〇6月30日(月) 出前講座 長田町小学校4年生
「俳句に挑戦」 |
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講師 : 竪畑 政行 (石川県児童文化協会 理事長) 金沢市立長田町小学校に訪問しました。4年生2クラス合わせた36名で出前講座を実施 しました。学習内容は『俳句に挑戦』です。本時のめあては「俳句の約束を知り俳句作りに つなげよう」「俳句は人によって『見方・考え方』に気づこう」です。講師は石川県児童文化協会理事長の竪畑政行(たてはたまさゆき)さんです。 それでは学習内容の一部を紹介します。 1 俳句について知っていることはあるかな? ・五・七・五 ・季語 ・実際に見たこと、体験したことを詠むよ 2 五七五のことばをさがしてみよう ・音数を数えるよ ・チューリップ……五音 ※手を打ちながら音数を数えるといいね ・パイナップル……六音 ※全員で手を打ちながら数えよう ・チョコレート……五音 ※注「ちよこれえいと」とは言わないよね 3 俳句にチャレンジ 難易度★ ◆上五 ◆中七 ◆下五 ①父さんの 玉はやすぎる ②むらさきの ピアスのような ③くさむしり たんぽぽだけは ④ジャングルジム 一ばん上で ※下五に入れてみよう [ A 残したよ B 雪合戦 C さがす秋 D なすの花 ] ↓ ※こんな俳句ができたよ ①父さんの 玉はやすぎる 雪合戦 ・雪合戦(冬) …お気に入り約 5人 ②むらさきのピアスのようななすの花 ・なすの花(夏)…お気に入り約16人 ③くさむしりたんぽぽだけは残したよ ・たんぽぽ(春)…お気に入り約 7人 ④ジャングルジム一ばん上でさがす秋 ・秋 …お気に入り約 5人 子どもたちは喜んで言葉を入れていきました。そして「雪合戦」「ジャングルジム」の言葉 から「字余り」を、他には「字足らず」があることも学んでいきました。 続いて、これらの四つの俳句で自分のお気に入りを選んでもらいました。子どもたちは、一人ひとりにお気に入りが違うことに驚いている様子でした。 4 俳句作りにチャレンジしよう 難易度★★★ ※[ ]は、長田町小の子どもたちが入れた言葉の一例です ① くるりとパーマを かけている [ ・おれの友 ・さくらの木 ・かみの毛は ] ② 夏休み たいくつそうな [ ・子どもたち ・冬休み ] ③ ミニトマト 赤くなる [ ・太郎君のが ・どんどんみのり ・夏にだんだん ] ※小学生が作ったもとの俳句を紹介しました ① ブロッコリー ②ランドセル ③お日様あびて 子どもたちの反応は素晴らしかったです。「うわーすごい。すごいよ」「そうかあ」「本当だ」……。瞬間に驚く子どもたち。言葉に対する敏感な感性の持ち主であることに竪畑先生は驚かれていました。 「驚くことが素晴らしいです。普段から言葉を使う時によく考えているからこそ『ブロッコリー』『ランドセル』と聞いて驚くことができるのです。驚くことができるのは力あることなのです。素敵な子ども達ですね」と語られていました。 学習後、最後に担任の先生にこれからの歩みについて竪畑先生が語られていました。 「は」……はっとしたこと はっけんしたこと 「い」……いつのことかわかるように 「く」……くみたてを考えて 担任の先生方を憧れの眼でみつめて学んでいこうとする長田町小の子ども達でした。時間がきて学習を終えても「俳句つくっていきたいな」と笑顔で話をしている子どもたちもいました。意欲的な学びの灯りをともしている子どもたちとの出会いに感謝いたします。 これからも長田町小学校の子どもたちの「自然あるがままの素直な優しさ」の灯がずっと 灯り続けて健やかに成長されていくことを心から願っています。ありがとうございました。 |
竪畑 政行氏 |
〇6月28日(土) 第1回短歌入門講座(基礎編)
「ようこそ短歌の世界へ」 ~どんな歌が好きですか~ |
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講師 : 栂 満智子(短歌雑誌「新雪」主宰) 短歌入門講座の開講です。講師は、短歌雑誌「新雪」主宰を務め、ご自身の歌集 「ゆきあかり」にて令和2年 泉鏡花記念金沢市民文学賞を受賞された栂 満智子先生です。 基礎講座は全3回で、第1回「なぜ「歌」っていうの」、第2回「見つけた一首を紹介して ください」、第3回「あなたもときめきを探して短歌をつくってみましょう」となっています。 第1回講座内容の概要をお伝えします。 1 短歌とは何? ・五、七、五、七、七の三十一文字(音) 一首、二首と数える。 ・反歌とは…長歌に付いていて、長歌を要約したり、補ったりする短歌。 和歌とは…長歌、あるいは短歌に和えて(こたえて)詠われた短歌。 〇なぜ「うた」というのか? ・長歌の多くは祭事や行事の際に朗詠されてきた ※式典に「うた」はつきものですね まだ文字がなかった時代 伝誦(口承) 古事記 稗田阿礼(天武天皇) 伝誦に基づいて記録された『古事記』 ※太安万侶が編纂する 古事記に前後して編纂されたのが、日本最古の和歌集『万葉集』 ※万葉集は「うた」の原点と言える 短歌朗詠されている ※さまざまな短歌大会で入選の短歌が朗詠されている ・日常を切り取って、短歌にしよう-想いを三十一文字に込める 「つぶやきを入れる器に丁度いい三十一文字にわたしを仕舞う」 平成二十八年第三十九回石川県人歌人協会大会 日本歌人クラブ会長賞作品 ・ときめきをみつけましょう 心に生まれる 喜び、怒り、悲しみ、楽しみ(喜怒哀楽) 加えて感動、希望、憧れ、驚きなどを言葉にしてゆく 言葉を探す。さらには詩情のある言葉に変換する。 歌はカタルシス(浄化)と言われる由縁 ※相手の気持ちに寄り添って言葉にしていく。自分の気持ちの持ちようで、人は 変わっていける。そうやって人は豊かな人生を送れるのではないか。 ■遊んでみましょう。あなたの好きな歌はありますか。 ※栂先生から二十五種の短歌を書いたプリントをいただきました。受講生一人一人 が好きな歌を紹介し合いました。 ※二十五首の中から受講生が選んだ短歌を一部紹介します。(※は出てきた感想の一部) 〇天の海に雲の波立ち月の船星の林に榜ぎ隠る見ゆ 柿本人麻呂 ※「壮大なうたです。さすが柿本人麻呂です。聡明な方です」 〇銀も金も玉も何せむに勝れる宝子にしかめやも 山上 憶良 ※「現代でも親としてみんなが共感できるうたですね」 〇春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つをとめ 大伴 家持 ※「何と本歌はあの有名な『おおとものやかもち』さんではないですか」 〇世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし 在原 業平 ※「桜がなければ心はざわざわしないのにと語れる業平さんは素敵ですね 〇何となく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな 与謝野晶子 ※「与謝野晶子の歌は、いつも『キラキラッ』としていますね」 〇木屋街は火かげ祇園は花のかげ小雨に暮るる京やはらかき 山川登美子 ※「山川登美子がうたう京都の歌はしっとりとしていて何ともいいですね」 〇くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やばらかに春雨のふる 正岡 子規 ※「『針やはらかに』」の表現のすごさが心に残ります」 〇観覧車回れよ回れ思ひ出は君には一日我には一生 栗木 京子 ※「自己紹介で言ったのですが栂先生はこの歌を書いて下さっていました…」 〇四万十に光の粒をまきながら川面を撫でるかぜの手のひら 俵 万智 ※「『川面を撫でるかぜの手のひら』なんて何てすごい表現なんでしょうか」 〇ほんとうにあたしでいいの?ズボラだし傘もこんなにたくさんあるし 岡本 真帆 ※「私も真帆さんの歌大好きです!」 (離れた場で喜び合う二人の受講者の姿あり) 初めて出会った方々と思えない穏やかな笑顔と雰囲気、そして今短歌を学んでいるという 喜びあふれたみなさんの空気が会場に満ちていました。 「短歌入門講座 基礎編」は、初の試みでしたが、大変に充実したスタートとなりました。 「短歌を創ってみたい」「短歌を詠めたらどんなに良いか」「あの時の感動を短歌で何とか 表したい」「言葉をもっと学んでいきたい」など、お一人お一人がいろいろな思いをお持ちに なって受講されてこられました。感謝の心でいっぱいです。 三回講座とはなりますが、「受講できてよかった」「こんな短歌を詠んでみましたよ」と みんなで喜び合える講座にと思います。 次回は、7月26日(土)午前10時30分からです。 次回テーマは「どんな歌が好きですか。お気に入りの歌を紹介してください」です。 次回、あなたが好きな歌を一首紹介ください。そして、どうして好きなのかもいえるように してきてください。提出〆切日は講座10日前です。「メール」「お手紙」「FAX」 「持参」どんな方法でも構いませんので、「①好きな短歌 ②作者名 ③ご自分の名前」を 書いて本館までお送りください。 皆様の多数のご参加をお待ちしております。 猛暑が続いております。くれぐれもお身体 ご自愛ください。 |
栂 満智子氏 |
〇6月23日(月) 出前講座 犀桜小学校3年生
「はいくってなあに?」 |
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講師 : 竪畑 政行 (石川県児童文化協会 理事長) 金沢市立犀桜小学校に訪問しました。3年生2クラス56名で1クラスずつの出前講座を 実施しました。学習内容は『はいくってなあに』です。俳句について知識を得て、俳句に興味 をもっていく学習です。講師は石川県児童文化協会理事長の竪畑政行(たてはたまさゆき) さんです。それでは学習内容の一部を紹介します。 1 俳句について知っていることはあるかな? ・五・七・五 の文字数だ。 ・季語が入っている。季節の言葉が入っている。 ・世界で一番短い詩だ。十七音だ。 2 この中に俳句はありますか? ① 道を歩いていた。急に強い風がふいてきた。ぼうしがとんでいった。 →五七五▲…………俳句× ② つよい風 ぼくのぼうしが とばされた →▲季節の言葉……俳句× ③ 春風に ふかれてぼうし とんでゆく →〇季節の言葉 〇五七五 ……俳句〇 ④ 春風が ぼくのぼうしを かぶってく →〇季節の言葉 〇五七五 ……俳句〇 3 「あなうめはいく」に挑戦しよう ① お日さまあびて 赤くなる ② 夏休み ランドセル ③ 運動会 声えんの中 ④ はっけよい すもうとる 子どもたちの反応を大切に学習が進行しました。 いくつかの場面を紹介します。 ◇A 問いかけ1の場面で T 俳句で知っていることある? P ……静かに時が過ぎていく……(なかなか発言が出てこない様子を見て) T うん。(優しく)知らなかったら出てこないよね。ではみんなに教えるよ。 ※子ども達に「五七五で十七音あること」「季節の言葉が入っていること」をゆっくりと 板書して子ども達の反応を活かしながら伝えていきました。戸惑う子ども達を追い込む のでなく、優しく子ども達に寄り添っていく竪畑先生の姿がそこにはありました。 子どもたちの安堵した顔が印象的でした。 ◇B 問いかけ2の場面で T 「①は俳句かな?」「俳句だと思う人は?」(全員に向けて) P …挙手は0人……でも反応は弱い……(俳句〇→挙手0人) T 「①は俳句じゃないよっていう人いる?」 P …一人が手を挙げる…(俳句▲→挙手1人) ※どちらも一人以外挙手なし T (優しく、挙手した子の側に行き、手の平で大事に包み込むようにし…) 「俳句じゃない。あなたはそう思ったんだね」(共感するように) P …うなずく子ども達(理由を言うと周りの子らも続きます) P「言葉が短くないから」 P「五七五でないから」 P「。がついているから」 P「句読点?」 ※挙手があったのは一人。でもそっと近づき「あなたはそう思ったんだよね」と優しく語り かける竪畑先生。すると自然に理由を語りだすたくさんの子どもたちがそこにはいま した。勇気ある子どもの心をそっと支える優しき言葉かけ。安心した子どもはうなずき 語り始め、やがて周りの子も語りだしました。友達の勇気が自然と周りの子どもたちに 広がっていき、教室には爽やかな風が吹き込んでくるようでした。 ◇C 問いかけ2の場面で T 「②は俳句じゃないと思う人は?」 →P「6人挙手」 T 「②は俳句だと思う人は?」 →P「挙手なし」 T 「迷っている人いる?」 →P…顔を見合わせ多数 →T「みんな迷っているんだ」 P 「つよい風じゃ季節はわからないかなと思う」 P 「夏も冬も強い風が吹くよ…」「台風もある」 P 「つよい風だけだと季節はわからないよ」 ※一人一人の表情を見て、子どもたちの迷いの心を竪畑先生は感じられたのですね。 「迷っている人いる?」という先生の声かけ。なんと優しく的確な言葉かけでしょう。 子ども達は自然に語りだしました。挙手のなかった20人ほどの子どもたちの迷いの表情 を見て、一人一人の心に瞬時に寄り添われたのですね。 そして自ら動き、語りだした 子ども達。きっと子ども達の心には、春一番、夏の台風、冬の木枯らしなど、さまざまな 風ある情景が心の瞼に映ったのだと思います。 そしてそんな豊かな心の情景描写から「強い風だけでは季節はわからない」との思いが したのでしょう。なんと素敵な子ども達でしょう。教育の喜びを感じる時となりました。 俳句学習でしたが、子どもたちの実態に合わせてやり方を瞬時に変更しながらの学習があり ました。2クラスのやり方は異なっていました。多くの挙手していない子がいれば、その子らの 表情を見て、瞬時に共感して心揺り動かそうとされる場面、「秋は『柿』がある」との発言があれば「私は柿が大好きなんです」と先生が共感されていく場面。すると自然に「そうなんだ」「私も好き」とみんなが笑顔になっていきます。 「子どもと共につくる喜びの学習」の心がそこにはあるように感じられました。 最後、帰路につかれる時、玄関で竪畑先生は 「今日の学習で私は反省させられることが いろいろとありました。改善していかねばならないと思います。まだまだです。いつまで たっても勉強ですね」と言われました。 犀川のほとりにある犀桜小学校は、心遣いあふれる校長先生、温かき素敵な先生方、そして 子どもたちの明るい挨拶が廊下で響き合う素晴らしい学校でした。 素敵な出会いをありがとうございました。 犀桜小学校のみなさんの健やかな成長を心から願っています。 楽しい「読み聞かせ学習」(紙芝居、手遊び歌、手品、金沢民話)、クラスごとでゆったり と聞く「語りの学習」、短歌協会の先生方による短歌入門出前講座(はじめての方大歓迎) などの学校出前講座は少しばかりの空きがあります。 ぜひ金沢文芸館にお問合せください。無料です。申し込みをお待ちしています。 |
竪畑 政行氏 |
〇6月21日(土) 第2回小説講座
小説の実作について① |
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講師 : 藪下 悦子(やぶした えつこ)(小説家) 第2回小説講座です。講師の藪下さんは、童話作家、小説家、そして『櫻坂』同人です。 また、小説『こおりとうふ』で、第50回泉鏡花記念金沢市民文学賞を受賞されています。 藪下さんから小説の実作について貴重な講義をいただきました。 内容を抜粋して紹介いたします。 1 小説の上達に必要なことは? (1)読み手を引きずり込むことが大切 〇余韻を残せるかどうか ・小説は「ストーリー」と「心の動き」からなる。充実感は「人を描く」ことから 生まれてくる。ストーリーは二次的なものである。 ・最後の場面で「手紙の文字が自分を見てくる」といった文言を入れた小説があった。 この文言は読者の心に消えない余韻を残すものとなった。 〇いろいろなジャンルにチャレンジしてみよう ・長編、短編、童話、現代小説、時代小説など 〇まずは終わりまで書き上げてみましょう ・途中で「つまらない小説になっている」と思っても、試練だと思い最後まで書き上げ て下さい。必ず後に生きてきます。 〇切磋琢磨していきましょう ・仲間との合評会を大切にしましょう。褒めてばかりやあらさがしはいけない。 作品をよりよくするためにあるものだ。 ・文章の上達に王道はない。継続は力なり。チャレンジし続けよう。 ・自分の作品に背表紙をつけて本を作り何らかの入賞を果たす夢を持とう。 ・文章力をつけていこう。書き慣れてはいけない。 新しい題材へ絶えず進んでいく心が大切だ。 2 書き出しの重要性について (1)12作家の作品の書き出しを見てみよう 12作家12作品の小説「書き出し」を挙げて、その違いと重要性についてお話 いただきました。ここでは冒頭部から一部を紹介します。 〇「透光の樹」 高樹のぶ子 著 谷崎潤一郎賞 文芸春秋 ※長編小説 白山を源に、加賀平野を流れて下って日本海へと注ぐ手取川が、左右に迫る山肌 からするりと解き放たれて、陽光のもとでのびやかに両手を広げながら流域を大きく するのが、鶴来町だ。 〇「こおろぎ」(「ふたりぐらし」より) 桜木紫乃 著 新潮社 ※短編小説 冷房の効いた車両に入ると、信好の額から汗が噴きだしてきた。 母のテルは迷いない様子で優先席に座る。昼時にさしかかり、札幌行きの快速電車 には季節から解放されたようなのどかさが漂っていた。 〇「禁忌の子」 山口未桜 著 鮎川哲也賞 本屋大賞ノミネート 東京創元社 ※長編小説 2023年4月17日、午後8時15分。ホットラインが鳴った。 「はい、こちらは兵庫市民救急科の武田です」 〇「元彼の遺言状」 新川帆立 著 「このミステリーがすごい!」大賞 宝島社 ※長編小説 差し出された指輪を見て、私は思わず天をあおいだ。信夫と私は、東京ステーション ホテルのフレンチレストランで、フルコースのデザートを食べ終わったところだった。 〇「ブラック・ヴィーナス」 城山真一 著 「このミステリーがすごい!」大賞 宝島社 ※長編小説 金沢市の中心部、オフィスビルが立ち並ぶ百万石通り。その一角にある雑居ビル 一階のカフェで、百瀬良太と二札茜は向かい合わせに座っていた。 〇「C線上のアリア」 湊かなえ 著 朝日新聞出版 ※長編小説 生きる――。 その言葉を自分の未来に重ね、輝いたのでありたいという願望を抱きながら、足元に 転がる石を丁寧に拾い上げて磨き、太陽にかざしてから積み重ねる。 〇「小説8050」 林真理子 著 新潮社 ※長編小説 銀色のトレイの上に、根本が茶色く変化した歯を一本置いた。それは73歳の女の、 最後のあがきのような歯であった。 〇「思い出トランプ かわうそ」(「思い出トランプ」より 向田邦子 著 新潮社 ※短編小説 指先から煙草が落ちたのは、月曜の夕方だった。 宅次は縁側に腰かけて庭を眺めながら煙草を吸い、妻の厚子は座敷で洗濯物をたたみ ながら、いつものはなしを蒸し返していたときである。 〇「戻り川心中」 連城三紀彦 著 日本推理作家協会賞 光文社 ※短編小説 苑田岳葉は、近代の産んだ天才歌人のひとりである。 大正元年、雑誌「くれなゐ」に最初の歌を発表し、以後十四年間に五千首にのぼる歌 を詠み、大正末年、一つの時代の崩壊と運命を共にするように、三十四歳のまだ若い命 を落とした。その意味で大正期を代表する歌人と言える。 〇「神無月」 宮部みゆき 著 新潮社 ※短編小説 夜も更けて、ほの暗い居酒屋の片隅に、岡っ引きがひとり、飴色の醤油樽に腰を 据え、店の親父を相手に酒を飲んでいる。 親父はとうに六十をすぎた小柄な老人で、頭の上に乗っている髷は銀糸色、背中も ずいぶんと丸くなっている。 〇「たそがれ清兵衛」 藤沢周平 著 新潮社 ※短編小説 時刻は四ツ半(午後十一時)を過ぎているのに、城の北の濠ばたにある小海町の家老 屋敷、杉山家の奥にはまだ灯がともっていた。 客が二人いた。組頭の寺内権兵衛と郡奉行の大塚七十郎である。 〇「女武芸者」(「剣客商売一」より) 池波正太郎 著 吉川英治文学賞 新潮社 ※短編小説 冷たい風に、竹藪がそよいでいる。 西にひろがる田園の彼方の空の、重くたれこめた雲の裂目から、夕焼けが滲んで 見えた。 長編小説の書き出し、短編小説の書き出しには違いがある等、様々な作家の作品の書き出しを見ていきました。どの作家も書き出しを大切に想って書いていることを その実作品から学んでいきました。 (2)書き出しに必要な要素は? 〇「これから何が起きるのだろう」そんな予兆を感じさせるはじまりであること 〇まずストーリーをはじめていくこと 誰が誰にどんな場面で何をしているか 〇登場人物の行動から性格描写が伝わるよう、重要な部分にしぼること 〇短く簡潔な描写であってほしい 〇登場人物のキャラクターを立てていくこと ・たけし ・たかし ※登場人物の頭を同じにしない 〇主人公を動かす事が大切。自分自身で悩んで苦しんで書くことで自力解決を。 〇人物は敵対するライバルがいて力が拮抗している方が面白い。 〇主人公が変化していくことが大切。 〇読者にどう伝わるのかを意識して推敲していこう。読者の心に傷を残す。 いつまでも続く余韻を大切にしていくこと 薮下先生は「小説の実作について①」講座で、ご自身の小説家としての日々の歩みから 学ばれたことを惜しみなく受講生に与えて下さいました。 「小説を書くことに王道はない。全体の中でそれを書くことが必要かどうかを見極めていく ことが大切だ。読者の力を信じて書いてほしい」 「目の前の作品に全力投球をしてほしい。井戸水は汲んだら新たな水が湧くものだ」 薮下先生、貴重な講義をいただきありがとうございました。 次回の講座は7月19日(土)第1グループ(皆川先生、宮嶌先生)、 7月26日(土)第2グループ(皆川先生、藪下先生)で提出作品の批評会です。 受講生のみなさんは該当グループでご参加下さい。 ただ今年度から、自分のグループでない日時も希望があれば参加できます。 合評会で意見を述べることも可能です。 希望参加される方は座席の都合もありますので、必ず事前に本館までお知らせください。 よろしくお願いします。 |
藪下 悦子氏 |
〇6月14日(土) 第1回詩入門講座
自分の想いから生まれ出る詩 |
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講師 : 木村 透子(詩誌「イリプス」同人) 和田 康一郎(金城大学非常勤講師) 今年度の詩入門講座は三人の講師の方にお力いただきます。 井崎 外枝子先生(詩誌「笛」同人)、木村 透子先生(詩誌「イリプス」同人)、 和田 康一郎先生(金城大学非常勤講師)です。 今年度は14名受講での講座がスタートしました。多くの方にお越しいただきました。 より楽しく深まりある詩入門講座を目指し、先生方には工夫いただいての講座となります。 受講生のみなさん、一年間よろしくお願いいたします。 お二人の講義から一部抜粋してお伝えします。 1 詩人「木村 透子」先生の講義から 〇『自分の想いから生まれる詩』であるために ・自分の思うこと、感じることを言葉で表現する 他者に読まれるための作品にする ・詩とは何か? …詩に「きまり」はない。形も決まっていないし、何を書いてもよい 各自が答えを探す、各自の答えがある。答えは一つではない ・多くの詩を読むこと 自分の好きな詩を見つけること こんな詩を書きたいと思う詩を見つけること 好きな詩を徹底的に分析すること 言葉づかい、どのように感じどのように表現しているかを学ぶ ・詩の創作において 最終的には自分にしか書けない詩を作り出す 自分の世界観、オリジナリティが大事 日常生活の中で感情や感動を大事に育んでいく 言葉の一語一語を大切にする 句読点、行あけ、連、段落などにも気を配る 木村先生からは、「好きな詩を持つこと」の大切さ、好きな詩の模倣からスタートしてみる こと、徐々に自分のオリジナリティを大事にしていくことなどを学びました。無理をせずに 自然体で言葉と向きあう大切さをかたっていただきました。 2 研究家「和田 康一郎」先生の講義から 〇詩は言葉の舞踏である 舞踏には魅力が欠けてはならない 〈散文は歩行であり、詩は舞踏である〉 - ポール・ヴァレリー(仏) 言葉にどうやって「歩行」ではなく「舞踏」をさせるか ※方法の選択について、他分野(絵画)を参考に 和田先生から、ピカソの絵画「ゲルニカ」が提示されました。 「なぜ本作品は『わからない』絵なのか?」について考察がありました。 ・そもそも本作品は写実を選択していない ・当時(第一次世界大戦)の現実を反映している。本戦争は一般市民を巻き込む戦争 で、これまでの戦争とは全く違う ・現実を写実的に描くと、本作品が逆にバクダン(爆弾)をたたえることとなる。 それをピカソは避けたのであろう。 ※新鮮な言葉遣い 他分野(広告コピー)を参考に 異化効果 …見慣れた当たり前と思っている物事に対して違和感を差し込み、 新鮮に感じさせる手法 (例)きゅうりをぬか漬けにしたことを、「1か月間、暗闇に監禁した」と表現する ※詩が目指すものは「娯楽」の面白さではない。 「鑑賞に値する」という意味での「魅力」である。 ※言葉のみが道具で、絵筆も楽器(やメロディー)も不要。 自分が感じたことが出発点ではあるが、「自分が感じた」にとどまらない内容を。 和田先生からは、詩が目指すものは「鑑賞に値する」という意味での「魅力」であること、 よく自分が感じたことを言葉にと言われがちであるが「自分が感じた」にとどまらない内容を 目指していかねばならないことなど、創作文芸「詩」を見つめていく新たな視点を持つことの 大切さを学ばせていただきました。 3 受講生のアンケートから (1)好きな作家は? ・武者小路実篤 ・長田 弘 ・宮沢賢治 ・谷川俊太郎 ・金子みすゞ ・八木重吉 ・石川啄木 ・新川和江 ・高村光太郎 (2)最近読んだ詩でよかった作品 ・武者小路実篤「一個の人間」 ・金子みすゞ「花屋の爺さん」 ・立原道造「のちのおもひに」 受講生のみなさんから様々な詩人名が出てまいりました。ぜひそれらの詩人の詩を紹介し 合って受講生同士でも話し合えたらより深まりが出てくるように思います。 これからの詩入門講座の歩みが楽しみで仕方がありません。 三人の先生方、受講生の皆さん、そしてさまざまな詩人との出会いを通して、広まりと 深まりのある充実した講座にと思います。受講生のみなさん、よろしくお願いします。 次回は、7月12日(土)「詩というもの①」で和田康一郎先生の講義です。 また7月12日(土)が試作品の提出〆切日となっています。 8月9日(土)は試作詩の批評と推敲日です。皆さんの詩の提出をお待ちしています。 |
木村 透子氏 和田 康一郎氏 |
〇6月14日(土) 第2回小説入門講座
小説作りの基本とは |
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講師 : 小網 春美(「飢餓祭」同人) 第2回小説入門講座の講師は、小説家の小網春美さんです。小網さんは2023年度、 「しずり雪」(能登印刷出版部)にて「泉鏡花記念金沢市民文学賞」を受賞されました。 小網さんは、2008年度から17年間、小説入門講座の講師を務め、たくさんの受講生を 育ててこられました。また、長い執筆活動の中から学んでこられた教えを講義いただきました。一部とはなりますが、紹介します。 ◎小説を書く意味は? 1 小川洋子「深き心の底より」に収められた「人間の哀しさ」から ・小網さんは講座の初めに、まず本作品を朗読されました。※次は抜粋です 子供の頃、自転車に乗った、野菜売りのおじいさんがいた。小雨が降っていた日、商売 のすんだおじいさんが家の前に止めた自転車に乗ろうとしていた。(中略)しまいに おじいさんは、「乗れん」とつぶやいて、自分をあざけるように弱々しく笑った。 (中略) 私は夜、その光景を繰り返し思い浮かべて泣いた。泣くことが一番ふさわしいわけでは ないと分かっていたが、他に気持ちを表現する方法を知らなかった。 単純にかわいそうに思ったからではない。手助けすべきだったのにと後悔したわけでも ない。はかなく、哀しい様子を目のあたりにし、深く心に染み入り、いとおしく思う。 そんな感じだろうか。でもいくら言葉を継ぎ足しても、足りない気がする。 (中略) 自分が今目にしたものは何だったのか。当時は見当もつかなかった。わけもわからず ただ泣くしかなかった。やがて私は小説を書くようになった。涙の代わりをしてくれる 表現の方法を、ようやく見つけた。(後略) 本文は1997年5月26日毎日新聞に「あはれの記憶」として掲載されたものです。 小網先生は「人には知られたくない心の闇がある」「自分の思いの丈を小説に込めていただきたい」との話がありました。「小説を書く意味」について考えさせられる講義となりました。 2 『若い読者のための短編小説案内』村上春樹 著 から 「短篇小説の名手」と呼ばれる作家だって、すべてがすべて傑作揃いというわけではあり ません。(中略)極端な言い方をすれば「失敗してこその短編小説」なのです。 (中略)作家は短編小説を書くときには、失敗を恐れてはならないということです。 たとえ失敗をしても、その結果作品の完成度がそれほど高くなくなったとしても、 それが前向きの失敗であれば、その失敗はおそらく先につながっていきます。 本作品は金沢文芸館三階本棚にもあります。受講生の皆さん、よかったらお読みください。 3 小説づくりで大切なことは? (1)注意事項は? ① 場所は移動しないで ② 登場人物は4人ぐらいで ③ 事件は少なく (2)題材を探そう。普段の生活から ➀ 人との関わりから題材を見つけていこう ② 人を眺めていると小説の種がみつかる (3)誰の視点かを考えよう ➀一人称か三人称かを決める ・一人称…主観的になる ・三人称…客観的になる ②視点は決めたら決してぶれないように (4)丁寧語、常体語かを決めよう ・丁寧語…です、ます調 ・常体語…である調、だ調 ※小説は7、8割が大体が「常体語」である。 (5)短い文章を心がけよう ・文章が長いと、主述関係が変わってくる可能性あり。 ・長い文章は、論理的に矛盾が生まれやすい。 ・しばらく時間をおいて読み返そう。客観的に読むことが大切だ。 (6)文章でなりがちなことと心がけについて ・文章がすべる時は抑制を利かせよう ・自分の文章に酔わないこと。興ざめしてしまう。 ・「すごい」「本当に」などは他の文章で表現していこう。 ・ありきたりの表現はしない ・「言う」▲ →「つぶやく」「話す」「吐き捨てる」「小声でささやく」 「大声でどなる」「口ごもる」「申す」など ・的確な言葉を辞書で調べてさがしていく →まゆをひそめて「……」と言った →この言葉でいいのかと自分自身で問いかける ・「現在形」「過去形」バランスよく使い分ける「現在形」は臨場感が出る。 「過去形」ばかりだとつまらない表現となる 最後には、小網先生から「良い小説を読むこと」との話がありました。 以前、小網先生は「読んでもらいたい作家」を紹介されたことがあります。 ・小川洋子 ・川上弘美 ・重松 清 ・村上春樹 ・宮部みゆき ・宮本 輝 ・志賀直哉 ・森 鴎外 ・芥川龍之介 ・三浦哲郎 ・チェーホフ ・ヘミングウェイ… 金沢文芸館では、上にあげた作家(邦人名)の本もいくつか蔵書しています。受講生の 皆さんには研鑚を積んでいただきたいと思います。来館をお待ちしています。 第2回講座は、小網先生の小説家としての経験に裏打ちされた充実した講座となりました。小網先生、ありがとうございました。 次回講座は7月12日(土)「小説を描く力」です。講師は高山 敏先生です。 なお試作作文の提出〆切日となっています。 「失敗してこその短編小説」と村上春樹氏は語っています。 みなさんが全力で創作された試作作文を送付いただくのを楽しみにしています。 |
小網 春美氏 |
〇6月11日(水) 出前講座 泉小学校2年生、1年生
お話の読み聞かせ(紙芝居、プレゼン、歌) |
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講師:吉國 芳子 (金沢文芸館 読み聞かせ講師) 金沢市立泉小学校に訪問しました。2限目2年生99名、3限目1年生86名、そして 参観で来校された保護者の皆さんに、金沢民話の読み聞かせを実施しました。紙芝居、 昔遊び歌、読み聞かせ、マジック、パワーポイントを取り入れた楽しく充実した2コマ 90分間でした。泉小学校の子ども達の素直な反応に心ときめく時間となりました。 1 本日のプログラム ◇2年生プログラム (1) ハーモニカ演奏「かえるの歌」 (2) 絵かき歌「たこ入道」 (3) 紙芝居 「子そだてゆうれい」(金沢民話) (4) マジックショー「新聞紙から水が出てきたよ!」(手品) (5) 金沢民話「法船寺のねずみ退治」(パワーポイント紙芝居) (6) まとめ 「金沢昔ばなし検定」 ◇1年生プログラム (1)手あそび「納豆の歌」 (2)紙芝居 「まほうつかいのナナばあさん」 (3)マジックショー「新聞紙から水が出てきたよ!」(手品) (4)金沢民話「おおかみを退治したこま犬」(パワーポイント紙芝居) (5)絵かき歌「たこ入道」 2 2年生・1年生プログラムからの紹介 (1)金沢民話「子そだてゆうれい」(パワーポイント紙芝居)……2年生対象 パワーポイントでの「子そだてゆうれい」の紙芝居です。最初に吉國さんは、2年生の 子ども達に「子そだてゆうれいのお話は、ちょっと怖くて、悲しくて、でもホッとするお話 です」と言われてスタートされました。 毎晩、飴屋に飴を買いに来る女の人。そんな日がずっと続くので、飴屋の主人は不思議 に思い、女の人の後をつけていきます。すると女が入っていったのはお寺の墓地でした。 あるお墓の前ですうっと消えた女の人。主人は和尚さんにその話をして、お墓を掘り起こす と、飴を握りしめながら「おぎゃー、おぎゃー」と泣いている元気な男の子を発見します。 母親が亡くなってゆうれいになっても、一生けん命育てた赤ん坊を和尚さんは立派に育てて いきます。そしてついにはお寺のご住職になっていくというお話でした。 金石にある道入寺には、子育てゆうれいの掛け軸(幽霊になった母親の絵)が残されて います。その掛け軸の写真を見た子どもたちは「本当の話なんだ」「このお話、何も怖くな いよ」「かわいそう」「うん、かわいそう」とうなずき合います。 子ども達は、母親の愛情の深さを小さな胸いっぱい受け止めて、金沢民話の世界に入り 込んでいました。 そんな優しさに心温まる先生方、保護者の方々、そして私たちがいました。 素晴らしき子ども達との出会いに心が洗われるようで出会いに感謝するばかりでした。 (2)金沢民話「おおかみを退治したこま犬」(パワーポイント紙芝居)……1年生対象 パワーポイントでの「おおかみを退治したこま犬」の紙芝居です。金沢市鳴和「伝燈寺」 に伝わる金沢民話です。ある夜、村の孫娘「みよ」が寝ていたところ、おおかみが家の壁を 食い破って中に入り、みよの手に食らいついて、みよはけがをしてしまいます。そこで、 伝燈寺の和尚さんが寺で彼女をかくまってくれることとなります。 その夜、おおかみは20、30頭の群れとなって寺を襲います。それでも必死に念仏を 唱え続ける和尚さんです。 あくる朝、外を見るとおおかみたちが命を落としていました。そしてふとそばを見ると 2匹のこま犬(石像)が傷だらけになり、その口には血がついていたのでした。孫娘 「みよ」をおおかみから救ってくれたのは、まさにこの2匹のこま犬だったのです。 吉國さんは読み聞かせの後、現在、金沢市牧町三河神社に安置されている「こま犬」 の 写真を見せてくれました。二匹のこま犬の雄々しい迫力ある姿に、子ども達はつい「本当の 話なんだ」とつぶやきます。 吉國さんの読み聞かせは、子ども達のつぶやきを大切に受け入れ、合いの手を入れながら の朗読で、みんな自然に金沢民話の世界に引き込まれていきました。 子ども達の握りこぶし を作りながら一緒におおかみを退治しているような勇気ある 姿が印象的でした。 お話が大好きな情緒豊かな子ども達に育っていることがその姿から感じられました。 出会いに感謝するばかりでした。 泉小学校では、「子育てゆうれい」で、母親の愛情と人を助ける村人の温かさを、そして 「おおかみを退治したこま犬」では、勇気を持って人を助けることの尊さを学んでいる気が しました。2年生のみなさん、素敵な心をありがとうございました。 どの民話にも、人々に伝えたいメッセージが込められており、その想いを大切にして歩もう としている泉小学校の素晴らしき姿に感心させられるばかりでした。 さて他の学校のみなさん。学校出前講座はまだ受講可能です。お話の読み聞かせ、金沢民話 の語り、金沢三文豪講座、短歌講座、俳句講座など、学校に訪問しての講座を 実施します。 お気軽に金沢文芸館まで問い合わせください。 申し込みをお待ちしています。 |
吉國 芳子氏 |
〇6月1日(日) 万葉朗読ライブ
令和の金沢・能登に花ひらく古代文化 |
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出演 : 戸丸彰子(朗読) 朗読家 戸丸彰子さんによる素朗読です。 今回の企画「万葉朗読ライブ 令和の金沢・能登に花ひらく古代文化」は、三部構成の企画になっています。 ・第一部 6月1日(日)金沢文芸館にて「素朗読 万葉語り」 ・第二部 6月7日(土)14日(土) 「古代食食事会~万葉の宴~」 兼六亭 にて食事を楽しみます。 ・第三部 6月14日(土)2公演、15日(日)1公演 「万葉朗読ライブ」石川県立能楽堂にて 現在、幅広く活躍する表現者(能楽、雅楽、チェロ、ピアノ、 太鼓、映像、時代考証など 多彩なアーティスト)とコラボレーションする戸丸彰子さんの万葉朗読ライブを楽しみま す。 第一部は満席のお客様での朗読会となりました。 次の作品の朗読でした。 ① 「ヤマトタケル」氷室冴子(ひむろ・さえこ) ・「古事記」の記述を元に、英雄の心のうちを描いた人間ヤマトタケルの物語。 氷室さんが一人芝居の舞台を思い書かれた作品です。「言葉はおとであり、ドラマです。 声に出すことで言葉はいのちをもちます。一度、キャラクターになりきって朗読してみて ください」(氷室さんのあとがきから) ② 「死者の書」折口信夫(おりくち・しのぶ) ・物語の中心にあるのは、當麻寺に入って出家し、阿弥陀仏の助けを借りて蓮糸の曼陀羅 を織り上げ現身のまま成仏したという「中将姫伝説」です。 魂呼ばいの「こう こう」や水滴の垂れる「した した」鶯の鳴き声「ほほき ほほき い」などたくさんのオノマトペと美しい古語の響きで表現されています。 ・折口信夫は民俗学者、国文学者です。國學院大學の生徒だった藤井春海を愛し、春海の 故郷である能登羽咋の一ノ宮に親子墓を建てて、今もそこに眠っています。 また、万葉集の編纂者である大伴家持は、29歳の時に国司として越中に赴任して5年間 で223首の歌を詠んでいます。国司の仕事で能登巡行をして数々の歌を詠んだのでし た。そんな家持のことも本書では触れています。 戸丸彰子さんが第三部で演じられる「万葉朗読ライブ」での、各分野で活躍されているアーティストの方々とのコラボレーションは、まさに「総合芸術」といえるものです。 きっと當麻曼陀羅の映像・音楽・能と、朗読が織りなす戸丸さんの万葉朗読ライブは、今まで誰もが成し得なかった新たな世界を創造することでしょう。 例えばショスタコーヴィッチの「日本の詩人の詩による6つのロマンスより『辞世』」と「万葉の世界」とのコラボレーションがなされるなどというのは間違いなく世界初の試みでしょう。そこにはジャンルを超えた新たな世界の創造にチャレンジしていく戸丸彰子さんの姿があります。 そして、本日の万葉朗読ライブ関連企画は「素朗読」です。そこに存在するのは戸丸さんの前にあるマイク一本のみ。そして石・木造りの金沢文芸館の建物と壁を埋め尽くす歴史ある本の数々…。 文芸館の音響効果を手中に収めた戸丸彰子さんの見事な朗読が響き渡りました。 魂呼ばいの「こう こう」や水滴の垂れる「した した」などのオノマトペが、一人一人の脳裏に深き情景となって映し出されていく空間を感じるばかりでした。 探求して止まない戸丸さんの朗読家としての芸術魂には感嘆させられるばかりでした。果敢な戸丸さんのチャレンジ精神は、金沢市を飛び越えて日本へ世界へと広く発信されるべきものと思われました。 戸丸彰子さん、そして何より会場にお越しいただいた皆様に心より感謝申し上げます。 ありがとうございました。 |
戸丸 彰子氏 |
〇5月17日(土) 小説講座 第1回
短編小説の魅力について |
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講師
: 宮嶌 公夫(みやじま きみお)(『イミタチオ』同人) 研鑽してきた方々、小説入門講座からあがってきた方々、そして初受講の方々も多数おられ る本講座となりました。 第1回目講師は文学誌『イミタチオ』同人 宮嶌 公夫(みやじま きみお)先生です。 宮嶌先生は各作家の作品分析等をされて「評論活動」をされている方です。 それでは講座について抜粋して紹介します。 1 小説とは何か? 宮嶌先生から、「小説とは何か」と受講生に投げかけがありました。一部紹介します。 〇小説とは何か?……受講生から ・書き手が自分の経験から未知なる空間を創り出していくもの ・経験をもとにし空間にちぎり絵のように想いをちりばめお話を創り上げていくもの ・化学反応を起こしていくもの ・心に感じたことを自分の言葉で書くもの。嘘(虚構)でもそれは真実であるもの ・自らの想いを投げかけ「共有できることがありますか?」と問いかけていくもの 〇小説とは何か?……宮嶌先生から → あくまでも書き手と読み手がいる ・構想世界で「語り手」が「作者」になってしまうと「随筆」となってしまう。 小説は「語り手」の存在を作って「語り手」が「視点人物(主人公)」に寄り c読み手の問題 → 何を読むか ➡ メッセージ(主題)を受け取る → どう読むか ➡ 作品世界を受け取る 2 短篇小説とは? 宮嶌先生からは「a短篇小説の特徴」「b短篇小説を書くために」 〇「b短篇小説を書くために」では、 ・何を伝えたいのか焦点をしっかり絞った主題であること ・可能な限り単純ではない作品世界を立ち上げること 3 川端康成氏の掌編小説「十七歳」から 〇あらすじ 「病気入院中の妹は、ある出来事から「イヤデス」という愛称で呼ばれるようになる。 ある時、妹は蟻が鉛筆の折れた芯を食料と間違って懸命に運ぼうとしているのを発見する。 そこに姉(じきに出産する)が見舞いに来る。実は、二人の姉妹には幼くして亡くなった上 だが、姉はそうすることを断念する。新たな名前を持つ子どもが現世に生まれようとして 〇物語の構造は? → 人物構成・・・妹(焦点化)・姉(一時的に視点人物となる)・母・(上の姉) → 時間構造・・・物語現在(病室の妹・過去の出来事が差し挟まれる) → 作品構造・・・前半から後半への流れ(エピソード) → 「イヤデス」の回想 ➡ 子ども時代の回想 → 白い敷布の上の蟻 ➡ 現在の自分への思い → 母が見舞いに来たときの回想 ➡ 下の妹への思い → 姉の見舞い ➡ 姉への思い 宮嶌先生の講義は、大変に含蓄深いものでした。評論家としての分析は鋭く、これからの 創作文芸活動に役だつものでした。良きスタートとなりました。 宮嶌先生、ありがとうございました。 さて、第2回講座は「6月21日(土)小説の実作について①」で、講師は藪下悦子先生 (小説家)です。今回同様、全受講生に出席いただくのを楽しみにしております。 なお、次回講座までに課題提出があります。ご確認下さい。 ◎ 課題……試作「掌編小説」 ➀ 提出〆切日 6月21日(土)第2回講座時までに提出 ② 400字詰めの原稿用紙で3枚から5枚まで ③ テーマ、題名(自由テーマ 自由題名) 批評会は、第1グループ7月19日(土)、第2グループ7月26日(土)で、どちらかに 所属しての批評会となります。グループ分けについては後日お伝えいたします。 今年度より自分の作品批評会ではない講座でも、参加、意見交換が可能です。 他グループにも参加希望の方は事前に金沢文芸館スタッフまでお知らせください。 座席準備の都合がありますのでよろしくお願いします。 |
宮嶌 公夫先生 |
〇5月12日(月) 出前講座 浅野川小学校4年生
三文豪について学ぼう |
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講師 : 薮田 由梨 (徳田秋聲記念館 学芸員) 浅野川小学校4年生2クラス計58名が参加し、出前講座「三文豪について学ぼう」を 実施しました。2クラス合同での講座で、講師は徳田秋聲記念館の「薮田 由梨(やぶた ◇金沢の「三文豪」とは 金沢「三文豪」とは「三人」の「文学者」で「豪い(えらい)人」という意味があり、 「徳田秋聲」「泉鏡花」「室生犀星」のことです。三人三様で作風は異なりますが、三人とも故郷の金沢を離れて東京で作家活動を続けました。ふるさと金沢に愛着を持ち、金沢を舞台にした作品も少なくありません。 ◆徳田 秋聲(とくだ しゅうせい) 明治4年、浅野川に近い横山町生まれ、昭和18年に亡くなりました。 ・洋服が好き ・ダンスが趣味 ・動物が苦手 ◆泉 鏡花(いずみ きょうか) 明治6年、浅野川大橋近くの下新町(泉鏡花記念館の場所)に生まれ、昭和14年に亡くなりました。 鏡花は、心の中で空想したファンタジックできらびやかな世界、幽霊や妖怪などが登場する不思議な夢物語を創り出すのが得意な作家です。鏡花は秋聲とは正反対の作風でお互いに喧嘩することもありました。 ・うさぎにちなんだもののコレクター ・かなりのきれい好き ◆室生 犀星(むろお さいせい) 明治22年、犀川の畔にある千日町に生まれ、昭和37年に亡くなりました。 犀星は、秋聲・鏡花よりは十数年も年下で、小説家・詩人・俳人でもあります。なかには、子ども向けの作品もあり親しみやすい作家と言えます。 ・庭づくりが趣味 ・動物好き ・代表作は「杏っ子」「動物詩集」「蜜のあはれ」 ◇三文豪の相性をみてみよう 知って驚く子ども達。 「秋聲はひつじ(未)年。向かい干支のうし(丑)年は犀星なんだ。なるほど。だからこの二人はとっても仲が良かったのかもしれないね」 「泉鏡花は酉年。向い干支は卯年で尾崎紅葉さん。だから仲が良かったんだ」 「自分達は徳田秋聲と同じ未年なんだ。丑の置物がいいのかも…」 「私は申年だ。寅とは相性がいいのか。知らなかったなあ」 様々なことを語る子どもたちでした。自然に学びが心に沁み込んでいくようでした。 最後に、三人の作品から本の一部紹介がありました。徳田秋聲「無駄道」、泉鏡花 徳田秋聲記念館の薮田学芸員には、四年生にわかりやすく授業いただきました。 「素晴らしい反応の子どもたちでした。今度、浅野川中学校の文芸部の25名が徳田秋聲 「僕は薮田さんのお話を伺って、だんだん興味がわいてきました。」と言う子ども達もいま 薮田さんには貴重な学校出前講座をいただきました。ありがとうございました。 金沢文芸館の学校出前講座は、まだ応募が可能です。 お待ちしています。 |
薮田 由梨先生 |
〇5月10日(土)第1回 小説入門講座
創作への覚悟と実践 |
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講師 : 小西 護(「イミタチオ」同人) 令和7年度は受け入れ最大人数の受講生14名でスタートしました。中高校生から若手、 中堅、ベテランと、いろいろな世代からの参加となりました。 一回目の講師はイミタチオ同人「小西 護(まもる)」先生です。抜粋となりますが内容の 一部を紹介します。 A 基礎編 自分らしさを踏まえて書く ~「ともかく書きたい」という原点から~ 1 読者相(層)を想定し絞り込む ~誰に向けて、何のために発信するか~ ・まず「自分のために」「自分に向けた言葉を書いてみよう」 ・段階的・発展的に不特定多数へと広げる 2 想像力と創造力を大胆に構想する ~文学性と娯楽性、楽しさと辛さ、両面の追求~ ・テーマ (主題、ねらい、主旋律) ・モチーフ(核心・中心思想) ・プロット(展開、筋立て、構想、仕組み) 3 多様多彩なエピソード(挿話)を織り込む ~魅力あるエピソードの蓄積・整理・活用~ ・「実体験」と「奔放な創造」を絡ませる ・間接的な体験・経験・見聞の吟味、咀嚼 B 実践編 作品完成までの覚悟と実践 1 とにかく書き始める 逃げずに書き続ける ◎粘り強く耐え抜く ◎切り替え、風を通す ◎休ませ、寝かせて再スタート ・ノルマを定め 達成させる覚悟 ・自分を褒めてモチベーションの向上を 2 作品完成まで 書くことを最優先に ・創作(書くこと)を生活サイクルの真ん中に置く ・自分の分身(もう一人の自分)との対話を楽しみ味わう ・木を見て森を眺める 森を眺めて木を見直す ・人・自然・身近な現象観察しながら 補筆・修正する ・全般の印象、登場人物の魅力、表現・表記、読み応え、読み味わう楽しさ、迫力、 テーマ性(求心力) ・虚構を絡ませ、小説空間を膨らませる ・敢えて書き尽くさない …読者の想像に委ねる余裕が余韻と奥行きを生む このほか『「創作」(=覚悟して書くこと)を楽しむヒント』も8項目を挙げての説明が ありました。小西先生の体験した素材をもとに話される内容は、受講生の心を惹きつけて 止まないものでした。 「『しなしなー』(「おばあちゃんがよく言っていた言葉ですと…」)と、あきらめず、 あわてず、あせらずやることが小説創作には大切だ。 「ハナミズキの花はまさに空に向かって飛んでいくような様に見えます。それでいて 散る時は、バサッといった感じで落ちていきます。桜の花とは違った趣があります。」 「私が大好きで大切にしている本に、梶井基次郎の『檸檬』があります。教科書にも載った もので私(主人公)が何冊もの本を積み上げて、その上に檸檬を置きます。檸檬を爆弾に 見立てた私が檸檬の実が爆発することを想像して歩いていく…。大変に鮮烈な印象を心に 残す作品です。…」 「川上弘美さん(『大きな鳥にさらわれないよう』第44回泉鏡花文学賞受賞)の講演会で こんな言葉がありました。「小説作りは辛いものです。でもそんな時に助けられることが あります。『登場人物が勝手に動き出す』ことです。」と。この言葉に私自身『はっ』と させられました。」 小説入門講座の第一回目は、創作活動に不安を覚えながらも「小説を書きたい」という 受講生の気持ちがあふれる講座となりました。さっそく出た課題(試作作文7月12日 (土)提出〆切日)にチャレンジしようとする姿に感嘆するばかりでした。 小西護先生、ありがとうございました。今年度一年間、小西護先生、小網春美先生、 受講生のみなさん、これからよろしくお願いいたします。 次回講座は、6月14日(土)小網春美先生(小説家)による「小説作りの基本とは①」 です。貴重なお話を伺う講座になるかと思います。 受講生のみなさんの受講を心よりお待ちしています。 |
小西 護先生 |