沢あかり坂』朗読会

浅野川の瀬音に守られて

進行:髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表)

 

 朗読小屋・浅野川倶楽部代表の 高輪眞知子(たかなわ まちこ)さんによる朗読は前回までに『朱鷺の墓』を終えて、今回は『金沢あかり坂』(抄)をお聴き頂きました。

 この作品は、平成20年4月『オール讀物』に発表されました。主人公は、高木凜という三十一歳の女性で、主計町茶屋街の芸妓「りん也」を名乗っています。かつて芸術好きの少女だった彼女は、フリーのディレクターだった黒江と出会い、その映画制作を手伝う過程で恋に落ちます。しかし、この恋は黒江の野心によって実らないまま別れます。その後、りん也は各種の芸を身につけ、一流の芸妓に成長しますが、とりわけ父親仕込みの強烈な笛は比類ないものでした。そのりん也が、再会した黒江や地元のテレビプロデュ―サーの画策で冬の浅野川の河原で「笛師艶也」と笛くらべに臨むことになります。

 

  収録は予定より二十分おくれて、夜の河原ではじまった。強烈なライトの中に、艶也とりん也の二人の姿がくっきりと照らし出される。ほかの部分の収録はすでに終わっていて、あとは二人の笛の演奏の場面だけだ。凜は古九谷を思わせる濃い紫の付下げに、白地のつづれの帯をしめ、寒気のなかに坐った。どんなに寒くても、冬の内灘よりはましだった。(中略)

  一時やんでいた雪が、またちらつきはじめた。だが、凜は目を閉じたまま吹いていた。心のなかにわだかまっていりる古い記憶を、ひとつずつ送りだすような気持ちで凜は吹いた。「ユウキ、リンリーン」と叫ぶ父親の声。長靴をはいたハッタロウのうしろ姿。狂ったように笛を打ち付ける音。カマイタチの坂。七つ橋めぐりの夜。そして内灘の風。一緒に東京へいこう、といった黒江の声。涙があふれそうになってきたが、呼吸は乱れなかった。いつ吹きおえたのか自分ではわからないうちに、闇の中から湧きあがるような拍手がきこえてきた。

  一瞬おいて、艶也が吹きはじめた。異様なイントロである。最初の音が、どこまでもどこまでも、信じられないほど長く続く。まだ音が切れない。永遠に続くかのような音だった。これが無限笛なのか、と、凜は思った。

 

  凜と艶也による渾身の笛比べは厳寒の夜に火花を散らすような、甲乙つけがたいものでした。その帰り道、凜はふと思い立って、幼い頃から避けていたカマイタチの出る不気味な坂道を昇ることを思い立ちます。長らく名前のなかったこの坂に、「あかり坂」という名前がつけられた矢先のことでした。その石段を一段一段踏みしめて昇る凜は、さまざまのしがらみや重圧を乗り越えて、ひと廻り成長した芸妓として、また、確かな信念を抱いて生きる女性として、くっきりと描き出されているようです。

 

今回も、高輪さんのしっとりとした朗読に導かれて、金沢の風情ある町並や浅野川における七つ橋渡りの習慣、ハッタロウ伝説、さらに浅野川のやさしい瀬音がひときわ親しく感じられ、心が高鳴る午後でした。

次回の11月10日(日)は、五木寛之作『内灘夫人』(抄)前半の朗読を予定しています。どうぞ、お誘い合わせてご来館ください。

 

 




10月12日(土)第6回 詩入門講座

「何もない青い空」に秘められたもの

進行:小西 護(金沢文芸館館長)

 

 午後から、第6回目となる詩入門講座を開講しました。今回は実作の4回目として、受講者の皆さんからお寄せ頂いた作品の持ち味を確認しながら、感想や意見を出し合うとともに、創作のさらなる深化へのヒントをさぐるという内容でした。館長の小西が進行しました。

 

◆作品① 移ろう季節に感じる新しい風について

 ・か弱いもの、ささやかなものへの優しく柔らかな視線が感得できる

 ・「熟する蜜柑色の夕日」に金沢らしいリアリティと味わいがある

 ・「君」に向かう愛しい思いが、切なく、淡く、ロマンに満ちている

 

◆作品② 青い空に海のイメージを重ねて故人を悼む

 ・大切な人の存在感を「厚い雲」の二面性を通して巧みに描いている

 ・「何もない/青い青い空」にも空虚感、開放感、可能性などが感じられる

 ・凝縮した簡潔な表現は、思わせぶりでもあり、魅力の核心でもある

 

◆作品③ 鼻風邪が引き起こす体内の現象に向き合う

 ・3連9行の中に、高揚感、躍動感、意外性が詰まっている

 ・飄々とした可笑しさ、ポエジーが波紋のように広がる

 ・身近なモチーフが、大胆な比喩や断定した調子によって一挙に増幅する

 

◆作品④ ボランティアという仕事に馳せる思い

 ・ボランティアとしての楽しさ、やり甲斐、誇りが伝わってくる

 ・ボランティアであるが仕事でもあるという、二重の意味・意義が響き合う

 ・身近な題材に、気負わず、直裁に向き合い、自分の立ち位置を確認している

 

 今回の4作品は、どれも簡潔に整理されており、読み手は想像力を膨らませてその行間を読み味わう楽しさがありました。実作は4回目ですが、受講者それぞれの個性や表現の特長に対する理解が深まるとともに、創作余話を伺うことで、描こうとした詩の世界への解釈や、読み方の可能性が広がっていくようでした。

 次回は11月9日(土)に、井崎先生の担当で開催する予定です

 

 




10月12日(土)第6回 小説入門講座

『魚を描くなら、魚の棲む水を描きなさい』(チェーホフ)

講師:小網 春美(同人誌『飢餓祭』同人)

 

 大型の台風19号が関東方面に急接近して、金沢でも朝から雨の一日になりました。

 午前中に、第6回の小説入門講座を開講しました。今回のテーマは「描写の力」で、担当は同人誌『飢餓祭』同人の 小網 春美(こあみ はるみ)先生です。自然描写、人物描写、心理描写のポイントを押さえて、小説作品に活かされた具体的な描写を読みました。また、いくつもの実戦的なアドバイスを踏まえて、今後の創作の充実につなげることが目的でした。

 

 1.「描写」の役割

小説の骨格であるストーリーを肉付けするもの。読者にとって最も大切な、小説の魅力や深みの中心と言える。

◆自然描写

人物以外のすべての描写。小説が進行する環境、条件、状況など。自分の目でしっかり観察して、自分の言葉で読者が想像しやすいように描く

◆心理描写

人物の表面に見えないものの裏側に潜む心理の襞を表現する。比喩表現が多い。小説の特長。例えば、雨に寂しさを重ねるというふうに、自然現象に心象を投影させるという方法も少なくない。

 心の内に揺れ動いているものを追い詰めてゆく、という過程

 断定的な表現をさけて、「…かもしれない」「…そうだ」といった含みを持たせた表現で、読者の想像力を駆り立てる

◆人物描写

 外見、容貌、服装、持ち物、癖、動作の特長、話し方など、「個性」を反映するすべての要素と言える

 『魚を描くなら、魚の棲む水を描きなさい』(チェーホフ)

 

2.より豊かに、確かに描くために

  ◆主人公について

   個性的、魅力的、印象的な存在に描く

   作品の、早い段階で登場させる

   履歴書をつくる…生年月、家族構成、職業、経歴、体格、性格、趣味・特技

  ◆作品の背景について

   過去ならば、それが初めからわかるように

   舞台となる実際の地名を出すか、出さないか…長所・短所を考えて

   具体的だと描きやすい反面、イメージが限定されることもある

  ◆五感に訴える

   視覚、聴覚、嗅覚、は必要不可欠。味覚、触覚は必要に応じて

   推敲の段階で、抜けた要素(感覚)を後付けすることもできる

  ◆読者の想像力に委ねる

   「書き込むこと」は大切だが「書きすぎないこと」にも配慮して

   行間を読ませる…読者のイメージや解釈に委ねる

   「書かなくてもわかること」は、読者目線で削除する

 

 まとめでは、誰もが書かなかったモチーフやスタイルに挑戦して、ぜひ様々な作品コンクール(懸賞)に応募してほしいというエールを贈って頂きました。

 次回から(第7回・第8回)提出作品の合評です。作品が未提出・未完成の受講者の方にとっても、大切な学びのチャンスです。ぜひご参会ください。

 

 




9月21日(土) 第5回 小説講座

過去のエピソードを仕組み、物語を裏打ちする

講師:宮嶌 公夫(文学誌『イミタチオ』同人)

 

 

 午後から、第5回目となる小説講座が開講されました。今回の担当は、文学誌『イミタチオ』同人の 宮嶌 公夫(みやじま きみお)先生です。「小説を読む②」のテーマで、向田邦子の代表作品である『思い出トランプ』(新潮文庫)をテキストとして、魅力的な作品の構造や描写におけるさまざまな工夫、独創性、創作の視点などについて読み深め、実際の創作に活かすヒントをさぐっていきました。

 短編小説集『思い出トランプ』(昭和55年)はこの年の直木賞作品ですが、講座では「花の名前」と「かわうそ」の2作品について、その構造を丁寧にたどりながら、登場人物がどのように変化するか、その変化をもたらしたきっかけは何かということを軸として解説して頂きました。

 

◆「花の名前」より

常子が松男と結婚してから25年が経過している。若いうちの夫婦喧嘩では、松男はその日のうちに自分が優位に立って置かないと納まらなかったが、今はほとんど常子の言いなりだった。また、結婚前までは花の名前をほとんど知らなかったが、常子を通して教えて貰ったことが、仕事の上でも役に立った。出世も順調で、真面目で、女道楽にも無縁だと思っていた常子だが、ある女からの電話で、それが自分の思い込みであり、思い上がりに過ぎなかったという事実が判明する。常子が気づかないうちに、若木は大木に成長していたことを悟る。女の物差しは25年経っても変わらないが、男の目盛りは大きくなっていたのだ。

 

◆「かわうそ」より

宅次は定年まであと3年の会社員で、妻の厚子は9つ年下で気働きがあり情も深い。脳卒中の発作で倒れた後で、宅次は赤いソーダ水の夢をみる。それは新婚の頃に厚子が飲んだものだった。そんな矢先、宅次は厚子がかわうそに似ていることに気づく。厚かましいが憎めない、ずるそうだが愛嬌があり目を放せない小動物を連想させた。自宅の200坪の庭にマンションを建てたがっているが厚子だが、大学時代からの友人の電話で宅次は、彼がそんな厚子の相談に乗ったことを知る。5人の男達に囲まれている厚子が見えてくると、厚子にとっては、マンション建設も、かつての火事や父の葬式も、夫の病気さえも、「獺祭」(かわうそのお祭り)のはしゃぎぶりに通じるものではないか、と気づくのだった。

 

作品の中心人物の心情が大きく変化するきっかけとして、どんな過去の出来事をからませることができるかが作品の構造の要諦であり、作品の魅力に直結するものです。言い換えると、視点人物の生きている今の時間に対して、挿入される過去の時間(出来事・記憶)を適切に設定して、リアリティーに富む読み応えのある文章空間を創出していくことが求められます。

向田作品における多彩で繊細な修飾表現が、今でも幅広い世代の読者を惹きつける要因となっていることも確認しました。市井のごく平凡に暮らしてきたかに見えるどんな夫婦にも、それぞれに秘めた暗さや重さ、妖しさや謎めいた何かがあること。男でも女でもおのおのが踏み越え、くぐり抜けた歳月の中で否応なしに変化・成長してきた事実や経過は決して単純なものではない、と思い知らされます。

 

短編小説を構想する段階で改めてこのことを念頭において、過去のエピソードを駆使して、想像力・創造力に満ちた作品づくりに挑戦してくださることを期待しています。

 

 


  



9月21日(土) 第2回 俳句入門講座

来し方を思ふ八十路や萩の花 ~最初の印象を大切にして素直によむこと~

講師:野村 玲子(県俳文学協会常任理事)

 

 

 暑さ寒さも彼岸まで、の言葉通り日ごとに朝夕の涼しさがつのる頃となりました。

 「兼題で作る」をテーマに、第2回目の俳句入門講座を開講しました。講師は、県俳文学協会常任理事の 野村 玲子(のむら れいこ)先生です。受講生の皆さんからお寄せ頂いた作品を鑑賞しながら表現された世界(時空)を味わい、より適切な言葉選びや技巧などを学びました。今回の兼題は、「萩」と「夜長」でした。

 

 舟之御亭舳先を超ゆる萩の波  ・・・  舟之御亭舳先を超ゆる風の波

 

 柿食えばと呟き柿買う男かな  ・・・  柿食へばと呟き柿を買ふ男

 

 露草のまた咲き出しぬ豪雨あと(佳作)

 

 秋薔薇やオフィスの裏に四つ五つ・・・  オフィスの裏に四輪秋さうび

 

 虫の音が萩の柱頭撫で上げる  ・・・  風来ては萩の頭を撫で上ぐる

 (「虫の音」と「萩」が季重なり) 

  

 カリカリと鉛筆夜長に響きたる ・・・  長き夜の鉛筆の音カリカリと

 

 和らぎし陽を浴び揺れる萩の花 ・・・  和らぎし陽ざしに揺るる萩の花

 

 仕事終えいただきものの梨をむく・・・  夜の団居いただきものの梨をむく

 

 アルバムの二人で眺む夜長かな ・・・  アルバムを二人で繰りて夜長かな

 

 鞍馬山暗き小径に萩白し    ・・・  ほの暗き鞍馬山みち萩白し

 

 後添ひを欲す僧侶や萩の寺   ・・・  後添ひを迎へたる僧萩の寺

 

 行列の出来ているなり文化祭  ・・・  行列の門の外まで文化祭

 

 病む肩の痛む心に夜長かな   ・・・  痛む肩撫でつつ夜の長きこと

 

 全体を通して、俳句は削って削って作り上げることで、見たい景色が想像できるように工夫すること。あれこれ推敲を重ねるうちに俳句が壊れてしまうこともあるので、最初の印象を大切にして、あれこれ欲張らずに素直に詠むこと。読み手がすんなりと理解出来るような平明な表現・表記を心がけること。季語が動く(他の季語と入れ替えても成立してしまう)ような句は避けること、といったアドバイスを先生から頂きました。

 

 次回(10月19日(土))の最終回では「句会」形式に始めて挑戦します。当日、兼六園やその周辺で取材した作品を五句ずつ、皆さんに持ち寄ってご参加いただきます。

 

 


  



9月14日(土)第5回 詩入門講座

何を書くか、何を書かないか

講師:杉原 美那子(詩誌『笛』同人)

 

 

 午後からは、第5回目となる詩入門講座を開講しました。今回の担当は、詩誌『笛』同人の 杉原 美那子(すぎはら みなこ)先生です。受講者の実作を通して、感想や意見を交換しながら、講師の助言を活かして詩のテーマや題材に即した具体的な表現方法の深化を目指す講座の3回目となりました。

 

◆作品① ある女性のあたたかい笑顔に触発された感懐

 ・静かに、控えめに、柔らかく、対象を描き出している

 ・抽象から具体へ。読者に届くためにどこを掘り下げるかを焦点化する

 ・彼女の魅力や特徴に切り込むための、もうひと工夫を

 ・慈しみ、防御、かなしさ、思いやり…並列からメリハリある順序や表記、分析を

 

◆作品② 季節ごとの眠気をさそわれる、気怠くゆるやかなひととき

 ・四季の推移をとらえた、親しみやすくリズミカルな世界

 ・童謡詞になりそうな、愛らしいものへの繊細で飄々としたアプローチ

 ・四季(四連)の前後(前置き・まとめ)を添える構成も可能か

 ・例えば「かえる」目線に置き換えるという発想の転換も面白い

 

◆作品③ 真夏の熱風が一段落して、涼風に秋の到来を感じるころ

 ・意外性のある題名が面白い。 視点を変えて挑戦することが大切

 ・不要な一行はないか。意味の重複や解説口調を避ける

  →書くことより、書かないことの方が難しい

 ・凝縮・吟味・省略などを念入りにして、より詩にふさわしい表現へ

 

◆作品④ 亡き祖父も父母も好きだった花を買ってきた不思議な絆

 ・思い出をたどりながら綴る、やさしい語りに癒やされる

 ・人物関係をシンプルに、話し言葉をわかりやすく表記する

 ・だれの 、どんな思いを中心にするか。花と人をからませて丁寧に切り取る

 ・連の構成(まとまり、削除、並べ替えなど)の工夫を

 

◆作品⑤ かつて遠くの島で戦死した二人の叔父を思う、八月

 ・歴史の重み、命の尊さを再認識させられるドラマチックな内容

 ・作者(甥)の思いを軸にすると、よりすっきりと整理される

 ・大切にしたい場面(部分)をより深く、丁寧に表現できないか

 ・重すぎる表現(語句)だからこそ、静かに、さりげなく置くこともある

 

 回を重ねるごとに、表現力もテーマへの追求力もステップアップしてきたと、杉原・井崎両先生から評価していただきました。その一方で、思い切って視点を変えてみること、新鮮で価値ある題材を選び取ること、初めてふれるようなオリジナリティーに満ちた作品づくりにも挑戦して欲しい、という激励もありました。

 次回(10月12日)も作品合評は続きます。受講生の皆さんの、独自の視点が冴える作品をお待ちしております。



  



9月14日(土)第5回 小説入門講座

『魂』が強い人でないと小説は書けない

講師:高山 敏(同人誌『北陸文学』主宰)

 

 

 9月も半ばにさしかかりながらも残暑が厳しいこの日、第5回小説入門講座を開講しました。今回は「創作のこだわり」というテーマで担当は、同人誌『北陸文学』主宰の 高山 敏(たかやま さとし)先生です。「こだわり」とは、些細な点にまで気を配ること、思い入れすること。実際の創作にあたって、どんなところに気を配ればよいか、そのポイントを改めて確認するという内容でした。

 

◆私小説作家・車谷長吉(くるまたに ちょうきつ)からのアドバイス

 ①自分をかばわない

  他人に向ける視線の2倍以上厳しい視線を自分に向けて書く

  厳しい視線に耐えて思索を深めることが重要

 ②質・量ともに豊かな勉強量を

  国内・海外を問わず、最低30人の好きな作家の全集を読破する

  →状況、会話、形容詞・形容動詞・副詞の用法など、先進の技を吸収する

  好きな小説一編を、最低50回音読して、耳で聴くことの重要性を理解する

 ③頭が強い人=魂が強い人 でないと小説は書けない

 

◆こだわりたいポイント

①タイトルを重視する

  タイトルはキャッチコピーに同じ。

  作品の「キーワード」「結論」「個性的・特徴的な主張」などから絞り込む

②巧みな結末を導く

  初めから結びを考えておく

→それに至るつなぎ方は「それゆえ」「にもかかわらず」

 ③「五感」を駆使して臨場感を増す

  「五感」の総合的な感受が、リアリティを生む

  →視覚に頼りがちな習慣を脱却する

【参考】
『2週間で小説を書く!』 (清水 良典・幻冬舎)
『作家養成塾』 (若桜木 虔・KKベストセラーズ)
『虎の巻』 (宇治 芳雄・遙飛社)

 

 この日の結びで先生から、描写(情景・人物)次第で、単調なストーリー作品内容を豊かにできること。しっかりとしたキャラクターデザインを踏まえて丁寧に書き込むことで、人物の魅力を最大限に引き出すことの大切さを認識するように、というアドバイスがありました。

 原稿提出は、次回10月12日(土)に迫りました。これまでの創作上の要点をおさえながら、強い思いを秘めた作品の完成にむけて、果敢に挑戦してくださることを期待しています



  



9月8日(日) 第5回『朱鷺の墓』朗読会

イワーノフの命を奪い、染乃の人生を翻弄したものは

講師:髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表)

 

 

 台風15号が接近する余波により、金沢や北陸一帯は朝から快晴の真夏日となりました。

 

花田屋の旦那の事件からひと月が過ぎたある日、花井守が染乃のもとを訪ねてきました。花井は軍の幹部と内通して染乃とイワーノフのハルピン行きを画策した男でした。その画策が花田屋の一件によって水泡に帰して自分が軍から厳しい叱責を受けたことで、意趣返しに来たのです。この日、染乃は隠し持っていた包丁で身を守り、花井の暴力をなんとか切り抜けますが、その数日後の真冬の河原で、イワーノフが七人の屈強な男達に集団暴力を受けてしまいます。この花井の指示による謀略によって、イワーノフは重傷を負って意識喪失し、瀕死の状態に陥ります。一旦は回復の兆しもあったのですが、染乃の昼夜に亘る必死の看病の甲斐なく、失意のどん底で微かに過去の思い出をたどりながら、イワーノフは静かに息を引き取ってしまいます。

 

 冬の日本海は怖ろしいほど荒れていた。

 風がうなり、波は見あげるような高さで内灘の浜に押し寄せてきた。海は黒く、広く、暗い雲の下にうずくまっている。

 染乃は烈風に吹き倒されそうになりながら、白い包みを抱いて、波打ち際を歩いていた。

 どこにも人影はなかった。染乃の足許に波が押し寄せてきて、足許がすくわれそうになる。染乃はよろめきながら歩いていった。

 彼女がかかえているのはイワーノフの遺骨だった。ひっそりとつつましく淋しい弔いを終えた後、一週間の間、染乃は誰にも会わずイワーノフノ遺骨と向きあって坐っていたのだ。(中略)

 〈わたしはひとりだ〉

 染乃は波と風に吹き倒れそうになりながら、一歩一歩、濡れた砂の上を歩いて行った。

 やがて、彼女は海に向って立ち止った。そしてしばらく呆然と海を眺めていた。それからかかえた箱を、波に向って、遠く、強く投げつけた。

 白い箱はいったん波頭に押されて、浜辺に打ち寄せられたが、再び寄せてきた波にさらわれて、ひきこまれるように海の中に見えなくなった。

〈これでいいのだ〉

 染乃は口の中で呟いた、この海の向こうにシベリアがる。そしてロシアの大地がある。イワーノフの生まれ育った町がある。イワーノフはこの日本の古い城下町で死んだ。だが、その遺骨をこの土地に葬る気持ちは、染乃にはなかった。

 イワーノフをそんな姿にしたもの、それが何であるかを、染乃は考えていた。

 それに対する強い怒りと悲しみが、染乃の体を充たしていた。この土地にあの人を埋めたりはしたくない。染乃はそう思ったのだ。

 

 やがて巡り来た春の景色の中で染乃は、自分にとってイワーノフがすべてだったこと、そのイワーノフのいない金沢は無縁の土地であることを悟ります。もうこの町の人間として生きることが出来ないと心に決めた染乃は、機一郎の母の慰留を振り切って、かつてイワーノフと暮らした、ウラジオストクに向けて旅立ちます。イワーノフの両親をさがして、一部始終を話したいという強い気持ちがありました。

 誰がイワーノフを殺したのか……。それは、今遠ざかっていきつつあるあの緑の美しい島。世界の一等国と称されて富国強兵の道をひたはしる、この国である、という苦い感慨が染乃を充たしていくのでした。

 

 通算21回、三年越しの朗読会が終了しました。明治末から大正末まで、ほぼ二十年に亘る大河ロマンであり、五木寛之氏の初期の代表作と称される『朱鷺の墓』でした。この作品朗読を通して、生きることの意義、自分らしく生き抜くことの尊さ。寄り添い合って生きる夫婦の絆の深さ、それらを翻弄するような混沌とした時代を支え築いた人々の信条、憧れ、野心、存在感などを垣間見ることができました。スリリングでダイナミックな展開、叙情的で繊細な風景・情景描写、心の襞をえぐるような人物の描写や会話など、時代を超えた新鮮で魅力に満ちあふれたドラマチックな作品の醍醐味をじっくりと味わうことができました。決して、個人の読書では届かない奥深さです。

この間、休まずたゆまず、心のこもった朗読を聞かせてくださった、高輪 眞知子さんに深く感謝を申し上げます。有り難うございました。また、熱心にご参加くださった皆様には、引き続きこの朗読会でお会いできることを楽しみにしております



  



9月5日(木)出前講座 金沢市立押野小学校1学年

ぼくのふくげんきにのぼるカブトムシ

講師:竪畑 政行(県児童文化協会)

 

 

 夏休みが明けて間もないこの日、押野小学校にお伺いしました。運動場の奥から立派な楠が見守ってくれています。1年生2学級71名の皆さんの生活科の授業で「俳句を作ろう」の学習です。子どもさん達にとって、初めて挑戦する俳句作りの講師を担当してくださったのは、県児童文化協会の 竪畑 政行(たてはた まさゆき)先生です。

 まず、俳句とは何か、どんなものか、という質問では、ほぼ3分の1の子どもさんが反応してくれました。5・7・5、とか『プレバト!?』というつぶやきも届いていました。5・7・5など音数になじむために、先生からは「この教室で2音のものを探しましょう」から始まりました。3音、4音、5音、6音とだんだんハードルは高くなりましたが、子ども達の反応は、驚くほど速やかで、確実でした。

 次は、「あさがお」「はなび」といった実際の1年生を想定したん夏休みの絵日記の例をもとに、5・7・5を見つけ出す練習をしました。日記の中から俳句にできそうな言葉を選び出し、5音か7音になるようにさぐっていきます。みんなとても興味を持って取り組んでいました。

 最後の仕上げは、自分の絵日記から、同じように言葉を選び出し5・7・5に揃えていきました。初めてのことで、なかなか苦戦している子もいましたが、子どもらしい俳句が次々と生まれました。その一部です。

 

  なつやすみバーベキューしてたのしいな

  バスのなかすずしいかぜがふいてくる

  めちゃくちゃで夜のたんけんなくなった

  まきがいは生きていました中みたよ

  かきごおり外でたべたらとけちゃった

  なつやすみユニバーサルはたのしいな

  ウクレレをじょうずにひけてうれしいな

  かぜがふくしんかんせんはあおいかぜ

  大ニュースがっしょうづくりみせになる

  パパとぼくじぇっとにのってうれしいな

  かなざわの花火たいかいにじいろだ

  かつ山のイルミネーションきれいだな

  ぼくのふくげんきにのぼるカブトムシ

 

 押野小学校では、全校児童が季節ごとに俳句作りをしてお互いに発表し、コンクールも開催しているとのことです。これからも末永く、俳句作りに親しみ、友達の作品のよさに気づくなど、俳句の鑑賞の楽しさを味わってほしいと願っています。



  



8月24日(土) ナイトミュージアム「夕暮れでナイト!」

なつかしくてもの悲しい 夏のお話会でした

出演:朗読小屋・浅野川倶楽部 (川畑圭子・池本玲子・髙輪眞知子・宮下美智子・本田茂代
                ・石森はる)

 

 夏休みも残りわずかとなりました。夕方の6時30分から、金沢ナイトミュージアムのイベントとして、「夕暮れでナイト!」を開催しました。朗読小屋・浅野川倶楽部の皆さんのご出演で、「はじめての紙芝居」と「金沢三文豪が愛した、大人も泣いちゃう語り」をご披露しました。プログラムは次の通りです。

 

◆はじめての紙芝居

 浅野川夢譚「かわうそと風鈴」 語り:川畑 圭子 さん

 原作:山上たつひこ 協力:金沢東山まちづくり協議会

  (漫画家・山上たつひこ原作のオリジナル紙芝居です)

 

◆金沢三文豪が愛した、大人も泣いちゃう語り

 泉 鏡花『照葉狂言』より 「阿銀小銀」  語り:池本 玲子 さん

 徳田秋声『えらがり鯛蛸』  語り:高輪 眞知子 さん、宮下 美智子 さん

 室生犀星『蠅と蟻のはなし』 語り:本田 茂代 さん、石森 はる さん

 

 『かわうそと風鈴』

 むかしむかし、城下町の川縁に弥助という風鈴職人が住んでいました。弥助が作る風鈴はとてもよい音を響かせるので、とりわけ花街の女のひと達に良縁を招くという噂がひろがり、とても人気がありました。かわうそのゴウもこの風鈴の音が大好きで、いつからか弥助に弟子入りを許してもらいました。

 風鈴の評判を聞いたお城の殿様から、風鈴を献上するようにという命令が下りました。弥助はあいにく身体の具合の悪いおりでしたが、ゴウの懸命な手伝いもあり、ようやく風鈴を献上することができました。ところが、しばらくしてからお城では風鈴に動物の毛が付いていたことがわかり、城にふさわしくない不浄なものだ、ということで大騒ぎになります。殿様は、不浄な風鈴を持ち込んだ弥助に、死罪を命じます。驚いたゴウは、その毛が自分のものであることに責任を感じて、お城に駆けつけて、弥助の死罪を取り消してくれるよう懇願するのでした。弥助は、こんな自分をわが子のように大切に育ててくれたうえに、風鈴づくりを熱心に教えてくれる大切な人だと訴えたのです。

 そんな矢先の夜、城下に大雨が降り続け、浅野川が氾濫しそうな勢いになりました。氾濫すれば町の家々も人も洪水に呑み込まれて、押し流されてしまうかもしれません。かわうそのゴウは、濁流の勢いを押さえようと必死で木々を渡して悪戦苦闘しました。もうこれで大丈夫…というときに、上流から勢いよく流れてきた切り株に押しつぶされて、ゴウは死んでしまいました。ゴウは自分の命をなげだして、城下の町やたくさんの人々を救ったのでした。

ようやく嵐が収まり、ゴウの活躍で死刑をのがれることができた弥助は、浅野川の川縁に立って涙にくれていました。そうして、大声で何度も何度もゴウの名前を叫ぶのですが、それに応えるように、どこからともなくあの風鈴の音が響いてくるばかりでした。

 

この日の交流サロンは満席のお客様で、熱心にお聞き頂きました。浅野川倶楽部の皆さんも、演目ごとにユーモラスな衣装や動作、効果音などの楽しい工夫や演出をしてくださったおかげで、もの悲しいお話の世界に引きこまれるようでした。普段の朗読とはまたひと味ちがう和やかな空気とともに、去りゆく夏を名残惜しむ、そんな夕暮れのひとときになりました。



  



8月22日(木) のまりんの紙芝居劇場

夏休み子どもセミナー

講師:野間 成之(「野間ひょうしぎの会」代表) 

 夏休みのお楽しみ行事である「のまりんの紙芝居劇場」を開催しました。出演は、「野間ひょうしぎの会」代表の《のまりん》こと、野間 成之(のま しげゆき)さんです。のまりんの紙芝居は、金沢はもちろん全国各地、中国やシンガポールなどでも催され、幼いお子さんからお母さん世代、さらに、お年寄りまで幅広い人気があり、当館でも毎年ご好評をいただいています。

 今回の演目は、次の4作品でした。

①  ぞうさんきかんしゃ ぽっぽっぽ

②  しょうじきこぞうさん

③  アヒルのおうさま

④  まんまるまんまかんかかたん

 

「アヒルの王様」(フランスの童話より)

 むかしむかしあるところに、とても贅沢な王様がいました。いつも働き者でこつこつお金を蓄えているアヒルが暮らしていました。王様はそのアヒルに、

「お金を貸してくれ」といって借りたまま、いつまでたっても返してくれません。こまったアヒルは、ある日、王様に返してほしいとお願いするために、お城まで歩いてでかけることにしました。途中で、キツネに会いました。キツネもアヒルのおなかに隠れて、お城まで一緒にいくことになりました。次に、たくさんのハチと川に出合いました。ハチと川も小さくなってアヒルのおなかに隠れて、お城までお供することになりました。

 さて、お城では王様が贅沢な食事の最中でしたが、アヒルが来たことに気づくと、家来たちに命令して、アヒルを捕まえて鶏小屋にとじこめてしまいました。鶏小屋には大きな大きな七面鳥が怖い顔で

「食べちゃうぞ~」とアヒルに迫ってきます。そのとき、アヒルの胸の中に隠れていたキツネが元気よく飛び出して、怖い七面鳥をやっつけてくれました。

 ほっとする間もなく、王様はアヒルを家来に捕まえさせて、大きな鍋の中でグラグラ煮て、食べようとしました。

「うわぁー、熱いよ、熱いよ・・・・助けてぇ・・・」すると今度は、不思議なことに、アヒルの胸の中から川水がどんどんあふれ出てきたのです。川の水は、お城じゅうが流されるような洪水になって、アヒルの命を助けました。

すると王様は、逃げようとするアヒルをまた捕まえて、その首を締め上げて、首をはねて殺そうとしたのです。危機一髪のこのピンチに、今度は数えきれないほどたくさんのハチがアヒルの中から飛び出して、王様や家来たちの身体を容赦なく刺しました。

「ひゃあ・・・痛い、痛い。た、たすけてぇ・・・」王様も家来たちもたまらず逃げ出しましたが、その途中で王冠も転がり落ちてしまいました。アヒルがその冠をかぶると、頭にピッタリとあてはまりました。

「あんな怠け者の王様より、働きもののアヒルの王様がいい」「アヒルの王様、バンザーイ」と町の人たちも大喜びです。こうして、働きもののアヒルの王様が誕生しました。めでたし、めでたし。

 

 のまりんの紙芝居ではすっかりおなじみの「十八番」である、まんまるまんまも、大好評でした。一般のご応募の方、まこと保育園の皆さんと2部構成でした。子ども達の笑顔と歓声がはじけて、愛らしい拍手があふれる、午後のひとときでした。

 今年もエネルギッシュな紙芝居を演じてくださった、のまりんのこれからのご活躍を、お祈りしています。また、お会いできる日を楽しみにしております。



  



8月17日(土) 第5回 小説講座

書くために読む、読み解く

講師:剣町 柳一郎(小説家『櫻坂』同人) 

 午後から、第4回目となる小説講座を開講しました。今回は、同人誌『櫻坂』でご活躍中の小説家 剣町柳一郎(つるぎまち りゅういちろう)先生をお迎えして、「小説を読む①」をテーマとした講座でした。江國香織『きらきらひかる』(新潮文庫)をテキストとして、小説を書く上で大切なポイントについて実作を踏まえて学習しました。

 

◆読む力を養うことは、書く力に通じる

 ~江國香織『きらきらひかる』は、どこを読むか~

  ○どこに伏線があるか

  ○どこが個性的な文章か

  ○登場人物の必然性、展開の妙味

 ○作者の言いたいことを読み解いていく

  ○ラストをイメージし、作品の裏を読み進める

  ○情緒不安定な妻「笑子」と、どこまでも優しい夫「睦月」との関わり

   「睦月」が「笑子」を受け入れ、優しくできる理由は?

  ○平成3年刊行のこの作品が持つ先見性

  ○比喩表現の豊かさ、斬新さ         …などに注目して

 

◆書くためのヒント(復習・確認)

  ○創作の糸口を見つける …書きたいこと、ぶれないテーマを持つ

  ○好奇心を深化させる …リアリティの裏付け、取材による資料の蓄積

  ○ストーリーの面白さを究める …結末から逆算する、面白さ=心が動くこと

  ○五感を大切に …観察したことを言葉に置き換え、五感を活かした描写・情景を

  ○人物のつくり分け …キャラクターシートで整理し、立体感を出す

  ○書き出しと結末の力 …「起承転結」に拘らない。「結」から入ってもよい

  ○会話表現 …生きたセリフ、心に響くセリフ、機知に富んだセリフを 

 

お話の中で、《文章は香りであり、オリジナルであること。つまり、その人でないと書けない世界を持つことが大切。文章のうまさは問題ではない》ということを再三強調されました。書こうとするテーマの切実さを重視して、読者にとってわかりやすく、共感しやすい文章を紡ぐ姿勢を持続したいものです。

「あいつと結婚するなんて、水を抱くようなものだろう」(『きらきらひかる』より)の「水を抱く」が作品のキーワードとして読者の心に掛かり、読み進める中でイメージやその意味が深まるというプロットにも、心憎いばかりの魅力があると感じました。

 

次回は、9月21日(土)「小説を読む②」のテーマで、宮嶌先生の担当です。テキスト、向田邦子『思い出トランプ』をご一読の上、お誘い合わせて、ご参集ください



  



8月17日(土) 第1回 俳句入門講座

力まずに、素直な気持ちを写し取る

講師:野村 玲子(県俳文学協会常任理事) 

 15日は台風10号の影響を受けて、県内各地で猛暑日となりました。

 久しぶりのまとまった雨も上がり、また暑さが戻ってきたこの日、第1回俳句入門講座を開講しました。講師は県俳文学協会常任理事の 野村 玲子(のむら れいこ)先生です。今回は「私の好きな俳句」というテーマで、受講生の皆さんからお寄せ頂いた作品を読み味わうことが中心でした。

 

 煙しむ雨の晴れ間の墓参り (佳作)  「墓参」でもよい。

 

 爺も来い婆も来いとて霊迎 (佳作)   温かみとユーモアがある句

 

 カナカナの深山にひびき散歩する  →  蜩の深山にひびく散歩かな

(なるべく片仮名を避けて)      蜩の声聞きたさに宿をとる

 

 水遣りに浜木綿の青匂い立つ    →  水遣りに浜木綿青く匂ひ立つ

 

 お買得見れば小さきうなぎかな   →  お買得と見れば小さきうなぎかな

  (初句は字余りで丁寧に)

 

 白銀をばらまいてきらり夏の海   →  白銀をばらまきしかに夏の海

 

 午下がり耳鳴り勝る蝉の声     →  耳鳴りに勝れる午後の蝉の声

 

 夕立や焦る自転車空回り      →  夕立や自転車降りて雨宿り

 

 「俳句における10のないないづくし」を先生からの資料をもとに確認しました。

①    上手に作ろうとしない     …構えない、力まない、欲張らない

②    難しい表現をしない      …「平明」な言葉選びを

③    言いたいことを全部言わない  …完結すると面白さが半減する

④    季題(季語)を重ねない    …季語に任せ、季語に語らせる

⑤    言葉に酔わない        …自分の世界に浸り、力み過ぎない

⑥    人まねをしない        …ふっと浮かんだ言葉に力がある

⑦    切れ字を重ねない       …「や」「かな」「けり」

⑧    作りっぱなしにしない     …他者の視点や自分自身の冷静さを

⑨    頭の中で作り上げない     …実際にその場で、五感に受け取ったことを

⑩    一面だけでものを見ない    …異なる視点・角度も交えて

 

初心者の内は、やはり『歳時記』を活用して、季語や作例を学ぶことが第一であること。創作にあたっては、力まずに、素直な気持ちで日記を書くような気持ちで臨むというアドバイスを頂きました。

次回も「夜長」「萩」などの秋の季題を盛り込んだ作品の合評を予定しています。皆さんの積極的なご参加をお待ちしています。

  



8月10日(日)第4回  詩入門講座

テーマを潜め、テーマに迫る言葉を紡ぐ

講師:井崎 外枝子(詩誌『笛』同人) 

 午後から、第4回詩入門講座を開講しました。今回は前回に続き、受講生の皆さんからお寄せ頂いた作品を読み合わせしながら、感想や意見を交換すると伴に、先生からもアドバイスや講評をいただき、実作に活かそうという内容でした。担当は、詩誌『笛』同人の井崎 外枝子(いざき としこ)先生です。

 

1.作者自身(分身)でもあり観察者でもある

明るいユーモアと親しみやすさがあふれる、リズミカルな展開の作品

おせっかいで厚かましい/でも、あったかい 

そんなオバチャンの典型的な個性に寄り添う自分と冷静に観察する自分

作者の立場をより明確にすることで、観念的に陥らないような配慮を

 

2.説明を最小限に留め、大きなイメージの展開に挑む

父母への愛情や感謝の気持ちが、すがすがしく、心地よい作品

状況の説明をあえて省き、読者に委ねることも必要

斬新で、独自のイメージを膨らませて、「詩の言葉」を紡いでゆく

語や連の順序を置き換えるなど、視点を変えて工夫する

 

3.単調(一本調子)に陥らない詩の空間づくり

夏に立ち向かう、剥き出しの熱い思いを描いた作品

オノマトペの多用や正直で一途な思いが、通俗に流れる危うさもある

改行して風通しをよくする……変化、転調、ブレーキなど

どうしたら読後の「余韻」(余情)を大切にできるか、という視点で

 

4.どこに焦点を当て、どこまで切り取る(描き出す)のか

祖父の戦争体験を回想し、語り口調でつぶやく作品

改行・行空きの工夫により、内容のまとまりや展開をより明確にする

意図的な省略で巧みに「静寂」の空間を創出している

具体的な会話をもっと書き込んで、内容の深化を図る

 

5.テーマは心に潜めて

厳しい環境の故郷で生きる、老いた父母への思いを描いた作品

情景描写(説明部分)と心理描写のバランス、描き分けへの配慮

テーマを秘めたまま、独創的で客観的な光景をさらに追求する

抒情をたたえた描写・表現の工夫を通して、テーマに迫る

 

今回は井崎先生のご友人で、兵庫県宝塚市にお住まいの 木村 透子(きむら とうこ)さんにもご同席いただきました。読み手によって読み方がふくらみ、意味の解釈や作品全体の印象、評価などが異なることも改めて学ぶことができました。お互いの感想や先生からのアドバイス踏まえて、着実に、作品内容のステップアップを目指して欲しいと期待しています。

次回は9月14日(土)の開催です。お誘い合わせてご参加ください。

  



8月10日(土)第4回 小説入門講座

言葉の感覚を磨いて、独自の比喩表現を

講師:小網 春美(「飢餓祭」同人) 

 厳しい暑さが更に続く中、第4回小説入門講座を開催しました。今回のテーマは、「小説の文章」で、同人誌『飢餓祭』同人の、小網 春美(こあみ はるみ)先生の担当でした。

 小説の文章を書くに辺り、創作者として必要な知識や、望ましい姿勢などについてお話いただきました。

 

1.「正しい文章」を書くために

 ○「美しい文章」「豊かな文章」の土台となるのが、「正しい文章」。こまめに辞書を引き、漢字、送り仮名、表現の用例、類語の知識などをはっきりさせて書くこと。

 ○初心者のうちは、短い文とすることが基本。志賀直哉、菊池寛などの作品が参考になる。一文が長くなる場合は、文のねじれ(主語・述語が噛み合わないこと)が起こらないように注意する。

 ○論理(内容的な筋道)が通っているかがポイントで、自分の考えをまとめ直して書く

 

2.文章が上達するために

 ○なんと言っても「名文」を丁寧に読むこと。文章をまるごと筆写することで鍛錬されるものもある。好きな作家の好きな作品が、自分の肌に合うお手本の「名文」と言える。

 ○常体・敬体をしっかりと書き分ける。また、難解な言葉・表現を避けることで、読者が親しみやすく、イメージが膨らむ表現に近づくことができる。

 ○スラスラ書き進めるよりは、抑制の効いた文章を絞り出すようにしっかりと書く。

 ○思い切りよく削除して書き直すことで、文章展開が整理される。

 

3.表現、表記の留意点

 ○会話文「『……』と言った。」の反復にならないように、多様なつなぎ方を工夫する。

 ○会話文は独りよがりにならないように、説明しすぎないように音読して吟味する。

 ○こと、など、ところ、ころ、あと、ほど、ただ、ある、ため、ない、わけ、そのうち、

  といった表記は、現代では平仮名を基本とする。

 ○オノマトペ(擬音語・擬態語)や比喩表現は、自分のオリジナルを工夫して書く。

  実体験・実生活における実際の感覚をしっかりと踏まえて表現する。

 

4.書き出しと結び

 ○書き出し、最初の一行・一文に力を入れる。ただし、奇を衒うことや、自分に酔うことは逆効果になるので要注意。ちょっと驚かせるほどで、無難に始めるのもよい。

 ○結びを「落ち」をつけることと考えない。蛇足になることもある。

 ○「小説の結びは、あっさりと筆を置き、あとは読者に任せる」(チェーホフ)

 ○余韻(時間・運動の継続を強調する)を残すような工夫をする。

 

擬音語・擬態語の用例として、林芙美子作品「骨」の一部が紹介されました。ここに引用された「べろり」「さめざめ」は作者の言葉に対する感覚の鋭さによって支えられたもので、これ以外のものはないという表現になっている、とのことです。自分らしさや独創性を追求して、実際の創作の中で斬新な表現にたどり着くのは、なかなか難しいことだと感じました。お手本となる文章を丹念にたどる鍛錬を繰り返しながら、鋭敏な感覚を磨きたいものです。

 

次回は9月14日(土)の開催です。お誘い合わせてご参加ください。

  



8月4日(日) 第4回『朱鷺の墓』(流水の章)朗読会

自暴自棄の染乃をしっかりと包み込んだもの

講師:髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表) 

 連日の真夏日が続く午後、第4回『朱鷺の墓』(流水の章)朗読会を開催いたしました。今回も朗読小屋・浅野川倶楽部代表の 高輪 眞知子(たかなわ まちこさん)による朗読をお楽しみいただきました。

 金沢でひっそりと穏やかに暮らしたいという染乃・イワーノフ夫妻の願いを覆すような暗雲が忍び寄って
いました。大陸における日本軍の情報提供者として夫婦でハルピンに赴きレストラン経営をすることを、軍の幹部から強要されたのです。イワーノフがスパイ容疑で憲兵隊による拷問にかけられ、命からがら戻された矢先でした。二人の落ち着いた生活が保障されるのなら、やぶさかではないと考えた染乃は、ひそかに機一郎の母に相談を持ちかけます。母は機一郎と染乃夫婦とが築いてきた深い信頼関係や染乃が直面している苦境を察知し、機一郎のために蓄えておいた大金を差し出します。その金を軍の実力者たちと結託している花田屋の主人に直接手渡して、難局を打開するように指示します。

 翌日深夜に母の言葉通りに花田屋と密会し、授かった大金を渡そうとします。花田屋は敢えてその金を受け取らず、夫婦のハルピン行きを進める西本一派らの軍の計画を中止することが出来る、と豪語します。ただし、染乃が花田屋の醜い欲望の思うままに抱かれることが交換条件でした。悪夢のような行為の一部始終が済んだあと、手すりから身を乗り出して咳き込んでいる花田屋を突き落としてしまおうか、という考えが染乃によぎるのでした。

 

  染乃は息を止め、体をこわばらせて、腕に力を込めようとした。だが、不思議な力が染乃の腕を、金縛りにあわせたように固定してしまったのだ。染乃は右手をさしのべたまま、化石のようにその場にたちすくんだ。

〈わたしにはできない。わたしにはこの老人は殺せない〉

  染乃は首を振った。(中略)彼女はため息をつき、右手をひいた。

  その時、花田屋の主人がゆっくりとふり返った。彼の両目からは、夜目にも白い大粒の涙がこぼれて
いた。彼は咳込むのをやめると、低い声で言った。

「染乃、さあ――」

 染乃はじっとその男の顔をみつめた。花田屋は続けた。

「さあ、やるがいい。わしをここから突き落とすがいい。(中略)わしを殺し、それからこの手紙を持って憲兵隊へ行けば、おまえたちをハルピンに送る話はこわれる。さあ、受け取りなさい。そして、わしを殺すがいい」

  花田屋の主人は懐から一通の封書を取り出して染乃のほうにさしだした。染乃は思わず唾を飲み込んだ。……

「染乃、わしはおまえをあんなふうなやり方でひどい目にあわせた。だが、昔から、わしのような男でも、おまえに心から惚れとった時代はあったんだ。そのことだけは忘れんでくれ。そしてイワーノフとやらいう、おまえの亭主と、これからも幸せになってくれ。」

 

 そう言い置いて、花田屋は自ら手摺の上に身体をのりだし、身を投げて命を絶ってしまいます。染乃はそのまま憲兵隊に向かい、花田屋から預かった手紙を初老の士官に見せて、ハルピンには行かない意思をはっきりと通告します。そうしてすっかり自暴自棄の状態に陥った染乃をイワーノフは、「この世に生まれて、おまえに会えたというだけでも生きる価値があった」と温かい言葉で包み込みます。夫の思いをしっかりと受け止めながら、激しい風雨をものともせず渾身の力を込めて、死ぬまでイワーノフと一緒にいたい、と染乃は叫ぶのでした。

 

 花田屋と染乃とが過ごした忌まわしい夜を越えて、夫婦の絆は揺らぐどころか、なお一層堅く、揺るぎない信頼と愛情でしっかりと結ばれたようです。染乃の激しく波打つ情念が高輪さんに乗り移ったかと思わせるような、劇的なクライマックスでした。次回はいよいよ長い物語の最終場面を迎えます。少しも安らぐことのできない緊迫した時局の渦中で、染乃はどんな道を選び取るのでしょうか。

 次回は、9月8日(日)です。どうぞ、お誘い合わせて、お越しください。

  



7月27日(土)ナイトミュージアム「ソプラノとオルガンの夕べ」

懐かしいメロディが夕方の館に響きました

出演:直江 学美(ソプラノ歌手)、黒瀬 惠(オルガン奏者)

 

 真夏の猛暑から急変して雨の夕方となったこの日、ナイトミュージアムイベント「ソプラノとオルガンの夕べ」~こころの~ふるさとを唱う~を開催しました。

 出演は、ソプラノ歌手:直江 学美(なおえ まなみ)さんと、オルガン奏者:黒瀬 恵(くろせ めぐみ)さんのお二人でした。

 今回のプログラムは、大正時代に親しまれた曲で構成されています。外国で作曲されたものでも、すっかり日本の歌として定着し、懐かしく思い出される曲もありました。

 

《プログラム》

◇歌とオルガン

 ♪ 「旅  愁」  作詞:犬童 球渓、作曲:オードウェイ

 ♪ 「埴生の宿」  作詞:里見  義、作曲:ヘンリー・ビショップ

◇オルガン演奏

 ♪ ルービンシュタイン作曲:「メロディ」

 ♪ サン・サーンス作曲: 「舟  歌」

◇歌とオルガン

 ♪ 「ゴンドラの唄」   作詞:吉井  勇、作曲:中山 晋平

 ♪ 「カチューシャの唄」 作詞:島村 抱月、相馬 御風、作曲:中山 晋平

 ♪ 「恋はやさし野辺の花よ」 作詞:小林 愛雄、作曲:フランツ・フォン・スッペ

 ♪ 「宵 待 草」    作詞:竹久 夢二、作曲:多  忠亮

 

 金沢文芸館ナイトミュージアムにおけるお二人のコラボ演奏は、今年で6年連続となりました。百年も前の人たちの優しさ、寂しさ、切なさを託した歌詞とメロディが、ほぼ同時代に建てられた当館の壁や天井に響いていきました。艶のある伸びやかな歌声と、抑揚のきいた詩情豊かなオルガン演奏による息の合ったコンサートを楽しむことができました。

また演奏の合間にはお二人から、明治以降にオペラや歌曲が西洋から日本に伝えられ普及していった経過や、オルガンがピアノに比べて廉価な上、持ち運びしやすくて丈夫な楽器だったことから学校にも幅広く導入されたことなど、音楽史の興味深いエピソードもご紹介いただきました。

最後は、おなじみの唱歌「ふるさと」を、会場にお越し皆さん全員で高らかに歌い上げて閉幕しました。みずみずしく柔らかな曲の余韻が、会場のサロンにいつまでも残っているようでした。

 直江さん、黒瀬さんのお二人の今後のご活躍を、心からお祈りしています。

  



7月22日(月)出前講座 星稜中学校1学年

新しい自分を見つけるために

講師:島田 鎮子(『沃野』選者)

 

 さらに蒸し暑い日を迎えました。先週に引き続き、再び星稜中学校にお伺いしました。88名の1年生皆さんを対象とした「短歌を作ろう」の出前授業でした。講師は、歌誌「沃野」選者の 島田 鎮子(しまだ しずこ)先生です。

 短歌の特色や作り方についての説明は最小限にして、実作とその鑑賞に当てる時間を長めに設定したことで、友達の作品のよさや人柄に触れることができたように感じました。やはり、身近な実感を題材として短歌を創る喜びを仲間と共有できることが、次の創作へ推進力になるのではないでしょうか。終始、明るく和やかムードで作品づくりを楽しむことができました。

作品の一部をご紹介します。

 

自転車で駅に毎日行く途中キャベツむさぼるカラスにあいさつ

○ふだんの何気ない、いつも出合う光景。カラスへの温かい視線を送る。

 

夜空見て星の数だけ願いごと進み続けるかなう日まで

○たくさんの願い、ひとつずつ、一歩ずつ、しっかりと前に進む気持ち

 

暑い日に冷たい飲み物買いに行く十円足りずに買えなかったよ

○残念な瞬間。一段とのどが乾くような感触

 

後ろの子早く短歌を書き終えて才能あると自慢してくる

○今、この場の素朴な情景を、ストレートに

 

雷鳥の背中にのってひとっ飛びここがわたしのふるさとやね

○想像力とユーモアが光る

 

卓球で相手のサーブが飛んでくるチキータ決めてゲームセットだ

○卓球のゲームの場面を生き生きと映し出す

 

雨みたい私の心の悲しみをライターの火に思い出す梅雨

○梅雨時の湿ったままの、やり場のない思い

 

太陽の照らせなかったかなしみを包んでくれる友のあたたかさ

○友達の有り難さ、やさしさが沁みてくる

 

うるさいと注意したのに口きかず他のみんながいやあな気持ち

○素朴なやりとりと実感がこもる。楽しいことばかりではない。

 

 短歌って、友達とこんな風に取り組んでみると、意外とあっさり出来てしまうものです。次は、自分だけでじっくりと言葉に向き合ってみてください。身近なところに、驚き、発見、悔しさ、感動など、短歌にふさわしい材料を探し求めて、五・七・五・七・七、と並べるうちに、『新しい自分』が見つかるかもしれません。

 夏休み中に、皆さんの素敵な作品が生み出されることを、楽しみにしています。



7月20日(土)第3回 小説講座

新鮮な人間のドラマを追求する

講師:寺本 親平(作家)、宮嶌 公夫(『イミタチオ』同人)、小西 護(金沢文芸館館長) 

 

 午後からは第3回目の小説講座を開講しました。受講生の皆さんによる掌編小説(約2000字)16作品について合評するという内容でした。講師は、文芸誌『イミタチオ』同人の 宮嶌 公夫(みやじま きみお)先生、作家の 寺本 親平(てらもと しんぺい)先生、館長の 小西  護(こにし まもる)の3名が担当しました。剣町 柳一郎(つるぎまち りゅういちろう)先生からのコメントもご紹介しました。

 話題になったことの一部をご紹介します。

 

1.基本的な姿勢、約束を着実に

原稿用紙の使い方、漢数字・略語などの適切な表記、段落の作り方、などを約束に準じて、丁寧に、きめ細かく確認して作品を仕上げる。

 

2.徹底的に推敲する

   繰り返し読み返すことで、誤字・脱字、語順、前後の矛盾、あいまいな部分、大げさな表現、陳腐な会話など、気になるところが明らかになる。納得がいくまで、時間をかけて粘り強く、徹底して推敲することが不可欠である。

 

3.掌編(短編)は、長編の一部ではない 

2000字という規定の中で、起承転結の展開力が求められる。今回は『坂』をテーマにしながら、その長さにまとめ上げる鍛錬であり、文章修行の一貫ととらえたい。

  それを前提に作品の構想を練ることが大切。

 

4.物語を展開するということ

 小説は、記録・報告・随筆とは異なり、人間のドラマを描き出すものである。坂をはじめ情景や登場者についての説明が主になり、人間のドラマが展開していない作品も見られた。誰の、どんなドラマを、何を中心軸として書き進めるか、どのような結びで余韻を持たせるか、など創作の段階で煮詰め、一番伝えたいことを焦点化できるように精進する。

 

5.意外性、新鮮さを引き出す

 丁寧に書いてあっても、文章に読者を引きつける「しかけ」がなければ、単調で、退屈で、自己満足に陥り、魅力的な作品には届かない。意外で新鮮な展開や設定、人間同士の葛藤や変化・成長、緊張と弛緩のいった場面のメリハリなど、想像力をふくらませて果敢に挑戦する。

 

短い中にも、登場人物や情景描写が滑らかで、物語を巧みに展開している魅力的な作品もありました。8月・9月は『創作工房』に向けて、正念場です。様々な構成要素を試行錯誤しながら、作者の個性がキラリと光る作品を練り上げてくださることを期待しています。

  次回は、8月17日(土)です。剣町先生が担当する予定です。



7月20日(土)第3回 短歌入門講座

時間をかけて楽しみ、よい仲間を持つこと

講師:島田 鎮子(『沃野』選者) 

 

 どんよりとした蒸し暑い日が続きます。午前中は第3回目の短歌入門講座を開講しました。最終回となる今回は、「歌会を楽しもう~言葉と心のあやとり~」をテーマとして、前もって受講生の皆さんからお預かりした作品を読み合わせして、鑑賞する「歌会」を中心とした講座でした。

講師は、短歌誌『沃野』選者の、島田 鎮子(しまだ しずこ)先生です。

 

髪束ね背筋を伸ばして弓を引く弦音のみ鳴る道場に立つ

○道場の緊張感が伝わる、無駄のない一首。「のみ鳴る」は「ひびく」でもよい。

 初句「髪束ね」は「髪束ねて」と丁寧な印象に。

 

診察日馴染みのベンチに腰掛けて人生思う人間観察

○具体的な情景が浮かびやすい。「人間観察」と常套句で言い切らない方がよい。

 

窓の外山並青し心には故里の山浮かび来りて

○乗り物や旅先の窓か、自宅の窓か。「窓の外」は「窓の向こうに」とする。

 

細くなりし少し曲がった恩師の背父の姿とどこか重なり

○初句は「細くなりて」がよい。「重なり」は「似ていて」はどうか。

 

信号が変わりぐらりと空気が動く水色灰色六月の朝

○後半が端的で新鮮。「ぐらりと空気が動く」にも臨場感がある。

 

雪の中顔をのぞかせ蕗の薹雪解け水に春の音聴く

○初句は「雪の中に」。「顔」は「頭」でもよい。「雪解けの音は春の音なり」ではどうか。

 

静寂に包まれし闇新月の令和旋風ひととき忘れ

○新月は深い意味の言葉。「闇」との繋がりを踏まえ「改元の」ではどうか。

 

友達がいないのではなくいらないと言っていた君も群れる八月

○「君が」ではなく「君も」としたところがポイント。羨ましさか共感か。

 

終始和やかに、意見や質問がかわされ、意外な読み方や感じ方があること。さらに、ひと言、ひと文字の入れ替えで、イメージが揺れ動くことを作品を通して学びました。

また、最終回にあたり、先生からは作品を味わうための大切なアドバイスを頂きました。

 

①  作品に向かうときには、その作品の考え方、生き方を受け入れてから味わう

②  自分の作品を他の人にも味わってもらう、という姿勢で

③  自分の思い(イメージ)が伝わらない場合は、その理由を考えてみる。

④  様々な批評や感想から作品の読みを楽しむことが、自分の作品の深化につながる。

⑤  作品を批評し合うことから共感が生まれ、言葉の奥深さや伝わる楽しさが実感できる。

⑥  短歌は経験の文芸。時間を掛けて楽しむこと。いい仲間を持つことが大切。

 

これからも継続して短歌づくりを楽しんで頂くために、サークルや結社の歌会のご案内もいただきました。新聞、雑誌、テレビ番組などに積極的に投稿する挑戦もあります。

 受講生の皆さんの、これからのご活躍を楽しみにしています



7月18日(木)出前講座「俳句を作ろう」星稜中学校2学年

日々の素直な驚き、小さな発見を核にして

講師:福島 茂(元金沢文芸館館長) 

 

 梅雨空が続くこの日、小坂町にある星稜中学校にお邪魔しました。人工芝のグランドいっぱいに広がって、仲間同士で元気な声を掛け合いながら熱の籠もったサッカー練習を続ける生徒さんの姿が、とても清々しく映りました。講師は、元金沢文芸館館長の 福島 茂(ふくしま しげる)先生です。2学年・76名の皆さんが7階の階段教室に集い、夏らしい俳句づくりのポイントを再確認して、実作に活かすという内容でした。

 

 作品づくりの解説に先立ち、先生が最近の俳句事情で気になることについて講話がありました。

 ①季節感が希薄になっていないか

  野菜や果物の「旬」(一番美味しい季節)が広がり、一年中でも食卓に上ることが珍しくない。古来、四季折々の自然の変化で生活し、その移り変わりに敏感に反応するところが日本人の特長であった。俳句も、そんなメリハリのある生活感覚の中で生まれ、親しまれてきたものだ。便利で豊かな生活担った反面、俳句に欠かせない季節の変化や季節感が薄れるのは、寂しい。

 

②感動することが少なくなっていないか

  日々の生活の様々な場面で、驚いたり、気づいたり、感動したりすることが人間の心の成長にとって欠かせない。ITの進化にともない、わからないことや知らないことをネットで即座に検索したり、ドローンを飛ばして確認したりすることができる現代社会は、そうした新鮮な驚き・発見、深い感動に出合いづらい状況を創り出しているようだ。俳句作りの中心・核心となる『感動』が弱くなったのでは、優れた作品、読者の心に響く作品は生まれにくいと言える。

生活に流されず、大事な瞬間や変化に対して敏感に、素直に感動する心を大切にしてほしい。

 

実作に際しては、自分の眼でしっかりとものを見ること。見たものの中から、何を同感じたか。細かいところや他の(いままでの)ものとの違いや特色を絞り込み、はっきりさせて、相手にわかるように、工夫して伝えることが大切である、と強調されました。

近年、幅広い世代に俳句人気が高まっているのは、とても心強いことです。いつでも、どこでも生み出すことができるのが、俳句の長所と言えます。夏休み以降の創作活動の一貫として俳句づくりを深める上で、今日の学習がお役に立てば幸いです。

 今後、生徒の皆さんがコンクールなどに、自信作を積極的に応募・投稿されることを期待しています。



7月14日(日) 第3回『朱鷺の墓』朗読会

信条を守るか 夫婦の生活を守るか

講師:髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表) 

 

五木寛之作『朱鷺の墓』《流水の章》の朗読会も、3回目を迎えました。朗読小屋・浅野川倶楽部代表の 高輪 眞知子(たかなわ まちこ)さんの朗読をお聴きいただきました。

 

 金沢での染乃夫婦の暮らしもどうにか軌道に乗りかけた矢先のこと、染乃のもとに元石河原大尉の紹介状を携えた花井という男が訪ねてきました。花井はかつて東京の新聞社で政治部長の立場にあり、イルクーツクのホテルでイワーノフノ消息を求めあぐねていた染乃と言葉を交わした男でした。染乃とイワーノフの過去を知る花井は、欧米列強国に包囲された厳しい国際情勢の中で日本国が確固とした地位を維持・発展させるために、夫婦で満州に渡り、レストランを経営しながら国や軍に貢献して欲しい、と申し出ます。イワーノフの心身を気遣い、穏やかな生活を願う染乃はこの申し入れを固辞します。すると花井は、スパイ容疑でイワーノフを憲兵が拘束して厳しく取り調べることになる、と脅迫めいたことを言い捨てます。黒い影を感じながらも、イワーノフに打ち明けることはできない染乃でした。

 ある日、悪い予感は的中して、イワーノフは憲兵たちに強制的に連行されてしまいます。憲兵隊に出向いた染乃は、そこで対応した西本という男からも、大陸に渡って日本への忠誠心を示すように翻意を求められます。拷問のような取り調べに痛めつけられて瀕死の状態のイワーノフを目の当たりにした染乃は、夫を帰してくれるのならばなんでもする、と妥協します。数日後に帰宅したイワーノフに、染乃が憲兵からの要望の一部始終を告げると彼は、二人にハルピンでレストラン経営をさせる裏で、日本のスパイとして利用されることを察知して、染乃を諭します。

 

 「わたしたちは、たとえどんなふうに生きていこうと、心に反することとだけはしてはならない。そうでなくては、生きていることは苦しいだけだ。(中略)もし今、わたしたちがあの連中の言いなりになって、ハルピンのレストランの経営をやるようになったら、たとえ、どんなに贅沢で快適な暮らしができても、やはり眠れない夜がつづくだろう。そしてやがては、きっと、そんな生活がいやになって、一挙に投げだしてしまいたくなる。それはわかってるんだ。だから――」

「だから、どうしろとおっしゃるんですか」染乃は震える声で言った。

「わたしはあのひとたちの申し出を受けたんです。そうしなければ、あなたとわたしは離ればなれになってしまいます。たとえどんな世の中でも、あなたのいない世界に生きていくなんてわたしにはできません。わたしはただ、あなたと一緒にいたい。そのためなら、どんなことでもするつもりでした」

 

 人としての信条を守り通すこと、夫婦が支え合って暮らす日々を守り続けること。そのどちらを優先すべきか……。二人の思いは暗礁に乗り上げてしまいます。染乃はこの先、どんな風に活路を開いていくのでしょうか。

 長い物語も、いよいよ最終局面に差し掛かります。次回も、ぜひご参集ください。



7月13日(土) 第3回「詩入門講座」

説明不足に陥ることなく 説明的に流れることなく

講師:内田 洋(『禱』同人) 

 

 午後からは、第3回「詩入門講座」を開講しました。今回から、受講生の皆さんからお寄せ頂いた作品を読み合わせし、それぞれの特色ある作風や感覚にふれながら味わい、意見交換するという内容が中心です。講師には、詩誌『禱』同人の 内田 洋(うちだ ひろし)先生をお招きいたしました。

 話題になったことの一部をご紹介します。

 

○「しあわせ日記」

  夕方、一日を終えた安堵や感謝が表現の中心。

  花びらのように「落ちている」しあわせを「救い上げ」日記に綴る、という表現が特徴的。「拾う」「掬う」とは異なり「救い上げ」る謙虚さに共感できる。

  どんなことがしあわせなのか。「しあわせ」の具体的な情景や内容があればよい。

  題名や改行に、もうひと工夫を。

 

○「夏のリレー」

  干上がって道路にひりついたみみずが題材。

  「息絶えた彼の亡骸は//ちいさな襷(たすき)のようだ」

  みみずの亡骸が本格的な夏へ移行する襷の役割を持つ、という直喩が印象的。

  心を強く揺さぶった小さな現象を端的に言い切るところが、俳句的でもある。

  「ちいさな襷」が、みみずの命の循環と季節の循環とを併せ持つ、とも読める。

 

○「私の夏」

  「草取り」から「草むしり」へ。雑草と格闘する日々を描いた作品。

  ぬくぬくぬけぬ 引っこ抜け/ぬくぬくぬけぬ むしりとれ

  など、反復や対句を駆使した、リズミカルでユーモラスな表現が印象的。

  作者の「独り言」「深呼吸」から本格的な夏の入り口に立つ意気込みが伝わる。

  音楽的な躍動感と夏のキラキラ感とがマッチしている。

 

○「君は薄桃色に咲く」

  「君」の発見、しとやかな姿、ぬくもりから、「君」が未来に花咲く姿を夢想する展開。

  「君」はシクラメンの花を擬人化した表現だが、少年が憧れる少女とも読める。

  花(女性の比喩?)を恋い慕う、ロマンチックな詩であるが、更に踏み込んだ表現や

あえてオーソドックスなスタイルを打ち破る試みにも挑戦して欲しい。

  やや説明的に流れる部分に留意。表現を更に吟味・凝縮することができる。

 

○「根っこ」

  二十歳の自分と現在の状況とを重ね合わせながら、自分自身の変化を期待する一方で、長い歳月を経ても何ら変わらない「根っこ」を再確認するという展開。

  散文(小説・随筆)にふさわしい主題とも言える。

  「誠実な人になるように/努めなければ ならないのだ」という結びは未来志向で好感がもてる。ただし、変わりたいのに変わっていない自分とどのように向き合うのか。

  作者が詳しく語ることで、かえって読者は関わりにくくなることもあるのではないか。

 

 先生を含めて6名の合評会でしたが、受講生の皆さんから自作についても、仲間の作品

についても、感想や意見・質問などがほぼ途切れることなく交わされました。少人数なら

では良さが感得される、和やかなひとときでした。

詩の表現は説明的に流れないように、さりとて説明不足に陥っても……。同様に、題名

は「あからさま」すぎても、「遠回り」しすぎても……詩の奥行きを確保する適切な言葉選びは、なかなか難しいものです。

 
 ここからが講座の正念場とも言えます。次回も、皆さんの新鮮で個性的な感受性に出会えることを楽しみにしています。



7月13日(土) 第3回「小説入門講座」

「推敲」で作品の品格が定まる

講師:高山 敏(『北陸文学』主宰) 

 

 梅雨明けが待たれるこの日、第3回目となる「小説入門講座」を実施いたしました。今回は「推敲について」というテーマで、講師は同人誌『北陸文学』主宰の 高山 敏(たかやま さとし)先生でした。小説作品の完成に向けて、文章を充分に手直しすることは欠かすことのできないプロセスと言えます。今回は、その推敲に課題を絞って、ぜひ留意したいポイントを確認するという内容でした。

 

『推敲』とは・・・

文章や作品の字句や表現を何度も練り直すこと。

   作品の良し悪しは推敲で決まる、とも言えます。

   作者自身が自分の作品の厳しい読者となる覚悟で推敲すること。

   ―― その、ポイントをご紹介します。

 

①  常套句、決まり文句の使用は避ける

工夫して、自分の言葉で表現する

②  力みすぎない
「読者の同情を引きたいのなら、冷静に突き放して書くことだ」(チェーホフ)

③  飾らない、気取らない、格好つけない

修飾語がなくても読者に伝わる

④  漢字と仮名のバランスに注意する

⑤  接続語を最小限にする

⑥  文章のリズムを整える

改行、一文の長さを適切に

⑦  曖昧な表現、断定的な表現、のどちらにも偏らない

⑧  文のねじれはないか

主語と述語は正確に対応しているか

⑨  文章を音読する

リズム、調子、句読点、語尾、同じ表現、に配慮

⑩  言葉の癖が目立っていないか

 

 これらのポイントを押さえたあと、練習問題となる文例をたどりながら、修正箇所を確認しました。まず、作者自身が厳しい読者であること! しっかりと胸に刻んで、冷静に、丁寧な「推敲」に臨みたいものです。 次回は、8月10日(土)です。ぜひ、ご参集ください。



7月12日(金) 出前講座 金沢市立浅野川小学校6学年

心が動くまでに よく見る

講師:竪畑 政行(県児童文化協会) 

 

 夏休みも間近となったこの日は、「俳句を作ろう」の出前講座で、浅野川の下流、浅電の電車がすぐそばを走る、浅野川小学校にお伺いしました。校舎横の学校農園には立派に育ったキュウリ、サツマイモなどに交じって、ズッキーニが大きな葉を広げていました。講師は、県児童文化協会の 竪畑 政行(たてはた まさゆき)先生です。6年生・54名(2学級)の皆さんを対象に、学級ごとの授業でした。最高学年の6年生らしく、終始落ち着いた態度で学習に参加していました。

 一昨日まで2泊3日の合宿だったとのことで、そのときの体験を俳句に詠んだ子どもさんもありました。今回は、『いい俳句をつくるには』というテーマで、前もってそれぞれに準備した俳句を見直して、改作することが主眼でした。まず、先生から具体的に8つの作品をご紹介して頂き、それぞれの情景や心情を味わいました。さらに、読み手に作品の印象を強め、余韻を残すために効果的な表現となる、各種の「技(わざ)」について学習しました。

 

 サイダーの泡からのぞく空の青     《体言止め》

 

 虹の色にじんで見えた負けたとき    《倒置法》

 

 青空も青葉も僕も光ってる       《反復法》

 

 夏みかんむくと飛び出る金のきり    《比 喩》

 

 母さんのおみやげさがす夜店かな    《切れ字》

 

 つゆぐもり試合に負けて十点差     《取り合わせ》

 

 父ののどごくごくごくと夏来る     《擬音語・擬態語》

 

 積乱雲はてなき海に立つ巨人      《擬人法》

 

 以上の8怍品。8つの表現技法でした。好きな俳句とその理由、どの「技」がどの俳句に活かされているか、というステップを経て、最後は自分の作品を見直してみようという流れでした。

 どこを手直しするか、というポイントは・・・

①  なるべく、五・七・五の十七音にする

②  気持ち(楽しい、悲しい、くやしいなど)は入れない

③  「技」を活かすことができないか、挑戦する

④  とにかく、よく見る。心が動くまでによく見て書く

・・・ということでした。

 

◇改作の例

前  大暑だと短パンはすぐビチャビチャだ

後  短パンがすぐにビチャつく大暑かな

 

前  ミンミンとせみが鳴けば夏が来る

後  せみが鳴く合宿所そば木の幹で

 

◇作品より

汗だくのオール持つ手に気合い込め

 

カヌー乗り池を進めば風涼し

 

夏の夜友の目に見る流れ星

 

夏の風ウォークラリーで汗にじむ

 

オールこぐみんなの気持ち丸くなる

 

どちらのクラスも、とても集中して俳句づくりに参加して頂きました。夏はこれからが本番です。楽しい経験の瞬間や場面を、キラリとひかる俳句に託して完成させてくださることを期待しています。



7月5日(金) 出前講座 金沢市立西南部小学校5学年

実際の様子をじっくりと観察して

講師:福島 茂(元金沢文芸館館長)

 
 梅雨空のこの日、3学級・113名の5年生を対象とした出前講座「俳句を作ろう」で、西南部小学校にお邪魔しました。広い中庭には1年生の皆さんが育てた朝顔がちょうど見頃を迎えて、ピンクや水色の花がみずみずしく咲きそろっていました。講師は、元金沢文芸館館長の 福 島   茂(ふくしま しげる)先生です。

俳句の特色や大切にしたい約束や注意などを、数枚の写真を手がかりとした解説を聞いた上で、実作にとりかかりました。学級ごとの授業でしたが、3学級はそれぞれに特徴があり、やはりずいぶん積極的なクラスと、やや慎重なクラスと雰囲気の違いを感じました。それでも、さすが5年生。それぞれの持ち味や季節感を活かした作品、体験した実感を込めた作品が、次々に生まれました。

 

1.俳句の約束

①  五・七・五、合計十七音に整える

拗音(小さい「や」「ゆ」「よ」)は一音に数えない

②  「季語」(季節がわかる言葉)を一つ入れる

日本では古くから、季節の移り変わりや、季節ごとの行事を大切にしてきた

③  「切れ字」(や、かな、けり)で俳句の区切りを示す

切れ目・切れ字はなくてもよい

 

2.俳句を作る上で注意して欲しいこと

①  特別な事柄、難しい表現は必要ではない

新しい気づきや感動を大切にして

②  説明や報告にならないように

「切れ字」やことばをよく工夫し、吟味する

③  誰かの真似をしない

自分自身が素晴らしい、不思議だと心を揺り動かされたことを中心に

 

3.作品から
 夏休みいとことみんなで遊びたい

 

 右左じゅうけつした目がいたいなあ

 

 夏の海ざぶんざぶんとゆれている

 

 雨上がり葉っぱにしずくつゆの朝

 

 夕空に一番星が輝いた

 

 そうめんをつるつる食べて止まらない

 

 アリさんや落ちたスイカで夏祭り

 

 夏休み宿題じごくがやってくる

 

 アリさんや夏は暑くて水さがし

 

 夏の道麦わらぼうし飛んでいく

 

 俳句を作る基本としては、「気負わずに、素直に」「実際の様子をよく見て」言葉にして並べることが大切なポイントでした。

 だいぶん形が出来てきたのにもう一息のところで時間切れ、というお子さんもいました。これからも、様々な季節を肌で感じながら、楽しい俳句づくりに挑戦してくださることを期待しています。



6月23日(日) 第1回「フォト&五・七・五」合評会

講師:中田 敏樹(俳人)

 

 夏至も過ぎて蒸し暑い毎日が続き、文芸館では枯木橋の脇のガクアジサイの花と共に、マツバギクがひときわ鮮やかな赤紫の花が見頃となりました。

 四季折々の写真に短い言葉を添えて発表する、恒例のイベント「フォト&五・七・五~私の好きな風景~」は、6月当初から1階のミニギャラリーで展示して参りました。今回の13名の皆さんの応募作品は、全体に明るく華やかな印象の写真が多く、来場の皆さんにもとても好評でした。俳人で写真にも卓越した 中田 敏樹(なかた としき)先生を講師にお迎えして、合評会を開催いたしました。

 

○康らかに令和を祝う若葉かな

 新しい年号と初々しい若葉の輝き、といタイムリーな題材

 

○田植え機を待つ泥の中蛙なく

 のどかで大きな画面から小動物にフォーカスする、巧みな視点の転換

 

○発車まで降り立つ花の無人駅

 さくら駅としてすっかり名所となった無人駅の、華やかさと賑わい

 

○絵心のわかる人の貯水槽

 内灘町恐竜公園近く。貯水タンクに描かれた大きな絵に視線が集まる

 

○プロペラの空に映える五月空

 青空の特別な青さと広さを背景に、風力計の白くてシャープな羽の輝き

 

○晩秋や心を映す水鏡

 山奥の秘境にある「かりこみ池」の澄んだ水面に映る空と雲

 

○メロディーにしだれ桜の揺れており

 春らしい艶やかな光景に、メロディーが流れ出す

 

○つばくらめ舞う天心に昼の月

 昼の月をかすめて飛ぶツバメを捕らえた貴重なショット

 

○橋多きせせらぎ通り春の音

  春陽が射すせせらぎ通りの店、偶然に届いた宅急便の荷物

 

○満開の桜の下に旅の宿

 吉野山に咲きそろった一面の桜の遠景。その下に今宵の宿がある

 

○君は令和原人なるか風薫る

 山積みの金属廃材から見いだした「令和原人」の奇怪さと遊び心と

 

 自作を紹介し合い、お互いの作品を楽しみ味わう中に、いつの間にか和やかな一体感が育まれていくようでした。

次回は10月初旬に募集する予定です。写真は自作のものであれば、過去の作品でも、1点でも、モノクロでも受け付けております。お友だちやご家族の合作でも結構です。皆様からの積極的なご応募をお待ちしております。



6月18日(火)出前授業・金沢市立泉野小学校2学年

ヒョイヒョイが食べたい!!

講師:吉國 芳子(ひょうしぎの会)

 

 梅雨の晴れ間のこの日、泉野小学校にお伺いしました。2年生の生活科「金沢の民話を知ろう」の出前授業を担当して頂いたのは、「ひょうしぎの会」の吉國 芳子(よしくに よしこ)先生です。

 102名の皆さんの元気な挨拶を受けた後、まずは「あんたがたどこさ」の童謡と手拍子でウォーミング・アップ。今回は、「芋掘り藤五郎」「おだんごひょいひょい」「宝泉寺のネズミたいじ」の3つのお話をご紹介しました。

 

「おだんごひょいひょい」

 昔むかしあるところに、物忘れのひどいお婿さんがいました。ある日、お嫁さんのお里の両親に初めて招かれて、遊びにいきました。お里では、お婿さんがきちんとていねいに挨拶することを忘れなかったので、お父さんとお母さんもひと安心でした。早速、おだんごをつくって食べてもらうと、お婿さんは大喜びです。「こんなうまいもんは、食べたことがない!」と、できたてのおだんごをおかわりして、たらふく食べました。婿さんが「ところで、これはなんという食べ物ですかね」と尋ねると、「これは、おだんごというものですよ。お・だ・ん・ご!」と教えてもらいました。

 お里からの帰り道、婿さんは『おだんご』を忘れないように、そして、お家でもお嫁さんに作ってもらおうと「おだんご、お・だ・ん・ご、オ・ダ・ン・ゴ…」と口ずさみながら歩いて行きました。ところが川を渡る飛び石のところで、婿さんは「ひょい、ひょい…ヒョイヒョイ…」と調子をつけているうちに、「おだんご」が「ヒョイヒョイ」に変わってしまったのです。

 「おおーい、帰ったぞぉ。わしに、ヒョイヒョイというもんをつくってくれ。ヒョイヒョイが食べたいんじゃ!」と婿さんは、お嫁さんに注文しました。ところが、「ヒョイヒョイ?ヒョイヒョイってなぁに? そんなもん聞いたこともないぞいね」とお嫁さんも困り顔です。「親が知っとるのに、娘のお前が知らんはずはないやろ。ヒョイヒョイや。さっさと、わしにヒョイヒョイつくってくれ!!」「知らんと言ったら知らん!聞いたこともないし!」お嫁さんも負けずに言い返すうちに、とうとうけんかになってしまいました。そのあげくに「ええーい、このわからずや!」婿さんがお嫁さんの頭に、ポカリとゲンコツを入れました。「イタタタ、アイタタタ…。何するがいね!アイタタタ……。こんな、でっかいおだんごみたいなたんこぶができたぞいね!ほんとに、もう!アイタタタ……」すると、「おお、……おお、そのオダンゴじゃ、お・だ・ん・ご!をつくってほしいんじゃ!」

 ようやく二人は仲直りして、一緒におだんごつくって食べました、とさ。

 

 このお話、前に聞いたことある!本当にあったお話しかなぁ、もっと別の話も聞きたい……という素直な声も聞こえてきました。この日は新聞紙を使った「手品」も披露されて、子どもさん達も大喜びでした。

 これからもたくさんの楽しいお話や不思議なお話にふれて、一段とお話大好きで、読書が大好きなお子さんに成長してくださることを願っています。




6月15日(土)第2回 小説講座

果敢な実践を積み重ねる

講師:小西 護(金沢文芸館館長)

 

 午後からは、第2回小説入門講座を開講しました。今回は「小説の実作について①」というテーマで文芸館館長の 小西 護(こにし まもる) が担当しました。第1回講座での短編小説の特長を押さえた上で、実作に取りかかる基本姿勢・心構え、書き続けて作品を書き上げるまでの過程を見つめ直すという内容でした。

 

前半は、『小説を書き始め、書き続ける基本姿勢』を確認しました。

 

1.    書く目的を明確にする   ~精神的な深化、自己改革の契機に~

2.    主たる読者を想定する   ~誰に、何のために発信するか~

3.    独自性に拘わり 見極める ~高いモチベーションと冷静な評価~

4.    想像力と創造力を 大胆に発揮する ~文学性と娯楽性、両面の追求~

5.    多彩なエピソードを駆使する    ~エピソードの蓄積・整理・活用~

 

さらに後半では、5年または500枚以上の創作経験者を想定した『小説完成までの果敢な実践』の充実を期して、

1. とにかく書き始める 逃げずに書き続ける

2. 作品完成まで 書くことを最優先にする

3. 音読しながら どんどん推敲する

4. 仲間から 率直な評価・感想をもらう

5. 納得いくまで拘り 楽しみながら推敲する

 

といったことに粘り強く習慣化することが提案されました。

自分自身と向き合い、根気強く、楽しみながら、自信を持って、大胆に、とにかく書き続けることの大切さが強調されました。

 

 さらに創作の練習として、

○ また、夢をみた。

○ それが祖母の口ぐせだった。

○ 梅雨の景色が広がっている。

の何れかを含んだ自由作文を試みました。数分後には、受講生の皆さんの豊かな《想像力》の一端に触れながら交流することができて、楽しいひとときでした。これからの『果敢な実践』を期待しております。

 第3回(7月20日・土)は、掌編作品の合評会です。ぜひ、ご参集ください。

 




6月15日(土)第2回 短歌入門講座

思いは深く 穴の中に

講師:島田鎮子(『沃野』選者)

 

梅雨空を仰ぎながら、第2回目となる短歌入門講座を実施しました。講師は短歌誌『沃野』選者である島田 鎮子(しまだ しずこ)先生です。今回は「現代を生きて、今を詠う」というテーマでした。

 

1.詠うために大切なこと

短歌は詩である。歌声(言葉が響き合うリズムを楽しむ)と地声(おしゃべりや記述・報告の文章)の違いを意識して(三枝浩樹)

思いは深く、言葉は平明に(山本かね子)

 

2.思いを伝えるために

五七五七七のリズムに言葉をならべてみる

何を詠うか、どう詠うか、自分がどこにいるか

平明な言葉を選び、言葉の流れを大切に

一首で表現することは、一つにしぼる

短歌のリズムを大切にするために、作品を何度も音読する

「実感」「直感」を大切にすることで作家の心と作品を活かす

言葉に心を語らせる。主観や結論を言ってしまわない

好きな詩人や尊敬する歌人の作品をたくさん読む

 

3.作品の鑑賞から

○サンダルの青踏みしめて立つわたし銀河を産んだように涼しい(大滝和子)

 銀河を産む、というイメージの飛翔が心憎い

 

○白鳥はふっくらと陽にふくらみぬ ありがとういつも見えないあなた(渡辺松男)

 自然や人間の存在をこえたものへの畏敬と感謝

 

○ああ眠いああねむいと茶碗の中に落ちるようにぞ子は飯を食う(河野裕子)

 疲れきって眠い子供の姿を、茶碗の中に落ちるよう、と描く比喩が際立つ

 

○あるだけの力尽くして咲きゐるに力の見えぬうすべにの花(伊藤一彦)

 力まず、やさしく、自然に咲く花の姿への共感

 

○朝顔の葉っぱに縋り羽化を待つこんなところで蝉になるやつ(馬場あき子)

 思いがけない場所で羽化を待つ、小さな命への愛着とあたたかなユーモア

 

4.添削の課題

○大欅季移るごと愛でてきて視界から消えし 四分の一

 大胆に枝打ちされて、元の四分の一になってしまった欅への哀惜と驚き。

 四分の一、をどう活かすか。言い換えるとすると・・・?

 短歌から絵が描けるように、添削に挑戦してください。

 

優れた作品を味わいながら、定説とは別の読み方(解釈)に気づくこともまた短歌の醍醐味と言えます。今回の講座でも、受講生の皆さんから様々な感想や解釈をお伺いすることができました。島田先生の解説や投げかけを手がかりとして、たくさんの秀作に出会うとともに、それぞれの歌人のエピソードもお聞きしながら、短歌の奥ゆきを実感できたひとときでした。歌に託す深い思いは、敢えて表現せずにおくこと。言い換えるとドーナツの穴のようなもの…。というお話しも興味深いものでした。

 次回(最終回)は、短歌作品の合評会です。どうぞお楽しみに。




6月9日(日)第2回 『朱鷺の墓』朗読会 
笛の曲に染み出る思いを抱きしめて

朗読:髙輪 眞知子(朗読小屋 浅野川倶楽部代表) 

 
 五木寛之氏の初期作品として知られる『朱鷺の墓』朗読会は、今年度の2回目です。朗読小屋・浅野川倶楽部代表の、高輪 眞知子(たかなわ まちこ)さんの熱の籠もった朗読が続いています。

大正時代の中頃、十年余りにも及ぶロシア・ヨーロッパでの放浪の歳月を経て、安住の地を求めて故郷の金沢に舞い戻った染乃とイワーノフの新しい生活が始まりました。

 ある日、車夫のイワーノフは金沢駅で偶然出合ったなつかしい客人を連れてきます。それは、かつて染乃とイワーノフの縁を取り持った元陸軍大尉の石河原でした。その晩遅くまで染乃夫妻は親しく語り明かします。

 また5月のある日、これもかつての恩人である車夫の三蔵の墓参りに出かけた折に、染乃は久しぶりに故人を供養する積もりで笛を奏でます。その笛の音を聴いて声を掛けてきた上品な老婦人は、雁木機一郎の母でした。初対面とはいえ、ペテルスブルグでの共同生活を打ち切って以降、別れたままの機一郎は染乃夫婦にとっては、決して忘れることのできない存在でした。老婦人は犀川べりの料亭で、肝心の機一郎のことはもう諦めている、と敢えて話題に深入りすることもなく、先ほどの笛の曲をもう一度吹いて欲しいと懇願するのでした。そして、染乃のこの曲に〈流水〉という名を贈ります。

 揺れ動く時代状況を受け止めながら、〈流水〉という曲題を贈られて以来、染乃は新しい人間的な表現の音楽の世界へ踏み込み、ひとりで笛を吹くことが多くなります。シベリア、ヴラジオストーク、ペテルスブルグ、パリ、と様々な思い出と重なるその折々の感情の表現を、笛の曲の中に見いだしていたのでした。

 

  日本に帰ってくると、新しい流行歌が氾濫していた。

  そういった世界中のさまざまな、音楽や、歌や、メロディが染乃の流転の生活とともに、彼女の体に深く根をおろしていたのかもしれない。染乃の曲は、(中略)あくまで、日本の懐かしいふるさとの匂いを残し、土の匂いや、空の青さや、海の響きを反映しながら、それと同時にさまざまなエキゾティックな香りを帯びた、独特な曲になっていた。

  染乃は自分で気づかずに、即興的にそれらの笛を吹いていた。だが、今、染乃は少しずつ、笛の曲を自分でつくってみよう、という気持になってきていた。・・・

  染乃は、この生活がいつまでもつづけばいい、とねがっていた。そしてできれば、自分とイワーノフの子供をもうけ、親子三人でひっそり暮らしていきたいとねがっていた。

 残された人生の中で幾つかの笛の曲をつくり、それを心ゆくまで楽しみながら老いていき、そして死んでゆく。それで充分だ、と考えていた。

 

  故郷で得た、大切な人たちとの再会。ささやかだが心休まる落ち着いた二人の生活ですが、この後、鬱陶しい暗雲が立ち籠めてくるようです。

  次回は、7月14日(日)です。ぜひ、お誘い合わせてお越しください。 




6月8日(土)第2回 詩入門講座

 自分にとって切実なものを描く

講師:杉原 美那子(「笛」同人)  
 

 雨の上がった午後からは、第2回目の詩入門講座を実施しました。前回に続き、作品鑑賞をするステップとして、受講生の皆さんがそれぞれに、ご自分の好きな詩を持ち寄り紹介し合うところから始めました。担当は、詩誌『笛』同人の 杉原 美那子(すぎはら みなこ)先生です。

 

  逢ひて来し夜は      室生犀星

うれしきことを思ひて

ひとりねる夜はかぎりなきさいはひの波をさまり

小さくうれしさうなるわれのいとしさよ

やがてまた

うれしさを祈りに乗せて

君がねむれる家におくらむ

               (詩集『青き魚を釣る人』より)

◇やさしさ、愛情に満ちた言葉に、「君」への思いが深まる。静かな余韻。

 

  林檎と蜜柑      武者小路実篤

汝と我とおなじく

美味な果実なれども

汝は我を愛し

我は汝を愛す

汝は紅にして

我は黄なり

似たところ面白く

似ぬところ又面白し

◇仲良く、互いの個性を認め合って生きる姿。ほっとする和やかさが漂う。

 

しあわせよカタツムリにのって  やなせたかし (抄出)

しあわせよ

あんまり早くくるな

しあわせよ

あわてるな

カタツムリにのって

あくびしながら

やってこい

しあわせよ

カタツムリにのって

やってこい

 

しあわせが

きらいなわけじゃないよ

しあわせにあいたいが

いまはまだ

つめたい風の中にいよう

熱い涙を

こらえていよう (後略)

 

◇やなせたかしは、人気アニメ「アンパンマン」の原作者。幸せを待つ時間をも、ゆっくり楽しみ味わおうとする面白い視点。やさしい表記、やさしい言葉。

 

立ちつくす     長田  弘

祈ること。ひとにしか

できないこと。祈ることは、

問うこと。みずから深く問うこと。

問うことは、ことばを、

握りしめること。そして、

空の、空なるものにむかって、

災いから、遠く離れて、

無限の、真ん中に、

立ちつくすこと。

大きな森の、一本の木のように。

あるいは、佇立する、塔のように。

そうでなければ、天をさす、

菩薩の、人差し指のように。

朝の、空の、

どこまでも、透明な、

薄青い、ひろがりの、遠くまで、

うっすらと、仄かに、

血が、真っ白なガーゼに、

滲んでひろがってゆくように、

太陽の、赤い光が、滲んでゆく。

一日が、はじまる。――

ここに立ちつくす私たちを、

世界が、愛してくれますように。

          (詩集『人間はかつて樹だった』より)

◇心に沁み入るような言葉。いろいろな向き合い方を模索しながらも、立ちつくすことしかできないさだめのようなもの。昇る太陽、一日の始まりへの期待と祈りの静けさ。

 

身構えているもの      宮沢 章二

早春の風の声を 胸に受けとめながら

ひとりひっそりと呼吸を整え

力を溜めて 身構えているものたち

 

   枝の先の 新しい花のつぼみ

   薄ら氷の下の 小川に育つさかな

   厚い土のなかの 若草の芽

 

自分の呼吸は自分で整えなければならない

自分の力は自分で溜めなければならない

   それこそ 自らが生きている証拠

 

開こうと身構えているものたちの

泳ぎだそうと身構えているものたちの

伸びようと身構えているものたちの

熱い気迫が むんむんとあふれる・・・

そんな 早春の大地に 私も立っている

◇山の自然を愛する者にとって、春を迎える喜びや緊張に浸る時。この先の険しい道程に立ち向かう意思や気迫が、たくさんの自然界のエネルギーに触発されて昂揚する。

 

好きな詩作品を一篇だけ選ぶ難しさ、音読して味わう詩の奥深さを再確認しました。詩ににじみ出た作者のテーマや思いと詩を選んだ人自身の個性とが重なり合っている。また、どんな詩人なのかもっと読んでみたいとか、思い切って作品を書き残すことで誰かの目にとまる希望が見えてくるのでは、という感想が聞かれました。

書くことは恥をかくこととも言えるが、恥をかいても言葉で表現して人に伝えようとすることで何かが生まれる。恥ずかしいという段階を乗り越えて、誰かに読んで欲しい、感想を聞きたい、という段階へと踏み込んでほしい。という先生からのアドバイスをいただきました。「何を書くか」「どう書くか」「どこまで書くか」はいずれにしても《懸命に生きる》日々が前提にあるべきで、自分にとって切実なものを追求する姿勢が欠かせない、ということも学びました。 

次回から合評会が始まります。受講生の皆さんによる力作をお待ちしています。




6月8日(土)第2回 小説入門講座

 人に交わり、人の中に入ること

講師:小網 春美(「飢餓祭」同人) 

 
 昨日の梅雨入りで、町中の様相や空気感もガラリと一変したような朝を迎えました。この日に開講した第2回の小説入門講座のテーマは「ストーリーをつくる」でした。担当は、同人誌『飢餓祭』同人の 小網 春美(こあみ はるみ)先生です。

 小説を書き始め、小説のストーリーを創り出すための貴重なヒントを頂きました。

 

1.小説とは、人間を描くこと

大好きな犬を描く、熱中しているスポーツを中心に描く、など書く対象や題材は様々に想定できるが、小説では人間が中心軸でなければならない。書き言葉でしか伝えられない『心の暗闇』に迫ることに挑戦して欲しい。

 

2.優れた作品を読むこと

  先人の小説・名作とじっくり向き合い、味わうことが書き手としての技術と人間性の両面を学び、鍛えることにつながる。屈折した幼少年期をすごした作家が多いが、そこから学び取るものは貴重である。

 

3.安易に構想をしゃべらない

作品を完成させるためには、寄り道をしない。物語の構想などを誰かに話すことで、実作のプロセスが停滞して完成に至らないケースも少なくない。自分の中で、時間をかけてしっかりと構想をあたため、練り上げたい。

 

4.人に交わり、人の中に入ること

自分自身の体験は書きやすく貴重であるが、質・量ともに限りがある。人との付き合い、ふれあいから書く題材やヒントを得ることがポイント。老人の思い出、友人のエピソードを傾聴すること。また、視点を広げて、新聞記事や身辺雑記からストーリーの『種』を見いだすこともできる。

 

5.想像力の源泉

子どもの頃の豊かで奔放な想像力に、大人になってからでもアクセスすることができる(村上春樹)。書き進めているうちに浮かんでくる思い出がある(本谷有希子)。というふうに過去の経験を積極的に取り込んで、想像力を掘り起こしたり、ふくらませたりすることができる。

 

受講生のほとんどの方が、現時点で具体的に書きたいものがある、という状況とお聞きしました。ここからストーリーをどのように組み立て、展開していくかが当面の課題であり、創造の中心的なプロセスと言えます。短編小説ですので、登場人物・場面を絞り込み、事件やエピソードも最小限に吟味して深めていくことも忘れず、書き手の視点(一人称または三人称)も途中でぶれないように…。

次回の7月13日(土)は、高山先生の担当です。




5月31日(金) 語りで楽しむ昔話「耳なし芳一」

 昔話の闇に潜む、温かくて大切なもの

出演:荒木明日子(語り) 瑞樹(篠笛) 

 

 金沢ナイト・ミュージアムの開幕イベントとして、「語りで楽しむ昔話」を開催いたしました。出演は、語り手・荒木明日子(あらき あすこ)さん、篠笛の瑞樹(みずき)さんのお二人でした。荒木さんは金沢市在住の語り手さんとしてご活躍中で、昨年11月の開館記念イベントにもご出演くださり、ご好評をいただきました。

 この日の演目は、金沢に伝わる民話「おぎん こぎん」、芥川龍之介の作品としておなじみの「蜘蛛の糸」、小泉八雲原作で荒木さんご自身の再話による「耳なし芳一」の三作品でした。

 親子・姉妹の愛情と絆の深さや後悔をつぐなう気持ち、ふとした幸運に恵まれて地獄の責め苦からなんとか抜け出そうと藻掻くものの、最後は自分の弱さ・浅ましさに屈する極悪人、お坊さんの知恵と機転により亡霊から狙われた命を守り、急死に一生を得た若き琵琶法師…。それぞれの生きる姿を伝える物語は、長い歳月を通してたくさんの人々に親しまれ続けたものばかりです。人の心にある深い闇をのぞき見る様な怖さとともに、ほのぼのと温かい気持ちが湧いたり、はっと気づかされたり、ぎゅっと心が引き締まったりするお話でした。ぜひ、これからも末永く語り、受け継いでいきたいものです。

 

荒木さんのしっとりとした語りと瑞樹さんの澄み渡る笛の音に、すっかり魅せられたひとときでした。満席の会場内にひびいた拍手や鼓動の余韻が、夏を迎える夜の町にも広がっていくようでした。




5月18日(土)第1回 小説講座

 現実と虚構の接点を意識しながら

講師:宮嶌 公夫(『イミタチオ』同人)

 

 午後からは、第1回目の小説講座を開講しました。講師は文学誌『イミタチオ』同人の 宮嶌 公夫(みやじま きみお)先生、作家の 剣町柳一郎(つるぎまち りゅういちろう)先生、同じく 寺本 親平(てらもと しんぺい)先生のお三方です。小説を読み味わい、作品に込められたテーマや様々な描写の魅力について、8回の講座を通して学んだり味わったりしながら実作につなげて、20枚程度の短編小説を完成することを目標とします。

 初回は、宮嶌 公夫先生の担当でした。冒頭の自己紹介では、講座に参加した動機をお話し頂きましたが、講座を通して創作のヒントを得てモチベーションを維持・向上させるとともに、仲間と刺激し合うこと、というご意見が主流でした。19名の受講者のうち、過去にも当館の講座に参加された方がほとんどです。

 今回は「短編小説の魅力」というテーマで、前半部分では、長編と短編を比較しながら、短編の特徴を確認するという内容が中心でした。

①    比較的単純な構成で、登場人物も少ない

②    時間的なスパンが短く、場面転換も限られる

③    終末部分では余韻を残して、物語の続きを想像させるものが多い

④    表現が簡潔・明瞭であり、切り取り方の的確さが求められる

⑤    主人公の変化・変容が何らかの出来事や葛藤を通して表現される

表現力・描写の豊かさや確かさはもちろんですが、こうした特徴を踏まえて書き進める中で、「読者の視線に耐える作品」言い換えると、読者を納得させたり、楽しませたりできる作品を追求する必要があります。そんな中で、現実と虚構(想像)との接点を意識しながら、実際にありそうな空気感を演出していくことが期待されます。

後半では、江國香織さんの短編「デューク」(「つめたいよるに」新潮文庫・所収)を読み合わせしました。実作品の中で、現実と虚構がどのように交差しているか。その虚構の伏線(接点)の描き方、人物や場面の描写や会話表現の巧みさ、テンポ良い展開に支えられた全体の揺るぎない構成などに注目して、その魅力を探りました。

先生からの丁寧な解説や投げかけに呼応するように、受講生からの質問や意見がほどよく折り重なり、皆さんの積極的な姿勢が伝わってきました。

 

第2回(6月15日)までに、「坂」をテーマとして、5枚程度の掌編を書くという課題が出されています。たくさんのアドバイス、示唆やヒントを噛み砕いて、キラリと光る掌編が生まれることを期待しています。




5月18日(土)第1回 短歌入門講座

 『自らの内にお入りなさい』

講師:島田 鎮子(『沃野』選者) 


 
好天が続くこの日、短歌入門講座を開講しました。講師は、県歌人協会常任理事で短歌誌『沃野』選者の 島田 鎮子(しまだ しずこ)先生です。短歌の歴史や特徴、観賞のポイント、実際の書き方や注意点、添削の要領、受講者の皆さんの作品の合評など、3回連続の内容です。

 初回のテーマは「現代短歌の世界へ」で、創作に臨む準備として必要なことを学び、たくさんの作品に出会いました。

 

①    短歌とは?!

韻律(言葉の響きとリズム)を味わう三十一音の日本の定型詩です。

耳と目で味わいます.一行で間を開けずに書くのが原則です。

②    短歌の約束事など

【構成】(上の句)五・七・五(下の句)七・七

この対比構造、二重構造で詩の世界を表現します。

③    作り方のポイント

与謝野晶子「じっと観、じっと愛し、じっと抱きしめて作る。何を、真実を」

『真実』とは、森羅万象と自分の心が反応して生まれ出るもの。

○メモ用紙と鉛筆は必需品。「思ったこと」はすぐに逃げていくので、すぐメモする。

○声に出して何度も読んでみる。心と言葉の流れが一致しているかを確認する。

○難しい言葉、ありふれた言葉は避ける。

◎言葉を探すことは、自分の心に向き合うこと。自分の心に言葉を与えてあげること。

 自分の中に眠っている言葉に出合い、新しい自分を発見しましょう。

 

寄せ返す波のしぐさの優しさにいつ言われてもいいさようなら    俵  万智

 

夏みかんのなかに小さき祖母がいて涼しいからここへおいでと言へり 小島ゆかり

 

ちる花はかずかぎりなしことごとく光をひきて谷にゆくかも     上田三四二

 

鶏ねむる村の東西南北にぼあーんぼあーんと桃の花見ゆ       小中 英之

 

かなしみは明るさゆゑにきたりけり一本の樹の翳らひにけり     前 登志夫

 

 講座の中では、その作品と対話できる空間があるものが短歌である、従ってすべて言い切ってしまわないことも大切で、読者自身の想像力を活かした読み方に託すことがポイントであること。また、その短歌に「絵」があること、読者が心の中で「絵」を描くことができることも大切な要素であることを、先生が強調されました。生活の一部を的確に切り取り、丁寧に写し取る短歌を目指したいものです。

 『自らの内にお入りなさい』(リルケ)自分と向き合い、心を耕す営みを積み重ねる中に、五・七・五・七・七を紡いでいくことを習慣にできたら…。

 12名の受講生でスタートしましたが、これからの皆さんの積極的な参加を期待しています。次回は、6月15日(土)の開催です。

 




5月17日(金)金沢市中学校文芸部 俳句学習会 
言葉選び、言葉つなぎにこだわる

 五月晴れに恵まれたこの日、金沢市立西南部中学校と金沢市立浅野川中学校の文芸部に所属する25名の皆さんをお迎えしました。「初夏の俳句づくりを楽しもう」のテーマで、この季節にふさわしい、新鮮で溌剌とした俳句づくりに挑戦しました。

 俳句の約束、さまざまな夏の季語、表現技法、素直な感覚・感性(五感)を活かすことなど、小西(館長)から説明を受けた後、さっそく創作にかかりました。

 

 廊下には白黒混ざる初夏の色   心和

 衣替え今日から白が増えてゆく

 

 初夏の日や白黒混ざる通学路   和花

 初夏の朝白黒混ざる通学路

 

 教室で涼しい風が吹きつける   桃子

 教室を涼しい風が吹き抜けて

 風涼し教室廊下体育館

 

 見上げれば夜空駆け抜く流星群   麻里

 見上げれば流星群の駆ける空

 

 ふるさとの胡桃の花は美しく(秀作) 杏友

 

 天高くかざすビー球海の色(秀作)   里桜  

 

 授業後のオレンジに染まる秋の色   美緒

 放課後の夕日に染まる通学路

 

 青空にはじける笑顔と向日葵と(秀作)  里桜

 

 夏休み風鈴ゆれていい音だ   もえ

 祖母の家風鈴ゆれて夏休み

 

 カーネーション笑顔ほころぶ母の日に(秀作)  恵未華

カーネーション笑顔の母に光る粒

 

 坂道を自転車で駆ける炎天下    麻衣

 風受けて自転車駆ける夏の歌

 

 強い風おぼれかけてるこいのぼり(秀作)  紗葉

 風巻いておぼれかけてる鯉のぼり

 

 坂道を走る自転車追いかける   鈴音

追いかける自転車の影遠ざかる

 

 白い球この一球で勝負決まる    恵里奈

 玉の汗この一球に勝負かけ

 

 体育の授業おわりに光る汗   愛莉

 走り終え荒く吐く息光る汗

 

 梅雨明けや冷たい路地で猫が鳴く(秀作)  星那 

梅雨明けや湿った路地で鳴く子猫

 

 サブバッグ抱えて走る夏の朝(秀作)   ひなた

 サブバッグ抱え駆け出す夏の朝

 

 見渡せば色とりどりの花畑   咲良

 チュウリップ色とりどりに風の丘

 

 うすくなるひとりぽっちのソーダ水(秀作)  春菜江

 忘られて涙のしずくソーダ水

 

 たんぽぽが私のほほにふんわりと   美緒

ふんわりと頬かすめ飛ぶ綿毛かな

 

 水鶏や川の調べを知る者よ(秀作)  愛祐美

水鳥や川の瀬音を聴きながら

 

 暗い夜いろとりどりの花火咲く   いずみ

 どよめいて火薬の匂う河原かな

 

おぼろ月ぼんやりかすむこの気持ち  星那

なぜかしら眺めていたいおぼろ月

 

夏の空星きらめいて青い川   愛祐美

あれこれの思い流して天の河

 

駆け抜ける仲間と共に青春を   アカリ

仲間たちと駆けるいま青春の日

 

歩くのも今日で最後の通学路(秀作)   あすか

いつもとは違う最後の通学路

惜しみつつ歩む早春の通学路

 

 あっという間に、たくさんのさわやかな俳句が生まれました。場所、時間、辺りの様子、人の話し声など、17音の俳句から具体的に浮かぶように工夫することがポイントでしょう。よく似た意味の言葉、言葉のつながりや語順の入れ替えなどあれこれ試す中で、一番ピッタリくるものにしぼりこんでいくといいですね。

 これからの文芸部の皆さんのご活躍を楽しみにしています。




 5月12日(日)第1回 「朱鷺の墓」朗読会

 ようやく帰郷した染乃とイワーノフに忍び寄る影

 朗読:髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表)

 「朱鷺の墓」朗読会は3年目を迎え、最終章である<流水の章>に入りました.今年度も引き続き朗読小屋・浅野川倶楽部代表の 高輪 眞知子(たかなわ まちこ)さんによる朗読をお楽しみ頂きます。

 

朗読会『朱鷺の墓』 ~登場人物と「愛怨の章」までのあらすじ~

【主な登場人物】

染   乃:元金沢・東郭の芸妓。暴動の最中、イワーノフに救われた縁で結婚。

イワーノフ:元ロシア人将校。日露戦争の捕虜として金沢に迎えられ、染乃と結婚。

雁木機一郎:染乃の馴染み客で、染乃が慕い信頼する存在。政治活動に奔走する。

石河原大尉:金沢のロシア人捕虜収容所の所長。染乃の理解者。

張 文 国:中華料理店経営者。染乃夫婦を信頼し、物心両面で支える。

【空笛の章】

明治38年。芸妓である染乃は、日露戦争の捕虜将校一団をもてなす慰安会で笛を披露することとなる。しかし、この会に反感を持った市民たちは暴徒化した挙げ句に公爵大佐へ投石し、染乃も襲われそうになったところをロシア人将校・イワーノフに助けられる。この一件に立腹した大佐に「ロシア人に襲われた」という嘘の証言をするよう石河原大尉は染乃と養母ハツに迫るが、2人はそれを拒否しハツは自害する。

責任を感じた大尉は大佐へ全てを正直に打ち明け、許しを得る。一方、染乃はイワーノフと再会して愛を育み、夫婦の契りを結ぶ。日露戦争終結後に必ず迎えに来る、と言い残してイワーノフは一旦帰国する。石河原や機一郎と共にイワーノフの船を見送る染乃だったが、花田屋の旦那がけしかけた男達に突然拉致されてしまう。石河原大尉と機一郎は染乃を探し出すが、すでに異郷の花町で「春太郎」として生きていた。助けを拒絶する染乃を振り切り、機一郎は染乃を連れ出す。

平穏な日常へと戻り、イワーノフとも再会できた染乃は、脳裏に浮かぶ辱めの記憶に苛まれ川へ身投げしようとするが、不思議な男に引き止められて家路につく。しかし待っていたのは染乃を遊郭へ売った北前の徹だった。染乃は、再び娼妓としてウラジヴォストークへ身売りされてしまう。

【風花の章】

ウラジヴォストークで娼婦として働き始めてから、3年が経過した。染乃は元諜報員で自分の客だった男から受け取った手紙で、イワーノフがイルクーツクの政治犯収容所にいることを知る。染乃は前借金を精算し、手紙を運んできた笵少年と共に旅立つ。染乃と笵は、収容者の家族の小屋が建ち並ぶソールスコエの村で、息子の帰りを待つ老女の家に同居する。凍てついたロシアの大地で暮らした5度目の秋、念願叶ってイワーノフが収容所から解放され、夫婦はかたく抱擁する。

翌年、ウラジヴォストークに戻った染乃は、馴染み客の貿易商人と偶然再会する。その紹介でナホトカの中国料理店「東園」に夫婦住み込みで働くことになった。店での働きぶりを評価された2人は、穏やかな生活を得た。イワーノフは仲間を裏切って出獄した自分が幸せに浸る苦しみを吐露する。染乃もまた遊郭での暗い記憶に苦悩していた。

そんな最中、「東園」の主人は染乃に新店舗の経営を任せる。夜の店内で、イワーノフ、笵少年、染乃の3人は自由な新しい生活への希望を語り合う。

染乃とイワーノフの誠実な人柄が評判となり、ナホトカの中華料理店主としての生活が始まる。染乃の新しい店が繁盛すると、今度は張から共同経営者になるように誘われる。近い将来、国際的な緊張関係に対応できる経営体制を確立するためだった。

 1917年ロシア2月革命の後、レーニンがソビエト政権の樹立を宣言した。翌年、日本政府はヴラジヴォストークに軍艦を派遣するなど、日本軍のシベリア進出が顕著になった。英国、仏国、米国、中国なども戦艦を送り込み、ヴラジヴォストークは騒然たる状況だった。ナホトカの中華料理店を任されて順風満帆に見えた染乃とイワーノフの生活は一転した。夫婦が経営する料理店も閉店を余儀なくされる。

染乃は日本軍の指揮官だった源田少佐から、大金を支払って営業継続することを強要される。金を支払う条件として染乃が呼び寄せた機一郎は、窮地に立つ染乃の状況を察知し、源田をその場で殺害した。源田の死が表沙汰にならない間に、染乃はペテルスブルグに旅立つことを決意する。張文国が資金を調達してくれて、染乃と夫のイワーノフ、機一郎の3人は、ナホトカの町を離れて、ロシアの都・ペテルスブルグに向かった。

【愛怨の章】

ペテルスブルグの裏通りの粗末な部屋で、3人の新たな共同生活が始まる。イワーノフは民衆の結束による新しい国づくりを目指していた。一方、様々な無理を重ねてきた機一郎は心身共に衰弱状態にあり、日ごとに悪化してゆくばかりだった。

そんなある日、イワーノフの妹であるナターシャが飛び込んでくる。ナターシャは反革命分子のスパイとして白ロシア関連の組織に情報提供する立場にあった。新国家の安定した社会体制を確立する、という夢を実現したいと奔走するイワーノフだったが、元々貴族階級出身の彼には周囲の労働者・プロレタリアートたちとの軋轢は厳しいものだった。染乃も機一郎もそんなイワーノフは政治活動や労働運動から身を引くべきだと考えていた。そんな矢先、ナターシャが新政府勢力に逮捕される。身の危険が及ぶことを恐れたイワーノフと染乃は、父母の逃避先であるブルガリアに転居し、父母を救い出そうと考えた。

染乃夫婦は、ブルガリア・リラの僧院の知人のもとに身を寄せていた。染乃はイワーノフと伴にヨーロッパの街で西洋料理の修業を積んで、いずれ日本に帰り西洋レストランを経営することを夢見る。当面の旅費や生活費は、英国人美術商の計らいにより、リラ僧院の副修道院長から譲り受けた貴重なイコンを換金することで捻出した。

染乃夫妻は、両親との再会を果たせないまま、生活を立て直すためにパリに移る。《花の都》の一隅で、二人はつつましいアパートに暮らしながら、中華料理店「東園」の店員として働き始めた。ところがその後、イワーノフは無断で店の仕事を休んだり、外泊したりすることが度重なる。それは、ソビエト政府を暴力で倒そうとするテロリストグループとの接触から生じたものだった。今度はイワーノフがそのテロリストたちの秘密を知ったことで、命を狙われる危険にさらされる。染乃は急遽イワーノフに、マルセイユから日本に帰国することを提案する。日本に向かう貨客船のなかで、染乃はイワーノフとともに長い流転の日々を思い起こし、しみじみと懐旧に耽るのだった。

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【流水の章】へ

 長い放浪と流転の歳月を経て、染乃とイワーノフノ夫婦は金沢に戻り、東山界隈を住処につつましく暮らしていました。染乃は横笛の師匠として、イワーノフは《俥引きのイワさん》として、街の人々に親しまれながら過ごす日々でした。ところが、ロシアではパルチザン(遊撃兵)が多数の日本人を殺害するという事件もあり、日本人の反露感情も増幅しつつあるという不穏な状況でした。染乃の中にも、日本という国は必ずしも懐かしい母国というだけのものではなく、何か得体の知れない怖さを感じるところがありました。それは列強に伍して世界の一流国に割り込んでいこうとする強引な風潮を根源とするものであり、とりわけ特務機関の男たちが放つ、染乃の嫌いな異臭でした。

 そんな染乃夫婦の平和な日々をかき乱す様に、貧しい身なりの不気味な老人が染乃の前に突然現れて乱暴な言動で驚かせます。それは、かつて橋場町の大店の主人で、東の郭でも豪遊と我儘で悪名を馳せ、右翼の壮士を雇って染乃を泥沼に突き落とした、花田屋の旦那の落ちぶれた姿でした。身代を潰して日々の暮らしもままならない花田屋は、染乃にお金を用立てるように身勝手な要求を強要してきたのです。哀れみと嫌悪感で、暗い気分に沈む染乃でした。

 

   だが、染乃の心を暗くしているのはそのことだけではなかった。彼が染乃の過去を町の人々やイワーノフに喋る、と言ったことだった。(中略)

   〈お金ですむことなら――〉と、染乃は考えた。パリで働いて貯金したお金が、まだ僅かだが残っている。イワーノフが俥を引くことをやめた時に、何かちいさな店でも一軒もちたいと思って大切に残してある金だ。

   その金を渡して、あの花田屋がそれで納得すればそれでかまわない。しかしはたして金だけでおとなしく引きさがってしまう相手なのだろうか――。染乃はそのことを考えつづけた。いっそ、自分の口からイワーノフに話してしまおうかとも思った。

   染乃がそう考えるのは,イワーノフと自分の間のつながりに対する強い信頼があったからだ。今ならもう、本当のことを話しても、二人の間はこわれない、という確信が染乃にはある。(中略)

〈どうして幸せというものは、いつもこんなにこわれやすいものなのだろうか〉と考えた。花田屋はいずれこのうちを探し当てて訪ねてくるだろう。そして、あの充血した動物のような目で染乃の体をねめ回し、イワーノフに、事実をさらに脚色した悪どい言い方で、染乃の過去を語るにちがいない。

 染乃はじっとしてはいられないような焦燥感にかられながら唇を噛んで、白く光りながら降り続ける雨を眺めた。 

 

 10余年ぶりに帰郷した金沢でも、また執拗に忍び寄る不安な影。最終章「流水の章」で、クライマックスにさしかかります。試練と救い、再会と新しい出会いと‥‥染乃の行く手にどんなドラマが待ち受けているのでしょう。高輪さんの心のこもった朗読はさらに続きます。次回、6月9日(日)をおたのしみに。ぜひ、お誘い合わせてお越しください。

  



 5月11日(土)第1回 詩入門

 書くことで自分を発見し、心を解放させる

 講師:井崎 外枝子(詩誌『笛』同人)

 

 午後からは第1回目の詩入門講座を開講しました。講師は詩誌『笛』同人の 井崎 外枝子(いざき としこ)先生、杉原 美那子(すぎはら みなこ)先生、詩誌『禱』同人の 内田 洋(うちだ ひろし)先生のお三方です。詩を読み味わい、詩の面白さや奥行きを学んだり味わったりしながら、実作を重ねて、それぞれの詩の世界を追求することを目指しています。

 初回は、井崎 外枝子先生の担当でした。詩の創作に向き合う姿勢や強い思いをはじめ、いくつかの詩作品を読み合わせして、それぞれの作品に託された詩人の願いや心情を読み取り、表現の特色や言葉の微妙な連鎖やその効果などを鑑賞しました。

 冒頭に,作詞家で知られる、なかにし礼さんの

 

 一行一行、今までになかったことを書くということは自分を発見することである。

 そうした創造は、心の解放につながる。

 

という言葉が紹介されました。書くことを通して自分と向き合い、心を解放させるきっかけとして、この講座が受講者の皆さんの生活のなかに浸透していくことを願っています。

 今回の講座で先生からご紹介頂いた詩作品の一部です。

 

幸せという名前     八木 紀子

アフリカの乾いた大地に

鼻のない子象が生まれた

名はバハティ

スワヒリ語で”幸福”という

家族に守られながら

腹ばいになって水を飲み

脚を折っては草を食べ 歩き

必死に生きていた

 

一年過ぎて

テレビから バハティの姿が消えた

どうしているのか

風が吹く朝

くらがり坂から

生きとんまっし

鼻がなくても象は象だよ

アフリカまで届け!さけんだ

私も“幸福”という名の病気を抱えている

 

*明るくおおらかなアフリカの人びとの温かい眼差しに見守られている子象。その子象と作者の距離が一挙に縮まる後半。金沢弁と最後の一行が際立つ。

 

浮きしずみする日々よ    椎野 光代

タラの大群

おしよせて

夜を眠れないでいる

 

妻にきらわれタラ

会社を首になっタラ

離婚されタラ

 

愛妻弁当をあけた日々がなつかしい

黄金いろの輝きがまぶしい

 

「妻」の文字が

「毒」の文字に変化する恐ろしい一瞬をみた

 

潮の流れがかわり

タラの大群をかきわけて

「タイ」の一匹をみつけた

さみしい幻覚の海に

きらきらと鱗をひからせて

めでタイがおよいでいる

 

鱈と

鯛がたえまなく

浮きしずみする日々よ

波間にただよう因果・宿命・定法の海草が

からまり

溺れゆく

 

*タラ(仮定)とタイ(願望)を日常生活と重ねて比喩的に表現した、そのユーモラスな着想が魅力的で秀逸である。

 

婆さん蛙ミミの挨拶     草野心平

地球さま

永いことお世話さまでした。

 

さようならで御座います。

 

ありがたう御座いました。

さようならで御座います。

 

さようなら。

 

*平明なやさしい言葉で伝わる思い。いぶし銀の命のきらめきを宿す蛙への畏敬。

 

6名の受講者でスタートしました。少人数鵜のよさを最大限にいかしながら、詩の一行一行に立ち止まって楽しみ、言葉の響き合いやつながりをじっくりと味わいながら創作の深化につなげタイものです。次回は、6月8日です。

 




 5月11日(土)第1回 小説入門

 悲しみ・怒り・切なさ…、経験こそが書く力

 講師:高山 敏(『北陸文学』主宰)

 

 新年号は「令和」と改まり、風薫る初夏の日差しあふれる本日から、今年度の連続講座が始まりました。小説入門講座の講師は、同人誌『北陸文学』主催・高山 敏(たかやま さとし)先生と、同人誌『飢餓祭』同人の 小網 春美(こあみ はるみ)先生のお二人です。短編小説の楽しみ方、創作上の課題とそのポイント、実際の書き方や注意点、添削の要領、受講者の皆さんの試作品の合評など、8回にわたって学びながら実践します。

 

 第1回目となる今回は、14名の受講生をお迎えして「小説を書く力」をテーマに高山先生が担当されました。

 受講の動機や具体的に書きたいことを、順次お伺いしました。自分自身や身内に起こった特異な体験、人の心の不思議さ、社会の不条理、民話をもとにした採録、自分の死と向き合い改めて人間とは、人生とは何かという課題、学校生活における辛い経験、対照的な二つの個性を浮き彫りにする…など、世代も幅広く、様々なテーマに向き合って小説に表現したいという意欲的な姿勢が感じ取られました。

 

『創作に当たり心がけたいこと』

①    小説とは。虚構の登場人物の考えと行動を、話の筋をもって描く。深い思想よりも、鋭い感覚を尊重する。

②    主題(テーマ)を一つに絞る。短編では登場人物も少なくして、一つのことだけを書く。

③    ある状態によって生じた主人公の心の動きや変化を書く。

④    初めは身近な出来事を。家庭、職場、学校など身辺の題材を描くのがよい。

⑤    対立、断絶、好悪、不安、不信、あこがれ、ときめき、苦悩、諦め、挫折、喪失、絶望など、感情を創作に投げ込む。

⑥    書き出しと結末がつながるような工夫をする。未解決のまま余韻を残すのもよい。

 

なぜ書くのか?!これを書かなければ死んでも死にきれない、書かずにはおれない!というモチベーションを維持し増幅させること。さらに、これまでの様々な特色ある経験が、書くエネルギーになるということを、最後に強調されました。

 次回は6月8日(土)で、小網先生の担当です。ご期待ください。




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