金沢文芸館

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文芸館だより(ブログ)

文芸館だより R3年度

〇11月23日(火・祝)開館記念ミニコンサート 

リコーダーの風に吹かれて

出演:金沢リコーダーコンソート(蔵谷絵里、越川靖彦、水洞幸夫、中村俊子)

 

 

 冬の寒気が迫るこの日、金沢文芸館は開館16周年を迎えました。その記念イベントとして『リコーダーの風に吹かれて“ハッピー・バースデイ”』と題したミニコンサートが開催されました。お招きしたのは、「金沢リコーダーコンソート」に所属する4名の皆さんです。
   ♪蔵谷絵里さん  ♪越川靖彦さん  ♪水洞幸夫さん  ♪中村俊子さん

  ♬♬♬ プログラム ♬♬♬
  ① 愛の挨拶           エルガー
  ② ハッピーバースデー変奏曲   フリードリッヒ
  ③ こおろぎ           デ・プレ
  ④ 戦いのパヴァーヌ       スザート
  ⑤ サラバンド          ヘンデル
  ⑥ 目覚めよと呼ぶ声あり     Y・S バッハ
  ⑦ リベルタンゴ         ピアソラ
  ⑧ 金沢望郷歌          五木寛之作詞、弦哲也作曲、増田鋭治編曲


 アンコールも含めて、全9曲の演奏でした。外は霙が降ったりやんだりという空気の冷たい午後でしたが、金沢文芸館の1階ホールは、4名の奏でる各種(ソプラノ、アルト、テノール、バス)リコーダーの温かみのある音色が心地よく響いていました。「金沢望郷歌」のしっとりした情緒豊かな演奏が終わった後、ご来場の皆さんから贈られた拍手は、ひときわ大きく、高く聞こえました。

  



〇11月21日(日)第2回 フォト&五・七・五 合評会

わたしの好きな声、好きな色

講師:中田 敏樹

 

 

 色づいた落葉が歩道いっぱいに広がる、今日この頃です。約一か月の展示を終了して「フォト&五・七・五」の合評会を開催しました。講師は、俳人であり写真撮影にも定評のある、中田 敏樹(なかた としき)先生です。写真と俳句作品とをセットにしながら、6名30点の応募作品を鑑賞しました。


*ふるさとの青空高し秋の色  ➡ ふるさとの青空高し秋高し
*せせらぎに羽根を休める赤とんぼ … 赤が効果的でロマンを感じる
*川辺には揺れる花びら秋櫻  ➡ 川の辺に揺れてまた揺れ秋櫻
*新藁と案山子を残し刈田後 … 季語を整理して
*開け見れば狭庭燃え立つ曼珠沙華 … 満開の鮮明な赤が効果的
*紅葉並木語らい続く女学生 … 話に夢中で見事な紅葉に気づかない姿
*十六夜ステンドグラス協奏し ➡ 十六夜やステンドグラス協奏す
*幼きに馴染みし花や今日の秋 … 初めて気づいたなら「今朝の秋」
*十六夜やビルの狭間は月の満ち … 「狭間に」病室からの夜景
*退院や見慣れし塔に秋の虹 … 喜び、祝福する偶然の虹
*看板に一式一館曼珠沙華 … 死者にたむける花
*彼岸花弟おぶったころのこと … 遠いとおい日の思い出から
*秋聲忌町の踊り場暮れ早し … 秋聲生誕150年に寄せて


 青空、紅葉、彼岸花、夕景色、庭先の花たち、昆虫など、秋の声や色が満載のフォトが展示され、今回も来館の皆さまには好評でした。入院中の病室の窓から撮影された力作や不自由な脚をいたわりながら撮影された秋の動植物もあり、胸がいっぱいになりました。
 次回は、5月頃に募集する予定です。皆さんからの、色鮮やかな、心温まる作品をお待ちしています。

  



〇11月20日(土)第5回 小説講座

高い意識をもって創作に向き合う

講師:寺本 親平(小説家)

 

 

 小説講座は、5回目を迎えました。今回は、作家の寺本 親平(てらもと しんぺい)先生の担当で、「小説の実作について②」のテーマで、小説の書き手としての姿勢や心構えを中心にお話いただきました。


◆短編小説「車椅子の少年」梁 正志(はり まさし)より
 (あらすじ)母親とともに車椅子にのった少年が、朝の満員電車に乗り込んでくる。偶然に乗り合わせた主人公(三十過ぎ・独身男性)は、障がい者が苦手であったが少年と目が合い、ぎこちなく微笑み返す。すると、突然少年に右手を握られて驚くが、温もりが手から体の奥にまで這い上がり、胸がじんとする。やがて、少年が下車する際に通路をふさいでいた高校生に、「学生さんたちも、空けたって!」と声高に言葉をかけた主人公は、少年とバイバイを交わして爽やかに見送る。

≪書き手として着目する視点≫
 *少年は、なぜ主人公に微笑みかけ、手を握ってきたか。
 *微笑んだり、手を握ったりすることで、主人公にどんな変化が起こったか。
 *相手が少年ではなく少女だったら、どんな印象の違いが起こるか。
 *関わりたくない、という保身から一変した主人公の劇的な変化を分析する。
 *登場人物や場面を変えて、自分なりにアレンジした創作を試みる。

◆書くために必要なもの
 *『蓄 積』優れた文章をよく読み、よく味わい、分析する習慣
 *『執 念』どうしても書きたい、書き上げたいという強い意志
 *『動 機』書くことに自分を向かわせている根拠、題材、領域
 *『葛 藤』矛盾、対立、不条理に押しつぶされそうな自分自身
 *『意 識』自分が書くことを意識して観察し、取材し、読書する
 *『準 備』明確な構図・構想、材料の調達、手順の見通し
 *『才 能』小説を書くことに向き合う、心がけ・姿勢そのもの

 *自己満足を脱して、読み手の共感を生む表現、他者にアピールできるものを磨く。
 *納得がゆくまで、何度でも読み返し、書き直し、完成度を高める。
  ~熱を冷まし、温め直す作業を繰り返す~
 *小説家として大成するためには、
  「運」(幸運・好運。人や作品との貴重な出会い)
  「鈍」(鈍重。図太さ。泥臭いまでの努力、不屈の精神)
  「根」(根気。粘り強い執念。気概)           ……が求められる。


 お話の随所に、長年にわたる先生の豊かな経験の蓄積が感得できました。安易に妥協しない自分自身への厳しさを保ち、具体的な実践・取り組みを地道に根気強く重ねる一方で、積極的に優れた文章や話題の作品に触れて、自分にないものを見出し果敢に挑戦するという、常に創作に向かう『高い意識』が必要不可欠であると改めて痛感しました。

 次回(第6回)、12月18日は原稿提出の期限です。受講生の皆さんの力作をお待ちしております。

  



〇11月20日(土)第1回 俳句入門講座

季語を活かして

講師:野村 玲子(石川県俳文学協会常任理事)

 

 

 今年度も全3回シリーズで、俳句入門講座を開講します。講師は、石川県俳文学協会理事の、野村 玲子(のむら れいこ)先生です。第1回は、「私の好きな俳句」というテーマで、早速受講生の皆さんからお寄せ頂いた作品を読み合わせして、先生のアドバイスを参考にしながら、俳句の約束や俳句にふれる楽しさや、読み手に伝わりやすい表現方法について学びました。


◆俳句の作り方(稲畑汀子 10の「ない」づくし)
 ①上手に作ろうとしない
 ②難しい表現をしない
 ③言いたいことを全部言わない
 ④季題を重ねない
 ⑤言葉に酔わない
 ⑥人真似をしない
 ⑦切れ字を重ねない
 ⑧作りっぱなしにしない
 ⑨想像だけで作り上げない
 ⑩一面からだけ物を見ない


◆俳句作品の推敲など
 *窓越しに差す指白し梅擬  <秀作>
   →指の白と花の赤とが対照的で印象に残る

 *千里浜に車列の波や秋の昼
   →千里浜に車の列や秋の潮      リズムを整えて。潮の青さを加える

 *そこかしこ橙色の甘い風
   →そこかしこ金木犀の路地をゆく   具体的にイメージを構成すると「甘い」は不要

 *秋の朝二つころがる松ぼっくり
   →今朝の秋二つころがる松ぼくり   立秋=秋立つ日、など  促音は不要

 *冬虹の見えて能登路の日照雨かな    <秀作>
   →きらきらと輝く雨が見えるよう

 *讃美歌の流し窓や柿一つ
   →讃美歌の流るる窓や柿一つ    「現在形」でよい

 *秋日和遠き故郷想う今日
   →秋の雲遠き故郷想わるる      題材を焦点化する

 *梅雨晴れや裸婦像の眼の濡れており  <秀作>
   →梅雨晴れや裸婦像の眼の濡れてをり

 *暦還る硯かんばし雪椿
   →還暦の硯かんばし雪椿      わかりやすい表現で


 歳時記を傍に置いて活用することがポイント。歳時記により季語の意味を正確に知り、一番書きたい思いを季語に託すことができる。季語選びが適切だと、俳句が引き締まる。…先生から季語の大切さを教わりました。
 初心者の段階ではともかく俳句をたくさん作ること。言葉に迷い、入れ替え、語順を工夫する、題材を求めて外に出かけるなど、「多作多捨」の積み重ねが自分自身の俳句の深化につながり、技術も磨かれます。季語で戸惑ったら、歳時記に戻ること。歳時記を使いこなすことで、俳句の世界が広まります。

 次回は「短日」「手袋」の題詠で、句会のスタイルを習得しながら、俳句を味わいます。ぜひ、ご参集ください。

  



〇11月17日(水)出前講座 金沢市立兼六小学校2年

語り継がれてきたホントのお話

講師:神田 洋子(ストーリーテラー)

 

 

 美しい秋の陽射しを受けて、金沢文芸館の近くで徒歩10分ほどの兼六元町に位置する、兼六小学校にお伺いしました。校舎の窓から卯辰山の紅葉が鮮やかに浮き立っているようでした。この日はストーリーテラーの神田 洋子(かんだ ひろこ)先生の担当で、2年生(3クラス、74名)「金沢の民話を聴こう」の学習でした。


◆主なプログラム
 「飴買いゆうれい」…金沢では金石や森山に伝わる悲話
 「芋ほり藤五郎」 …金沢の地名譚として知られる
 「ヤマバトの親子」…親の言うことは素直に耳を傾けなさい、という教訓
   *手遊び、字書き唄、絵描き唄、わらべ唄など


 「芋ほり藤五郎」のお話を聞くたびに、藤五郎の欲のない、身の丈に合った生活の大切さに気付かされます。村人も感心するような実直さと、貧しくともその貧しさを少しも苦にもしない、謙虚で誠実な働き者だった藤五郎だからこそ、こんな破格の幸せや富が転がりこんでくるのでしょう。
 現実にはありえない、おめでたいお話が受け継がれてきた背景には、…正直者の言葉や働く姿を神さま仏さまは必ずどこかから見つめていて、いつでも彼を支え、救ってくれるように準備しているものである。自分の本分をわきまえて地道に進みなさい。…と励ましてくれているようです。
 貪欲、贅沢、無駄、虚飾を戒めて、つつましく生きる者が進む道は、当たり前のようにどこまでも伸びている、と確信するものです。
 子どもたちは、3クラスとも熱心に聴き入っていました。これが一番うれしいことです。
「それって、ホントのはなし?」と尋ねる子が何人もいましたが、お答えします。
「もちろんです。ホントの話だから、人々が子どもへ孫へと大切に語り継ぎ、ゆかりの地名やお寺などが残っているのです。一生懸命聴いてくれた皆さんにも、きっといいことがめぐってくることでしょう。金沢の町は、カナザワという名前がつく前の遠い昔から、藤五郎やお嫁さんのワゴのように心の優しい、たくさんの働き者のおじさん、おばさんたちによって創られてきた町なんです」と。

 これから寒い時期を迎えますが、兼六小学生の皆さんが元気で、お互いに仲良くこの季節を乗り切ってくださることを願っています。

  



〇11月14日(日)第7回 「青春の門」朗読会

タエを幸せな生活に導く責任があるのは…

講師:高輪 眞知子(朗読小屋 浅野川倶楽部 代表)

 

 

 朗読小屋・浅野川倶楽部代表の高輪眞知子さんによる朗読会が開催されました。


 その春、中学に入学した信介はかねてから憧れていた野球部に入るものの、ほどなくして部員として活躍することを期待してくれていた顧問の早竹先生に、自ら退部する意思を伝えます。母のタエは昨秋から体調を崩しており、織江に買い物を頼んだり、あちこちの知り合いや塙竜五郎から借金したりしているようでした。竜五郎のもとでやくざの組に入って仕事をする、というのが信介の野球部をやめる理由だったのです。

 信介は竜五郎に会うために出かけた飯塚の町中で、たばこを吸っている大柄な少年に出くわします。信介はその少年に刃物と暴力で脅され、危うく竜五郎からもらった学生帽を奪われるところでしたが、相手のスキを見て、何とかその場から逃げ出しました。
 向かった先の塙組事務所で、信介は竜五郎に帽子を取り戻すためにいつかタエが託したピストルを返して欲しいと告げます。竜五郎はかつての自分の体験を踏まえて、信介に人を殺すことの重大さを諭すのでした。


……かっとして人を刺す。やる気がなかとに誤って相手を刺す。無我夢中で何をしたかもわからずに人を傷つける。そげなことは男の恥ばい。(中略)やくざは運が悪うて、一ぺん道を踏み間違えた人間が落ちてなるもんばい。おまえはやくざとはちがう。刃物やピストルを持つのは、わが信念で人を殺すときだけにしろ。それ以外の喧嘩は、売られてもするな。殴られたら負けて帰れ。それでよか。わかったか。


 その夜、信介は竜五郎のオートバイの後ろに乗って自分の家に帰るはずでした。ハーレーダビッドソンの凄まじいエンジン音や風圧にすっかり魅了されて、妙な快感と伴にズボンの中で爆発するものを覚えたあと振り落とされた信介が目覚めたのは、飯塚の病院の一室でした。荒い運転で怪我をさせてしまったことを詫びる竜五郎でしたが、信介はもう一度乗りたいと伝えます。タエは、伊吹重蔵の忘れ形見である信介にもしものことがあったら、と気が狂うほど心配したのでした。
 このところずっと弱弱しくなったタエを案じながら、いくら自分が学校をやめて働いたところで、病気の母と二人の生活を支えることはできないと信介は悟るのです。その一方で、タエを幸せな生活に導くのが自分の責任だという、大人の男としての自覚が信介の頭をもたげてくるのでした。



 今回は、定員の20席がほぼ満席となる盛況ぶりでした。戦後間もない九州の炭鉱町で、体調を崩しながらもなんとか耐えて信介を守ろうとする母親のタエと、そのタエを気遣いながらも自尊感情がふくらみ、自分の成長のもどかしさを抱え込んだ中学生・信介の思いが交錯する場面を、高輪さんの心を込めた朗読でお楽しみいただきました。

 次回の、12月12日(日)が今年度の最終回の予定でしたが、コロナ禍による中止の経過なども踏まえて、年明けの1月9日(日)まで続くことになりました。皆さまのご来場をお待ちしております。

  



〇11月13日(土)第4回 詩入門講座

自分と向き合い、真摯に語り合う

講師:杉原 美那子(詩誌『笛』同人)

 

 

 午後から、詩入門講座を開講しました。今回の担当は、詩誌『笛』同人の 杉原 美那子(すぎはら みなこ)先生です。前回に続き、受講生の作品を読み合わせして、様々な視点から詩の表現や構成、書き手の姿勢などについて学ぶ「実作」の2回目でした。


◆詩を批評する難しさ
 詩で書きたいことはそれぞれだが、何を目指して書こうとしたか、が大切
 たくさんの言葉を費やしても、その分だけ伝わるとは限らない
 伝わる言葉(表現)と伝わらない言葉(表現)を対比し吟味したい

◆具体的であること
 大まかすぎる概念的な言葉を連ねても、読み手に伝わりにくい
 「山」「川」「空」「花」という大きなまとまりの中で、注目したいものは何か
 …こだわり、絞り込み、自分なりに追求するところで具体的なイメージが展開し始める
    (例)金木犀:季節、香り、花の姿や形、思い出、家と家族、友だち…
 ありきたり、何処にでもある言葉を超える工夫と努力を

◆個人的な感情を切り拓く
 母の愛情:具体的な話し言葉や姿を、自分らしい伝え方で
 母を描く視線:その人柄、母が望む自分、自分が望む母とは
 母と対峙する:寄り添い同居する自分と別人格で独立する自分
 母をどうしたいのか、自分をどうしたいのか、が感得できるように

◆「暗闇」を乗り越える
 過去の暗闇と現在の対比・対照を、より具体的に伝わりやすく
 暗闇から脱却した(脱却しそうな)自分と向き合い、深く語り合う
 未来を変える力になるものを、より丁寧に追求する
 そんなに上手くはいかないと自戒し、挫折や拘りなど言いにくいことに注目する


 詩の中に自分の感想は要らない、という先生のアドバイスが印象的でした。作者がのぞきこんでいる世界(時空)よりも、作者自身が主体的に考え、行動し、感じ取る世界をそのまま直に言葉にするほうが、読み手に伝わるものです。
 どこまで具体的であるべきか、という課題も書こうとするテーマやモチーフによって異なるから、一般的な法則はないのでは、という示唆もありました。

 ゴールが近づいてきました。次回の皆さんの新たな挑戦を心待ちにしております。

  



〇11月13日(土)第4回 小説入門講座

「覚悟」して小説と向き合う

講師:高山 敏(同人誌『北陸文学』主宰)

 

 

 数日、冷たい雨が続きましたが、この日は久しぶりに青空がのぞきました。午前中に、同人誌『北陸文学』を主宰する 高山 敏(たかやま さとし)先生をお迎えして、小説入門講座は、第4回を開催しました。今回のテーマは「推敲と小説のこだわり」です。


◆『推敲』について
『推敲』とは・・・文章や作品の字句や表現を何度も練り直すこと
    作品の良し悪しは推敲で決まる
    作者自身が自分の作品の厳しい読者となる覚悟で推敲すること

 ①常套句、決まり文句の使用は避ける…自分の言葉を工夫して表現する
 ②力みすぎない
   「読者の同情を引きたいなら、冷静に突き放して書く」(チェーホフ)
 ③飾らない、気取らない、格好つけない…修飾語がなくても読者に伝わる
 ④漢字と仮名のバランスに注意する
 ⑤接続語を最小限にする
 ⑥文章のリズムを整える…改行、一文の長さを適切に
 ⑦曖昧な表現、断定的な表現、のどちらにも偏らない
 ⑧文のねじれはないか…主語・述語の確認
 ⑨文章を音読する…調子、句読点、語尾、同じ表現、に配慮
 ⑩言葉の癖が目立っていないか

◆小説のこだわり
~私小説作家・車谷長吉(くるまたに ちょうきつ)からのアドバイス
    随筆「“はずれ者”が一生書き続ける私家版「小説道」」より
 ①自分をかばわない
   他人に向ける視線以上に厳しい視線を自分自身に向けて書く
   他人からの厳しい視線に耐えて思索を深める
 ②時間をかけ、質・量ともに豊かな勉強量を確保して研鑽する
   30人の好きな作家の全集を読破する
   状況、会話、形容詞・形容動詞・副詞の用法など、先人の技を吸収する
   好きな小説一編を、50回音読して、耳で聴くことの重要性を理解する
 ③「頭が強い人=“魂が強い人”でないと小説は書けない」(恩師・江藤淳の言葉)
   小説は魂で書くもの


 この日、高山先生からご紹介いただいた車谷長吉の「作家になる覚悟とは、つまりは死ぬ覚悟だ」という言葉も印象的でした。小説を書くことは決して生半可な理想ではなく、命を削りながら書くというほどの覚悟を核にして、全身全霊を尽くして向き合うものだ、という車谷ならではの強烈な執念と怨念、怒りと情熱とに裏打ちされたものでなければ本物ではない、という苛烈な「覚悟」が潜んでいるように感じました。

 次回(12月)は作品提出期限です。皆さんの「覚悟」が伝わってくるような力作をお待ちしています。

  



〇11月6日(土)ナイトミュージアム2021 金沢の昔話とわらべ唄

懐かしい金沢の風情に浸る

出演:語り:玉井 明日子   唄:西田 徳子

 

 

 秋の気配がいよいよ深まる今宵、「金沢の昔話とわらべ唄」と題して、金沢に伝わる懐かしい昔話やこころ休まるわらべ唄をお楽しみいただきました。
 ご出演は「金沢語り」における経験豊かな、 玉井 明日子(たまい あすこ)さん、子どもたちへのピアノ指導でも定評のある、 西田 徳子(にしだ とくこ)さんのお二人です。
 なお、今回は『金沢の昔話と暮らし、ならわし』(鈴木雅子著)と『金沢のわらべ唄と民謡』(金沢市教育委員会、金沢口承文芸研究会編)とをテキストとしました。


 ♧♧♧♧ プログラム ♧♧♧♧♧
◆「お銀小銀」(語り)

◆「懐かしのわらべ唄の世界」
   ○小駒さん才三さん(手毬唄)       ○今夜ひとたび
   ○となりのかきもち(おじゃみ唄)   ○ずいずいずっころばし
   ○羽根つき唄 ひとみふたみ      ○よんべ夢見た(新唄)

◆「むかしばなし」
   ○だらむこさん ふしあな(朗読)
   ○かかあの風鈴こりゃ妙じゃ(朗読)
   ○飴買いゆうれい(語り)


 玉井さんによるゆったりした口調の語りでは、「お銀小銀」「飴買いゆうれい」など金沢に古くから伝わるお話の時空に自然と吸い込まれて、物悲しい余韻に心が疼くようでした。子どもを思う母親の気持ちが痛いほど伝わってきました。
 西田さんのわらべ唄は、手毬やおじゃみなどの遊びと一体となったものもあって、たのしくもあり、もどかしくもある、子どもたちの生活感が脈打つような切ない響きがありました。
 金沢生まれのお二人によって、永年、金沢の地で受け継がれてきたお話やわらべ唄が、またこれから先の世代にも、末永く親しまれ続けることを願ってやみません。

  



〇11月4日(木)出前講座 清泉幼稚園

ダ・イ・コン!! の大合唱に笑顔はじけて

講師:大西 晶子(「金沢おはなしの会」代表)

 

 

 紅葉が進む浅野川河畔をたどって、清泉幼稚園にお伺いしました。この時季のおはなし会も、すっかり恒例になりました。今年も、大西 晶子(おおにし あきこ)さんが代表である、『金沢おはなしの会』のみなさんにご担当いただきました。年少・年中・年長さんのお部屋ごとに、子どもさんたちの元気な歓声や歌声が沸き起こる、楽しいおはなし会となりました。

 ひよこ組(年少さん・13名)のお部屋を覗いてみました。担当の松本さんが3冊の絵本を中心にお話と唄、手遊びを紹介してくださいました。
 絵本①『ちいさなかがくのとも もりのてぶくろ』
      八百坂洋子:文、ナターリア・チェルシー:絵
 絵本②『どんどこ どん』 和歌山静子:作
 絵本③『あーそーぼ』   やぎゅうまちこ:作          ①②③福音館書店

 *『どんどこ どん』より
  「つちのなかで どんどこ どんどこ・・・あら、にんじんさん」
 に始まり、土の中で立派に育ったじゃがいも、さつまいも、さといも、ごぼう、だいこんが次々と掘り出されます。勢いよく育った葉っぱの大きさや形と少しだけ地面に顔を出した野菜の色をヒントに、どの野菜かを考えさせて、次のページでその野菜の全身が現れるという仕組みです。子どもたちは、「みえる、みえる!」とはしゃぎながら、答えを言い当てるのですが、だいこんになるともう、葉っぱの段階で「だ・い・こん!」の大合唱が止まない、熱気にあふれた空気です。次のページで真っ白な大根が姿を現すと、喚声は最高潮に達しました。

 この日は好天に恵まれ、卯辰山方面に散歩した直後の時間だったそうですが、子どもたちは元気いっぱいで、天真爛漫な笑顔が輝いていました。寒い時期が近づいてきましたが、園児の皆さんの無邪気で屈託のない笑顔の毎日が、これからも末永く続くことを願っています。

  



〇11月3日(水・祝)文化の日 記念ミニコンサート

秋の午後、ヴァイオリンとピアノの音色に魅せられて

出演:ヴァイオリン/宮嶌 薫  ピアノ/徳力 清香

 

 

 秋たけなわに相応しい、爽やかな文化の日を迎えました。その文化の日を記念して、「ヴァイオリンとピアノのミニコンサート」を開催いたしました。当館としても新たなイベントです。初めてご出演くださるのは、ヴァイオリン演奏の 宮嶌 薫(みやじま かおる)さんとピアノ担当の 徳力 清香(とくりき さやか)さんです。


 ♬♬♬ プログラム ♬♬♬
1.メヌエット             (ベートーヴェン)
2.愛のあいさつ           (エルガー)
3.タイスに瞑想曲          (マスネー)
4.コンチェルト イ短調 第3楽章 (ヴィヴァルディ)
5.四季より「冬」第2楽章     (ヴィヴァルディ)
6.リベルタンゴ            (ピアソラ)
7.もののけ姫            (久石 譲)
8.ハウルの動く城          (久石 譲)
9.千の風になって          (新井 満)
10.涙そうそう            (BEGIN)
11.赤とんぼ             (山田 耕作)
12.愛の悲しみ           (クライスラー)
13.愛の喜び            (クライスラー)


 お二人とも金沢のお生まれで、大学を卒業後、宮嶌さんはドイツ・ベルリン芸術大学のマスターコースを修了。徳力さんは、フランス・パリのエコール・ノルマン音楽院にてそれぞれ研鑽を重ねて帰国されたそうです。帰国後はやはり金沢を中心に、オーケストラとの共演など幅広い演奏活動を展開中です。ヴァイオリニストの宮嶌さんは、長年、後進の指導にも積極的に携わっておられ、この日も練習生である日向子さん(小4)と共演していただきました。
 アンコールを含めて14曲。ヨーロッパの華やかに躍動する古典音楽と、心に沁みてくるような日本の優しいメロディーが調和しました。文芸館の小さなホールに来られた観客の皆さんの温かい拍手と満ち足りた笑顔がとても印象的でした。
 秋の日の午後、ヴァイオリンとピアノ演奏による多彩で、素晴らしい音色を間近にお聴きして、改めて音楽の豊かさや心地よさを味わうひとときでした。

  



〇10月24日(日)第2回 伝承文芸講座

木曽に生まれた≪朝日将軍≫の辿った道

講師:藤島 秀隆(金沢工業大学名誉教授)

 

 

 街中には金木犀の香りが漂い、紅葉が際立つ頃を迎えました。午後から、金沢工業大学名誉教授、藤島 秀隆(ふじしま ひでたか)先生を講師にお迎えして、第2回伝承文芸講座を開講しました。
 今回のテーマは、「木曽義仲と巴御前の生涯~『平家物語』と民間伝承~」です。


1.挙兵まで
 源義仲は源為義の次子・義賢の次男で、頼朝・義経とは従弟。久寿元年(1154)生まれ。久寿二年に父義賢が武蔵国大蔵館で、甥の悪源太義平に討たれたが、義仲は信州木曽に逃れた。山深い木曽の山中で中原兼遠に養育されて十三歳で元服、木曽次郎義仲と名乗った。

2.平家追討へ
 治承四年(1180)、叔父行家から以仁王の令旨を受けた義仲は、平家追討へ挙兵。まず、信州を制した。翌年に越後の豪族城長用を打ち破り、平通盛らの北陸追討軍も撃退すると、信越の武士たちは続々と臣従した。
 寿永二年(1183)五月、平家は十万の大軍で義仲を討とうとしたが、武略に長け地理に通じた義仲は、巧みに平家軍を誘導、包囲して夜襲をかけ(火牛の奇計)、平家の主力軍を倶利伽羅谷で壊滅させた。

3.上洛を果たすも・・・
 勢いに乗った義仲は怒涛の如く京に迫り、七月末には入京する。早速、京都警備に当たるが、折から大飢饉の京で大軍は群盗と化して人心を失い、義仲の粗野な振る舞いは後白河法皇や公卿たちから排斥を受ける。平家追討も思うに任せず孤立した義仲は、法皇が頼朝に義仲追討の宣旨を下したことを知る。
 翌年三月、頼朝の命を受けた範頼・義経の大軍を、瀬田・宇治・京で迎え撃ったが敗れて、近江国粟津にて討死する。

4.風雲児「木曽最期」の伝承
 上洛から半年、征夷大将軍となり朝日将と称して五日目のあえない最期だった。風雲児の名に相応しく、名誉ある自刃を選ばず雑兵に名をなさしめたその死に様は、『平家物語』巻九「木曽最期」に感動的に描かれている。
 『平家物語』では、義仲の田舎ぶりを嘲笑する一方で、純朴な愛すべき人間味が光っている。墓所は、大津の義仲寺、木曽の徳音寺が名高い。

5.巴御前の伝承~実像と虚像と~
 生没年不詳。『源平盛衰記』によれば、中原兼遠女、今井兼平妹、義仲の乳母子にして愛妾。源平合戦後、鎌倉に連行されたが武勇を惜しまれ和田義盛に嫁し、朝比奈三郎義秀を生んだ。和田合戦後は越中石黒氏を頼って尼となり、九十一歳まで生きたとある。

 木曽義仲の挙兵以来、信濃から最期の粟津まで随従した女武者で「色白で髪長くして容顔誠に美麗なり。有難き弓精兵弓矢打物取っては如何なる鬼にも神にあふと云ふ一人当千の兵なり」と『平家物語』に記される。
 義仲の北陸進出のきっかけとなった横田河原の合戦にも敵七騎を討って名をあげ、砺波山の合戦にも一方の大将として奮戦。粟津の合戦には、義仲に最後まで従ったが、強いて戦場を去らされ、内田家吉(異伝あり)を討ち取って姿を消した。
 しかし、このような輝かしい女武将としての活躍には多分に伝説的要素がある。義盛との間に、朝比奈を生んだことも、年代的に否定せざるを得ない。


 巴をたたえる「美女」とは本来、雑仕女、炊事婦の意味で、武家では主君の身の回りの世話をする女で、時に武装して戦場に伴うこともあった。巴の実像はそのような美女だったと解釈され、これが美貌の女将軍のごとき造形をさせたのであろう。
  (別冊歴史読本「源平時代ものしり事典」昭和54年新人物往来社 参照)


 勇猛果敢な武将として知られる一方で若くして非業の死を遂げる木曽義仲と、義仲に最期まで寄り添い、共に戦い抜いた巴御前の伝承を興味深くお聴きしました。巴御前は『平家物語』と『源平盛衰記』の両書には登場するものの、他の歴史書には見られず、各地で異なる伝説が残るというのも謎めいた魅力に感じられます。
 『平家物語』の文脈をたどる先生の穏やかな口調をお聴きしているうちに、凄まじい男勝りの麗人と伝わる巴御前が放つ異色の光と長い影とが、講座の部屋にまで伸びている錯覚に陥るような秋の午後でした。

 次回は、11月28日(日)の開講です。皆さんのご来館をお待ちしています。

  



〇10月16日(土)ナイトミュージアム2021 朗読会「秋の夜の物語」

秋のが深まる夜の静寂で

出演:朗読小屋 浅野川倶楽部  岡本 正樹・荒木 重治・浄願寺 曼

 

 

 8月に予定していた朗読会『夏の夜の物語』が残念ながらコロナ禍で順延となり、この日の夕方、『秋の夜の物語』として仕切り直りして開催することになりました。朗読小屋・浅野川倶楽部の皆さんによる迫真の語りで、妖しく匂う不思議な物語をご披露いただきました。
 ご出演とプログラムをご紹介します。


◆芥川龍之介「妙な話」(朗読:岡本 正樹 さん)
 新婚まもない妻が、長期の軍務でヨーロッパに滞在する夫と手紙の交換もできず、心労が重なり神経衰弱に陥った矢先、その夫に会いに行って様子を伝えてくれるという、不思議な赤帽さんと出会う物語です。末尾には、主人公と友人の妹との秘められた過去が垣間見れることがまた、物語の味わいを深めているようでした。

◆◇半村 良「終の岩屋」(朗読:荒木 重治 さん)
 半村良は第1回泉鏡花文学賞の受賞者で、母親の郷里である能登に疎開した経験を持つ作家です。その能登の奇談集からご紹介いただきました。独特な言い回しやリズムを練り込んだ能登の話し言葉がそのまま、怪しげで不思議な伝説のように語られました。

◆◇◆落語より「凝り相撲」(朗読:浄願寺 曼 さん)
 上方落語では、「相撲場風景」とも呼ばれて、戦前からもよく親しまれた演目だそうです。お酒好きの男が、相撲の応援よりもお酒を飲み過ぎてとんでもない失敗をします。今日的なアドリブ、思い切ったアレンジが加わった語りで、会場はすっかり「寄席」のようなくつろいだ空間に早変わりしたようでした。


 「秋の夜の物語」を開催することができて、安堵しています。どの演者さんも低音がよく響く素敵な声で、謎めいた怪しげな物語や、上方風なコミカルな落語の世界に吸い込まれていくような快いひとときでした。広めに間隔を置いた椅子は満席で、ご来館の皆さんにも十分にお楽しみいただくことができたようです。
 この先も、当館の秋のイベントが続きます。皆様のご来館をお待ちしています。

  



〇10月16日(土)第4回 小説講座

日常に開く≪異界≫をめぐって

講師:皆川 有子(同人誌「櫻坂」同人)

 

 

 コロナ感染の拡大を避けて、第3回は8月中に受講生の皆さんからお送り頂いた掌編作品について、講師の皆さんからアドバイスを中心としたそれぞれのコメントを書面でお送りするという異例のスタイルで実施しました。

 第4回となる今回は、同人誌『櫻坂』でご活躍中の 皆川 有子(みながわ ゆうこ)先生をお迎えして、「小説を読む①」のテーマでお話いただきました。村上春樹による短編小説「象の消滅」(文春文庫『パン屋再襲撃』所収)をテキストとして、受講生の感想や疑問を踏まえながら、<日常の中に開く≪異界とその表現≫について学びました。


1.象はどうなったのか
 この素朴な謎は、作品の中では解明されません。中途半端な結び方(オープンエンド)とすることで、読者の想像を駆り立てます。確かなイメージを持つためには、繰り返し丁寧に作品を読み直すことが求められます。

2.日常と異界の対比
 通常ではあり得ない展開というのは、言い換えると「謎解きを求められている」「ミステリアスな」物語であり、細部の表現を注意深く読み進めることで、読み手の好奇心を喚起するとともに、それぞれの感じ方に委ねられることになります。作品の奥深さに戸惑う反面、読み手の主体的なかかわり方が求められるとも言えるでしょう。

3.作家の特色を知る
 作家の意図を簡単に見破る方法はありませんが、同じ作家の同時代の作品の特色や時代背景を探りながら認識を深めることが、有力な手掛かりになります。また、その作家の経歴、評論やエッセイをたどることで、創作方法の斬新さを楽しみながら作品を読み解き、味わうことができます。

4.信頼関係とすれ違いと
 消滅した象と老いた飼育係との「二人」が短期間のうちに確かな信頼関係を築き、親密に寄り添っていたのに対し、主人公と彼女の関係は脆弱で、象の話題を出すことによって却って心が通わなくなるという皮肉な展開が待ち受けています。
 *  *  *
 彼女に対して好意を抱いてはいけないという理由はひとつとして見つけることはできなかった。
 それから僕は象の話をした。どうして急に象の話なんかになってしまったのか。…
 上手く話すことができそうな誰かに、象の消滅について僕なりの見解を語りたいと思っていたのかもしれない。
 しかし、それを口にしたその瞬間に…最も不適当な話題をひっぱりだしてしまったことに気づいた…
 三年も禁煙出来ていたのに、象が消えて以来また煙草を吸うようになってしまったのだ。
 *  *  *
 この数行の表現により、男女二人の不協和音が高鳴るとともに、心のすれ違いの気配が濃くなり、主人公の孤独と後悔とやりきれない苛立たしさが滲んでいきます。簡潔でさりげない文章の中に見え隠れする心情の変化に、確かな感性が光ります。

5.象は何の象徴か
 読み手がともかくも、自分の読みを掘り下げることで、この問いの答えにたどり着くことがポイントです。「幸せ」「粗大ごみ」「存在感」「自然・野性」など。答えが広がるほどの作品の懐は深く、魅力に富んでいると言えます。
 漫然と読むのではなく、自分が書くことを意識して読む、という修練を重ねていきたいものです。


 みずみずしい文章に触れながら作品を読み味わう楽しさと、複雑に仕組まれた異界の謎を読み解いていく難しさ。書き手としての課題や関心を持って、自分が選んだ作品としっかりと向き合うことの大切さを再認識しました。答えは初めから「ある」ものとは限りません。主体的に「探り当てる」読み手であることが前提ではないか、新しい創作もそこで掴んだものが核になって迸り出る、と感じました。

 次回は、寺本親平先生の担当です。お誘い合わせて、ご参集ください。

  



〇10月10日(日)第6回 「青春の門」朗読会

終戦と同時に、新時代の混迷が噴き出す

講師:高輪 眞知子(朗読小屋 浅野川倶楽部 代表)

 

 

 7月11日以来、今年度4回目の開催となりました。出演は、朗読小屋・浅野川倶楽部代表の 高輪 眞知子(たかなわ まちこ)さんです。


 太平洋戦争も終盤に差し掛かった秋の午後、金山朱烈が信介の家を訪ねてきます。母のタエと金山が抱き合っていた、というまことしやかな噂を半信半疑で耳にしていた信介は、母が嬉しそうに迎える彼の訪問を素直に受け入れることができません。金山はこの時、召集を受けて出征することタエに伝え、別れの挨拶に来たのでした。別れ際に金山は信介に、「父親にまけんような男らしい男になれ。おっ母さんを大切にして、勉強しろ。人間はみんな平等だ。朝鮮人を馬鹿にすんじゃないぞ。・・・」と強く諭します。さらに、自分はタエが好きだったが、伊吹さんに恥ずかしいような真似は何ひとつしていない、ときっぱり言い切って夕陽の中を遠ざかっていきました。

 戦争が終わったのは、信介が国民学校4年の夏でした。仲間とボタ山に炭拾いに行った帰りに、西部炭鉱の労務課長が両手を背後に縛られ、十数人の朝鮮労働者に責め立てられながら骨富士のボタ山に向かう集団とすれ違います。課長は上司の命令を受けて朝鮮人に暴力を振るったばかりか、脱走しようとした5人の朝鮮人を殺害してボタ山に埋めたことを白状しました。その挙句、労働者たちによってボタ山に首まで埋められ放置されるという私刑を強いられます。日本が戦争に負けたことが、朝鮮人の今までの鬱憤を晴らす契機を作っていたのです。

 その年の暮れに、金山朱烈が本名の金朱烈と改名して、また西部鉱山で働くために戻ってきました。さらに同じ日の夕方には、大型オートバイに乗った体格のいい男が信介の家を訪ねてきます。父・伊吹重蔵のかつての喧嘩友達で、やくざ稼業つながりの運送屋を営む、塙竜五郎でした。貧しい生活臭が漂うタエ・信介母子に、飯塚の自分の所に来るように誘いますが、タエは固辞します。一方、信介は興味津々で竜五郎のオートバイに乗せてもらい、その凄まじい迫力に土肝を抜かれるのでした。


 長い戦争が終わって、多くの人々がようやく平穏な生活にもどることを期待したのとは裏腹に、戦争中だから耐え忍んできた様々な問題がここで噴き上げたのでした。颯爽と現れた塙竜五郎の存在が、信介やタエの生活にどんな刺激を及ぼすことになるのか…。

 次回(11月14日(日))をご期待ください。


  



〇10月9日(土)第3回 詩入門講座

読み手に伝わりやすい言葉選びを

講師:井崎 外枝子(『笛』同人)

 

 

 午後からは、やはり第3回目となる詩入門講座を実施しました。今回の担当は、詩誌『笛』同人の 井崎 外枝子(いざき としこ)先生です。今回から受講生の皆さんの作品を読み合わせて感想を交換しながら、それぞれの特徴や良さを学ぶとともに表現の深化をめざすためのポイントについて学びました。


1.全体の校正の工夫について
  各連のまとまりや役割を意識して、より明確に編む
  四連の構成では「起承転結」「序破急」を念頭に、後半では大胆なジャンプを
  (例)優しさ⇒真剣さ・緊迫感、穏やかさ・緩やかさ⇒不安感・強い意思

2.リズミカルでテンポよい展開を
  次々に「扉」を選び、押し開けて進む、勢いや歯切れの良さを創出する
  「本気」「根気」「勇気」、「希望」「野望」など対比を際立たせる
  作者がそこでどうしたいのか、そこからどう進むのかを読み手に伝える言葉選び

3.過去・現実・未来の比較と検証
  内面の変化・成長とその理由がわかるプロセスを
  過去と現在の類似性と対照性を際立たせる
   ⇒未来につながる強い「思い」「意思」を導き出す
  時間の推移に沿って、ひと続きの流れが読み取れるような工夫を

4.大切な人との交流を通して
  友と共有した思い出である具体的な場面の効果的な切り取り
  二人の成長・変化による岐路の描き方
  あふれる優しさや愛情を、整理し抑制して伝えるための言葉選びを

5.時代から取り残され、孤立する自分と向き合う
  先端技術のめまぐるしい進歩にどう対応するか
  大胆で、個性的な比喩を活かして
  「どこがわからないのかわからない」という率直な実感を大切に


 実作に触れて、具体的に考えたり感じ取ったりしたことを確認したり、感想を交換することで、「何を書きたかったのか」「どのように書けば伝わるのか」という創作の原点がよりはっきりと見え始めてくるような時間でした。詩を描く難しさと、楽しい豊かな奥行きとは、まさに表裏一体のものであると再認識しました。

 次回(11月13日)は、今回の講座を踏まえた推敲によって、さらに一歩ずつ進化した作品に再会できることを、楽しみにしています。



      



〇10月9日(土)第3回 小説入門講座

正しい、美しい、豊かな文章を

講師:小網 春美(『飢餓祭』同人)

 

 

 二か月の臨時休館を経て、ようやく第3回目の小説入門講座を開講することが出来ました。講師は、同人誌『飢餓祭』同人の 小網 春美(こあみ はるみ)先生です。今回は、「小説の文章」というテーマで、創作の過程で配慮してほしい具体的なポイントを中心にお話いただきました。


1.小説作品の文章を丁寧に読む

 ~「書く」ことを意識して読み、吸収する~
  好きな作家・作品を選び、何度も読み返し、味わう
  優れた文章を丁寧に読み深めることで、創作の基礎を固める
  詩歌に触れて、言葉選びの確かさや厳しさを実感する
  親しみやすい平易な言葉を適切に使いこなす
  正しい言葉を使いこなし、美しい言葉へ
  豊かな文章は、豊かな人生観から生まれる

2.文章の長短について
 ~初心者は短い文章を連ねる修練を~
  短い文:簡潔でわかりやすい、伝わりやすい、短編小説に適す
  長い文:「ねじれ」(主語・述語がかみ合わない)を起こしやすい
  句読点や段落の頻度に配慮し、活用する

3.文脈の中で・・・
  文章が滑らないように、何度も音読し、校正する
  地の文では、「体言止め」「!!」「?」「・・・。」は原則、用いない
  文末に現在形・過去形を織り交ぜることで、メリハリをつける
  会話文では、「〇〇が言った」の反復を避けて、表現を駆使する
  …(例)つぶやいた、口ごもって、叫んだ、ようやく口を開いた
  人物の動作でも、単語を避ける工夫を
  …(例)「食べる」:のみ込む、かき込む、口をつける、むさぼる
  会話の中に、方言を効果的に織り込み、味わいを創出する

4.オノマトペ(擬音語、擬態語)と比喩
  日本の文章では、効果的に多用されている
  「直喩」と「暗喩(隠喩)」を使い分ける
  「陳腐」(使い古されたもの、ありきたり)は避け、独創的に


 このほか作中の表記では、「こと、とき、ころ、だいぶ、もはや、まったく、はず、ほとんど…」など従来は漢字を用いたものでも、現在はおおむねひらがなとするのが適切とのことでした。
 小説を読むことは、読み手と書き手との取っ組み合いにも例えられるそうです。書き手としては、何度でも読み返して制限時間のギリギリまで手直しを重ねて、作品の完成度を高める必要があります。12月の作品提出に向けて、ここから正念場ですね。受講生の皆さんの奮闘を期待しております。

 次回は11月13日(土)の開催です。お誘い合わせて、ご来館ください。


      



〇10月3日(日)第1回伝承文芸講座

仏御前伝承の謎を探る

講師:藤島 秀隆(金沢工業大学名誉教授)

 

 

 新型コロナウイルス感染のまん延防止による臨時休館が解除され、ようやく金沢文芸館主催の各種講座やイベントを再開できることになりました。
 伝承文芸講座は昨年度はコロナ感染拡大を避けて中止しましたが、今年度は何とか第1回の開催に漕ぎつけました。講師の 藤島 秀隆(ふじしま ひでたか)先生には、窮屈な日程にもかかわらず快くお引き受けいただきました。豊かな見識とご経験を踏まえ、郷土に伝わる歴史・文化・文学作品について具体的で分かりやすく、楽しく学ぶ貴重な機会を受講の皆さまとともにしたい、と願っております。
 今回は、平家の棟梁として栄華を誇った平清盛から、特別な寵愛を受けたと伝えられる白拍子・仏御前の数奇な生涯をたどりました。


◇◇◇ 仏御前(ほとけごぜん)についての伝承から ◇◇◇
1.『平家物語』とその語り系諸本
 『平家物語』の作中人物。平安時代末期、平清盛に寵愛された白拍子。生没年不詳。
 都で知られた祇王は白拍子(平安時代における男装の女性芸能人)の名手で、清盛に愛されて母とぢ・妹祇女とともに幸福な生活を営み、世の羨望の的となる。三年後、加賀国出身の白拍子が現れ清盛の寵を受けると、たちまち祇王は追い出された。一旦は自殺まで考えた祇王だが、出家して嵯峨の奥に隠棲した。そののち、栄華の頂点にあった仏御前は世の無常を悟り、出家して祇王らの庵室を訪れた。祇王たちも感涙にむせび、四人一緒に草庵に籠って仏道を修め、往生の素懐を遂げたという。現在の奥嵯峨の祇王寺はその住居の跡に建立された寺と伝えられている。
 『平家物語』の語り系諸本は仏御前の出生を加賀の国と記しているが、具体的にどこを指すか未詳である。しかし、加賀の伝承によると、仏御前は加賀国能美郡中海村大字原(小松市原町)の出身で、「原」が伝承地と伝えられている。
 都で往生した仏御前を作り替えて、故郷に帰った仏御前を描いた最初の作品が、世阿弥の作と伝える謡曲「仏原(ほとけのはら)」である。それによると、仏御前は生国加賀国仏原に帰り、「山風も夜嵐も声澄み渡る」草堂に住み一生を終えたと伝えている。

2.『仏御前事蹟記』(金沢市立図書館蔵)
 本書は宝永年間(1704~11)仏原の邑民宗左衛門の記した仏御前像の縁起である。前半は『源平盛衰記』(巻十七)「祇王祇王女の前の事」の原文をほとんどそのまま引用している。後半は、謡曲『仏原』に基づいている。特筆すべきことは、清盛が別離に臨み仏御前に守り本尊の履行(くつはき)阿弥陀如来の木像を与えたことである。仏御前はその木像を故郷に持ち帰り、草庵に安置して日夜称名経に励んだという。

3.『仏御前影像略縁起』(小松市原町 個人蔵)
 奥書によれば、文化12年(1815)金沢の浄土宗大円寺の僧侶により執筆されたものである。平安末期、加賀国に花山法皇が建立したと伝わる五重塔があり、仏御前はその塔守として京都から招かれた白河兵大夫の娘として、永暦元年(1160)正月十五日に誕生した。十四歳の時、叔父の招きで上洛して歌舞音曲を習い白拍子となる。清盛に寵愛されたのち、無常を感じて十七歳で出家して報音尼と称し、祇王姉妹の庵を訪れ、ともに住む。その後、清盛より賜った履行阿弥陀如来を背負い安元2年(1176)春、美濃国穴間谷を越えて故郷の原村への帰路、白山麓木滑の里で清盛の子を出産したが、その子は死んだという。亡き子の供養の後、原村に帰って草庵を結び、治承4年(1180)八月十六日に二十一歳の若さで永眠したという。

4.『加越能金砂子』『三州奇談』等、郷土の伝承
 嵯峨からの帰郷後、仏御前は原村に草庵を結び経に明け暮れた。一説に、村人の厚情で小さな茶店を営んだところ大変な繁盛だったという。彼女の美貌に慕い寄る村の男衆が多く、それを嫉妬した村の女たちが共謀した彼女を殺したと伝えている。
 別伝では仏御前が懐妊したと浮名を流され、抗議して自殺したともいう。それ以後、村の女が出産するときは必ず大風が吹くという。村人は祟りを怖れ、雨戸を閉じ産室を暗くして出産する習慣としたと伝えられている。

 現在、小松市原町の県道沿いには市指定文化財の三基の墓石が立ち、そのあたりは御前様屋敷と呼ばれた屋敷跡とされている。また、近くの阿陵山麓の杉林の中にも仏御前の墓石があり、荼毘に付したところと伝えられている。
    (「日本伝奇伝説大辞典」昭和61 角川書店 藤島秀隆氏による解説より)


 資料をたどりながら、丁寧なお話をお聞きすることができました。様々な伝承を通して、もう八百年以上も前に活躍した若い白拍子・仏御前が、健気に、誇り高く、信仰深く、薄幸の短い生涯を駆け抜けた証を随所に確認するひとときでした。
 時の最高権力者である横暴で身勝手な平清盛に対し、仏御前と思いを分かち合いつつ共に経を重ねて往生した、祇王・祇女姉妹も身近に感じられました。あらためて、仏御前ゆかりの小松・原町の菩提寺や墓所、嵯峨野の祇王寺などを訪ねてみたいものです。


 第2回は、3週間後の24日(日)に開講する予定です。ぜひ、ご参集ください。




      



〇9月27日(月)出前講座 金沢市立浅野町小学校4年

金沢の三文豪について学ぼう

講師:徳田秋聲記念館学芸員 薮田 由梨

 

 

 金沢市を対象に2か月余り続いた、新型コロナウイルス感染のまん延防止の特別措置がようやく解除されることになり、ほっと胸をなでおろす一方で、今後も気を緩めずに身近な感染対策を徹底したいと存じます。

 秋晴れの気持ちよい午後に、金沢駅に程近く浅野川のせせらぎが聞こえてきそうな、浅野町小学校にお伺いしました。第4学年(2学級・54名)、「総合的な学習の時間」で金沢の三文豪について学ぶ授業でした。担当してくださったのは、徳田秋聲記念館の学芸員としてご活躍中の 薮田 由梨(やぶた ゆり)さんです。


◇金沢の「三文豪」とは・・・
 金沢で生まれ育った、3人の、文学(小説・誌・俳句など)で活躍して、優れた作品を残した人、のことです。むろん作風はそれぞれ異なりますが、故郷の金沢を離れて東京で作家活動を続けました。ふるさと金沢に愛着を持ち、金沢を舞台とした作品も少なくありません。

◆徳田 秋声(とくだ しゅうせい)
 明治4年、浅野川に近い横山町に生まれ、昭和18年に亡くなりました。今年はちょうど生誕150年という節目にあたり、さまざまな記念イベントが行われています。
 秋声の小説は、ごく普通に生きる人々の何気ない日常生活を生き生きと描き出し、そのまま物語にするという特色があります。特に、女性を描くことに優れた作家として知られています。

◆泉  鏡花(いずみ きょうか)
 明治6年、浅野川大橋の近い下新町に生まれ、昭和14年に亡くなりました。
 鏡花は、心の中で空想したファンタジックできらびやかな世界、幽霊や妖怪などが登場する不思議な物語を創り出すのが得意な作家です。現実や日常をそのまま作品にした秋声とは正反対の特徴といえます。

◆室生 犀星(むろお さいせい)
 明治22年、犀川の畔にある千日町に生まれ、昭和37年に亡くなりました。
 犀星は秋声・鏡花よりは十数年も年下で、二人の先輩作家の長所を取り入れて、現実生活に即した作品と豊かな想像をもとに書かれた作品の両方があります。また、詩や俳句にも優れた作品を残しており、小中学生にとって親しみやすい作家と言えます。


 うさぎグッズのコレクターとしても知られる鏡花に対し、動物は嫌いだった秋声。社交ダンスを好みお洒落な洋服姿が板についた秋声に対し、伝統的な庭造りや庭の動植物、古美術を愛した和服姿の犀星。ちょっとした好みの違いに、三文豪の個性が感じられるようでした。
 パワーポイントを使い、金沢の地図をもとにした薮田学芸員さんのお話は、とてもわかりやすく丁寧な内容でした。浅野川と犀川の流れと三文豪の生家の位置が示された市内地図には、『浅野町小学校』が明記されていることに気づいた子どもさんもいました。
 4年生の皆さんにとって、三文豪の作品を読んで理解するのはやや難しいことでしょう。それでも、この日にご紹介いただいた犀星詩の「犀川」の言葉は、何とも言えずやさしく、やわらかなメロディーになって心に響いてくるのではないでしょうか。
    美しき川は流れたり
    そのほとりに我は住みぬ
    春は春、なつはなつの
    花つける堤に座りて
    こまやけき本のなさけと愛を知りぬ
    いまもその川のながれ
    美しき微風ととも
    蒼き波たたへたり


 この日は、1・2組の皆さん、どちらもたいへんしっかりとした姿勢で、熱心に学習に参加していただき、嬉しく感じました。皆さんが三文豪やそれぞれの作品について、さらに調べたり、読んだり、話し合ったりして、学びを深めてくださることを願っています。




      



〇7月24日(土)第1回 金沢ナイトミュージアム『ソプラノとオルガンの夕べ』

~こころのふるさとを唄うⅦ~

出演: 直江 学美(ソプラノ歌手)、黒瀬 恵(オルガン奏者)

 

 

 連日、真夏日が続く週末の夕方、夏の恒例行事となった『ソプラノとオルガンの夕べ』を開催いたしました。出演は、ソプラノ歌手の 直江 学美(なおえ まなみ)さん、オルガン奏者は、 黒瀬 恵(くろせ めぐみ)さんです。
 2年ぶりの開催となる今回は、通算7回目です。金沢市出身のお二人の息の合った演奏をたっぷりとお聴きいただきました。

 

♪プログラム♪
  ☆『夏の思い出』   作詞:江間章子  作曲:中田喜直
  ★『ロンドンデリー』  (アイルランド民謡)
  ★『前 奏 曲』    作曲:大中寅二
  ☆
『梛子の実』    作詞:島崎藤村  作曲:大中寅二
  ★『月の砂漠』    作詞:加藤まさを  作曲:佐々木すぐる
  ★『ああ、お母さん聞いて』による変奏曲(きらきら星変奏曲) 作曲:J.C.F.バッハ
  ☆『小さな空』     作詞・作曲:武藤徹
                  (☆ソプラノとオルガン    ★オルガン独奏)


 コロナ禍の拡大に配慮して、参加者を15名に縮小するとともに、オルガン独奏のプログラムを充実しましたが、最後まで熱心にお聴きいただくことができました。最近では、足踏みオルガンの音色を聞く機会も、すっかり減ってしまいましたが、唱歌の練習に相応しい楽器として、戦後の音楽教育で重宝されたものだそうです。
 最後は、みなさんお馴染みの『ふるさと』の合唱で終了しました。街角の古い建物が小さな音楽教室になったような、ほのぼのとした一体感が広がりました。
 金沢を中心に多彩な演奏活動を展開してこられた、直江学美さん、黒瀬恵さんの今後のご健康とご活躍をお祈りいたします。




      



〇7月18日(日)第1回 『フォト&五・七・五』合評会

コロナ禍の哀愁と希望とユーモアと

講師: 中田 敏樹

 

 

 今年度前半期の『フォト&五・七・五』には、10名の皆さんからのご応募をいただき、展示も昨日までに終了しました。コロナ感染拡大による休館で、通常より遅い合評会となりました。2年ぶりに、俳人で写真愛好家でもある 中田 敏樹(なかた としき)先生を囲んで、学習と交流の機会を得ることができました。

 

 石楠花爽か初恋の香り
     シャクナゲの淡いピンクが初恋のさわやかなときめきを連想させる

 枯れの妙まだまだ秋が鼠多門
     再建されて間もない門は、いずれ秋(とき)を重ねて古格を備えることだろう

 逝く主に枝垂れ桜も風に揺れ
     亡き主に思いを馳せて揺れているのか。枝垂れ桜よ、俺も同じだ

 シクラメン窓の外には雪景色
     室内に静かに咲き匂うシクラメンが外の雪景色を忘れさせるようだ

 咲き出しの一輪は散り、19日遅れて満開 蕪村の句を借りて
 一もとの梅に遅速のありにけり
     桜は一斉に開花するが梅は一輪ごとにそれぞれのタイミングで開花する
     梅の枝に金箔の背景を駆使した巧みな画像処理が際立つ作品

 左義長や母の願いと子の思い
     左義長はコロナで様変わりして味気ないが、母の願いと子の思いは交錯している

 影は黒黒は実態五月晴れ
     鉢植えを支える鉄骨が五月晴れの陽光を受けて、濃い影をなす
     それが知恵の輪のように不思議な映像を結んだ
     靴が具体的な大きさの指標となっている

 梅開くこころにひとつ夢開く皆と一緒に微笑む春か
     梅の花が夢の花になって、仲間と歩き出す春への期待を膨らませてくれる

 集まりの帰り道には芝桜見上げる空にほらうろこ雲
     ほら、という感動詞が友達や家族に語り掛けるように効果的である

 花の昼探検気分で街歩き
     真昼間に出かけた繁華街の一隅で、まるごと前衛芸術のような店頭を活写した

 狛犬も地蔵尊もマスクかな
     コロナ禍のユーモラスな寸描。マスクは人間だけのものではない

 紫木蓮ヨハネの救いありて今
     試練を経た銘木の木蓮が見事に開花して、幼い子どもたちを温かく見守っている



ゆっくりと作品を振り返りながら、撮影場所や時間、処理のポイント、レイアウトの工夫や改善点、俳句との絡み合い、ことばの表現の拘りなど、幅広い視点から交流することができました。
 猛暑日の午後、ご参加くださった皆さん、本当にお疲れ様でした。 


      



〇7月17日(土)第2回 小説講座

繋がり合って成長する

講師: 皆川 有子(『櫻坂』同人)

 

 

 梅雨明けしたばかりの気持ち良い青空が広がる午後となりました。第2回小説講座の担当は、同人誌『櫻坂』同人の、皆川 有子(みながわ ゆうこ)先生です。今回は、芥川賞作品である、宇佐見りん『推し、燃ゆ』をテキストとして、小説の実作にあたってのヒントについてお話いただきました。

 

 『推し、燃ゆ』の「推し」は自分が熱烈なファンとして応援する対象。かつては「追っかけ」とも呼ばれました。その対象であるミュージシャンの若者が、ファンを殴打するという衝撃的な事件から始まります。このことがSNS上で炎上したことを「燃ゆ」と表現したものです。作者の宇佐見りんさんは、大学在学中の21歳。若者世代のリーダーとして今後の活躍が期待されています。

★書き出し
の工夫
 推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。まだ詳細は何ひとつわかっていない。何ひとつわかっていないにもかかわらず、それは一晩で急速に炎上した。寝苦しい日々だった。虫の知らせというのか、自然に目が覚め、時間を確認しようと携帯を開くとSNSがやけに騒がしい。(P3)
⇒作品冒頭の「つかみ」が見事。敢えて時系列にしないことで、読み手に強いインパクトを与える。冒頭はタイトルそのものである点にも、作者の思い入れが感じられる。このスキャンダルを暴く方向ではなく、その背後を丁寧にたどるという展開が待ち受けている。

★巧みな比喩①
 成美はリアルでもデジタルでも同じようにしゃべる。ふたつの大きな目と困り眉に豊かな悲しみをたたえる成美の顔を見て、あたしはよく似た絵文字があるとおもいながら……(P4)
⇒SNSを知らない世代には意味不明な語彙や表現が含まれる。豊かな悲しみ、も異例の表現であり、深い悲しみでも、複雑な悲しみでもない。顔の絵文字に似ているというのも、わかるようで、絞り切れない不可解さと軽妙さがある。

★若い世代をリアルに描く
 スタンプみたいな屈託のない笑顔が言った。成美はアイコンを取り換えるように都度表情を変え、明快にしゃべる。建前や作り笑いではなく、自分をできるだけ単純化させているのだと思う。(P4)
⇒カタカナを多様することで、軽快で現代風なテンポを創出している。女子高校生の表情を、「アイコンを取り換えるように」と意表を突く、印象的な表現に挑戦している。

★巧みな比喩②
 濡れて黒っぽくなった水着の群れは、やっぱりぬるついて見えた。銀の手すりや黄色い淵に手をかけあがってくるのが、重たそうな体を滑らせてステージに這い上がる水族館のショーやアシカやイルカやシャチを思わせる。(P8)
⇒主人公のあかりが、見学していた水泳実習の時間に捉えたクラスメイトたちを比喩した表現であるが、這い上がるアシカやイルカの、柔らかく、黒く、濡れて光る感触が直に伝わってきそうなほど的確な描写である。

★「細部に神が宿る」
 ピーターパンは劇中何度も、大人になんかなりたくない、と言う……
言葉のかわりに涙があふれた。重さを背負って大人になることを、つらいと思ってもいいのだと、誰かに強く言われている気がする。同じものを抱える誰かの人影が、彼の小さな体を介して立ちのぼる。あたしは彼と繋がり、彼の向こうにいる、少なくない数の人間と繋がっていた。(P3)
⇒大人の世界への心身の成長・発達について、同じ世代の仲間、推しである彼、その向こうの人間たちとの繋がりを意識する、という心理描写。成長の渦中に置かれた不安、孤独、閉塞感、などを共有できる存在があることで、今を生きる呼吸も変わるはず。心の壁の細部にふれるような表現は、印象的である。


講師の皆川先生は本講座のOBで、ご自分の受講経験を踏まえながら、今回初めて講座を担当していただきました。小説は自由に書ける、自由に書いてよいものであることは大前提です。それを踏まえてでも、やはり書く以上は読み手の存在を意識して、気持ちよく読んでもらえるように、また、書き手の思いが伝わるようにしっかりと推敲することの大切さを強調されました。
 「推し」「偶像崇拝」「あこがれる存在」「あこがれる異性」に向き合う際の意外な男女差、今日的なデジタル世代と旧世代とのギャップ、そのどうしようもないほどの格差なども話題になりました。それを超える(埋める)普遍性を、創作の上で追求したいものです。講座もまた、繋がり合って成長する場と言えるでしょう。 


 第3回の開催は8月21日(土)で、皆さんの掌編(作品)の合評会です。ご準備をよろしくお願いいたします。


      



〇7月11日(日)第3回 朗読会『青春の門 筑豊編』

朝鮮人村の息遣いに触れて

朗読: 髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表)

 

 朗読小屋・浅野川倶楽部代表の 髙輪  眞知子(たかなわ まちこ)さんをお招きして、午後から第3回目の『青春の門』筑豊編の朗読会を開催いたしました。
 今から約80年前。太平洋戦争ただ中の炭鉱の村に立ち上る熱い砂ぼこりや子どもたちの喚声が蘇ってくるようなひとときでした。

 


 九歳の秋のある日、信介は悪口の言い合いでもめた少年を訪ねて、ひとり朝鮮人村まで出かけます。村人たちが見守る中で、信介は九南少年を相手に生まれて初めて力一杯の喧嘩をします。二人の互角の喧嘩を采配した長身の青年は引き分けを宣告して、九南と信介を小屋の中に入れて落ち着かせます。青年は信介の父が、伊吹重蔵であることを知ってうれしそうに笑い出し、近くにいた男たちにもそれを告げると、皆、納得し感心した様子で信介の顔を覗き込むのでした。仲間の婚礼を祝う餅や酒やキムチ、韓国の歌で賑わう村の人々の空気を信介は親しいものに感じていたのです。
 青年は、自宅で待つタエのもとまで肩車して信介を送り届けてくれます。この青年は九南の兄で金山朱烈という名前であること、昭和15年の東日鉱山での出水の折に伊吹重蔵に命を救われた徴用坑夫の朝鮮人の一人であることをタエに打ち明けます。重蔵の恩義は大事にするので、困ったことがあれば力になりたいと告げて立ち去ります。

 それから、金山朱烈は手土産を携えてタエと信介の家を訪ねて来るようになります。うれしそうに迎えるタエですが、信介には織江から聞いた、母親と金山が抱き合っているという噂が気になって、二人への不信感がわだかまっていたのです。織江の言葉に腹を立てて暴力をふるったことを、タエと金山に責められススキの原に一人寝転ぶ信介でした。母親はタエだけだと信ずる一方で、やっぱり他人は他人なのだという悲しさ。さらに、金山とタエが抱き合っていたという妄想をふくらませるうちに、信介は堅く尖った下腹部をもてあそび律動させたあげく射精するのです。こっけいな虚脱感と平和で沈んだ気持ちで、秋の気配が濃い河原から立ち去ります。
                           (「母を犯す日」まで) 


 太平洋戦争も終わりに差し掛かった厳しい戦況を背景に、暗い影が伸びてゆく情勢を反映した炭鉱の一隅の物語です。自分自身や仲間にとって命の恩人である伊吹重蔵の妻子に偶然巡り合い、何かしら恩返ししたいと願う金山朱烈の思いは、残念ながら誤解に歪められます。
 まだ幼い少年とは言うものの、朝鮮人村という共同体の存在を知り、逞しくて潔い金山の人格にも惹かれ、母親のタエへの思いを忖度するとともに、大人の女性としてのタエの傍で性に目覚め、妹のように無遠慮に接する織江にも寄り添う、一途で、健気な信介の存在が浮き彫りになっていきます。

 

次回は8月8日(日)の開催です。どうぞ、お誘い合わせてご来館ください。


      



〇7月10日(土)第2回 詩入門講座

詩は自分の感性が掬い取る内面である

講師: 井崎 外枝子(『笛』同人)

 

 

 午後から、第2回目の詩入門講座を開講しました。詩誌『笛』同人の、井崎 外枝子(いざき としこ)先生の担当で、「誌の魅力」をテーマにお話しいただきました。

 

 「詩を書くための留意点」
  ①詩の3つの要素・・・「意味」「イメージ」「リズム」
  ②詩と散文の違い
    散文を改行しても詩(韻文)にはならない
    余白を活かす改行であること
  ③詩というもの
    詩は知識、考え、理屈、アピールではない
    自らの感性がとらえ、出会った唯一の存在
    詩は自分自身の内面である
  ④詩の構成
    「連」の構成にあたり、起承転結、ホップ・ステップ・ジャンプを意識する
  ⑤詩の特質
    答えを出すことではなく、テーマを深めることがポイント
    安易な結論を避け、読者にゆだねること


講座のOBの詩をご紹介いただき、具体的な表現内容や形式を確認しました。改行の位置や一行空き、言葉のつながり方、助詞の使い方、散文的なテーマの取り扱い、連の構成や特徴、題名の意味や工夫についても解説していただきました。また、先生が長期にわたって批評・選評された小学生の詩の魅力については、やはり言葉の知識や経験の豊かさとは異なる生き生きとした素直な感性が、そのまま詩の言葉になって飛び出しているということに注目しました。 


 次回からは、受講生の実作をもとにして詩の魅力や詩を書く喜びを追求することが中心となります。皆さんの感性がきらめく作品をお待ちしています。


      



〇7月10日(土)第2回 小説入門講座

まず、身辺の出来事を題材に

講師: 高山 敏(『北陸文学』主宰)

 

 

 6月はコロナ感染拡大のため、講座もお休みでした。第2回目となる小説入門講座は、2ヵ月ぶりの開講でした。梅雨空を見上げる蒸し暑い日となった今回は、同人誌『北陸文学』主宰、高山 敏(たかやま さとし)先生の担当で、「小説を書く力」というテーマでお話いただきました。
 前半は初めて小説を書く人へのヒント、後半は受講者が今書こうとしていることについて、情報交換しました。

 

  ★小説を書く力(原動力)=これまでの「負」の体験が核になる。
                  ・・・悲しみ、苦しみ、憎しみ、後悔、諦め、など
     『現在のために、過去がある』(現在の作品に過去の様々な蓄積が反映される)
  ★最初は、身辺小説から
     ・日常の幸せで平凡な暮らしの中で起こるアクシデントを軸に
     ・なぜ、どのように心が重苦しいのか
     ・それからどのように心が動いたか
      ・・・心情の変化からストーリーが生まれる
  ★書こうとする内容
     ・時期(時代)、場所(舞台)
     ・主人公および登場人物(つながり)
     ・どんな出来事が起こったか、その背景や状況
     ・その出来事(課題)は、どう展開し、結局どうなったか
  ★書き出しと結び
     ・書き出し=テーマを暗示すつ出来事を
     ・エネルギーを注ぎ、丁寧に読み手にメッセージを送る
     ・結びを意識して、その結びにからめるように書き進める
     ・結び方=簡単にまとめない、粘り強く、余韻を残すように
  ★登場人物について
     ・傷つく、落ち込む、心身の病気になる、生身の人間であることを意識


書こうとしているテーマや内容はさまざまですが、気がかりな題材をしぼり、作品を書くことをきっかけに過去の自分を見つめ直し、今後の生きる糧にしたいと願っているという共通基盤があるように感じました。小説を書くなんて、とても大胆で簡単にはいかないと思うが、講座をきっかけに挑戦したい、という前向きな意気込みが静かに広がっていくようでした。
 先生からは、小説は「人生はこうあるべき」というものではなく、主人公の立ち位置や状況を、丁寧に、粘り強く追求しながら表現する努力を重ねることが大切だという温かいアドバイスを頂きました。 


 次回は小網先生の担当で、テーマは「小説の文章」についてです。旧盆を避けて、8月7日(土)の開催です。ぜひご参集ください。


      



〇6月20日(日)第2回 朗読会『青春の門 筑豊編』

自由の天地を駆け巡る狼の家族

朗読: 髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表)

 

 梅雨の晴れ間となったこの日、第2回『青春の門』(筑豊編)朗読会を開催しました。朗読小屋・浅野川倶楽部の髙輪 眞知子(たかなわ まちこ)さんの朗読で、戦時中の炭鉱町で片寄合ってつつましく生きる人々の息遣いを再現していただきました。

 

 

 伊吹信介が5歳の時、父・重蔵は死んでしまいます。重蔵の勤める炭鉱と隣接する東日鉱山炭鉱との二つの炭鉱の抗夫同士の喧嘩が昂じて本格的な報復がありそうな緊張が、筑豊の男たちの注目を集めていました。両者の衝突寸前という時、東日鉱山で落盤事故が発生して坑道が浸水し、三十数名の坑夫が閉じ込められたという知らせが入ります。重蔵は敵対する相手の災難を囃し立てる仲間を一喝して、事故現場に駆け付けました。東日の頭領である塙竜五郎と協力して救助作業にかかりますが、難航して埒があきません。坑道をダイナマイトで爆破して新坑へ水を抜くことが、生き埋め状態の危機から炭鉱労働者を救う唯一の手段でした。重蔵は竜五郎の支援を受けて、単身ダイナマイトを抱えて坑道のポイントを見事に発破します。閉じ込められていた男たちは全員救出されましたが、重蔵自身は新坑の奥に消え、帰らぬ人となったのです。繰り返しタエが語ったこの物語は、父母の淫靡な営みの記憶と共に末永く信介の心の中に生き続けることになります。

 牧織江は信介とタエが住む「後家長屋」の端の家の娘でした。信介の二つ年下の織江は、色白でゆったりとした動作の無口な少女でしたが、足が不自由なことを近所の子どもたちから残酷なまでに囃し立てられて、泣き出すようなことが習慣になっていました。その織江を妹のように思う信介を慕って黙って後についてきて、なんでも信介に素直に従うのでした。
 ある夏の日、人気のない壕の中で信介は織江を寝かせ、性的ないたずらをします。織江が急に泣き出して長屋の方に走り去ると、信介はこのことを織江の母や長屋の人たち、そしてタエにも知られることを想像して茫然と立ち尽くします。
 <もう家には帰れん、どこへ行こう>から、<何かやらさなくては、よしこいつに登ってやる>へと、切羽詰まった信介の思いは急展開し、夕陽に照らされた≪骨富士≫と呼ばれる奇怪なボタ山の頂上に必死で辿り着きます。タエは帰宅が遅い信介の行先がボタ山らしいことを織江から聞きだし、なりふり構わず危険に満ちたボタ山の頂に向かい、どうにか信介を探し当てます。

     *   *   *   *   *   *   *   *
     信介とタエは、その焔に照らされたボタ山の頂上の台地で、食い入るようにお互い
    の目を見つめ合った。
    「あんたにもしものことがあったら、うちは死んでもお父ちゃんにおわびせにゃなら
    んところじゃった」とタエはつぶやくように言った。
    「でも、よう無事でいてくれたね」
    信介は唇をかんで、胸の奥から突き上げてくる熱いもののかたまりに耐えていた。何
    かを言っても言葉にならないような気がした。それに、もし泣き声でもだしたら、タ
    エにはずかしい、とおもったのだった。
     提灯の火がひと揺れ揺れて燃えつきると、あたりはふたたび太古のような深い闇と
    沈黙の中に沈み込んだ。(中略)
     信介はタエの胸のなかで、自分がこの柔らかで暖かなふくらみを持った女と、ほと
    んど一つの体のように結ばれているような気持ちをおぼえた。二人きりで闇のなかに
    いながら、少しの淋しさも、恐怖感もなかった。父親のもっと身近な人間であったタ
    エが、いま、いま自分にとってもかけがえのない相手なのだ、という感じが信介の心
    を暖かく満たしていたのである。(中略)
     二人は黙り込んで夜気を胸いっぱい吸い込んだ。信介はそのとき、自分たちが<針
    谷の骨富士>とみんなによばれて恐れられているボタ山にいることを忘れていた。
    そして、自分たち二人が人間の親子ではなく、筑豊がまだ原始の荒野だったころに、
    その自由の天地を縦横に駆け巡って生きていた二匹の狼の家族であるかのような気
    がした。
                              (「夏の日の秘密」まで)

     *   *   *   *   *   *   *   *

 

太平洋戦争中の重苦しい少年時代はさらに続きます。次回(7月11日)にも、ぜひお越しください。


      



〇6月19日(土)第1回 小説講座

読者に開かれた作品をめざして

講師: 宮嶌 公夫(『イミタチオ』同人)

 

 ようやく緊急事態宣言及びまん延防止地域の指定地域から解放されて、14日(月)から当館も平常通りに開館しました。
 この日は5月に中止した「第1回 小説講座」を開講しました。講師には同人誌『イミタチオ』で評論活動を中心にご活躍中の、宮嶌 公夫(みやじま きみお)先生をお招きして、「短編小説の魅力について」のテーマでお話いただきました。

 初回でもあり、受講生の方からそれぞれどんな作品を、どんな動機で書こうとしているかをお聞きしました。現代社会の問題を切り口に、自分の問題意識の中で広く共感を得られそうなものを求めて、承認の欲求を追求しながら、この講座の機会を活かしたい、という声が印象的でした。

 

1.小説が成立するために
   ・身辺雑記や日記とは異なり、虚構(フィクション)であることが前提
   ・読者の存在を意識し、読者の期待にこたえ得る内容を

    ……自分の閉じた世界を、読者に開かれた世界(作品)に組み立てる
    ……読者と書き手との隙間、違和感を埋める
   ・しっかりとした「主題」・「構成」・「描写」を創出する

2.魅力ある小説に必要なこと
   ①「主 題」一番伝えたい、人生の断片を切り取る
      ポイント:物語を通して主人公の何か(心情・関係・状況)が変わる
   ②「構 成」プロットを構築、語り手の視点
      統一された奥行きのある世界、密度の濃い内容
   ③「描 写」読み手に伝わる言葉を選び取り、配置する
      吟味された言葉、無駄のない描写を追求する

3.吉本ばなな作品「みどりのゆび」を読む
   ①物語の構造:
     現在・回想・現在
     対比的な構成:生と死、植物と人間、個の変容、個と個の連関
   ②物語の主題:
     「おばあちゃんはあんたにはわかると思うの、そういう感性がね。植物ってそういう
     ものなの。ひとりのアロエを助けたら、これから、いろんなね、場所でね、見ると
     どんなアロエもみんなあんたのことを好きになるのよ。植物は仲間同士でつながっ
     ているの。」                     (祖母の最期の言葉)
    「アロエの愛情に包まれて、私は陽の光の中であたためられているような気がした。
     そうかこうやってつながりができていくのか。もうアロエは私にとってどこで見ても
     見る度にあたたかいものや優しいものにつながっていく。どのアロエも私には等しく
     あの夜に植え替えたアロエの友達だ。人間と変わらずに縁ができていく、こうしてい
     ろいろな植物と私はお互いに見つめあっていくのだ。……」(終末部より)
   ③描写
     ・絞り込んだ会話:大切な部分(関係)を浮き彫りにする
     ・語り手(主人公)の視点:現在・過去、過去の中に顔を出す主人公
     ・巧みな省略「その時のこと」「あちらの世界」「もう手術はしない」
     ・単刀直入「うちの鉢植えは元気かしら」「花を買う余裕は心の余裕」
      「悲しみににごった眼で第一印象を決めるものではない」


近現代の文学作品の研究・評論を中心にご活躍中の宮嶌先生から、吉本ばななさんによる魅力に満ちた短編作品をご紹介いただきました。その具体的な注目ポイントについてもいくつかご指摘がありましたが、ゆっくりと再読して読者に開かれた創作へのヒントとして活かしてほしいと願っています。 


 次回は、皆川有子先生の担当で「実作について①」ですが、講義資料も併せてご準備ください。7月17日(土)の第2回をどうぞお楽しみに。


      



〇5月9日(日)第1回 朗読会『青春の門 筑豊編』

筑豊・遠賀川で活躍した船頭の気質をルーツに

朗読: 髙輪 眞知子(朗読小屋・浅野川倶楽部代表)

 

 五木寛之作の小説『青春の門』第1部・筑豊編は、「週刊現代」に1969年から70年に連載された作品ですが、全面的な加筆を経て、1989年に改訂版としてまとめられました。
 筑豊の地で生まれた伊吹信介(いぶき しんすけ)が、幼い頃に死んだ父、女一人で家を守る母、情に厚い竜五郎らに見守られて、幼馴染である織江との愛を育みながら成長していく物語です。

 朗読小屋・浅野川倶楽部を主宰する 髙輪 眞知子(たかなわ まちこ)さんの朗読でお届けします。今年度は当初、初回から4回分を繰り返す予定でしたが、従来通り12月までの8回シリーズとして改訂版を底本にお聴き頂くこととしました。

 

 明治初期の筑豊は、富国強兵政策を掲げて近代国家の確立を急ぐ日本を支える石炭王国として発展していました。掘り出された石炭は荷馬車で川岸まで運ばれ、遠賀川水系をたどって北九州に送り出されました。遠賀川水系の石炭船の賑わいは、最盛期では八千から九千船に達したと伝えられます。その船頭として活躍した信介の祖父・伊吹耕平は、仲間から<キリクサン>と呼ばれた、淡白で、きびきびとした潔い男でした。
 ところが明治32年に筑豊線鉄道が開通すると、失意の中で炭鉱夫となった耕平は落盤事故で呆気なく他界します。その息子である重蔵は、川船船頭として颯爽と生きた父に憧れながら、川筋気質の明るさと頑強な体を受け継いだ炭鉱の男として成長します。
 背中には真紅ののぼり蜘蛛の刺青を負い、ボタ山でのダイナマイト爆破事件の嫌疑による拷問に耐え抜き、無防備にして喧嘩の仲裁をするなど、際どいエピソードを重ねる重蔵は、<のぼり蜘蛛の重>から<伊吹の頭領>と呼ばれました。その重蔵は妻と死別した後、栄町のカフェの女給だったタエに惚れて再婚します。香春岳(かわらだけ)を背景として、信介の脳裏にひときわ艶めかしく、強烈な印象を刻みつけたタエは、二人目の母でした。
                              (「夕陽と刺青」まで)

 

いよいよ、信介の青春の物語が始まります。ぜひ、ご参集ください。


      



〇5月8日(土)第1回 詩入門講座

人間がいちばん面白い

講師: 杉原 美那子(『笛』同人)

 

 午後からは第1回詩入門講座を開講しました。現在のところ詩の受講者は3名と少ないのですが、新たな参加者を募る一方、密度の高い講座になることを願っています。

 第1回目の担当は、詩誌『笛』同人の 杉原 美那子(すぎはら みなこ)先生でした。初回ということで、詩を書こうとする動機は何か、日頃どんなタイミングでどのように詩や小説と向き合っているか、どんなことを詩のテーマとして追求しようとしているか、といった話題で交流しました。
 また、杉原先生から様々な詩を紹介して頂いて、その印象や感想を出し合いながら、詩の魅力の一端に触れることができました。


      生命は           吉野  弘

    生命は
    自分自身では完結できないように
    つくられているらしい
    花も
    めしべとおしべが揃っているたけでは
    不十分で
    虫や風が訪れて
    めしべとおしべを仲立ちする
    生命は
    その中に欠如を抱き
    それを他者から満たしてもらうのだ

    世界は多分
    他者の総和
    しかし
    互いに
    欠如を満たすなどとは
    知りもせず
    知らされもせず
    ばらまかれているもの同士
    無関心でいられる間柄
    ときに
    うとましく思うことさえも許されている間柄
    そのように
    世界がゆるやかに構成されているのは
    なぜ?

    花が咲いている
    すぐ近くまで
    虻の姿をした他者が
    光をまとって飛んできている

    私も あるとき
    誰かのための虻だったのだろう

    あなたも あるとき
    私のための風だったかもしれない
                        (詩集「北入曽」より)


   ○詩と向き合うさまざまなタイミング
    書きやすい時間帯、書きやすい場所で
    人間として生きる強さ、弱さ、すばらしさ、醜さの再発見・再認識

    世の中の真理・真実…日常の中で「はっ」としたことを書き留める
    素晴らしさ、かわいらしさを感じた瞬間をふくらませる
    季節の推移のなかで感じるもの、思い出すこと・人・場面
    偶然の出会いから引き出される素敵な輝き、不思議な縁
    貴重な発想の転換「自分もまただれかの何かになる。(なっている)」

   ○詩につながる日常的な習慣、積み重ね
    すれ違う一瞬、消えてゆく面影・感情を書き留める
    ふと浮かんだイメージ、夢などをメモする
    膨らみかけた言葉・感情と向き合う時間帯や場所を持つ
    いろいろなヒトと出会い付き合う、広くモノをさぐり求め触れる

 

先生から「人間がいちばん面白い」ことを今も改めて実感している、詩には何一ついけないことはないが人と同じことだけは避けたい、というアドバイスがありました。
 老若男女、人それぞれが持ち合わせた、人間らしさ、人間くささ、その重厚さも軽薄さも、どの部分も「詩」につながるものです。どう切り取るか、表現方法はどのようにするか、という以前の原点に立って日常生活を見つめて、気負わずに言葉をつむぎ、詩の楽しさや豊かさをさぐっていく講座にしたいものです。詩の世界も「ゆるやかに構成されている」ように感じるものです。
 次回は7月10日(土)、井崎 外枝子(いざき としこ)先生の担当です。


      



〇5月8日(土)第1回 小説入門講座

失敗を恐れないこと

講師: 小網 春美(『飢餓祭』同人)

 

 すがすがしい五月晴れのもとで、小説入門講座を開講しました。昨年度は新型コロナ感染拡大のため、4月上旬から5月末までは、市内の文化施設は休館となり当館の各講座も中止いたしました。2年ぶりの講座に際して、三密を避けるため受講者を半数に絞り、消毒や換気に配慮するなど感染対策を十分にして、安心して受講していただけるように準備を進めてまいりました。

 今回の担当は、同人誌『飢餓祭』同人の 小網 春美(こあみ はるみ)先生です。9名の受講者をお迎えして、「なぜ小説を書きたくなるのか」というテーマで学びました。


1.小説の不思議な力
  書くことで浄化されたり、読んで元気になれたりするのが魅力である
  幼少期の屈折した過去や困難な環境を表現することに大切な意味がある
  書いて発表することで、人の目に触れて評価される機会を得られる
   → 他者の批評や感想が、自分自身の成長・進化につながる

2.短編小説を書くために
  自分のお手本となるよい作品、よい文章に触れて熟読する
   → 名文を読み味わうことで、読む力を肥やすことが豊かな創作につながる

  お薦め:芥川龍之介、森鴎外、志賀直哉、永井龍男、三浦哲郎、安岡章太郎…
3.小説修行の選択肢
  文学賞に応募する、同人誌に参加する、講座を受講する
  幅広く題材を見出す:人との交流、魅力的な店、三面記事、身辺雑記、身の上相談
   → 多様な見聞、体験、エピソードなど柔軟に受容する
4.短編の創作ならではのポイント
  一週間から一か月間程度の出来事をまとめる
  架空の奇抜なアイディアを活かすために、脇を固めてリアリティを創出する
  だれの視点で書くか:一人称と三人称の特色を踏まえて
  ≪具体的な設定にあたって≫
  エピソード・事件を絞る、場所は大きく移動しない、人物は4人程度で

 

今回ご紹介いただいた資料『若い読者のための短編小説案内』(村上春樹・著)の中に「短編の名手と呼ばれる作家でも、全てが傑作揃いというわけではなく、必ず波があるもので、波が高くなったタイミングを捕まえて一番上にいくことが求められている。短編小説を書くときは失敗を恐れてはならない。たとえ失敗をして作品の完成度が高くなかったとしても、それが前向きの失敗であれば、その先につながる」という印象的な一節がありました。入門講座というステージでも、受講者の皆さんの失敗を恐れない、前向きな挑戦を期待しています。
 次回は7月10日(土)、高山 敏(たかやま さとし)先生の担当です。


      



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