〇12月21日(土)第8回 小説講座 ~実作品の批評②(第1グループ)~
実作小説の批評 |
|
講師:皆川 有子(『櫻坂』同人) 藪下 悦子(小説家) 第8回小説講座➁は、実作小説第1グループの批評会です。講師は皆川 有子先生(『櫻坂』同人)、藪下 悦子先生(小説家)です。講座から一部紹介します。 なお、本文から(◇)、内容(◆)は、前のブログにのっていない➀「差し色」と④「片付け」のみ明記します。あとの作品は、11月16日、第7回小説講座(第1グループ)のブログで紹介していますので割愛します。ご了解ください。 1 実作小説の題名、批評は?(★)(第1グループ) ※「➀差し色」と「④片付け」のみ、本文(◇)、内容(◆)も明記しています。 他の作品は以前のブログで掲載しましたので、今回は題名と批評のみを載せています。 ➀差し色 ◇「石川県に入り、左手の車窓には真っ青な海と空が見えてくる。どんよりとなまり色の雲が覆っている方が、大阪に戻ることを後押ししてくれて気が楽に感じる」 ◆「ちあき」は、大阪の大学を卒業して、そのまま就職してもう十年になる。大阪では金沢の人、金沢では大阪の人。うだつのあがらない人生を過ごしていくのかと、一人悩んでいる。そんなちあきが、ある落語家「松家 豊春」のライブを見て、今後の希望を見出そうとしていく。 ★批評から・題名は適格と思う。 ・現在の心境→姉→友達→豊春 の順で、話の流れがわかりやすい。両親のことは、話に奥行きを加えている。 ・主人公の心の動きを説明より、描写で書いていること。 ・豊春という推しとの出会いが、ちあきの人生を変えていくという明るい予感で終わるところ。 ・ちあきがなぜこんなにも劣等感をもっているのか?卑屈になる理由が読めない。 ・描写で登場人物の性格、生活ぶり、年収などが見えてくる。上手い表現である。 ・主人公が小さなエピソードに感動を覚えていく。優れた感覚がわかる作品である。 ②光 ★批評から ・すべては「光」であるが、題名はそれでよいのか。再考してほしい。 ・本作品の場合、朗読作品が泉鏡花の「鶯花径」、作品に由来する寺が東山の真成寺、「ある女の神」が鬼子母神であることなどを書いたほうが、作品としてより深みが出て、焦点が定まる。 ・作者独特の目線での幻想的な作品であること。これは作者の個性である。強み。 ・誰が誰に話しているのかがわかりづらいところがある。 ・純文学的な作品であるが、かなり難解。少し観念的であると思う。最後の見つけた光と出口は、産道を抜けて生まれてくるところだろうか? ・泉鏡花「鶯花径」を読んでいないと読み解けにくい。普通の読者に届くための推敲が必要になる。 ・導入の仕方が上手で、異世界に入りやすいものとなっている。 ③孤独海 ★批評から ・「孤独な海」「孤独の海」のように、「な」「の」を入れると作品の印象が変わる。できれば「孤独」を入れない題名の再考を。題名に全てを語らせてはいけない。 ・小夜子の心の動きが丁寧に描かれている。 ・推敲が必要。(何点かの推敲点の指摘がある) ・読者の疑問に答えるものでなければならない。大学へ行く学費は?母から叱責された時の父や兄の様子は?小夜子は今、幸せに暮らしているのか?など。 ・少し観念的であり、頭の中で作っている印象がある。 ・リアリティに欠ける印象を持ってしまう。ストーリーが先走っているためではないか。 ・最後の方「遅いよ」という言葉がもつ解釈がいろいろと分かれてしまうのではないか。私は「母を許した」としたのだが作者の意図はいかに? ④片付け ◇「『こんばんは。私は石川県で伝統工芸の職人をしています。この道50年、これまでたくさんの器を作ってきました。私の探し物は、未来の私が作る器です。これまで思いを込めて作ってきた器は、別の人が使ってくださっているので手元にはありません。ですが、この50年、器を生み出すごとに技術は成熟し、自分のものとしてこの手に残っています』」 ◆片づけられない主人公が、探し物をしていく中で、起こる出来事や話と向き合いながら、思い出や自分と向き合う意義を見出していく作品である。電池のありかもメモリーカードも、30年前に祖父が買ってくれたラジオから流れる既に引退したはずのパーソナリティの言う場所にあるという不思議なお話。 ★批評から・題名はエッセイ風。小説にするならば違う題名を再考すること。 ・エッセイか小説なのかがわからない。冒頭部(具体的な指導あり)の大幅削除でファンタジー風の小説にはなる。 ・主人公の人物像が読者に浮かばない。30半ばの独身の片付け下手? どんな生活?どんな仕事?リアリティが欲しい。 ・エッセイは書く人が作者であること、小説は視点が登場人物であること。創作が前面に出てくるのが小説である。そうでないと読み手は困ってしまう。 ⑤印鑑 ★批評から ・印鑑を押す場面を柱として書かれていて、ストーリーがわかりやすい。 ・霧子の結婚についての考えや、父の印鑑への想いや病気を絡ませ、作品に奥行をもたせているのが良い。 ・霧子の状況がわからない。いま何歳?どんな仕事を?どんな暮らしを?リアリティを持たせるために書きこんでほしい。 ・6ページ最後の行。「心の中で思った」は「父に話しかけた」にすると余韻が残る。 ・1ページ7行目「霧子に自分たちが使っていた印鑑をよこした」とある。姉や妹が結婚した時の行動を表しているが、この表現はひやりとするもので、霧子の心象がよく出ているものである。 ・読んだ後に爪痕でも良い、何か心に残るものがあると小説は良い。爪痕が余韻となり、読者の心に残るというのが何より大切なことだ。 ⑥同じ空を見上げる ★批評から ・ずっと、いじめに耐えていた侑空が勇気を持って立ち上がる成長物語。青い空は、希望と明るい未来の象徴であろう。 ・侑空と純羽の視点が混在している。主人公は誰?と思ってしまう。 ・地の文での「彼」「彼女」の書き方は視点が揺らいでいる。視点が登場人物になったり、作者になったりしている。地の文では名前を書いて欲しい。 ・名前のあるのは主人公と副主人公である。「侑空」「純羽」の命名の意図はつい考えてしまう。古部田(こぶた)という命名は適格か?再考してほしい。 ・小説としての奥行きが足りない。ストーリーとしてもありがちなこと。家族の事件が入ったりすることで平坦なストーリーから脱却する。 ・「出来事」をぶつけていくと副反応を起こしていく。そうすると簡単にスルー出来なくなる。ぜひ副反応を起こしてもらいたい。どんどん書き込みをしていくことが大切である。 今回は最終小説講座でした。今年度は、宮嶌先生、藪下先生、皆川先生、寺本先生ら4名の先生方にご指導いただきました。本講座では、オブザーバー参加が3名あり、一年間を通して意欲的な受講をいただきました。毎回、熱心な皆様による充実した講座となりました。 厳しくも温かい指導をいただいた先生方、受講生のみなさん、本当にありがとうございました。今年度の講座は終了しましたが、これからも小説を書き続けていただきたいと願っています。 |
皆川 有子先生 藪下 悦子先生 |
〇12月21日(土)第3回 川柳入門講座
「川柳で人・社会とつながる」~ミニ句会から柳社句会、そして大会へ~ |
|
講師 : 浜木 文代(はまき ふみよ)(石川県川柳協会 副会長) 川柳入門講座も最終回です。本講師は石川県川柳協会副会長 浜木 文代(はまき ふみよ)先生で、テーマは「川柳で人・社会とつながる」です。 浜木先生は、明るい笑い声いっぱいの講座で、受講生に今後の川柳への道を示していただきました。また本日は、実際に全員が川柳を作りました。意欲溢れる受講生の作品一つ一つに、先生が「すごいですねえ。はじめてなのにすごい」「なかなかすごいですよ」と感嘆されながらの講座となりました。それでは講座の内容から一部、紹介します。 1 百歳の川柳人 隅田 外男さん 百歳で句集を発刊している。今も現役です。 ・不意にきた地震くらしの灯を奪い ・千枚田一枚ごとにある祈り 2 色々な川柳紹介を (サラリーマン川柳) ・単身赴任電話の声が明る過ぎ ・ついてこい今では俺がついてゆく (シルバー川柳) ・見つめてる考えているあら寝てる ・病院は具合悪くて休みます (遺言川柳) ・遺書書いて腕立て伏せを二十回 ・財産もないのに遺影良く笑い (万能川柳) ・どのくらい殺生したか靴の底 ・書き置きのとおりに過ごす妻の留守 ※他にも、時事川柳、現代川柳、企業川柳、伝統川柳などたくさんあります。 3 ミニ句会から柳社句会へと (1)ミニ句会 ・やすはら川柳教室 ・藤江健寿会俳句川柳同好会 (2)柳社句会 ・現在、石川県に柳社は17社ある。ぜひ参加を。 この後、句会のやり方についてみんなで学んだあと、実際に受講生も川柳づくりをしてみました。受講生が創った川柳は、今年度から「金沢創作工房」に掲載することとなりました。楽しみにしていただきたいと思います。 本日が川柳入門講座の最終となりました。山﨑敏治さん、赤池加久さん、そして浜木文代さんによる三回の充実講座となりました。 川柳講座の三人の先生方、受講生のみなさん、熱心に受講いただきありがとうございました。またお会いできますことを楽しみにしております。 |
〇12月14日(土)第8回① 小説講座 ~提実作品の批評(第2グループ)~ 本作小説の批評 |
|
講師:皆川 有子(「櫻坂」同人) 宮嶌 公夫(「イミタチオ」同人) 第8回小説講座➀は、実作小説第2グループ批評会です。講師は皆川 有子先生(「櫻坂」同人)、宮嶌 公夫先生(「イミタチオ」同人)です。では、作品批評から紹介していきます。前回のブログで、本文(◇)、内容(◆)を紹介しましたので、今回はそれらを割愛します。題名と批評の一部抜粋を紹介します。 ○実作小説の題名、批評は?(★)(第2グループ) ⑦類いの者(たぐいのもの) ★批評から ・変わりやすい人の心だが、主人公は田之助を、過去も、現在も、未来永劫に好きだと断言している。その根拠は何か?読み手は気になってしまう。 ・田之助の不思議な会話、隣の友人の反応を敢えて書かないところも冗長に流れない工夫と言える。 ・話の展開にスピード感があって若々しさがある。 ・ラストの〈生まれたばかりの赤子をのぞきこむ若い両親のよう〉という比喩は光っていて、本作品の核心を示唆している。 ・不思議な話は読み手を惹きつける。単なる興味本位のお化け話でなく、深い内容の物語に進化していく可能性がある。 ⑧愛と勇気 ★批評から ・手に余る幼い子どもに対する父親の苛立ちと愛情がごちゃ混ぜになった心情が読み手に伝わってくる。 ・牛丼と牛めしの違いにこだわる隆君、母親との思い出が心にあってそれに引っかかっていることを言葉で説明できない隆君は泣くことでしか伝えられない。子どもらしい反応が綴られている。しかし、この後は大人が創作した感じがある。どこか作り物の感じもする。 ・何を聞いても「知らない、なんもない」というヤマト君の言い方にリアリティを感じる。大人の理屈で説明できない世界だ。 ・細やかな日常のトラブルの中に社会と個人の問題が底流しています。 ⑨アカシアの風 ★批評から ・常体、敬体の混在はあってはならず、推敲の必要がある。 ・誤字、脱字についてはなくなるまで推敲していくことが肝要だ。 ・登場人物の名前の記載が違っているところも推敲してほしい。 ・雅代さんの行動、対応に葛藤が見られないのが残念。葛藤が大切である。 ・「光を得た小さな命は愛に育まれていくだろう」との最後の文は、あまりにも短絡的であり再考する必要がある。 ⑩タイトル未定 ★批評から ・街から離れた初任校に出勤する主人公の日常に軽音部の後輩達とのエピソードが挟まる。中でも用務員のおじいさんの描写が魅力的。地の文に田舎暮らしに違和感のある主人公の感覚、立ち位置が垣間見える。 ・この土地での主人公の一件細やかな新しい日常の始まりに今までない新鮮な生きていることへの手ごたえの可能性が垣間見える。 ・猪の解体作業から鍋にして食べる校長の特別授業を読んでみたい。ありきたりでにない主人公の感想、子ども達、教員仲間の描写を読んでみたい気がする。 ⑪白い箱、流れる ★批評から ・主人公の心情を実によく描いていて、よく練られて考えられた作品である。無意識的にではあろうが、よくまとめている。 ・題名が物語のテーマをうまくとらえているのではないか。 ・演劇部に対する秋山の心情の変化が丁寧に書き込まれていて共感がわくものである。 ・何といっても読後感が良い。 ・人間の対比関係が見事に描かれている。 ⑫柿の木は残せるか ★批評から ・主人公は深刻に悩んでいるのだが、それを実にユーモラスに描いている作品である。 ・出来事が実によく描きこまれていて良い。 ・題名の「柿の木は残せるか」というのは再考しても良いのではないか。「残せる」「残せない」という話ではないと思うのだが。 ・主人公「宇道」の心情がどのように変わってくのかを見事に書いている。 ・文体の工夫、ユーモラスな雰囲気があり、技のうまさが光っている。 ⑬笑うカラス ★批評から ・ショートショートではあるが、物語を書いてもらいたいという思いがある。 ・ブラックユーモアを表現している。ただ作者の思い、内面の投影が見られる作品作りをしていってほしい気がする。 ・以前の作品の推敲版であろう。全体的にすっきりとして大変に読み進めやすい内容となっている。 今回、皆川先生、宮嶌先生からの的確なご指導がありました。いよいよ推敲いただいて最終原稿を提出していただきます。次回は第1グループの最終講座となります。次のとおりとなります。 〇第8回小説講座➁(第1グループ) 12月21日(土)作品批評と推敲➁(第1グループ)講師(皆川先生、藪下先生) みなさんの受講をお待ちしています。 |
左:宮嶌 公夫先生 右:皆川 有子先生 |
〇12月14日(土)第8回 小説入門講座
~実作小説の批評と推敲②(全受講生)~ |
|
講師:小網 春美(『飢餓祭』同人) 12月14日(土)第8回小説入門講座は、実作小説の批評と推敲です。最終講座となります。講師は、小網 春美先生(『飢餓祭』同人)で、8名の作品提出の最終批評と推敲を実施しました。作品内容(◆)は前回ブログで紹介しましたので割愛し、今回は「題名」と「小網先生の批評と推敲」の一部を紹介します。 1 受講生の実作小説から(題名と批評(★)から) ➀荒海 ★批評から ・ノスタルジーを感じる作品で、タイトルも良い。大人になるまでを描いたものである。 ・「あーか」とあだ名がついたとあるが、その理由を読者は知りたいと思う。 ・「すべてが変化する可能性がある」こういう文章がどこから生まれたのだろうか。わかりやすく書いていくとよい。テーマと関連させると良いのではないか。 ・削除する文章と改行すべきところを再考してもらいたい。 ・「自分の絵が、後ろの壁にはられた。気をよくして…」長々と書かなくても、頭に「なんと自分の絵が…」と書くだけで、読者はちゃんと想像してくれるものだ。 ➁坂の先の空 ★批評から ・難関校で大きな壁にあたっていく。そこから立ち上がる心を書いた作品であるが、もっと挫折感を大きく書いていくことが大切だ。そうすることで立ち上がる気持ちが、もっとはっきりと描かれていく。 ・「だからこれ以上、ここから自分の調子が上り坂になる気がしないのだ」など、自分の説明は書かないこと。削除が望ましい。 ・最後は良き表現だ。「空を見上げた私の眼には、春特有の笑ったような三日月が浮かんでいた」の表現は秀逸だ。 ➂(作品タイトル)未定 ★批評から ・作者をして「書きにくい小説」と言うのは確かにある。今回はまさにそんな典型的な例だ。本作品はあなたらしくない小説でありご自身が悩まれているのがわかる。 ・「結局、手紙ではなくハガキを出した」とあるが、何故にハガキなのかが読者が知りたいところではないか。 ・「トイレの洗面台の前に立ち鏡を覗き込んだ。そこに映るのは、六十代という年齢の割には若く見えるが、紛れもなくただの老人で…」といったところがある。こんなことこそ、詳細に書かなければならないところで素敵な表現だ。 ④今もこじれています ★批評から ・長編を縮めて書いた小説であり、いろいろな要素が唐突に出てきて、読者にとっては混乱してしまう内容となっている。つながりが大切である。 ・改行ミスが多く、改行ポイントがたくさんある。また、内容を整理して書いていくことが大切となる。推敲が必要。 ・共感は大切。反発は「そんな生き方もあるのか」と考えること。「こじれている」といった表現だと、生き方が閉じてしまっているのではないか。行き詰まる感がする。 ⑤四金物語 ★批評から ・「大脱出物語」というか、人間の世界を風刺したものであると良い。 ・なぜ女子がすべて昇天していくという内容になったのか。疑問が残る。 ・作者はストーリーをしっかりと作れる人だ。確かな力がある。 ・金魚の目から見た人間の生活がもっと描かれていくと良い。 ・「俺たちは『ニャー魔王』と呼んで怖れている。つり上がったでかい目で威嚇したり、鋭い爪を水面に入れることもある。……」という箇所の表現は秀逸である。 ⑥雲をつかめない ★批評から ・私が「どうしたいのか」という核心にせまるアプローチが弱い。 ・書き手と主人公が同化している。両者の距離がないのが大きな問題点である。みんなが陥りやすいところである。 ・改行ポイント、一行空けなど、再考の余地がある。推敲をしてほしい。 ・金沢弁が出てくるが、それらの言葉が生かされる作品なのかどうかの見極めが大切である。 ・面白い主人公であり、描かない手はない。そんな中で、その主人公と自分の心が、どのように向き合っていくのかを描いていくことが大切なのではないか。 ⑦坂の上の雲 ★批評から ・最初の書き出しが秀逸。とても良い。 ・好感が持てる小説となっていて、読後感が良い。 ・「マイナス思考」と「プラス思考」をいったりきたりしている小説となっている。読者にとって戸惑いを覚える進め方と言える。それぞれの思考を、ひとまとめにして描いていくことが肝要である。 ・最後の終わり方は平凡で自己満足に終わっている。読む人に伝わっていない。登山の厳しさを描き、これからの暗示を与える内容となることで深まりが生まれる。 ⑧既往は咎めず ★批評から ・興味深く読み進められるもので、キラリと光るものを持っている。 ・小説の良さは着眼点の良さであり、その意味で本作品は秀逸と言える。 ・「わが人生に悔いなし」「私の人生は悔いしかない」といった言葉の対比は、それだけでインパクトが大きい。作品の中に「これは入れたい」という言葉を入れるのは大切なことだ。 ・母が「父の何をもって悔いを持っている」と言っているのかがわからない。読者にそのあたりが伝わらない作品となっている。もどかしさが残るものとなった。 本講座で、小説入門講座の終了です。受講生のみなさんの熱心な受講と講師の先生方の厳しくも温かい指導もあり、充実した講座となりました。受講生のみなさんには、最終推敲原稿を本館にデータで提出いただきますようお願いいたします。 受講生のみなさん、熱心な受講をありがとうございました。 |
〇12月8日(日)第8回 朗読会『さらばモスクワ愚連隊』
□さらば モスクワ愚連隊 |
|
朗読:髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表) 最終回は、一回きりの読み切りで、五木寛之の小説家としてのデビュー作である「さらばモスクワ愚連隊」を髙輪 眞知子さんに朗読いただきました。本作品は、1966年に「小説現代」に掲載されたもので、小説現代新人賞を受賞した作品です。また、直木賞の候補にもなったものです。 【あらすじ】 日本のジャズバンドをソ連が招聘する企画があり、その下見でモスクワを訪れた元ジャズピアニストの北見は、不良少年ミーシャと出会った。彼らのたまり場になっている場末のレストラン「赤い鳥」に、大使館員である白瀬、アメリカ人学生のビルと連れ立って訪れる。そこで軟弱な演奏をしていたミーシャに反発心を覚えた北見は、店内にあるピアノの前に腰を下ろして、ピアノを奏で始めた。北見が湧きおこすジャズの魂が皆と共鳴し合い、即興演奏のブルースをモスクワの夜に響かせていく。それはかけがえのない時となった。 しかし翌日、ミーシャは傷害事件を起こして、モスクワから去っていくこととなる。 * * * * 今年度の最終回の朗読会です。30人以上の方々にお集まりいただき、臨時の丸椅子も置いて、満席のお客様をお迎えしての会となりました。髙輪さんの朗読により、金沢文芸館の会場がレストラン「赤い鳥」にでもなったような気さえする熱気あふれる会場へと変貌していきました。 朗読は時間ぴったりに終わりましたが、全ての方が言葉を失い、言葉を発するのも憚られる時がずっと続きました。髙輪さんの朗読の凄さに圧倒されるばかりでした。まさに、髙輪 眞知子さんの「言葉と声の力」の尊さを感じ入るばかりでした。 平成17年11月23日に金沢文芸館は誕生しました。そこで五木寛之さんがおられる中、髙輪さんの朗読による「五木寛之さん『浅野川暮色』」で、金沢市の文芸文化の拠点としての「金沢文芸館」がスタートしました。そんな金沢文芸館も、来年度は設立20年目を迎えます。 20年間、共に歩ませていただいたのが、髙輪 眞知子さんはじめ、朗読小屋浅野川倶楽部の皆様方です。来年度、より多くの方々にお越しいただけるよう、企画・運営してまいります。 変わらぬご支援、さらなるご来館を心から願って歩んでまいります。一年間、参加いただきましたこと、今後とも変わらぬご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。 1年間、ありがとうございました。 |
〇12月4日(木)出前講座 朝霧台小学校2年生
お話会を楽しもう | |
講師:吉國 芳子 金沢市立朝霧台小学校に訪問しました。令和5年4月1日に開校した新しい学校です。2年生30名、32名、30名、計92名で、全クラスをまとめての読み聞かせをしました。講師は金沢文芸館の読み聞かせの講師「吉國芳子」さんです。 内容の一部となりますが、紹介いたします。 ・みんなで歌おう「なっとう」の歌 なっとうの歌
特に「ネーバ ネバ」の部分で、両手や表情を使って、納豆が糸を引いているのを表現するのですが、最初、恥ずかしがっていた子ども達でしたが、表現力抜群の吉國さんに惹きこまれるように、しっかりした声で、これ以上ないぐらいのねばねば納豆を体表現していきました。自分の気持ちを、こんなにも開放して友達同士で顔を見合わせて笑い合える子ども達。心から素晴らしいと思いました。なっとう なっとう ネーバ ネバ なっとう なっとう ネーバ ネバ おおつぶ なっとう こつぶ なっとう おかめ なっとう みと なっとう なっとう なっとう ネーバ ネバ なっとう! ・紙芝居「子育て幽霊」 元気いっぱい「なっとうの歌」を素敵な体表現を交えて詠っていた子ども達。今度は打って変わって静まり返って紙芝居の世界に入り込んでいました。ドキドキしながら聞いている子ども達の眼が印象的でした。
吉國さん演じる母親、飴屋の主人、和尚さん、そして赤ちゃんらを見事に使い分けた声に、登場人物の姿が目の前に浮かび上がる思いがしました。 最後に、吉國さんは、お寺と住職の写真、そして幽霊となった母親の絵を子ども達に見せました。お話が伝わる金石「道入寺」と円山応挙作と言われる「子育て幽霊の墨絵」の写真でした。 子ども達は顔を見合わせながら「本当の話だったの?」「本当にお母さんの絵なんだ」といったつぶやきが出ました。不思議な中に安堵して笑顔でいる子ども達を見ていると、その優しき心に感心させられるばかりでした。 ・プレゼンテーション「弥七の豆がらたいこ」 【読み聞かせから】 金沢市本町の西福寺に伝わるお話や。西福寺には、豆の木の幹で作ったといわれる太鼓が御堂の脇に吊ってある。これが「弥七の豆がら太鼓」や。またここには木で掘った弥七の像も残っとるんや。
ある時、弥七は、主人に「『こう、せい』とゆうたらして、『するな』とゆうたらするな」と言われる。 ある日のこと、主人は弥七に「『こも』を編んでくれや」と頼んだと。 2mが普通ぐらいやというておったのに、弥七は10m以上のこもを一生懸命に編んでいた。弥七は主人に「こもを『編め』ってぇ言われたが、『やめ』とはゆわれとらんと言う。困ったもんじゃ。 ある時、村のもんが弥七にゆうた。 「わしゃ去年、豆がよう採れて、五石一斗も採れたわ」と。 弥七は笑いて 「わしなら一本の木で五石一斗採ってみせるわ」とゆうた。 弥七はざる一杯の豆を畑にひとつところにまいて、桶に一杯水を汲んできて「そおれっ、五石一斗じゃぁ」肥しを汲んでくると「そおれっ、五石一斗じゃぁ」とかけた。毎日、毎日そうゆうて世話をし続けた。 すると豆が一本だけ芽を出して、にょきにょき伸び出した。二日目には弥七の背丈ほどになり、三日目には畑の松の木の高さと並んだ。 夏になると豆の木はとうとう空を飛んでいるトンビにまでとどきそうになってたくさんの豆のさやをつけた。採れた豆を量ったらちゃぁんと五石一斗あったそうな。 そして、その豆の木でつくったのが「豆がら太鼓」や。弥七の木の像もちゃんと今も残っているそうな。 最後に、吉國さんから「西福寺の太鼓」の写真がありました。「本物なんだ」とのつぶやきが聞こえます。最後まで不思議そうな顔をしている子ども達でした。 金沢民話を学んだ金沢市立朝霧台小学校の2年生の子ども達。たくさんの人数なのに、その集中力の高さ、そして自己開放して体表現できる感性の素晴らしさに感心させられた学校出前講座となりました。 【ウクライナ民話「ウクライナの民話(てぶくろ)」の絵から】 帰路、校長先生に案内されて、図工の先生が描かれた「ウクライナの民話『てぶくろ』」(作:ウクライナ民話 絵:エウゲーニ・М・ラチョフ 訳:内田莉莎子 福音館書店)の絵の前にきました。 ぽつんと落ちていた片方だけの暖かそうな手袋です。最初に見つけた小さなねずみはじめ、一緒に仲良く暮らしていく友達がどんどんと来ました。ねずみさん、かえるさん、うさぎさん、おおかみさん、いのししさんと。 子ども達への願いがつまった絵本です。廊下に貼った画に心込めた作者の温かさは、この上もない素晴らしいものでした。ちょうど通りかかった子ども達も、絵を大切に慈しむように見つめていきました。 朝霧台小学校2年生92名の子ども達と先生方が、新しい「てぶくろのような学校」に温かき心で、身を寄せ合って心を紡ぎ合っているような気がいたしました。 今年度の学校出前講座が今回で最終回となりました。みなさまのおかげで充実した講座となりました。1年間、ご支援いただきありがとうございました。 来年度も学校出前講座を実施する予定です。5月連休前には予定枠の全てが埋まってしまいますので、希望される学校は、早めの受講申し込みをいただきますよう、よろしくお願いいたします。 朝霧台小学校の校長先生はじめ先生方、子ども達、ありがとうございました。これからもみなさんの健康と健やかな成長を心から祈っています。 |
〇11月30日(土)第7回 小説講座 ~提出実作品の批評(第2グループ)~
提出作品の批評と推敲 |
|
講師:寺本 親平(小説家) 藪下 悦子(小説家) 第7回小説講座は、実作小説第2グループ批評会です。講師 寺本 親平先生(小説家)、藪下 悦子先生(小説家)です。では、作品批評から紹介していきます。 1 実作小説の題名、本文から(◇)、内容は?(◆)批評は?(★)(第2グループ) ⑦類いの者(たぐいのもの) ◇「『私もあなたと同じ類いの者です。…(略)…見えない世界が見えてしまうという苦しさと混乱を嘘と逃亡という選択で今まで生き抜いてきましたがその選択には全く悔いはありません。』…(略)…どうしようもなく「田之助が好き」という気持ちは今も消えないのが悩みなのです。おいくらになりますか?」 ◆ずっと田之助を好きでい続けた私。そんな私が田之助の勧めで、あるバイトを始めるために、野バラ美容室にでかける。そこで田之助に言われたのは、「お悩み様」に関する思いもしなかったバイトであった。最後まで驚きある展開が進行して爽やかな読後感ある小説である。 ★批評から・田之助のどこに魅かれたのか、どうしてそんなに好きなのかわからない。 ・箱の番号の意味はあるのか。 ・名前すら尋ねなかった人の所へ、内容や条件も知らずにバイトに行くという不思議。 ・「演劇部員」であることは、もう少し早く出すべきである、設定の後出しはしない。 ・「老女」とは何者なのか。 ・面白いことを書いている。 ⑧愛と勇気 ◇「隆は頑なだった。何を言っても、どう優しい声をかけても、口を真一文字に閉じたままじっとしている。両の手を堅く握りしめたまま、膝の上に置きびくともしなかった。しびれをきらした、父親が脅し半分で手をあげようとしたら、…」 ◆ひまわり組、年長組タカちゃんがヤマトちゃんを突き飛ばしたことから物語は始まる。タカちゃんは、父親に「なぜ、ヤマトちゃんを突き飛ばしたのか?」と問うと、タカちゃんは「愛と勇気」と答えるのだった。親子の絆を確かめながら親子愛をほんのりと感じさせる物語となっている。 ★批評から・最初の出だしは興味を惹くもので良い。 ・きちんとした、主人公の成長物語になっている。 ・アンパンマンのキャラクターに頼り過ぎてはいないか。 ・読者の対象年齢をどのように設定しているのか。隆のような年ごろか、大人向けか。大人向けとして読んだ。 ・視点を統一すること。父親の視点か、隆の視点か。それによって書き方が変わってくる。全体的に父親の視点になっていた。 ・「だった」と「でした」等の文末を混合しない。 ・現在形と過去形が混在している。 ⑨アカシアの風 ◇「高杉卓也、忘却の袋に小さく絡まり丸まっていた十七年前の記憶の糸がほどけてきた。涙が流れ落ちる、手の甲で拭ってもあふれ出る涙。涙は新聞の上に落ち涙の輪を作った。テーブルの上に広げられたスポーツ爛、満悦の笑顔で写っている少年の写真と名前、高校の県大会の柔道で優勝した高杉直也の名前。」 ◆思いもよらない妊娠をした高校生の真美。一人誰にも相談できずに悩む真美であった。そして彼、高杉直也に妊娠したことを打ち明ける。それでも産む決心にはいたらずに、悲劇的な方向へと舵をとっていく。そして新たな命の運命はどのようになっていくのか、緊張感の中で語られていく物語となっている。 ★批評から・白衣は何を意味しているのか?白衣といってもいろいろな職業が浮かぶ。 ・小説を書く技術は「小説を書きたい」という思いだけでは実現しない。本をたくさん読んで、努力して身に着けていくしかない。 ・卓也と真美の関係がよくわからない。どのようにして妊娠するまでの関係になったのかがわからない。 ・高校生にしては、真美の考えが幼すぎる。 ・視点を変更する場合は読者にわかりやすいように、段落の1行あけ等の工夫をする。段落内で複数の視点が混在しないようにすること。 ⑩タイトル未定 ◇「『通勤中に轢いちゃってさぁ、こないだ買ったばかりのBМWがお陀仏だよ』/悔しいから教材として猪鍋にして皆で食べよう、ってな。/たくましく校長が笑う。/『校長の特別授業だ』/窓からは初夏の日差しが降り注いでいる」 ◆私は、ある日、道路上にぽつんとあった毛皮の塊を轢いてしまうところから話は始まる。音楽活動をしていた頃の懐かしき日々の回想、そして教職に務める私の不真面目な生活、用務員さんとの何気ないやりとり、学校での出来事などが、語られていく。 ★批評から・書き出しがとても良い。最初の書き出しはとても大切。 ・自然への描写が上手である。命への考え方、夢を抱いていた頃と現実との違いなどを対比により表現している。 ・2行目「あー、最悪」から後、状況説明、動物を轢いた主人公の想いと続くが、せっかくの主人公の感情が途切れるのが気になる。この段落を再構成し。途切れがないようにできないだろうか。 ・本作品にはまだ題名がない。先に題名が浮かんだ場合の方が作品の焦点が定まるのではないか。 ⑪白い箱、流れる ◇「秋山が、三木本の声が一番通ってなくて、正直何を言っているのかわからないところが多かったのじゃないか、と口を挟むと、『わたしもそう思ったけど、でもそんなことじゃないのよねぇ、きっと』と苦笑いで返してきた。」 ◆秋山は南高校に転勤し、地味な演劇部の担当を務める事となった。しかし、桜山高校の菱川顧問の指導方針と自分の方針との違いに戸惑い、新鮮な気持ちで自らを振り返りながら歩もうとしていく。 ★批評から・題名が物語のテーマをうまくとらえている。 ・演劇部に対する秋山の心情の変化が丁寧に書き込まれている。 ・読後感が良い。 ・全体的に設定の後出しが気になる。伏線を入れるなりしてほしい。 ・書き出しは季節や場所を書いていてわかりやすい。ただ動きのある書き出しも検討してほしい。 ⑫柿の木は残せるか ◇「〈困った。柿をもらった手前、署名することはできないな〉握ったペン先をわずかに震わす宇道に見かねたようで、奥さんの名前も加えてほしいと要求度をアップした。/妻は今幼稚園の送迎業務で不在だから無理だと伝え、自分の名前だけ少々崩して書き込んだ。」 ◆柿好きの作家「宇道」は、ちょっとした縁で「夏山」から自宅の柿をご馳走になる。しかし、ほどなくして大家から「夏山に、柿の木の剪定を町会からお願いする署名」を依頼される。おまけに「要求文」の作成依頼もされる。断りながらも謝礼に心ひき寄せられる宇道がとった行動は夏山に対して非道ともいえるものだった。しかし、迎える結末は心豊かになるものであった。 ★批評から・題名は再考をしてほしい。柿の木を残す、残さないと言う話ではない。 ・宇道のずるいともいえる心の動きを丁寧に書いている。 ・署名→要求文→読み上げ 三つのステップの進め方はわかりやすい書き方である。 ・「町会長」「海原」は同一人物なので地の文ではどちらかに統一したい。読者が迷う。 ・少し表現がくどいところがある。もう少し簡潔に読みやすい描写を考えてほしい。 ⑬笑うカラス ◇「すると突然カラスが俺の腹の上に舞い降りた。/「痛っ」/カラスの足の爪が俺の腹に食い込んでいる。/俺は右手でカラスを払おうとしたが、右手が動かなかった。」 ◆ある時、カラスが赤い肉をついばんでいる光景と出会う。それはネズミのはらわたであった。そこから物語は始まった。そして最後は彼自身が…。 ★批評から・題名は適格であろう。 ・世にも不思議な物語のような小説となっているのは良い。 ・「笑うカラス」とは、どんな顔なのだろう。読者に想像の手がかりを。 ・喧嘩の部分をもうすこし書きこんだらどうか。 ・作者はこの作品で何をいいたかったのか。不思議な体験、不思議な世界か。 今回、寺本先生、藪下先生から厳しくも温かいご指導がありました。次回講座は次のとおりとなります。 〇第8回小説講座1 12月14日(土)作品批評と推敲➁(第2グループ)講師(皆川先生、宮嶌先生) 〇第8回小説講座2 12月21日(土)作品批評と推敲➁(第1グループ)講師(皆川先生、藪下先生) みなさんの受講をお待ちしています。 |
左:藪下 悦子先生 右:寺本 親平先生 |
〇11月30日(土)第7回 小説入門講座
~実作小説の批評と推敲①(第2グループ)~ |
|
講師:高山 敏 (『北陸文学』同人) 小西 護(『イミタチオ』同人)※書面にて 11月30日(土)第7回小説入門講座は、実作小説の批評と推敲です。講師は、高山 敏先生(『北陸文学』同人)です。8名の作品提出がありました。 では、題名、内容(◆)、批評(★)です。どうぞご覧ください。 1 受講生の実作小説から(題名、内容は?(◆)、批評は?(★)) ➀四金物語 ◆ピカ、ケン、ギン、タキの金魚たちが主人公である。梅干しが入っていたという甕で生活している彼らの物語である。甕の中から人間の様子を面白おかしく観察している様子あり、脱走をくわだてて実行していく様子ありと、いろいろな場面が描かれていく小説である。 ★批評から・絵本にもなりそうなユーモアある親しみやすい物語です。話し言葉もテンポよく楽しい。 ・寓話の行先として「たのしい」で留まるのか?人間の在り方を見つめ直すことも大切。 ・オス、メスが入り混じると違った味わいが出るのではないか。 ・甕ではなく硝子の水槽で、人間世界を見つめられるものでもよいかと。 ②雲はつかめない ◆同じ会社に勤める私、山本明子40歳と藤井晴美35歳と、身の回りで起こる出来事を綴った物語である。晴美の過食症、性被害などの過去を知る明子は、晴美のよき理解者であり、相談相手ともなっている。二人の間で起こる出来事を経て、やがて二人は離れ離れとなる道を選んでいく。 ★批評から・「私」と「晴美」を対比させて、その共通点と相違点をより明確にする中で、二人の結びつきがより明確に読者に伝わる。軸になる子の二人を丁寧に描くことが大切だ。 ・「私」と「晴美」とこの先、どういうつながりを持ちたいのか…なりゆき任せで…となると、作品の密度が薄まってしまう。 ・作品を通して読み手に訴える「核」をより明確に追求していくプロセスが表現のこだわりであり、作品化する価値になる。 ・自分と向き合う、晴美と向き合う、対話して丁寧に心情やことばを紡ぎ出すのが大切だ。 ③坂の上の雲 ◆若い優秀な技術者に囲まれて自分の能力の無さを痛感した主人公は、ついに会社に退職届を書く。ある時、小学校の高学年で買った本「坂の上の雲」。長編小説で何巻も出ているものだが、1冊だけ、他の本に挟まれる形で見つかった。そして訪れた友、スギとの出会いの中から、主人公は生き方を模索していく。 ★批評から・書き慣れているなめらかさがある一方で、この一文字、この文章に注目してほしいという表現へのこだわりも必要だ。 ・思いついたことを思いついたままに書き連ね、繋いで結んでいったという印象がある。やや冗漫である。 ・山登り、仕事、人生のプロセス。でも同時に意識させるような工夫が良い、このままでは、いくつものに流れ(プロット)がそれぞれにあるだけで、求心的になっているとは言い切れない。残念。 ・読み手を自分の世界に引き摺り込む強引さ、緊張感を追求してみてほしい。 ④既往は咎めず ◆まきえの父の還暦祝いで、父たけしは満面の笑顔で「わが人生悔いなし」と声高らかに乾杯の音頭をとった。しかし、母しずえは「私の人生は悔いしかない」と大声で叫ぶのであった。母親は今までの人生の後悔を語っていく。そして母親がとった行動は? ★批評から・なかなか興味深く読ませる内容・展開であった。結びの「刺す」はどうか?例えば頭(顔)に水(酒)をかけるでもいいのか。 ・創作としての柔らかさがほしい。家族の悲喜こもごもでも、家族のほっとするようななごむシーンをどこかにはさむことが大切だ。 ・父の生き方に対する共感、プラス面、母と父との食い違いはどこから生まれているのか、プラス面も書くべき。 ・やや説明が多いので、省けるところは、一語でも二語でも、もちろん文でも削るとより引き締まってくるのではないか。 次回最終回は、12月14日(土)小網先生による最終批評と推敲です。ぜひ受講いただきますようお待ちしております。よろしくお願いします。 |
高山 敏先生 |
〇11月28日(木)出前講座 緑小学校2年生
金沢の民話を学ぼう | |
講師:飯山 美樹(金沢おはなしの会) 中橋 範子(金沢おはなしの会) 金沢市立緑小学校に訪問しました。講師は金沢おはなしの会の飯山 美樹さん、中橋 範子さんによる金沢市の民話の語り、郷土に伝わるわらべ歌、まじない歌をしていただきました。 緑小学校2年生は3クラス全員82名で、1クラスずつの学習でした。それではプログラム、子ども達の様子から抜粋して紹介いたします。 1 プログラムから
わらべ歌「いちじく にんじん」『日本のわらべ歌全集10上 石川のわらべ歌』より(柳原書店)
おはなし「エイトコ団子」『金沢の昔話と伝説』(金沢市教育委員会 金沢口承文芸研究会) おはなし「いも掘り藤五郎」『三人姉妹 金沢昔話大学再話作品集1』(小澤昔ばなし研究所) わらべ歌「かんなり」『日本のわらべ歌全集10上 石川のわらべ歌』より(柳原書店) おはなし「四十雀カラカラカラ」『金沢の口頭伝承補遺編』(金沢市教委金沢口承文芸研究会) ♪金沢に伝わるわらべ歌♪ 「いちじく にんじん」…おはじきのあそび歌 いちじく にんじん さんしょう しいたけ ごんぼ(金沢ではごぼうをごんぼと言う) むかご ななくさ やきいも こんぺいとう(「ここのつ」から) とうふ
※指さしながら歌います。「自分でもぐもぐ食べたもの」は抜いて歌います。でもつい間違えて歌ってしまい、顔を見合わせて温かく笑い合う子ども達がいました。 「かんなり」…まじない歌かんなり かんなり やまに さら(さる)おって こっぱいや(こわいぞ)
※「かんなり」とは雷のことです。最後に「ドン」と雷が落ちた指を折り曲げていきます。最後はぜんぶの指が折られて中に雷さんが閉じ込められてしまいます。 2 緑小学校の子ども達の様子から
(1)素敵なつぶやきいっぱい緑小の子どもたち ・エイトコ団子で物忘れをしてしまう主人公です。 ※お話を聞きながら、自然に自分と主人公を比べ読みしていく子ども達がいます。 (2)語りの方と一緒に創り上げていく緑小の子ども達 ・「だんご だんご だんご…」(だんだん人数が増えて声も大きくなっていく) ※何の指示もないのに自然に唱和して物語を一緒に創っていく素敵な子ども達。 (3)「いいじいさんもおらんようになっちゃう」…その言葉が語る心の豊かさ ・「四十雀カラカラカラ」の最後につぶやいたある子どもの声です。 ◇四十雀カラカラは次のような内容の話です。正直じいさんと欲張りじいさんのお話です。お弁当を持って山に行ったおじいさん。木に弁当をぶら下げると四十雀が弁当を食べてしまいます。仕方なく四十雀の糞を食べたおじいさん。そこでこんな歌を歌います。 『♪シジュウカラ カラカラカラ コロコロコロコロ♪
♪コガネノヤマカラ スッテンパイ ぷー ♪』 最後に屁(へ)が出てしまいます。そして、おじいさんは自分の屁を売り歩きました。正直じいさんは、みんなが笑い転げてほうびをもらったのに比べて、欲張りじいさんは、「ブー」と屁と一緒にウンコもでてしまい、臭くなって牢屋に入れられてしまいます。
さて、ここでお話が終わりました。でも、合いの手をうつように出たつぶやきが「おわりなの? それじゃあ、いいじいさんもおらんようになる」と訴えます。 ※お話された中橋さんはその子を見つめながらにっこりうなずかれました。 (4)「だって家族みたいなんだもん」その言葉に心震えました。 出前講座が終わって帰り支度をしている時、一人の女の子がこう語りかけました。 緑っ子「お父さん」
私 「うん?お父さん?」 緑っ子「だって、みんな家族みたいなんだもん」 女の子は、飯山さん、中橋さん、私の方をみて、ニコニコしています。「みんなが家族みたい」と感じる子どもの感性の豊かさ。これ以上、自然で素敵な言葉はないと感じました。
金沢おはなしの会の語りには、いつも人が紡ぎ合う温かな心の通い合いがあります。今回も、大切にしていかねばならないことを、子ども達から学んだ気がいたしました。緑小学校の感性豊かな子ども達、先生方、飯山さん、中橋さん、本当にありがとうございました。 これからも緑っ子が元気で素晴らしい学びをしていかれることを願っています。 |
〇11月27日(水)出前講座 兼六小学校3年生
短歌について学ぼう | |
講師:三須 啓子(石川県歌人協会) 島田 鎮子(石川県歌人協会) 兼六小学校3年1組31名、2組33名が参加して、出前講座「短歌について学ぼう」を実施しました。各クラスごとの講座で、講師は石川県歌人協会の三須 啓子さん、島田 鎮子さんです。講座の内容を抜粋して紹介します。 まず、「私の大好きな谷川俊太郎さんが作られた校歌を歌ってもらえるかな?」という三須さんの願いから学習がスタートしました。各クラスごとの講座でしたが、1組が一番目を、2組が二番目の校歌を歌ってくれました。子ども達は全く恥ずかしがることなく、堂々と美しい歌声をアカペラで響かせる子ども達。素敵な夢のような時間から学習がスタートしました。 1 「みみをすまして」「めをみひらいて」短歌を作っていこうね。 三須さんは、谷川さんの歌詩から次の言葉を引用されました。
「みみをすまして」「めをみひらいて」とありましたね。美しい7音、5音から谷川さんの詩は作られています。このことは、短歌とも関係しているんだよ。 自然と自分たちが大切にしている校歌を、口ずさみながら音数を数えていく子ども達がそこにはいました。 2 短歌っ2てなあに? ・五・七・五・七・七の三十一音で作るリズムをもった日本の詩 ・初めの五句(初句)七(二句)五(三句)を上の句、残りの七(四句)七(五句・結句)を下の句といいます。数え方は、一首、二首、と言います。 3 短歌を作るあたって ※一部紹介します ・季語は使わなくてもよい。一句ずつあけないで、1行に書こう。 ・短歌は、思っていること、感じたことを自由に述べることができる。 ・歌が出来たら、声に出して読んでみよう。 4 短歌を読んでみよう ※一部紹介します。 ・じしんきてバラバラにみんなかくれたよじしんはこわいしんぱいしたよ(3年生) ・家の前で緑のかえるをさわったらプニプニしていた白いおなかが (2年生) ・なにやっちょん それしっちょんよ ちょん・ちょん・ちょん 大分べんははずんでとんで (3年生) ※自身の地震体験を短歌に託す子、かえるをさわった体験を語り出す子、卯辰山を題材に短歌を詠む子も出てきました。また、大分べんの短歌には興味津々の子ども達がいて「金沢弁ってある?」の三須さんの問いに、金沢弁を隣の子と指折りしながら笑顔で語り出す子ども達がいました。身をもって短歌の楽しさを体感していく子ども達がそこにはいました。 5 短歌を作ってみよう ➀頭に浮かんだ言葉や、情景をメモしよう
➁言葉を順に並べてみよう ➂書いてみたら、声に出して詠んでみよう 子ども達は、目をつむって瞼に浮かんだ情景をどんどんとメモしていきます。そして指折りながら言葉を並べていきます。時には、友達と相談しながら笑顔で短歌を作り始めました。 「短歌は短い中に季語を入れて、ぎゅっとつめこんで作るよね。でも短歌は俳句に比べて最後に、七・七と十四音も多く、自由に自分の思いを言えるんだよ。いいでしょう」 という魔法の言葉にほっとした子ども達。そして「汚い言葉、悪口はやめよう」という三須さんとの約束を大切に守り、人を大切に想う短歌を作り出していく子ども達がいました。出来上がったら、自ら立ち上がり発表していく子、友達の短歌を聴いて認め合う子、谷川俊太郎さんの校歌にあるように「耳をすまして 目をひらいて」学び合う子ども達がいました。素晴らしい充実した時となりました。 今年度、短歌教室が、開催されたことは、大変にうれしく思っています。石川県歌人協会の三須さん、島田さんのお力あってのことですし、申し込みいただいた浅野町小学校、兼六小学校のみなさん、ありがとうございました。 浅野町小学校のみなさんが作られた短歌は、第18回全日本学生・ジュニア短歌大会で、優良賞、奨励賞に輝きました。そして第18回石川県小中高校生短歌大会で、佳作に3人の児童が選ばれました。国と県レベルで、計5名のお子さんが入賞するという栄誉に輝きました。先生方は一切手を加えられていませんので、子ども達自身の豊かな感性がそのまま認められたものです。おめでとうございます。少しでも金沢市の子ども達が文芸文化に興味を持ってもらえたらと思っています。 来年度、他の学校も、短歌に慣れ親しむ機会となれば嬉しいと思っています。申し込みいただけるのを心よりお待ちしております。 |
〇11月20日(水)出前講座 清泉幼稚園 年少・年中、年長園児
おはなしの会を楽しもう | |
講師:大西 晶子(おおにし あきこ) (金沢おはなしの会) 中村 順子(なかむら じゅんこ)(金沢おはなしの会) 橋場町、天神橋近くの落ち着いた街並みにある清泉幼稚園を訪問しました。園庭には、樹齢100年を超える杏(あんず)の古木、ブルーベリーの木、玄関には葡萄棚がある素敵な幼稚園です。年少、年中園児10名に大西 晶子さん、年長園児8名に中村 順子さんに読み聞かせいただきました。 まず、プログラムの紹介をします。 ◆年少、年中園児のプログラム【大西晶子さん】 ➀わらべうた
➁絵本 「どんぐりずもう」 いしだえつ子/作 飯野和好/絵 ➂絵本 「とんだ とんだ はっぱがとんだ」 澤口たまみ/文 降矢なな/絵 ③絵本 「ちいさな ねこ」 石井桃子/作 横内 讓/絵 ④手遊び「どんぐりころちゃん」 ⑤お話 「ねことねずみ」(イギリスの昔話) ⑥手遊び「いろいろおせわになりました」 ※わらべうた「おちゃをのみにきてください」より やぎゅうげんいちろう ⑦絵本 「もこもこ」 谷川俊太郎/文 ◆年長園児のプログラム【中村順子さん】 ①わらべうた
②絵本 「やさい」 平山和子/作 ③絵本 「とんだ とんだ はっぱが とんだ」 澤口たまみ/文 降矢なな/絵 ④絵本 「サリーのこけももつみ」 ロバート・マックロスキー/文・絵 ⑤手遊び「いもにめがでて」 ⑥お話 「しおちゃんとこしょうちゃん」ルース・エインワース/作 読み聞かせや語りを聞く園児たちの真剣な顔と笑顔が印象的でした。お話の世界に入り込んで、各教室とも、ほんのりと温かい風が吹き抜けていくようでした。これも金沢おはなしの会の皆さん方の卓越した読み聞かせの技と真心があるからです。これからも、清泉幼稚園の皆さんの健やかな成長を願い続けます。金沢おはなし会の大西さん、中村さん、充実した素敵な会を開催していただき、ありがとうございました。 |
〇11月16日(土)第7回 小説講座 ~提出実作品の批評(第1グループ)~
実作小説の批評 |
|
講師:寺本 親平(小説家) 宮嶌 公夫(『イミタチオ』同人) 第7回小説講座は、実作小説第1グループの批評会です。講師は寺本 親平先生(小説家)、宮嶌 公夫先生(『イミタチオ』同人)です。実作小説の批評と推敲です。講座から、一部紹介します。 1 実作小説の題名、本文から(◇)、内容は?(◆)批評は?(★)(第1グループ) ➀孤独海 ◇「小夜子の母は父の機嫌をいつも伺い、そのストレスを小夜子にぶつけていた。兄二人が楽しそうに遊んでいる隣で家事を手伝って、失敗すれば「役立たず」と罵られるのが小夜子の日常だった。」 ◆母親から理不尽な扱いを受けて来た小夜子。そんな彼女が、浜辺で小さな女の子と出会う。まるで昔の自分の姿が被って見えるような少女。その出会いから物語は始まっていく。やがて小夜子の母親が亡くなったとの連絡がある。母親に会いに向かった小夜子を待ち受けていたものは…。 ★批評から・段落の作り方に統一感が欲しい。推敲が必要。 ・最後「遅いよ」で、作者が読者にどちらの読みをしてほしいのかが明確でない。 ・題名「孤独海」はもっと簡単な言葉が良いのではないか。「暗い海」とか。 ・作者の思いを文字化して言葉にして伝えていくことが大切である。 ➁光 ◇「両手に集めた血濡れのビー玉に西日の強い光が射して、それは熟れた柘榴の汁が滴り落ちるみたいで。それから柘榴を見るたびにその光を思い出します。赤く、白く、小さくて強烈な光を」 ◆「泉鏡花 鶯花径」の話を素材にし、全く新しい小説を創作している。わが子を殺された妻が、殺人鬼の子どもを代わりに育てていく。それぞれの欠けたピースを補い合えば、新たな一つの家族が再生できると信じて。妖気が漂う凄まじい描写力に彩られた作品である。 ★批評から・独特な書き方で幻想的、泉鏡花的なものを感じる。 ・読者が読み取っていくのが困難なところがある。話し言葉と読み言葉は違う。思いを書き言葉にする過程が上手くいっていないところが見受けられる。 ・「神社での光」「老人の目の光」「出口の光」と、光はそれぞれ独立した光として描かれているが、必ずしもつながっていない。つながりが大切なのではないか。 ・意味がつかめない場合が見られる。書きながら読者の目で自作品を見ていく見方が大切である。 ➂印鑑 ◇「霧子にはいくつかハンコがある。でも自分で作ったものは一つも無い。中学校卒業時にもらったもの。父がもう使わないと言ったのを聞いてもらったもの。それに姉と妹が使っていたハンコ」 ◆霧子の使うハンコをめぐり、いろいろな人との出会いがあり、いろいろな出来事が起きていく。ハンコを通して、人の生き方を考えていく小説となっている。 ★批評から・ハンコに託した作者の思いがよく表れている作品である。 ・最初がエッセイ風から始まり、途中から小説となり、最後はエッセイ風となっている。そのあたりの構成と繋がりの面で違和感があり課題と思われる。 ・「終日病院のベッドに横たわり、生きているとも死んでいるとも知れない父親の姿は、霧子の気落ちではもう終わらせたかったのかもしれない」は意味が読者に伝わらない。推敲が必要である。 ④同じ空を見上げる ◇「『おい、ブタ。今日は、どんな特別授業を受けたいんだ?』クラスのボスが、にやりと笑いながら侑空に話しかけた。取り巻きたちも笑い声を上げ、侑空の背中を小突いたり、机を叩いたりしていた」 ◆クラスの男子からいじめを受けていた「古部田侑空」。そんな侑空と関わりながら、「白鳥純羽」は侑空を守っていきたいという思いを伝えていきます。そしてその願いは、決意を込めた一言から始まります。 ★批評から・会話文「 」の後に説明を一つ一つ付け加えていく形になっている。語り手が一つ一つ説明するのは改善が必要だろう。 ・登場人物の名前の付け方など、もう少しオーソドックスなものとしたらどうか。 ・同じ言葉、同じ表現での繰り返しが多い、もっとすっきりとさせていく推敲が必要である。 ◆寺本先生から受講生に ・イメージしたものを言葉にしているが、読み手の立場で「伝わっているか」と振り返るのが大切。絶えず、読み手になって自作品を読むことが大切だ。 ・小説を書く約束事がきちんとしていることが大切。それがなされていない小説は、中身を見るまでもなく没にされてしまう。そのあたりを自覚すること。 ・リングに立つには、ランニングやシャドーボクシングが必須だ。書く前段階での精進が大切だ。それなくして小説作りはできない。 ・大谷選手は高校時代からノートに記述を全て残して精進していた。自分の中にどんなものが入っているかということが大切なんだ。 ・自分がここにいて、何かをする時に、何が必要かを考えて精進していくことが大切だ。 本日、宮嶌先生には、小説として欠かせない大切なポイントを、その作品の中で具体的に指摘いただき、構成、記述、誤字脱字、視点等、丁寧にご指導いただきました。 また、寺本先生には、小説家として歩んでいく上での気構えなど、小説創作の根幹にあたる部分のご指導がありました。お二人の先生方、ありがとうございました。 なお、本講座は、別グループから2名の方々のオブザーバー参加もありました。ありがとうございました。 次回小説講座は、11月30日(土)で、第2グループの批評と推敲になります。講師は、寺本 親平先生と藪下 悦子先生です。別グループのオブザーバー参加も大丈夫です。その際は、本館まで事前連絡をお願いします。たくさんの方々の参加をお待ちしています。 |
左:宮嶌 公夫先生 右:寺本 親平先生 |
〇11月16日(土)第2回 川柳入門講座
「川柳の奥深さを味わうために!」 ~作句のポイント・鑑賞のポイント~ |
|
講師 : 赤池 加久(あかいけ かきゅう)(石川県川柳協会会長) 川柳入門講座第2回です。本講座講師は石川県川柳協会会長 赤池 加久氏(あかいけ かきゅう)先生です。講座から一部を紹介します。 ◆川柳を楽しむ
➀川柳の基本三要素ア穿ち(うがち) ・掘る、えぐるなど人間の機微をうまく言い表す。 イ滑稽(こっけい) ・ユーモアであり、自然に湧き出る笑い。 ウ軽み(かるみ) ・当たり前の平凡な中に、「いいなあ」と思わせるもの。 ※滑稽は誤解されがち。自然な面白さこそが大切。 ➁起承転結と序破急 ・川柳は「序」(とっかかり) 「破」(がらりと) 急(まとめる)形。 ➂川柳は「五・七・五」リズムで十七音字 ④川柳とは短詩型の文芸 ・駄洒落、ことば遊び、語呂合わせ、品位と節度のないもの は避ける ・特徴…人間を詠む・社会を詠む・自分を詠む・宇宙全体を詠む ⑤「ことば」の文芸 辞典や辞書は大切 ◆川柳実作のポイント
➀句材見つけ→➁五・七・五の十七音字→➂リズム良く→④口語体で→⑤推敲→➅多作・多読と句会への参加を
◆鑑賞のポイント
・喜怒哀楽を心の拠り所に➀議事堂にでんと据えたい心柱(時事句) ➁名園の松は女がすねたよう(擬人化句) ➂また会おう握手した手を持ち帰り(印象句) ④卵黄の掴みどころのない焦り(国文祭・沖縄) ※この後、受講生が創作した川柳の素敵なところを中心に語っていただきました。そして、赤池先生が「自分だったらこんなふうに作ってみるかな」といった視点で作句した川柳を披露して下さいました。 第2回講座は、川柳の基礎・基本を中心にしてお話いただきました。受講生のみなさんも大変に熱心に受講いただき、うなずきあり、感嘆の声あり、笑いありの講座となりました。第1回、第2回と、基礎・基本を中心にお話いただき、受講生は、川柳への創作意欲が芽生えてきているようでした。 いよいよ最終講座は、12月21日(土)午前10時30分からです。講師は、石川県川柳協会副会長の「浜木 文代」先生です。みなさんの来館をお待ちしています。 |
〇11月10日(日)第7回 朗読会『青春の門 自立編 後半部』
□未知の旅へ(青春の門「自立篇」最終回) |
|
朗読: 髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表) 大学出のボクシング部のエース、フェザー級チャンピオン浜崎竜二とのスパーリングが組まれた。その数日前、あるうたごえの店で歌手として働いている「梓 旗江」先生と偶然の出会いをする。久しぶりに会い、梓先生が病気で寝たっきりの彼といることを知る。 いよいよ浜崎とのスパーリングの日がやってきた。 「打たれるときまで目をあけてくる相手は初めてだ。やりづらかったよ」と語る浜崎の姿があった。まずは石井講師との練習が実を結んだスパーリングとなった。 それから緒方の主宰する劇団で共に生活していく話を、信介は、緒方、石井、カオル、英子らとしていく。そこで、無理心中を図った石井とカオルは結婚へと歩み出していた。 「おれは東京を離れる」信介はふりかえって夜の街を眺めた。信介は、自分を未知の暗黒の海へ乗り出していく孤独な船乗りのように感じていた。彼はいま、もうひとつの新しい人生の門をくぐろうとしているのだった。 (「乳房と大砲」「道の旅へ」)
* * * * 今回で、青春の門 第二部自立篇の最終回です。昨年度から15回に分けて、自立篇をお届けしました。朗読小屋 浅野川倶楽部の髙輪眞知子さんは、五木寛之氏の作品を語り継ぎ、みなさんに広めていきたいと打ち込んでこられました。朗読小屋浅野川倶楽部のみなさんは、金沢の文芸文化として大切に残していかねばならない作品を積極的に取り上げられ、語り継いでいかれています。現在、語り継がなければ消えてしまう文芸文化は、いくつもあります。しかし、語り継がねばならない、けっして消してはならない文芸文化もたくさんあります。そんな文芸文化を守り育てていかねばと思っております。 さて、朗読会最終回 第8回朗読会は12月8日(日)午後2時からです。五木寛之氏「モスクワ愚連隊」より一部を抜粋しての朗読会です。朗読は髙輪眞知子さんです。 「モスクワ愚連隊」は、五木寛之氏が作家としての地位を確立した大切な初期の作品でもあります。ぜひ、たくさんの方々にお越しいただきますよう、お願い申し上げます。心よりお待ちしています。 |
〇11月9日(土)第6回 詩入門講座
最終作品批評と推敲 |
|
講師:木村 透子 (詩誌「イリプス」同人) 和田康一郎 (金城大学非常勤講師) 最終講座は、木村 透子先生、和田康一郎先生による最終作品批評と推敲です。今回は6作品の批評と推敲を行いました。お二人の先生方の貴重な講評はもちろん、講師の井崎先生からもコメントをいただきました。 作品、先生方の講評、受講生の感想、それぞれ一部となりますが、紹介します。 1 受講生の提出作品から
★➀夢を見て落ちた片思い「あたしとの付き合いは/これで終わりにしなよ/しょせんあたしたちは相性が/合わなかったのよ/そう思えばあきらめもつくじゃない/はかない夢を持ちすぎたのよ ・「見染めて」→「見初めて」ではないか。 ・上手く書けている。今後も目標を持って書き続けてほしい。作品に「切れ」を感じた。 ・小説家のジェフリー・ディーヴァーを思い返しました。結末でどんでん返しがなされていく。まさにそんな作風が印象的です。最後の展開が面白いです。 ★②愛犬へのレクイエム 「突然 炎が消えるごとく/新月の夜 一つの命が/闇夜に からめとられてしまった/大切な命の光が手の中から零れ落ちる瞬間/それは 地獄のはじまり ・「砂時計は止まる」とあるが、「砂時計は止まったまま」とした方が良いのではないか。その方が作者の感情をより的確に表現できるのではないか。 ・七つの子の童謡の引用は止める→別の作品にて試してみると良い。 ・推敲を受けての今回の詩は研ぎ澄まされたように感じる。感情を極力抑えながら、冷静に、そして整理して書いている。大変に良くなったと感じる。 ・斎藤茂吉の「二羽の燕」の短歌を思いだす。 ★➂居場所がある 「気心の知れた三人組/他愛ないと 話題に乗れず/聞き役に回っている/淋しいのに/第三者になりすまし/強がっている ・立体感が出てきた。大変に良くなっている。 ・五連と最終連の間に、「お母さん」という一言を加えるのも良いのではないか。 ・母が仏のような存在であるのが、読んでいて読者に伝わってくる。 ★④母の優しさに包まれて 「抗がん剤を点滴し始めて/二週間たって/ごっそり抜けた/私の髪の毛が/ ・「すると」は削除してよいだろう。 ・「閉じた」のところを「閉じる」とするのも一考してよい。「る」にすると動作が続いていくこととなる。 ・良き作品である。名作と言える。推敲することで、まとまりがよくなった。 ★⑤あっ 「”a few”は「二、三ある」/”few”は「ほとんどない」/数にすれば同じ/「ある」と「ない」/気持ちが違う/”a”/「ア」/「あっ」/の気持ち ・一連は発想の遊びと言える。ただ全体に展開に無理があるのではないか。 ・最後の連を見ても、とてつもなく力を持っている方であることがわかる。 ・発想の面白さがある。心が明るくなるような言葉遊びの妙がある。 ★➅秋の日に思う 「木々が/色づく/紅、あか、きいろ ・「思う」という表現が入ると散文となる。これは原則である。表現については大切に考えてもらうと良い。 ・最後の一行「私の中の大切なひとコマ」は入れないほうが良い。この表現を入れると、余韻がなくなり閉じた詩となってしまう。注意が必要だ。 ・途中に三文字下げたりすることで、視覚的なリズムを感じる詩となっている。効果的ではないか。 本年度、最後の詩入門講座となりました。今年度は詩作品数を増やし、批評と推敲場面を多くとりました。きめ細かな講師の指導と共に、受講生同士の意見交換も増やした講座となりました。 受講生の皆さんの熱心な受講もあり、充実した講座となりました。井崎先生、木村先生、和田先生、一年間、貴重な講義をいただき、ありがとうございました。受講生の皆さんもありがとうございました。 |
木村 透子先生 和田 康一郎先生 |
〇11月9日(土)第7回 小説入門講座
~実作小説の批評と推敲➀(第1グループ)~ |
|
講師:高山 敏 (『北陸文学』同人) 小西 護(『イミタチオ』同人) 第7回小説入門講座は、実作小説の批評と推敲です。講師は、高山 敏先生(『北陸文学』同人)、小西 護先生(『イミタチオ』同人)です。本日は、9名作品提出のうち4名分の批評と推敲をしました。 では、題名、内容(◆)、批評と推敲(★)について、ほんの一部をご紹介いたします。 1 受講生の実作小説から(題名、内容は?(◆)、批評は?(★)) ➀荒海 ◆作者の子どもの頃の懐かしき風景が甦るものである。日本海での貝とり、淡い初恋、良き本との出会い、学校生活の苦い思い出をいろいろと綴った作品である。 ★批評から・文を振り返って希望の持てるような書き方が出てくると良いと思う。プラス面をどんどん書いてみよう。 ・核心部分を掘り下げて書いたら良い。その部分を「丁寧に」「詳しく」「具体的に」書くことが大切。 ・ある時代のどこの何に焦点を当てていくかを決めよう。広げるよりも深めることをしていきたい。 ➁坂の先の空 ◆学力面でトップと言える進学校に所属している主人公。でも高校に来て、台座から滑り落ちて坂を転がり落ちるような気がしている。そしてスマホでゲームをし続ける日々となる。ある日、バスの中からとんでもなく美しい夕日と出会う。主人公は、その夕日への思いから今までの自分をとらえ直していく。 ★批評から・全体に形容詞をつけすぎである。削るとスッキリした文章になる。推敲をしてほしい。 ・自問自答していて、先が見えないところがある。スマホをしていてたまたま出会う風景で思いを持つ主人公。友、家庭、もう一人の私でも良い、私の今を突き破るきっかけをつかむ何かの工夫が欲しい。私の思いを揺り動かす登場者がいると考える。自らで割って出ていかねばならない。 ・自分から何かを起こすアクションとしての行動が自らを変えるきっかけとなるなど、ダイナミックな展開力が大切となろう。 ➂(作品タイトル)未定 ◆公民館の談話コーナーの図書館で出会った幼馴染の女性。でも、私が東京の大学に行くことで、私の片思いはそこで途絶える。お互い60歳代となっての再開である。そんな二人が町会に古書提供の案内をしていく役割を担うこととなる。久しぶりに出会った二人がぎこちないながらも共同作業をスタートさせていく物語である。 ★批評から・出だしの工夫がいる。「書籍コーナーに人がいた」では、風景の想像が全くできないものとなっている。 ・矛盾が生じている表現、簡略化、削除ができる箇所が幾つもある。推敲をしなければならない。 ・主人公と島崎さんとの関りが、どっちつかずの中途半端なものとなっている。人間の内面の揺らぎをどう描くかが大切だ。中途半端だと100枚あっても終わりが見えない。 ・力ある書き手であるから、やはり題名も明確にし、起承転結のある作品の中で、ゆらめきが見えてくる充実した作品を目指してほしい。そんな作品創作ができると思う。 ④今もこじれています ◆今、食材を入れて火にかけるだけで、そのまま取り皿に入れずに食べることができる鍋をも思うことから物語は始まる。私を心からかわいがってくれる小母フキちゃんとの関わりの中で、自分自身の素直になれない性格を知り、自分自身に、複雑な違和感を持つ私の心情の吐露が描かれていく小説である。 ★批評から・「こじれている」ことは、書いている人のこだわりなのか。作者はこじれていることが恥ずかしいのかどうか、納得しているのか、コンプレックスなのか。二重螺旋構造になっているのではないか。 ・共感することは大切。反発することは「そんな生き方もあるのか」と考えること。「こじれている」といった表現だと、生き方が閉じてしまっているのではないか。行き詰ってしまっている。 他、お二人の先生から、細かい表現方法にいたるまできめ細かなご指導がありました。今回は4名の批評と推敲でしたが、「勉強をしていきたい」と、今回批評と推敲予定でない方もオブザーバー参加いただきました。 本日の会で出たアドバイスを参考にして、批評と推敲を進めていただきたいです。 次回は、12月14日(土)小網先生による作品批評と推敲➁です。 なお、11月30日(土)は、第2グループの作品批評と推敲です。第2グループの方はご参加下さい。オブザーバー参加希望の方は、金沢文芸館まで、事前に連絡いただきますようお願いいたします。 |
高山 敏先生 小西 護先生 |
〇11月2日(土) 古典の日記念事業
朗読 「古事記」とリコーダーの調べ | |
出演:神田 洋子(朗読) 中村 俊子(リコーダー) □朗読者、奏者の紹介 【神田 洋子(ひろこ)】(朗読)
DJ糸居五郎氏に師事、フリーアナウンサー。古典文学、近現代文学作品をレパートリーとして朗読する。石川県立音楽堂、金沢市民芸術村はじめ、各所において、朗読ライブを企画主催している。またストーリーテラーとして小学校や保育園等で「世界・日本の昔話」を語り、文学作品の楽しさを広く伝えている。金沢文芸館講師、石川県文芸協会会員。 【中村 俊子】(リコーダー) 大阪音楽大学フルート科にて学ぶ。在学中より、バロック音楽に興味を持ち、フラウト・トラヴェルソを学び始める。有田正広、北山隆に師事する。現在、金沢に在住し、バロックから近現代まで県内や関西において音楽活動を広げている。「古からの手紙」「アンサンブル・リュミエール」「金沢リコーダー・コンソート」メンバーである。石川県フルート協会会員。北国文化センター講師(リコーダー) □当日のプログラムから 【古事記の本日の演目についての説明】 【「朗読のための古訓古事記」出版者:岸本弘 より】 1.古事記上巻 序を併せたり 7.東方十二道の荒夫琉神
2.天地の初発の段 8.高津宮の段 仁徳天皇 3.神世七代の段 9.国見 4.淤能碁呂嶋の段 10.意富祁命と袁祁命 5.稲羽の素菟の段 11.用明天皇・崇峻天皇・推古天皇 6.出雲建 * 演奏(ソプラノリコーダー、アルトリコーダー、テナーリコーダー) ♪ クラヴサン組曲より アダージョ J.H.フィオッコ作曲
♪ 小室内楽曲集 パルティータⅡ G.Ph.テレマン作曲 ~ 小さなリコーダーの紹介 ~ ♪ グリーン スリーヴスによる変奏曲 Anon □本日の公演から 古事記は、天地創造から推古天皇に至る、神々につながる天皇家の系譜と王権の由来を、起源から記した日本最古の歴史書です。イザナキ・イザナミの国生み神話、ヤマトタケルの英雄譚も描かれています。神田洋子さんは、
「朗読に携わる私が、日本最古の歴史書「古事記」をみなさんにご紹介していないというのはいかがなものかという思いがずっとあり、今回の企画を立ち上げました。」 と語られました。また、朗読前には、本日演目の簡単な内容紹介がありました。 「古事記の理解につながれば」との熱い思いをのせての朗読は、神田さんのゆったりとした大河のような朗読もあり、古事記への興味が高まるものになりました。 また、話の内容に配慮して選曲・演奏された中村俊子さんのリコーダーの音色は、欧米で生まれた楽器なのに、まさに古事記の内容を理解するのに欠かせないものとなっていました。素晴らしい時間を過ごすことができたことを幸せに思いました。 当日は、土砂降りの荒れ模様でしたが、びしょ濡れになりながらもたくさんの方々に来館いただきました。心より感謝申し上げます。 神田洋子さん、中村俊子さん、朗読とリコーダー演奏のコラボレーションは、まさに一期一会の世界初演の演目となりました。ありがとうございました。 |
左:神田 洋子さん 右:中村 俊子さん |
〇10月26日(土)カナザワナイトミュージアム2024
朗読 金沢三文豪 | |
出演:鈴木 朋子(泉鏡花『龍潭譚』) 坂下 糸美(徳田秋聲『挿話』) 菊地 延嘉(室生犀星『随筆・女ひと』) ※全て朗読小屋 浅野川倶楽部のみなさん 今宵のナイトミュージアムは「金沢三文豪 鏡花・秋聲・犀星−それぞれの女・三話-」の朗読会です。 【演目と朗読者の紹介】 〇泉鏡花『龍潭譚』 子どもが、ツツジが咲く道を歩いていると、美しく輝く羽虫(ハンミョウという毒虫)の舞うところに来た。追いかけているうちに、子どもはいつの間にか魔界に紛れ込んでしまう。そして怪奇な出来事が次々と起こっていく。何とか戻ってくることができるのだが、今度は魔に取り憑かれた子どもへの悪魔払いが行われていく。
◇朗読「鈴木 朋子」
次々と起きる魔物たちとの出会いを描いた鏡花らしい幻想小説である。 鈴木朋子さんの朗読は、登場人物による声の表情の対比と感情移入が実に見事で、みんなが自然と魔界の世界に誘われてしまう朗読でした。今回は、金沢マラソン前日ということで、観光客の方々の参加もありました。難解とも言える泉鏡花の作品ですが、泉鏡花独特の言葉の美しさとテンポよいリズム感が、鈴木さんの朗読で見事に表現されていきました。次々に変容していく魔界のあり様が、聞いている私たちの目の前に走馬灯のように現れてくるようでした。泉鏡花の作品世界を陳能されているお客様の姿が印象的でした。
〇徳田秋聲『挿話』 道太は兄の見舞いに金沢へやって来た。本小説で秋聲は、道太が好意を寄せている馴染みの宿の娘お絹との心のやり取りを、自然な形で流れる水のような生き生きとした表現で描いていく。
◇朗読「坂下 糸美」
坂下 糸美さんの朗読は、淡々と淀みなく流れる美しき川の水の流れを思わせる朗読でした。その朗読は、あえて過剰な抑揚を避けて、自然主義、徳田秋聲の作品の良さを十分に考慮された見事なものでした。また、どの言葉も発音の美しさを伴っており、声に凛とした佇まいがあり、耳に届く言葉が実に心地よい朗読でした。
今回、初めて徳田秋聲「挿話」の作品に触れる方も多かったと思いますが、今回の朗読は、徳田秋聲の魅力をさらに発信いただいたものではないかと思いました。 〇室生犀星『随筆 女ひと』 犀星晩年の作で、昭和30年に、新潮社より出版されたものである。本作品は、犀星の女性観が赤裸々に綴られた随筆集となっている。女性を大切に想い、独特の視点で女性の美しさを見つめた作品となっている。「愛の詩集」「抒情小曲集」「第二愛の詩集」などの初期の詩集にあるような作風とは一線を画している作品である。
◇朗読「菊地 延嘉」今回、室生犀星「女ひと」の中で「童貞」の朗読でした。犀星作品の朗読と言うと、抒情的な詩が多いです。しかし、今回、随筆、それも珍しい演目での朗読となり、私たちが思い描いている犀星の人物像とは異なる世界が広がる朗読に、驚きと戸惑いを持って聞かれた方も多かったと思います。 晩年の室生犀星の艶めかしい女性観を、菊地延嘉さんは重厚感ある響きを伴っての表現で朗読されていきました。犀星自身、60歳を過ぎて、女性の美しさを独自の視点で探求しつづけた随筆でした。菊地さんがまるで犀星となって語りかけて下さるような朗読でした。日々朗読小屋浅野川倶楽部で、修行を重ねてこられた方のみが可能である虚飾を廃した熟練の朗読でした。 今回、髙輪さんのお弟子さん三人のみなさまの朗読が、満席のお客様に披露されたことは、心からの喜びでした。金沢の文芸文化がさらに浸透、深化していくことを心に誓う朗読会となりました。 また、鈴木朋子さん、坂下糸美さん、菊地延嘉さんらの、長年の、苦しく厳しい日々の修行があっての今回の朗読であること実感した公演でした。金沢の文芸文化の確かな風が、大きな渦を巻いて吹き込んでくる、そんな思いをもった夕べとなりました。 もちろん、そこには、代表 髙輪眞知子さんのご指導と、表川さんのきめ細かい演出があったからです。(当日の設定、演出打ち合わせは4時間近くとなりました) 朗読小屋 浅野川倶楽部、そして金沢マラソン前日にも関わらず、来館いただいた皆様には、心より感謝申し上げます。誠にありがとうございました。 |
鈴木 朋子さん 坂下 糸美さん 菊地 延嘉さん |
〇10月23日(水)出前講座 大浦小学校1年生
お話会を楽しもう | |
講師 : 吉國 芳子 金沢市立大浦小学校に訪問しました。一年生2クラス合同で一時間の読み聞かせを行いました。大浦っ子は、大変に明るく元気で、優しく、集中力抜群の子ども達でした。 吉國先生も子ども達から強力なパワーをもらって、充実の読み聞かせとなりました。その内容を紹介いたします。 ・みんなで歌おう「なっとう」の歌 なっとうの歌
なっとう なっとう ネーバ ネバ なっとう なっとう ネーバ ネバ おおつぶ なっとう こつぶ なっとう おかめ なっとう みと なっとう なっとう なっとう ネーバ ネバ なっとう! 特に「ネーバ ネバ」の部分で、両手や表情を使って、納豆が糸を引いているのを表現するのですが、どの子ども達もノリノリで友達と向き合いながら、とびっきりの笑顔で体表現していました。自分の気持ちをこんなにも開放して友達同士で顔を見合わせ笑い合えるなんて、本当に素晴らしい子ども達だと感心しました。 ・紙芝居「まほうつかいのナナばあさん」 【あらすじから】
魔法使いのナナばあさんは、何にでも変えられる薬を使って、子ども達をいろいろな動物に変えてしまいます。みんな大弱りです。 最後に、ナナばあさんは、自分をお姫様に変えようとします。そして薬をかけた時、動物に変えられた子ども達は、みんな一斉に変えられた動物の名前を口にします。 さて、ナナばあさんはどうなったのでしょうか。 ◆子ども達の様子から 紙芝居に全員が集中して前のめりになり息を呑むばかりです。動物に変わる場面が出るたびに歓声が湧きます。ナナばあさんがいろいろな動物が合わさった姿に変わった場面の絵を見た時には、「うわあ、すごい」「アハハこれは…」など、一人一人の想いがいっぱい出た瞬間となりました。
感性豊かな子ども達の素直な反応に、吉國さんも驚くばかりでした。 ・プレゼンテーション「弥七の豆がらたいこ」 【あらすじ】
金沢市本町の西福寺に伝わるお話や。西福寺には、豆の木の幹で作った太鼓が御堂の脇に吊ってある。これが弥七の豆がら太鼓や。またここには木で掘った弥七の像も残っとる。 この後、主人に「『こう、せい』とゆうたらして、『するな』とゆうたらするな」と言われる。 ある日のこと、主人は弥七に「『こも』を編んでくれや」と頼んだと。 2mが普通ぐらいやというておったのに、弥七は10m以上のこもを一生懸命に編んでいた。弥七は主人に「こもを『編め』ってぇ言われたが、『やめ』とはゆわれとらんと言う。 ある時、村のもんが弥七にゆうた。 「わしゃ去年。豆がよう採れて、五石一斗も採れたわ」と弥七にゆうた。 弥七は笑いて 「わしなら一本の木で五石一斗採ってみせるわ」とゆうた。 弥七はざる一杯の豆を畑にひとつところにまいて、桶に一杯水を汲んできて 「そおれっ、五石一斗じゃぁ。」肥しを汲んでくると「そぉれっ、五石一斗じゃぁ」とかけた。毎日、毎日そうゆうて世話をし続けた。 すると豆が一本だけ芽を出して。にょきにょき伸び出した。二日目には弥七の背丈ほどになり、三日目には畑の松の木の高さと並んだ。 夏になると豆の木はとうとう空を飛んでいるトンビにまでとどきそうになってたくさんの豆のさやをつけた。採れた豆を量ったらちゃぁんと五石一斗あったそうな。 そして、その豆の木でつくったのが「豆がら太鼓」や。弥七の木の像もちゃんと今も残っているそうな。 このユーモラスで不思議な話に子ども達は釘付けでした。一枚の紙芝居を、一人一人が身じろぎもせずに見つめています。大変な集中力でした。大浦小学校の一年生は、本が大好きでたまらない子ども達で、心からお話を楽しむ様子が素晴らしかったです。 そして、子ども達を心から慈しみ大切にしていく吉國さんの読み聞かせと、素直で温かい子ども達の心が重なり合って、素晴らしい出前講座となりました。 吉國先生、大浦小学校の先生方、子ども達、心からありがとうございました。大浦っ子のさらなる成長を心から願っています。 |
〇10月19日(土)第6回 小説講座 ~小説を読む③~
小説を読む③(スローリーディング) |
|
講師 : 皆川 有子(『櫻坂』同人) 第6回小説講座が開催されました。講師は文学誌『櫻坂』同人 皆川 有子(みながわ ゆうこ)先生です。テーマは「小説を読む③」についてです。 本日は、受講生が「人質の朗読会」小川洋子・著(中公文庫)の本を手にして講座が行われました。講座の一部を紹介します。 【話のあらすじ】 地球の裏側に存在するある村で、ツアーの参加者たちが観光を終えて首都へ向かう帰路、反政府ゲリラに襲撃を受けて人質として拘束される。そして発生から百日以上が過ぎ、軍と警察の特殊部隊がアジトに強硬突入し、犯人グループ五人は全員射殺、特殊部隊二名が殉職、人質は犯人がしかけたダイナマイトの爆発で八人全員が死亡した。
そんな現場にテープが残されていた。人質が自分で書いた思い出を、朗読し合ったものであった。それらの人質の朗読は、人生のささやかな一場面が鮮やかに蘇るもの、絶望ではなく、今日を生きるための物語であった。しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界となっている作品である。 ◆小説の構成の見事さがある。 本小説は、次のような構成をとっている。 ◇序文
◇人質の朗読から ・第一夜 杖 ・第二夜 やまびこビスケット ・第三夜 B談話室 ・第四夜 冬眠中のヤマネ ・第五夜 コンソメスープ名人 ・第六夜 槍投げの青年 ・第七夜 死んだおばあさん ・第八夜 花束 ◇特殊部隊の一人から ・第九夜 ハキリアリ まずは、序文の七ページで物語の概要が語られる。ここで読者は、これから始まる朗読会への期待感が高まる。そして、そんな期待感の中、人質となってとらわれていた中で行われた朗読会の内容が示されていく。それらの朗読は「過去をそっと取り出し、掌で温め、言葉の舟にのせた朗読」「冷たい石造りの、ろうそくの灯りしかない廃屋に自分たちの声を響かせたもの」であった。見事な序文、そして一人一人の人質が語る朗読会、最後は特殊部隊の一人からと、本小説の構成の見事さに感じ入る作品となっている。 ◆小川洋子さんの小説の優れたところは? ※皆川先生と受講生から ・描写の素晴らしさが読者の心に響く。けっして説明はしないこと。 ・「空気を震わせるハンマーの響きといい、切断される鉄の断末魔の叫びといい、鉄工所はまさに破壊の場所だった」 (第一夜 杖)
・作者は、価値がないと思われがちなものに大きな価値を与えていく。 ・「えっ。それじゃあ治せないわ。だって世界を壊す道具だもの」 (第一夜 杖)
・作者の普通考えられない発想があり、エグイものもある。 ・「ビスケットの形は細分化され、動物なら哺乳類、爬虫類、両生類、原生動物、腔腸動物、類人猿、空想生物と広がってゆき、顔のパーツはやがて内臓系、骨格系へと進化した」 (第二夜 やまびこビスケット)
・小川洋子さんの優しいまなざしがある。どんなにひどいと思われる相手とも、そのまんまの姿の相手と付き合っている主人公がいつも描かれていく。 ・「象が、お好きなんですね」言う間でもないことを、ふと私は口にした。 (第二夜 やまびこビスケット)
・わからないところがあるからこそ、読後感が後を引いて、ずっと考え続けてしまう。 ・製菓職人として独り立ちするまで、長い間。私は十一個のやまびこビスケットを布の袋に入れて大事に持っていた。人からそれは何かと尋ねられると、お守りだ、と答えた。 ※「どうしてお守りなの?」と考えると、いろいろと悩んでしまう読者がいる。 (第二夜 やまびこビスケット)
・この表現は小川洋子さん自身のことではないかと思う瞬間がある。 ・「本が出来上がった時、僕の痕跡はきれいに消し去られている。赤い小石はどけられ、すべてが上手く整えられ、まるで最初からそうであったかのような姿で馳走は横たわっている。誰も僕などという人間がそこを這いずり回ったとは気づきもしない」 ・「B談話室は町の片隅の、放っておいたら素通りされてしまう、ひっそりとした場所に隠れている。だから僕は、B談話室で行われている営みを間違いなくこの世に刻み付けるために小説を書いている」 (第三夜 B談話室)
今回は、受講生の方に心に感じたことを述べてもらうスローリーディングでした。斜め読みではけっして語ることができないもので、熟読して「一流の作家から貴重な学びをしていきたい」という強い思いが表れる講座となりました。 「私も小川さんの工夫された表現を取り入れていきたい」という言葉もありましたが、「それは簡単なことではないです。ご自身が書いてみるとわかると思います。なかなかできないのです。まずは地道に意識して読み込んでいくことが大切なのです。「スローリーディングは面倒くさい」と思わずに、厭わずに取り組んでいくことが大切なのです」との皆川先生からの言葉もありました。 次回、第7回小説講座は、11月16日(土)作品批評と推敲② 第1グループです。講師は、寺本先生、宮嶌先生です。なお、オブザーバー参加も可能です。第2グループで参加希望される方は、座席の都合もありますので、金沢文芸館まで一報ください。 皆様の参加を心よりお待ちしております。 |
〇10月19日(土)第1回 川柳入門講座
基礎から学ぶ川柳! ~100歳時代の人生を楽しみましょう~ |
|
講師 : 山﨑 敏治(やまざき としはる)(石川県川柳協会副会長) 川柳入門講座がスタートしました。第1回目講師は石川県川柳協会副会長 山﨑 敏治(やまざき としはる)先生です。テーマは「基礎から学ぶ川柳!」です。今年度、山﨑先生はじめ次の先生が講座を担当します。 ・赤池 加久(あかいけ かきゅう)先生(石川県川柳協会会長) ・浜木 文代(はまき ふみよ)先生(石川県川柳協会副会長) 以上、3名の先生方で、「川柳の奥深さを学ぶために!」「川柳で人・社会とつながる」をテーマに講座を進めていきます。 第1回目山﨑 敏治先生の川柳入門講座は、レジュメを準備いただき、貴重な経験をもとにした講義をいただきました。山﨑先生の人柄溢れる温かく和やかな空気の中で、大変に充実した講座となりました。概要を紹介いたします。 ◆川柳の歴史について
川柳・俳句・短歌の流れ![]() ・柄井正通(からいまさみち)はじめ、川柳に関わられたたくさんの先人の方をご紹介いただきながらその歴史をわかりやすく説明してくださいました。 ◆川柳の音数の数え方を身につけよう
1 直音
・さくら(3音) ・同窓会(6音) 2 拗音(ようおん) ・拒絶(3音) ・趣味(2音) ・主人(3音) 3 促音 ・ホットドック(6音) ・學校(4音) 4 長音 ・ハーモニカ(5音) ・メール(3音) ・仲裁(4音) 5 撥音「ん」あるいは「ン」で書き表されます。1字が1音となる。 ・漢字(3音) ・タンバリン(5音) 豊かなご経験から学ばれた教えをいろいろ織り交ぜながら、受講生にわかりやすく講義いただきました。特に川柳誕生の歴史については、先人の名前を、その業績と影響等をくわしくご紹介いただきました。その興味深いお話に、あっと言う間の90分間となりました。 川柳を知ると言う意味で、大きな示唆を頂く講義となりました。山﨑先生、貴重なご講義をありがとうございました。 第2回川柳入門講座は、11月16日(土)「川柳の奥深さを味わうために!」です。講師は、赤池 加久(あかいけ かきゅう)先生(「石川県川柳協会会長)です。 受講生の皆さんに、川柳を作る宿題が出ています。メール、郵送、当日持参にて、届けていただきますようお願いします。皆様の参加を心よりお待ちしています。 |
〇10月13日(日)第6回 朗読会『青春の門 自立編 後半部』
□秋雨の夜の事件と新たな一歩 |
|
朗読: 髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表) 石井講師と信介はカオルのもとを訪ねます。そして初対面の石井講師とカオルは、その場で無理心中を図ります。幸い、信介が機転を利かせて、二人の胃の内容物を吐かせて事なきを得ます。しかし、二人のことは世間に知られることとなり、石井は辞職し、カオルは店を辞めることとなります。心中の理由を「なんとなく気が合ってね」と言う石井。信介は心の中に冷たい木枯らしのようなものが吹きすぎる感じがするのでした。そんな中、石井から信介は一つの提案を受けます。それは、ボクシング界でもっとも期待されているフェザー級チャンピオンの浜崎竜二とスパーリングをするという内容でした。 (「秋雨の夜の事件」「いざ去りめやも」)
* * * * きたる10月29日(土)午後6時30分より、金沢文芸館にて、カナザワナイトミュージアム2024 金沢三文豪『鏡花・秋聲・犀星−それぞれの女・三話-』の朗読会があります。朗読は、朗読小屋 浅野川倶楽部の 鈴木朋子さん(泉鏡花『龍譚潭』)、坂下糸美さん(徳田秋聲『挿話』)、菊地延嘉さん(室生犀星『随筆・女ひと』)らによるものです。 先月、9月22日(日)金沢能楽美術館にて、朗読小屋 浅野川倶楽部 朗読劇 三島由紀夫『班女』『葵上』近代能楽集が行われました。3公演共、満席の会場で、髙輪眞知子さんは老嬢「実子」(班女)、六条康子(葵上)、どちらも主演を務められました。その朗読は、まさに朗読舞台そのもので、まるで「鬼神」が乗り移ったかと思える凄演に、会場は静まり返り、皆が息を呑む音さえ憚れる時となりました。 そして、その朗読劇では、後藤千春さん、田村紀子さん、櫻井美代子さん、川畑圭子さん、太田恭子さん、池本玲子さん、河坂悦子さんら、日々、修行を積まれたお弟子さん達の真摯で確かな朗読が披露されました。 鬼神「髙輪眞知子」さんが生み出す妖艶な凄演の渦の中で、けっして流されまいと、芸に向き合い、踏ん張って朗読される浅野川倶楽部の熱演がそこにはありました。 来る10月26日(土)18時30分より、本館にてカナザワナイトミュージアム2024朗読 金沢三文豪 鏡花・秋聲・犀星−それぞれの女・三話-の公演があります。 日々「鬼神」のお姿に憧れて、その姿を追い求め、修行を重ねておられる鈴木朋子さん、坂下糸美さん、菊地延嘉さんによる金沢三文豪の朗読会となります。たくさんの方々にお越しいただけることを楽しみにしております。 さて、次回の第7回朗読会「青春の門 第二部自立篇 後半部(「乳房と大砲」「道の旅へ」は、11月10日(日)午後2時からで、自立篇後半部の最終回となります。皆様、お誘いあわせいただき、お越し下さいますようお待ち申し上げております。 なお、最終回第8回朗読会は、短編小説を予定しております。これもお楽しみにしていただけたらと思います。 |
〇10月12日(土)第5回 詩入門講座
詩の本作品2の批評と推敲 |
|
講師 : 井崎 外枝子(詩誌「笛」同人) 木村 透子 (詩誌「イリプス」同人) 今回は、井崎 外枝子先生、木村 透子先生による、本作品2の批評と推敲です。今回は5作品の批評と推敲を行いました。お二人の先生方の貴重な講評はもちろん、講師の和田先生からも全員へのコメントをいただきました。 作品、先生方の講評、受講生の感想、それぞれ一部となりますが、紹介します。 受講生の本作詩2から
➀生きる証の花模様 「眉間にしわを寄せ目をこらし/指が叩き出すその先に/性根を写すのは恥ずかしい ・面白い詩であり、上手いと感じる。「加入」という言葉が的確かは気になる。加筆という意味か? ・「湧き上がる熱情」の箇所は、「熱情」の意味について吟味する必要がある。 ・いつもの作風とは異なる。いつもの種明かしがある詩とは違うが面白い詩である。隠れ七五調というか、作者の心の中にリズム感ある語調が息づいている。 ・本詩は、光景とリズムがあり、語りながら作詩している様が浮かぶ。 ・今回は文章入力・作品作成そのものを題材として、描いた作品です。多くの人が題材とするが、その中で他者と違う点が、個性となるのでしょう。(人と同じことをして、勝手に現れてくるものが個性です) ②愛犬へのレクイエム 「突然 炎が消えるごとく/新月の夜 一つの命が/闇夜に からめとられてしまった/大切な命の光が手の中から零れ落ちる瞬間/それは 地獄のはじまり ・強い思いで詩を書くと読者は引いてしまう。客観的な目での視点は必要であり、読者になった立場で詩を書くことも必要である。 ・「砂時計は止まる」で詩を終えても良かった。引用は詩の手法としてはある。大事な感性とは言えるが検討は必要か。一番最初に引用を持ってくる方法もあろう。 ・題名からして、悲しみすぎないように注意してください。詩は芸術作品であり、感情の放縦な発露ではありません。「暗雲の霧の中」という重複的比喩を、まずやめましょう。「七つの子」の歌詞の引用など、今回も「なぜその箇所で、オリジナルの表現を編み出さないのか」と思わせる箇所があります。 ➂散歩 「空が広い/明るい青色/薄絹雲が 浮かび 翔んで/軽やか/朝の少しひんやりした大気/田んぼはもう/黄金の稲穂/豊かな稲の香/その上を無数に飛び交う赤とんぼ ・素直で短い言葉で優しさを感じる詩である。 ・Pの小さい音量で奏でられる静かな詩。ボリュームをあげても良いのではないか。 ・二連を「田んぼはもう…」の箇所からにしたい。最終連で「今日も散歩する私です」とせずに、二連冒頭に「私は散歩する」といれていくと良いのではないか。 ・前半「受け身的」、後半「能動的」と感じる。前半を短くし、後半を長くすると良い。 ・最終連「私に出来る事は/空に尋ね/蝉に尋ね」の部分は、作者の中身を探すエネルギーの強さを感じる。こういった見方ができる人は芯の強い人だと感じる。 ・まだ詩の「下書き」といった印象です。「私は何をしたい」か、空・蝉に「尋ねる」というのは、良いと思います。ただ、詩を作る時には心がけてほしいこともあります。「鳥」「虫」でとめないで、原則、調べ上げて、固有名詞にしてください。「虫」が、たとえばキリギリスかカネタタキで、大きく変わります。 ④ 母の香り 「抗がん剤を点滴し始めて/二週間たって/ごっそり抜けた/私の髪の毛が/地毛用のシャンプーが使えない/私はあわてて飛び込んだ/病院の薬局に/地肌用のシャンプーを求めて ・「母の香り」の題名は検討の余地がある。ストレートすぎる。遊びやひねりがほしい。 ・一連、二連、三連と全て倒置法となっている。一連は倒置が落胆の心を表現し効果的しかし、必要性のなき箇所はしなくて良い。 ・まとまった良き詩。まず「母と自分の関係をつなぐものがシトラスの香り」というのが良い。過度に感情的でなく母への思いが綴られる。最終連は心に深く染み入る。 ・身近な素材で、自然な形で表現していく詩は、読んでいて本当に気持ちが良い。 ・冒頭の出来事はショックな体験だったかもしれませんが、感情過多にならず、さらりと書き出されています。第三連の気づきが、良い「転」になっていて、さわやかな喜びさえ感じさせる作品になっています。 ⑤ 家になる 「家はいいなりだったので、住人の思いのままだった。安い建材で敷地いっぱいに建てられた家には僅かに科学物質の臭いが漂っていた。バッタやミミズは姿を消し、蜘蛛ですらも巣を張らない。家は孤独だった。住人の四人家族は異端者で、勝手にカーテンやソファを取り付けたが、どれも呼吸せず定められた場所にじっと収まっていた。石を抱いているかのような不快感、掃除機で床を撫でられるくすぐったい感触は、安眠を削く何者でもなかった。 ・静止した面白いアングルから書かれた詩。構成の仕方も良い。良き詩だ。 ・二連最後「それらは不思議にも女の呼吸をして、すでに生きたものの気配を漂わせている」は表現力が素晴らしい。もっともっとこの部分は書いていいのではないか。 ・三連はじめ「三十五年間花を付けなかったホヤカルノーサに初めて可憐な花がつく」の部分は深い感銘を感じる。ただ最後の連は少し説明っぽい感じも否めない。 ・4人家族から女性一人の住まいの変化と、家の充実が重ね合わせられて、ありそうであまり類はない、新鮮な印象を抱きました。育てにくい「ホヤカルノーサ」がようやく開花し、「山鳩が卵を温め」めるなど、家が孤独を抜け出る良いイメージが重なっています。この花には「人生の門出」「出発」「幸福の訪れ」などの花言葉もあるので、その面からも、ふさわしい素材として登場していると思います。 例年、本作品が一作品のみであったのを、今年度は講座回数を増やし、本作品を二作品創作しての批評会としました。「受講生の上達ぶりが良い」との先生方の言葉もあり、受講生同士の意見交換も活発となり、大変深まりある充実した時間となりました。 次回講座は11月9日(土)午後3時からで最終回です。2作品の中から批評と推敲を経ての最終原稿を事前提出していただいての最終批評と推敲です。 創作工房に掲載するための作品提出をお願いします。次回講師は、木村 透子先生と和田 康一郎先生です。 |
井崎 外枝子先生 木村 透子先生 |
〇10月12日(土)第6回 小説入門講座
推敲について | |
講師 : 高山 敏(「北陸文学」主宰) 小説入門講座も第6回を迎えました。今回は「推敲について」です。講師の先生は、北陸文学主宰の高山 敏(たかやま さとし)先生です。内容を紹介します。 1 推敲で大切なことは?
➀常套語、決まり文句の使用は避ける△ぬけるような空 △カモシカのような脚 △うららかな春 △風薫る季節など
➁力み過ぎの文章になっていないか△劇的、大げさな言葉での表現 ・不幸な人物に読者の同情を引こうというなら、できるだけそっけなく、冷酷に突き放して書くがいい。(チェーホフ) ➂飾ったり、気どったり、格好つけたりしていないか△美辞麗句 △頻繁に修飾語を使用する ④句読点に気を配る ・句読点とは、作者の息づかい、心のリズムのようなものである。 ⑤漢字を使い過ぎていないか。かなを使い過ぎていないか・見た目でかな7割、漢字3割が理想 ⑥擬音や符号はむやみに使わない・できるだけ文字を使って表現していくこと ⑧接続語を多用していないか⑨リズムがあるか。流れがいいか ・適宜な段落替えをしているか ⑩同じ言葉 同じ言い回しが多くないか△文末…「〇〇していた」を繰り返す→語尾に変化をもたせる ⑪不要な箇所はないか△テーマに結びつかない箇所→削ぐ ⑫曖昧な言い方、反対に断定形を取り過ぎていないか△かもしれない。あるまいか。だろう。だろうか。と思う。等 ⑭ねじれ文に気をつける △作者の日常の言葉の癖が連発する→目ざわり ⑮書いた文章を声に出して読む△言いよどむ箇所→〇訂正 ⑯文章の贅肉を削ぎ落とす⑰「~こと」「~である」を多用しない ⑱誤字。脱字は絶対にしないように 2 推敲 Q&A から
Q1 推敲で直すのは、どのくらいの量が適切ですか?・知り合いの作家は、脱稿するまで推敲はしない主義です。理由はシンプルで「執筆中にちまちま推敲を繰り返していたら、筆のノリが悪くなるから」だそうです。他の作家では「今日、十枚の原稿を書いたら、明日の執筆時に、まず今日書いた十枚分の原稿を推敲して、その流れで続き(十一枚目)の執筆にとりかかる」という方がいます。前日分の推敲をしているあいだに心のテンションをその作品に調律することができるので、それが大きなメリットだということです。 Q2 直したい文章が見つかっても、良い表現が浮かびません。どうしたら良いですか? ・それは、ボキャブラリーや表現力が足りていないのだと思います。答えはシンプルです。「文学作品を、読んで、読んで、読みまくること」です。 ・最低でも、あなたが理想とする小説家を見つけて、その人の作品を片っ端から読みまくって下さい。その後は、幅広くいろんなタイプの書き手による文章を浴びるように読むことをオススメします。△ただし二番煎じは面白くない。 Q3 句読点の位置で迷っています。何かコツはないでしょうか? ・句読点は、とても注意深く扱うべき「表現の道具」です。まず打つのは、ひらがなが続きすぎたり、漢字が連続してしまうときです。当たり前のことですが、案外、これができていない人が多いです。 ・句読点は、文章にリズムを作ったり、読者が活字を目で追う際の「速度調整」にも一役買ってくれます。もっと言えば、「、」ひとつでキャラクターの感情の機微まで変わってしまいます。 ・句読点は、小説を書くうえで「瑣末なこと」だと思われがちですが、実際は、とても重要な「表現の道具」です。 貴重な資料を伴った講義となりました。高山先生、ありがとうございました。 次回、第7回講座は、11月19日(土)批評と推敲➀(第1グループ)、11月30日(土)批評と推敲➁(第2グループ)です。受講生作品を半数にグループ分けしますので該当の会にご参加下さい。なお、自分の作品がない回、作品提出が叶わなかった方もオブザーバー参加が可能です。参加の場合は、事前に金沢文芸館までご連絡下さい。 みなさんのご来館を心よりお待ちしております。 |
〇9月21日(土)カナザワナイトミュージアム2024『ソプラノとオルガンの夕べ』
こころのふるさとを唄うⅩ | |
出演 : 直江 学美(ソプラノ歌手)、黒瀬 恵(オルガン奏者) 1 出演者の紹介 〇直江 学美さん(ソプラノ歌手) ・天沼裕子氏 指揮「小さな魔笛」出演 管弦楽 アンサンブル金沢 ・ヘンゼルとグレーテルでヘンゼル役で出演 管弦楽 アンサンブル金沢 ・2010池辺普一郎 作曲、指揮 「耳なし芳一」出演 管弦楽 アンサンブル金沢 ・各方面にてソプラノ歌手として活躍。 ・現在 星稜大学人間科学部教授として後進の指導にあたる ・2020年度 金沢市文化活動賞を受賞 〇黒瀬 恵さん(オルガニスト)・巨匠との共演 2009年 キタエンコ氏指揮、アンサンブル金沢との共演 ・2024年度 金沢市文化活動賞を受賞 2 プログラムの紹介 ◆歌とオルガン
われは海の子(作詞作曲:文部省唱歌) やぎさん郵便(作詞:まどみちお/作曲:團伊久磨) みかんの花咲く丘(作詞:加藤省吾/作曲:海沼寛) ◆オルガンソロ J.S.バッハ:あなたがそばにいれば BМW508 ◆歌とオルガン おぼろ月夜(作詞:高野辰之/作曲:岡野貞一) 赤とんぼ(作詞:高野辰之/作曲:岡野貞一) 夕焼け小焼け(作詞:高野辰之/岡野貞一) 7つの子(作詞:高野辰之/岡野貞一) ◆オルガンソロ 大中寅二:静かに平和を祈る歌 L.モーツァルト/E.エバーリン:『朝と夕』より 8月、9月、10月 ◆歌とオルガン 宵待草(作詞:竹久夢二/作曲:多忠亮) 夏の夜は(能登のわらべうた) ◆アンコール ふるさと(作詞:高野辰之/作曲:岡野貞一) 3 演奏会から 抜粋して演奏の様子を紹介します。 ◆歌とオルガン ・「7つの子」から 直江学美さんから「とても優しい歌。私の大好きな歌です」との紹介がありました。
「からす なぜ鳴くの/からすは山に/可愛い7つの子があるからよ 可愛い 可愛いと/からすは鳴くの/可愛い 可愛いと/鳴くんだよ 山の古巣に行って見てご覧/丸い眼をした/いい子だよ」 『こんなに愛情深い歌詞があるでしょうか?』との直江さんのお話に、会場のみんなはうなづくばかりでした。慈愛に満ちた歌詞と柔らかなメロディが、黒瀬さんの足踏みオルガンのふくよかな音色の伴奏を伴い、直江さんの艶やかな声で響き渡りました。私達はただお二人の演奏と歌唱に魅了されるばかりでした。 現在、歌い継がれることも少なくなった歌の一つですが、将来において大切に歌い継がれるべき歌であると、みんなが思う時となりました。 ◆オルガンソロ ・「L.モーツァルト/E.エバーリン:『朝と夕』より 8月、9月、10月」から ザルツブルグに留学されていた黒瀬 恵さんが、毎日、朝と夕に二度、お城の小部屋から流されるオルガン曲の一つとの話がありました。モーツァルトのお父さんが作られた楽曲を、毎日、時報のように聴いてオルガンを学ばれていた黒瀬さんのご様子が瞼に浮かぶようなお話でした。
本楽曲は、電子オルガンを使われて、様々な音色に彩られながら紹介いただきました。私たちは、オーストリアのザルツブルグの街並みを想いながら、穏やかで幸せな時間を過ごすひと時となりました。 ◆歌とオルガン ・宵待草 千葉県銚子市での儚い一夏の恋を歌った夢二の詩です。バイオリニストの「多 忠亮」(おおの ただすけ)により曲がつけられ、抒情歌として愛唱されるようになった歌です。歌詞を紹介します。
「待てど暮らせどこぬひとの/宵待草のやるせなさ/宵は月も出ぬそうな」 短い歌です。でも、私たちは、最初の2音から驚かされることとなります。直江さんの歌い出し「まーて」の部分で、私達の身体と心は飛び上がりました。直江さんの歌声が「まー」から「て」のつなぎのところで、瞬時に1オクターブ上の音程に跳ね上がったのです。最初の入りの艶やかなお声から、瞬時に輝かしい響きを伴った豊かな響きが頭上から降り注いだのです。圧巻でした。その後、黒瀬さんの抒情ある長き伴奏後、直江さんはテンポをさらに緩めながら「宵は/月も/でぬそうな」と歌われた時には、短い曲なのに、感動に身体と心の震えが止まりませんでした。 哀愁ある前奏オルガンから始まった宵待草。短い曲なのに、直江さんと黒瀬さんの紡ぎ出される音楽は、聴いているみなさんの心の琴線を震わすもので、どんな大曲にも勝るとも劣らないものでした。 他にも紹介したい演奏ばかりでした。10回目のソプラノとオルガンの夕べの音楽会は大変充実したものとなりました。これもひとえにソプラノ歌手「直江学美」さんとオルガニスト「黒瀬 恵」さんのお力のおかげですし、何より、金沢文芸館を埋め尽くした満席の観客の皆様方の支えがあってこそでした。 改めて来館いただいた皆様方に、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。 |
〇9月21日(土)第5回 小説講座 ~小説を読む②~
短編小説の魅力について |
|
講師 : 宮嶌 公夫(『イミタチオ』同人) 第5回小説講座が開催されました。講師は文学誌『イミタチオ』同人 宮嶌 公夫(みやじまきみお)先生です。 テーマは「小説を読む②」です。本日は、受講生が「その日の前に」重松 清 著(文春文庫)の本を手にして講座が行われました。講座の一部を紹介します。 【話の内容】 僕たちは「その日」に向かって生きてきた-。昨日までの、そして、明日からも続くはずの毎日を不意に断ち切る家族の死。消えゆく命を前にして、いったい何ができるのだろうか…。死にゆく妻を静かに見送る父と子らを中心に、それぞれのなかにある生と死、そして日常のなかにある幸せの意味を見つめる連作短編集。
収録作品は「ひこうき雲」「朝日のあたる家」「潮騒」「ヒア・カムズ・ザ・サン」「その日の前に」「その日」「その日のあとで」で連作となっている。 1 「ひこうき雲」で、物語の「作られ方」を考えてみよう。 (1)物語の概要 「過去」と「現在」が交互に何度も入れ代わりながら物語が作られていく。
「過去」 …僕は小学校6年生。2学期、入院したガンリュウにクラスのみんなで色紙を書き、クラスの代表として見舞いに行く。「いつも怒っていて嫌われているガンリュウ(女の子)」女子の色紙の真ん中に描かれた鳥の絵。心のこもっていない言葉の男子の色紙。病院でガンリュウと再会し、色紙を渡す。文庫本をめくっていたガンリュウだったが、その目からは涙が流れていた。僕にはその涙の意味がわからなかった。僕は中学生になって、ガンリュウが亡くなったことを知る。 「現在」…40歳過ぎの僕。90歳を過ぎた妻の祖母をひと月前に介護施設に入所させ、初めての面会にでかける。妻と息子と電車に乗り、途中、生まれ育った町を通るが、面影はほとんど残っていない。そして介護施設のある町で電車を降りる。アルツハイマーを発症したおばあちゃんは新しい環境に馴染めていなくて不安定で混乱している。妻が作った弁当を芝生の上にシートを引き、みんなで食べる。すると祖母の目から涙がこぼれる。なぜ涙を流すのかわからないが、昔亡くなった女の子の涙と同じだと僕は思った。 (2)物語の構造 A なぜ。小学6年生の話なのか? ⇒ 人間関係の設定に有効
・大人でも子どもでもない位置が「効果的なピンポイント的な世界」を創り出す。 ・石けり場面(落ちたらガンリュウは死ぬ)のように、遊び心のある年齢に相応しい。 ・尾翼マークへのこだわりなど、6年生の設定は知的好奇心の表れが見られるものとなる。 B ガンリュウが嫌われ者なのはなぜ? ⇒ 人物の設定に有効
・協調性のない人物であるからこそ、複雑な心の葛藤が描くことができる。嫌われ者のガンリュウだったから、素直にいかない心の揺れを描けたのではないか。 C なぜ、ガンリュウとおばあちゃんは涙を流すのか? ⇒ 主題の設定に有効
〇ガンリュウの流した涙は… ・友達が来てくれたうれしい涙かもしれない ・自分と友達を比べての悔し涙かもしれない 〇おばあちゃんが流した涙は… ・鮮やかな妻の弁当に感動した涙かもしれない ・長寿で施設に入る事へのくやしさがあるかもしれない ・素直に弁当を作ってくれたことへのうれしい気持ちかもしれない ・まだここで生きていくことへの哀しさなのかもしれない D なぜ、ガンリュウとおばあちゃんは涙を流すのか?
※「おばあちゃん」の涙と「ガンリュウ」の涙が「同じ」とは? ・おばあちゃんの涙が「長く生きすぎた」という思いであり、ガンリュウの涙が「もっと長く生きたい」という思いからであったとしたら、どちらも「選ばれた人の涙」という意味では同じではないか。 ・涙を流す意味を考えていくことこそ、主題につながっていくのではないかと考える。答えは書かれてはいない。 2 物語の作られ方について A 語り手は誰に寄り添い、何を語らせるか
B 焦点化された人物の何をどう変化させるのか C 時間軸をどうするか D 登場する人物に必然性はあるか E 登場する人物の情報をどこまで出すか……必要のない情報を削っている F どのような素材を組み込み、伏線をどう張るか ⇒ 最適解を求めるかが作品世界の優劣を左右する ⇒ 違和感を感じさせない ※違和感なく物語が成立していくことが大切である。 今回の講座は、宮嶌公夫先生が準備されたテキストをもとにしての学びとなりました。小説家 重松 清さんが、きめ細かく、かつ大胆に構想を練って創作された小説を読み解いていくことで、受講生は、今後の創作活動に貴重な示唆を得たのではないかと思います。 『視点人物は、その前と後では、変わらなければならない』 『ガンリュウとおばあさんの二層構造で比較していくことで、「涙」の意味を読者に考えさせているのでないか』 『「長く生きすぎてしまったひとの流す涙」と「大人として生きられなかったガンリュウの涙」を同じだと言う僕。その意味を読者が考えていくことが大切である』 『「目に見えない小石が、ころん、と転がっていく。/郵便局までゴールできたら-。/テッちゃんの声がよみがえる。/みんな幸せになれたらいいのにな、と目に見えない小石をもう一度、そっと蹴った。」という終わり方。そこには「どのような素材を組み込んで、伏線をどう張るか」といった綿密な作者の計算がある』 今回の講義は、受講生にとって、今後の創作活動において大きな示唆を与えたものではないかと思います。作者の視点で、重松 清さんの作品を読み返して、学びを得ていくことも大切だと感じる貴重な講義となりました。 猛暑が重なっての体調不良の方々、そして当日は、能登の大雨の惨事がありました。能登の大雨により犠牲となられた方のご冥福をお祈りすると共に、行方不明者が発見、救命されることを願うばかりです。 次回、第6回小説講座は、10月19日(土)「小説を読む➂」です。開始時刻は15時からです。皆川先生による「スローリーディング」です。『「人質の朗読会」著・小川洋子 中公文庫』を読んでくることが宿題です。ぜひご一読・持参いただき、心残る場面、印象的な場面等を言えるよう、準備等よろしくお願いいたします。 |
〇9月14日(土)第4回 詩入門講座
詩の本作品1の批評と推敲 |
|
講師 : 井崎 外枝子(詩誌「笛」同人) 木村 透子 (詩誌「イリプス」同人) 今回の講座は、猛暑等の影響で体調を崩された方もあり、3名の参加で「詩の本作品1の批評と推敲」でした。お二人の先生と3名の受講生が、テーブルを囲んでの会となりました。当初は3人ということもあり、時間短縮でと考えておりましたが、ふと気づくと通常の講座時間1時間30分を越える白熱した会となりました。 お二人の先生方の貴重な講評はもちろん、講師の和田先生からも全員へのコメントをいただきました。 みなさんの試作詩の一部抜粋と、先生のコメント、そして受講生からの感想の一部を紹介します。 受講生の本作詩1(「」は詩の一部抜粋です)から
➀夢を見て落ちた片思い「あたしとの付き合いは/これで終わりにしなよ/しょせんあたしたちは相性が合わなかったのよ/そう思えばあきらめつくじゃない/はかない夢を持ちすぎたのよ/ ・連ごとに話者が変わり6行ずつの形式で、よく練られていて、形が整理されている。 ・「宝くじ」は詩として遠い存在のものである。宝くじと恋愛という結びつきは面白い。 ・『能登半島の復興支援ミニ宝くじ』という文言を目にして買ったもので、そこから素材を得て創作されたとのこと。初めての体験だからこそ、作者は新鮮な気持ちで書けたと思う。 ・詩の創作の土台ができている。作者は一つの到着点をみつけているのではないか。 ・ムダがなく面白い。ただこれから進化も必要。詩の創作場面では「進む→つかまえる→自分を壊す」そんな取り組みをしていくと良いかと思う。 ・軽妙洒脱な書き方として、今回の作品はA(宝くじ)、B(作者)、A(宝くじ)3連の構成である。形がより美しく整っている。最後でのどんでん返しが見事。詩の中の言葉は単なる伝達の道具ではなく、新鮮な組み合わせの効果により、クスッとするものがある。 ・パターン追究の作品群の中では、最も洒落ている出来栄えと思う。第2連の「手を掛けて足が出た」は、これが表現として正解か、は結論がでていないが。 ②母の日に贈る一輪の花たち 「(一連 略) ・一連、四連は「概念」が書かれていて観念的である。それに対して、二連、三連は「デッサン」であり「詩」的である。最後の四連は「観念的」であり、詩を書く時、人はこのように観念的にまとめてしまいがちである。でもそうすると詩としての何の面白みもなくなってしまうのではないか。詩は要らない箇所を削っていく作業が大切である。 ・三連の「美しい」という形容詞は面白くない。ありきたりの表現は使ってはならない。 ・四連はそもそも必要なのかと思う。「概念的」と言う無意味で。せめて三連と四連の入れ替えはしたらよいのではないか。 ・私だったらと考えてみて、このような詩を作ったのだが…。 今年も母の日がきた/町中には同じような歌や言葉がこだまする/私も亡き母を思い、祖母をしのぶ/そしてクスッと笑った/同じ思いを子供に託している/自分に気づいて
〈お母さん この花どう?〉 〈あら こっちかしら〉 唯一無二の花に降り注ぐ真剣な眼差しが いくつも/花たちは緊張したのか 固くなっている/立ち去れない わたし ・これは着想をスケッチ、メモした段階である。どこにポイントを置いて、詩にしていくか考えていく取りかかりになろう。第二連まではこのままに残しても良いと思うのだが…。 ・三連以降は詩でない〈説明言葉〉が目立っている。再考をしていただきたい。 ・客観的相関物を誤解しているかもしれない。「花」は「美しい」ものではないか、という考えが誤解である。 ・花がどんな様子か、どんな香りか、などを描いて読者にイメージを伝えて納得させる、作者独自の表現が、「美しい」に対応する「客観的相関物」である。 ③リセット 「西の水平線から/ぷるっと消える/まるで溺れる人のように/惜別の哀しみよりも/安堵と安らぎ/つゆゆやけが美しい ・いろいろなものを入れ過ぎている。スッキリさせていくことが大切である。 ・四連「傷つけれられたプライド/踏みつけられた名誉/言われのない誹謗中傷の痛み/涙」という表現はありきたりの言葉で興ざめしてしまう。読者に反発を生むだけだ。すっきりと四連はなくて良い。 ・各連の行数がバラバラで散漫な印象を与えている。 ・読者は何を受けとればよいのか。作者の中であまりにもあっさり自己完結、つまりリセット済みなのだから。 ・作者は言葉の巧みな使い手である。ただ言葉の選び方、配置の仕方については、まだまだ学んでいかねばならない。 ・二連で「陸へと船出する」といった表現がある。意味はわかるが、船出という「勢いある表現」と言葉の表現が、必ずしも一致していない。 ・根本的な問題にもつながるのだが、リセットと言う言葉にとらわれすぎているのではないかとも思う。 三人の方への批評会は深い内容を伴ったものとなりました。あっという間に90分間が過ぎてしまいました。講師の先生からは厳しくも温かい忌憚のない助言をいただきました。 ・「概念」と「デッサン」という視点で自分の詩を見つめ直すことか大切であること ・詩の創作活動は、必要のない言葉を削除していく作業が大切であること ・安易な形容詞の使い方はしないこと。ありきたりの言葉での表現は避けること 「概念的、観念的な言葉で、人はまとめようとしてしまいがちである。しかし、その瞬間、詩はつまらないものになってしまう。」という先生方のお言葉は、改めて詩に向き合う心のあるべき姿を教えてくださったような気がしている。猛暑日が続いていることもあり、体調不良で出席が叶わない方も何名かおられました。批評会ではそれらの方の作品を取り上げることはできませんでしたが、先生方に書面にて批評いただいたコメントについては、皆様の元にお送りさせていただきます。 皆さん方の体調が戻られますことを心より祈っております。どうぞ、お身体くれぐれもご自愛くださいませ。 次回、第5回詩入門講座は、10月12日(土)午後3時からで、続けて提出いただいた本作品2の批評と推敲➁になります。たくさんの方々のご出席を心よりお待ちしています。 |
左:井崎 外枝子先生 右:木村 透子先生 |
〇9月14日(土)第5回 小説入門講座
小説作りの基本➁から | |
講師 : 小網 春美(「飢餓祭」同人) 第5回小説入門講座の講師は、小説家の小網春美先生です。小網先生は2023年度、「しずり雪」(能登印刷出版部)にて「泉鏡花記念金沢市民文学賞」を受賞されました。 今回の講義も、長い執筆活動の中から学んでこられた教えからの貴重な学びの連続でした。自分の小説家人生の失敗談を惜しみもなくお伝えいただく講義となりました。 猛暑ゆえ、体調不良の方もおられました。みなさまの体調のご回復を心より祈っております。一部とはなりますが、小網先生の貴重なご講義を紹介します。 1 皆さんの試作小説を拝見し、指導する立場で気づかせていただいたことは? (1)最初の1、2枚で書くべきことは? ➀時代、男女別、年齢、舞台を早めに知らせること。現代であるならば時代について細かく書く必要はない。「スカートの裾が広がった…と書くだけで男女がわかる」 ➁舞台はどこを背景にした小説なのかを早めに知らせること。 (2)推敲で気を付けることは? ・推敲した文章は必ずプリントアウトして必ず確かめ読みをすること。「パソコンの画面を見ている脳とプリントアウトした紙を見ている脳は、それぞれ違うという研究も出ている」との受講生の話もあった。プリントアウトした紙で推敲箇所が出てくるのは確かだ。 2 小説作りの基本で大切にしてほしいことは? (1)オノマトペ(擬音語、擬態語、擬声語)は有効に使うこと △安易に使わずに でも効果的に使うと良い ・背筋がピンと伸びる ・コンコンと扉をたたく △手垢のついた表現は使わないように ・狐がコンコンと… ・うぐいすがホーホケキョと鳴く ※谷崎潤一郎は「ケッキョケッキョ」(うぐいすの鳴き声を)、狐が「シャー」と鳴く、などと表現している。 ※岡本かの子は「鉛筆がペキンと折れて」「キャラキャラ笑う」と表現している。 (2)比喩表現は工夫して書くこと △りんごのような紅いほっぺ(誰もこの後読み進めることはない。ありきたり△) 〇納豆の糸のような雨が…(言い古されていない言葉である) (3)書き出しと結びの大切さ ➀書き出しについて ・最初の1行で小説の善し悪しが決定する。 ・会話文から始めるやり方もある。 ・風景描写から入る小説もある…難しい面がある。 ➁結びについて ・最後1行で小説全てが駄目になることがある。「なぜそれを書いてしまうのか」と。 ・余韻を残して終わることが大切である。 ※ある作家の作品はプツンと終わる。しかし余韻は残る。それが大切。 (4)描写について ・描写とは、骨格を支える肉付けである。 ・心を動かす第一の条件となる。 ・よくできた描写のある小説は、深みが出る。 ・描写がないとやせた小説となる。 ・作者の目を通して感じたものが描写となる。 ・説明が長いと退屈になる。(0%の晴れです…説明、美しく晴れ渡っている…描写) ・「天の声をきく」と書いて逃げないこと→「天の声」は全て「作者の声」である。 (5)人物描写について ・比喩表現が多い。効果的に使うと良い。 (6)主人公設定について ・個性を持たせること 家族構成で人間が変わる。 (7)名前のつけ方について ・名前には個性が出て来る。 ・苗字は普通でも、名前のつけ方はオシャレに。 (8)タイトルについて ・タイトルは作品の顔である。 ・私は「しずり雪」というタイトルをつけた。タイトルで大変に得をしているという思いがしています。 (9)その他について ・奇をてらった小説にならないようにしたい。実力が伴わないのに、奇をてらってはいけない。 ご自身の小説執筆活動をふんだんに取り入れての深い講座となりました。 「個性は必要である。 『新しさ』は個性でもあること、それは奇をてらうとは違うこと」 「小説は数字のない計算である。小説は計算しつくさねばならない」 「私は、ある賞に入賞した時『案外これならたやすいことかも…』と思った時がある。その時から自分は長い間、良き小説が書けなくなってしまった。それからは地道に取り組み続けた。そして今がある」 「五感(視・聴・味・触・嗅)」に訴えた小説を書くことが大切である」 「『本音』と『建前』が混在する屈折した人間性との出会いがある環境は、小説作りにおいて大きなプラスとなる」 小網先生の貴重なご経験から話される講義は大変に深い内容となりました。小網先生、受講生に体当たりで向き合っていただく講義をありがとうございました。心より感謝申し上げます。 次回小説入門講座は、10月12日(土)推敲のポイントで、講師は高山 敏先生です。なお、小説初稿の提出〆切日です。提出いただくようよろしくお願いいたします。 |
〇9月11日(水)出前講座 四十万小学校2年生
金沢の民話を学ぼう | |
講師 : 大西晶子、松本文恵(両名とも金沢おはなしの会) 金沢市立四十万小学校に訪問しました。講師は金沢おはなしの会の大西晶子さん、松本文恵さんによる金沢市の民話の語りをしていただきました。四十万小学校2年生は全員で2クラス58名です。2クラスに分けての学習でした。 石川のわらべ歌、金沢市野田の人から聞いた話、金沢の民話「芋掘り藤五郎」、金沢民話「おおかみを退治したこま犬」などでした。絵本、紙芝居、テレビ等、なしでの民話等の語りでした。四十万小学校では、図書館だよりが定期的に発行され子ども達の読書への意欲を高めています。また、図書館では、金沢市の伝説や民話、地域の作家や偉人の本がきちんと整理されて並んでいます。第1回泉鏡花記念金沢市民文学賞受賞者の「かつおきんや」氏の著作が全集としてずらりと並んでおり、四十万小学校の読書環境の素晴らしさに感心するばかりでした。 そんな素敵な学校での民話の語りです。金沢おはなしの会の松本さん、大西さんという熟練の語り手でしか成し得ない語り手と聞き手の心温まるやりとりがありました。簡単に内容を紹介します。 おはじきうた いちじく にんじん 『石川のわらべ歌』柳原書店 ♪いちじく にんじん♪/♪さんしょう しいたけ♪/♪ごんぼ むかご♪/
♪ななくさ やきいも♪/♪こんぺいとう とうふ♪ さし絵を交えながら「何食べたい?」と聞く大西さん。そしてみんなでもぐもぐもぐと食べるまねをします。そして指折りしながら食べた物の時は声に出さないで唄っていきます。単純な遊び歌ですが、みんなと一緒にすると笑顔満開になります。 素朴なわらべ歌の魅力に引き込まれてしまった四十万小の子ども達がいました。 おはなし とうふやさんのはなし 野田の人から聞いた話 昔、金沢市の野田に伝わる話です。豆腐屋さんがきつねをツンツンつついたことで、不思議なことが起こります。素朴な中に不思議な世界観がある昔のお話に子ども達は興味がつきないようでした。
おはなし いもほり藤五郎 『加賀・能登の民話 第二集』未来社 金沢の民話と言えば、伏見寺に伝わる「芋掘り藤五郎の話」です。長編となりますが、語りのみを聴いて理解しようとしている子ども達がいました。
しりとりうた 赤いもんな 『金沢の口承伝承 補遺編』金沢市教育委員会 ♪あかいもんな ホーズキー/♪ホーズキーは なるもん
♪なるもんな なんじゃ /♪なるもんな おなら/♪おならは くさい ♪くさいもんな ウンコ /♪ウンコは やわらかい ♪やわらかいもんな とうふ /♪とうふは 白い ♪白いもんな うさぎ /♪うさぎは とぶもん ♪とぶもんな のみ /♪のみは 赤い 延々と続くしりとり唄です。だんだんとスピードをあげていく松本さんの歌声に合わせて子ども達は盛り上がっていきます。独特のリズム感がどこか懐かしい感じがします。子ども達は友達と顔を見合わせながら笑顔いっぱいでした。 おはなし 四十雀カラカラカラ 『金沢の口承伝承 補遺編』金沢市教育委員会 ♪四十雀 カラ カラ カラ♪の歌声とお話は、独特の拍子であり、お話の世界にすうっと子ども達を誘うものでした。昔の子ども達、現代の子ども達も大好きな「おならの話」「糞の話」などを「唄と話」に表現したもので、子ども達は歌声を聴きながら自然と体を動かして楽しんでいました。その独特の節回しが子ども達の心をとらえて離さないようでした。
おはなし おおかみを退治したこま犬 『金沢の民話と伝説』金沢市教育委員会 これは金沢市の伝燈寺に伝わるお話です。詳細については、以前のブログにも載せていますので、ご覧いただき、一読いただけたらと思います。
最初、「オオカミに勝てるわけがない」と語っていた子ども達は、こま犬の勇ましい戦いぶりに手に汗を握らんばかりでした。最後の場面では、どちらのクラスも語りの世界にすっかり浸って楽しんでいる子ども達がいました。凄い集中力でした。 語りの学習は、近頃、どこの学校でもなかなか成立しにくくなっているのを感じます。自分の耳で聴いた情報を自分の頭で映像化して楽しんでいくということが少なくなっているのかもしれません。タブレットを操作したら、金沢民話もユーチューブで簡単に見ることができます。映像はアニメ等で流れますし、音声も一律に同じものが流れて来て、子ども達はそれを鑑賞して学ぶことができます。安易さは便利であり、反面、子ども達の読みの力を高めていない場面も多いです。 そんな子ども達にとって、語りで昔話を聴いていくというのは難しいことです。しかし、四十万小学校の2年生の皆さんは、だんだんと「聴く」熱気が高まっていくのを肌で感じました。一生懸命に聞いてくれてありがとうございました。 素晴らしい語り手は、時と共に子ども達の息を呑むような静けさある集中力を引き出していました。素晴らしい変化が目に見える一時間でした。 元気いっぱいな四十万小のみなさん、そしてみなさんを心から愛している先生方と、またお会いできるのを楽しみにしています。みなさんの健やかな成長を心から祈っています。 次回の出前講座は、10月23日(水)大浦小学校1年生です。お話の読み聞かせで、講師は吉國先生です。楽しみにしていてくださいね。 |
〇9月8日(日)第5回 朗読会『青春の門 自立編 後半部』
□秋の誘惑と織江の失踪 |
|
朗読: 髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表) 緒方と信介は、緒方の苦しかった地方工作の話、信介の取り組むボクシング、カオルと織江のことなど、過去、現在、将来のことについて、いろいろと語り合いました。 ある日、カオルからマッサージを頼まれた信介です。カオルはちょっとしたいたずら心で信介を誘惑していきます。しかし、そんな場面を織江に見られてしまいます。織江は、カオルの家から飛び出してしまいます。後悔するカオルと信介ですが、そんな中、カオルは「伊吹くんは織江ちゃんのこと、本当は愛していないのではないの?」と信介に話をするのでした。 一方、石井講師にまで話が及びました。信介は石井講師に「石井さん、カオルと一度会ってみてはどうか」と促すのでした。 (「秋の誘惑」「織江の失踪」)
* * * * 朗読会が終わり髙輪さんからこんな話がありました。 「朗読とは、それを聞いて自分の頭でイメージをふくらませていくものです。もちろん演劇も素晴らしいものです。演劇はビジュアルが入っていて、そこからイメージを膨らませていくことができます。でも朗読にはビジュアルがありません。ビジュアルと言っても、せいぜい朗読者の着ている着物や洋服などでしょうか。あとは何もないのです」 「朗読では、聞き手は、朗読により、頭の中で作品のイメージを膨らませて、心の中に一人一人の『舞台』ができあがります。一人一人の心の中に『一人一人違った朗読舞台』が生まれてくるのです。素晴らしいことです。そんなことを信じて、私は今も「朗読の道」を歩んでいるのです。」 何気ない言葉ですが、何と含蓄深い言葉なのでしょうか。現在、金沢市では様々な優れた朗読家による素晴らしき「朗読芸術」が存在しています。そんな中で髙輪さんの朗読は、過度な演出をあえて拒み、作家の思いを大切にし、作品世界そのものを一人一人の心の中に「朗読舞台」として創り出していく芸術を目指しておられます。もちろん、無機質な朗読ではそれは成し得ません。かといって過度な演出では一人一人の心の中に「朗読舞台」はけっして創造されません。うまく言えませんが「作品世界と正面から凛と向き合い、読みに純粋な想いを託した朗読」こそ、それを成し得るのでしょうか。 髙輪眞知子さんの朗読会に参加することは、そんな己の「朗読舞台」を体感する貴重な機会となるのでしょう。 さて、次回の第6回朗読会「青春の門 第二部自立篇 後半部(「秋雨の夜の事件」「いざ去りめやも」は、10月13日(日)午後2時からとなります。きっと過ごしやすい気候になっていることと思います。皆様、お誘いあわせいただき、お越し下さいますようお待ち申し上げております。 |
〇9月5日(木)出前講座 大野町小学校1年生
ことばであそぼう五 七 五 | |
講師 : 竪畑 政行 (石川県児童文化協会 理事長) 金沢市立大野町小学校に訪問しました。1年生1クラスに21名の出前講座を実施しました。学習内容は「ことばであそぼう五七五」で、初めての俳句の学習となります。講師は石川県児童文化協会理事長の竪畑 政行(たてはた まさゆき)先生です。それでは学習内容の一部を紹介します。 はいくの学習から (1)ことばあそびをしましょう。 〇「体の中に音が一つだけのことばを見つけよう」
・一音…て、め、は
※「はな?みんなで考えてみよう」「手拍子をして数えると……二音だね」 ・二音…くち、はな・三音…あたま ・四音…かみのけ ※竪畑先生が作ってきてくださったワークシートに指を折りながら何音かを自然と数えだす子ども達がいました。 〇「教室のもので、何音かみつけてプリントにかいてみよう」 ・二音…いす、どあ、ほん、まど、かご
・三音…でんき、とけい、がらす、つくえ、テレビ、ボール ・四音…こくばん、すいとう、テーブル、えんぴつ、はりがみ、ごみばこ ・五音…せんぷうき、ランドセル ・一音…と ※自然と子ども達が出すことばの中で、「テーブル」「ボール」などの言葉をゆびおり数える中で、「音」の数を自然に体得していきました。 〇「次のことばの音はいくつかな?」 ・キャラメル? ・チョコレート? ※子ども達同士で指折り数えながら、キャラメルは四音、チョコレートは五音であることを学んでいく子ども達でした。音と文字の数は違うことを体感して学んでいきました。 〇□に五音のことばをいれよう ➀□□□□□あさいちばんにらっぱふく 「ヒントは花だよ」というアドバイスに反応して「あさがお」が出てきました。
※大型テレビにはきれいな朝顔の花の画像が映し出されました。「『あさがお』だと四音だよ。五音じゃないよ。五音にするためには…」「『あさがおは』とするといいね」などの声が自然に出てきました。 ➁まだねむいわたしをおこす□□□□□ではどうかな?※夏の季節に関係する虫ということで、出てきたのが「せみ」です。「このままだと二音にしかならないよ」そして出てきたことばが次のものです。 ※せみがなく せみの声 という二つの言葉が生まれてきました。 ➂せのたかいあのひまわりは□□□□□(ヒント・背が高いのは子ども?)※五音のことば、そして次に七音のことばを入れていきました。 ④こいのぼり□□□□□□□およいでる⑤ひまわりが□□□□□□□ひらいてる どんな課題も意欲的に真剣に取り組む子ども達の姿がありました。最後に竪畑先生から「五音、七音、五音でできているのを『はいく』と言うんだよ」とのまとめがありました。 大野町小学校の子ども達は、素直で屈託がなく、挨拶も素敵でした。また勉強中は友を大切にして自分の意見を人に伝えていく子ども達でした。俳句ということばを全く知らない子ども達は竪畑先生の学びを通して、心から楽しく俳句への道を一歩踏み出しました。 竪畑先生は 「俳句の学習では、何をどう指導していけばよいのかを迷います。どうしたら楽しく俳句を学んでいけるのか。それを何度も、そして時間をかけて考えていきます。でもそうすることがとても大切なことだと思います」と語られました。 今後とも、大野町小学校の皆さんが俳句創作活動等の文芸文化に興味を持って俳句に取り組んでくれることを心より願っています。竪畑先生、そして大野町小学校の子ども達そして校長先生はじめ、先生方、ありがとうございました。 |
〇8月28日(水)出前講座 玄門寺幼稚園 年長児
おはなしの会を楽しもう | |
講師 : 沢崎 知子 (さわさき ともこ)(金沢おはなしの会) 志村 由紀子(しむら ゆきこ) (金沢おはなしの会) 東山・卯辰山寺院群にある玄門寺幼稚園を訪問しました。浄土宗の本寺には、金沢4大仏として有名な「阿弥陀如来立像」があります。大きな光背のついた、煌びやかな寄木造の1丈6尺の黄金に輝く大仏です。園長先生のお話では「阿弥陀如来様は東側から西を向いて立っておられて、堂内に西日が入ると目の眼が紅く光るようになっています」と教えて下さいました。また、天井には迫力ある龍図があります。円山応挙に学んだ仙台藩御用絵師の東東洋(あずまとうよう)により描かれたものです。そんな由緒あるお寺で学ぶ健やかな年長児47名です。2組に分けて2人の先生で読み聞かせしていただきました。 講師は金沢おはなし会の沢崎知子さんと志村由紀子さんです。 ◆プログラムA【沢崎知子さん】 ①わらべ歌 うちのうらのくろねこが ②おはなし くまさんのおでかけ ③絵本 さんぽにいったバナナ ④絵本 どうぶつたちのおひっこし ⑤絵本 どこからきたの ⑥わらべうた おてぶしてぶし ⑦おはなし ホットケーキ ◆プログラムB【志村由紀子さん】 ①詩 めのまどあけろ 同名絵本 谷川俊太郎 福音館書店 ②わらべうた カクカクカクレンボ ③絵本 どうぶつサーカス始まるよ 西村敏雄 福音館書店 ④絵本 まほうのコップ 藤田千枝 原案 川島敏生 写真 長谷川摂子 文 福音館書店 ⑤わらべうた やなぎのしたには ⑥おはなし ひなどりとネコ「子どもに聞かせる世界の民話」 ⑦おはなし ホットケーキ おはなしのろうそく 愛蔵版「ホットケーキ」 ⑧わらべうた さよならあんころもち ●プログラムから一部紹介します。 〇わらべ歌 「うちのうらのクロネコが」 ♪うちのうらのくろねこが ♪おしろいつけて
♪べにつけて ♪人にみられてちょいとかく ♪ ※子ども達は最初から可愛く飛び出るくろねこに興味津々です。飛び出るごとに大歓声が湧きおこります。楽しい読み聞かせの会のスタートとなりました。 〇絵本 「さんぽにいったバナナ」 ある日バナナは、ヒョウのふりをして散歩にでかけました。そこへヒョウ好きのおじさんがやってきて捕まえようとします。ヒョウは走って逃げますが、本当はバナナなので速く走れません。「あぶなーい!」。ヒョウは捕まってしまうのでしょうか?ヒョウとおじさんの追走劇の始まりです。
※子ども達は、沢崎さんの優しくもしっとりとした読み聞かせの言葉一つ一つに敏感に反応して、心から楽しんでいました。友達同士で顔を見つめ合い微笑んだり、先生と顔を見合わせてうなずいたり、時には前のめりになって息を呑んだりと、心から読み聞かせを楽しんでいる素晴らしき姿がありました。 〇童歌「やなぎのしたには」 ♫柳の下には/おばけが う、う
♫おばけのあとからおけやさんが/おけ、おけ ♫おれやさんのあとから/おまわりさんがえっへんぷ ♫おまわりさんのあとから/いたずらぼうずがじゃんけんぽん ※子ども達は、手遊び唄を楽しく演じていきます。最後のじゃんけんでは最高に盛り上がり大歓声です。すごいと感じたのは愉しい空間をみんなで共有していることでした。じゃんけんの勝敗にけっしてこだわらず。勝っても負けてもみんなで顔を見合わせて、幸せな空気感を心から楽しんでいることに感心するばかりでした。 〇おはなし「ホットケーキ」 ノルウェーの昔話です。お母さんは7人に子どもとお父さんのために焼いた1枚のホットケーキがありました。みんなが食べたくてじっと見るのでホットケーキは、こわくなり、フライパンからはねて逃げ出します。みんなが追いかけるのを振り切って転がっていると男の人(オジサン ポジサン)、雌鶏(メンドリ ペンドリ)、雄鶏(オンドリ ゴンドリ)、あひる(アーヒル ガービル)、鵞鳥(ガッチョ ブッチョ)、鴨(カモカモ ガモガモ)が食べたがります。またまた逃げ出すと今度は豚に会います。さて、豚はどうしたのでしょうか。
※「そのお母さんは7人の子ども達がいました」から始まったお話です。もうこの言葉で子ども達は「うわあー」「えーすごい」「7人も!」との歓声から始まりました。そして「オジサン ポジサン」と語るだけで子ども達は大笑いです。語感に素直に反応して楽しむ子ども達。いろいろな動物と出会う様子を楽しむ子ども達。最後の衝撃的な場面では、息を呑んで静まり返る子ども達。はじめから終わりまで読み聞かせを心から楽しんでいる素晴らしい子ども達がいました。 金沢お話の会の沢崎さん、志村さんは、友達想いの優しく瑞々しい感性を持つ、そしてとてもよく聴く力と心を持った子ども達に感心しきりでした。 金沢おはなしの会の沢崎さん、志村さん、素敵な読み聞かせをいただきました。ありがとうございました。また、玄門寺幼稚園の園長さんはじめ、先生方、園児の皆さん、素敵な出会いをありがとうございました。 今後も玄門寺幼稚園の子ども達の健やかな成長を心から願っています。暑い日が続いています。体にはくれぐれも気を付けてくださいね。 |
〇8月22日(木) のまりんの紙芝居劇場 | |
演じ手 : 野間 成之(のま しげゆき)氏 のまりん : のまひょうしぎの会代表 今回、まことこども園、清泉幼稚園の方々を対象に、のまりんの紙芝居劇場を楽しんでもらいました。 演目は、次の通りです。 ・ひよこのろくちゃん ・りゅうぐうのくろねこ ・まんまるまんまといがいがい ・さるじぞう 拍子木をマイクにして、のまりんの歌声と踊りで始まった「紙芝居劇場」。「ようこそここへ♪クッククック…♪私はのまりんだ♩」最初の一声で、会場はもう笑い声いっぱいです。拍子木が「鬼の角」代わりになっていろいろと変化していく様にもう子ども達は紙芝居が始まる前からのまりんの世界に引き込まれていきました。 のまりんの紙芝居の様子を紹介します。 〇ひよこのろくちゃん (かこさとし:脚本/瀬名恵子:絵 童心社) ・いたずら好きの六羽のひよこたちがお散歩をしています。六羽目のろくちゃんが黒猫のしっぽをつついてしまって黒猫を怒らせてしまいます。さあ、大変です。黒猫はろくちゃんを食べてしまおうとします。お母さんひよこは命賭けでろくちゃんを助けようとします。「かこさとし:作 瀬名恵子:絵」という素晴らしいコンビの紙芝居です。 ※手に汗を握るお話に子ども達はドキドキです。瀬名恵子さんの黒猫の顔は迫力満点で凄みもあるのに愛らしさもあるのです。不思議です。のまりんの紙芝居は迫力満点なのに、爽やかな愛らしさが後に残っていくのです。のまりんにしかできない紙芝居の世界にうんと引き込まれていく子ども達でした。 〇りゅうぐうのくろねこ (イ・スジン/脚本・絵 童心社) ・むかし、ヤイという女の人がいました。木を売るのが仕事でしたが、毎日あまり売れません。ヤイは、だれかの役に立つことをねがい、のこった木を海辺へおいていきました。すると数日後、目の前に魚があらわれました。竜宮に招待されたヤイは、不思議な黒猫をもらいます。なんと五粒の小豆を毎日食べさせると金の粒を五粒おしりから出すのでした。韓国の話で、竜宮にいるのが黒猫?海の猫が小豆を好き?竜宮城が蜜柑の木の始まり?など、不思議いっぱいのお話でした。 ※韓国の話ということで、日本の話ではあり得ないことが次々と起こり、子ども達は驚きの連続でした。意外性のある話に目を白黒させて聴いている子ども達がいました。 〇まんまるまんまいがいがい (荒木文子:脚本/久住卓也:絵) ・ちびっこにんじゃのまんまるは修行中です。和尚さんにあんころもちを届けにお寺へ行くと、なんだか様子が変です。中にいたのはとがったものが大好きな「いがいがい」です。まんまるの手裏剣も効きません。どうしたら和尚さんを助けられるのでしょう。 ※かけ声に合わせて、子ども達がまんまると力を合わせて、いがいがいに立ち向かっていきます。もう声を出したり、手裏剣を投げる動作を入れたりと大喜びです。『まんまるまんま たんたかたん』のシリーズの最新版とのことです。 〇さるじぞう ・おじいさんの弁当をみんなで楽しく食べてしまったおさるさんたちです。おじいさんをお地蔵様と間違えたおさるさんたち。川向こうのお堂へおまつりしようと「♪さるのおしりはぬらしても、じぞうのおしりはぬらすなよ♪」と、はやし唄を歌いながらおじいさんを抱えて川を渡って行きます……。 ※のまりんの楽しい歌声と豊かな表情に子ども達は大笑いです。働き者のおじいさんと欲張りなおじいさんが登場する昔話ですが、紙芝居の世界にすっかり引き込まれていく子ども達がいました。 ある方が「私の娘はのまりんの教え子でした。娘の教室は数々の紙芝居や絵本に溢れていました。いつも教室は夢の世界のようでした」と言われました。現在、全国的には「スイッチ一つでお話がパソコンから流れてきて一時間それを子どもたちは見ている」との話が出ていました。 のまりんは何も語られませんでしたが、私達はいろいろと考えさせられました。動く映像にプロの語り手による読み聞かせです。そして動かない絵(子どもの心の中で動くのですが)と一期一会の出会いで語られる紙芝居でののまりんです。のまりんは絶えず聞き手の反応を見ながら千変万化で話の調子を変えられますし、時には演目自体も予定と変えてしまわれることもあります。 読み手と聞き手の見えない糸での愛情あふれたやりとりがなされていきます。何かそんなことが大切なことのように感じられて仕方がありませんでした。 以前、「ちいちゃんのかげおくり」を子ども達に読み聞かせされると、声を詰まらせて読み進めることができなくなる先生と出会ったことがあります。ぽろぽろと涙を流されていつも読めなくなってしまう。でもそんな沈黙の中で、一生懸命に読んで下さる先生のお声にかけがえのない大切な心を学んできたような気がしてなりません。 のまりんの紙芝居劇場には、スイッチ一つで映像が流れていく時間にはない、人としてかけがえのない大切な心が息づいているような気がしてなりませんでした。 のまりん、そして園児はじめ集っていただいた子ども達と先生方には、貴重な時をいただきました。ありがとうございました。 |
〇8月17日(土)第4回 小説講座 ~小説を読む①~
短編小説の魅力について |
|
講師 : 皆川 有子(『櫻坂』同人) 第4回小説講座が開催されました。講師は文学誌『櫻坂』同人 皆川 有子(みながわ ゆうこ)先生です。テーマは「小説を読む①」についてです。 本日は、受講生が「おらおらでひとりいぐも」若竹千佐子・著(河出文庫)の本を手にして講座が行われました。講座の一部を紹介します。 【話のあらすじ】 24歳の時、故郷を飛び出した桃子さん。住み込みのバイト、周造との出会いと結婚、2児を必死に育てた日々、そして夫の突然の死-。70代、今は独り茶を啜る桃子さんに突然ふるさとの懐かしい言葉で、内なる声たちがジャズセッションのように湧いてくる。おらはちゃんと生ぎだべか?悲しみの果て、辿り着いた自由と賑やかな孤独。全ての人に生きる意味を問う小説である。
◆若竹千佐子さんの小説の優れたところは? ※皆川先生と受講生から ・冒頭部の鮮烈が見事。東北弁のリズミカルな言葉での考え抜かれた出だしがある。 ・「あいやぁ、おらの頭(あだま)このごろ、なんぼがおがしくなってきたんでねべがどうすっぺぇ、この先ひとりで、何如にすべがぁ/何如にもかじょにもしかたがながっぺぇ/だいじょぶだ、…(略)…/あいやぁ、そういうおめは誰なのよ/決まってっぺだら。おらだば、おめだ。おめだば、おらだ」 ⇒東北弁のリズミカルナ表現が見事。そして地の文は標準語となっている。「おらだば、おめだ。おめだば、おらだ」はこの小説の主題と私は感じた。 ・部屋の中の描写のきめ細かさ。その効果はあまりにも大きい。 ・「庭に面した南面は障子で…(略)…隣に干し柿が四連ぶらさがり、その向こうに荒縄で括られた荒巻鮭が半身、バランスを失って風もないのに揺れている。…(略)…お茶請けの塩せんべいを載せるスペースはなんとか確保したらしいという態で…」 ⇒長い部屋の描写は粘り強く印象的である。荒巻鮭、飲み差しの一升瓶など、今の主人公の置かれている状況を知ってもらうイントロとなっている。 ・表現力が素晴らしい。音が効果的に入る。 ・「ズズ、ズズ、カシャカシャ、カシャカシャ、/ズズ、カシャ、ズズ、カシャ、ズズカシャ、ズズカシャ……」 ⇒こんな描写の巧みさから読者の疑問が湧いてくる。その疑問が読者の「読みたい」という推進力を生んでいく。効果的な音は素晴らしい表現と言える。 ・分析的な表現が効果を高めている。 ・「そもそもおらにとって東北弁とは何なんだべ、別の誰かが問う。そこにしずしずと言ってみれば人穏やかな老婦人のごとき柔毛突起が現れ、さも教え諭すという口ぶりで、東北弁とは、といった口ごもりそれから案外すらすらと、東北弁とは最古層のおらそのものである。もしくは最古層のおらを汲み上げるストローのごときものである。と言う」 ⇒最古層のおらそのもの、最古層のおらを汲み上げるストローのごときもの…というような独特の分析的表現が光っている。随所にこのような光る表現が散りばめられている。 他、いろいろな表現の仕方について、芥川賞受賞作品「若竹千佐子」さんの作品について優れた点を意見交換をしていきました。 また、今回の講座について皆川先生は、こんなお話をしておいでました。 『芥川賞受賞した本作品は、現在、コンビニエンスストアでも売られている大ベストセラーとなりました。こんな現象は芥川賞文学書を受賞された作品には、なかなかない素晴らしい出来事です。それだけ老若男女に読まれた作品であると言えます。 次回、第5回小説講座は、9月21日(土)小説を読む②です。開始時刻、受講場所は 変更となり、次回は14時からのスタートとなります。場所は、1階となります。宮嶌先生による「スローリーディング」となります。 『「その日の前に」 著・重松 清 文春文庫』を読んでくることが宿題となります。ぜひ本をご一読・持参いただき、心残る場面、印象的な場面等を言えるよう準備等、よろしくお願いいたします。 |
〇8月17日(土)第3回 短歌入門講座
「歌会を楽しもう」 ~言葉と心のあやとり~ |
|
講師 : 栂 満智子(短歌雑誌「新雪」編集長) 第3回短歌入門講座は「歌会を楽しもう~言葉と心のあやとり~」です。講師は栂 満智子先生(「新雪」編集長)です。第3回講座内容の一部をお伝えします。 【自由題】 〇山城跡登って行けば息荒く うぐいすの声謙信想う ・現在、以前放映されていた「天地人」を見ているが、山の険しさと、その中でホッとするうぐいすの声。それがよく伝わる歌である。謙信もうぐいすの声を聞いていたとの表現は趣深い。 ・「山城」は固有名詞(春日城)が相応しいのではないかとの意見も出たが、このままでも良いのではないかとの意見に落ち着いてきた。4人の方が「心に残る」と推薦された。 ・とても素敵な歌であり、連作にすることでより伝わっていくものとなろう。 〇吸い慣れぬ たばこくゆらし坐り居て なにもせぬまま 旅を味わう ・想像したのだけれど会いたい人がいて、その人がタバコ好きな人でその人のことを想い、この歌を作ったのではないかと思います。私が好きな歌です。 ・啄木は三行歌を作ったりしていますが、この歌は、間を空けずに流れるように読んでも良いかと思います。 ・旅行中の気分が「ぬ」によく表れている。 ・「坐り」なので外だと思われる。中だと「座り」となろう。そこまで意識して作られた短歌となっている。 ・実際作られた方は、パリのドミトリーで作られたとのこと。短歌初心者であるが、4人の方々の推薦を受けていて素晴らしい。 〇遠回りのバス豪雨徐行の電車にと金沢文芸館遠くもあるかな ・歌に対する情熱が表現されている。「行きたい」という気持ちが表れている。 ・説明が多くて、ともすると内容が相手に通じにくいものとなっている。 ・「七尾線豪雨で徐行文芸館は遠くもあるかな」とするのも一つの方法ではないか。 ・私も歌に対する想いの強さをこの短歌から感じました。すごいです。 〇集まりて歌詠む我らを磨硝子ごしに青条揚羽(あおすじあげは)覗きぬ ・色彩感覚が素晴らしい。瑠璃色、黒字に青が映えている。 ・色の対比が素敵である。色の強さが映えている。目線が面白い。 ・磨硝子越しに青条揚羽が見えているのはちょっと無理があるような気がしてします。「磨硝子ごしに」ではなく「窓越しに」ぐらいがちょうどいいかなと言う気持ちになる。 ・前回の講座、金沢文芸館で実際にあった出来事を短歌にしたためたものである。作者の正直な感想を聞いて、受講生同士でうなずき感心し合う会となりました。 〇品のある金沢らしさも守りたく 道をゆづれば和むビジター ・金沢の人はこんなことを思って行動されている方もおいでることに感動しました。 ・本当に素敵なシーンだなあと思ってしまいました。 ・「和む」とあるが、ビジターが和んでいるかどうかはわからないことなので「微笑む旅人」あたりにしてはどうか。 〇善良なぼくに踏まれる蟻がいて砂のにおいの八月が逝く ・5人の方からの推薦があった。 ・蟻に対して、足をずらしている作者の優しい気持ちが表現されている。 ・「逝く」という表現の奥深さが実によく表現されている。8月というのはいろいろな意味で「逝く」が話題にのぼる月であろう。どうしてこの言葉を使っているのかを考えていくことで、読み手が各自、自由な心で感じ入ることができる。 ・物語性を感じる。 〇み社(やしろ)の 山の祭りは野に移り おもかげ揺らす 幟(のぼり) さるぼぼ ・伝統的な「聖」を表せている。4人の方が推薦されていた。 ・幟、さるぼぼ は具体的なもの。『幟 さるぼぼ おもかげ揺らす』としてはどうか。 ・懐かしさがよく出ている。時の流れを感じる歌であり、過去を想像しているのがわかる。 〇テレビより 昭和の歌が 流れおり すこやかなるか 若き日の友 ・中学の時の御三家を思い出しながら、胸がいっぱいになる。 ・素直な良き歌である。昭和の歌の懐かしさ、元の友達への共感が表れている。 ・「すこやかなるか」「すこやかなるや」のどちらが適しているかと話し合いになる。「か」だと強いイメージ、「や」だと優しいイメージとなる。 ・ただ「や」だと反語的な意味合いが出て来るので、このままの「か」が良いのではないかということに落ち着く。 ・短歌は人のものでもいったん手放せば、自分に引き寄せられるものである。 【題詠 とんぼ・蜻蛉】 空びっしり とんぼ とんぼ 幸せとも知らぬあのころ 秋 運動会
初蜻蛉初女郎花初尾花 早くはないか季節はまだ梅雨 猛暑日の小暗がり飛ぶ黒とんぼパリから柔道の詩破れたりと 羽黒トンボ 水辺に寄りて 羽休め 蝶の如くに ひらひらと去りぬ 大和なる豊かなる地を国見せば つがふ秋津のまろきが如し 赤とんぼ この指とまれ競い合う 5歳の子どもと初老の私 峨眉山の頂蜻蛉ひとつ座し闇に轟く崩落を見る ぐるぐるの目眩(くらま)しなど効かぬわと指すり抜ける蜻蛉賢し 【歌会を楽しもう】 他、栂先生からプリントを使用した講義がありました。一部紹介いたします。 〇歌会で他の人の意見を聞いてみましょう。 〇歌に向かい、あやとりするように。 〇歌の種を探す。感動を見つける。 心を言葉にする➡言葉を文字にする➡文字にして書いた歌は残る➡読み返したとき、その時の情景や気持ちが甦る➡再び感動
🌸日々の暮らしにときめきを!!歌のある充実した日々をお過ごしください。 最終講座となりましたが、短歌を愛する方々による歌会が行われ、人を慈しみ大切に想う空気に満たされた素晴らしき時となりました。 栂先生に、そして受講生同士に、別れを惜しむように散会となった短歌入門講座でした。これも講師の栂満智子先生のご指導があればこそでしたし、一緒に講座を創り上げた受講生の皆さん方が、心ときめかせて参加いただいたからこそと思いました。 途中でもいただいたご意見、感想、そしてアンケートを拝読させていただき、来年度の運用に活かしてまいります。 栂先生、そして受講生の皆さん、本当にありがとうございました。 |
〇8月10日(土)第3回 詩入門講座 詩というもの2(詩を味わう)
詩を味わう |
|
出演 : 和田 康一郎(金城大学講師) 今回の講座は和田康一郎先生の講義です。いろいろな詩を紹介していただきながら詩作のコツ、ポイントを丁寧に解説いただきました。抜粋して紹介します。 ☆理解目標 ➀ 斬新な視点に立つ。 ➁ 作品を読んで構成の工夫に気づく。 ※ 今回は、現代詩人の「樹木」を描いた作品も紹介していく。 (試作詩のテーマ「樹木」でした) 〇作品から 岩手山 宮沢 賢治 そらの散乱反射のなかに 古ぼけて黒くえぐるもの ひかりの微塵系列の底に きたなくしろく澱むもの ・「古ぼけて黒くえぐるもの」で、ふもとから「黒くとがった山の姿」を見上げているのがわかる。岩手山の偉大な姿が目に見えるようである。また「ひかりの微塵系列の底に」で山を底として、山を見下ろしているのがわかる。そして「きたなくしろく澱むもの」が山であると表現している。 Enfance finie 三好 達治 海の遠くに島が……雨に椿の花が堕ちた。鳥籠に春が、春が鳥のゐない鳥籠に。
約束はみんな壊れたね。 海には雲が、ね、雲には地球が、映つてゐるね。 空には階段があるね。 今日記憶の旗が落ちて、大きな川のやうに、私は人と訣れよう。床に足跡が、足跡に微かな塵が……、ああ哀れな私よ。 僕は、さあ僕よ、僕は遠い旅に出ようね。 ・題名は「失われた幼年時代」となるか。6連構成である。海の情景を表している。3連では実際とは違う風景が描かれている。 ・5連の「私」は幼年時代の自分ではないのかと。 ・6連では、幼年時代の幼い自分に別れを告げていると思われる。 ・構成の工夫が見える詩となっている。 一部の紹介となりましたが、他にも次の詩が紹介されました。 ・枝の出産 大岡 信
・きみと話がしたいのだ 田村 隆一 ・柵のむこう 高橋 睦郎 ・みぞれのする小さな町 田中 冬ニ ・はじめてのものに 立原 道造 ・シグナルのやうに 安西 均 ・鏡の魔性 ―あるいは空疎について― 水芦 光子 「斬新な視点」「構成の工夫」において、様々な詩を準備し、的確な解説をいただきました。受講生からは「自分たちの知らない様々な詩を紹介いただけるのは本当に素敵で幸せなことだと思います。和田先生、ありがとうございました」との言葉もありました。 和田先生の講義は、広い視野から受講生に様々な詩を紹介して下さり、鑑賞する過程で様々な優れた作家の詩を学ぶことができます。なかなか自分たちだけでは探し得ない詩を紹介していただき、深まりある学習となりました。 受講生の今後の創作意欲にもつながる貴重な講座となりました。和田先生、ありがとうございました。 次回は、9月14日(土)第4回詩入門講座で、実作➀(8月10日(土)〆切日)の批評と推敲です。講師は井崎先生、木村先生です。みなさまの詩の実作➀に対して、お二人の先生方から指導をいただき、受講生同士で感想交流ができたらと思います。 なお、9月14日(土)は実作➁の提出〆切日です。第5回詩入門講座10月12日(土)は、実作➁の批評と推敲の会になりますので、よろしくお願いします。 |
〇8月10日(土)第4回 小説入門講座 ~試作小説の批評と推敲~
試作小説の批評 |
|
講師 : 高山 敏 (『北陸文学』同人) 小網 春美(『飢餓祭』同人) 第4回小説入門講座は、試作小説の批評と推敲です。講師は、高山 敏先生(『北陸文学』同人)、小網 春美先生(『飢餓祭』同人)です。14名の受講生のうち、11名の作品提出がありました。他、2名も作品提出は叶いませんでしたが、他の方の批評を聞いて学びたいとのことで、参加いただきました。 では、作品の題名、内容は?(◆)、批評は?(★)としています。 テーマは「坂」です。どうぞ、ご覧ください。 1 受講生の試作小説から(題名、内容は?(◆)、批評は?(★)) ➀坂の上の雲 ◆県外の大学を卒業して就職した企業を辞めて地元に戻って来た雄太。希望を持っていたことさえ定かではない現在。そんな時、見つけた一冊の本が「坂の上の雲」であった。雄太は、夢見ていたであろう「坂の上の雲の先には何があったのか」「坂の上の雲までたどり着いたのか」と自問自答していく。朝日を見ることができるビューポイントまで来た雄太の思いはどうであったのか? ★批評から・「坂道を歩いていると、なぜこの道を選んだのだろうと後悔することがある」といった書き出しが上手い。「途中で疲れて足が動かなかったり…」といった心象風景が見事で、人の心の有情を表現している。 ・「重くだるいからだを起こしてよろよろと立ち上がると、カーテンの向こうの世界は…」ここでは作者はうっかりミスをしている。「カーテンを開けると向こうの世界は…」が正しい表記ではないか。 ②坂の上の栗の木の下で ◆坂の上の栗のお話。母の生家の義姉が亡くなり、沙耶は葬儀屋との打ち合わせをする役目を担う。生家で残された息子「辰也」とたわいもない話をしていくが、辰也は「栗の木の下に小さな石碑を置いて母ちゃんの骨を入れてあげたいこと、自分もいずれその栗の木の下で眠れたらいい」と語る。坂の上の栗の木の話をまじえて何気ない日常が展開していく小説である。 ★批評から・まずは題名「坂の上の栗の木の下で」は「の」の使い過ぎ。2つまでにしてほしい。本小説は「栗の木の下で」でもよいのではないか。 ・最終で「『わしの夢なんやけど。……わしもいずれその栗の木の下で眠れたらいいな。叶うか叶わないかわからん夢やけどな』沙耶も頭の中で栗の木の下に立って遠くの海を見渡した」とある。ここは、もっともっと情景を入れて欲しい。そして坂を強調してほしいところだ。 ・読者は利口である。語り過ぎると興ざめしてしまう。「途中スーパーに立ち寄り紙コップとペットボトルのお茶を数本買って母から聞いた葬儀場に向かった」では、「母から聞いた」などは削除すべきだ。説明しすぎだ。 ③短大の階段 ◆短大で生活している伸子たちの何気ない一コマだ。高台にある短大には、車が通ることができるくねくね曲がった道と一直線に短大まで続いている階段で上り下りできる道がある。何の気なしに友達二人と階段で降りることになった伸子たちである。そんな学生時代の切り取った何気ない出来事を語った小説である。 ★批評から・良い感性を持っている。でも物足りない。フィクションなのだからドラマが必要だ。「前を見ると、二人は楽しそうに話しながらどんどん下りている。……足を踏み外すと、下まで落ちていきそうで恐かった。……この階段がどこまでも続き、終わりがないように感じるくらい、下りても下りても……」と書いているのであるから、人生になぞらえて日頃の辛さを書いていったり、人生の矛盾点を浮き彫りにしたりしていくと良い。 ④ガンの坂道は遠く ◆35歳になって初めて受けた胃がん検診。大丈夫と高を括っていたのだが、結果は要精密検査となった。本小説では、その胃カメラ検査での様子が詳細に記されている。 ★批評から・まず題名の意味が読者にはわからない。 ・胃がん検診の結果が書かれていない。ここからドラマが始まるはずなのに肝心な部分が書かれていない。胃がん検診の様子が詳しく書かれているのだが、そうではなく「自分の生と死を見つめる」そこを書かなきゃ小説ではない。 ・「舌先と喉で重く痺れたようなものが勧告して入り」の箇所が尻切れ蜻蛉になっている。この箇所の「勧告」という表現は適していない。 ⑤坂 ◆坂の上に立っていて学力面においてもトップクラスの高校に入学している主人公。しかし、高校に入ってからはテストで半分より下の点数を頻発して取るようになる。自分の人生に対して失望しかけている主人公がいる。そんな心の中でふと坂道をバスで降りる時に見た見事な夕日。それをきっかけに主人公は…。 ★批評から・好感が持てる小説。テーマの「坂」を上手に入れている。読後感がとてもよい。 ・改行が多い。改行は多いと軽くなる。反対に改行が少ないと重くなり読みたくなくなる。ちょうどよい頃合いが大切である。 ・「新しい部活を始めてみても…」の箇所は、具体的な部活名を入れた方がよい。 ・「私の高校は、坂の上に立っている」という部分は「とびぬけて高い坂の上にたっている」等の表現の方がよい。以前、「人の気持ちを表現するには泳いでいる水の様子を描写しなさい」と語ったことがある。描写は大切である。 ⑥春の坂道 ◆小学校2年生の時に出会った祖母の弟である清水和三吉。和三吉が連れていってくれたのは、愛育園という知的障碍者の施設であった。居心地がよくないと感じながらも「大人になったら、このような子ども達の役に立つ仕事に就きたい」と考えていた私がいた。そして成長した私は…。 ★批評から・改行が適切になされていく必要がある。原稿用紙1枚に改行が一度もなされていない。 ・今、どこに軸足を置いて読んでいけばよいかがわからなくなる。小学校2年生であった山下明美と思って読んでいると、いつの間にか大人になっている話に変わっている。冒頭部で「私は今、ほのぼの施設で働いている。そのきっかけは…」など、語り方、構成の工夫が必要であろう。 ・最後の終わり方は印象的である。「私もあの子たちもそんなに違いがないのだろうか」は改めて納得できる文章であった。 ⑦Y字坂と顎髭 ◆Y字坂と地元の人が呼ぶ真ん中の接点にその小さなコンビニはあった。そして、そのコンビニの面接試験を受ける美奈子である。そしてなんとすんなりと採用になる。よりにもよってここ一年で初めて人と話らしい話をした美奈子。よりによって人と接するバイトを選んだ美奈子。さあ、これからどんなことが起きていくのであろうか。 ★批評から・「地元の人はY字坂と呼んでいるらしい」という最初の入り方は印象的で効果が高い。 ・タイトルがとても良い。読者をドキッとさせて興味をそそるものである。 ・若い人の小説かと思ったら年配の方のものであった。心が若い人になりきっている。テンポがよく、ストーリーテラーになりきっている。ここまでなりきれるのは凄い。 ・『「交代に休憩してね」と店長が言い、そこからの記憶はとぎれとぎれだ』とある。これはいけない。逃げている。記憶がとぎれる前を書くことが大切なことだ。強盗が出る場面。ここは場面を描写しなくてはならない。 ・「無意識に美奈子はグウパーを繰り返した」との表現があるが、これでは犯人のドキドキは伝わらない。「心肺に手を当てて…」と一言入れるだけで伝わるものとなる。 ⑧坂の上のキャンパス ◆「自分勝手すぎるだろ」一人通学路の坂道を上りながら声が漏れた。担任が私たちの卒業の半年前に学校を辞めると言い出したのだ。ホームルームの最後「近隣の大学に採用されること」を担任から聞かされたのだが、祝福して拍手をする人間がいる中、拍手をする気にはなれない私がいた。「コロナ禍、オンライン授業、イベント中止、地震発生と普通や当り前をどれだけ奪われるのか」と思う私がいた。 ★批評から・レベルの高い人の小説であるのがその文体でわかる。でもそれが生かし切れていない。 ・「おはよう、可奈。傘で分かった」この表記で私が女子であることが初めてわかった。最初からわかる設定をしていくことが小説では大切である。 ・「私たちは普通や当り前をどれだけ奪われるのだろう」という表現は秀逸である。 ・読後感に不満が残ってしまう。中途半端な終わり方になっている。完成している小説となっていたら、どこかを思い切って、あえて壊してもらいたい。 ・「先生がやめるといったうわさがながれてきた」→主人公が動く→「前を向くのか」「後ろを向くのか」→どっちを主人公は選んでいくのか といったように「話が動いてくれる」ことが小説では大切である。 ⑨笹やぶの坂 ◆私は、古き良き時代を彷彿とさせる羽咋で少年時代を過ごした。遊び回る日々、私の家の前には、年老いた盲目のおじいさん、おばあさんが住んでいた。おばあさんはたいそう優しく「お風呂入って」と私らを風呂に入れてくれました。おじいさんはいつも長靴をはいて、すててこと腹巻といった格好で、毎日家のまわりを直していました。何気ない生活の中での一コマを小説として描き出している。 ★批評から・「最初の出だしが昔の良き時代を感じさせるよきものである」「最初の出だしがもっと簡潔なものであるべきだ」と、二人の先生の解釈がまるっきり反対のものとなった。読者により受け取り方が違うということを学ぶ場となった。 ・「そして、つないだ手の感触だけ、いつまでも覚えているのです。そして、何度も夢に出てくるのです」といった表現は秀逸である。 ⑩坂 ◆田園地帯に住んでいる私は稲作りをしている。夫と共にいる軽トラックの中で、私は夫に「カッパが川に人を落としてしまう話」をする。田植え、水回り、草取りの農作業中、いろいろな話を夫にしていく私。季節の土の香、風のにおい、明治生まれの祖母の話がそのままあてはまるような景色の中で生きている私。読後感の良い小説となっている。 ★批評から・「田園地帯に住んでいる私は、稲作りの行程によって風の中にある「におい」を感じる」との冒頭部分。大変に素晴らしい。その他の部分も描写が大変に優れている。 ・「昼でもない夜でもない。あわただしく人が家路につくこの時、遊んでいた子と別れて一人で帰る道、空が黒くないのでつきがとまどっているような気がしてうれしい気持ちになったものだ」なんとうまい表現か。 ・ユーモアある小説だ。祖母のカッパの教育が生きている。祖母の人生を大切に想い、尊敬し、傾聴して、そして心の中で発酵させて小説としている。読後感のよさが大変に良い。力ある小説である。 ⑪「坂」 ◆ポルトガルのリスボンでの話。坂道を少しばかり登り始めたところで出会った一人の男と私。男の名前はクリスチャンでドイツから短期バカンスで来ていた。15年前、N氏という画家に出会い、彼が描いた風景画をもらう。少なからず、その絵はその後の私の心情に大きく関わってくるものとなる。私が歩もうとした生き方とは? ★批評から・とても良き小説であるのに内容的にずいぶんと悩まされたものであった。リスボンの話であることがずいぶん後でないとわからなかった。→作者の意図はあったのだが。 ・表現の巧みさが随所で光っている。「先にある展望台へと吸い込まれてゆく」「その後の私の心情に大きく関わってくる」など。 ・「自分は彼ほど思いきった新たな生き方はできなかった」とある。ここはぜひ具体的に書き込んでもらいたい。より完成度の高い小説になると思う。 次回は、9月14日(土)小網先生による講義「小説作りの基本とは②」です。小説実作にあたって参考になる講座です。ぜひ参加いただきたいと考えています。 また、小説実作の〆切は10月12日(土)「推敲のポイント」(高山先生講義)の日です。 〆切日厳守での提出をお願いいたします。 |
左:高山 敏先生 右:小網 春美先生 |
〇8月4日(日)第4回 朗読会『青春の門 自立編 後半部』
□石井講師との過酷な訓練を開始する信介 |
|
朗読: 髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表) 石井の特殊な訓練が始まりました。ピンポン玉、テニス球、野球の軟式ボールを、目をつぶらずに凝視して寸前でよけるトレーニング、かかとを地面につけずにつま先で体重を支えて草むしりをしていくトレーニング、そしてマラソンと過酷な訓練が続きました。そして食事と言えば、鳥や豚の臓物ばかりでした。石井講師は「まず守ることを考える」という、今までと正反対のボクシングを実験していくのでした。 (「ビール瓶を投げる後半部」「夏の谷間で」から)
* * * * 猛暑の中、駆けつけて下さったみなさん、ありがとうございました。今回は、信介自身の自問自答、そして信介と石井講師との会話文が続く展開となりました。髙輪さんの朗読は五木寛之氏の持つ熱気を帯びた文体に後押しされるようなスピードと緊張感ある朗読となりました。参加者は魅了されるばかりでした。 ここ、3日間は素晴らしい方々による朗読会が続きました。朗読家 戸丸彰子さんの 芥川龍之介「地獄変」「藪の中」の朗読ライブ、また玉井明日子さんの朗読「小納 弘の五色の九谷」、そして髙輪眞知子さんの「青春の門 自立篇」と3日間連続の朗読会となっています。 戸丸彰子さんの芥川龍之介「地獄変」は、美文に彩られたその作品世界を、艶と憂いある声、そして迫力を秘めた声でその妖艶とした芥川の世界観を演出したものでした。 また玉井明日子さんは、日の当たりにくい作品の発掘とそこに息づく人の生き様を世に問う朗読でした。笛の藤舎眞衣さんと、唄と三味線の千本民枝さんのコラボレーションを得て、まさに三位一体となった朗読会でした。 そして髙輪眞知子さんの朗読会です。五木寛之氏の作品世界を尊重し、その作品世界を純粋に「声」の力でみんなに伝えていくものでした。揺るがずに作家が持つ作品世界を、「凛」として純粋・純朴(あたっていないかもしれません)に伝えていく朗読だと感じ入りました。 いろいろな方々が、このように、自身の工夫、努力、精進をされての朗読会を開かれていくことに感銘を受けるばかりでした。 「朗読とは何か?」そんなことを思いながら、このような優れた方々の朗読を聞かせていただくことは本当に贅沢で幸せなことです。 さて、9月22日(土)秋分の日1公演、23日(日)2公演、金沢能楽美術館において 『三島由紀夫生誕100周年記念 朗読劇 三島由紀夫「班女」「葵上」近代能楽集』が開催されます。朗読小屋浅野川倶楽部の方々が出演され、髙輪眞知子さんは主役を務めます。「作家『三島由紀夫』が描く作品世界を大切にした朗読」の在り方を体感させていただく機会になるのではないでしょうか。 次回の青春の門 自立篇 朗読会は、9月8日(日)午後2時からです。みなさまのご来館を心よりお待ちしております。暑い日々が続いております。くれぐれもお体、ご自愛くださいませ。 |
〇8月3日(土)カナザワナイトミュージアム2024
「五色の九谷」小納 弘 作 |
|
出演 : 玉井明日子(朗読)・藤舎眞衣(笛)・千本民枝(三味線) 本日の演目は、小納 弘作「五色の九谷」です。満席のお客様にお越しいただいての開演となりました。ありがとうございました。 本作品「五色の九谷」は、大聖寺藩主・前田利治の命令を受けた九谷金山の監督・後藤才次郎定次は九谷独自の焼き物を焼こうと奔走します。史実を元にして小納 弘が描いた「九谷焼誕生のストーリー」を朗読と笛と三味線で楽しみました。 今宵の「五色の九谷」は、九谷焼を生み出した人たちのスピリッツを表現した大変に貴重な時となりました。まずは出演者の方々の紹介、続いて本日の挿入曲の紹介をいたします。 ◆出演者の紹介 〇玉井明日子さん(朗読) ・金沢の様々な民話を金沢弁で語る語り手として、様々な作品を各方面のアーティストとコラボしての朗読会もされています。他、イラストレーターでもあり、近年では動画制作も手掛けられています。たくさんの作品が紹介されています。 〇藤舎眞衣さん(笛)・平成16年金沢市文化活動賞、平成18年北國芸能賞、平成28年石川県文化奨励賞を受賞されています。笛を中川善雄師に師事し、ご自身は、北國新聞文化センター、金沢素囃子子ども熟の講師も務め、後進を積極的に行っておられます。 〇千本民枝さん(三味線)・祖父母の影響で8歳より三味線を始め、金沢市内で端唄・三味線の指導にあたられています。端唄を千本扇民に、新内を富士松鶴千代に師事しています。平成25年より『和LIVE』活動を各所で開催しておられます。 ◆本日の挿入曲の紹介 〇錦城山の雲 今回の朗読作品のために笛奏者・藤舎眞衣さんが作曲されたもので、オープニングとエンディングで演奏がありました。春先、風が吹き、錦城山の上を雲が走るのを眺めている大聖寺藩主前田利治が登場する冒頭場面、たくさんの人々が力を合わせて初めて五色の色絵磁器が焼き上がった喜びの最終場面で演奏されました。大聖寺藩の興隆を願った前田利治と、藩主を支え続けた人々の思いがあふれるような音色に感じ入る私たちでした。
〇山中節 石川県加賀市山中温泉の民謡です。北前船の船頭たちが寄港地で覚えた各地の俗謡を湯治で訪れた当地で歌ったことを起源とすると言われています。新たな大聖寺藩の動きに探りを入れる幕府の隠密に脅かされながらも、田村権左衛門(陶工)、後藤才次郎定次(九谷金山監督)、後藤忠清(定次の長男)らが、やわらかな山中の湯につかる場面があります。緊張の日々の中での一服の安らぎ。そんな心持ちを、千本 民枝さんは唄と三味線で見事に演じて下さいました。郷土の誇りである山中節を改めて聴き味わう時となりました。
〇四季の山姥 長唄で、十一世杵屋六左衛門の作曲です。歌詞は毛利家の奥女中の作と言われています。文久二年(1862年)初演されました。山姥が遊女をしていた頃の思い出を、四季の風物に託して歌うものです。
〇田助ハイヤ節 長崎県平戸市田助港地方に伝わる民謡。酒盛唄です。
〇土じゃ土じゃ 物語のクライマックスに流刑人たちが焼き物を運ぶ際に口ずさむ唄です。小納氏の創作の詩に、千本 民枝さんが民謡を元にアレンジして唄と三味線で披露して下さいました。いろいろな人々が力合わせて誕生した九谷焼を、観客も共に喜び合う時となりました。
他、藤舎 眞衣さんには、登り窯の中で徐々に燃え上がり変化していく炎の様子を、千変万化の息遣いで表現いただきました。また、前田利治が刀で茶碗を叩ききる音、登り窯の中で茶碗がむなしく割れていく音など、様々な打楽器で朗読と一体化した効果音を演出いただきました。観客一同、息を呑む瞬間となりました。 終演後、観客が引けてもなお興奮が残る会場で、朗読の玉井さんのお話を伺う時がありました。こんな内容でした。 『五色の九谷は前に初版本が出ていましたが絶版となりました。2009年「復刊する会」ができて2010年に再版本ができました。九谷焼は有名だけれど、実際に九谷焼は、どこで誰がどうやって生みだしたのか、先人が九谷焼を生み出すのにどんな苦労をしたのかなどはわかっていない人が多いのではないでしょうか。私たちは、何も知らずに何気なく生活していくのでなく「先人の苦労、努力、生き方」を知っていくことは大切なことだと、今回感じました。「先人の苦労を大切して、人に伝えたい」そう思い、今回は朗読させていただきました。』と。 毎回感じることですが、玉井さん、藤舎さん、千本さんらの創作文芸には、伝えたい熱きスピリッツがいつも込められています。物語の最終場面にはこんな文章があります。 『錦がまの中は、炎が流れるようにまわり、るつぼもるつぼの中の皿も鉢も、だいだい一色に見えた。そのなにもかもが黄色味を帯びた赤の中で、あの大皿のほていの顔がにっこりと笑って見えた。おおらかな笑い顔であった。その衣の緑、かかえた袋の黄、さっとひとはけはいたように描いた粟の深い赤、その一つ一つが、いま、色を出しつつあるのだ。ちかちか、ちかちか光っている。色がにじむように出ているのだ。燃えさかる炎の中の絵、おおらかに笑っているほていはまことに神秘な姿であった…』 この「ほていさんの古九谷の絵皿」は、現在、石川県立美術館に収蔵されています。絵皿1枚が出来上がるまでに命を懸けた人々がいたことを思うと、本当に感慨深い思いがいたしました。暑さ厳しい中、たくさんの方々にお越しいただいたことを心より感謝いたします。本当にありがとうございました。 そして渾身の朗読、演奏をいただいた玉井さん、藤舎さん、千本さん。演出いただいた依田さん。素晴らしき時を共有させていただいたこと、ありがとうございました。 |
〇8月2日(金)カナザワナイトミュージアム2024
朗読ライブ「芥川がやってきた ~犀と龍の100年~」 |
|
出演 : 戸丸 彰子(朗読) 今宵のナイトミュージアムは、朗読家 戸丸 彰子さんによる朗読です。今回の企画「朗読ライブ 芥川がやってきた ~犀と龍の100年~」は、今宵も含めて全三部構成となっています。 ・第一部 8月2日(金)金沢文芸館にて朗読「芥川龍之介作 地獄変 他」 ・第二部 8月3日(土)兼六園 三芳庵にてお茶会と会食(蓄音機の生演奏による音楽室生犀星記念館 水洞館長のお話も交えた)を楽しみます。 ・第三部 8月10日(土)2公演、11日(日)1公演 今宵は、満席のお客様を迎えての朗読会となりました。本日のメインプログラムは芥川龍之介「地獄変」と「藪の中」です。さて、第一部から第三部までの企画を見ただけでも、総合芸術家としての「戸丸 彰子」さんの魅力が伝わるかと思います。 第三部では、アンサンブル金沢主席コントラバス奏者「ダニエリス・ルビナス」さん、ピアニスト「鶴見 彩」さん、ギタリスト「北山 功二」さん、囃子方「望月 太満衛」さん、舞踊「北井 千都代」さん、髪の毛書道「馬ト鹿」さん、人形舞踊「伊藤 拓次」さんら7人の方々が戸丸 彰子さんと共演します。戸丸さんでしか成し得ない大変な企画である一期一会の朗読ライブになります。 今回、第一部は、共演者、光や音の演出、全てを入れない中での朗読となりました。声と言葉のみで作品世界を語る素朗読にチャレンジされた戸丸 彰子さん。芥川龍之介の名作「地獄変」「藪の中」の素朗読は、芥川龍之介の美文を、その艶やかな声と瑞々しい感性で私たちの心に届けて下さいました。観客はみなその朗読に魅了されるばかりでした。 「20年以上のキャリアの中で素朗読をイベントで行うのは初めて。実力が試されているような気がする」 「芥川の作品はあまりにも文章が美しく、朗読しながら引き込まれてしまうので、自ら押さえなければならなかった」 と話された戸丸 彰子さん。第一部では、素朗読の魅力を存分に届けて下さいました。第三部では、芥川龍之介「地獄変」「藪の中」、そして室生犀星「しゃりこうべ」他が演じられます。先程あげたように、7人の各方面のスペシャリストとのコラボレーションがあります。共演者との演出、光と音の演出を伴っての朗読ライブです。心から戸丸 彰子さんの一期一会の朗読ライブを楽しみたいと思います。 戸丸 彰子さん、朗読ライブ第一部 素朗読の魅力を届けていただき、ありがとうございました。また猛暑の中、見に来てくださった皆様方には心からの応援をいただきましたこと、心より感謝申し上げます。 |
〇7月27日(土)第3回 小説講座 ~提出作品の批評(Bグループ)~
試作小説の批評 |
|
講師 : 皆川 有子(『櫻坂』同人) 藪下 悦子(『櫻坂』同人) 第3回小説講座は、試作小説Bグループの批評会です。講師は文学誌『櫻坂』同人 皆川 有子先生、藪下 悦子先生です。テーマは、➀食物 ➁履物 ➂風景 ④別れ ⑤勇気 ➅自由テーマ(どうしてもという場合)から一つ選択して小説を書くものです。 ではBグループの作品批評から紹介していきます。 ○ 試作小説の題名、本文から(◇)、内容は?(◆)批評は?(★)(Bグループ) ⑧カメラは見た (テーマ 風景) ◇「家に帰って写真を確認して、二人の後ろ姿が右下に少し入った構図の写真がやっぱり良い出来だった。「母娘と湊町」というタイトルで写真コンテストに応募した。本当のタイトルは「大失恋」と名づけたいくらいだ」 ◆自分と別れて故郷富山に戻ってしまった彼女の町で写真コンテストが行われるのを知り、それに応募するために町を訪れた勇人。偶然目にした彼女ユキの姿を写真に撮りコンテストで大賞をとり、授賞式で彼女と出会うこととなる。そして勇人とユキは…。 ★批評から・「美しい田園風景」「綺麗な風景」と言う表現だと、画一的な風景となってしまう。「美しい」「綺麗」という表現でなく、それを感じさせる情景描写の工夫が必要だ。ぜひ場所の描き方を魅力的なものにしてほしい。 ・「偶然」が作者の都合の良いように重なって、段取りで進んでいる。先が見えてしまう小説となる。奥行きの深さがほしい。 ・勇人に試練を与えていくことが必要ではないか。いつのまにか大賞をとって…ではなく、克服する努力というか、それが必要ではないか。 ⑨いつも酔いは向こう見ず (テーマ 勇気) ◇「天空よりそそぐ雨粒が肩を濡らす。差す気にならない傘の柄を握りしめた僕は、遠ざかる彼女の背を見詰めていた。「優柔不断な貴方とは、もう付き合ってはいられないの」二十六歳である愛しい恋人からの別れの言葉だった。」 ◆彼女に振られた主人公が、彼女の気を惹くために事件を起こそうとしてコンビニ強盗とオレオレ詐欺を実行、そして失敗する。最後に彼女のマンションにDVDを返してもらうという口実の元に忍び込む。そして彼女と彼氏は…。 ★批評から・題名が面白い。起承転結もしっかりしている。強盗、オレオレ詐欺、ナンセンスな内容に最初はびっくりした。しかし、人生の理不尽さを表現している気がして、奥行きのあるテーマで、これは可能性があるのかもと思い直した。 ・リアリティに欠けるが、こうしたリアリティを排除した枠組みを敢えて設定していて、ユーモアを優先させているのかと思う。 ・「コンビニ強盗」「彼女の所へ忍び込む」小説にあるこれらの行為は、犯罪に当たらないのかと思う。書いて大丈夫なのか? ※『「現金ありますか?」までしか言っていない等、犯罪になるかならないかもよく調べて今回の小説を書いた。そこは本当に気遣いしたところだ』(作者から) ⑩転職こそ天職! (テーマ 食物) ◇「「ここらへん、野良はいないんで心配しないでください。あ、他にも苦手なものとかあります?アレルギーとか」/ちゃんと申告すれば配慮してくれるっすよ、と気遣いが温かい。見学は採用前にミスマッチを防ぐ最終チェックなのかもしれない。/「アレルギー、というわけではないんですが、モモと、それからトリもできれば避けたいですね」/「それくらいなら配置の工夫でなんとかなるっすよ、ぜひ一緒に働きましょうね」/優しい言葉につい目が潤みそうになる。/「やだなぁ、鬼の目にも涙ってやつっすか」」 ◆転職のために面接に来た主人公が面接後に現場の様子を見学し、後日合格通知を受け取るという話。最後まで読むと、桃太郎を下敷きにした話で鬼が島の鬼が地獄の閻魔大王に面接を受けたことがわかる話である。 ★批評から・「鬼が島の「鬼」が地獄勤務の転職をしていく」という「鬼側の視点」で書かれると「独特の視点」を持つ小説である。大変に面白い小説だ。 ・読み易い文章で、軽いノリで読み進めていける小説である。 ・実にユニークな発想で紡ぎ出された作品。面接を受けていたのが実は鬼ヶ島の鬼だったと明かされていく展開も見事である。途中で小出しにされている真相への伏線も最後まで読むとよくわかる。短い分量にも関わらず、ユーモラスな雰囲気を漂わせながら、しっかりと一つの物語世界を立ち上げている。 ・何をこの小説で言いたいのか?が伝わらないところがある。 ※『読者が面白いと思ってくれたらよいと考えている。それを大切にして今回の短編小説を書いた』(作者から) ⑪憶病者 (テーマ 勇気) ◇「昨日、思い切って所長に申し出た。月曜と木曜はわれわれの属するAブロックを優先して作業を進めることになっていたのに、Bブロックが来月から木曜日は自分たちのブロックを先に処理するなんて言い出したからだ。Bブロックのチーフが本部の人間と個人的なつながりがあるとかいう噂だった。」 ◆収容所で働く主人公が作業の進め方について進言を所長にしていく。その提案が不安を抱えながらも上司に通って受け入れられていくと言う小説となっている。 ★批評から・まず題名が面白い。テーマが「勇気」なのに題名が「憶病者」としている。意外性がある。 ・作者は心の中に一貫したテーマをもっているような気がする。心の中にとげがあるというか、社会の構造に対しての強い思いがあるというか、そんな気がしている。 ・Bブロックのルール破りが持つ意味合いとは何なのか、それを告発することの重みとはいかほどなのか。Yが危険な地に飛ばされるのはなぜなのかなど、もう少し詳細な記述の必要な部分がぼやけているように思われる。 ⑫202401011610 (テーマ 食物) ◇「「めしゃあれ」。パンツの腿の辺りを引っ張りながら、シンクとほぼ同じ背丈の美優が笑っている。へえ、そうなのと応答しつつ、疑問符が浮かぶ。めしゃあれ。めしゃ あれ。めしゃ あれ。あるいはめしやあれ、かもしれない。品詞分解と音韻分析を試みつつ、お土産にもらったおせちをプレートに盛り付けていく。」 ◆二歳半になった娘の発する言葉を「わたし」はできない。娘はいらだち、その娘と悪戦苦闘する「わたし」が描かれている。軽快なリズム感を伴って、登場人物との関りがコミカルに皮肉をまじえながら描かれていく小説である。 ★批評から・題名の数字の意味がきくまでは読み解けていなかった。ただ話は実体験からくるものらしく、オチも決まっている。実に共感しながら読むことできた。 ・最後の回収部分がストンと落ちる感覚があった。 ・我が事のようにわかる描写が素晴らしかった。 ・地震のことが書かれているとは思わなかった。人に分からせるためには、読み手に分からせることが大切だ。 ・元旦の能登半島地震を連想させる題名となっている。物語内の時間は地震直前で終わっている。地震直前の日常の一コマと地震とをどう関連づけようとしているのかが不明である。 ⑬愛と勇気 テーマ(勇気) ◇「来年の春に小学生になる隆は頑固者で有名であった。曲がったことが大嫌いで、自分が思ったことは貫き通そうとする。かといって強い正義感の持ち主で、その彼が同じ組の男の子を突き飛ばして泣かしてしまったことは意外であった」 ◆年長の隆がこども園で友達を突き飛ばすということをしでかすが、隆はその理由を園で言わない。家で口を開いた隆は、「相手が愛と勇気だけと言ったから」と言うが、父親には何のことかわからない。 ※途中までの作品で完成していないので、どんなふうに話が進行していくのかが不明である。ここまでの批評会となる。 ★批評から・書き出しが上手である。 「隆は頑なだった。何を言っても、どう優しい声をかけても、口を真一文字に閉じたままじっとしている。両の手を堅く握りしめたまま、膝の上に置きびくともしなかった。」 ・右往左往している父親の描写、牛丼、牛めしとの違いを言及された隆に対しての応答の仕方等、登場人物の性格描写が巧みである。描写で物をわからせるというか、そんな技が上手である。 ※今後、小説が完成してからの批評となる。今回、受講生からの一言、両講師の先生からの批評、他の受講生からの批評や質問等の批評会となりました。皆川先生、藪下先生からの的確な批評は今後の受講生の創作に大きな力となるのでした。また今回は、他の受講生からの質問や批評も実にいろいろな意見交換がされました。活発な批評会となり、各受講生の批評そのものが、自分たちの創作に大きな効果をもたらす批評会となりました。 これほどまでに、いろいろな意見交換がなされていく充実した講座はなかなかないものであり、今後の小説講座の高まりを予見させるものとなりました。オブザーバー参加も2名あり、真剣に研鑚を積んでおられる様子に感心するばかりでした。 次回、第4回小説講座は、8月17日(土)皆川先生による「小説を読む➀」スローリーディングです。使用する教材本は『 「おらおらでひとりいぐも」/若竹千佐子作/河出文庫 』です。 教材本を使用しながら、本小説の優れたところを学んで自分の小説作りの参考にしていく講座となります。本を一読され、本講座当日は本も持参していただくと、より深まりのある実り多い講座となります。 もし本の入手でお困りの時は、既に取り寄せ準備いただいている書店も、金沢文芸館にてご紹介しますので、ご連絡いただけたらと思います。 お手数ですが、よろしくお願いいたします。 |
左:藪下 悦子先生 右:皆川 有子先生 |
〇7月20日(土)第3回 小説講座 ~提出作品の批評(Aグループ)~
試作小説の批評 |
|
講師 : 皆川 有子(『櫻坂』同人) 宮嶌 公夫(『イミタチオ』同人) 第3回小説講座は、試作小説Aグループの批評会です。講師は文学誌『櫻坂』同人 皆川 有子先生、文学誌『イミタチオ』同人 宮嶌 公夫先生です。テーマは、➀食物 ➁履き物 ➂風景 ④別れ ⑤勇気 ➅自由テーマ(どうしてもという場合)から一つ選択して小説を書くものです。ではAグループの作品批評から紹介していきます。 ○ 試作小説の題名、本文から(◇)、内容は?(◆)批評は?(★)(Aグループ) ➀有垢な子豚(ゆうくなこぶた) (テーマ 食物) ◇「豚は身体の構造上、空を見上げることができない。だが、「それ」は空を見上げることができている。/「それ」はヒトという動物ではあった。しかし、「それ」の小学校の同級生である子供たちは「それ」を人間のように扱っていない。」 ◆「それ」は、同級生から銃口を向けられている。オレンジ色の球体の弾丸が「それ」に向けて放たれる。「それ」は自分を人間だと思いたいのに、同級生たちは「それ」を認めない。そんな状況の中で生きている「それ」がいるのである。「食物」をテーマに他にない発想で描かれた小説となっている。 ★批評から・題名に驚いた。「無垢」は知っているが「有垢」と言う言葉があるのだろうか。 ・「オレンジ色のプラスチックの弾丸を…」の表現が高度で優れている。 ・食育教育で二匹の豚を育て上げて食するという命の授業を終えたことを褒める教師。彼らの飼育の時間が始まることを悟る「それ」。曇りのない美しき空を見上げることをしなくなってしまう。そんな変容していく様を描いていく作品に、作者の良き資質を感じる。 ➁母と僕の風景 (テーマ 風景) ◇「「それで、おとうさんはおじいちゃんの仏壇に百日草をお供えするのね、お盆の時にも百日草があったよね」/「当時、僕は小さかったのに、なぜか集落を出ていく前のおばあちゃんと僕の風景だけははっきりと覚えている」」 ◆目の前が海である集落で育ったカメ。ある日、カメの夫が漁に出て時化で亡くなってしまう。カメは水産会社の事務員になり一人息子を育てていく。この子のかけがえのない父はこの世のどこを探してもいないと思うカメ。空しさいっぱいの姿がある。ある日、義母から「息子のトミオを置いてカメに出ていくように」と話をされる。どのように話は展開していくのか?興味深く読み進められる小説である。 ★批評から・描かれる世界観が大変に面白い。構成もしっかりとしている。 ・「夫がどういう人だったかということは所詮伝えきれないのだ」という表現は優れている。こんな場面は、夫をつい美化しがちであるが、そうでなく書き方が上手い。 ・視点が変わっていくので戸惑いが生まれる。 ・「震えを押さえようと何度もグッパーグッパーしていた」と部分は秀逸である。 ➂悪意 (テーマ 自由) ◇「「あの日、京介が除霊にきた日の話だ。おぬしは悪霊にとりつかれていた。海で殺された女の幽霊だった。京介は困りはてて、儂のところにやってきた。京介は儂の高校時代の空手部の後輩だった/「えっ」/「除霊は三日三晩続いた。しかし、おぬしにとりついた悪霊は強力で儂でも除霊できなかった」 ◆父親「京介」を失った息子。そこには父親の仇と思う坊主の存在があった。しかし、真実は、父親の死と自分の今の存在には不思議な関係があったことを知ることとなる。作者がミュージシャンYOSHIKIの生き方からヒントを得たと語る小説である。 ★批評から・会話を中心にした小説で、テンポよく読み進めていくことができる。描写がそこに生れるとなおよい。 ・「殺してやる」と恨みをもちながらも武器がスタンガンだと重みが伝わりにくい。 ・文芸なのだから、あらすじはともかく、肉付けが必要とされる。 ・簡単に死の理由を理解できるのが私には納得できない。主人公の心の揺れなどがあると良いのではないか。ストーリーを優先しているのであろうが。 ④あの日の雨が止んだから (テーマ 別れ) ◇「サトルとは存外早く会えた。山の麓で、消防隊に保護されていたのだ。毛布にくるまったサトルと目が合う。タケシは何かを言おうとして、言葉が出なかった。しばらくはお互いに無言であったが、目をそらしたのはサトルのほうだった」 ◆サトルとタケシは十一歳の夏休みに知り合う。意気投合した二人は、「秘密基地」を作る。夏休みも終わりごろ、サトルとの別れが訪れようとしていた。サトルと一緒にお祭りを過ごしたいタケシは秘密基地で落ち合って、バスに乗られなくなる方法を考えつく。秘密基地で隠れる決心をする二人。しかし、そんな二人を待っていたのはすさまじい大雨であった。 ★批評から・最初と最終場面に老人となった現在、中に少年時代での回想。構成が工夫されている。 ・サトルとタケシの微妙な心の動きが描かれている。夏の創作物、そして人生においての心残りとなっていること。大変によいテーマとなっている。 ・最終場面ではこんな表現がある。 ⑤別れ (テーマ 別れ) ◇「この世には何億と人がいるというのに、双子でもない限り同じ顔の人は一人もいない。それでも親兄弟間の似た顔と言うのはあるだろう。子供の頃から、明子は家族の誰とも似ていないと言われてきた。」 ◆真実が明かされていく小説となっている。小さい頃からみっともないと言われて成長してきた明子。ある日、突然に明子は父親との別れがやってくる。亡くなったとの連絡があってからの描写が実に見事になされていく小説となっている。 ★批評から・「これから忙しくなるのに白髪を染めていなかったことが悔やまれる」という表現がある。なんとリアリティのある表現であるのか。この辺りを見ても書き込んでこられたというのがわかる。 ・まだ完成はされていないが、長編小説となるのを読んでみたいという気持ちがある。 ➅春うらら テーマ(風景) ◇「一年契約の派遣、次の年度の確約はない、でもとりあえずの仕事を求めて、どの部署の人が辞めても二日後にはその席は埋まっていました。/今日の午後、派遣入札の募集要項が張り出されます。/「時給も安くなるよね、次を探しますか」恵美子さんは少し空いていた窓を全開にしました。/「ハルウララ、桜まだかね、飲みに行きましょう」恵美子さんの背中を押しました」 ◆休憩室での関わりの様子が描かれている。人間模様が描かれていて、情景描写もわかりやすく表現されている。 ★批評から・「春うらら、桜まだかね、飲みにいこうか?」という表現がある。これが大変に効果的である。素敵な表現である。作者は『本文はエッセイになっているのではないか』と言われているが、そんなことはない。フィクションであれば小説、そうでなければエッセイととらえていくことで迷いはなくなるのではないか。 ・女性ならではというか、情景描写が巧みである。大切にして伸ばしてほしい。 ⑦ライラとガラスの靴 テーマ(履き物) ◇「「残念。あなた様には少々きついようです」/執事は申し訳なさそうに、しかしきっぱりと言いました。「いいえ、そんなことはないわ。きついというより120%ぴったりという感じだもの」/ライラはガラスの靴を脱ごうとしませんでした。脱げなかったのです」 ◆合わない靴を履いたライラ。王子との食事会の後、ダンスが始まりました。合わない靴のため、ライラは転倒し、そのまま気を失ってしまいました。目を覚ますと、新品のランニングシューズが靴下と一緒に置いてありました。まさにシンデレラフィットです。執事の心配りがあったのです。それから執事は無理やりガラスの靴を履こうとする女性にあることをしていくのです。そのあることとは?わくわく読み進めていける小説です。 ★批評から・ファンタジー作品です。何をどう書いてもいいというものでもあるが、発想がとても面白い。 ・「きついというより、120%ぴったりという感じだもの」こんな表現は本当に面白い。素晴らしい表現力だと思う。なかなかこうは書けないもの。 ・靴そのものが主人公なのかもしれないと思わせる話になっている。ユニークで楽しめる内容だ。 ・テーマ「靴」に縛られ過ぎている感もある。 最後、お二人の先生から総合的な講評がありました。 ・どこの部分を切り取って言語化していくか、どう成立させていくかが大切だ。 ・長い作品の中で、いかに矛盾なく組み立てていくかを大切にしていってほしい。 ・文章を書く以前の勉強が大切であることを理解してもらいたい。ここを大切にしていかないと小説を書くことはできない。 本小説講座では、皆川先生、宮嶌先生から、的確なご指導がありました。また、受講生同士の感想交流も貴重な機会となりました。今回、他グループからもオブザーバ参加が2名ありました。連絡いただいて(座席準備)の自由参加も歓迎します。お待ちしています。次回小説講座は、7月27日(土)提出作品の批評(Bグループ)です。講師は皆川先生、 藪下先生です。 小説の実作にむけて力をつける会となるよう、ご来館を心よりお待ちしています。 |
左:宮嶌 公夫先生 右:皆川 有子先生 |
〇7月20日(土)第2回 短歌入門講座
「歌を詠む−感動を言葉に」 ~言葉はこころ~ |
|
講師 : 栂 満智子(短歌雑誌「新雪」編集委員) 第2回短歌入門講座は「歌を詠む−感動を言葉に」です。講師は、栂 満智子さん (「新雪」編集人)です。第2回講座内容の一部をお伝えします。 □短歌を作ってみましょう! 1 ときめきを見つけよう。 〇「喜び、怒り、悲しみ、楽しみ+感動、希望、憧れ、驚き」を言葉にしてみましょう
◇受講生のときめきから ・ギボウシがあるのですが、その生命力に驚きときめいています。 ・自分の子どもが剣玉に夢中で取り組んでいること、自身の小さい頃の思い出も思い返されて、ときめいています。 ・世界の歴史というテレビを見て「いい勉強をしているなあ」とときめいています。 ・15年ぶりの旅をして恩師との出会いもあり、素晴らしいときめきとなりました。 ・住んでいるのは街中なのですが、郭公が鳴いているのを聞いてときめいています。 ・大相撲の「大の里」が汗拭きタオルで汗を拭いた後、それを四つに畳んで折って渡しているのを見て「優勝する人はどこか違うんだなあ」とときめいています。 ・集合住宅の入口にあるねむの木にときめいています。他、物価高の中、安い買い物ができる時があるとときめいています。 ・尾長鳥を見て「今の季節もいるのか」と、ときめきました。 ★栂さんから
「言葉を心の引き出しにしまうことが大切です。心がけていると「貯金した言葉が降ってくること」「心の引き出しから言葉が飛び出てくること」「別の言葉が降ってくること」もあるのですよ」 2 「ときめき」を言葉に、短歌を作りましょう。 ※は栂先生、受講生の言葉から ➀うた詠めば心の霧晴れて不思議なるかな大和言の葉 ※歌に対する取り組み方がとても良いです。これは短歌創りでの理想ではないかと思います。「詠めば」という表現の仕方が秀逸です。「言の葉」とは万葉集を思わせるような表現ですね。 ➁ようやっとピンポン玉の西瓜なり蔓をちぎって放ってありぬ ※先客のカラスが放っていったピンポン玉の西瓜。表現がとても面白いです。下二句で皆さんの気持ちをぐっと惹きつけています。「何があったのか?」と「誰が放っていったのか?」と思いを巡らせることができる短歌です。素敵です。 ➂郭公の声ひびきわたる早朝に胸おどらせて天空を見る ※郭公の声は最近あまり聞かなくなりました。でも作者の家の近くに木があり、のどかな声が聞こえているのですね。喜びいっぱいの気持ちがよく伝わる短歌ですね。 ④立つ前に汗ふきタオルを呼び出しに畳みて戻す大の里関 ※大の里関は汗拭きタオルで顔を拭いた後、きちんと四つ折りにして呼び出しに渡しているのを見て、作者はときめかれたとのこと。そんなときめいた気持ちが短歌作りへとつながっていくのですね。 ⑤赤玉を無心に投げ入れ剣先に五つになった子の美しさ ※「無心」というのが感動につながり美しいです。親の子への愛情が伝わってくる短歌となっています。「赤玉を」という表現が秀逸ですね。でも大事な言葉が抜けてしまったような気がしています。やはり「剣玉」はどこかに入れたいという気がします。「美しき」という表現を使わずにできたらとも思います。 ➅ぼろぼろの面接結果に落ちこみつ半年後の再試を思う ※誰もが共感できる短歌だと思います。こんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか。でも次に臨んでいこうとする作者の想いが実によく伝わってきます。 ⑦消えていたギボウシひょろりと立ち上がる梅雨の暑さに寄り添われつつ ※ギボウシを御存知でしょうか。とても清涼感がある短歌です。「梅雨の暑さに寄り添われつつ」という下二句が大変に成功している短歌だと思います。 ⑧得意気に歩行器おす孫つまずいていっしゅん泣き顔また歩き出す ※とても良い歌だと思います。「いっしゅん」も作者の思いがあってひらがなにしています。漢字だと固くなりますね。「つまずいて」はキーなる言葉です。ここで読者はいろいろな情景を想像することができます。「歩き出す」で上下の運動が加わります。「ころぶ」と説明しなくても伝わっていくのですね。 ⑨黒板にひら仮名沢山意味不明きょうのこくごはとへとをです ※きっと助詞の勉強をしているのでしょうね。「は」と「へ」と「を」として「」をつけると分かりやすいかもしれませんね。なるほど「日本語を勉強している状況」なのですね。歌作りを続けてほしいという思いがします。 最後には、栂さん作成のプリントをもとに講義していただきました。 〇出来上がった短歌を声に出して詠んでみましょう。
・なめらかに読み上げやすいですか? ・愛誦性のある歌が好まれます。リフレインや韻も踏んでみましょう。 〇短歌は声を出して読みあげるうちに新たな気づきが。 ・詠んで、書いたものを見てもらう。同人誌などで発表する。歌会で評を聞く。 ・歌は声を出して読み上げてみることによって、客観的に見ることができる。 ・言葉を選ぶようになる。新たな気づきも生まれる。 栂さんのお言葉の一つ一つが、短歌を詠んだ受講生の胸に染み入っていく時間となりました。親御さん、祖父母としての愛情あふれた短歌、自然への慈しみを詠んだ短歌、何気ない人の仕草からときめいて詠んだ短歌、歌を詠む中で心の霧が晴れてくる思いを正直に語った短歌など、様々な短歌が紹介されました。 ここに挙げたように、大相撲 関脇「大の里」が汗拭きタオルを折って渡す人柄へのときめきを詠んだ短歌もありました。さっそく次の日、大相撲中継をビデオに録画してみました。驚きました。他の力士は、汗拭き後、タオルはそのままの形で、掌を下にし無造作に渡しているのに対して、大の里は全く違う渡し方をしているのです。彼は、汗拭きの後、土俵上でタオルをきちんと丁寧に素早く四つ折りにして、何と掌を上に向けてタオルを丁寧に差し出して渡しているのです。なんという力士なのでしょう。大きな勝負の前にも人への気遣いを大切にされているのですね。 こんな大の里関の所作に気づかれた受講生の豊かな感性に感動するばかりでした。「優勝できる人はどこか他の人と違うんだなあと思いました」と語られていた受講生。 子ども、孫、人、自然、動物、生き物など、全ての何気ない変化に「ときめき」を感じる人は、短歌を愛する人へとなられていくような気がしてなりませんでした。 「言葉が空から降ってくる」と語られる栂さんのお言葉。充実した講座をみなさんの力で創っていただいた気がします。栂さん、そして受講生の皆さん、ありがとうございました。 次回は、8月17日(土)で歌会です。課題が出ています。 ・歌を二首あらかじめ作って金沢文芸館に送って下さい。 自由題 一首 題詠「とんぼ・蜻蛉(とんぼ)」一首 いよいよ最終講座となります。送り方はメール、FAX、郵送のどれでも良いです。〆切は8月1日(木)必着です。みなさんのご来館を心よりお待ちしております。 |
〇7月14日(日)第3回 朗読会『青春の門 自立編 後半部』
□おれ自身を丸ごとたたきつけるものに出会うために |
|
朗読: 髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表) 織江と信介は、新宿の街で仲睦まじい楽しい時を過ごしました。だが、そんな中、「自分が何をなすべきなのか、この力、この体、このおれ自身をすべて丸ごとたたきつけるようなものに巡り合っていない」と信介は感じるのでした。 信介は、石井講師に本気のトレーニングを志願していきます。二人は酒断ちをしてビール瓶を庭に次々と投げ入れて二人の秘密の特訓が開始されたのでした。 (「男の生き方」「ビール瓶を投げる前半部」から)
* * * * 朗読小屋浅野川倶楽部では、令和6年7月11日(木)12時から16時30分まで、石川県立音楽堂交流ホールにて「第9回100人の声・命を読む」が開演されました。 今回、能登半島地震により被災された方々への心からのお見舞いの心も大切にして、一日も早い皆様の生活再建と地域復興を願っての会でもありました。朗読者としてステージにたつ方々と、ご来場の観客の皆様が、命の尊さについて共感し合う会であったと伺っています。 髙輪眞知子さんは、戦争のない平和な社会を願われ、そして震災に遭われた方々の復興と幸せを願われておられます。そんな社会を実現するために「朗読」の持つ力を信じて活動をされておられます。 今回の金沢文芸館での朗読会は、髙輪さん自身の足の激痛もあり、けっして調子も良くないはずにも関わらず、全くいつもと変わらぬ凛としたお姿で「青春の門」の朗読を務めておられました。その髙輪さんのお姿を拝見し、真の求道者である朗読家の凄みを感じ入るばかりでした。たくさんの方々に髙輪さんはじめ、お弟子さんたちの朗読を聞いていただきたいと思う一日となりました。暑い中、お越しいただいた皆様、そして髙輪眞知子さん、ありがとうございました。 次回第4回朗読会『青春の門 自立篇 後半部』は8月4日(日)です。たくさんの方々のご来場をお待ちしています。ぜひご参集ください。 |
〇7月13日(土)第2回 詩入門講座
詩の試作品批評と推敲 |
|
講師 :木村 透子 (詩誌「イリプス」同人) 和田 康一郎(金城大学講師) 今回の講座は、7名の参加で「詩の試作品の批評と推敲」でした。お二人の先生と7名の受講生が、楕円形のテーブルを囲んでの会となりました。和気あいあいとした雰囲気の中、充実した会となりました。 お二人の先生方の貴重な講評はもちろん、講師の井崎先生からも全員へのコメントをいただきました。井崎先生のコメントも机上に置かせていただいて読ませていただきながらの会となりました。 みなさんの試作詩の一部抜粋と、先生や受講生からのコメントの一部を紹介します。 受講生の試作詩(「」は詩の一部抜粋です)から
➀君の輝きは薄桃色「君を見つけた時の喜びは/心の風船が一気に膨らみ/ときめき感で満ち溢れた/陽のまなざしが君の魅力を引き出していく/南から吹く風に寄り添い温もりをまとっている/光の放射と空の慈雨を味方につけ/(後略)」 ・豊富な言葉の緊張した繋がりはどんどん読者を引き付けていきます。 ・「喜び」「ときめき感」が説明言葉です。「心の風船が一気に膨らみ」で「喜び」を伝えている。「ときめき」もたとえば「噴水が噴き上がり出す」イメージなどで、直接述べなくても伝えられるでしょう。 ・「陽のまなざし」と「光の放射」がバッティングしています。未整理感が出ています。 ・だが、他は、温度・光度などを駆使した、詩の言葉遣いになっていると思います。 ・「夢を見て落ちて咲くのが恋ならば/天を見て思い切って咲くのが花だから」の部分は「ぼくはそんな君に恋をした」とストレートに表現できるのではないかとも思う。 ※「『樹』というテーマで懸命に考えたことで青春時代をほうふつとさせるものになった」との作者の声がありました。喜び充ち溢れる表現による爽やかさを印象的だという受講生の声もありました。 ②桜の心情 「〈一連 略〉
桜の木の下に立つと/華やかさの中で/風に揺られ、たゆたゆと/ 一つ一つの花の香が/語りかけてくる/ぼくだよ、ぼく!私よ、私!/ なぜ人は/桜の開花する頃に/こんなにも心惹かれるのだろうか/ それは何千年も前から続いている/令和に続く夜桜の宴 (三連は略)」 ・詩は短い言葉で要点を掴み、書くものです。そういう点では「わたしの心に」という表現も気になります。イメージを盛り上げるために、もう少し推敲、整理してください。 ・「私の心に/大切な忘れ物を残していったような気がする・・」のところは、「私の心に大切な忘れ物を残していった」とすると、よりすっきりするのではないか。 ・桜の香や花筏の擬人化は、うまくいっていると思います。 ・「たゆたゆと」が〇〇さんだからできる表現でとても良いと思います。 ・「一つ一つの花の香が……私よ、私!」の表現が私は好きです。繊細な言葉遣いです。 ※「一つ一つの花がすべて違うものだと感じられるのです」と語る作者の豊かな感性に共鳴させられる受講生の姿がありました。 ③レッドウッドバレー 「(一連、二連 略)
大空が好きなのだ/並びあって 隣り合って/話し合いながら伸びたかのよう/ グングン ズンズン/高く まっすぐに/大空まで/ 見上げるばかりに/林立している いい香りの/神秘の森/時の流れに触れました」 ・レッドウッドにしぼり、ムダのない書き方。イメージもすがすがしく読後感もいいです。 ・紀行文のようになってしまっています。特にラストの「時の流れに触れました」が、紀行文のまとめです。ここには作者の詩的な感動をおくべきです。「詩的な感動」とは何ですか、と問われそうです。太古の樹木の生えはじめの時間にさかのぼったり、太い幹をくりぬかれる折の樹木の心情に思いをはせたり、造物主と対話したりすることで、生まれてくるものです。 ・最後の連「いい香りの/神秘の森/時の流れに触れました」が物足りないです。結論付けていますが、ここは余韻が欲しいのです。どのような時の流れなのか、ご自分が感じたことを書いたらと思います。読者はもう少し読んでいきたいのです。 ※娘さんと一緒にカリフォルニアのレッドウッドバレーで、自然なままの林が林立している様子に感動された作者の詩です。雄大な風景と日本とは違う香りを感じる受講生の感動が伝わる批評会となりました。 ④朝散歩 「抗がん剤に負けないよう歩きなさいと先生は言う/先生の言うことはもっともなことであるが/義務感で歩いているから/気が重い (二連、三連、四連 略)
妹から朝食が出来たから帰ってきてとの着電があり/ようやく散歩から解放されると思ったそのとき/二羽の鴨が私たちの横に立っている/私達は目を見張った そんなサプライズが重なって/私は散歩の義務感から解放されるのだろうか 樹木を見上げて問いかけたが/何も答えず天と地を見守っていた」 ・最後の二行が特にいいです。暗くならずここまで書けたら、もう相当なものです。 ・行数が4にそろえばもっといいかと思うのですが、無理をしないほうがいいのかも。 ・医師からの指示を「義務感」として受け止める、真面目で不器用な人物像が提示されています。娘の「鬱々」をもう一歩退けて、さえずりを楽しむ父親の様子と、鴨二羽の様子がもっと伝わるよう書き加えると、作品に鮮やかさが増すと思います。 ・「二羽の鴨が私達の横に立っている/私たちは目を見張った」とありますが、こういう様子は印象に残るのものです。目を見張った理由が分かるともっといいと思います。 ・「そんなサプライズが重なって」の部分で、なぜ作者にとってサプライズなのかが伝わると良いね。 ・最後の二行がとても印象的で効果的であると思います。 ※大変に重い話題の詩であるが、暗くならずに前向きに語られているのが、「私だったらこうはいかない」と思わされました。〇〇さんの向き合い方はすごいと思います。 ⑤嘆き 「暗雲は夜へと/狩り立て
黒い枝は/夜空を見上げて/屹立/ことごとく静寂を貫いて/安らぎを貪っている
果たしてそれは静止だろうか 幹の中では樹液が逆流し/枝の末端に血を滲ませる 静止しているのは夜空だ/動いているのは大地/宇宙に浮かんだ小さな星 地上のすべては動いている 樹液が夜空に向かう/滝壺に吸い込まれるように (八連以降は略)」 ・詩は気持ちに言葉をのせていくことが大切です。この詩は言葉が先にきているような気がします。まず「気持ちから」を大切にしてください。 ・字がばらついて読みにくいと感じます。いささか自分の思いが先行しているような感があります。 ・「狩り立て」は「駆り立て」ではないでしょうか。 ・「樹液の逆流」作者は新たなイメージとして提出されたかもしれません。現象としては、吸い上げられた水を地面に戻すことで、降雨時に普通に樹木たちが行っていることです。 ・第二連で「枝」が「夜空を見上げて」いるのに、最終連では「夜空」が「こちらを見上げて」います。イメージが自家撞着を起こしていないか確認しましょう。 ・言葉が幅広い世界観を描いているような気がします。 ・力強さと選び抜かれた言葉が出されている気がします。 ※人と違った視点で描かれている詩です。受講生の間でも、詩の解釈においていろいろな想いが出された批評会となりました。嘆きとあるけれど「作者は何に嘆いてるのだろうか」等、作者との質疑応答も生まれたものとなりました。 ⑥支え 「人には支えとなる木が/必要だと思う
十八の春大きな支えなる木を/失ってしまった/もう二度と手に入らない
それから三十年母が/支えてくれた 二十六の春支えになるだろう木を得た/あれから四十年支えてくれている 父が母が支えてくれたように/私も家族の支えになる木 やれているのだろうか」 ・詩の大枠、建物で言えば家の柱だけが建っている感じ。もう少し書き込んで下さい。あとでいくらでも直せますからね。最終連は安易な印象です。詩は自分にとっても新しい発見であるべきです。 ・宮部みゆき『模倣犯』で、親友が犯人を説得する場面に、多くの人が目からうろこを落としました。 ・あらすじのようになっている。もっともっと書き込んでいけると良い。 ・この発想であれば、別に現時点で「支え」が完璧にできていなくて当然。今後の自分の「伸びしろ」に期待して、成長し続ければよい、という意識になります。こちらの発想で、もう一度自身を振り返ってみてもいいですね。 ※「人が亡くなったら支えがなくなるのではないのです。いつまでも支えてくれているという思いが大切だと思います。」「発想を変えていくこと、そして発想を変えて詩に臨んでいくことが大切ですよ」との貴重な助言もいただきました。 和田先生の司会進行のもと、詩人 木村先生からは、的確で具体的な表現での批評と推敲がありました。「詩は気持ちと言葉で表現していきます。詩は気持ちを言葉にのせていくことが大切なのです。あなたの詩は言葉が先にきている気がするのですね」と言われた時、受講生みんながハッとさせられた気がしました。頭では理解したようでも深いことだと思われました。 また、研究者 和田先生からは、客観的な批評と推敲をしていただきました。 「ここには作者の詩的な感動を置くべきです。詩的な感動とは、太古の樹木の生えはじめの時間にさかのぼったり、太い幹をくりぬかれる折の樹木の心情に思いをはせたり、造物主と対話したりすることで、生まれてくるものです」 との和田先生の言葉がありました。「ここには作者の詩的な感動を置くべき」との言葉は私たちの胸に深く食い入る言葉となりました。 そして井崎先生からは全員分のコメントを送っていただきました。「詩は自分にとって新しい発見であるべきです」との言葉も私たちの心に響くものとなりました。三人の先生方のお力あっての批評と推敲の会となりました。 次回、第3回詩入門講座は、和田康一郎先生による講義「詩というもの➁(詩を味わう)」で、8月10日(土)午後3時からです。 たくさんの方々のご出席を心よりお待ちしています |
木村 透子先生 和田 康一郎先生 |
〇7月13日(土)第3回 小説入門講座
小説作りの基本とは |
|
講師 : 高山 敏(「北陸文学」同人) 本講座は、北陸文学同人で編集代表をされている高山 敏(さとし)先生です。高山先生には、「小説を描く力となるもの」をテーマに、題材選び、場面設定、情景・心情描写の各ポイント、優れた作家の生き方など、小説創作に向かう時に大切にしなければならないことをお話いただきました。一部を紹介します。 1 小説を描く力となるもの ◇「見聞きした」「体験した」「取材した」こと・ものを書くのが良い。
・意欲、情熱、知識、技術、五感を働かせる。 ◇書こうと思っている内容を書き出そう 「いつものことを書こうとしているのか」→「そのときは何があったのか?」「何をしたのか?」→「なぜ、どうしてそうなったのか?」→「それはどこであったのか?」→「それは誰々が関係したのか?」→「そしてどうなったのか?」
◇印象深いエピソードをどこに入れるか?◇ラストは簡単に終わらせないことが大事 ◇出だしを見つめよう ・人間に着目させよう。人間を表現しよう。 ・天候や自然に着目しよう(雪の降り方でも表現が変わる) ◇人間を描く物語を ・ストーリーを追うのではなく、人間を描くこと ・主人公と他の人間の関係を描くこと ・劇的な出来事を描くこと ・表情には心の中にある想いが映し出させれる ・筆が止まった時は「主人公をちょっと歩かせてみる」と良い。筆が進むことがあり。 2 小説家「車谷長吉」の生き方から 〇”はずれ者”が一生書き続ける私家版「小説道」から(車谷長吉のエッセイから) ➀自分をかばわないこと ・世間の常識から外れる自分の姿、人から後ろ指を指される自分の姿をじっと見つめる。厳しい視線に耐え、思索を深めることが大切。人間とは何かという問いに対して、自問を重ね、答えを出すのが小説である。 ②勉強量が大切だ。・国内、海外を問わず最低30人、自分の好きな作家の全集を全部読むこと。今年はこの人と決めて1年に一人ずつ読む。そうやって先達の技を吸収していくこと。ただ単にストーリーを追いかけるのではいけない。 ③好きな小説一篇を最低50回読むこと・僕の場合は、森鴎外の「安部一族」を誰もいない部屋で声に出して読んだ。小説家になろうとするなら、赤ん坊がはじめて言葉を覚えるときに戻って、もう一度、訓練をする必要がある。 3 紹介された記事などから 〇うつりゆく記憶 東日本大震災10年 「酒浸った日々 生き抜いた」 ※文章は一部抜粋 ・ブシュ。枕元に並ぶ350㍉リットルの缶ビール。…5口ほどで1缶が空く。 ・消防団員だったAさんは震災翌日から捜索にあたった。津波に流され家の雨どいにぶら下がっている近所の女性、そしてがれきにまみれた街…。体が震えた。コーラに混ぜた焼酎をちびちび飲むと心が静まった。…(略)…県内外のボランティアと物資を配ってストーブを置いた。…(略)…両親と仮設住宅に移ると酒の量が増えた。自分に価値がないように感じた。「俺がしっかりしなければなんねえのに」申し訳ない、情けない、でも酒をやめられない。 ・その後、あるボランティアの紹介で彼の仕事先の山口県へ連れだされる。身長167cm。体重は30㌔余りになっていた。その後、山口県で入院し、3か月で退院する。 ・酒浸りの自分に戻るわけにはいかない。つらい記憶に駆り立てられ、再建された工場で仕事に励んだ。 ・その後、県外から来たボランティアの女性と結婚した。食卓を囲む。日常がうれしく、いとおしい。 ・震災がなければ酒におぼれなかったかもしれない。でも震災がなければ会えなかった大切な人もいる。楽しい思い出を少しずつ、増やしたい。 高山先生が新聞記事を朗読されていきました。主人公の凄まじい生き様に、まるで一つの小説を見ている気持ちがしました。先生が読み終えられても言葉を失っている私たちがいました。
これから自分たちが小説を書く時には「何を題材にしてどのように書いていくのか?」を考えていく貴重な時間となりました。静かに小説への向き合い方を学んでいく充実した時間となりました。 受講生は「とてもこんなことはできない」という声をもらしながらも、高山先生の「自分の好きな作家の全集でよいのです」という促しに、これから更に意欲をもって挑戦していこうとする心がみなぎっているのが見てとれました。 他、高山先生が記された「暗闇を見つめる−負を愛するということ」を、自ら音読されました。最後となりますが、一部を紹介します。 ・まず、自分は何を書くか。何に光を当てて書くか。何に眼差しを向けて書くか、です。 ・私は自分の抱えている「負」の部分を、家族、職場、友人、社会現象を題材に書いてきました。「負」を「自分の持つ闇」と言い替えていいでしょう。 ・エピソードとして、楽しい(幸せな時代の)思い出も必要なのですが、やはりどうしても、苦労を味わった(苦しんだ)思い出を書きたいと言う気持ちが湧き上がってきます。そういう気持ちを私はずっと大切にしていきたいと思っています。 次回、第3回小説入門講座は、8月10日(土)10時30分からで「試作小説の批評と推敲」です。受講生全員の試作小説の批評と推敲の会となります。 講師は、高山先生、小網先生です。お二人の先生方から、批評と推敲をしていただきます。小説入門講座ですので、途中までの作品でも大丈夫ですし、提出できなかった方も批評会に参加いただいて研鑚を積んでいただけたらと思います。 受講生の皆さんの渾身の試作小説の批評と推敲会が、少しでも実りあるものとなるようスタッフ一同、心がけてまいります。少しでもたくさんの皆様の受講を楽しみにお待ちしております。 |
〇7月8日(月) 出前講座 三和小学校5年生
「取り合わせ」の技法で俳句を作ろう |
|
講師 : 竪畑 政行(石川県児童文化協会 理事長) 金沢市立三和小学校に訪問しました。5年生3クラス90名で1クラスずつの出前講座を実施しました。学習内容は『「取り合わせ」の技法で俳句を作ろう』です。講師は石川県児童文化協会理事長の竪畑 政行(たてはた まさゆき)さんです。 それでは学習内容の一部を紹介します。 1 「一物仕立て」と「取り合わせ」の俳句は? A あさがおにつるべとられてもらい水 → 「一物仕立て」の俳句と言うよ (加賀千代女) ・「あさがお」のことを一つ書いている B 柿食えば鐘がなるなり法隆寺 → 「取り合わせ」の俳句と言うよ (正岡子規) ・「柿を食べること」と「鐘がなること」の二つのことを書いているね 〈今日は「取り合わせ」を使って俳句を作ってみましょう〉 ※子ども達は二つの俳句を鑑賞して、本日は「取り合わせ」の俳句を作るのだとの課題意識を持つことができました。 2「取り合わせ」の俳句を作ろう (1)「取り合わせ」の俳句を味わおう ➀妹の満点答案五月晴れ
②風光る赤いバトンをつかみとる ◇何気ない十二音と季語を取り合わせると、自分の気持ちや思いがより伝わる俳句になるね。 ※「うれしいな」「楽しいな」そんな言葉を使わずに表現していくのが俳句だとの学びをしていきました。同時に季語の持つ味わい深さに気づいた子ども達の姿がありました。 (2)十二音と季語を取り合わせてみよう part1 ➂
![]() ・「風光る」「つゆぐもり」のどっちの季語がふさわしいかな? ④逆あがりやっとできたよ ![]() ・「春の風」「春寒し」のどっちの季語がふさわしいかな? ◇日々の暮らしの中のふつうの「もの」「こと」を十二音にまとめ、ふさわしい季語と取り合わせることで深い情景描写になるね。 ※子ども達は、季語を取り合わせることで味わいある俳句になることを自然に学んでいきました。「自分もこれを活かして俳句を作ることができるかも…」と思い始めた子ども達でした。 □十二音と季語を取り合わせてみよう part2 ・自分たちで季語を( )に当てはめてみよう ⑤( )シュートを決めてハイタッチ
➅( )五重の塔がそびえ立つ ⑦新しいクラスメイトと( ) ⑧( )いい先生にあたったぞ ⑨先生が病院に行く( ) ⑩剣道の試合にうかり( ) ・春の風 ・冬の雲 ・春のにじ ・夏の雲 ・春一番 ・炎天下 ◇「俳句に正解はないよ。だって人によって感じ方がみんな違うのだから」「あなたの感じ方を大切にね。作者はみんなと同じ小学生だよ。作者、そして友達と自分の感じ方の違いを楽しんでいくと良いね」などの優しい声かけがありました。 ※少しずつ自信が芽生え、想いを語り出す姿が見られました。素直で友達の言葉や考えを大切にする三和っ子の姿が素敵でした。竪畑さんの子ども達の心を包み込んで背中を押していくような優しき声かけがあればこそと思いました。 (3)取り合わせの技法を使って俳句を作ろう ➀日々の暮らしの中の「もの」「こと」を十二音でつぶやく
注意…十二音がひと続きのフレーズになるようにつぶやく …季語と無関係につぶやく …うれしい、悲しいといった安易な心情表現を使わない ②次に、つぶやきを合う季語を探して取り合わせる ➂投句用紙に自作の俳句を書き、提出する 時間の都合で、最後の俳句作りまではいきませんでした。これも自分の思いを語ろうとする三和っ子の素敵な姿があったからであり、嬉しい思いにもなった学習でした。 ただ子ども達の心の中には、「自分の俳句を今一度作りたい」「自分もこうやって取り合わせて良き俳句を作ってみたい」との思いが膨らんでいました。瞳をきらきらと輝かせる子ども達がいて、さっそく俳句を作って持ってきてくれる子が何人もいました。 「学ぼうという意欲ある姿」「より良き高みを目指す姿」「友だちの思いを大事にする姿」そんな三和っ子の素晴らしき姿がたくさんありました。 三和小学校正面には御和神社(みわ神社)があります。神社に向かい「ありがとうございます。三和っ子の心豊かな成長をこれからも願っています」と自然に頭を下げている自分がいました。 校長先生はじめ、熱心に学習に取り組まれた学年の先生方、5年生の子ども達、そして三和っ子の素敵な姿を引き出して下さった竪畑さん、ありがとうございました。 次回の出前講座は、8月28日(水)玄門寺幼稚園の年長児のみなさんへの読み聞かせです。先生は、金沢おはなしの会の志村さん、澤崎さんです。みなさん、楽しみにして待っていてくださいね。 |
〇6月19日(水) 出前講座 杜の里小学校2年生
金沢の民話を学ぼう |
|
講師 : 吉國 芳子 金沢市立杜の里小学校2年生「金沢の民話を学ぼう」の学習で、吉國芳子さんの読み聞かせを各クラスごとで実施しました。全プログラムから抜粋して紹介します。 1 「あんたがたどこさ」 「さ」の時に手拍子を打つバージョン、「さ」の時に手拍子しないバージョンの2通りの歌い方で子ども達は童謡にチャレンジしました。唄いながらする(しない)手拍子では、間違えることを臆せず堂々とチャレンジしていく勇気ある子ども達の姿が印象的でした。エネルギッシュな杜の里小学校の子ども達との出会いとなりました。
2 紙芝居「子育てゆうれい」 紙芝居が始まる前、「幽霊のお話だよ」の吉國さんの声に興味津々の子ども達でした。吉國さんの拍子木に合わせた手拍子で紙芝居が始まりました。エネルギーある子ども達は、いつの間にか背筋が伸びて、輝く瞳で紙芝居の世界に入り込んでいきました。
まさに息を呑むような集中力ある静けさが訪れました。吉國さん演じる母親、飴屋の主人、和尚さん、そして赤ちゃんらを見事に使い分けた声に、登場人物の姿が今目の前にいると思う世界が広がっていきました。 最後に、吉國さんは、お寺と住職の写真、そして幽霊となった母親の絵を子ども達に見せました。お話が伝わる金石「道入寺」と円山応挙作と言われる「子育て幽霊の墨絵」の写真でした。最後、教室に帰る時には円山応挙作と言われる子育て幽霊の絵に手を振りながら一人一人が「さようなら」をしていく子ども達の姿がありました。子ども達にとっては「幽霊」というよりも「命が亡くなっても飴を買い続けて赤ちゃんを育てた優しいお母さん」という意識だったのかもしれません。素敵な子ども達の心に感じ入るばかりでした。 素晴らしい読み手は金沢民話の根底にある優しき世界に子ども達を誘うのでしょう。優れた読み手と感受性高い子ども達が一緒に創り出した伝承文芸の世界がここ杜の里小学校にありました。 3 語り「おばけ学校の三人の生徒」から 2022年1月に亡くなられた児童文学者「松岡享子」氏の作品を、吉國さんが語りと体表現で演じられました。内容を紹介します。
おばけ学校の三人の生徒(一年生、二年生、三年生)は立派なおばけになるために修行を重ねています。夏休みを迎えた三人の生徒たちに、先生はテストをすることになりました。先生から与えられた課題は次のとおりです。 ・おばけの「こうもりの羽ばたき」 ・おばけの「足音の立て方」 ・おばけの「人をびっくりさせるやり方」 一年生、二年生、三年生と、順に吉國さんは絶妙な語りと豊かな体表現力で、三人の生徒を演じ分けていきます。先生から「こんなのはだめだ!」「もうすこしだな!」「とってもいいじゃないか。マル!」と、その度ごとに生徒に語りかけていきます。もう杜の里小の2年生は吉國さんの語りと体表現に夢中になっていました。 友だち同士で笑い合う素直な子ども達がいました。エネルギッシュな中に、心豊かな感性を持つ子ども達がそこにはいました。 4 パワーポイント「法船寺のねずみたいじ」 【あらすじ】 金沢市の新橋と御影大橋の間、中央通り「法船寺」の話です。そこではねずみが悪さばかりをして和尚さんも困っていました。そんな時、近所のおじいさんが一匹の子猫を持ってきました。なんでもその子猫の母親はよくねずみをとる猫で、子どももよくねずみをとってくれるだろうと思って村人が持ってきてくれたのでした。
しかし、子猫は大きくなっても寝てばかりでねずみをとろうとしません。そんなある日、和尚さんはお寺の猫の夢を見ます。 「和尚さん、あのねずみはただのねずみではありません。能登の鹿島に強い猫がいます。私は助けてもらいたいと思います」と猫は言います。 2、3日して、お寺の猫は見たことがない猫を連れてきました。そして、2匹の猫は本堂の天井裏に上がっていきました。「ニャー、ニャー!」凄まじい戦いです。和尚さんもお経を読んで応援します。ついに、ねずみは天井から落ちてきて、お寺の2人のお坊さんに退治されました。しかし、2匹の猫はねずみの毒気にあてられたのでしょう。天井裏で下に落ちていったねずみをにらみながら死んでいました。 和尚さんは、その2匹の猫のためにお墓を作って毎日拝みました。今も法船寺には義猫塚(ぎびょうづか)といって、立派な猫のお墓が残っています。 子ども達は不思議な金沢民話の世界に引き込まれていました。まるで自分が勇敢な猫になったように応援している子ども達がいました。中には、猫の模様が入ったハンカチを私たちに見せてくれる子どもの姿もありました。読み聞かせが終わっても、吉國さんのもとにたくさん集まり歓談している子ども達の姿がありました。 杜の里小学校2年生は、パワフルで思った、感じたことを素直に声や態度で表現していく子ども達でした。読み聞かせや語りに聴き入る姿の集中度は高く、キラキラと輝く瞳が印象的でした。 他にも吉國さんは手品にもチャレンジしました。が、残念ながらすべて失敗に終わってしまいました。でもそんな失敗を誰一人笑うことなく、さりげない優しさで包み込む優しさある子ども達でした。 杜の里小学校の皆さん方の健やかな成長をこれからも心から願っています。素敵な出会いをありがとうございました。そして充実した時間を紡ぎ出して下さった吉國さん、ありがとうございました。 次の学校出前講座は、7月8日(月)金沢市立三和小学校5年生3クラス90名の皆さんです。各クラスで実施する3時間の講座予定です。講師は石川県児童文化協会理事長の 「竪畑 政行」さんで「俳句の学習」です。 夏の季語を使っての俳句学習です。楽しみに待っていて下さいね。 |
〇6月15日(土)第2回 小説講座
小説の実作について① |
|
講師 : 藪下 悦子(やぶした えつこ)(小説家) 第2回小説講座です。講師の藪下さんは、童話作家、小説家、そして『櫻坂』同人です。また、小説『こおりとうふ』で、第50回泉鏡花記念金沢市民文学賞を受賞されています。今年度は、藪下さんから貴重な講義をいただく時間を設けました。 内容を抜粋して紹介いたします。 1 自己紹介と事前アンケート項目から
(1)小説を書く目的をもっているか?〇明確な目標を持ちましょう。 ・文学賞に入賞する ・作家になる ・自費出版する ・同人誌で発表する 等々
※ハリーポッターの作者「J・K・ローリング」は、小説家として全く日の目を見ずに、貧困と心労のために深いうつ病になっていた。そんな彼女が30歳で「ハリーポッター」シリーズを完成させて巨大な富を得た。貧困な中、コーヒーをすすりながら執筆した作品が大ヒットした作者。ここにも夢物語があるのではないか。 ※小説は読んでもらうためにあるもの。その意味で書きっぱなしにしておくのはいけない。いろいろな文学賞に応募していくのも大切なこと。あなたが書いた作品は世の中に出してやらねばならない。 (2)書く時間をどれだけ確保しているか? 〇時間は確保するものです ・毎日時間をきめる。
・1週間に書く曜日と時間をきめる ・朝でも良い。隙間時間でも良い。時間を確保する。 ※「書く時間がない」を理由にしないこと。書かないと筆力は落ちるもの。 (3)書きたい小説の強い構想はあるか?それは原稿用紙何枚くらいの予定か?
・「読んでもらいたい」という強い思いこそ必要だ。 ・具体的に考えていくことが必要だ。 ※例えば「時代小説」であれば、嘘は通用しない。正しい知識が必要で図書館での地道な調査をしていく時間が大切である。 (4)小説を読んでいるか?小説を書くことを目標にしてライバルや友はいるか? 〇小説を読むことは絶対に必要。切磋琢磨し合う友やライバルが大切だ。・自分が書こうとしている小説(原稿用紙枚数)と同じ長さの作品を読んでいく。 ・自分の力を高めるために、意識して作品を読むことが大切だ。・違うジャンルの本も読んでいくことで広がりあるものとなる。 ・「あいつも今書いているんだ」と思える友やライバルが必要だ。 ・前向きに考えられる同人がいると良い。 2 小説の実作について(1)
➀小説とは自分が創り出した世界を、文字により読者に見せ、感じさせるもの
・知っている世界から書いていく
・設定力を鍛えていこう ・まず視点を決めよう ・説明しすぎないこと。描写で書いていくこと ・自分の経験と重ねて読んでいくこと ・知識をひけらかせてはならない。また教訓めいたものは誰も見たがらない。 ・登場人物の心を描いていこう➁「うまい小説」と「よい小説」の違いは?「読み物」と「小説」の違いは? ・「うまい小説」はスラスラと読める。でも内容がないものが多い。 ・「読み物」は出回っていてパターン化したもの。焼き直しがあり予定したとおりのものである。 ➂小説のパターンは今までに書き尽くされている。だがその中でも、自分しか書き得ないものを、自分でしかできない切り口で。どう書いていくか。 ・必然性があるものを。偶然も重なっていくと面白くなくなる。 ・インプットがあってこそアウトプットがある。でもそのままでアウトプットしたら他の人と同じものになる。自分の形としてアウトプットしなければならない。 ・既成のものと同じものではない。いつもと違う方向で書かねばならない。悪人を「悪」としてとらえてしまうのではなく、悪人の心を見つめて「悪人の正義」といった見方で人を見ていくことも大切である。 ・知識のひけらかしほどつまらないものはない。教訓めいた話など誰も読みたくない。 ・人はストーリーを読みたいのではない。人物の心を読んでいきたいのだ。 ・性格的にも欠陥ある人物がいて、そこに努力があり、共感があり、感動があるから小説となるのではないか。 ④小説を書くことに王道はない。たくさんの小説を読み、たくさんの小説を書きあげ、推敲をして文章を磨き、目標に向かって挑み続けること ・自分の書いたものを書きっぱなしにはしないこと。読み返さないのではなく、推敲をし続けることこそ大切だ。 ・初稿を推敲して磨くこと。そして合評をして他人に読んでもらうこと。耳の痛いところを指摘してもらうこと。耳の痛い話は取り入れていく。小説は作品が一人歩きしないことが大切だ。 ⑤書かない理由を探さないこと ・「忙しくて書く時間がない」は理由にしてはならない。 ・「書きたいものがないから書けない」ではなく「ないのだったら探しましょう」 『「自分の作品を世の中に出して多くの人に読んでもらいたい」「いつか文学賞をとって大金を手にしたい」等、どんな理由でもよい。明確な目標を持つ事が大切なのです』と語る藪下さん。小説家として日々研鑚に励み、努力を重ねてきたからこそ、説得力ある講義となりました。 最後、受講生から「藪下さんは、どんな目標で小説を書かれているのですか?」との質問がありました。藪下さんは2つの答えを語られました。 ➀出版社から依頼を受けて、世の中に自分の本を出して小説を読んでもらうこと
私には、天国におられる剣町柳一郎さんが、にっこりと微笑んでおられるように思えてなりませんでした。「小説を書くには明確な目標を持つこと」と語られた藪下さんです。➁自分の時代小説が世の中に出た時、そのインタビューで私は言いたいことがある。 「私の時代小説の師は『剣町柳一郎』です!」と。 これ以上に明確な目標はないのではないかと思えてなりませんでした。藪下さんには、素敵な切磋琢磨し合う同人(友、ライバル)と同時にかけがえのない大切な師が心の根底に存在しておられて、藪下さんの心を支えておられるのだと感じ入るばかりでした。 藪下さん、貴重な講義をいただきました。心より感謝申し上げます。 次回の講座は7月20日(土)Aグループ(皆川先生、宮嶌先生)、7月27日(土)Bグループ(皆川先生、藪下先生)で提出作品の批評会です。受講生のみなさんにはどちらのグループかをお伝えしていきます。 次回も充実した講座をと思います。受講生のみなさん、参加の方、よろしくお願いします。 |
〇6月15日(土)第1回 短歌入門講座
「ようこそ短歌の世界へ」 ~どんな歌が好きですか~ |
|
講師 : 栂 満智子(短歌雑誌「新雪」編集人) 入門講座の開講です。講師は、短歌雑誌「新雪」編集人を務め、ご自身の短歌集「ゆきあかり」にて第48回泉鏡花記念金沢市民文学賞を受賞された栂 満智子さんです。 講座は全3回で、第1回「ようこそ短歌の世界へ」、第2回「歌を詠む−感動を言葉に」、第3回「歌会を楽しもう」となっています。第1回講座内容の概要をお伝えします。 1 受講生の好きな短歌、自作(家族作)の短歌の紹介から 自分の好きな歌一首、または自作の歌を紹介していきました。一首ごとに栂さんの解説をいただきながら講座は進んでいきました。紹介いたします。
・韓衣裾にとりつき泣く子らを置きてぞ来ぬや母なしにして 読み方知らず ・七重八重花は咲けども山吹の実のひとつだになきぞ悲しき 太田 道灌 ・花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに 小野小町 ・靴紐を結ぶべく身を屈めれば全ての場所がスタートライン 山田 航 ・大空にとけゐるやうなガラス窓無心に羽ばたく鳥を撃ちたり 野村 義範 ※受講生自作 ・絶望もしばらく抱いてやればふと弱みを見せるそのときに刺せ 木下 龍也 ・紙切れを幹に押しつけ歌しるす山人われに春は来にけり 大瀧 市太郎 ※ご家族 ・京かのこ青葉の庭に色映えて用水の流れに風渡るらん 大谷 悦子 ※受講生自作 ・田子の浦にうち出でてみれば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ 山部赤人 ・葉ぼたんに日々飛び来たる蝶のゐて蒴果と見まがふ青虫うごく 森田 外志枝 ※受講生自作 受講生が好きな短歌、または自作や家族が詠まれた短歌を持ち寄り、自己紹介をしていきました。栂さんは受講生が紹介していく一首一首を慈しまれるように寄り添い、一人一人にお言葉をかけて下さいました。
「万葉集からですね。いつの時代も変わらぬ親子の情愛の深さが感じられる歌ですね」 「短歌はリズムと言葉が大切ですね。言葉は考え続けていると突然降ってくるものです」 「短歌は暗誦性が大切です。ぜひ言葉にして声に出して何度も詠んでいただきたいです」 「短歌は歌の記録になります。心の動きや思ったことが記録されていくのですね」 「みなさんの心の中に残る、心のつぶやきをためていってくださいね」 「一日一首、週に一首、自分の心の中で伝えたい歌を詠んでみてください。そんな習慣をつけていくことが大切です」 「独りよがりになっていないか、読み返してみてください」 「気になる言葉を見つけたら書き留めていってくださいね。言葉の貯金をしましょう」 「ときめきを探して、そんな出来事を歌にしていきましょうね」 「言葉の採取を大切にしてくださいね。自分で考えた言葉が大切なのですよ」 「枕元に手帳などを置いて、突然降ってくる言葉を書き留めていきましょう」 「みなさん、ご自分がシンガーソングライターになったつもりでね」 栂さんは受講生一人一人に寄り添いながら、温かく優しい言葉で受講生への共感を伝えながら、また時にはアドバイスもいれながら講座は進行していきました。ゆったりとした時間が流れ、ふと気づくとあっという間の90分間でした。 2 愛誦性のある歌から 栂さんから23首の短歌を紹介いただきました。その中で一部とはなりますが、紹介いたします。※受講生が心に残った11首となります。
・大海の磯もとどろによする波われて砕けて裂けて散るかも 源 実朝 ・幾山河越えさり行かば寂しさの終てなむ国ぞ今日も旅ゆく 若山 牧水 ・白玉の歯にしみとほる秋の夜の青海のあをにも染まずただよふ 若山 牧水 ・君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ 北原 白秋 ・寂しさに赤き硝子を透かし見つちらちらと雪のふりしきる見ゆ 北原 白秋 ・木屋街は火かげ祇園は花のかげ小雨に暮るる京やはらかき 山川登美子 ・大原女のものうるこゑや京の町ねむりさそひて花に雨ふる 山川登美子 ・東海の小島の磯の白妙にわれ泣きぬれて蟹とたはむれる 石川 啄木 ・観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生 栗木 京子 ・「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ 俵 万智 ・四万十に光の粒をまきながら川面をなでる風の手のひら 俵 万智 受講生一人一人の好きな短歌もすべてが違うものでした。他にも、与謝野晶子、長塚 節、正岡子規、大西民子、寺山修司らの短歌が紹介されました。 第1回の講座は、ゆったりとしたやり取りの中から、受講生一人一人の感じ方の違いを心から楽しんでいく時間となりました。この時間は、温かく、穏やかで、豊かなものとなりました。 今年の短歌入門講座は10名もの人に参加いただくこととなりました。なかには、ある受講生の友人が「金沢文芸館の小説入門講座の講義がとても充実していて有意義だったんだ。君も何か金沢文芸館講座を受講してみるといいよ」と勧められて入って来られた方もおいでました。 これからの短歌入門講座も楽しみです。栂さん、本当にありがとうございました。 次回は、7月20日(土)午前10時30分からです。今回も課題が出ています。 次回のテーマは「ときめき」です。「ときめき」とは「感動したこと」「発見したこと」「惹かれた言葉と出会ったこと」などです。受講生の皆さんが見つけた「ときめき」を、みんなで紹介し合います。「ときめき」は幾つあっても構いません。 第2回講座では、みなさんの「ときめき」をもとに、短歌を作成していきます。ご家庭で作られても構いません。 皆様、多数のご参加をお待ちしております。暑い日が続きますが、皆様、お身体ご自愛ください。 |
〇6月14日(金) 出前講座 浅野町小学校6年生
短歌について学ぼう |
|
講師 : 三須 啓子(日本歌人協会) 浅野町小学校6年1組25名、2組25名が参加して、出前講座「短歌について学ぼう」を実施しました。各クラスごとの講座で、講師は日本歌人協会の三須 啓子さんです。講座の内容を抜粋して紹介いたします。 まずはプリントに沿って授業が進行していきました。 1 短歌とは ・五・七・五・七・七の三十一音で作るリズムをもった日本の詩 ・初めの五句(初句)七(二句)五(三句)を上の句、残りの七(四句)七(五句・結句)を下の句といいます。数え方は、一首、二首、と言います。 ※まずは短歌の基本について学びました。浅野町小学校の6年生はこれから始まる学習に対してワクワクしている様子でした。 2 作り方について ・俳句のように季語は使わなくてもよい。一句ずつあけないで、1行に書く。 ・短歌は耳と目で味わう詩。漢字やひらかな・カタカナの配合を大切に。 ・短歌は、思っていること、感じたことを自由に述べることができる。だから汚い言葉を使わないこと。悪口もやめよう。 ・歌が出来たら、声に出して読んでみよう。 ・言葉の発見は、思いの発見。新しい自分をみつけることかも。 ※俳句の学習でお決まりであった「季語」。「短歌は必ずしも季語を入れなくても良い」という言葉に、まず新鮮さを感じている子ども達がいました。 ※「自由に述べることができるからこそ大切にしなければならないことがあるのだよ。それはね…「汚い言葉を使わないこと」「悪口もやめること」なんだよ」と三須さんは語られました。三須さんの言葉を噛みしめるように聴いていく子ども達の真剣な眼差しが大変に印象的でした。 ※「言葉を大切に」ということを三須さんは子ども達に伝えておられました。それを全身で受け止めていく浅野町小学校の子ども達の素晴らしき姿が随所にみられました。 3 短歌を読んでみよう ※三須啓子さんからの提示がありました。 ・消しゴムは小さくなるほど年をとる私たちとは真逆なんだな ※「真逆」という言葉に惹かれている子ども達の意見が出されていました。 ・黒板のみぞに置かれた消しゴムはさびしそうですひとりぼっちで※消しゴムを生きている人のように表現をしていることに驚きと感動をもってみつめる子ども達がいました。 ・弟よおれが卒業した後は絵の具や消しゴムもう貸せないぞ※「もう貸せないぞ」という強く思える言葉に隠された兄の愛情の深さを感じ入る子ども達がいました。 ・花がまう真っ青な空見上げれば転校の子を乗せた飛行機※さくらの花が舞う真っ青な空、そしてその中を飛んでいく飛行機です。そして転校する友達への思いを寄せる作者です。その優しさに心惹かれていく浅野町小学校のみんながいました。 ・春休みおじいちゃんちのにわのおくかすかに光る雪のけっしょう※昨年度の日本歌人協会賞に輝いた小学校3年生の作品です。それを聞いた時に自然にどよめく子ども達です。「この歌のすごさに何気なく気づいて驚く」感性の鋭い浅野町小学校の子ども達がいました。素晴らしいです。 ・「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ※俵万智さんの作品です。「寒いけれどあたたかさを感じる」「なんかあたたかさとやさしさを感じる短歌です」と次々に感想を言う子ども達がいました。 この後、子ども達は、頭に浮かんだ言葉や情景などをメモして、それをもとにして自分で短歌を作っていきました。できた人からどんどんと声に出して自分の短歌を読む子ども達。みんなから自然な拍手をもらっての学習となりました。 2クラスとも素敵な短歌がいっぱい読まれたのですが、この後、「日本歌人クラブ全日本学生・ジュニア短歌大会」に応募するためにブログでみなさんに紹介することができません。 「金沢文芸館でも展示していただけたら…」とのことで、時期は未定ですが、金沢文芸館でも短歌を応募いただいて展示していきたいと思います。 その時は、ぜひご家族揃って見に来ていただけたら幸いです。そして3階 泉鏡花文学賞、泉鏡花記念金沢市民文学賞の作品の数々、そして郷土の作家の作品、2階では五木寛之文庫に触れていただけたらと思っています。 浅野町小学校のみなさんが、将来に向かって創作文芸である短歌に興味を持って歩んでいかれることを心から楽しみにしています。 ある子が「私は百人一首が好きです」と言って、好きな歌を紹介してくれました。紀友則(きのとものり)の歌です。 「ひさかたの光のどけき春の日にしづごころなく花の散るらむ」 ※現代語訳 →こんなに日の光がのどかに射している春の日に、なぜ桜の花は落ち着かなげに散っているのだろうか。 情景が目に浮かぶ非常に視覚的で華やかな歌です。と同時に散りゆく桜のはかなさに心を寄せている名歌です。私たちに目を輝かせながら「好きだ」と言える浅野町小学校の子ども達に学ぶことが多かったです。 「ありがとうございました」「また来てください」そんな声を、私たちの前に来て自然に心を込めて静かに語りかけてくれる子ども達がそこにはいました。 素晴らしい出会いをいただいた私たちが学ぶことが大きかったです。みなさんの作品を短歌大会に応募できること、そして本館にみなさんの短歌を展示できるよう歩んでいけることを嬉しく思っています。 浅野町小学校の6年生のみなさん、そして校長先生はじめ、担任の先生方、本当にありがとうございました。どうぞ、短歌を創り続けていただけたらと願っています。 次回の学校出前講座は、6月19日(水)金沢市立杜の里小学校2年生のみなさんで 「お話の読み聞かせ」です。講師は「吉國 芳子」さんです。楽しみにしていてくださいね。 |
〇6月10日(月) 出前講座 浅野川小学校4年生
三文豪について学ぼう |
|
講師 : 薮田 由梨(徳田秋聲記念館 学芸員) 浅野川小学校4年生2クラス計48名が参加し、出前講座「三文豪について学ぼう」を 実施しました。2クラスまとめての講座で、講師は徳田秋聲記念館の「薮田 由梨(やぶた ゆり)」学芸員です。まず「三文豪とは」の話から始まりました。 ◇金沢の「三文豪」とは
金沢「三文豪」とは「三人」の「文学者」で「豪い(えらい)人」を表します。「徳田秋聲」「泉鏡花」「室生犀星」のことです。作風は異なりますが、三人とも故郷の金沢を離れて東京で作家活動を続けました。ふるさと金沢に愛着を持ち、金沢を舞台にした作品も少なくありません。 ◆徳田 秋聲(とくだ しゅうせい) 明治4年、浅野川に近い横山町生まれ昭和18年に亡くなる。 本名:末雄(すえお)
◆泉 鏡花(いずみ きょうか)
徳田秋聲は、人々の何気ない日常生活を生き生きと描き出し、そのまま作品に描いています。自然主義文学の作家です。 ・洋服が好き ・ダンスが趣味 ・動物が苦手 ・代表作は 黴(かび)、爛(ただれ) 明治6年、浅野川大橋近くの下新町(泉鏡花記念館の場所)に生まれ、昭和14年に亡くなりました。 本名:鏡太郎(きょうたろう)
◆室生 犀星(むろお さいせい)
鏡花は、心の中で空想したファンタジックできらびやかな世界、幽霊や妖怪などが登場する不思議な夢物語を創り出すのが得意な作家です。鏡花は秋聲とは正反対の作風でお互いに喧嘩することもありました。 ・うさぎのコレクター ・かなりのきれい好き ・代表作は「化鳥」「天守物語」 明治22年、犀川の畔にある千日町に生まれ、昭和37年に亡くなりました。
犀星は、秋聲・鏡花よりは十数年も年下で、小説家・詩人・俳人でもあります。なかには、子ども向けの作品もあり親しみやすい作家と言えます。 ・庭づくりが趣味 ・動物好き ・代表作は「杏っ子」「動物詩集」「蜜のあはれ」 ◇世界で一枚の三文豪マップを一人一人が作成しよう。
・プリント「三文豪地図」に描かれているのは『鼓門』『兼六園(ことじ灯篭)』『金沢城』『徳田秋聲』『泉鏡花』『室生犀星』のイラストです。 ➀一本目の線を引いてみよう!「地図の左上にある☆印の右下から出て金沢駅に向かいます。そこからぐいと曲がって徳田秋聲と泉鏡花の間を通って右へ突き抜けましょう。」 ②二本目の線を引いてみよう!「金沢駅の右から出て金沢城、兼六園の下側を通ります。そして最後は右下に突き抜けましょう。ただし一本目の線とクロスしてはいけませんよ。」 薮田さんの指示を聴いて二本の謎の線をフリーハンドで書いていきます。そして薮田さんから問いかけがありました。「二本の線は何を表しているのかな?」と。 子どもたちは答えていきます。すぐに「川?」「浅野川」「犀川」と出てきました。 続けて「犀川に近いところは室生犀星がいるんじゃないのか」とお話してきます。 浅野川沿いにある泉鏡花と徳田秋聲の記念館、犀川沿いにある室生犀星記念館。三人の作家と二つの川との関わりに自ら目を向けていく子ども達です。 そして★印が浅野川小学校を表していることに気づきます。もちろん学校のそばには自分で引いた浅野川の線があります。喜びある子ども達の笑顔が満開です。 二つの川が流れている金沢市。自作の地図を見て三文豪ゆかりの地と二つの川との関わりを自然に学ぶ子ども達の姿がありました。 次に、十二干支の方位表をもとに、泉鏡花は酉年で「向い干支のウサギ」を大事にしていたことを知る子ども達です。 「鏡花は向かい干支のうさぎをラッキーアイテムしてグッズを集めていたんだよ」 そんな薮田さんの話を聞いた子ども達は自分の干支と向かい干支に関心を持ちます。 「みんなは「うま(午)年」だから、向かい干支は「ねずみ(子)だね」」 「エー、ねずみ? …… でもミッキーも? うわあ!いいかも」と喜ぶ子ども達。 「未(ひつじ)年もいるね。向かい干支は「丑(うし)」だよ」との薮田さんの声です。 子ども達は、泉鏡花の気持ちになりながら、向かい干支を興味深く思い描いていたようです。 「また、秋聲はひつじ(未)年。向かい干支のうし(丑)年は犀星なんだ。なるほど。だからこの二人はとっても仲が良かったのかもしれませんね」 「それに比べて酉(とり)年の鏡花は、秋聲とは描く小説が全く違っていて、ケンカをすることもあったのだよ」との話もありました。 向い干支からさりげなく「秋聲と犀星の交遊関係」を伝える薮田さん。どんな専門書でも得られない学ぶ喜びある時間となりました。 徳田秋聲記念館の薮田由梨学芸員には、4年生にわかりやすく授業いただきました。薮田さん、浅野川小学校の先生方、そして子ども達。素敵な出会いをありがとうございました。浅野川のほとりにある浅野川小学校で、金沢偉人の学習で「金沢の文学」について探求している子ども達がいることに感心するばかりでした。 これから、金沢三文豪はじめ、石川県の数ある作家の作品にふれる機会もあると思います。今回の学びが小さな貴重な火種となって、みなさんの人生において「一つの光明」とならんことを願っています。素敵な出会いをありがとうございました。 |
〇6月9日(日)第2回 朗読会『青春の門 自立編 後半部』
□命を懸けて織江を助ける信介の男気 |
|
朗読: 髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表) 信介はカオルから織江の居場所を教えてもらいます。信介は意を決して織江を取り戻そうと「照葉」という店に向かいます。そこで信介はヤクザに売られてユカリという名で働いている織江と会います。 信介は「照葉」で北池会の客分である「人斬り英二」と出会います。英二は、自分の身を投げ出して織江を助け出そうとする信介の男気に感心して信介を助けます。 英二とその女「お英」のおかげで、店抜けして信介のもとに戻ることができた織江。 そして命懸けで助けてくれた信介の胸の中で安堵する織江がいました。 (「夜の迷路をぬけて」「人斬り英二」から)
* * * * 60分間ぴったりの朗読でした。今回の場面は、信介が織江を助けるために自分の命を懸けて挑み、北池会の客分で、つい先月、つとめから帰ってきた「人斬り英二」と勝負する緊迫の場面です。もちろん赤子の手をひねるようにやられてしまう信介でしたが、塙竜五郎に恩義ある「人斬り英二」は、信介の一途な思いにほれ込み、人肌脱いでいくことになります。 緊迫感、臨場感、そして仁義を大切にした世界を、見事なまでに朗読されていく髙輪さんの姿がそこにはありました。 あっという間の60分間となりました。中には、頷きながら髙輪さんの一言一言を聞き逃すまいとする方もおられました。髙輪さん、ありがとうございました。 今回、髙輪さんの朗読に対する感想を手紙にしたためてこられた方がおられました。一部ではありますが、ご紹介いたします。 『一昨年、ボランティア大学の研修で館長の熱心な勧めで「あかり坂」(五木寛之作)を拝聴しました。1回目は「朗読とはこんなものか」と興味半分で聞いていました。2回目も同じで「キョロキョロ」していました。ところが篠笛との対決で鳥肌がたち、夜の影静かなる浅野川の情景が浮かんできました。朗読の力と怖さを垣間見た瞬間でした。昨年はボランティア活動仲間を誘い、心が弾む1年でした。 ほんの一部抜粋です。この後も、髙輪さんとお話させていただいたこと、内灘夫人を読んでの感想、作家吉田健一のこと、「あかり坂」と命名された五木寛之氏の作家としての凄さ等、いっぱいの熱い思いが綴られていました。 「朗読会に導いてくれてありがとうございました」と結ばれたお手紙でした。 髙輪眞知子さんの朗読の力は、人の生き方にも大きな影響を与えておられるのだと改めて思いました。 だからこそ、このかけがえのない灯を絶やしてはならないのだと思います。新規の受付もしております。髙輪眞知子さんの貴重な朗読の機会を多くの方々に知っていただきたいと思っております。髙輪さんの朗読はもちろん、こうやって自分の想いをお手紙にして届けて下さった方にも心より感謝いたします。ありがとうございました。皆様のおかげです。 さて次回、髙輪眞知子さんの朗読会は「青春の門 自立編」の後半部分3回目です。7月14日(日)14時です。「男の生き方」からの朗読です。ぜひご参集ください。新規の方も受付いたします。心よりお待ちしております。 |
〇6月8日(土)第1回 詩入門講座 詩というもの1(詩に親しむ)
詩を読み、学び、書こう! |
|
講師 : 木村 透子(詩誌「イリプス」同人) 今年度の詩入門講座は三人の講師の方にお力いただきます。紹介します。 井崎 外枝子先生(詩誌「笛」同人)、木村 透子先生(詩誌「イリプス」同人)、 和田 康一郎先生(金城大学非常勤講師)です。 今年度は、中野 徹先生のご逝去に伴い、新たに木村 透子先生を講師にお迎えしての講座となります。7名の受講生での講座がスタートしました。より深まりある講座を目指して、講師の先生方にも新たな工夫をいただいています。講座から抜粋して紹介します。 1 新たな講師「木村透子」さんのプロフィール紹介から ・1999年頃 金沢市竪町商店街主催「詩のボクシング」らに参加し優勝。
審査員は、ねじめしょういち、村井幸子、井崎外枝子。 これから本格的に詩を書き出す。 ・2004年 第一詩集『メテオ』(ふらんす堂)を出版 ・2005年 宝塚に転居 大阪文学学校の詩創作課程に入学 ・2007年 神戸女子大のオープンカレッジの詩創作と講義の受講 倉橋健一氏とたかとう匡子(まさこ)氏に学ぶ 2020年頃まで通学 ・2011年 第2詩集『黄砂の夜』(思潮社)を出版 ・2015年頃 同人誌『イリプス』に参加 ・2022年 金沢市に転居 ・2024年 金沢文芸館に詩入門講座の講師となる。 2 木村透子さんの詩との出会い ―私の愛する詩― 木村透子さんを詩の世界に誘ったのは『鈴木ユリイカさん「生きている貝」だ』とお聴きしました。木村さんから全文朗読をいただいたのですが、ほんの一部を抜粋しての紹介をいたします。(全文は1200字ほどの詩となります) 「生きている貝」 鈴木ユリイカ
今まで経験のない長い詩に様々な思いを受講生は持ったようです。外では雪が幽かに降りはじめたようだ 「働きすぎじゃない? あたしたちって、どうなるのかしら?」 24時間も眠らずに仕事をし 真夜中に帰ってきたあなたが ものも言わずビーフシチューを食べ 果物の皮をむくのを見ていた私は 何かの不安にかられ あなたに聞いたのだ 音なしテレビの瞬きの中にいたあなたは いよいよ寝床に入る段になって ふすま一枚へだてた葉なりの部屋から ゆっくりと 答えた 「あの貝のこと憶えているだろ? ぼくらはあの貝のようになるのさ。」 (以後、略) 「聞いていると言葉が押し寄せる波のようで、穏やかで温かい気持ちになりました」 「長い詩で自分にとっては戸惑いもあった。自分が愛する武者小路實篤のような短く凝縮した言葉で語るのが好きな自分にとっては、この詩はとても新鮮な感じがしました」 木村透子さんが詩人としての道を歩むきっかけとなった詩の紹介は、受講生にとっても 新鮮な驚きをもって聞かせていただくこととなりました。 3 『何のために詩を書くか』―参考資料から― 〇新藤 涼子さんの文章から 「自分のために書かれたものであっても、自己を突き抜けて普遍となる強さと高さがほしい。私たちの目で見えるものの奥や裏に隠されている本当の姿を視通す目を持たなくてはならない。それは現実と真実を発見させることであり、人間世界や宇宙を越えて彼岸にまでも深い洞察を行うきっかけとなる。 「死ぬ代わり殺す代わりに詩を書く。が、生きる代わりに書くのではない」 〇日高 てるさんの文章から「創造とは、日常、社会の風景をあなたの思考の器に導き入れて送り出すとき、対話し彼らの語りを記録してごらん、それが表現の一つです」 〇長谷川龍生さんの文章から「現実の自明の理を壊していく。その非現実の分野に想像力を伸ばしていく。そうでないと現代詩は愉しくならないのです」 〇江戸 雪さん(歌人)の文章から「詩である河野裕子さんに歌を見てもらうときは、必ず歌の奥にある私自身へ突き刺さるような問いを投げられた。『これが本当のあなたの言葉ですか、その答えはあなたの中にしかありませんよ』と。怖かったけれど、自分でも知らなかった心の暗がりを共に覗いてくれた。その時に見た淵は、今でも歌を作るときに佇む場所だ」 また、今年92歳を迎えた谷川俊太郎さん(朝日新聞 2024年4月28日、29日、 30日 文化面 -未来を生きる人たちへ-から) 〇いきる 「違うもの書くには 変わらなきゃ」
〇はなす 「表現できる自己なんてあるのかな」 〇あいする 「命の基本 好きって単純で力がある」 〇きく 「無意味がえらい 美しく楽しい言葉を」 〇つながる 「言葉って、万人共有のもの」 4 自分のお気に入りの詩を見つけよう 木村さんは、いろいろな作家の優れた詩を見つけて詠んでいくことの大切を語られました。本講座では、いろいろな本や記事から紹介いただきましたし、重い本を抱えながら「受講生の方によかったら読んでいただきたくて…」ということでいろいろな詩集を紹介いただきました。 本文芸館に新たに常設しましたのでご覧いただけたらと思います。紹介します。 ・詩集「黄砂の砂」 木村透子 思潮社 ・季刊「イリプス」05、06、07 ・詩集「アナザミミクリ」 藤原安紀子 書肆山田 ・詩集「1 サイードから風が吹いてくると」鈴木ユリイカ 書肆侃侃房 ・詩集「2 私を夢だと思ってください」 鈴木ユリイカ 書肆侃侃房 ・詩集「3 群青君と自転車に乗った白い花」鈴木ユリイカ 書肆侃侃房 ・詩集「ウイルスちゃん」 暁方ミセイ 思潮社 ・詩集「魔法の液体」 山口洋子 思潮社 ・詩集「出口という場処へ」 永井章子 澪標 ・詩集「耳凪ぎ目凪ぎ」 たかとう匡子 思潮社 ・詩集「官界の行方」 青木左知子 澪標 ・詩集「蝙蝠が歯を出して嗤っていた」猪谷美知子 澪標 3階常設です。ぜひご覧ください。 木村透子さんの作家としてのお話、そして今回は和田先生も参加され貴重なお話をいただきました。お二人の先生方、ありがとうございました。 次回は、7月13日(土)「試作詩の批評と推敲」です。試作品の提出は6月21日(金)テーマ「樹」です。皆さまの参加をお待ちしております。 |
〇6月8日(土)第2回 小説入門講座
小説作りの基本とは |
|
講師 : 小網 春美(「飢餓祭」同人) 第2回小説入門講座の講師は、小説家の小網春美さんです。小網さんは2023年度、「しずり雪」(能登印刷出版部)にて「泉鏡花記念金沢市民文学賞」を受賞されました。小網さんは、2008年度から15年間、小説入門講座の講師を務め、たくさんの受講生を育ててこられました。また、長い執筆活動の中から学んでこられた教えを講義いただきました。一部とはなりますが、紹介します。 ◎小説を書く意味は?
1 小川洋子「深き心の底より」に収められた「人間の哀しさ」から・小網さんは講座の初めに、まず本作品を朗読されました。※次は抜粋です 子供の頃、自転車に乗った、野菜売りのおじいさんがいた。小雨が降っていた日、商売がすんだおじいさんが家の前に止めた自転車に乗ろうとしていた、不自由な足を両手で持ち上げようとするのだが、すぐバランスを崩してしまう。自転車はぐらぐらし、売れ残った野菜は雨に濡れ、足は頼りなくだらんとしている。しまいにおじいさんは、「乗れん」とつぶやいて、自分をあざけるように弱々しく笑った。(中略)
私は夜、その光景を繰り返し思い浮かべて泣いた。泣くことが一番ふさわしいわけではないと分かっていたが、他に気持ちを表現する方法を知らなかった。 単純にかわいそうに思ったからではない。手助けすべきだったのにと後悔したわけでもない。はかなく、哀しい様子を目のあたりにし、深く心に染み入り、いとおしく思う。そんな感じだろうか。でもいくら言葉を継ぎ足しても、足りない気がする。 (中略)
自分が今目にしたものは何だったのか。当時は見当もつかなかった。わけもわからずただ泣くしかなかった。やがて私は小説を書くようになった。涙の代わりをしてくれる表現の方法を、ようやく見つけた。(後略)
小川洋子さんの「小説を書く意味」の重さが私たちの心に染み入ってくるような小網さんの朗読でした。本文は1997年5月26日毎日新聞に「あはれの記憶」として掲載されたものからの一部抜粋です。
講座が終わっても、本文を何度も読み返して小川洋子さんの思いをつかもうとする私たちがいました。 小川洋子さんの小説は、小説講座でも具体的な本が毎年取り上げられての講座が実施されています。 「小川洋子さんの作品をいろいろ読む中で、小川さんの真意がより深く理解できるのかもしれない」 そんなことを思わせる講座の始まりとなりました。 2 短編小説を書こう (1)注意事項は? ➀1週間から1か月に起こった出来事で
(2)題材を探そう。普段の生活から➁場所は移動しないで ➂登場人物は4人ぐらいで ④事件は少なく ➀人との関わりから題材を見つけていこう
(3)次回の提出作品テーマ「坂」で小説を書いてみよう②人を眺めていると小説の種がみつかる ➀人は心のどこかにため込んでいるものがある。無から引っ張り出そう。
(4)誰の視点かを考えよう②坂道があることで人は忍耐強さが身につく。また人の情緒も生まれる。 ➀一人称か三人称かを決める
(5)丁寧語、常態語かを決めよう・一人称…主観的になる ・三人称…客観的になる ②視点は決めたら決してぶれないように。一貫性が大切。 ・丁寧語…です、ます調
(6)短い文章を心がけよう・常態語…である調、だ調 ※小説は7、8割が「常態語」である。 ・文章が長いと、主述関係が変わってくる可能性あり。
(7)文章でなりがちなことと心がけについて・長い文章は、論理的に矛盾が生まれやすい。 ・しばらく時間をおいて読み返そう。客観的に読むことが大切だ。 ・文章がすべる時は抑制を利かせよう
・自分の文章に酔わないこと。興ざめしてしまう。 ・「すごい」「本当に」などは他の文章で表現していこう。 ・ありきたりの表現はしない ・「言う」 →「つぶやく」「話す」「吐き捨てる」「小声でささやく」「大声でどなる」 「口ごもる」「申す」など ・的確な言葉をさがしていく →まゆをひそめて「……」と言った →この言葉でいいのかと自分自身で問いかける ・「現在形」「過去形」バランスよく使い分ける 「現在形」は臨場感が出る。「過去形」ばかりだとつまらない表現となる 最後には、小網さんから「良い小説を読むこと」「意識して良き小説を読んでいくこと」との話がありました。読んでもらいたい作家名もあげていただきました。 ・小川洋子 ・川上弘美 ・重松 清 ・村上春樹 ・宮部みゆき ・宮本 輝 ・志賀直哉 ・森 鴎外 ・芥川龍之介 ・三浦哲夫 ・チェーホフ ・ヘミングウェイ など 金沢文芸館でも上にあげた作家(邦人名)の本を取り揃えています。ぜひ受講生の皆さんには来館いただいてお読みいただき研鑚を積んでいただきたいと思います。お待ちしています。 本日の講座は、「今日の講座は参加できてよかったです。私は感動しました」と頭を下げていかれる受講生もおられました。 第2回講座は、小網さんの小説家としての歩み方もふんだんに取り入れての充実した講座となりました。小網さんありがとうございました。 次回講座は、7月13日(土)「小説を書く力」で10時30分開始です。講師は高山 敏先生です。多数の皆様のご参加をお待ちしています。 |
〇5月30日(木) 出前講座 馬場幼稚園 年長児 おはなしの会を楽しもう |
|
講師 : 宮﨑 雅子(みやざき のりこ)(金沢おはなしの会) 金沢市小橋にある馬場幼稚園を訪問しました。はだしで園庭を駆け回る園児たち、ノアの箱舟をイメージした落ち着いた読書スペース、また階段横のスペースには絵本や大人向けの本がずらりと並んで、いつでも親子で読める場が提供されています。どの絵本もよく読み込まれ、実によく手入れ(修繕)されています。素晴らしい読書環境がそこにはありました。 中に入ると柔らかな笑顔の園児と先生方が「こんにちは」と実に柔らかな声で自然なあいさつをしてくれます。お話できない小さな園児もまんまる目で見つめながら一歩ずつ近づいてきます。たくさんの園児に自然に声をかけている私たちがいました。 そんな温かで柔らかな声と笑顔あふれる園の中で、年長児26名へのストーリーテリングが始まりました。 講師の先生は「金沢おはなしの会」の「宮﨑 雅子」(みやざき のりこ)さんです。 まず本日のプログラムを紹介します。 ◆プログラム【宮﨑 雅子さん】 ①詩 「でたりひっこんだり」 『のはらうた』くどうなおこ(こぐま社) ②えほん『ゆかいなかえる』 ジュリエット・キープス ぶん・え (福音書店) ➂えほん『へそもち』 渡辺茂男さく 赤羽末吉え (福音書店) ④♪手あそび 「ぽっつん ぽつぽつ」 ⑤おはなし「きしむドア」『英語と日本語で語る フランと浩子のおはなしの本(第2週)』 (一声社)
●プログラムから一部紹介します。 〇えほん『ゆかいなかえる』 4匹のかえるたちの一年間の楽しい物語です。水の中の4つのたまごは、おたまじゃくしからりっぱな4匹のかえるに成長します。かえるたちは、泳ぎの競走をしたり、かたつむりをかくしっこしたり、ときには敵から身を上手にかくしたりと仲良くくらします。
そして夏が終わり、冬がくると、花が咲く春まで眠ります。 かえるたちの楽しげな暮らしが生き生きと語られるえほんです。 ◇子ども達の姿から
「良かったね。上手にかくれているよ」「サギをだませてよかったね」「これは『とうみん』なんだよね」一つ一つの反応がとても温かいのです。みんな自分たちがかえるになった気持ちでの反応をしていく子ども達の姿がとても素敵でした。
〇おはなし『きしむ ドア』 ※2つ、みんなにお手伝いをしてほしいことを宮﨑さんは伝えました。
➀「『電気を消して下さい』と言ったらひもを引っ張って『パチン』と言って下さいね」 ➁「『ドアを閉めて下さい』と言ったら、声も入れ怖そうに『ギギギ…』(動作まじえて)として下さいね」 ※そしておはなしが始まりました。 男の子が言いました。 「おばあさんのうちに泊まりにいっていいですか?今夜はこわがらずに眠れるよ」 そして男の子が眠る時、おばあさんは「電気を消して下さい」と言いました。 (園児はひもを引っ張る動作をしながら「パッチン」と言います) 次にきしむドアを閉めました。「ギギギギギ…」 (手のひらをドアに見立てて怖さいっぱい「ギギギギギ…」と戸を閉めていきます) もう男の子はこわくて眠ることができません。 ※この後おばあさんは男の子が怖くないように、「ねこ」「犬」「ブタ」「羊」「馬」などを順番に連れてきますが、最後には男の子だけでなく動物たちもみんな怖くて泣きだしてしまいます。 ◇子ども達の姿から
子ども達は動物が増えるたびに顔を見合わせて微笑んでいきます。音声化と動作化を入れていくことで、感情移入がよりできるようになったようです。
最後「馬」が出てきてベット下に隠れることができなくなった時には、子ども達は楽しくてたまらない様子が見てとれました。宮﨑さんの巧みなストーリーテリングで、一人一人の頭の中でお話が見事に組み立てられていくのを感じずにはいられませんでした。 素晴らしいおはなしの会となりました。おはなしの会が終わっても子ども達の笑顔はそのままでした。子ども達はお別れの時、笑顔で「ありがとう」「さようなら」と話しかけてきて、中には手のひらをパッチンと差し出す子もいました。 宮﨑 雅子さんの読み聞かせは、誇張された表現、身振りはありません。それゆえにお話の内容が純粋に心に染み入るように届けられている気がしました。 修錬された巧みな読み手である宮﨑さん、そして「良かったね」と温かな合いの手を入れ、聴き入る子ども達。両者の絶妙なやりとりがあったからこそ、こんな素敵な時間を共有できるのだと思いました。 金沢おはなし会の宮﨑 雅子さん、馬場幼稚園の園児のみなさん、そして園長先生はじめ先生方、素敵な時間をいただき、誠にありがとうございました。 子ども達にとって、そして私たちにとって大切な愛を育む幸せな時間となりました。心より感謝いたします。 次回の出前講座は6月10日(月)金沢市立浅野川小学校4年生の予定です。講師は徳田秋聲記念館の「藪田 由梨」学芸員による「金沢の3文豪」(金沢の文学)の学習です。学芸員さんに学ぶという大変に貴重な機会です。子ども達にとって充実した学習になるようにと思っています。充実した時間としてまいりましょう。 |
〇5月18日(土)第1回 小説講座 ~短編小説の魅力について~ |
|
講師 : 宮嶌 公夫(みやじま きみお)(『イミタチオ』同人) 小説講座のスタートです。受講生は14名で定員いっぱいまで受け入れさせていただきました。高校生から広い年代にわたっての受講で、各世代の方々と交流して多様な価値観を学んでいく貴重な機会となります。ぜひ充実した講座にしていきたいです。 第1回目講師は文学誌『イミタチオ』同人 宮嶌 公夫(みやじま きみお)先生です。宮嶌先生は各作家の作品分析等をされて「評論活動」をされている方です。それでは講座について抜粋して紹介します。 1 小説とは? ➀前提として →虚構(フィクション)であること。読み手を想定して書かれていること。 ②随筆(エッセイ、身辺雑記)との違いは? →フィクション性の高さ 随筆 ⇒ 語り手=書き手(作者) 小説 ⇒ 語り手 ≠ 書き手(作者) ③語り手の設定 → 作者 ⇒ 物語を構築する 語り手(△作者) ⇒ 物語を進める → 自分を語る語り手 ⇒ 一人称 自分以外を語る語り手 ⇒ 三人称 ⇒ 焦点化する人物(視点人物)=ぶれない 2 短編小説とは? ➀長編小説との比較 ・受講生から出た意見の一部です。 長編小説
・登場人物の数が多い
・本が厚い(300枚以上?) ・複数、表現したいことがある ・強烈度が控えめである ・頭抱えながら長期間悩んでいる感じ ・話の筋がゆるやかな感じで 短編小説
・登場人物の数が少ない
・本が薄い(10枚から80枚まで) ・一つ、表現したいことがある ・強烈度が大きい どうだ!って感じ ・やる気満々で強い覚悟がある感じ ・起承転結がはっきりしている感じ 受講生からはいろいろな反応がありました。宮嶌先生の絶妙な合いの手もあり、 みんなが笑顔で楽しんで考えていく時となりました。
さて宮嶌先生からは、次解釈が受講生に語られました。 ・宮嶌先生から 長編小説
・ストーリー性がしっかりとあるもの
・複雑な人間関係を描いたもの ・視点人物を変えて表現していくのが可能であること ・壮大な歴史の中で前後関係がいろいろと描かれたりしたもの ・複雑な時間構造を描くのが可能 短編小説
・「一瞬」に心をこめていくもの
・限定された登場人物で描かれたもの ・視点人物を多様化するのは不可能である ・プロットを重んじ因果関係を意識して出来事を組み立てていくもの ・単純な時間構造でしか描けないもの この後、短編小説に求められるもの ➂魅力ある短編小説 ④全体として
と順を追ってお話いただきました。講義は的確な言葉でまとめられたプリントにて、大変にわかりやすく説明いただく時間となりました。 3 作品「晴れた空の下で」(江國 香織氏 新潮文庫)から 最後に、「晴れた空の下で」(江國 香織氏 新潮文庫)を使っての学びがありました。本作品は3600字ほどの作品で400字原稿9枚ぐらいになる短編小説です。
➀あらすじ 老人「わし」の一人称の語りの小説です。「わしらは最近ごはんを食べるのに二時間もかかりよる」からお話は始まります。妻の「婆さん」の料理を味わいながら、長い年月での思い出、穏やかな懐かしい夫婦の日々が語られていきます。 そんなある日、わし(老人)は婆さんと散歩にでかけた懐かしい述懐を終え、満ち足りた気持ちで戻ってきます。すると、そこには次男の嫁の「妙子」が食事のあとかたづけをしていました。会話をしていく中で、老人(わし)は去年の夏に「婆さん」が死んだことを思い出すのでした。 老人「わし」は、最後「わしは、最近、ごはんを食べるのに二時間もかかりよる。入れ歯のせいではない。食べることと生きることの、区別がようつかんようになったのだ」と述懐してお話は終わります。 この教材をもとに、次のことについても意見交流も交えながら深めていきました。 ➁物語の構造について → 人物構成・・・老夫(焦点化)・老妻・娘 → 時間経過・・・物語現在(老夫の記憶) → 作品構造・・・前半・後半の対比 → わしら ⇒ わし → 老婆との日常の記憶 ⇒ 老婆の死という現実 → ほのぼのとした時間 ⇒ 打ちのめされる時間 → 卵焼きと手毬麩のおつゆ(老婆 ⇒ 妙子) 後半にむけての伏線 この他、「物語の描写(擬態語・擬音語、リピート表現)」や「物語の主題」についても、いろいろな解釈をまじえながら深まりある講義をいただきました。宮嶌公夫先生、ありがとうございました。 さて、第2回講座は「6月15日(土)小説の実作について①」で、講師は藪下悦子先生(櫻坂同人・小説家)です。今度は小説家の先生の講義となります。ぜひ今回同様に、充実した講座となるよう準備していきます。 なお、次回講座までに課題が2点提示されました。提出〆切の課題となっていますので、 ご確認下さい。 A 課題……試作「掌編小説」創作と〆切日について ➀ 提出〆切日 6月15日(土)第2回講座時までに提出 ② 400字詰めの原稿用紙で3枚から5枚まで ※字数です ③ テーマ ・食物・履き物・風景・別れ・勇気・自由テーマ ※テーマは先の5つの中から1つ、または自由テーマを選んで掌編小説を作成してください。題名は別に自由につけてください。批評会は、1グループ7月15日(土)、 2グループ7月22日(土)で、どちらかに所属いただいての批評会となります。 ただ、今年度より自分の作品の批評会ではない時でも、希望があればオブザーバーとして参加することもできます。参加希望の方は必ず事前に金沢文芸館スタッフまでお知らせください。座席準備の都合がありますのでよろしくお願いします。 B 課題……第2回講義の藪下悦子氏よりアンケートが宿題となっています。提出はありませんが、書いてきて参加ください。 |
〇5月17日(金) 出前講座 浅野川中学校 文芸部 金沢城公園を散策して俳句を作ろう |
|
講師 : 小西 護(金沢文芸館 前館長) 金沢城石川門に浅野川中学校文芸部員、27名が集いました。前日の荒れ模様の天候から一転して、爽やかな新緑に日の光が輝く素晴らしい日となりました。堀の脇には紫蘭が可憐に力強く咲き、側にはなでしこが風にそよいで小さな花を揺らしています。そんな素晴らしき景色の中で、浅野川中学校のみなさんの俳句創作活動が行われました。 講師は、金沢文芸館の前館長 小西 護さんです。 1 主なプログラム 1 金沢城公園を散策して俳句を作ろう (1) グループごとに散策して、俳句作りの素材を見つける。 (2) メモしながら俳句を作っていく。 2 金沢城公園からの帰りも散策を楽しんでいく。 3 金沢文芸館3Fにて俳句を作り批評会をする。 (1) 一人一人が短冊に俳句を書き込む。 (2) 白板に完成した俳句の句会を行う。 (3) 小西さんが、俳句紹介、添削、アドバイスをしていく。 2 吟味した俳句へと 金沢文芸館で作句した子ども達から順に白板に貼っていきました。そしてそれぞれの作品に小西さんから一言ずつアドバイスがありました。俳句とアドバイスの一部を紹介していきます。 小西さんアドバイス後の俳句を紹介します。( )内は添削前の本人の俳句です。 「日がのぼり新緑受けて風あびる」 (日がのぼり新緑の下風あびる) ※こんな時「受けて」という言葉を使うと有効かもしれないね。 「夏の日や照らされ僕ら影をふむ」 (夏の日に照らされ僕ら影をふむ) ※上句、中句で詠嘆の「や」は有効だよ。 「風の城戦国の世がよみがえる」 (風光る戦国の世がよみがえる) ※場所がはっきりとわかる俳句がいいね。 「シラン花自然の力でさきほこる」 ※初めて具体的な名前がでてきた俳句だね。これは大切なことだよ。 「風が吹き若葉がゆれる夏の香よ」 (風が吹き若葉がゆれる夏の香り) ※字余りになっているね。こうした方がすっきりとするかもしれないね。 「大木は昔を生きた目印だ」 ※力強く壮大な俳句だね。とってもいいと思うよ。 「木漏れ日の光反射す夏の色」 ※これはいいなあ。「す」とした表現も光っているよ。 3 みなさんの「秀作・力作(◎)」と小西さんの「改作・試作(◇)」の紹介です。 ◎夏の日に照らされ僕ら影をふむ (秀作) ◇夏の陽や影を踏みゆく君と僕 (試作) ◎木漏れ日の光反射す夏の花 (秀作) ◇木漏れ日や跳ねる光に夏の歌 (試作) ◎風光る戦国の世がよみがえる (秀作) ◇風の城戦国の香を震わせて (試作) ◎新緑や古き都のサンキャッチャー (秀作) ◇気がつけば新緑の下風そよぐ (試作) ◎そよ風やシロツメクサはゆらゆらと(秀作) ◇そよ風やシロツメクサはゆらゆらり(試作) ◇シロツメクサおしゃべり続く散歩道(試作) ◎風光る唐笠のそば分かれ道 (秀作) ◇雨上がり傘の向こうは分かれ道 (試作) ◎風に乗り新緑ゆれる通学路 (秀作) ◇新緑や笑顔はじける通学路 (試作) 小西さんは、この他にも提出された全俳句に改作・試作として評価をして下さいました。参加した文芸部の中学生はどれほど嬉しかったことかと思います。大変に貴重な良き学びの体験になったと思います。小西さん、ありがとうございます。 また小西さんは最後に【一里塚】として大切にしてほしいことを書き記されました。 【一里塚】
※発想を飛ばす(見えない想像や映像、思い出も取り込んで) ※より具体的に(時間、場所、鳥・花の姿に思いを重ねて) ※自分だけの「題材」「場面」「発見」「思い」を切り取る ※とりあわせ(二つの題材を並べる)にも挑戦を 4 最後に 小西さんの添削に、子ども達の感嘆の声がついもれてしまう会場でした。浅野川中学校のみなさんは心から素直で、学年同士はもちろん他学年間も仲が良いのがみてわかる学びの姿でした。そこには、小西さんの「ここがいいね」「こんな表現が素敵だよ」「こうするとどうかな」「こうするともっと良き俳句になるね」と絶えずポジティブな温かな声掛けいっぱいの指導があったからこそと思いました。
部活動の日を活用して学びの場をつくられた浅野川中学校のみなさん。素敵な学びの姿をありがとうございました。 金沢市では創作文芸を学んでいる子ども達がだんだん減っているという話を聞いています。文芸部がある中学校も減っているようです。 中学生のみなさん。今回のような文芸部活動だけでなく、いつでも金沢文芸館に顔を出していただけたらと思います。俳句作り同様に、小説、詩の創作文芸活動にもチャレンジして、本館主催のあすなろ青春文学賞などにも応募いただけたら嬉しいです。 感受性豊かな心ある浅野川中学校のみなさんはじめ、石川県の若者のチャレンジをお待ちしています。 |
〇5月12日(日)第1回 朗読会『青春の門 第二部自立編』 筑豊 誤解、そして織江との決別へと |
|
朗読: 髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表) 第1回朗読会が、朗読小屋・浅野川倶楽部の代表 髙輪 眞知子(たかなわ まちこ)さんにより行われました。今年度は、青春の門「自立篇」後半部分の朗読を12月までの8回シリーズでお聴きいただきます。 ◇令和5年度の朗読場面(青春の門 自立篇 前半部)を簡単に紹介します。 昨年度の東独は青春の門 自立篇前半部。大学生となって、筑豊の山を背に、1人で東京へやってきた伊吹信介。自立して生きていくことを誓った信介だが、大学生活には失望して苦しい生活を送る。そんな中、友人、教師、そして様々な魅力的な女性と巡り合い青春の新たなページをめくりながら歩んでいく。 ある日、信介はボクシング部のコーチ石井の彼女「早瀬理子」から相談を受ける。その内容とは? (自立篇 前半部から)
(「白い額の上に」「闇のなかの対話」「内臓の街へ」「幼い誤解」から)
* * * * * * いよいよ、髙輪眞知子さんの朗読会 青春の門 自立篇の後半部分が始まりました。 初回は17名の方々の参加がありました。朗読は60分以上にわたる熱気あふれるものとなりました。久しぶりの髙輪さんの朗読に、みんな釘付けとなりました。 朗読小屋浅野川倶楽部の髙輪眞知子さんの朗読を間近に聴くことができるのは大変に貴重な機会です。あと何名かの追加申込みが可能です。ぜひともこの機会に応募いただきたいと思います。 第2回朗読会は6月9日(日)14時「夜の迷路をぬけて」からです。ぜひご参集ください。お待ちしております。 |
〇5月11日(土)第1回 小説入門講座 創作への覚悟と実践 |
|
講師: 小西 護(『イミタチオ』同人) 令和6年度は、受講生14名でスタートしました。中高生から20代、30代はじめ、70代、80代までといろいろな世代からの参加がありました。素晴らしい講師陣のもと、受講生同士が語り合い、互いに切磋琢磨し合う充実した講座となるよう努めてまいります。 さて、1回目の講師は、イミタチオ同人「小西 護」(まもる)氏です。 まず講座は、受講生の自己紹介から始まりました。次のような話が各受講生からありました。 「何か自分の中でひっかかりがあり、やってみたいと思った。人の心に伝わる小説を 書きたい」 「心の奥底の想いを表現したいことに気づいた」 「ユニークな子育てをしたので、その経験を題材にしたい」 「村上春樹、角田光代、太宰治などが好き。執筆経験はないが、一つの作品を作る きっかけにしたい」 「自分が何か生きた証として残したいと思い参加した」 「エチオピア赴任経験があり、それも書いてみたい」 「昔、児童文学家「かつやおきんや氏」の研究会に参加していた。今回、思い切っ て小説を書きたいと思った」 「2年前に本講座を受講した。また刺激を受けたいと思い参加した」 「村上春樹さんの本に『水に飛び込んで浮くか沈むか』との話がある。まずは今回、 自分で飛び込んで小説を書いてみて、沈むなら沈んでみようかと思って…」 「若い時に読んだ『安部公房』の小説『赤い繭』に刺激を受けて…」 「妖怪アパートシリーズに触発されて…」 どうして小説入門講座を受講したのかを本音で真剣に語っていく受講生の姿がありました。そしてその思いを真剣に聴いて、自然に拍手している受講生の姿がありました。 一人一人の受講理由は違えど、今後の講座が楽しみなスタートとなりました。 この後、プリントを使っての講義が始まりました。ここではプリントにない小西先生からの言葉を挙げていきます。 ○小説は自分のために書こう ・へたくそでも良い。積み重ねの中で新しい自分を見つけていこう。求める自分に なっていこう。積み重ねこそが大切なのだ。まずは書き出してみよう。 ○「めげない」「あきらめない」「見逃さない」を大切にしよう ・小説づくりでは「めげる」思いをすることもある。私もそうだが、誰もが経験し ていること。何があっても、何を言われても、決してめげてはならない。 ・推敲は書いた人にしかわからないところがある。自分しか推敲できる人はいない。 だからこそ諦めてはならない。 ○多様多彩なエピソード(挿話)を織り込もう ・その場で気づいたことのメモをしていく。それを一冊のノート、スクラップブック にしていくと良い。小説家の名言などで「これは!」と思ったものは、いつでも すぐに手帳に書く。それをもとにアレンジして自分らしい味付けをして使うと良い。 ○「登場人物が動き出す」(作家 川上弘美さんの講話から) ・一生懸命に小説を書く中で、ある日突然「登場人物が動き出す、はしゃぎ出す、 逃げていく等」時が訪れるものだ。 ○視点をひっくり返してみよう ・女だったら男の視点で、他に動物(犬とか)の視点で、といういように、視点を変 えてみることも大切だ。 ○作品完成まで、書くことを最優先しよう ・小説を書いていくという自分のルーティンを作ってみよう。 ○納得がいくまで拘り、手直しを楽しもう ・自分が体験したことのみならず、想像したことや夢がとても大切だ。夢を生かそう。 ○上手くやろうとするな ・「上手く」と思うと媚びが生まれる。こだわりを持つ事が大切だ。 ○まず、作家のまねをしてもいいんだ ・良いと思うことを自分の小説作りにどんどん取り込んで行こう。まずまねから始まる。 小西 護さんからは5枚にわたる手作りプリントをもとに「創作への覚悟と実践」について講義いただきました。1時間30分ではとても時間が足りない中身の凝縮した講座となりました。 次回は6月8日(土)小説づくりの基本とは? で、講師は小網春美さんです。 最後に本日出た課題の確認をします。テーマがありますので試作小説作りに挑戦してください。 ○試作小説について 1 作品のテーマ ①「坂」 ②その他(自由に選択・設定) ※テーマはどちらかを選択し、題名は自由に書いてみてください。 2 提出期限 講座第3回 7月13日(土)必着(メール送付、郵送含む) ※形式等は、プリントにて渡しましたのでよくご覧になってください。 |