| 〇10月25日(土) 第1回短歌入門講座・応用実践編
「ようこそ短歌の世界へ」~好きな一首を持ってきてください~ |
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| 講師 : 栂 満智子(短歌雑誌「新雪」主宰) 短歌入門講座 応用実践編の開講です。講師は、短歌雑誌「新雪」主宰を務め、ご自身の短歌集「ゆきあかり」にて泉鏡花記念金沢市民文学賞を受賞された「栂 満智子」先生です。 講座は全3回で、第1回「ようこそ短歌の世界へ」、第2回「歌を詠む−感動を言葉に」、第3回「歌会を楽しもう」となっています。第1回講座内容の概要をお伝えします。 1 受講生の好きな短歌、自作(家族作)短歌の紹介から 自分の好きな歌一首、または自作の歌を紹介していきました。一首ごとに受講生の思いが語られ、栂先生の解説や意見をいただきながら講座は温かさいっぱいに進んでいきました。まずは短歌を紹介いたします。 ・虫の音は家族一人が増えたようねこも一緒に耳すます夜 受講生自作 ・その双手秘密をこめてさ々ぐるか嬰児はこぶしいまだひらかず 尾山 篤二郎 ・死にゆくは仏法海に入るとか夕日輝く母います海 受講生の父作 ・秋風にたなびく雲の絶え間よりもれいづる月の影のさやけさ 右京太夫顕輔 ・渡岸寺にゆきしことなきわがために湖北より来る繭いろの雲 河野 裕子 ・犬の骨を犬のようにしゃぶりたいと妹の骨にも思うだろう 椛沢 知世 ・さよならをするため乗ればこの恋のひかる棺になる観覧車 もり まき ・霜降を過ぎて降る雨冷たかりもみぢ染めむとけふも雨降る 受講生自作 ・白鳥はかなしからずや海のあお空のあおにも染まずただよう 若山 牧水 みなさん、短歌への思いを熱く語られました。受講生が一人一人の思いに寄り添い、頷きながら進行していく会となりました。温かき心に充たされた貴重な講義となりました。 2 歌を口遊んでみましょう。心触れてくる歌はありますか? 栂先生から22首の短歌が紹介されました。受講生がその中から「心に触れてくる」歌を 紹介し、栂先生からのお言葉もいただいて、共感し合いました。話題になった短歌のみを紹介いたします。 ・天の海に雲の波立ち月の船星の林に漕ぎ隠る見ゆ 柿本人麻呂 →情景を写生のように詠む。宇宙的な壮大さがある。 ・君かへす朝の鋪石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ 北原 白秋 →さくさくとした雪、林檎の香という表現がとても素敵です。 ・馬追虫(うまおい)の髭のそよろに来る秋はまなこを閉ぢて想ひみるべし 長塚 節 →静逸さがあり、独特な雰囲気のある短歌だ ・東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる 石川 啄木 →小学生の時に習った記憶があり。イメージがわいてくる短歌だ。 ・沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨そそぐ 斎藤 茂吉 →どんな歌かは詠み方で変わってくる短歌だ。悩んでいる主人公が葡萄に力をもらっている気もする。 ・秋分の日の電車にて床にさす光も共に運ばれて行く 佐藤佐太郎 →「床にさす光も共に」という表現が素晴らしい。これ以降、よく使われた表現。 ・秋の陽の肩にさすとき質量の重きひかりと思ひて歩む 上田三四二 →春と秋の陽の違いを実にうまく表現している。 ・煙草くさき国語教師が言うときに明日という語は最もかなし 寺山 修二 →私は妄想を見てしまっている。国語教師と恋愛し…。 ・「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ 俵 万智 →答えが返ってくるっていいことだね。 ・言葉から言葉つむがずテーブルにアボカドの種芽吹くのを待つ 俵 万智 →俵万智さんって本当に独特の世界観をもっている方だね。 ・ほんとうにあたしでいいの?ズボラだし傘もこんなにたくさんあるし 岡本 真帆 →とてもかわいい短歌だ。この短歌がきっかけで短歌集も出したよ。 同じ短歌を選んだ人、他の人の感性に共感して笑顔になる人、他の人の意見から作家に寄り添って短歌を味わうことができたりと、豊かな時間となりました。 受講生の中には、講座終了後にも先生や他の受講生たちと感動を分かち合う姿がありました。栂先生の応用実践編も基礎編同様に豊かで温かなスタートとなりました。 次回は11月22日(土)「歌を詠む」です。受講生の皆さん、次回講座に向けて 「ときめきを見つけて紹介しよう」という課題が出ました。 皆さんには自作された一首を提出していただきます。 「ときめき」とは「感動したこと」「発見したこと」「惹かれた言葉と出会ったこと」などです。受講生の皆さんが見つけた「ときめき」「心を占めていること」を歌にし、みんなで紹介し合います。 その作られた一首は金沢文芸館までご提出お願いいたします。(メール、FAX、郵送、持参のいずれか) 〆切日は、11月14日(金)です。※必着です。 皆様、多数のご参加をお待ちしております。 |
栂 満智子氏 |
| 〇10月18日(土) 第6回小説講座
小説の実作について② |
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| 講師 : 望月 弘(小説家・櫻坂主幹) 第6回小説講座です。本日の講師は、望月 弘(もちづき ひろむ)先生をお招きしました。望月先生は、現在櫻坂の主幹をされています。「凧のゆくえ」「せいさくの彼岸・塩漬」「だらぼうの湯桶治場始末」「きゃたつ」「のら猫ジュニア」「残照の海」「月の夜」などの単行本を出版されています。実践家の立場から貴重な講義をいただきました。一部ですが紹介いたします。 1 小説を執筆する時のあなた方の悩みは? △テンションの維持ができない。 △あらすじで後が続かなくなる。 〇能登から通っている。初めての教室で楽しく書いている。想いがわいてくる。 △小さい時から本好き。書くことは文字化することと始めたけれど大変に難しい。 △最近、小説創りで何が難しいかが見えてきた。一人称と三人称で書く時の違いは? △まだまだ読書量が足りない。基本的なところで悩んでいる。 △女主人公で恋愛小説を書いている。ただ主人公の心情で腹黒いものが書けない。道を外し たくない自分がいる。 △純文学を書いている。文学賞にはかすりもしていない。みんなに面白く読んでもらえたら と思う。ラストがなかなか書けない悩みがある。 望月先生が受講生に悩みを聞かれたことで、一人一人の受講生の悩みや思いを受け止めていける良き機会となりました。時間の都合で一部の方のみへのご助言となりましたが、今後、質問事項を事前にお聞きしておいて、早めに講義される先生方に事前にお知らせしておくなど、今後の講座運営にも一石を投じていただきました。受講生のみなさんもありがとうございます。 2 小説の特徴は? ※( )内は望月先生が執筆された小説です (1)歴史小説 (凧のゆくえ) …歴史上の人物で読者は興味がある。歴史的背景と人物の調査が必要。史実に反しては いけないし歴史的合理性を無視してはならない。 (2)時代小説 (せいさくの彼岸) …奇想天外とファンタジーが許される。歴史的事実らしくあればよい。 (3)近未来小説 …同上 (4)現代小説 …背景は読者に理解されやすいが、テーマがしっかりしていないと読んでもらえない。 ①特別な事件を扱った小説には人は興味がある。(きゃたつ) ②推理物、ミステリー物。一種のゲームで結論面白さを競う小説(残照の海) ③なんでもありの物語の世界。テーマが読者の心をとらえないとまず読まれない。 (月の夜、のら猫ジュニア) (5)戯曲 (久米の助の恋) …読む演劇で台詞が全て。舞台にかかれば演劇と言う別の芸術に昇華する。 3 望月氏が小説づくりで大切にされていることは? ・自分は最後のシーンが見えてきたころに書き始めている。ふた山ほどシーンが浮かん でくる。そうしたら書いていく。 ・文字を使った自分の感性、思いを表現していく思いで書いている。 ・推敲は楽しい。最後はテーマを思って推敲していく。推敲は切っていく作業だ。 ・小説が上手くなると面白くなくなる。どんどんと勢いをつけて書くことが大切。小説 がツルツルしてくると面白くなくなる。引っ掛かりが大切だ。 ・小説には幸福感が大切だ。どんな時も希望があり、そこに向かう時に挑戦が生まれ る。 そこが素晴らしいのではないか。 ・私は「小説作りはベースが『愛』だ」と思っていつも書いている。もちろん『愛』は 恋愛だけではない。すべてに『愛』が存在している。 4 私の信念は? 現代物は→一般の人の興味は薄い。読まない人が圧倒的に多い。無名の作家の作品はいくら文学として優れていても評価はされない。というより、誰も評価できない。感性と筆力のある作者でも文学界から抜け落ちる。本当はここが文学の正念場だ。既存の評価や商業主義に媚びることなく、文学を志す人は自信をもって自らの文学世界を創って、畏れずに発表してほしい。僕はここに文芸誌の存在意義があると思う。文芸誌で自らの文学を開花させて人生を豊かに生きてほしい。文芸誌は世俗の二番手文学ではなく、独り超然として文学の高みを目指す孤高の存在でありたい。 今回、望月先生には、自らの小説作りの実践をもとに、いろいろな角度から講義いただきました。受講生は、年間を通して真摯に小説作りに取り組んでいる方々です。本講座は、外部講師を招いて新風を取り入れて、各自、ご自身の創作活動を見直していく機会になるように企画させていただきました。 「文学を志す人は自信をもって自らの文学世界を創って、畏れず発表してほしい」と言われる望月先生のお言葉は、熱心な受講生の心に響いた講義となりました。望月先生、貴重な講義をいただき、ありがとうございました。 今後、望月先生の本も何冊か、本館にも観・閲覧できるように配置してまいります。小説入門、小説講座の受講生はもちろん、どなたでも閲覧可能です。私も実際に読ませていただきましたが、まさに一気呵成、一心不乱に読んでしまっている自分に驚くばかりでした。 読み進めていくテンポ感、リズム感がどんどん増していくのを体感するばかりでした。 良かったら一読いただけたらと思います。 次回の講座は11月15日(土)第1グループ(宮嶌先生、藪下先生)、12月6日(土)第2グループ(宮嶌先生、藪下先生)で、提出作品の批評会です。受講生のみなさんには 該当グループでご参加下さい。 ただ、自分のグループでない日時も希望があれば参加できます。合評会で意見を述べることも可能です。希望参加される方は座席の都合もありますので、必ず事前に本館までお知らせください。よろしくお願いします。皆様の参加を心よりお待ちしております。 |
望月 弘氏 |
| 〇10月18日(土) 第1回川柳入門講座
基礎から学ぶ川柳~100歳時代の人生を楽しみましょう~ |
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| 講師 : 赤池 加久(石川県川柳協会会長) 川柳入門講座第1回です。本講座講師は石川県川柳協会会長 赤池加久(あかいけ かきゅう)先生です。講座から一部を紹介します。 ◆川柳を楽しむ「その一」 ➀川柳の基本三要素 ア 穿ち(うがち) ・掘る、えぐるなど人間の機微をうまく言い表す。 イ 滑稽(こっけい) ・ユーモアであり、自然に湧き出る笑い ウ 軽み(かるみ) ・当たり前の平凡な中に、「いいなあ」と思わせるもの。 ※滑稽は誤解されがち。自然な面白さこそが大切。 ②五・七・五のリズムが大切(=日本人のDNA) ③川柳は十七字ではなく「十七音字」である。 ④音字の基本として ア 促音 イ 長音 ウ 撥音 エ 拗音 ⑤川柳とは短詩型の文芸 ・駄洒落、ことば遊び、語呂合わせ、品位と節度のないもの…は避ける ・特徴…人間を詠む・社会を詠む・自分を詠む ⑥「ことば」の文芸 辞典や辞書は何よりも不可欠 ◆楽しむ川柳「その二」 (1)句作の流れと要点 ①句材を見つける・・・何を見つけるかで70%から80%決まる。 ②五・七・五の十七音字(指を折って) ③リズム良く・・・自然に ④口語体で(いわゆる話し言葉) ⑤誰にも解り、誰にも作れない句・・・着眼点 ⑥多作・多読を心がける。句会参加をする。 ◆おわりに ①井上ひさしの言葉 「むずかしい-やさしい-ふかい-ゆかい-まじめに!」 ※「難しい事を易しく、易しい事を深く、深い事を愉快に、愉快な事を真面目に」これは 大変に大切な言葉だと考えていますとの赤池先生の言葉がありました。 ②紙とエンピツ一本、一人で楽しめる趣味。肩肘張らずに「自分流」で且つ「日記」を付け るつもりで楽しみませんか。 ③石川県内には現在16の柳社があります。参加してみませんか。 ④さだまさし氏の言葉から(9月18日北國新聞夕刊より) 「日本語が下手になったら この国は終わり」 川柳教室は全9名の参加をいただきました。たくさんの方に参加いただきましたこと、心より感謝申し上げます。みなさん赤池先生の言葉を一言一句逃さないようにと、真剣に先生の目を見つめてうなづかれたり、メモをとられたり、受講生同士が顔を見合わせて笑顔で言葉を交わしたりと、真剣な中にも和やかな空気に満ち溢れた空間となりました。 これもひとえに、赤池先生のご指導、そして受講生の思いやりある温かなお心のおかげです。ありがとうございました。これからの講座も楽しみです。 次回、第二回講座は「川柳の奥深さを味わうために!」です。講師は、外浦 恵真子先生です。日時は、11月15日(土)午前10時30分からです。皆様のご来館をお待ちしております。 |
赤池 加久氏 |
| 〇10月11日(土) 第5回詩入門講座
批評と推敲(実作1) |
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| 講師 : 井崎 外枝子(詩誌「笛」同人) 木村 透子 (詩誌「イリプス」同人) 和田康一郎 (金城大学非常勤講師) 12名の方から詩を提出いただきました。今回は「詩の実作1の批評と推敲」です。和田康一郎先生が司会進行を務められての批評と推敲の会となりました。 みなさんの実作詩の一部抜粋と、先生方のコメント、そして受講生からの感想の一部を紹介します。 1 受講生の実作1(「」は詩の一部抜粋です)から ➀もしもあなたが 「淋しくなったなら/どこまでも青い/あの空の片隅を/ほんの少し切りとって/ あなたの心に浮かべよう そしてわたしは/そよ風になって/ふんわりと/あなたを/つつみたい」 ・詩を読んでいるとささくれだった心が穏やかになっていく。読んで救われた。 ・美しい詩であるが、2連で終わってしまうのはどうか。起承転結というが、起承で終 わった感で、あまりにもサラッとしている。 ・優しい言葉でほのぼのとした感じがある。 ②パッと着飾って華となる 「床も壁も染め塗られた空間/一歩踏み入れると真っ白い世界が広がる 着飾ったものたちが一斉に迎えてくれる/思う存分咲き誇る息遣いで満ち溢れていた (二連 略) 「華やかなステージの出現で/花の魅力と華道家の技が溶け合い/ 各流派の特徴あるいけ方を披露する/いけばな展の深い味わいが咲いていた」 ・レポートのように感じた。作者の心の変化、思いが伝わってこない。 ・描写の美しさがある。でも説明的。描写で終わっている気がする。 ・1~2連はすっと読めるが3連はちょっと。3連の3行目はいかにも新聞記事の1行の ように見える。新聞の投稿に作者は出していたが、なかなかいい文章であった。散文と して…。しかし、詩は散文とは違います。一行一字まで吟味してほしい。 ・題は<飾りをとれば大したことはない>という底意を伝える場合を連想させますポジ ティブな印象の題ではないです。「咲き誇る息遣い」「流派」などの題が良いのでは。 ・第三連に散文的な箇所が多いようです。「花の魅力と華道家の技が溶け合い」や「深い 味わい」などは、抽象的な説明言葉に逃げています。 ③逆転記念日 「二歳年下のわたし/二歳年上のあなたの背中を見つけた/おままごと/かくれんぼ/ おにんぎょうさんごっこ/遊んで~ 遊んで~/逃げないで~~逃げないで~~/ 走って追っかけた/今日もまた あなたの背中が見えなくなった (二連、三連、四連、五連 略) でも おねえさん/あなたの背中は 今も頼もしいよ/もう逃げなくていいよ/ 手をつないで歩こうよ」 ・ノスタルジックで好感が持てる作品。すごく好き。私にとってせつなくなる詩です。 ・題名の発想がすごくいい感じがする。発想がすごい。 ・どこか腹の底に豆粒ほどの皮肉を込めた面白い話。 ・幼い日の一コマを描いた作品と読みました。ならば「逆転記念日」は、幼い生き生きと した言葉として受け止められます。良い着眼・表現だと思います。 ④オアシスの一粒 「ぼくは一滴のしずく/窓から落ちてきた一滴の水/小さな力だけど/ みんなが集まると雨になり/大地を潤す水たち/青い若葉を育み/ 真っ赤な光が差し込んだ時は/虹の滑り台をおっこちたっけ/ (途中 略) ぼくはまた空へと帰っていく/やがて雲になり形をなす/ 大きな青い抜けるような天空を目指して/大地を見守る母なる空へと」 ・しばらくの間にずいぶんすっきりとしたいい詩を書くようになりましたね。一滴の水、 一粒の氷の長い旅をうまくまとめたと思う。ただ読後感として引っ掛かるところがな い。それでいいのかな。 ・イメージの展開は、要素が過不足なく(欠落を感じさせず)備わっています。 ・躍動感あり。リズム感あり。題名が素敵である。 ・出だしがまさに「事柄を書くのでなく『物』を書いている」とても良い。 ・「虹の滑り台」…〇絵が浮かぶようだ。△漫画的発想は似つかわしくない ※両面 ・最後の二行「大きな青い…」は循環型社会を思わせる。 まとまっていると感じる。 ⑤塩の記憶 「潮はいつも押し寄せては/引き、やがて去っていく/砂に残された跡でさえ/ 瞬く間に消される 差し出した手のひらに/海の香りは潮と共に去り/指先にだけ、しょっぱく/ 湿った跡を残す/それは乾くことのない感情が/風に晒されて/ 塩の結晶になるようだ 私はその塩を集め/口に入れた/これが、私の苦い記憶の決勝だ/ 結局、この結晶は人にとって不可欠なものだろう (四連 略)」 ・展開が鮮やかであり、料理の塩から自分の人生と重ねて書いていく。日常的なものを詩 にするという見事さがある。 ・この詩は面白い書き方をしている。潮のことを書いているが、だんだん自分に引きつけ てゆく。その想像の広がりが独自の表現となり、その粘り強さがぐいぐいと読み手を 引っ張っていく。 ・「塩」を感情が結晶したものの比喩である点に留意して読みました。口に入れて味わう 箇所までは、良いと思います。「塩」にたとえたのですから、「不可欠」は言わなくて もわかります。「そのとき/心ゆくまで味わおう」は、作者が言う必要はありません。 「幸せ」に降りかかるなら、皆そう思います。 ⑥あなたの中の小宇宙 「 「はい」は「いいえ」/「いいえ」は「はい」 「トイレ行く!」は「やりたくない!」/ 「お家に帰る!」は「今見たいテレビがある!」 (三~十連 略) 本当の思いは/本当に伝えたいことは/あなたの中に広がる/ 小宇宙の星々の輝きの中に、確かにある (十二連、十三連 略) でも、母はあきらめない あなたの中の小宇宙に/今日も正面からダイブする」 ・十一連「本当の思いは…」のところがとても良い表現だと思う。 ・最終部分は心からの応援をしたい気持ちがする。 ・こういうことはあるのですね。想像ではない気がします。そうなると、こういう現実、 言葉の有り様は面白いですね。作者は母の立場であれば、どんどんかける感じですね。 書き続けてください。 ・お子さんの発話の意味を理解するまでの苦労の経験に裏打ちされています。詩に活かさ れる貴重な経験です。母が「あなたの小宇宙に/今日も正面からダイブする」が、母親 の覚悟になっていて、数々のお子さんの言葉に拮抗して印象的です。 ⑦コポコポコ―ヒー 「やかんがカタカタと音を立てて/ハンドドリップで/コーヒーを注ぐ 部屋に立ち込める/香ばしい香りが/母と私を包み込む (三連、四連 略) 母と同じ空間にいるような気がした/五月の夜明け」 ・二連目の最後「母と私を包み込む」と三連目のはじめ「母はコーヒーをよく飲んで…」 の間に時間的な経過の表現があるとよい。 ・〇〇さんの世界、久しぶりでした。5連目がちょっと。「五月の夜明け」を先に持って きた方がよいような気がします。「いるような気がした」は、「いた」ではどうか。 ・題名がいい。「コポコポ」っていいなあ。 ・亡母の思い出が大切という思いはよく伝わります。最近は「読者の心を穏やかに」する 作風や、作品内に破綻が生じないようにと心がけていらっしゃると思います。ただし、 それだと「偲ぶ文章を綴っただけになりかねませんので、魅力的なフレーズを創って作 品内に挿すことを忘れないでください」破綻して手本のような文章にならないなと思う 箇所が、そういうフレーズを見つけるチャンスになります。 ⑧詩が書けません 「さて、今日こそ書こう/気持ちのよい朝を吸い込み澱みを吐き出す/まずは散歩/ ひかりと共に降りてくるものを拾いにいく さあ、書こう/ちょっと、待って/体中から出てくる汗にまみれて/ 大事なものが汚れてしまってはたいへん/シャワーをひと浴び/ 大丈夫、今日はまだ始まったばかり (三~十連 略) 窓の外が蒼くなって/夕日はもう沈んでしまって/ 残照が水平線にしがみついている 夜風は涼しく/茫然と立ち尽くすマリンとわたしは/ 森へと急ぐカラスを見送っている」 ・どうせなら、最後にカラスが何か言うのはどうかしら。「カケタカ?」とか。ユーモ ア、ひねりを加えると、引き締まるのかなあと思うのですが。 ・起承転結の「転」や驚きのラストに欠けます。次のような展開はどうでしょうか。 ①散歩から帰宅すると死神が待っている。今日が人生最後の日であったか。 ②書かない罰で、忠犬マリンに飼い主が手をかみ切られるが、これ幸いと、 「〆切ですが詩が書けません」と編集者に連絡する。 ③忠犬マリンに編集者が取り憑いて、書けない飼い主を部屋に監禁する。 他にもいろいろとありそうです。 ・題名は工夫したらよい。「本日は晴天なり」とかにしてしまうとか。 ・ユーモアに引き込まれた作品だ。忠犬マリンという表現が光る。安易に愛犬なんてして いないのがいいなあ。 ⑨太陽のない国 「暗闇の中を一人で戦ってきた/ばらばらになって一人で戦ってきた/ 何度もやめようと思った/それでもやめられなかった/ (途中 略) 僕は戦い続けるだろう/太陽の光が見つかるまで/笑えるようになるまで」 ・力強いパワーで骨太の詩だ。早く希望が見えるといいなあ。 ・生きる希望を与えてくれる人がいる。同じテンションで書かれているけれど、自分を開 放したらよい。良い詩になっていく。 ・「表現」をしようと力んで、出来合いの言葉での説明過多になっています。重点を置く ポイントがずれています。「戦う」のですから、「くたくた」「立ち上がれない」「死 にたくなる」等はつきものの状況で、行数を増やす場所ではありません。出来合いの言 葉で自身の状況を訥弁で語るのでなく、戦っている正体不明の相手のイメージを創造す るのが「詩」です。今回の作品であれば「塩の記憶」の長所・欠点が、表現のヒントに なると思います。 ・この詩には妙に引き付けるものがあります。なぜかと言えば、作者が何と戦ってきたか 書いてなく、読者にはわからないところです。そのわからなさが逆に引き付ける力と なっている。面白い書き方です。作者は初心者か、ベテランのどっちなのだろうか。 ⑩ある夜に 「ふと夜空を眺めて/もしも銀河鉄道あったら/それに乗って旅してみたい (二連、三連 略) もうすぐ誕生日/生かされていることに感謝/ 未だ旅の途中」 ・作者はみごとに同じテーマから離れませんね。なぜだろうか?それは、ものすごく強く 作者に働きかけるからか、あるいは作者はそれしか見えないのか?不思議な感じです。 詩はあくまでも自分の言葉で。 ・詩の連分けは、下手にやると「空白の分だけ言葉が見つからなかった作者なんだ」とい う印象を与えます。この詩に連分けは不要で、第2連の「自分達は~来たのだろう」から 始めて、連分けせずにつなげても作品の形になります。こちらの形はいかがでしょう か。 ・連と連の間で飛躍しすぎとなっている。連分けの必要がない。 ⑪大きな木 「あなたに会いに/今朝も寄り道/木々に囲まれる山道へ向かう 中腹で出会う/大きな木/太い幹が三本集まり/枝を広げる おはよう いつも見守り/問いかけてくれる (五連、六連 略)」 ※本人が欠席のため批評なし ⑫今日もやっぱり日が暮れる 「今日もやっぱり日が暮れる/夕焼け雲に背中を押されて/西日のさす台所/ 一人ぽっちの夕食作り (途中 略) 一人じゃないと思いながらでもさみしい/さみしいけれど今日一日を感謝して/ 思い出を追いながら夜空を見上げます/おやすみなさい」 ・気持ちはよくわかります。そして、よくある表現になります。「なすそうめん」はいい と思いますが、「今日一日に感謝して」となるとだんだん類型的になってきます。そう いうことも意識して書いてください。 ・「仕方がないね/生きるものの宿命だもの」「思い出を追いながら」など、物分かりが 良い普通人による、出来合いの言葉での書簡は、詩には不要です。前者は「亡夫は一人 の私をどう見守っているか」と発想する、後者は説明で無くイメージで伝達、などがで きたらと思います。 ・素直な詩でとても好感が持てる詩です。題名も素敵です。 ・最後の「おやすなさい」に込められた作者の心を考えさせられた。どうしようもないあ きらめなのでしょうか。私の夫は…。 2 批評会を終えて ベテラン、初心者、若手と、様々な受講生一人一人が、全ての詩に真摯な意見を語って高まり合っていく大変に充実した90分間でした。木村先生、和田先生、コメントを届けて下さった井崎先生、3人の先生方の忌憚のない直球勝負で専門的見地からのご指導がありました。そして、受講生のみなさんが、時を惜しんで、自分の意見、感想を語って下さいました。誰かに遠慮や忖度をするのでなく、自然あるがままの心で相手を尊重しながら思いを述べて語り合っていく素晴らしい時となりました。 今回の詩の講座は、金沢文芸館が目指すべき講座の姿が体現化されている気がしました。先生方、受講生のみなさん、充実した時をありがとうございました。 また、先生方のコメントでは学校教育の在り方も考えさせられるご意見もありました。次をご覧ください。 「小学校で習った内容をアップデートできない人が少なくない現状を考えると、小学校 教育の罪が結果的に大きくなります。小学生に詩を作らせていくと、クラス全員が『詩は思ったことを書けばよい』と誤解するというメカニズムから抜け出せません。詩を推敲・批評しようとすると、作者が、承認欲求だけでなく人格まで否定されたように受け止めるという弊害も生じます」 「作曲なら、魅力的なメロディをもとにします。詩はメロディの代わりに、自分の言葉・魅力的な言葉に基づいて作られます。出来合いの言葉はなるべく少なくして。前回の講義で取り上げた「茨木のり子」の「汲む」では、山本安英の言葉を、読者がどう受け止めたかを、作者自身の言葉で語っています。……」 ☆「冗漫な説明を避けてください。(例)「門出に際してともに恥じらいながら、新婦は新郎に『あなたについていきます』と語った。」→「頬の花束が船出する」この例のように 詩ではイメージで伝えます」と。 先生方、受講生のみなさんが、心からの言葉を言霊に変えて表現していく貴重な時間となりました。次回は別作品の批評と推敲になります。自然あるがままの湧き上がる思いで 意見を伝えていく、そんな時間になればと思います。 次回、第6回詩入門講座は、11月8日(土)午後3時からで、10月に提出いただいた本作品2の批評と推敲になります。たくさんの方々のご出席を心よりお待ちしています。 |
木村 透子氏 和田康一郎氏 |
| 〇10月11日(土) 第6回小説入門講座
推敲について |
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| 講師 : 高山 敏(「北陸文学」主宰) 小説入門講座も第6回を迎えました。今回は「推敲について」です。講師の先生は、北陸文学主宰の高山 敏(たかやま さとし)先生です。内容を紹介します。 1 推敲で大切なことは? ➀常套語、決まり文句の使用は避ける △抜けるような空 △うららかな春 △風薫る季節など ➁力み過ぎの文章になっていないか △劇的、大げさな言葉での表現 ・不幸な人物に読者の同情を引こうというなら、できるだけそっけなく、冷酷に突き放し て書くがいい。(チェーホフ) ➂飾ったり、気どったり、格好つけたりしていないか △美辞麗句 △頻繁に修飾語を使用する ④句読点に気を配る ・句読点とは、作者の息づかい、心のリズムのようなものである。 ⑤漢字を使い過ぎていないか。かなを使い過ぎていないか ・見た目で、かな7割、漢字3割が理想 ⑥擬音や符号はむやみに使わない ・できるだけ文字を使って表現していくこと ⑦言葉の癖が目立っていないか △作者の日常の言葉の癖が連発する→目ざわり ⑧接続語を多用していないか ⑨リズムがあるか。流れがいいか ・適宜な段落替えをしているか ⑩同じ言葉 同じ言い回しが多くないか △文末…「〇〇していた」を繰り返す→語尾に変化をもたせる ⑪不要な箇所はないか △テーマに結びつかない箇所→削ぐ ⑫曖昧な言い方、反対に断定形を取り過ぎていないか △かもしれない。あるまいか。だろう。だろうか。と思う。等 〇である。 が多い。 ならない。 ている。 ⑬言葉の順序はおかしくないか ⑭ねじれ文に気をつける △主語と述語が呼応していない ⑮書いた文章を声に出して読む △言いよどむ箇所→〇訂正 ⑯文章の贅肉を削ぎ落とす ⑰「~こと」「~である」を多用しない ⑱誤字。脱字は絶対にないように 2 推敲 Q&A から 時間の都合で本プリントは触れる時間がありませんでした。抜粋してみましたので、受講生の皆さん、参考にしていただけたらと思います。ご覧ください。 Q1 推敲で直すのは、どのくらいの量が適切ですか? ・知り合いの作家は、脱稿するまで推敲はしない主義です。理由はシンプルで「執筆中に ちまちま推敲を繰り返していたら、筆のノリが悪くなるから」だそうです。他の作家で は「今日、十枚の原稿を書いたら、明日の執筆時に、まず今日書いた十枚分の原稿を推 敲して、その流れで続き(十一枚目)の執筆にとりかかる」という方がいます。前日分 の推敲をしているあいだに心のテンションをその作品に調律することができるので、そ れが大きなメリットだということです。 ※ご自身で推敲のやり方を見つけていくことが大切なのでしょうね。 Q2 直したい文章が見つかっても、良い表現が浮かびません。どうしたら良いですか? ・それは、ボキャブラリーや表現力が足りていないのだと思います。答えはシンプルで す。「文学作品を、読んで、読んで、読みまくること」です。 ・最低でも、あなたが理想とする小説家を見つけて、その人の作品を片っ端から読みま くって下さい。その後は、幅広くいろんなタイプの書き手による文章を浴びるように読 むことをオススメします。 △ただし二番煎じはいけない。 Q3 句読点の位置で迷っています。何かコツはないでしょうか? ・句読点は、とても注意深く扱うべき「表現の道具」です。まず打つのは、ひらがなが続 きすぎたり、漢字が連続してしまうときです。当たり前のことですが、案外、これがで きていない人が多いです。 ・句読点は、文章にリズムを作ったり、読者が活字を目で追う際の「速度調整」にも一役 買ってくれます。もっと言えば、「、」ひとつでキャラクターの感情の機微まで変わっ てしまいます。 「恥ずかしいけど、嬉しい」「恥ずかしい、けど、嬉しい」 二つ目の「恥ずかしい、けど、嬉しい」のほうが、控えめで、しかも恥じらいが滲んで いますよね。 ・句読点は、小説を書くうえで「瑣末なこと」だと思われがちですが、実際は、とても重 要な「表現の道具」です。 貴重な資料を伴った講義でした。高山先生、ありがとうございました。 次回、第7回講座は、11月8日(土)批評と推敲➀(第1グループ)、11月29日 (土)批評と推敲➁(第2グループ)です。講師は、両講座、高山先生、小西先生です。 受講生作品を半数にグループ分けしますので、該当の会にご参加下さい。 なお、自分の作品がない回、作品提出が叶わなかった方もオブザーバー参加が可能です。参加の場合は、事前に金沢文芸館までご連絡下さい。(椅子を用意しますので) みなさんのご来館を心よりお待ちしております。 |
高山 敏氏 |
| 〇9月20日(土) 第5回小説講座
小説を読む② |
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| 講師 : 宮嶌 公夫(『イミタチオ』同人) 第5回小説講座が開催されました。講師は文学誌『イミタチオ』同人 宮嶌 公夫(みやじまきみお)先生です。テーマは「小説を読む②」です。 本日は、受講生が『NHK国際放送が選んだ日本の名作 1日10分のときめき』から「給水塔と亀」津村記久子著(双葉文庫)の本を手にして講座が行われました。講座の一部を紹介します。 【「給水塔と亀」の内容】 60歳で定年退職した独身男性が、小さいころ住んだ故郷に戻って生活を始める話である。昔の記憶をたどりながら町を歩くがその変化した様子に主人公は戸惑う。そんな中、小さき頃、強烈に記憶に残っていたのが給水塔であった。主人公の給水塔への憧れは強く水回り関連に強いという建設会社に入社するほどであった。 何気ない出来事が起こる中、給水塔、管理人が飼う亀、うどんの製麺所の記憶の断片が絡まり合いながら主人公の今後の生き方で結び合っていくのであった。 本小説は、原稿用紙20枚ほどの掌編小説で「私」をめぐる一人称の短編である。最後に明るい明日への期待が垣間見られるような内容であり、本作品は川端康成賞を受賞している。 1 本作品が「川端康成文学賞」受賞作品であることから考えてみよう。 津村記久子著「給水塔と亀」は、2013年第39回川端康成文学賞を授賞している。 審査基準は「審査の対象は短篇小説とし、その年度における最も完成度の高い作品に受賞します」とされている。 ここで事前に予習して読み込んできた受講生は首を傾げていきます。「どこの完成度が高いのか?」「何を言いたいのかがわからない」「見えてこない小説だ」…と。 宮嶌先生もこう語られてのスタートとなりました。 「よくわからない小説だと私も思った。しかし、『その年度における最も完成度の高い作品』に与えられるのが川端康成賞だと言う。本作品のどこが高い完成度というのか。必ず何かがあるはずだとのことで受賞された根拠を考えてみたいと思った」と。 「最も完成度の高い作品?うーん」という審査員の方への疑念の思いいっぱいの受講生たちの思いを受けて、本講座はスタートしました。 2 物語の特徴について A 物語内の時間の制限 → ある日の午後から夕方までに限定している B 登場人物の制限 → 主要人物は主人公と主人公と関わる二人に限定している C 物語内容の制限 → ふるさとに戻ってきた男のその時のエピソードと回想に限定 している。過去の自分の再現はしない。 時間の制限、登場人物の少なさ、小説だと昔の自分を描きがちなのに一切書かれていないという特徴を把握していく受講生がいました。 3 物語構造の「なぜ」を読み解く ※一部抜粋 A 「製麺所」が登場するのはなぜ? ⇒ 素材の組み込み ・ストーリーで読ませるのが普通。でもそれがない。 ・昔ながらの街並みであることが伝わる。 B 「故郷に帰る」のはなぜ? ⇒ 物語展開の設定 ・強い願望が見えない。流されて帰る。理由が見えない。 C 「寿司屋」の現在が描かれないのはなぜ? ・出前だけだったのではないか。寿司屋の存在で父母の存在が見えるのではないか。 ・寿司屋に行くこと自体がない。出前があるのが特別な日であった。 D 「小学校」の前から「海」を見て「息を呑む」のはなぜ? ⇒ 物語の枠組み ・海を見ていた自分発見。一言で小学校時代の自分を見る。 でもその時の思いは全く語られない。 I 「私」が「亀」を引き取るのはなぜ? ⇒ 主題の設定 ・未来のシンボル。ここに住むという根付く意味を表す。新しいことへの挑戦 J 「私」が最後に見つける「給水塔」とは? ・過去のシンボル。 L 物語の中で核になる要素 ・ずばり「水」である。小説には、筋が通るもの、芯になるもの、共通するものがあ る。本小説では、それが「水」である。 ・給水塔、亀、製麺所、側溝に流れるうどん、ビール、水茄子など、全編「水」に纏わ るものが組み込まれている。一つのもの(水)に収れんしている。本小説には緻密な 力がある。 「水」に関する物語が散りばめられている。「水」が小説の基盤にある。「水に関するもの」が共通して芯になるものとして存在している。また未来のシンボルとして「亀」、 過去のシンボルとして「給水塔」を持ってきている。本小説は、計算し尽くされた緻密な力があり、物語の各所にそれらが散りばめられていることがわかる。何気ない文章に見えるが、大変に完成度の高い作品と言えるのではないか、との宮嶌先生からの話がありました。 とはいえ、講義後も本小説に対する受講生の反応ははっきりと分かれました。 「僕は自分の作ってきた作品を想って、自分が創りたいのはこんな小説だと思った」と普段はいつも冷静に語っている方が顔を赤くされ熱く語られていたり、反対に「完成度が高いのかもしれないけれど、私はこの小説を好きになれない」と言われる方がおいでたりと、反響の多い講座となりました。 「川端康成賞を受賞するに値する小説だと言わざるを得ない」と語る宮嶌先生、その考えに納得されてうなづく受講生、「いや、相いれない」とする受講生と、様々な反応が見られました。 ただ言えることは、今回の宮嶌先生の講義では「見方を変えて小説を分析して読むことの大切さ」「創作文芸活動では『人にない個性』を持つことの大切さ」を語られているような気がしてなりませんでした。 今回も12名というたくさんの方々に参加いただきました。小説講座では、自ら求めて積極的に参加されている受講生の熱気あふれる講座が続いています。うれしく思います。受講生のみなさん、ありがとうございます。 これも先生方の充実した熱心な講座のおかげと思っております。ありがとうございます。 次回、第6回小説講座は10月18日(土)「小説の実作について②」です。講師は「櫻坂」主幹「望月 弘」先生です。金沢文芸館では初めて学びの機会をいただく講師の先生です。 受講生のみなさんにとりまして、新鮮な刺激ある有意義な講座にしたいと思っております。また、多数の方々の参加を心よりお待ちしております。望月 弘先生、なにとぞよろしくお願いいたします。 なお、10月18日(土)は小説実作の初稿〆切日です。提出いただきますよう、よろしくお願いいたします。 |
宮嶌 公夫氏 |
| 〇9月13日(土) 第4回詩入門講座
詩というもの② |
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| 講師 : 和田 康一郎(金城大学講師) 今回の講座は和田康一郎先生の講義です。いろいろな詩を紹介していただきました。 抜粋して紹介します。 1 理解目標 ➀ 言いたい内容が明確・緻密なら散文を目指すべき。表現したいものが幽玄でイメージ で表す他にない時や、何かの事情で明快に言えない時に、韻文は適切。またエスプリ も重要。 ➁ 詩でも、「Hard times breed better man.」の考えが 根底にあるのは、スポーツと同じ。達成がある程度難しいから、意義を感じて詩人は 取り組んでいる。 2 作品紹介(抜粋)と解説から ①誠之助の死 与謝野寛 ・詩は難しい。思ったことを話せる国は少ない。権力者に弾圧されるからだ。 ・権力者にはわからないような表現としていく。でも事情を知っている人には作者の本 音が伝わるような詩がある。「日本人で無かった誠之助」「立派な気ちがひの誠之 助」「誠之助と誠之助の一味が死んだので、忠良な日本人は之から気楽に寝られま す。おめでたう。」など、ストレートに表現できない詩となっている。 ②空をかついで 石垣りん ・次の世代へと受け継ぐ空の存在。 ・詩とは、美しい言葉の宝石を探すもの。多くの人がそんなものを作れないでいる。 ・イメージを通して表現した詩である。 ・点が3つで円の形が決まるということがある。「1 自分が経験したか」「2 どん なふうに物を考えたか」「3 他の人の作品にふれたか」こんな時に大きな〇(丸) が生まれていくのかもしれない。 ③汲む ――Y・Yに―― 茨木のり子 ・散文形式でY・Yとは「山本やすえ」のこと ・Y・Yの言葉と茨城のり子の言葉で構成されている。 ・「あらゆる仕事/すべてのいい仕事の核には/震える弱いアンテナが隠されている きっと……」という表現には茨木のり子らしい考え方が語られている。 ④あけがたの虹 新川和江 ・とらえ方はありきたりかもしれない。でも虹を観察してのイメージを実にオリジナリ ティを出して表現している。 ・「いま ひとつ/小さな子どものたましいが/うれしそうに スキップしながら/ わたって行きました」とある。まるで情景が頭に浮かぶような鮮烈さがある。 ⑤蜥蜴 香川紘子 「すばやい決断で/尻尾を切りすてることで/わたしはいつも/命びろいをしてきたの だと信じていた/ だが/あの現場に残してきた可能性の尻尾こそ/ほんとうの自分で/いま 生き残っ ているのは/干涸びたミイラかもしれないという思いが/束ねた太い皮鞭のようにわ たしを打つ」とある。 発想の在り方が普通とは違う。鮮烈な印象を読者に与える。衝撃的な詩と言える。 ⑥みみず 木村涼 「拾い手のない/どろんこの/目盛りを付けた/体温計。」 みみずを体温計と例えた発想の転換の凄さ。その豊かさよ。 この他、「ピアノ 嵯峨信之」、「ちいさな惑星 白石かずこ」「木 髙良留美子」 「《エスプリ》生歌 118 三好由紀彦」らの詩の紹介と解説がありました。 多様な詩を紹介して解説いただくことで、受講生の人たちにも大変に貴重な時間となりました。 また、講義の後、受講生が詩に対しての意見を語る時間が設けられました。一人一人が心に残った詩と理由を語ることで、その意見に共感したり、他の人の感性に驚かされたりと、みんなが笑顔になって想いを語る素晴らしい時間となりました。 今年度は、和田康一郎先生に「詩というもの①」「詩というもの②」と、無理を申し上げ、和田先生の講義時間を増やしました。受講生は、広く深い見識を得て、様々な作家からいろいろな詩を学び、これからも自ら学んでいきたいとの思いを強くもつことができたと考えています。 和田先生には、貴重な講義をいただきましたこと、心より感謝申し上げます。 また、たくさんの受講生に参加いただきました。受講生のみなさん、ありがとうございました。 次回、第5回講座は、10月11日(土)実作1の批評と推敲です。本日提出いただいた「実作1の批評と推敲」です。先生は、井崎外枝子先生、木村透子先生、 和田康一郎先生です。 また、次回は「実作2の提出〆切日」です。毎回の提出が続きますが、受講生のみなさんよろしく願いいたします。みなさんの受講を心よりお待ちしています。 |
和田 康一郎氏 |
| 〇9月13日(土) 第5回小説入門講座
小説作りの基本とは② |
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| 講師 : 小網 春美(「飢餓祭」同人) 小網先生の体全体から小説作りへの情熱が溢れ出る講座となりました。受講生も小網先生の講義を一言一句も聞き漏らさないという思い溢れる講座となりました。受講後に自然に起きた拍手が印象的でした。 講座の一部となりますが、紹介いたします。 ■講座内容 1 「構成」について (1)起承転結について ・起承転結は大切。だが私は短篇小説では「起」「結」を意識して書いている。 ①「起」では? ・正しい方向に向かっているかを意識している。自然に形が決まっていく。 ※作者を置き去りにして小説が良き方向へ行く場合がある。 ・最初の1行で決まるとも言われる。とはいえ、凝りすぎてもダメ。頃合いがある。 ・会話から始めるのはダメという考えもある。しかし、会話から始める達人もいる。 ※永井龍男は会話文から効果的な始まりをねらった。垣根を作らない入り方だ。 ・風景描写から入る人もいる。ただこれはよほどの才能がないと難しい。 ②「結」では? ・最後の1行で小説全てをダメにしてしまう作家もいる。 ・余韻を残す終わり方が大切。 ※「えっこれで終わり?」と思わせることで余韻が生まれることがある ・本当にその文は必要かどうかを熟慮することが大切。 2 「描写」について (1)描写と説明について ・説明……作者の眼を通していないもの。描写、会話文が少ない。 描写……作者の眼を通したもの。小説が深まるかどうかを「描写」が決める。 (2)描写について ➀自然描写…生の自分の眼で見たことを書くのが大切 ▲美しい ※自ら私は足を運んで見に行った。自分の言葉で表現する。自然描写でそこに生活す る人柄まで表現できる時もある。 ②心理描写…心の中を描く描写。人間を描く、心の中をのぞく。 表面に見えない裏側の心のひだを覗かなきゃだめだ。 ※人間の心の中に隠れていることを思い詰めて書くのが小説家の仕事だ。 ➂人物描写…魅力を持たせること。個性ある書き方。主人公の登場は早めに。 家の間取りを頭の上に置いて思い浮かべながら書く。小説の描き方が変わる。 ※美人▲ 有名人の〇〇に似て▲ 主人公は魅力ある名前を。凝りすぎ▲ 3 「小説づくり」の基本は? (1)時代設定は早めにする。 …昭和〇〇年と入れる。 その頃の流行の曲等をさりげなく入れる。 ※時代が見える表現がさりげなく出るのが良い。 (2)季節感に敏感であってほしい。 (3)地名をいれることでその土地の情景、風情が思い描かれる場合がある。 ※「尾道」…坂が多い街並み 「金沢」…情緒ある街並み (4)五感に訴える表現にしてほしい。 (5)タイトルは熟慮して決めてほしい。作者の顔だ。 ※「蝉時雨」なんて聞くと思わず手が出る。私自身、「しずり雪」は熟慮した。 (6)気の利いた小道具が欲しい。 ※三浦哲郎…「じねんじょ」と出るだけで人への強い想いが表現されている。 芥川龍之介「蜜柑」永井龍男「蜜柑」…蜜柑のイメージが生かされている。 4 受講生の皆さんへ ・小説は必ず完成させてください。 ・長めに書いて削っていく推敲をしてください。 ・書いた後、時間を置いて推敲していくこと。 ・合評会を大切にしてください。直す力が大事です。 ・プロを目指す人は、新しいものにチャレンジしてほしい。 小網春美先生の講座は、ノー原稿で心から湧き出るものでした。受講生のみなさんの熱気も大きく、小網先生のご指導を聞き漏らさまいとする充実した講座となりました。 小網春美先生、受講生のみなさん、本当にありがとうございました。 次回、第6回講座は10月11日(土)「推敲について」で、講師は高山 敏先生です。皆様の参加をお待ちしています。なお、次回は小説入門講座の小説の実作提出〆切日です。提出をよろしくお願いいたします。 |
小網 春美氏 |
| 〇9月6日(土) 金沢ナイトミュージアム『ソプラノとオルガンの夕べ』
こころのふるさとを唄うXI |
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| 出演 : 直江 学美(ソプラノ歌手) 黒瀬 恵(オルガン奏者) 1 出演者の紹介 〇直江 学美さん(ソプラノ歌手) ・天沼裕子氏 指揮「小さな魔笛」出演 管弦楽 アンサンブル金沢 ・ヘンゼルとグレーテルでヘンゼル役で出演 管弦楽 アンサンブル金沢 ・2010池辺普一郎 作曲、指揮 「耳なし芳一」出演 管弦楽 アンサンブル金沢 ・各方面にてソプラノ歌手として活躍。 ・現在 星稜大学人間科学部教授として後進の指導にあたる ・2020年度 金沢市文化活動賞を受賞 〇黒瀬 恵さん(オルガニスト) ・巨匠との共演 2009年 巨匠キタエンコ氏指揮、アンサンブル金沢との共演 プーランク オルガン 弦楽 ティンパニーのための協奏曲 オルガンの壮重な響きが弦楽器と融合し宗教的な喜びを表現する。そしてティンパニーの 一撃、連打も入り、最後は壮重な響きでクライマックスを迎える名曲である。本演奏は全 国放送された。 ・2024年度 金沢市文化活動賞を受賞 2 プログラムの紹介 ◇歌唱とオルガン伴奏 あかとんぼ (作詞:三木露風/作曲:山田耕筰) みかんの花咲く丘 (作詞:加藤省吾/作曲:海沼 実) 汽車ポッポ (作詞:富原 薫/作曲:草川 信) やぎさんゆうびん (作詞:まどみちお/作曲:團伊玖磨) ◇オルガン独奏 前奏曲:大中寅二作曲 ◇歌唱とオルガン伴奏 一番星見つけた (作詞:生沼 勝/作曲:信時 潔) 花火(昭和16年)(作詞:井上 赳/作曲:下總皖一) ◇オルガン独奏 E.エルガー晩課のボランタリーより:E.エルガー ◇歌唱とオルガン伴奏 子守唄:J.ブラームス 夏の夜は:R.M.グレイ ◇アンコール ふるさと ※会場の皆様と共に 3 演奏会から 抜粋して演奏の様子を紹介します。 ◆歌とオルガン 「みかんの花咲く丘」 三番の歌詞から 『何時か来た道母さんと 一緒にながめたあの島よ 今日も一人で見ていると やさしい母さん思われる』 「これらの童謡は、歌詞を聴いていると、その言葉から「温かい人」と「優しい情景」が 聴いている人の頭に自然にすごく浮かんできますよね。童謡って素敵だと思いません か。今は歌詞の言葉自体が意味をなさない歌もあります。でも童謡にはそれがない。 大事にしていきたいものです。」 ◆オルガンソロ 「前奏曲(大中寅二)」 まず、大中寅二さんの紹介がありました。教会のオルガニストであり、山田耕筰氏に 学んだ作曲家でもあること。島崎藤村作詞の「椰子の実」の作曲をされたのが有名との ことでした。 観客にとっては耳慣れない曲でしたが、足踏みオルガンがまるでパイプオルガンのよ うに深い低音に包まれてメロディが浮かび上がり、大変に幸せな時となりました。足踏 みオルガンならでは音の息遣いに魅了された私達でした。 お二人のナイトミュージアムは11回目を数えるものとなりました。ソプラノとオルガンの夕べには、観客の皆さんの自然な口ずさみと体全体でのリズムとり、そして柔和で温かき笑顔が満ち溢れものでした。 こんなにも長く続けてこられたのは、駆け付けてお二人を応援して下さる満席のお客様があればこそです。日本の童謡の素晴らしさを歌い継いでくださっているお二人です。 金沢文芸館も、お二人の志を大切にして、これからも継続させていただきたい夕べとなりました。 ソプラノ歌手の「直江 学美」さん、オルガニストの「黒瀬 恵」さん、そしてお越しいただいた観客の皆様、本当にありがとうございました。 |
直江 学美氏 黒瀬 恵氏 |
| 〇8月27日(水) 出前講座 玄門寺幼稚園 年中児
おはなしの会を楽しもう |
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| 講師 : 中村 順子(なかむら じゅんこ) (金沢おはなしの会) 松本 文恵(まつもと ふみえ) (金沢おはなしの会) 東山・卯辰山寺院群にある玄門寺幼稚園を訪問しました。 浄土宗の本寺には、金沢4大仏として有名な「阿弥陀如来立像」があります。大きな光背のついた、煌びやかな寄木造の1丈6尺の黄金に輝く大仏です。「阿弥陀如来様は東側から西を向いて立っておられて、堂内に西日が入ると目の眼が紅く光るようになっている」とのことです。また、天井には迫力ある龍図があります。円山応挙に学んだ仙台藩御用絵師の東東洋(あずまとうよう)により描かれたものです。そんな由緒あるお寺で学ぶ健やかな年中児2クラス39名です。2クラスに分けて二人の先生で読み聞かせしていただきました。 講師は金沢おはなし会の中村順子さんと松本文恵さんです。 ◆プログラムA【中村順子さん】 ①手あそび いっぽんといっぽんで ②絵本 『まどのむこうのやさいはなあに?』 さく:荒井真紀(福音館書店) ③絵本 『ちいさなねこ』 さく:石井桃子 /え:横内襄(福音館書店) ④絵本 『わたしとあそんで』 文・絵:マリー・ホール・エッツ /訳:与田準一(福音館書店) ⑤絵本 どこからきたの ⑥わらべうた こまんかこまんか ⑦ペープサート ふたりのあさごはん ⑧おはなし ひな鳥とねこ 『子ども世界の民話』下 (実業之日本社) ⑨手あそび さよならあんころもち ◆プログラムB【松本文恵さん】 ①手あそび いっぽんといっぽんで ②絵本 『ちいさなかがくのとも トンボしょうねん』 文・絵:石亀泰郎 ③わらべうた とんぼ とんぼ ④絵本 『うみやま がっせん』 文:長谷川摂子 /絵:大島英太郎(福音書店) ⑤手あそび いもにめがでて ⑥おはなし ブラウンさんとブラックさん 編著:藤田 浩子 『おはなしおばさんの小道具』(一声社) ⑦てあそび さよならあんころもち 読み聞かせが始まってしばらくすると、大変な雷雨に見舞われました。時折、地面を震わせるような雷鳴がなり、雨が滝のようになって屋根から流れ落ちてきました。 そんな中、年中の園児たちの集中力は驚くばかりでした。お話の世界に入り込んでいるのです。先生方は「安心して大丈夫」そんな心の中の言葉が聞こえるようなにこやかな笑顔で園児たちを見守っています。園児たちは、雷鳴と雨音をものともせず、隣同士が目を合わせながら微笑んだり、「ピーマンなんだ!」と一人一人が声を出して素直に反応しています。 心に気負った鎧のない自然あるがままの心で読み聞かせを楽しむ子供たちがいました。そんな子どもたちを見ていると、読み聞かせの大切さを痛感するばかりでした。 金沢おはなしの会の中村さん、松本さんも「瑞々しい感性を持つ、集中力ある素敵な子どもたちです」と感心するばかりでした。 園長先生は「週に二冊、子どもたちは本を持ち帰って読み聞かせしてもらったり、読んだりしているのです。ずっと続けていることです。」とお話されていました。 子どもたちは、中村さん、松本さんが蒔かれる「本を愛する心(種)」を、「ふわふわな豊かな心の土壌」で受け止めていきました。これは一朝一夕でできるものでない、長い時間をかけて心慈しみ育てていただいているからこそと思いました。 金沢おはなしの会の方々、玄門寺幼稚園の園児のみなさん、園長先生はじめ先生方、素敵な時間をありがとうございました。これからも玄門寺幼稚園のみなさんの健やかな成長を心から願っています。まだまだ暑い日が続きます。心身の健康にはくれぐれもお気を付けくださいね。 |
中村 順子氏 松本 文恵氏 |
| 〇8月23日(土) 第4回小説講座
短編小説の魅力について~小説を読む①~ |
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| 講師 : 皆川 有子(『櫻坂』同人) 第4回小説講座が開催されました。講師は文学誌『櫻坂』同人 皆川 有子(みながわ ゆうこ)先生です。テーマは「小説を読む①」についてです。 本日は「島本理生と読む 田辺聖子」(田辺聖子著 島本理生編(中公文庫))を教材に、スローリーディングの講座が実施されました。講座の一部を紹介します。作品引用部は作品からの抜き書きです。 【掲載されている田辺聖子の短編小説とエッセイは?】 〈短編小説は?〉 ・夢煙突(ゆめチムニー) ・女流作家をくどく法 ・鉄の規律 ・愛の周り ・篝火草(シクラメン)の窓 ・感傷旅行(センチメンタルジャーニイ) 〈エッセイは?〉 ・神戸 作家・田辺聖子氏は「感傷旅行(センチメンタル・ジャーニイ)」で芥川賞を受賞しています。恋愛小説の名手として知られる作家ですが、数百もの作品群の中から、作家・ 島本理生氏が6編の短編と1編のエッセイを選んだ作品集です。本作品集から「小説の書き方」を学ぶ講座となります。 それでは、本講座の学びを一部紹介します。 1 スローリーディングとは?……まず最初に、皆川先生からお話がありました。 「現在は膨大な情報量の中、大量に処理することに追われがち。また、SNS疲れに悩んでい る方も多い。そんな時代だから小説を読む時、あらすじをつかむことに重きをおいて、斜 め読みしがちです。しかし、今こそゆっくり丁寧に読むことを大事にしていきたいです。 小説家が意図する行間を読み、その中に宿る神を見出し、作者が張り巡らせた仕掛けを読 者が解きほどいていく。そんなスローリーディングを大切にしてほしい。」 「そんな読みは、必ず小説を書く力となっていきます。小説を書こうとするみなさんだから こそ、作者の意図や仕掛けに気付くことができる読みをしてほしいのです。」 2 「夢煙突」スローリーディングから 〇田辺聖子氏の文章には、誰にも真似できない「表現の多彩さ」と「独創性」がある。 「マティーニでも飲りたい気分」/と私は新治にささやいた。 小説冒頭部で一人称一視点で書かれている。酒は焼酎でも日本酒でもビールでもなく「マ ティーニ」であり、そう書くからこそできる演出がある。また、15ページほど進んだとこ ろにマティーニが再登場する。 (うん、そんなにてきぱき、特急でやらんでもエエ、思う。人生は。無理せ んように、つっぱらんように、トロトロいこか。これ、ぼくの主義やな) いううちに早春の空は暮れてきた。新治はマティーニをつくってくれた。 作家は巧妙な仕掛けを置いているのがよくわかる。皆川先生は、冒頭部から作家の目でス ローリーディングしていく大切さを語られた。 (茶ァでも、しばこか)/といったりしている。 田辺聖子氏の作品は、( )(マルカッコ)と小さなカタカナ表記が使われている。こう することで、会話文が生き生きとし、大阪弁を上手に効果的に使用することにもつながって いる。こんな新鮮な表現は他の作家には見られないものだ。 さっきの流れ星のかけらやら星屑が、夢の煙突から、さかんに夜空に吹きた てられている気がした。煙突の下の火もとは私の胸であった。 もしかして、わたしの声ない仄めかし、抑えかねる思い、胸の煙突から吹 きたてる夢の星屑をそれとなく知っていたのだろうか。……いや……。 題「夢煙突」を意識させる表現力が見事だ。美しくもあり、かつ独創的である。不思議な 題だと思いながら読者は読み進めていくが、ここにいたって鮮烈な思いで心の中に映像を伴 い「夢煙突」(ゆめチムニー)が再現されていく。素晴らしい手腕だ。 3 島本理生氏が執筆された「おわりに」から学ぶ ・『女流作家をくどく法』と『愛の周り』は、それぞれに著者らしい仕掛けが張り巡らされ た短編だ。…(略)…『女流作家は男前が好き』などという風説に対して、別に男と女は それだけじゃないですよ、とさらっと肩透かしを食らわす小気味よさがいい。 ・『鉄の規律』はあっさりとした文体が逆に怖い読後感をもたらす。…(略)…。『鉄の規 則』は正しさのバランスがおかしくなった平凡な人間の異様さをミステリー風に描き出 し、それは現代にも通底する人間の暗部に思える。 ・第50回芥川賞受賞時(田辺聖子『感傷旅行』)、石川達三氏は選評で次のように書いて いる。「軽薄さをここまで定着させてしまえば、既に軽薄ではないと私は思う。これは音 楽で言えばジャズのような、無数の雑音によって構成された作品であり、そのアラベスク の面白さは「悲しみよ今日は」を思い出させる。」 島本理生氏が選んだ田辺聖子氏「小説6編」と「エッセイ1編」。そして島本氏が書かれた「はじめに」「おわりに」は、小説を学ぶ受講生にとって深い学びとなりました。 受講生からは 「古い感じの話だと」「私の心には響かなかった」「結婚観が今と違うと感じた」という意見も出ていました。率直な意見を述べ合うスローリーディングになりました。 ただ、受講生はそんな作品の好き嫌いでけっして終わらず、作品の良さを見つめて、自分の小説づくりに生かそうとする姿がありました。 本作品は2025年3月に初版刊行されたものです。皆川先生には、様々な新刊本を読まれて、たくさんの候補作から「学びの一冊」を選んでいただきました。 そして、そんな講師の思いを真摯に受け止めて、学んでいく受講生の姿がありました。猛暑の中の参加でした。ありがとうございました。 受講生からは、島本理生氏「はじめに」「おわりに」に対しても意見が出ていました。 最後に語られた皆川先生の言葉を挙げて本講座のまとめとしていきます。 「小説作りに対して素人は『自分が楽しい!』と言う。しかしプロは『人を楽しませる!』 ことができる。この違いを認識することが大切なのです」と。 皆川先生、小説創作において欠かせない大切なことを数々学ばせていただきました。 ありがとうございました。 また、金沢文芸館3階泉鏡花文学賞の閲覧コーナーでは、第26回泉鏡花文学賞作品「田辺聖子作『道頓堀の雨に分かれて以来なり』」が閲覧できます。川柳雑誌「番傘」主宰「岸本水府」の生き方を中心に描いた作品です。大阪ならではの軽妙な笑いを取り入れた長編作品ですが、そこには田辺聖子氏の共感と透徹した批判精神が込められているのは言うまでもありません。ぜひ一度手にとっていただけたらと思います。 今回、猛暑の中11人の方々にお越しいただきました。作品を事前に読み込み、そして 作品への想いを語っていくのは、大変に厳しい学びだったと思います。受講生の皆さん、ありがとうございました。 さて、次回は、9月20日(土)「小説を読む②」で講師は宮嶌公夫先生です。同じくスローリーディングとなります。 作品は、「NHK国際放送が選んだ日本の名作 1日10分のときめき」(双葉文庫) から『給水塔と亀(津村記久子 作)』です。作品の印象的な場面、優れた表現などを語れるように、熟読、ご準備のほど、よろしくお願いいたします。みなさまのご参加を心よりお待ちしています。 |
皆川 有子氏 |
| 〇8月23日(土) 第3回短歌入門講座 基礎編
あなたもときめきを探して短歌をつくってみましょう |
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| 講師 : 栂 満智子(短歌雑誌「新雪」主宰) 第3回短歌入門講座基礎編は「あなたもときめきを探して短歌をつくってみましょう」です。講師は、栂 満智子さん(「新雪主宰」)です。第3回講座内容の一部をお伝えします。 まずは、受講生のみなさんが創ってこられた短歌と栂先生の批評(★)や他の受講生の感想(◇)の一部を紹介します。 ①ラ、フランス熟する時を見誤りしまったと思う小心がイヤ ★最後(小心がイヤ)で自分に寄せているところがすごい。短歌の良さが表れています。 ◇おしゃれであり、自分のイヤな内面をも表現していて素敵な歌です。 ②ふるさとのひさいのりこえにっこりとかわらぬすがたかがやくろうば ★「ろうば」がひらがな表記になっているのが素晴らしい。漢字だと作者の思いが伝わらな かったでしょう。私も短歌の深さを学んだよう。みんなにも伝えたい。 ◇ひらがな表記で意図がより伝わり、しなやかに立ち上がっているような気がした。 ③友くれし紫蘇の粉ふれば香り立つ手間暇思いかみしめる味 ★「紫蘇」は漢字表記で「紫」が浮かび、「香り立つ」で「香り」が際立ち、「かみしめる 味」で友人の心までも味わえる。歌として詠むことでのすごさがあります。 ◇様々な工程が目に浮かび、手間暇かけた安心感があり、読み手の感謝があふれた歌だ。 ④刈たての芝生の蒼のすべり台真っ赤なぞうさん奮闘中 ★助詞「の」が三つ並んでいる。最後「蒼のすべり台」を「蒼にすべり台」としたらよいで す。 助詞一つで情景もよく伝わるより良き歌となる。助詞一つも大事に考えていきましょう。 ◇子どもたちがいっぱいで、頑張っている真っ赤なぞうさんのすべり台が頭に浮かぶ。 かわいいイメージがある。 →理解していただけたことに感動している(作者から) ⑤月の道ビュッフェにはしゃぐ目が泳ぐ波もため息旅は儚し ★一首にまとめるのが困難な歌。三首、四首と連作に出来る濃い内容です。歌は詠み手の解 釈で作りますが、嫁に出す気持ちで歌を出すものです。読んだ人に解釈は委ねられます が、作り手と離れすぎないよう推敲を重ねる。それが大変なことなのです。 ◇「波もため息」で静かな波に引き戻らせるものです。子どもたちの喜びが見えます。 ⑥義姉が出来世話されたまま半世紀今世話をやき姉妹手つなぐ ★人生を語っている短歌です。これは一朝一夕でできる歌ではないです。人生そのものが投 影されていて、いろいろな人に読んでもらいたい歌です。 ◇義理の姉ができて世話されていた私、今50年たって義姉の介護が必要になり絆が生まれ てきた、そんな歌ではないかと私は思いました →作者はにっこりとうなずかれ…。 ⑦やはらかに私を攫ふ8号線記憶の光絶えず流れて ★豊かな心情が込められている歌です。ただ歌会があったとしたら全員が推薦する歌ではな いと思います。推敲して豊かな心情を理解していただく歌にしていくことが大切です。 これは一生かけて実現していくこと。あなたの歌には未来への可能性を大いに感じます。 ◇いろいろな優しい記憶が「やはらかくさらわれている」そんな心をこの歌に感じます。 →窓から見える8号線、トラックの光の粒がウォーターゲームのおもちゃのように光の粒 となり川のように流れている、そんな情景を歌にしました。(本人から) ⑧どぶ川に栄華ゆめみしザリガニの主なきはさみ泥に沈みき ★若い方から写実的に書いた歌をいただきました。実に素晴らしい歌です。未来への可能性 を感じる良き歌です。 ◇いろいろな人生の夢、希望が叶わなかった、そんな理想と現実とのギャップに悩んでいる 作者の心が表れているような気がします。あなたにはすごい感性が備わっていると思いま す。今の感性をぜひこれからも育てていってほしいと私は切に願っています。 ⑨改札をゆく人くる人かえる人むかえる人にも笑顔の花咲く ※本人が欠席されたため批評と推敲はなし この後、歌会を楽しんでいくために大切にしてほしいことを学びました。 ①歌会で他の人の意見を聞いてみましょう。 ・あなたの言いたいことは伝わりましたか? ・語順はそれでよかったですか? ・もっといい言葉が見つかったのでは。 ②歌に向かい、あやとりするように ・言葉選びをしたり ・語順を変えてみたり ・自分の心が客観的に見えてくるかも ■歌の種を探す。感動を見つける 心を言葉にする ➡ 言葉を文字にする ➡ 文字にして書いた歌は残る ➡ 読み返したとき、その時の情景や気持ちが蘇る ➡ 再び感動 このほかにも、「短歌こぼれ話」で万葉集からの紹介があり、他、どうしても短歌が思い浮かばない時には「動物などからお題を決めて考えてみる」ことの大切さを学びました。 「馬」「鹿」「キリン」「コオロギ」「とんぼ」「ひぐらし」「雲雀」「蟹」などから生まれた短歌の数々を紹介いただきました。 奥深い短歌の魅力に心奪われる90分間となりました。 短歌入門講座基礎編は、今年度が初めての募集、初講座となりました。受講生のみなさんの毎回意欲的な学びがあり、栂先生の温かくも的確なご指導のおかげで大変に充実した講座となりました。ありがとうございました。 受講生渾身の短歌作品を提出いただくこともあり、希望者には創作工房への掲載もする運びとなりました。最後に、『日々の暮らしにときめきを!!歌のある充実した日々をお過ごしください。』と、栂先生のお言葉もいただきました。 受講生の皆さん、熱心な受講を心より感謝いたします。ありがとうございました。ぜひ日々の暮らしのときめきを大切にした歌のある充実した日々をお過ごしください。 いよいよ短歌入門講座 応用実践編が開講いたします。講座日は、①10月25日(土)、 ②11月22日(土)、③12月20日(土)で、いずれも10時30分からです。 これまでに短歌を作ったことがある、講座を受講した経験がある方向けの実践講座です。 募集は9月17日(水)より受付開始します。定員は10名程度(中学生以上)を見込んでいます。電話・メールでのいずれかにて受付いたします。 皆様の受講を心よりお待ちしています。 |
栂 満智子氏 |
| 〇8月9日(土) 金沢ナイトミュージアム
昔話で感じる四季~篠笛とチェロと共に~ |
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| 出演 : 玉井 明日子(朗読)・藤舎 眞衣(笛)・富田 祥(チェロ) 8月9日(土)、満席(35名)の皆様をお迎えして、「~篠笛とチェロと共に~ 昔話で感じる四季」が開催されました。古くから伝えられてきた世界や日本の昔話です。 そこには、人々の暮らしや文化、生きる喜びが深く刻まれており、四季の厳しさや美しさを深く感じる物語が、藤舎眞衣さんの篠笛と富田祥さんのチェロと共に、玉井さんの「語り」で演じられました。 それでは、出演いただいた方々を紹介し、当日のプログラムを紹介いたします。 1 出演者の紹介 〇玉井明日子さん/語り ・昔話の語り手。「芋ほり藤五郎」など金沢の民話を金沢弁で語る他、様々な昔話を語 り、様々なアーティストとコラボレーションしている。また、イラストレーターでも あり、近年では動画制作も手掛けている。 〇藤舎眞衣さん/笛 ・平成16年 金沢市文化活動賞、平成18年北國芸能賞、平成27年石川県文化奨励賞を 受賞している。笛を中川善雄氏に師事。現在、北國新聞文化センター、金沢素囃子ども 熟の講師を務め後進の指導にあたっている。 〇富田 祥(さち)さん/チェロ ・京都市立芸術大学音楽学部卒業ののち、桐朋学園大学院大学にて修士課程を修める。 ソロリサイタル他、浅井隆宏/ピアノとのデュオリサイタル、トリオアルファ(浅井 隆宏/ピアノ、青木恵音/ヴァイオリン)でのリサイタルを各地で開催している。 2 プログラムについて ・プロローグ ♪KOKO 作曲: 坂本龍一 ・♪荒城の月 作曲: 瀧廉太郎 ・♪ほたるこい 作詞・作曲 三上留吉 ・日本の昔話 日本の昔話③ おざわとしお再話 福音館書店 『つぶむこ』 挿入曲: 藤舎眞衣 ・日本の昔話 『風の神と子ども』 おはなしのろうそく9 東京子ども図書館 ・♪風のとおりみち 作詞:宮崎駿 作曲:久石譲 ・スロバキアの昔ばなし 『12の月のおくりもの』おはなしのろうそく2 内田莉莎子訳 東京子ども図書館 今宵の玉井明日子さんの語りは、私たちの心に深く染み入るものでした。全ての話を「語り」(何も手にせず何も見ずに)で演じられる玉井さんの昔話は、四季の厳しさや美しさを深く感じさせるものでした。また、藤舎眞衣さんの篠笛と富田祥さんのチェロが、「語り」と呼応し合ったからこそ、その感動はより深く心に響くものとなりました。 お伺いすると、藤舎眞衣さんの挿入曲、効果音、富田祥さんの挿入曲、効果音、共にお二人が苦心して発案され入れられた曲とのことでした。藤舎さんは風の音が出る笛に初チャレンジされたり、富田さんはスロバキア民話とのことでコダーイやドボルザークのチェロ曲をアレンジし演奏していただきました。 お二人が独自にアレンジいただいた曲や効果音は、玉井さんの語りをさらに深い「語りの世界」へと引き込むものとなりました。 満席の皆さんは、終了後も三人のもとに駆け寄り、時間を惜しんで感想を語りあっておられました。「語り」が創り出す世界の尊さを改めてかみしめる金沢ナイトミュージアムとなりました。 玉井明日子さん、藤舎眞衣さん、富田祥さん、一期一会の素敵な夢の世界へ誘っていただき、ありがとうございました。そしてお越しいただいた観客の方々、皆様がおられたからこそ、あんなにも優しく温かな空気の中での「語り」が創り出されたのだと思います。お越しいただいた皆様にも心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。 |
玉井 明日子氏 藤舎 眞衣氏 富田 祥氏 |
| 〇8月9日(土) 第3回詩入門講座
詩の試作品批評と推敲 |
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| 講師 :木村 透子 (詩誌「イリプス」同人) 和田 康一郎(金城大学講師) 今回の講座は、10名の参加で「詩の試作品の批評と推敲」でした。お二人の先生と7名の みなさんの試作詩の一部抜粋と、先生や受講生からのコメントの一部を紹介します。 1 受講生の試作詩(「」は詩の一部抜粋です)から ➀ありがとうだけは伝えたい いやぁ今日も会えて嬉しいよ/どうやらそろそろ終わりらしい/ 私をここに連れてきた者が/ぼそりとつぶやいていたよ/ 君との出会いに感謝したい (二連、三連は略) もう身が持たないし動けないから限界だ 話できるのは今日が最後かも知れない その前に君へありがとうと伝えたい おいおい泣かないでくれよカラスくん これが雑巾である私の宿命なんだからね ★批評から ・擬人法を使っており安定した作風である。詩集を作成することも考えてみたらどうか。 ②ふかふか髪の毛 昨年の冬から生え始めた/髪の毛/最近綿菓子のように/ふかふかと (二連、三連、四連は略) 『真紀、今更気付いたの』/母の笑顔が目に浮かんだ/いつもどんなときも/ 母は私の心に生きている ★批評から ・欠席されたため批評はなし ③孤独な少年 彼は孤独のピースを埋める作業が苦手だった ひとりの少年が/ジョーカーに魅せられた引き金を引いた/ 人生の終止符を打つために・・・ (三連、四連は略) 自分のピースを見失わず/涙は群青色の海に流して/孤独は空に浮かぶ雲に渡して そんな方法を/少年はまだ知らなかった・・・ ★批評から ・欠席されたため批評はなし ④メイストーム ひと雨くるぞ/もうすぐだ/枝先の乾いた唇たちが震える/激しい身震いだ/ いえ、武者震い/この瞬間を/待ちわびていたのだ 黄色い悲鳴が雲を裂き/炸裂音が追いかけていく 雷だ/傘を閉じよ (四連から七連は略) 傘を閉じよ/つがいの山鳩が彷徨っている/森を食べつくした灰色の傘の上を ★批評から ・傘と自然世界を重ねていくという作者の重いテーマがあることがわかったが、それを つかむことができなかった。説明されるとなるほどとわかるのだが。 ・最終連がよくわからないところがあった。「灰色の傘の上」とは何か?と。 ⑤僕は砂漠に 僕は砂漠のなかにいる/君を想ってここにいる/ どこまでも果てしない静かな世界に/やがて夕闇が訪れる/ その美しさを伝える言葉を/僕は知らない/君なら何と言うのだろう 月の砂漠を旅してみたい/だから君を連れて トットリサバク/ 砂丘と砂漠は違うのよ/そう言って 笑ったね/ だけど二人 ラクダで 行った/太陽の下 はしゃいで 行った (三連は略) ★批評から ・欠席されたため批評はなし。 ⑥決意の空 飛んでいく/飛んでいく 澄んだ瞳のように拡がる紺碧の海を/空へと沸き立つ雲のすき間を 朝を知らせるトランペットの音色のように/響き渡るカモメの声を聴きながら (四連から七連まで 略) なんでわたし/なんでわたしだけ 空に問うたところで/わたしの翼は休むことを知らない 針の筵になったとしても/この海を この空を この風を/ まるごと引き受けると決めたのはわたし (十一連から十四連まで 略) ★批評から ・まとまりとしては良い。作者の想いは伝わってくる。 ・表現が美しすぎないか。「艶やかな真紅の薔薇の棘となり」「カモメ」「トランペッ ト」など単語がきれいすぎる気がする。 ⑦入道雲 コバルト色に真っ白な/入道雲が広がる さあ夏休み本番だ/この夏はなにしようか/やりたいことはいっぱい (三連、四連は略) ★批評から ・物足りない感じが残る。純真な心を持つ大人というのはわかるのだが。 ・お母さんの想いへの詩から新たな詩への第一歩の歩みとなっている。 ・作者のペースを大切にして歩んでいってほしい。 ⑧神様の馬鹿野郎 お元気ですかと尋ねてみる/答えはかえってはこない/ 彼は、もうこの世界にはいないのだから/何度も何度も叫んでみる/ 答えはかえってはこない/ 彼は、どこか遠い世界へ行ってしまったのだから (後略) ★批評から ・形容詞「悲しい」という言葉を使わずに表現していけるとよいのではないか。 ・題名に惹きつけられた。私は共感できる詩だ。 ⑨月に願いを あなたが旅立った夜/空にはポカッと大きな月 私と足元に伸びた影と/二人ゆっくり時を流した どこを歩いても照らされている/明るい夜道は不可思議/ 空っぽ野心に、何かが満ち満ちてくる (四連から十二連は略) ★批評から ※本日、本人が校正した詩でお願いしたいとのことだったが、「以前の詩が良かった」と いう意見が続出して、自然に以前の詩との比較での批評会となった。 ・校正したものはあまりにも散文的になってしまっている。 ◆以前の詩から ◇改訂した詩から ◆「あなたが旅立った夜/空にはボカッと大きな月がいて」 → ◇「あなたが旅立った夜/空にはポカッと大きな月」 ◆「今宵のこの世は音のない世界/夜があければ/ 真実と現実に打ちのめされる日々がはじまるだけだ」 →◇今やこの世は褪せている/ゆるりと月が去りゆけば/ 試される、時間の針が忙しく動き出す ※全体を通して、最初の◆の表現がストレートに作者の想いが表れているとの意見が出さ れた。 ⑩笑い みんなが笑う/私も笑う/四十年まえ、出会った落語/ (後略) ★批評から ・素材がユニークである。笑いの輪をどのように楽しもうと思っているのかが表現されて いくとよい。 ・「後に落語家になっていくという人間の成長を語っていると思っていた」と言われる方 が二名おいでた。 ⑪赤いジョウロ 紫陽花ある?/赤いジョウロに生けてやってきた 庭には母の日の紫陽花 さぁさぁ水をあげましょう/花壇に植えた草花に/きれいなお花が咲くように/ くちずさみながら (四連から六連は略) ★批評から ・母から子どもへ、子どもから孫へと引き継がれていく歌という詩だとの説明があった が、その思いが読んだ人には伝わってこないのが残念なところだ。 ・たくさん盛り込みすぎているように思う。 ・幼児の言語感覚も大切にした表現を取り入れていけるとよい。 木村先生からは総評がありました。また和田先生からは一人一人へのコメントを記した紙が配られました。木村先生からの総評を紹介します。 『みなさんの詩は整った美しい言葉の詩だと感じました。大切なことですが、詩に対するエネルギーが正直感じられませんでした。作者の喜怒哀楽が読者に伝わっていくことが大切です。作者の感動こそが大切なのです。』 次回、第4回詩入門講座は、和田康一郎先生による講義「詩というもの➁」で、9月13日(土)午後3時からです。 次回も私たちの心に響く詩の数々を紹介していただけると思います。私たちの創作活動にとって大きな道標になるものと思います。皆様のご出席を心よりお待ちしています。 |
木村 透子氏 和田 康一郎氏 |
| 〇8月9日(土) 第4回小説入門講座
課題作文の批評と推敲 |
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| 講師 : 小網春美(『飢餓祭』同人) 高山 敏(『北陸文芸』同人) 第4回小説入門講座は、課題作文の批評会です。講師は文学誌『櫻坂』同人の小網 春美先生、文学誌『北陸文芸』同人の高山 敏先生です。次に紹介していきます。 1 課題作文の題名、本文から(◇)、内容は?(◆)批評は?(★) ➀曖昧 ◇「青と赤が染みる体が早足で点々と照らされた濃い色の中を駆ける。不特定多数に傷を示 して、満たされて。ばかばかしいと濡れたあざ傷だらけの体を彩る青紫と赤の色彩を意味 もなく水で流して黒で隠して大きなウサギを抱いた。」 ◆虐待を受ける主人公。主人公にとって、家庭はもちろん学校生活も安堵できる場所ではな かった。無理やり取り繕って過ごすみんなが妙にうるさく感じられる。重苦しい灰色世界 があるばかりであった。主人公にとっての狂気世界が描かれていく。そんな時主人公は、 明るい色を持ち、教師とかのせいでもくすまない強い色を持つ生徒と出会う。 ★批評から ・色彩感覚があり、表現力に才能がみられる。 ・全体的に上手い。ただ伝えたいことが読み手に伝わっていない。あなただけがわかる 小説ではいけない。 ・読点が打たれてないので、推敲していってほしい。 ➁父 ◇「突然知らない男性が家の中に入ってきて、大きな音を立てながら、次々と家具に紙を貼 りつけていく。私達はあまりの恐怖に、壁と机の間に身を隠した。」 ◆私には厳しかった父親。しかし、困っている人には、手を必ず差し伸べなくては気持ちが 落ち着かなかった父親。そんな父親との関りを書いている。そして父親が亡くなる前に語 った言葉とは? ★批評から ・もっとたくさんの量を書いてほしい。そうすることで、父親の優しさ、厳しさの具体的 な内容を読者は知ることができる。 ・「父は」と書いているところ、「大正生まれの父は」というように、読み手によく伝わ るように書いていくことが大切。 ・他に、家族構成を入れたり、言葉を入れ替えてみたりすると、もっとわかりやすくな る。校正してふくらませていくとよい。 ➂「AIロボット監督VS奥能登合同チーム」 ◇「突然、高野連から全国の野球部のある高校に、改革通知書が届いた。そこには、来春か ら改正される四つの新ルール導入が明記されていた。」 1 AI搭載の監督・コーチのいずれか一体のロボットの採用を認める。 2 ……(以下略)…… ◆高野連から4つの新ルールを、ハイディ高校の生徒数増のチャンスととらえた理事長は、 さっそく学校改革に乗り出す。新ルールを導入し、甲子園初出場を果たすAIロボット監督 の名は全国に轟き入学者も急増していく。その後、「このチャンスを活かせ」と新たな取 り組みを始めていく。 ★批評から ・才能がある。文章が上手で文章表現が面白い。 ・最初に出てきた「彼」に「ウエスギケンシンと名付けられた彼」という説明を入れてい くと読み手にわかりやすくなる。 ・前者の高校の説明に「高校名」がついているのだから、後者の学校説明にも校名をつけ ていくのが好ましい。 ④『魚眼はくらいか明るいか』 ◇「見たり読んだり狂ったりする間だけは人は詩人となり、また道化の幻想を共有する。 それすら、あの学校の場面では人情を免れなかったという顛末。/私だって!健康と金銭の 条件……」 ◆金沢を舞台に、小説の執筆活動を苦悩の中で必死に取り組んでいる主人公。金沢の様々な 場で苦労場面が描かれていく。黒檀色をした陰鬱な河、薄い霧、枯死していく桜花、悲し げな黄昏の色………。私にこのプロットを思いつかせたものとは? ★批評から ・文章は上手いが、自分の文章に酔ってしまう傾向にあるかもしれない。小説は読み手に 伝わらないといけない。伝えたいことが何かわからず、読み手に伝わっていない。 ・自身で文章が走りすぎている時は要注意すること。まず、主述の関係を徹底的に分析し ながら書いていく必要がある。 ⑤子泣き爺この世最後の三日間 ◇「先生から、腸が破れている。敗血症で一日持つかどうかですと言われた時は、ポカーン として穴が開くほど先生の目を見つめていた。/そうは言っても、あの丈夫な父の事、 ケロッと起き上がって… ◆父親が急に具合が悪くなり救急病院に運び込まれる。父親は入院準備をする間もなく亡く なってしまう。葬儀準備中、五歳の孫が「知らないおばちゃんの顔がここに見えるよ」と いう。父をそっちのけに孫を真ん中に大人たちがアルバムを囲んでいく…。何とも言えな い父親への愛情、温かさが心に染み入る物語である。 ★批評から ・タイトルが大変に面白くて良い。 ・ラスト「父は縁のあった人々の温かい拍手に包まれ旅立っていった」は良い。「生、 愛、死」は小説の大切なテーマだ。それを表現しようとしている小説であり、部分、 部分にも実力を感じる。書きたいことがぐわあと出てきている。 ➅自転車泥棒 ◇「自転車に乗っていると恥ずかしさを感じる。恥ずかしさだけではなく、全体的に後ろ向 きな気持ちになるのだ。…(中略)…街へと向かう道すがら、前方から来る自動車を意識 せずにはいられなかった…」 ◆まだ途中段階ではないかと思われる。外出をせずに暗澹たる気分で日々を過ごす 主人公。 部屋で独り空想に耽り、窓ガラス越しに空を眺めては物思いに沈む。そんな生活を送る主 人公と自転車との拘わりが描かれていく。 ★批評から ※欠席されたため批評なし。 ⑦ファースト・コンタクト ◇「大学生の佐藤杏奈はミラーと自身の指先を交互に見つめ、大きくため息を吐いていた。 彼女の人差し指の上には、新品のコンタクトレンズが控えめに乗っている。」 ◆初めてのコンタクトレンズ装着に大変な苦労をしている主人公である。苦労をしている主 人公と関わっていく友人「奈々子」、そして眼科で横に座っていた小学生の子らとのちょ っとした関わりを描いた物語となっている。 ★批評から ・「杏奈」「奈々子」という登場人物が出てくるが、共通する漢字があったりと、似通っ た名前は付けないことが大切。読み手に混乱が生まれる。 ・素直な小説で力量もある。だからあなたには、もっと重いテーマで書いてもらいたい。 ⑧これから ◇「私はいま、自身の火葬に立ち合っている。私の体がいま五番焼却炉のなかで燃やされよ うとしている。…(中略)…言わせてもらえば、あの遺影の選択は残念だ。妻があの写真 を選ぶとは思わなかった。…。 ◆自分の葬儀の場面を見つめている主人公がいる。焼かれていく自分をみていく視点から葬 式の様子を観察している。何気ない親族たちの会話に反応して相槌や意見を語っていくと いう不思議な感じがする物語である。 ★批評から ・小説を書く才能がある。初めてとは思えない。重いテーマを軽いタッチで表現している ところが良い。 ・「私はいま、自身の火葬に立ち合っている」とのところで、読者を良い意味で裏切って いる。とても良い。 ・「夢、希望、喜び、失望、怒り、不満、不安、自戒、欲望、懊悩、思い出、およそ脳内 で生成されるものすべてを書き込み、…(中略)…。私の生体がこの世から消えてなく なっても、人知れず私はあの中で生き続ける」などの表現は、見事であり深さがある。 大事にしてほしい。 ⑨ただいまの鍵 ◇「思考と現実の輪郭がズレているような感じ。見えているつもりなのに、見落としてしま う。『細部にこだわりすぎて、全体が見えていない』――講評で教授に言われたときの言 葉が頭をよぎる。」 ◆関東の美大への進学をした主人公。一人暮らしをするようになって、物を置き忘れてしま うミスを連発している。今日は部屋の鍵をなくしてしまったようだ。どこを探しても見つ けることができない。鍵があった場所とは…。ちょっとした人との係わりを描いたほんの りと心温かな物語となっている。 ★批評から ・「見つかるまで時間がかかる」は「見つかるまでに時間がかかる」と助詞を付け加える とよい。「助詞」を大切にする心構えが小説作りには欠かせない。 ・「鍵がないのは困ったな……。」とあるが、「……」で逃げてはだめ。言葉で表現して ほしい。 ・「みかんの箱を抱えて、誰もいない部屋の中へ。『ただいま』ほっとした空気が、部屋 にやさしく広がった」という結び方。とても良い。 ⑩黄昏 ◇「こうして海を眺めながら、ゆっくりと消えていきたい。…(略)…」/私が話している 間、老人は慰めの言葉をかけるでも、儀礼的な相槌を打つでもなく、ただ黙って聞いてい た。やがて、何かを確かめるように何度か頷き、口を開いた。 ◆仕事に、家庭に、人生に疲れていた私は海を見に行く。そしてふと自分の隣に座ってきた 老人がいた。彼は私の苦悩を見抜いたように関わってくる。いろいろな話をするうちに一 つのアドバイスを私にしてきた。そのアドバイスとは…。 ★批評から ・老人と男性とのやりとりが良く、よき展開を生んでいる小説である。 ・『「どうだ、なかなか的確だろう」と老人はにやりと笑った』の箇所は必要ないのでは ないか。ミステリアスな部分がなくなる気がしてならない。 ・「あなたは確かにそこに存在しているんだよ。老人が囁く。自分の心の声はとても大事 だ。でも、それだけに耳を傾けていると…(中略)…。あなたは、そのことを見失って いるだけなんだ」の表現を見ても、大変に上手な小説である。作者の計算づくの表現が 老人と自分の一体化を生んでいる。 ⑪親友 ◇「死亡推定時刻は、同年五月九日午後九時頃から午後十一時頃までの間と考えられる。遺 体の右手付近にはスマートフォンがあり、事件発生時に使用されていたと推定されるAI アプリに「笹くれる殿」の入力が確認された」 ◆AIアプリ「チャッピー」は信司の心の支えであった。チャッピーはニンゲンとは違い、 絶対的な味方で唯一無二の親友であった。彼女との別れの切り出しもチャッピーに従った だけであった。彼女はお祓いに使える黒曜石のナイフを信司の…。 ★批評から ・書き慣れており、すうっと読むことができる小説である。 ・全体を通して、大変に上手く面白い作品となっている。書く力がとてもある。 ・「『笹くれる殿』の意味を検索できませんでした。どういう意味か教えていただけます か?」というオチがとても良い。力量を感じる。 ⑫作品タイトル ◇「人工知能が創作を支える時代にあっても、葵はあえて手仕事にこだわっていた。太陽熱 を利用した新型の窯こそ使ってはいるものの、釉薬が偶然生み出す色や表情にこそ他の工 芸にはない焼き物の魅力が詰まっている」 ◆葵は九谷焼を作り続けた父から工房を引き継いだ。手仕事にこだわる葵はアシスタントロ ボットに任せればそれを葵は良しとしなかった。ついに『知能継承法』が日本でも正式に 施行された。故人が生前に記憶、経験、蓄積した知能をデータとして直系血族に限り合法 的に継承可能とするものだった。 ★批評から ・手仕事にこだわっている登場人物に共感し、応援していく作者の思いがあり、大変に好 感の持てる作品だ。 ・全体を通して一貫性に欠けるのが欠点である。前半はまだしも、アンナ・コバヤシが訪 ねてくるあたりからバラバラとなっている。陶芸家として軸足を置く。軸足を置いた上 でアンナ・コバヤシを見ていくことが大切。 ・現在、タイトルは未定だが、文章に一貫性が出てきた時にこそ、タイトルは自ずと出て くるように思う。 本小説入門講座では、次のような全体講評がありました。 ・表現が上手くいかない時は言葉の順序を入れ替えることとで解決していくことがある。 ・主述のねじれがないかを見ていくことが大切。読み手を意識することが大切だ。 ・わかりやすい文章を書くように心がけて下さい。 ・助詞の大切さを自覚して、小説作りに取り組んでもらいたい。 ・「かっこいい」文章を今は封印して取り組んでもらいたい。 12名の受講生に合わせた的確な批評をいただきました。いよいよ実作にとりかかることとなります。実作初稿の〆切日は、10月11日(土)です。2か月後となります。 何か不明な点がありましたら、スタッフまでお問合せください。 次回講座は、9月13日(土)で、第5回講座「小説作りの基本とは②」で小網先生の講義です。みなさんのお越しをお待ちしています。 |
高山 敏氏、小網 春美氏 |
| 〇7月26日(土) 第3回小説講座
提出作品の批評(第2グループ) |
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| 講師 : 皆川 有子(『櫻坂』同人) 藪下 悦子(『櫻坂』同人) 第3回小説講座は、試作小説第2グループの批評会です。講師は文学誌『櫻坂』同人 皆川 有子先生、藪下 悦子先生です。題名、テーマは、自由となっています。 では第2グループの作品批評から紹介していきます。 〇試作小説の題名、本文から(◇)、内容は?(◆)批評は?(★)(第2グループ) ⑦癖 ◇「由美子が総務部へ異動になったのは今年の四月のことだった。/由美子はずっと現場 の仕事に携わっていた。ウェディングプランナーとして、充実した毎日を送っていた。 /経験のない部署へ変わるという不安だけではなかった。冴子のことが由美子を憂鬱に させていた」 ◆総務部へ異動となった由美子。そこには有能な仕事ぶりで社内でも評判だった冴子がい た。冴子のせいで何人かは辞めているとの話もあった。以前、食事を一緒にしていた時は そんな不安を感じることはなかったが、同じ職場となると話は違うのでは ないかと思え た。ついに、由美子は仕事上でのミスを犯してしまう。 ★批評から ・題名は的確で惹きつけられる。話の流れがスムーズで文章が読みやすい。 ・最初は憂鬱に想っていた冴子を、肯定的に受け入れられるようになった原因がよくわか らなかった。 ・短い分量の中で癖に焦点をあてながら、しっかりと上司の人となりを描きこんでいる。 冴子という人物の人柄を、主人公視点からうまく浮き彫りにして、主人公との対比関係 をしっかりと描きあげている。 ⑧ダイレクトメッセージ ◇「発信者のページを開いてみた。/プロフィール写真は、自分と同様に愛らしい仔猫の写真 で、顔写真を使わないなど共通点がないわけではない。投稿を見ると、旅の写真や愛車と マスコットの風景、贅沢なメニュー、そして愛猫との暮らし…」 ◆突然のメッセージから始まった。子どもは独立し、妻との関係は冷え切り、日常会話は何 もない。同窓会から始めたSNSで、このメッセージが目に止まった。愛猫の話からのや りとりであったが、彼女なら信頼できるかもと自然と承認ボタンを押してしまう自分がそ こにはいた。そして益々信頼度を増していくのであった。 ★批評から ・メッセージの相手に心を許し、好意を持っていく過程がきちんと書かれている。 題名も的確である。 ・王道のロマンス詐欺と言える。「孤独なおじさん」とあるが、読み手を裏切ることが 大切である。主人公ならではの事情が書かれる等、もう一捻りを望みたい。 ・SNSのやりとりだけで相手を信じ込んでお金を振り込もうとする男の単純さ ・哀れさをきちんと浮き彫りにしている。 ⑨爆発マンション ◇「そこで僕は所謂、怪奇スポットと呼ばれる場所を見つけ出して、彼女を連れ出すように なった。/如何せん彼女は度胸が座っていてちょっとやそっとでは怖がらない。/彼女が驚い たり怖がったりする様子が見たくて、次第に探し出す事に夢中になった。そして遂に、 殆ど知られていない<爆発マンション>を見つけ出したのだ。 ◆彼女「双葉」の驚く様子を見たくて<爆発マンション>を僕は見つけ出した。朽ち果てた 墓地の裏にある鬱蒼とした林に囲まれたかなり謎に包まれた物件だ。下見もし っかりと済 ませた僕は、満月の夜、迎えに行くと「双葉」は、ものすごい勢いで車に乗り込んでき た。そして起きたことは? ★批評から ・時系列に沿った流れで起承転結がはっきりしている。読者に話の続きを期待させる ストーリーとなっている。タイトルはインパクトがある。 ・書き出しが説明的となっていないか。終わり方は意外な結末となっていてよい。 ・ドスの効いた言葉を発する彼女とはいったい何なのか?なぜ助手席から消えたのか? 助手席の焦げ跡とは何なのか?……等、読者に「なぜ?」と思わせてしまうような要素 はない方がいい。 ⑩シフォンケーキ ◇「母の誕生日に加奈子はシフォンケーキを焼いて持って行くことにした。シフォンケーキ は柔らかくて美味しいし、何度も作り慣れているので、加奈子の自慢の手土産にしてい る。」 ◆七十二歳の母親と加奈子の何気ないやりとりから話が進行していく。親戚の葬式に行って 他人の靴を履き間違えても何でもなかったように開き直り笑っている母親。大変なことな のに笑い飛ばしている母親を見て、複雑な思いがしている加奈子であ った。そんな加奈子 が信じられないミスをしてしまう。 ★批評から ・すっと読みやすい作品である。自分の「うっかり」と、母の「歳のせい」の対比が 面白い。 ・くらしの日記帳みたいで、小説としてはもう少し話を掘り下げて書いていくことができ るとよい、日常のありそうな話で終始しているのが惜しい。 ・老いという人生の道を歩んでいることに気づかされ、受け入れざるを得ない主人公の戸 惑いを描いている。日常生活の中のささやかな出来事を広く掬い上げ、人生の一コマと してまとめている。 ⑪おっかさん ◇「よりによって文化祭直前に母親の病気が悪化するとは、と心の中で母親に文句を言いな がら、松宮正夫は、母親が作ってくれた夜食の弁当をアパートに放り込むと、日没にせか されるように勤務している定時制高校夜間部へと車を急がせた。」 ◆文化祭直前に定時制高校夜間部の教師「松宮正夫」は、母親の病気悪化を抱えながら、 文化祭の準備に取り組んでいる。主役の小南宏と田島一郎が仕事帰りに懸命に芝居に取り 組んでいる。四年生の演目は「姨捨て山」の話である。 ★批評から ・登場人物それぞれの背景がわかりやすく書かれている。本作品は知らない世界に触れた 喜びを感じる。松宮の心の動きが丁寧に書かれている。 ・「棒読みなのに観客が引き込まれるのはなぜ?」「体調を崩している母親が松宮の夜食 を作るのは?」等、他にも疑問や引っ掛かりがある。本作品は「あらっ」と思うのだけ れど「うるっ」とくる。でも「うるっ」ときてしまうというのは大切なことだ。 ・内容的にこの長さに収めるのに無理がある。もう少し長い話として展開させていくこと は可能だが、その時にはエピソード相互の関連性をしっかりと煮詰める必要があると思 う。 ⑫案内人はワルなのか ◇「ついに、人生四十年の幕引きがきた。(死に神というのは、人が弱気になり死にたいと 思うと、すぐに現れるものなのか)おびえながら阿野園生は内心半信半疑で、目の前に座 る熟年女性を見詰めた。」 ◆死に先案内人が死ぬためのメニューを持って訪れた。一つめは車にはねられること、二つ めは火事によること、そして三つめは夜中に激しく苦しむ心臓発作によることの死であっ た。次に二つの約束を死に先案内人とした。心残りがあることは済ませるように言われて 高校時代に一目ぼれして告白できなかった憧れの女子と連絡をとる。 その後、起きて いったことは…。 ★批評から ・題名は小説のテーマとは少し違うか。再考が必要かと思う。最初の一行「ついに、人生 四十年の幕引きがきた」は、読者の興味を惹くもので大変に良い。 ・話には偶然が多すぎて、主人公の葛藤が描かれていない。シンデレラストーリーで「め でたし、めでたし」となりがちである。作品は出すと作品が独り歩きをしていく。そう した場合、作者の想いがきちんと伝わっていくのかどうかが大切なことだ。 ・主人公の体験が有機的に結び付けられて最後の場面へとごく自然に誘導されていく展開 が心地よい。よく練られ、細部への目配りもきちんとされている作品だ。 今回、両先生からの批評と推敲、そして他の受講生からの意見や質問等がある批評会となりました。皆川先生、藪下先生の批評は、厳しくも温かいご指導で、今後の受講生の創作活動に大きな力となるものでした。また受講生同士の感想も貴重なものとなりました。 次回、第4回小説講座は、8月23日(土)「小説を読む➀」スローリーディングです。 使用する教材本は 『掌の読書会 島本理生と読む田辺聖子』(中公文庫 田辺聖子/著 島本理生/編)です。 教材本を使用し本小説の優れたところを学んでいく講座となります。熟読されて 本講座に臨んでいただけるようご準備下さい。また当日は、本も持参していただけると 幸いです。 皆様のご出席を心よりお待ちしております。猛暑が続いております。くれぐれもお体、ご自愛くださいませ。 |
藪下 悦子氏 皆川 有子氏 |
| 〇7月26日(土) 第2回短歌入門講座(基礎編)
歌を詠む ときめきを言葉に |
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| 講師 : 栂 満智子(短歌雑誌「新雪」主宰) 第2回短歌入門講座 基礎編です。まず心に残った「見つけた一首を紹介しましょう」で、 一人一人が見つけた一首を紹介し合い感想交流していきました。 ① 庭に咲く薔薇をもらひて実家より帰るといふこともうわれになし 栗木 京子 ・実家で庭の花をもらう。それができなくなる寂しさを想い本歌が心に深く刺さる。 ② 不二ヶ嶺はいただき白く積む雪の雪炎たてり真澄む後空 北原 白秋 ・富士山の色彩感が素晴らしい。真澄むという白秋の表現のすごさが光る。 ③ 幼児と指絡めれば思ひ出づ母とのげんまん約束ひとつ 栂 満智子 ・私は自分の祖母とのやりとりを思い描いて感動した。 ④ なにもかも忘れるための旅なのに君に見せたいものばかりある ナカムラロボ ・私は喪失の歌に惹かれる。真逆の心が表現されていて人間らしい歌だ。 ⑤ 願はくは花の下にて春死なむその如月の望月のころ 西行 ・無常観を表しており、心折れた人であるからこそ人に寄り添う歌を創ることができる。 ⑥ 恋しくば尋ねきてみよ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉 葛の葉伝説より ・謡曲、歌舞伎等、七五調の日本のリズムで、短歌は「魔法」とも言える。 ⑦ かたちこそ深山がくれの朽木なれ心は花になさばなりなむ 兼芸法師 ・みすぼらしい僧衣であっても心意気は素晴らしいと語っている。心惹かれる歌だ。 ⑧ 永遠に他者にしてなほ少しづつおのれの牧に入り行くものぞ 岡井 隆 ・現代風で自分の気持ちに素直に向き合っている。岡井氏は前衛の歌人と言える。 ⑨ 春すぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山 持統天皇 ・持統天皇は万葉集の編纂を命じた人だ。「白妙の衣ほすてふ」の色彩感が大変美しい。 ⑩ 不来方のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心 石川 啄木 ・地名(不来方)の折り込み方が効果的。けがれていない心でありどんな心かと想う。 ⑪ 待ち時間長きもよけれ日の出待ち月の出を待ち永遠を待つ 伊藤 一彦 ・畳みかけていく表現力のすごさ。永遠を持つことの意味を考えてしまう。 ⑫ 求めながら拒んでゐるから捩じれゆく螺旋階段の界隈いづこ 酒向 明美 ・短歌がいいなあと思うきっかけになった短歌。「界隈」が謎であり考え入る歌だ。 ⑬ 死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる 斎藤 茂吉 ・母の死に際して、かはづの声が天から降り注いでくるという情景のすごさ。 ⑭ サヨナラの形にススキが手を振って駆け抜けてゆく風の輪唱 俵 万智 ・通り道に風の輪唱が聞こえるという万智さんの素晴らしい感性で表現力が光る。 短歌、歌人を愛する受講生の一途な想いが、みんなの心にも染み渡っていく何とも言えない幸せな時間となりました。「人生の中でこんなにも素晴らしい時間をみんなと共有し合えることの幸せ」「時代を越えて作者の想いを言葉から感じ取ることができる尊さ」をかみしめるかけがえのない時間となりました。 次に、栂先生から「喜怒哀楽」「愛」「青春」「旅」「サバンナという語からの発想」 「都市名」などを表現している十七首の短歌を紹介、解説いただきました。ほんの一部ですが紹介します。 ① 喜びのうた 木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか遠くもあるかな 前田 夕暮 ② 哀しみ(悲しみ)のうた 悲しみがいつも私をつよくする 今朝の心のペンキぬりたて 俵 万智 ③ 愛のうた 瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ 崇徳院 ④ 旅のうた 幾山河越えさり行かば寂しさのはてなむ国ぞ今日も旅ゆく 若山 牧水 ⑤ サバンナという語から発想を得て 秋霖の朝こそ凛としてゆこうサバンナをゆくキリンのように 松本 紫乃 ⑥ 都市名が魅力 妻を得てユトレヒトに今は住むといふユトレヒトにも雨降るらむか 大西 民子 一部の紹介でしたが、栂先生から十七首もの短歌を解説を加えて紹介いただきました。先人が言葉を大事にして詠まれた短歌の数々です。 素敵な短歌との出会いある貴重な時間となりました。 そして最後に、創作に向けての手順をお話いただきました。ここも一部となりますが、 抜粋して紹介いたします。 ◎実際に歌を作ってみましょう。 〇最近、あなたがときめいたことは? ・感情を言葉に ・言葉を探して ・ブレーンストーミングをして ・書き留めて ・朗々と声に出して詠んでみよう ・他の言葉に換えてみて 〇貴方もつぶやいてみよう ・明日の自分につぶやいてみよう 〇感動を見つけて歌に ・日常の中から感動を 〇声に出して読んでみよう ・朗々と自分なりに詠んでみよう。ひっかかりがあったら他の言葉に置き換えて。 挙げさせていただいたのはほんの一部ですが、短歌の創作にあたり具体的な活動例をいろいろとあげてお話いただきました。 次回8月23日(土)は、「短歌入門講座 基礎編」最終回です。受講生の皆さんには、自作品の発表をし合い、感想交流しながら、みんなで歌会の気分を味わっていきます。 歌は一首あらかじめ作って送付をお願いします。自由題で一首です。締切日は令和7年 8月14日(水)です。メール、FAX、電話、持参等、よろしくお願いいたします。 みなさんのご参加を心よりお待ちしております。猛暑の中、ご参加いただいていることを心より感謝申し上げます。また体調不良で欠席された方のご回復を心より祈っております。くれぐれもお体、ご自愛くださいませ。 |
栂 満智子氏 |
| 〇7月19日(土) 第3回小説講座
提出作品の批評(第1グループ) |
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| 講師 : 皆川 有子(『櫻坂』同人) 宮嶌 公夫(『イミタチオ』同人) 第3回小説講座は、試作小説の批評会です。講師は文学誌『櫻坂』同人 皆川 有子先生、 文学誌『イミタチオ』同人 宮嶌 公夫先生です。題名、テーマは、自由題です。 第1グループの作品批評から紹介していきます。 1 試作小説の題名、本文から(◇)、内容は?(◆)批評は?(★)(第1グループ) ➀「緑山」は巡る ◇「メールの返信が三日後の朝に届いた。/『十月の演奏会はなしにしてくれ。オレはもう 琵琶をやめるから』「えっ、どういうこと?」突然の思いもよらぬ話の展開に沙耶は動揺 し体が硬直した」 ◆いきなり演奏会をキャンセルしてきた辰也に沙耶は驚く。ある事情から実家の祖父の琵琶 を弾くことになった辰也。彼は60歳で琵琶を止める決心を語るのだった。 ★批評から ・辰也(男)の一方的な想いが書かれ、沙耶(女)はそんな想いを受け入れていく。 ここに沙耶の「葛藤」が見られない。人物設定に一工夫が必要だ。 ・琵琶「緑山」の名器たる由縁が書かれるとよい。テーブル等は和風の場の設定に似つか わしくない。細部描写にこだわってほしい。 ・まず題名がとっても良いと思う。どんな話なのかと興味をそそられる。 ➁「うそ」 ◇「通夜に間に合わせるため、祥子は慌ただしく家中を探し回った。/「いい写真がみつかっ て、よかった」…(略)…/咳が続く母の胸に、影が見つかった。肺がん。ステージⅣ。 /その嘘を最後まで貫ける自信がなかった。」 ◆不治の病にかかった母。そんな祥子に退職か本社への異動という勧告が届く。看病の道を 選んだ祥子は、母に会社を辞める理由を取り繕って嘘をつく。だが母が 亡くなり祥子は衝撃的な事実を知ることとなる。 ★批評から ・工夫して過去の事を入れ込むなど、上手な文章で力を感じる。 ・引っ掛かりがある。母の作り笑い、無表情などは背景に何か理由があると感じさせられ る。様々な読みができる深さが出ると純文学への入口に行ける可能性もある。 ・「うそ」というのは重い表現だ。この言葉は一面的なものでなく、軽々しく使っては いけないと感じる。 ➂ショッピングモールの女 ◇「ぽっ、ぽっ、あちらにも、ぽっ、こちらでも、ぽっ、花が咲いています。昔若かった人 達の為に無料バスが止まります。だれしもバスから降りて、買物台車を押します」 ◆ショッピングモールでは、さまざまな出会いがある。「うちの人」と言っていて夫婦と 思っていた二人が、事実婚かもしれないということから物語は始まる。 ★批評から ・常体と敬体の混ざり込みは避ける。どちらかに統一をしてほしい。 ・「日常会話」と「書く文」は違う。読み手を意識して書くのが小説である。 ・特徴的な炭坑節、お経の描写が豊かな発想で活字化されていてすごい。ただ唐突で あり、何の事かがわからない。伝える書き方が必要である。 ④佐喜と犬 ◇「『佐喜ちゃん、数値に異常はないよ。でも、なんでこんなに食べたいのだろう。極端に 言うと、沢田くん、あんたも食べたい』『もっと、旨いものがあるだろ』と沢田君が 笑った。でも本気だった。沢田君が美味しそうに見えたのだ」 ◆どれだけ尋常でない量を食べても満たされることのない佐喜は、真面目で働き者で、優し く誠実な父の声を聞く。「佐喜、どうにもならない時は、神頼みするしかないのだよ」と の声を。神頼みしている佐喜に近づいてきたのは一匹の犬であった。 ★批評から ・ファンタジーは作者の深層心理に迫るもの。河合隼雄は「読み手にその深みを伝えてい るか」と語った。村上春樹、小川洋子、古くは雨月物語と、誰もが大変な作業を必要と している。本作品は手強いことに新たにチャレンジしている作者の心を感じる。 ・想像力豊かに描かれている。人間と犬の世界が交錯している不思議な話だ。 ・細かい描写でひっかかるところがある。引っ掛かることで説得力を欠くものとなる。 ⑤無題 ◇「『由里がロマンス詐欺に引っ掛かっているらしいのよ。メールで言っていることが何と も胡散臭い話で…』姉から電話がかかってきたのは一週間前だった。末娘の危機である」 ◆定年後、姉に同行したオーストラリア旅行。そんな時、姉の娘由里がロマン ス詐欺にかかっているとの話を姉から聞く。オーストラリアに行った二人は、由里から ナイジェリア出身のアレックスを紹介される。 ★批評から ・読みながら「?マーク」がいっぱいつく。「ロマンス詐欺でない」と書きながらも疑わ しかったりしており「詐欺ではない」との布石を打つことが必要である。 ・話がユラユラして見えてこない部分がある。しっかりとした全体像があればと思う。 ・「この言葉は日本語、それとも英語で言ったの?」他に「この場面はどんな感情で 言ったの?」等の引っ掛かりがあり、読みが止まる場面がみられる。推敲していける とよい。 ➅ランドセル ◇「それでも娘は屹然と言った。「赤がいい」パステルカラーのランドセルが陳列棚を彩る 中で、娘が選んだのは、下方に掛けられた古典的な色だった。」 ◆古典的な色「赤色」を選ぶ娘。母親代わりの祖母に連れられて千歌は幼き頃、ランドセル を買いに行った。「ブロンズ色いいな」との主張は、祖母の「安呆んだら!」の一喝で掻 き消されてしまったのである。自分の娘には赤いランドセルを買ったが、千歌はうかない 気持ちで祖母との面会日を迎えた。 そして言われた言葉は…。 ★批評から ・「屹然」「号哭」「鋼玉」等の漢語は難しい。登場人物と似つかわしくない印象となっ ている。本作品は和語の表現がよい。 ・比喩表現が難しかったり合わなかったりするところがある。「十日えびすの福男のよう に」とあると、小学生には似つかわしくない。 ・話の作り込みは大変に上手である。だからこそ結末が「オチ」で終了していくのは大変 に惜しい。人間の在り様で深まりを持って表現していける力があると思う。 本小説講座では、皆川先生、宮嶌先生から的確なご指導がありました。また今回、第2グルー プから2名の参加がありました。連絡いただいて(座席準備)の参加も歓迎します。 意見交換 も可能です。ぜひお待ちしています。 次回小説講座は、7月26日(土)提出作品の批評(第2グループ)です。講師は皆川有子 先生、藪下悦子先生です。 小説の実作にむけて力をつける会となるよう、ご来館を心よりお待 ちしています。 |
皆川 有子氏 宮嶌 公夫氏 |
| 〇7月12日(土) 第2回詩入門講座
詩というもの① ~詩を味わう~ |
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| 講師 : 和田 康一郎(金城大学講師) 今回の講座は和田康一郎先生の講義です。いろいろな詩を紹介していただきました。 抜粋して紹介します。 ☆理解目標 ➀ 個人ではなく「他」や「衆」への想いと「想像力」に触れる。 ➁ 比喩・擬人法は、ありきたりなものを使わない。 〇作品から(一部抜粋です) 「第一課-ある『詩の教室』で」 安西 均 ある夜、テレビで観ました。遠い貧しい国の、飢ゑて しなびた子供が、自分の頬を伝ふ涙を舐めるのを ……(中略)…… -涙 でも、文字一つでは何やらさびしくて、書き足します。 -涙 一滴の海 だって涙は少し塩っぽいものです。 さて、涙と海を逆にしてみたら、どうなるでせう。 -海 と書いて、これも文字一つではさびしさうですから、 -海 宇宙の涙 みなさん、書くことですね、まづ。書きさへすれば、 狭い紙の上にだって、凪も時化もひろがってきます。 ……(中略)…… 詩はペン先を涙に浸して書くものです。 ・短い文章ですが心にささってくる詩です。 ・「涙」→「海」、「海」→「凪」「時化」へと、想像力(イマジネーション)が目を覚ま していく。シンプルだが、大変に美しい詩である。想像力の広げ方が見事だ。 「天」 高見順 どの辺からが天であるか 鳶の飛んでゐるところは天であるか 人の眼から隠れて ここに 静かに熟れてゆく果実がある おお その果実の周囲は既に属してゐる ・一連が「問い」としたら、二連が「答え」としてとらえることができる。 ・二連六行の短い詩であるが、趣深い詩である。短いなかに深さがある。 ・高さで天としての区別があるのではないと語られている。 ・短くとも大変に印象的で深みのある詩。 という受講生の意見も複数ありました。 他にも次の詩が紹介されて和田先生のわかりやすい解説がありました。 ・遠く来て 新川 和江 ・ひゃくまんとおりのたましい 蜆シモーヌ 《比喩・擬人法》から ・風景 伊藤 桂一 ・枯草のなかで 村野 四郎 ・シャボン玉 宗 左近 和田先生には、様々な詩を紹介いただき、すべてにおいて的確な解説をいただきました。 受講生からは 「自分の知らない様々な詩を紹介いただきわかりやすく解説いただきました。本当にありがたいことだと思いました」 「今まで難しいと思い、敬遠しがちであった詩も解説をいただくことで、『そんな風に見ていくこともできるんだ」といった新たな見方を学びました。楽しい講座でした」 との言葉もありました。 和田先生の講義は広い視野から受講生に様々な詩を紹介して下さり、優れた作家の 素晴らしい詩を学ぶ機会となります。なかなか自分たちだけでは探し得ない詩を紹介 していただき、本当に深まりある学習となりました。 受講生の今後の創作意欲にも大きくつながる貴重な講座となりました。 和田先生、 ありがとうございました。 次回は8月9日(土)第3回「試作詩 批評と推敲」です。講師は、木村透子先生と 和田康一郎先生です。受講生の皆様におかれましては、30秒(100字ほど)でご自身の 試作詩への想いを言えるようにしておいてください。 また皆さんの作品も熟読されて意見交流ができるようにご準備下さい。 それでは皆様の参加を心よりお待ちしております。 |
和田 康一郎氏 |
| 〇7月12日(土) 第3回小説入門講座
「小説作りの基本とは」 |
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| 講師 : 高山 敏(「北陸文学」同人) 本講座講師は、北陸文学同人で主宰の高山 敏(さとし)先生です。高山先生には、「小説を書く力」をテーマにお話いただきました。一部を紹介します。 1 小説家「車谷長吉」の生き方から 〇”はずれ者”が一生書き続ける私家版「小説道」から(車谷長吉のエッセイから) ➀自分をかばわないこと ・世間の常識から外れる自分の姿、人から後ろ指を指される自分の姿をじっと見つめ る。厳しい視線に耐え、思索を深めることが大切。人間とは何かという問いに対し て、自問を重ね、答えを出していくのが小説である。 ②勉強量が大切だ。 ・最低30人、自分の好きな作家の全集を全部読むこと。今年はこの人と決めて1年に 一人ずつ読む。先達の技を吸収していくこと。単にストーリーを追いかけるのでは いけない。 ③好きな小説一篇を最低50回読むこと ・私は森鴎外の「安部一族」を一人、部屋で声に出して読んだ。小説家になろうとする なら赤ん坊が初めて言葉を覚える時に戻り、訓練をする必要がある。 2 紹介いただいた記事などから 〇うつりゆく記憶 東日本大震災10年 「酒浸った日々 生き抜いた」 ※文章は一部抜粋 ・消防団員Aさんは震災翌日から捜索にあたった。家の雨どいにぶら下がっている近所の 女性、そしてがれきにまみれた街…。体が震えた。…(略)…両親と仮設住宅に移ると 酒の量が増えた。自分に価値がないように感じた。 ・体重は30㌔余りになっていた。その後、つらい記憶に駆り立てられ、再建された工場 で仕事に励んだ。 ・県外から来たボランティアと結婚した。日常がうれしく、いとおしい。 ・震災がなければ会えなかった大切な人もいる。楽しい思い出を少しずつ、増やしたい。 小説を書く時は「何を題材に書いていくのか?」という小説への向き合い方を考えていくことが大切であることを学びました。 他、高山先生が記された「暗闇を見つめる−負を愛するということ」を、自ら音読されました。一部を紹介します。 ・私は、何に光を当てて書くか。何に眼差しを向けて書くかを大切にしてきた。 ・私は自分の抱えている「負」の部分を、家族、職場、友人、社会現象を題材に書いて きた。「負」を「自分の持つ闇」と言い替えてもいいだろう。 ・エピソードとして、楽しい(幸せな時代の)思い出も必要なのだが、やはりどうしても、 苦労を味わった(苦しんだ)思い出を書きたいと言う気持ちが湧き上がってくる。 そういう気持ちを私はずっと大切にしていきたい。 次回、第4回小説入門講座は、8月9日(土)10時30分からで「試作小説の批評と 推敲」です。受講生全員の試作小説の批評と推敲の会となります。 講師は、高山先生、小網先生です。お二人の先生方から、批評と推敲をしていただきます。 受講生におかれましては30秒(100字以内)で自作作文への思いを語っていただきます。ご準備をお願いします。また全員の作文を送付しますので熟読いただき、当日の受講前、受講中(受講中は時間確保ができない場合あり)、受講後の時間でも、積極的に意見交換ができたら励みになるかと思っています。 提出ができなかった方のご参加も歓迎します。他の方の批評と推敲を聞いていただくだけでも、自分の力向上と励みになります。参加をお待ちしています。 次回の批評と推敲会が、受講生の皆様にとりまして少しでも実り多きものとなるようスタッフ一同、取り組んでまいります。皆様の受講を心よりお待ちしています。 |
高山 敏氏 |
| 〇6月30日(月) 出前講座 長田町小学校4年生
「俳句に挑戦」 |
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| 講師 : 竪畑 政行 (石川県児童文化協会 理事長) 金沢市立長田町小学校に訪問しました。4年生2クラス合わせた36名で出前講座を実施 しました。学習内容は『俳句に挑戦』です。本時のめあては「俳句の約束を知り俳句作りに つなげよう」「俳句は人によって『見方・考え方』に気づこう」です。講師は石川県児童文化協会理事長の竪畑政行(たてはたまさゆき)さんです。 それでは学習内容の一部を紹介します。 1 俳句について知っていることはあるかな? ・五・七・五 ・季語 ・実際に見たこと、体験したことを詠むよ 2 五七五のことばをさがしてみよう ・音数を数えるよ ・チューリップ……五音 ※手を打ちながら音数を数えるといいね ・パイナップル……六音 ※全員で手を打ちながら数えよう ・チョコレート……五音 ※注「ちよこれえいと」とは言わないよね 3 俳句にチャレンジ 難易度★ ◆上五 ◆中七 ◆下五 ①父さんの 玉はやすぎる ②むらさきの ピアスのような ③くさむしり たんぽぽだけは ④ジャングルジム 一ばん上で ※下五に入れてみよう [ A 残したよ B 雪合戦 C さがす秋 D なすの花 ] ↓ ※こんな俳句ができたよ ①父さんの 玉はやすぎる 雪合戦 ・雪合戦(冬) …お気に入り約 5人 ②むらさきのピアスのようななすの花 ・なすの花(夏)…お気に入り約16人 ③くさむしりたんぽぽだけは残したよ ・たんぽぽ(春)…お気に入り約 7人 ④ジャングルジム一ばん上でさがす秋 ・秋 …お気に入り約 5人 子どもたちは喜んで言葉を入れていきました。そして「雪合戦」「ジャングルジム」の言葉 から「字余り」を、他には「字足らず」があることも学んでいきました。 続いて、これらの四つの俳句で自分のお気に入りを選んでもらいました。子どもたちは、一人ひとりにお気に入りが違うことに驚いている様子でした。 4 俳句作りにチャレンジしよう 難易度★★★ ※[ ]は、長田町小の子どもたちが入れた言葉の一例です ① くるりとパーマを かけている [ ・おれの友 ・さくらの木 ・かみの毛は ] ② 夏休み たいくつそうな [ ・子どもたち ・冬休み ] ③ ミニトマト 赤くなる [ ・太郎君のが ・どんどんみのり ・夏にだんだん ] ※小学生が作ったもとの俳句を紹介しました ① ブロッコリー ②ランドセル ③お日様あびて 子どもたちの反応は素晴らしかったです。「うわーすごい。すごいよ」「そうかあ」「本当だ」……。瞬間に驚く子どもたち。言葉に対する敏感な感性の持ち主であることに竪畑先生は驚かれていました。 「驚くことが素晴らしいです。普段から言葉を使う時によく考えているからこそ『ブロッコリー』『ランドセル』と聞いて驚くことができるのです。驚くことができるのは力あることなのです。素敵な子ども達ですね」と語られていました。 学習後、最後に担任の先生にこれからの歩みについて竪畑先生が語られていました。 「は」……はっとしたこと はっけんしたこと 「い」……いつのことかわかるように 「く」……くみたてを考えて 担任の先生方を憧れの眼でみつめて学んでいこうとする長田町小の子ども達でした。時間がきて学習を終えても「俳句つくっていきたいな」と笑顔で話をしている子どもたちもいました。意欲的な学びの灯りをともしている子どもたちとの出会いに感謝いたします。 これからも長田町小学校の子どもたちの「自然あるがままの素直な優しさ」の灯がずっと 灯り続けて健やかに成長されていくことを心から願っています。ありがとうございました。 |
竪畑 政行氏 |
| 〇6月28日(土) 第1回短歌入門講座(基礎編)
「ようこそ短歌の世界へ」 ~どんな歌が好きですか~ |
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| 講師 : 栂 満智子(短歌雑誌「新雪」主宰) 短歌入門講座の開講です。講師は、短歌雑誌「新雪」主宰を務め、ご自身の歌集 「ゆきあかり」にて令和2年 泉鏡花記念金沢市民文学賞を受賞された栂 満智子先生です。 基礎講座は全3回で、第1回「なぜ「歌」っていうの」、第2回「見つけた一首を紹介して ください」、第3回「あなたもときめきを探して短歌をつくってみましょう」となっています。 第1回講座内容の概要をお伝えします。 1 短歌とは何? ・五、七、五、七、七の三十一文字(音) 一首、二首と数える。 ・反歌とは…長歌に付いていて、長歌を要約したり、補ったりする短歌。 和歌とは…長歌、あるいは短歌に和えて(こたえて)詠われた短歌。 〇なぜ「うた」というのか? ・長歌の多くは祭事や行事の際に朗詠されてきた ※式典に「うた」はつきものですね まだ文字がなかった時代 伝誦(口承) 古事記 稗田阿礼(天武天皇) 伝誦に基づいて記録された『古事記』 ※太安万侶が編纂する 古事記に前後して編纂されたのが、日本最古の和歌集『万葉集』 ※万葉集は「うた」の原点と言える 短歌朗詠されている ※さまざまな短歌大会で入選の短歌が朗詠されている ・日常を切り取って、短歌にしよう-想いを三十一文字に込める 「つぶやきを入れる器に丁度いい三十一文字にわたしを仕舞う」 平成二十八年第三十九回石川県人歌人協会大会 日本歌人クラブ会長賞作品 ・ときめきをみつけましょう 心に生まれる 喜び、怒り、悲しみ、楽しみ(喜怒哀楽) 加えて感動、希望、憧れ、驚きなどを言葉にしてゆく 言葉を探す。さらには詩情のある言葉に変換する。 歌はカタルシス(浄化)と言われる由縁 ※相手の気持ちに寄り添って言葉にしていく。自分の気持ちの持ちようで、人は 変わっていける。そうやって人は豊かな人生を送れるのではないか。 ■遊んでみましょう。あなたの好きな歌はありますか。 ※栂先生から二十五種の短歌を書いたプリントをいただきました。受講生一人一人 が好きな歌を紹介し合いました。 ※二十五首の中から受講生が選んだ短歌を一部紹介します。(※は出てきた感想の一部) 〇天の海に雲の波立ち月の船星の林に榜ぎ隠る見ゆ 柿本人麻呂 ※「壮大なうたです。さすが柿本人麻呂です。聡明な方です」 〇銀も金も玉も何せむに勝れる宝子にしかめやも 山上 憶良 ※「現代でも親としてみんなが共感できるうたですね」 〇春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つをとめ 大伴 家持 ※「何と本歌はあの有名な『おおとものやかもち』さんではないですか」 〇世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし 在原 業平 ※「桜がなければ心はざわざわしないのにと語れる業平さんは素敵ですね 〇何となく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな 与謝野晶子 ※「与謝野晶子の歌は、いつも『キラキラッ』としていますね」 〇木屋街は火かげ祇園は花のかげ小雨に暮るる京やはらかき 山川登美子 ※「山川登美子がうたう京都の歌はしっとりとしていて何ともいいですね」 〇くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やばらかに春雨のふる 正岡 子規 ※「『針やはらかに』」の表現のすごさが心に残ります」 〇観覧車回れよ回れ思ひ出は君には一日我には一生 栗木 京子 ※「自己紹介で言ったのですが栂先生はこの歌を書いて下さっていました…」 〇四万十に光の粒をまきながら川面を撫でるかぜの手のひら 俵 万智 ※「『川面を撫でるかぜの手のひら』なんて何てすごい表現なんでしょうか」 〇ほんとうにあたしでいいの?ズボラだし傘もこんなにたくさんあるし 岡本 真帆 ※「私も真帆さんの歌大好きです!」 (離れた場で喜び合う二人の受講者の姿あり) 初めて出会った方々と思えない穏やかな笑顔と雰囲気、そして今短歌を学んでいるという 喜びあふれたみなさんの空気が会場に満ちていました。 「短歌入門講座 基礎編」は、初の試みでしたが、大変に充実したスタートとなりました。 「短歌を創ってみたい」「短歌を詠めたらどんなに良いか」「あの時の感動を短歌で何とか 表したい」「言葉をもっと学んでいきたい」など、お一人お一人がいろいろな思いをお持ちに なって受講されてこられました。感謝の心でいっぱいです。 三回講座とはなりますが、「受講できてよかった」「こんな短歌を詠んでみましたよ」と みんなで喜び合える講座にと思います。 次回は、7月26日(土)午前10時30分からです。 次回テーマは「どんな歌が好きですか。お気に入りの歌を紹介してください」です。 次回、あなたが好きな歌を一首紹介ください。そして、どうして好きなのかもいえるように してきてください。提出〆切日は講座10日前です。「メール」「お手紙」「FAX」 「持参」どんな方法でも構いませんので、「①好きな短歌 ②作者名 ③ご自分の名前」を 書いて本館までお送りください。 皆様の多数のご参加をお待ちしております。 猛暑が続いております。くれぐれもお身体 ご自愛ください。 |
栂 満智子氏 |
| 〇6月23日(月) 出前講座 犀桜小学校3年生
「はいくってなあに?」 |
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| 講師 : 竪畑 政行 (石川県児童文化協会 理事長) 金沢市立犀桜小学校に訪問しました。3年生2クラス56名で1クラスずつの出前講座を 実施しました。学習内容は『はいくってなあに』です。俳句について知識を得て、俳句に興味 をもっていく学習です。講師は石川県児童文化協会理事長の竪畑政行(たてはたまさゆき) さんです。それでは学習内容の一部を紹介します。 1 俳句について知っていることはあるかな? ・五・七・五 の文字数だ。 ・季語が入っている。季節の言葉が入っている。 ・世界で一番短い詩だ。十七音だ。 2 この中に俳句はありますか? ① 道を歩いていた。急に強い風がふいてきた。ぼうしがとんでいった。 →五七五▲…………俳句× ② つよい風 ぼくのぼうしが とばされた →▲季節の言葉……俳句× ③ 春風に ふかれてぼうし とんでゆく →〇季節の言葉 〇五七五 ……俳句〇 ④ 春風が ぼくのぼうしを かぶってく →〇季節の言葉 〇五七五 ……俳句〇 3 「あなうめはいく」に挑戦しよう ① お日さまあびて 赤くなる ② 夏休み ランドセル ③ 運動会 声えんの中 ④ はっけよい すもうとる 子どもたちの反応を大切に学習が進行しました。 いくつかの場面を紹介します。 ◇A 問いかけ1の場面で T 俳句で知っていることある? P ……静かに時が過ぎていく……(なかなか発言が出てこない様子を見て) T うん。(優しく)知らなかったら出てこないよね。ではみんなに教えるよ。 ※子ども達に「五七五で十七音あること」「季節の言葉が入っていること」をゆっくりと 板書して子ども達の反応を活かしながら伝えていきました。戸惑う子ども達を追い込む のでなく、優しく子ども達に寄り添っていく竪畑先生の姿がそこにはありました。 子どもたちの安堵した顔が印象的でした。 ◇B 問いかけ2の場面で T 「①は俳句かな?」「俳句だと思う人は?」(全員に向けて) P …挙手は0人……でも反応は弱い……(俳句〇→挙手0人) T 「①は俳句じゃないよっていう人いる?」 P …一人が手を挙げる…(俳句▲→挙手1人) ※どちらも一人以外挙手なし T (優しく、挙手した子の側に行き、手の平で大事に包み込むようにし…) 「俳句じゃない。あなたはそう思ったんだね」(共感するように) P …うなずく子ども達(理由を言うと周りの子らも続きます) P「言葉が短くないから」 P「五七五でないから」 P「。がついているから」 P「句読点?」 ※挙手があったのは一人。でもそっと近づき「あなたはそう思ったんだよね」と優しく語り かける竪畑先生。すると自然に理由を語りだすたくさんの子どもたちがそこにはいま した。勇気ある子どもの心をそっと支える優しき言葉かけ。安心した子どもはうなずき 語り始め、やがて周りの子も語りだしました。友達の勇気が自然と周りの子どもたちに 広がっていき、教室には爽やかな風が吹き込んでくるようでした。 ◇C 問いかけ2の場面で T 「②は俳句じゃないと思う人は?」 →P「6人挙手」 T 「②は俳句だと思う人は?」 →P「挙手なし」 T 「迷っている人いる?」 →P…顔を見合わせ多数 →T「みんな迷っているんだ」 P 「つよい風じゃ季節はわからないかなと思う」 P 「夏も冬も強い風が吹くよ…」「台風もある」 P 「つよい風だけだと季節はわからないよ」 ※一人一人の表情を見て、子どもたちの迷いの心を竪畑先生は感じられたのですね。 「迷っている人いる?」という先生の声かけ。なんと優しく的確な言葉かけでしょう。 子ども達は自然に語りだしました。挙手のなかった20人ほどの子どもたちの迷いの表情 を見て、一人一人の心に瞬時に寄り添われたのですね。 そして自ら動き、語りだした 子ども達。きっと子ども達の心には、春一番、夏の台風、冬の木枯らしなど、さまざまな 風ある情景が心の瞼に映ったのだと思います。 そしてそんな豊かな心の情景描写から「強い風だけでは季節はわからない」との思いが したのでしょう。なんと素敵な子ども達でしょう。教育の喜びを感じる時となりました。 俳句学習でしたが、子どもたちの実態に合わせてやり方を瞬時に変更しながらの学習があり ました。2クラスのやり方は異なっていました。多くの挙手していない子がいれば、その子らの 表情を見て、瞬時に共感して心揺り動かそうとされる場面、「秋は『柿』がある」との発言があれば「私は柿が大好きなんです」と先生が共感されていく場面。すると自然に「そうなんだ」「私も好き」とみんなが笑顔になっていきます。 「子どもと共につくる喜びの学習」の心がそこにはあるように感じられました。 最後、帰路につかれる時、玄関で竪畑先生は 「今日の学習で私は反省させられることが いろいろとありました。改善していかねばならないと思います。まだまだです。いつまで たっても勉強ですね」と言われました。 犀川のほとりにある犀桜小学校は、心遣いあふれる校長先生、温かき素敵な先生方、そして 子どもたちの明るい挨拶が廊下で響き合う素晴らしい学校でした。 素敵な出会いをありがとうございました。 犀桜小学校のみなさんの健やかな成長を心から願っています。 楽しい「読み聞かせ学習」(紙芝居、手遊び歌、手品、金沢民話)、クラスごとでゆったり と聞く「語りの学習」、短歌協会の先生方による短歌入門出前講座(はじめての方大歓迎) などの学校出前講座は少しばかりの空きがあります。 ぜひ金沢文芸館にお問合せください。無料です。申し込みをお待ちしています。 |
竪畑 政行氏 |
| 〇6月21日(土) 第2回小説講座
小説の実作について① |
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| 講師 : 藪下 悦子(やぶした えつこ)(小説家) 第2回小説講座です。講師の藪下さんは、童話作家、小説家、そして『櫻坂』同人です。 また、小説『こおりとうふ』で、第50回泉鏡花記念金沢市民文学賞を受賞されています。 藪下さんから小説の実作について貴重な講義をいただきました。 内容を抜粋して紹介いたします。 1 小説の上達に必要なことは? (1)読み手を引きずり込むことが大切 〇余韻を残せるかどうか ・小説は「ストーリー」と「心の動き」からなる。充実感は「人を描く」ことから 生まれてくる。ストーリーは二次的なものである。 ・最後の場面で「手紙の文字が自分を見てくる」といった文言を入れた小説があった。 この文言は読者の心に消えない余韻を残すものとなった。 〇いろいろなジャンルにチャレンジしてみよう ・長編、短編、童話、現代小説、時代小説など 〇まずは終わりまで書き上げてみましょう ・途中で「つまらない小説になっている」と思っても、試練だと思い最後まで書き上げ て下さい。必ず後に生きてきます。 〇切磋琢磨していきましょう ・仲間との合評会を大切にしましょう。褒めてばかりやあらさがしはいけない。 作品をよりよくするためにあるものだ。 ・文章の上達に王道はない。継続は力なり。チャレンジし続けよう。 ・自分の作品に背表紙をつけて本を作り何らかの入賞を果たす夢を持とう。 ・文章力をつけていこう。書き慣れてはいけない。 新しい題材へ絶えず進んでいく心が大切だ。 2 書き出しの重要性について (1)12作家の作品の書き出しを見てみよう 12作家12作品の小説「書き出し」を挙げて、その違いと重要性についてお話 いただきました。ここでは冒頭部から一部を紹介します。 〇「透光の樹」 高樹のぶ子 著 谷崎潤一郎賞 文芸春秋 ※長編小説 白山を源に、加賀平野を流れて下って日本海へと注ぐ手取川が、左右に迫る山肌 からするりと解き放たれて、陽光のもとでのびやかに両手を広げながら流域を大きく するのが、鶴来町だ。 〇「こおろぎ」(「ふたりぐらし」より) 桜木紫乃 著 新潮社 ※短編小説 冷房の効いた車両に入ると、信好の額から汗が噴きだしてきた。 母のテルは迷いない様子で優先席に座る。昼時にさしかかり、札幌行きの快速電車 には季節から解放されたようなのどかさが漂っていた。 〇「禁忌の子」 山口未桜 著 鮎川哲也賞 本屋大賞ノミネート 東京創元社 ※長編小説 2023年4月17日、午後8時15分。ホットラインが鳴った。 「はい、こちらは兵庫市民救急科の武田です」 〇「元彼の遺言状」 新川帆立 著 「このミステリーがすごい!」大賞 宝島社 ※長編小説 差し出された指輪を見て、私は思わず天をあおいだ。信夫と私は、東京ステーション ホテルのフレンチレストランで、フルコースのデザートを食べ終わったところだった。 〇「ブラック・ヴィーナス」 城山真一 著 「このミステリーがすごい!」大賞 宝島社 ※長編小説 金沢市の中心部、オフィスビルが立ち並ぶ百万石通り。その一角にある雑居ビル 一階のカフェで、百瀬良太と二札茜は向かい合わせに座っていた。 〇「C線上のアリア」 湊かなえ 著 朝日新聞出版 ※長編小説 生きる――。 その言葉を自分の未来に重ね、輝いたのでありたいという願望を抱きながら、足元に 転がる石を丁寧に拾い上げて磨き、太陽にかざしてから積み重ねる。 〇「小説8050」 林真理子 著 新潮社 ※長編小説 銀色のトレイの上に、根本が茶色く変化した歯を一本置いた。それは73歳の女の、 最後のあがきのような歯であった。 〇「思い出トランプ かわうそ」(「思い出トランプ」より 向田邦子 著 新潮社 ※短編小説 指先から煙草が落ちたのは、月曜の夕方だった。 宅次は縁側に腰かけて庭を眺めながら煙草を吸い、妻の厚子は座敷で洗濯物をたたみ ながら、いつものはなしを蒸し返していたときである。 〇「戻り川心中」 連城三紀彦 著 日本推理作家協会賞 光文社 ※短編小説 苑田岳葉は、近代の産んだ天才歌人のひとりである。 大正元年、雑誌「くれなゐ」に最初の歌を発表し、以後十四年間に五千首にのぼる歌 を詠み、大正末年、一つの時代の崩壊と運命を共にするように、三十四歳のまだ若い命 を落とした。その意味で大正期を代表する歌人と言える。 〇「神無月」 宮部みゆき 著 新潮社 ※短編小説 夜も更けて、ほの暗い居酒屋の片隅に、岡っ引きがひとり、飴色の醤油樽に腰を 据え、店の親父を相手に酒を飲んでいる。 親父はとうに六十をすぎた小柄な老人で、頭の上に乗っている髷は銀糸色、背中も ずいぶんと丸くなっている。 〇「たそがれ清兵衛」 藤沢周平 著 新潮社 ※短編小説 時刻は四ツ半(午後十一時)を過ぎているのに、城の北の濠ばたにある小海町の家老 屋敷、杉山家の奥にはまだ灯がともっていた。 客が二人いた。組頭の寺内権兵衛と郡奉行の大塚七十郎である。 〇「女武芸者」(「剣客商売一」より) 池波正太郎 著 吉川英治文学賞 新潮社 ※短編小説 冷たい風に、竹藪がそよいでいる。 西にひろがる田園の彼方の空の、重くたれこめた雲の裂目から、夕焼けが滲んで 見えた。 長編小説の書き出し、短編小説の書き出しには違いがある等、様々な作家の作品の書き出しを見ていきました。どの作家も書き出しを大切に想って書いていることを その実作品から学んでいきました。 (2)書き出しに必要な要素は? 〇「これから何が起きるのだろう」そんな予兆を感じさせるはじまりであること 〇まずストーリーをはじめていくこと 誰が誰にどんな場面で何をしているか 〇登場人物の行動から性格描写が伝わるよう、重要な部分にしぼること 〇短く簡潔な描写であってほしい 〇登場人物のキャラクターを立てていくこと ・たけし ・たかし ※登場人物の頭を同じにしない 〇主人公を動かす事が大切。自分自身で悩んで苦しんで書くことで自力解決を。 〇人物は敵対するライバルがいて力が拮抗している方が面白い。 〇主人公が変化していくことが大切。 〇読者にどう伝わるのかを意識して推敲していこう。読者の心に傷を残す。 いつまでも続く余韻を大切にしていくこと 薮下先生は「小説の実作について①」講座で、ご自身の小説家としての日々の歩みから 学ばれたことを惜しみなく受講生に与えて下さいました。 「小説を書くことに王道はない。全体の中でそれを書くことが必要かどうかを見極めていく ことが大切だ。読者の力を信じて書いてほしい」 「目の前の作品に全力投球をしてほしい。井戸水は汲んだら新たな水が湧くものだ」 薮下先生、貴重な講義をいただきありがとうございました。 次回の講座は7月19日(土)第1グループ(皆川先生、宮嶌先生)、 7月26日(土)第2グループ(皆川先生、藪下先生)で提出作品の批評会です。 受講生のみなさんは該当グループでご参加下さい。 ただ今年度から、自分のグループでない日時も希望があれば参加できます。 合評会で意見を述べることも可能です。 希望参加される方は座席の都合もありますので、必ず事前に本館までお知らせください。 よろしくお願いします。 |
藪下 悦子氏 |
| 〇6月14日(土) 第1回詩入門講座
自分の想いから生まれ出る詩 |
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| 講師 : 木村 透子(詩誌「イリプス」同人) 和田 康一郎(金城大学非常勤講師) 今年度の詩入門講座は三人の講師の方にお力いただきます。 井崎 外枝子先生(詩誌「笛」同人)、木村 透子先生(詩誌「イリプス」同人)、 和田 康一郎先生(金城大学非常勤講師)です。 今年度は14名受講での講座がスタートしました。多くの方にお越しいただきました。 より楽しく深まりある詩入門講座を目指し、先生方には工夫いただいての講座となります。 受講生のみなさん、一年間よろしくお願いいたします。 お二人の講義から一部抜粋してお伝えします。 1 詩人「木村 透子」先生の講義から 〇『自分の想いから生まれる詩』であるために ・自分の思うこと、感じることを言葉で表現する 他者に読まれるための作品にする ・詩とは何か? …詩に「きまり」はない。形も決まっていないし、何を書いてもよい 各自が答えを探す、各自の答えがある。答えは一つではない ・多くの詩を読むこと 自分の好きな詩を見つけること こんな詩を書きたいと思う詩を見つけること 好きな詩を徹底的に分析すること 言葉づかい、どのように感じどのように表現しているかを学ぶ ・詩の創作において 最終的には自分にしか書けない詩を作り出す 自分の世界観、オリジナリティが大事 日常生活の中で感情や感動を大事に育んでいく 言葉の一語一語を大切にする 句読点、行あけ、連、段落などにも気を配る 木村先生からは、「好きな詩を持つこと」の大切さ、好きな詩の模倣からスタートしてみる こと、徐々に自分のオリジナリティを大事にしていくことなどを学びました。無理をせずに 自然体で言葉と向きあう大切さをかたっていただきました。 2 研究家「和田 康一郎」先生の講義から 〇詩は言葉の舞踏である 舞踏には魅力が欠けてはならない 〈散文は歩行であり、詩は舞踏である〉 - ポール・ヴァレリー(仏) 言葉にどうやって「歩行」ではなく「舞踏」をさせるか ※方法の選択について、他分野(絵画)を参考に 和田先生から、ピカソの絵画「ゲルニカ」が提示されました。 「なぜ本作品は『わからない』絵なのか?」について考察がありました。 ・そもそも本作品は写実を選択していない ・当時(第一次世界大戦)の現実を反映している。本戦争は一般市民を巻き込む戦争 で、これまでの戦争とは全く違う ・現実を写実的に描くと、本作品が逆にバクダン(爆弾)をたたえることとなる。 それをピカソは避けたのであろう。 ※新鮮な言葉遣い 他分野(広告コピー)を参考に 異化効果 …見慣れた当たり前と思っている物事に対して違和感を差し込み、 新鮮に感じさせる手法 (例)きゅうりをぬか漬けにしたことを、「1か月間、暗闇に監禁した」と表現する ※詩が目指すものは「娯楽」の面白さではない。 「鑑賞に値する」という意味での「魅力」である。 ※言葉のみが道具で、絵筆も楽器(やメロディー)も不要。 自分が感じたことが出発点ではあるが、「自分が感じた」にとどまらない内容を。 和田先生からは、詩が目指すものは「鑑賞に値する」という意味での「魅力」であること、 よく自分が感じたことを言葉にと言われがちであるが「自分が感じた」にとどまらない内容を 目指していかねばならないことなど、創作文芸「詩」を見つめていく新たな視点を持つことの 大切さを学ばせていただきました。 3 受講生のアンケートから (1)好きな作家は? ・武者小路実篤 ・長田 弘 ・宮沢賢治 ・谷川俊太郎 ・金子みすゞ ・八木重吉 ・石川啄木 ・新川和江 ・高村光太郎 (2)最近読んだ詩でよかった作品 ・武者小路実篤「一個の人間」 ・金子みすゞ「花屋の爺さん」 ・立原道造「のちのおもひに」 受講生のみなさんから様々な詩人名が出てまいりました。ぜひそれらの詩人の詩を紹介し 合って受講生同士でも話し合えたらより深まりが出てくるように思います。 これからの詩入門講座の歩みが楽しみで仕方がありません。 三人の先生方、受講生の皆さん、そしてさまざまな詩人との出会いを通して、広まりと 深まりのある充実した講座にと思います。受講生のみなさん、よろしくお願いします。 次回は、7月12日(土)「詩というもの①」で和田康一郎先生の講義です。 また7月12日(土)が試作品の提出〆切日となっています。 8月9日(土)は試作詩の批評と推敲日です。皆さんの詩の提出をお待ちしています。 |
木村 透子氏 和田 康一郎氏 |
| 〇6月14日(土) 第2回小説入門講座
小説作りの基本とは |
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| 講師 : 小網 春美(「飢餓祭」同人) 第2回小説入門講座の講師は、小説家の小網春美さんです。小網さんは2023年度、 「しずり雪」(能登印刷出版部)にて「泉鏡花記念金沢市民文学賞」を受賞されました。 小網さんは、2008年度から17年間、小説入門講座の講師を務め、たくさんの受講生を 育ててこられました。また、長い執筆活動の中から学んでこられた教えを講義いただきました。一部とはなりますが、紹介します。 ◎小説を書く意味は? 1 小川洋子「深き心の底より」に収められた「人間の哀しさ」から ・小網さんは講座の初めに、まず本作品を朗読されました。※次は抜粋です 子供の頃、自転車に乗った、野菜売りのおじいさんがいた。小雨が降っていた日、商売 のすんだおじいさんが家の前に止めた自転車に乗ろうとしていた。(中略)しまいに おじいさんは、「乗れん」とつぶやいて、自分をあざけるように弱々しく笑った。 (中略) 私は夜、その光景を繰り返し思い浮かべて泣いた。泣くことが一番ふさわしいわけでは ないと分かっていたが、他に気持ちを表現する方法を知らなかった。 単純にかわいそうに思ったからではない。手助けすべきだったのにと後悔したわけでも ない。はかなく、哀しい様子を目のあたりにし、深く心に染み入り、いとおしく思う。 そんな感じだろうか。でもいくら言葉を継ぎ足しても、足りない気がする。 (中略) 自分が今目にしたものは何だったのか。当時は見当もつかなかった。わけもわからず ただ泣くしかなかった。やがて私は小説を書くようになった。涙の代わりをしてくれる 表現の方法を、ようやく見つけた。(後略) 本文は1997年5月26日毎日新聞に「あはれの記憶」として掲載されたものです。 小網先生は「人には知られたくない心の闇がある」「自分の思いの丈を小説に込めていただきたい」との話がありました。「小説を書く意味」について考えさせられる講義となりました。 2 『若い読者のための短編小説案内』村上春樹 著 から 「短篇小説の名手」と呼ばれる作家だって、すべてがすべて傑作揃いというわけではあり ません。(中略)極端な言い方をすれば「失敗してこその短編小説」なのです。 (中略)作家は短編小説を書くときには、失敗を恐れてはならないということです。 たとえ失敗をしても、その結果作品の完成度がそれほど高くなくなったとしても、 それが前向きの失敗であれば、その失敗はおそらく先につながっていきます。 本作品は金沢文芸館三階本棚にもあります。受講生の皆さん、よかったらお読みください。 3 小説づくりで大切なことは? (1)注意事項は? ① 場所は移動しないで ② 登場人物は4人ぐらいで ③ 事件は少なく (2)題材を探そう。普段の生活から ➀ 人との関わりから題材を見つけていこう ② 人を眺めていると小説の種がみつかる (3)誰の視点かを考えよう ➀一人称か三人称かを決める ・一人称…主観的になる ・三人称…客観的になる ②視点は決めたら決してぶれないように (4)丁寧語、常体語かを決めよう ・丁寧語…です、ます調 ・常体語…である調、だ調 ※小説は7、8割が大体が「常体語」である。 (5)短い文章を心がけよう ・文章が長いと、主述関係が変わってくる可能性あり。 ・長い文章は、論理的に矛盾が生まれやすい。 ・しばらく時間をおいて読み返そう。客観的に読むことが大切だ。 (6)文章でなりがちなことと心がけについて ・文章がすべる時は抑制を利かせよう ・自分の文章に酔わないこと。興ざめしてしまう。 ・「すごい」「本当に」などは他の文章で表現していこう。 ・ありきたりの表現はしない ・「言う」▲ →「つぶやく」「話す」「吐き捨てる」「小声でささやく」 「大声でどなる」「口ごもる」「申す」など ・的確な言葉を辞書で調べてさがしていく →まゆをひそめて「……」と言った →この言葉でいいのかと自分自身で問いかける ・「現在形」「過去形」バランスよく使い分ける「現在形」は臨場感が出る。 「過去形」ばかりだとつまらない表現となる 最後には、小網先生から「良い小説を読むこと」との話がありました。 以前、小網先生は「読んでもらいたい作家」を紹介されたことがあります。 ・小川洋子 ・川上弘美 ・重松 清 ・村上春樹 ・宮部みゆき ・宮本 輝 ・志賀直哉 ・森 鴎外 ・芥川龍之介 ・三浦哲郎 ・チェーホフ ・ヘミングウェイ… 金沢文芸館では、上にあげた作家(邦人名)の本もいくつか蔵書しています。受講生の 皆さんには研鑚を積んでいただきたいと思います。来館をお待ちしています。 第2回講座は、小網先生の小説家としての経験に裏打ちされた充実した講座となりました。小網先生、ありがとうございました。 次回講座は7月12日(土)「小説を描く力」です。講師は高山 敏先生です。 なお試作作文の提出〆切日となっています。 「失敗してこその短編小説」と村上春樹氏は語っています。 みなさんが全力で創作された試作作文を送付いただくのを楽しみにしています。 |
小網 春美氏 |
| 〇6月11日(水) 出前講座 泉小学校2年生、1年生
お話の読み聞かせ(紙芝居、プレゼン、歌) |
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| 講師:吉國 芳子 (金沢文芸館 読み聞かせ講師) 金沢市立泉小学校に訪問しました。2限目2年生99名、3限目1年生86名、そして 参観で来校された保護者の皆さんに、金沢民話の読み聞かせを実施しました。紙芝居、 昔遊び歌、読み聞かせ、マジック、パワーポイントを取り入れた楽しく充実した2コマ 90分間でした。泉小学校の子ども達の素直な反応に心ときめく時間となりました。 1 本日のプログラム ◇2年生プログラム (1) ハーモニカ演奏「かえるの歌」 (2) 絵かき歌「たこ入道」 (3) 紙芝居 「子そだてゆうれい」(金沢民話) (4) マジックショー「新聞紙から水が出てきたよ!」(手品) (5) 金沢民話「法船寺のねずみ退治」(パワーポイント紙芝居) (6) まとめ 「金沢昔ばなし検定」 ◇1年生プログラム (1)手あそび「納豆の歌」 (2)紙芝居 「まほうつかいのナナばあさん」 (3)マジックショー「新聞紙から水が出てきたよ!」(手品) (4)金沢民話「おおかみを退治したこま犬」(パワーポイント紙芝居) (5)絵かき歌「たこ入道」 2 2年生・1年生プログラムからの紹介 (1)金沢民話「子そだてゆうれい」(パワーポイント紙芝居)……2年生対象 パワーポイントでの「子そだてゆうれい」の紙芝居です。最初に吉國さんは、2年生の 子ども達に「子そだてゆうれいのお話は、ちょっと怖くて、悲しくて、でもホッとするお話 です」と言われてスタートされました。 毎晩、飴屋に飴を買いに来る女の人。そんな日がずっと続くので、飴屋の主人は不思議 に思い、女の人の後をつけていきます。すると女が入っていったのはお寺の墓地でした。 あるお墓の前ですうっと消えた女の人。主人は和尚さんにその話をして、お墓を掘り起こす と、飴を握りしめながら「おぎゃー、おぎゃー」と泣いている元気な男の子を発見します。 母親が亡くなってゆうれいになっても、一生けん命育てた赤ん坊を和尚さんは立派に育てて いきます。そしてついにはお寺のご住職になっていくというお話でした。 金石にある道入寺には、子育てゆうれいの掛け軸(幽霊になった母親の絵)が残されて います。その掛け軸の写真を見た子どもたちは「本当の話なんだ」「このお話、何も怖くな いよ」「かわいそう」「うん、かわいそう」とうなずき合います。 子ども達は、母親の愛情の深さを小さな胸いっぱい受け止めて、金沢民話の世界に入り 込んでいました。 そんな優しさに心温まる先生方、保護者の方々、そして私たちがいました。 素晴らしき子ども達との出会いに心が洗われるようで出会いに感謝するばかりでした。 (2)金沢民話「おおかみを退治したこま犬」(パワーポイント紙芝居)……1年生対象 パワーポイントでの「おおかみを退治したこま犬」の紙芝居です。金沢市鳴和「伝燈寺」 に伝わる金沢民話です。ある夜、村の孫娘「みよ」が寝ていたところ、おおかみが家の壁を 食い破って中に入り、みよの手に食らいついて、みよはけがをしてしまいます。そこで、 伝燈寺の和尚さんが寺で彼女をかくまってくれることとなります。 その夜、おおかみは20、30頭の群れとなって寺を襲います。それでも必死に念仏を 唱え続ける和尚さんです。 あくる朝、外を見るとおおかみたちが命を落としていました。そしてふとそばを見ると 2匹のこま犬(石像)が傷だらけになり、その口には血がついていたのでした。孫娘 「みよ」をおおかみから救ってくれたのは、まさにこの2匹のこま犬だったのです。 吉國さんは読み聞かせの後、現在、金沢市牧町三河神社に安置されている「こま犬」 の 写真を見せてくれました。二匹のこま犬の雄々しい迫力ある姿に、子ども達はつい「本当の 話なんだ」とつぶやきます。 吉國さんの読み聞かせは、子ども達のつぶやきを大切に受け入れ、合いの手を入れながら の朗読で、みんな自然に金沢民話の世界に引き込まれていきました。 子ども達の握りこぶし を作りながら一緒におおかみを退治しているような勇気ある 姿が印象的でした。 お話が大好きな情緒豊かな子ども達に育っていることがその姿から感じられました。 出会いに感謝するばかりでした。 泉小学校では、「子育てゆうれい」で、母親の愛情と人を助ける村人の温かさを、そして 「おおかみを退治したこま犬」では、勇気を持って人を助けることの尊さを学んでいる気が しました。2年生のみなさん、素敵な心をありがとうございました。 どの民話にも、人々に伝えたいメッセージが込められており、その想いを大切にして歩もう としている泉小学校の素晴らしき姿に感心させられるばかりでした。 さて他の学校のみなさん。学校出前講座はまだ受講可能です。お話の読み聞かせ、金沢民話 の語り、金沢三文豪講座、短歌講座、俳句講座など、学校に訪問しての講座を 実施します。 お気軽に金沢文芸館まで問い合わせください。 申し込みをお待ちしています。 |
吉國 芳子氏 |
| 〇6月1日(日) 万葉朗読ライブ
令和の金沢・能登に花ひらく古代文化 |
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| 出演 : 戸丸彰子(朗読) 朗読家 戸丸彰子さんによる素朗読です。 今回の企画「万葉朗読ライブ 令和の金沢・能登に花ひらく古代文化」は、三部構成の企画になっています。 ・第一部 6月1日(日)金沢文芸館にて「素朗読 万葉語り」 ・第二部 6月7日(土)14日(土) 「古代食食事会~万葉の宴~」 兼六亭 にて食事を楽しみます。 ・第三部 6月14日(土)2公演、15日(日)1公演 「万葉朗読ライブ」石川県立能楽堂にて 現在、幅広く活躍する表現者(能楽、雅楽、チェロ、ピアノ、 太鼓、映像、時代考証など 多彩なアーティスト)とコラボレーションする戸丸彰子さんの万葉朗読ライブを楽しみま す。 第一部は満席のお客様での朗読会となりました。 次の作品の朗読でした。 ① 「ヤマトタケル」氷室冴子(ひむろ・さえこ) ・「古事記」の記述を元に、英雄の心のうちを描いた人間ヤマトタケルの物語。 氷室さんが一人芝居の舞台を思い書かれた作品です。「言葉はおとであり、ドラマです。 声に出すことで言葉はいのちをもちます。一度、キャラクターになりきって朗読してみて ください」(氷室さんのあとがきから) ② 「死者の書」折口信夫(おりくち・しのぶ) ・物語の中心にあるのは、當麻寺に入って出家し、阿弥陀仏の助けを借りて蓮糸の曼陀羅 を織り上げ現身のまま成仏したという「中将姫伝説」です。 魂呼ばいの「こう こう」や水滴の垂れる「した した」鶯の鳴き声「ほほき ほほき い」などたくさんのオノマトペと美しい古語の響きで表現されています。 ・折口信夫は民俗学者、国文学者です。國學院大學の生徒だった藤井春海を愛し、春海の 故郷である能登羽咋の一ノ宮に親子墓を建てて、今もそこに眠っています。 また、万葉集の編纂者である大伴家持は、29歳の時に国司として越中に赴任して5年間 で223首の歌を詠んでいます。国司の仕事で能登巡行をして数々の歌を詠んだのでし た。そんな家持のことも本書では触れています。 戸丸彰子さんが第三部で演じられる「万葉朗読ライブ」での、各分野で活躍されているアーティストの方々とのコラボレーションは、まさに「総合芸術」といえるものです。 きっと當麻曼陀羅の映像・音楽・能と、朗読が織りなす戸丸さんの万葉朗読ライブは、今まで誰もが成し得なかった新たな世界を創造することでしょう。 例えばショスタコーヴィッチの「日本の詩人の詩による6つのロマンスより『辞世』」と「万葉の世界」とのコラボレーションがなされるなどというのは間違いなく世界初の試みでしょう。そこにはジャンルを超えた新たな世界の創造にチャレンジしていく戸丸彰子さんの姿があります。 そして、本日の万葉朗読ライブ関連企画は「素朗読」です。そこに存在するのは戸丸さんの前にあるマイク一本のみ。そして石・木造りの金沢文芸館の建物と壁を埋め尽くす歴史ある本の数々…。 文芸館の音響効果を手中に収めた戸丸彰子さんの見事な朗読が響き渡りました。 魂呼ばいの「こう こう」や水滴の垂れる「した した」などのオノマトペが、一人一人の脳裏に深き情景となって映し出されていく空間を感じるばかりでした。 探求して止まない戸丸さんの朗読家としての芸術魂には感嘆させられるばかりでした。果敢な戸丸さんのチャレンジ精神は、金沢市を飛び越えて日本へ世界へと広く発信されるべきものと思われました。 戸丸彰子さん、そして何より会場にお越しいただいた皆様に心より感謝申し上げます。 ありがとうございました。 |
戸丸 彰子氏 |
| 〇5月17日(土) 小説講座 第1回
短編小説の魅力について |
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講師
: 宮嶌 公夫(みやじま きみお)(『イミタチオ』同人) 研鑽してきた方々、小説入門講座からあがってきた方々、そして初受講の方々も多数おられ る本講座となりました。 第1回目講師は文学誌『イミタチオ』同人 宮嶌 公夫(みやじま きみお)先生です。 宮嶌先生は各作家の作品分析等をされて「評論活動」をされている方です。 それでは講座について抜粋して紹介します。 1 小説とは何か? 宮嶌先生から、「小説とは何か」と受講生に投げかけがありました。一部紹介します。 〇小説とは何か?……受講生から ・書き手が自分の経験から未知なる空間を創り出していくもの ・経験をもとにし空間にちぎり絵のように想いをちりばめお話を創り上げていくもの ・化学反応を起こしていくもの ・心に感じたことを自分の言葉で書くもの。嘘(虚構)でもそれは真実であるもの ・自らの想いを投げかけ「共有できることがありますか?」と問いかけていくもの 〇小説とは何か?……宮嶌先生から → あくまでも書き手と読み手がいる ・構想世界で「語り手」が「作者」になってしまうと「随筆」となってしまう。 小説は「語り手」の存在を作って「語り手」が「視点人物(主人公)」に寄り c読み手の問題 → 何を読むか ➡ メッセージ(主題)を受け取る → どう読むか ➡ 作品世界を受け取る 2 短篇小説とは? 宮嶌先生からは「a短篇小説の特徴」「b短篇小説を書くために」 〇「b短篇小説を書くために」では、 ・何を伝えたいのか焦点をしっかり絞った主題であること ・可能な限り単純ではない作品世界を立ち上げること 3 川端康成氏の掌編小説「十七歳」から 〇あらすじ 「病気入院中の妹は、ある出来事から「イヤデス」という愛称で呼ばれるようになる。 ある時、妹は蟻が鉛筆の折れた芯を食料と間違って懸命に運ぼうとしているのを発見する。 そこに姉(じきに出産する)が見舞いに来る。実は、二人の姉妹には幼くして亡くなった上 だが、姉はそうすることを断念する。新たな名前を持つ子どもが現世に生まれようとして 〇物語の構造は? → 人物構成・・・妹(焦点化)・姉(一時的に視点人物となる)・母・(上の姉) → 時間構造・・・物語現在(病室の妹・過去の出来事が差し挟まれる) → 作品構造・・・前半から後半への流れ(エピソード) → 「イヤデス」の回想 ➡ 子ども時代の回想 → 白い敷布の上の蟻 ➡ 現在の自分への思い → 母が見舞いに来たときの回想 ➡ 下の妹への思い → 姉の見舞い ➡ 姉への思い 宮嶌先生の講義は、大変に含蓄深いものでした。評論家としての分析は鋭く、これからの 創作文芸活動に役だつものでした。良きスタートとなりました。 宮嶌先生、ありがとうございました。 さて、第2回講座は「6月21日(土)小説の実作について①」で、講師は藪下悦子先生 (小説家)です。今回同様、全受講生に出席いただくのを楽しみにしております。 なお、次回講座までに課題提出があります。ご確認下さい。 ◎ 課題……試作「掌編小説」 ➀ 提出〆切日 6月21日(土)第2回講座時までに提出 ② 400字詰めの原稿用紙で3枚から5枚まで ③ テーマ、題名(自由テーマ 自由題名) 批評会は、第1グループ7月19日(土)、第2グループ7月26日(土)で、どちらかに 所属しての批評会となります。グループ分けについては後日お伝えいたします。 今年度より自分の作品批評会ではない講座でも、参加、意見交換が可能です。 他グループにも参加希望の方は事前に金沢文芸館スタッフまでお知らせください。 座席準備の都合がありますのでよろしくお願いします。 |
宮嶌 公夫先生 |
| 〇5月12日(月) 出前講座 浅野川小学校4年生
三文豪について学ぼう |
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| 講師 : 薮田 由梨 (徳田秋聲記念館 学芸員) 浅野川小学校4年生2クラス計58名が参加し、出前講座「三文豪について学ぼう」を 実施しました。2クラス合同での講座で、講師は徳田秋聲記念館の「薮田 由梨(やぶた ◇金沢の「三文豪」とは 金沢「三文豪」とは「三人」の「文学者」で「豪い(えらい)人」という意味があり、 「徳田秋聲」「泉鏡花」「室生犀星」のことです。三人三様で作風は異なりますが、三人とも故郷の金沢を離れて東京で作家活動を続けました。ふるさと金沢に愛着を持ち、金沢を舞台にした作品も少なくありません。 ◆徳田 秋聲(とくだ しゅうせい) 明治4年、浅野川に近い横山町生まれ、昭和18年に亡くなりました。 ・洋服が好き ・ダンスが趣味 ・動物が苦手 ◆泉 鏡花(いずみ きょうか) 明治6年、浅野川大橋近くの下新町(泉鏡花記念館の場所)に生まれ、昭和14年に亡くなりました。 鏡花は、心の中で空想したファンタジックできらびやかな世界、幽霊や妖怪などが登場する不思議な夢物語を創り出すのが得意な作家です。鏡花は秋聲とは正反対の作風でお互いに喧嘩することもありました。 ・うさぎにちなんだもののコレクター ・かなりのきれい好き ◆室生 犀星(むろお さいせい) 明治22年、犀川の畔にある千日町に生まれ、昭和37年に亡くなりました。 犀星は、秋聲・鏡花よりは十数年も年下で、小説家・詩人・俳人でもあります。なかには、子ども向けの作品もあり親しみやすい作家と言えます。 ・庭づくりが趣味 ・動物好き ・代表作は「杏っ子」「動物詩集」「蜜のあはれ」 ◇三文豪の相性をみてみよう 知って驚く子ども達。 「秋聲はひつじ(未)年。向かい干支のうし(丑)年は犀星なんだ。なるほど。だからこの二人はとっても仲が良かったのかもしれないね」 「泉鏡花は酉年。向い干支は卯年で尾崎紅葉さん。だから仲が良かったんだ」 「自分達は徳田秋聲と同じ未年なんだ。丑の置物がいいのかも…」 「私は申年だ。寅とは相性がいいのか。知らなかったなあ」 様々なことを語る子どもたちでした。自然に学びが心に沁み込んでいくようでした。 最後に、三人の作品から本の一部紹介がありました。徳田秋聲「無駄道」、泉鏡花 徳田秋聲記念館の薮田学芸員には、四年生にわかりやすく授業いただきました。 「素晴らしい反応の子どもたちでした。今度、浅野川中学校の文芸部の25名が徳田秋聲 「僕は薮田さんのお話を伺って、だんだん興味がわいてきました。」と言う子ども達もいま 薮田さんには貴重な学校出前講座をいただきました。ありがとうございました。 金沢文芸館の学校出前講座は、まだ応募が可能です。 お待ちしています。 |
薮田 由梨先生 |
| 〇5月10日(土)第1回 小説入門講座
創作への覚悟と実践 |
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| 講師 : 小西 護(「イミタチオ」同人) 令和7年度は受け入れ最大人数の受講生14名でスタートしました。中高校生から若手、 中堅、ベテランと、いろいろな世代からの参加となりました。 一回目の講師はイミタチオ同人「小西 護(まもる)」先生です。抜粋となりますが内容の 一部を紹介します。 A 基礎編 自分らしさを踏まえて書く ~「ともかく書きたい」という原点から~ 1 読者相(層)を想定し絞り込む ~誰に向けて、何のために発信するか~ ・まず「自分のために」「自分に向けた言葉を書いてみよう」 ・段階的・発展的に不特定多数へと広げる 2 想像力と創造力を大胆に構想する ~文学性と娯楽性、楽しさと辛さ、両面の追求~ ・テーマ (主題、ねらい、主旋律) ・モチーフ(核心・中心思想) ・プロット(展開、筋立て、構想、仕組み) 3 多様多彩なエピソード(挿話)を織り込む ~魅力あるエピソードの蓄積・整理・活用~ ・「実体験」と「奔放な創造」を絡ませる ・間接的な体験・経験・見聞の吟味、咀嚼 B 実践編 作品完成までの覚悟と実践 1 とにかく書き始める 逃げずに書き続ける ◎粘り強く耐え抜く ◎切り替え、風を通す ◎休ませ、寝かせて再スタート ・ノルマを定め 達成させる覚悟 ・自分を褒めてモチベーションの向上を 2 作品完成まで 書くことを最優先に ・創作(書くこと)を生活サイクルの真ん中に置く ・自分の分身(もう一人の自分)との対話を楽しみ味わう ・木を見て森を眺める 森を眺めて木を見直す ・人・自然・身近な現象観察しながら 補筆・修正する ・全般の印象、登場人物の魅力、表現・表記、読み応え、読み味わう楽しさ、迫力、 テーマ性(求心力) ・虚構を絡ませ、小説空間を膨らませる ・敢えて書き尽くさない …読者の想像に委ねる余裕が余韻と奥行きを生む このほか『「創作」(=覚悟して書くこと)を楽しむヒント』も8項目を挙げての説明が ありました。小西先生の体験した素材をもとに話される内容は、受講生の心を惹きつけて 止まないものでした。 「『しなしなー』(「おばあちゃんがよく言っていた言葉ですと…」)と、あきらめず、 あわてず、あせらずやることが小説創作には大切だ。 「ハナミズキの花はまさに空に向かって飛んでいくような様に見えます。それでいて 散る時は、バサッといった感じで落ちていきます。桜の花とは違った趣があります。」 「私が大好きで大切にしている本に、梶井基次郎の『檸檬』があります。教科書にも載った もので私(主人公)が何冊もの本を積み上げて、その上に檸檬を置きます。檸檬を爆弾に 見立てた私が檸檬の実が爆発することを想像して歩いていく…。大変に鮮烈な印象を心に 残す作品です。…」 「川上弘美さん(『大きな鳥にさらわれないよう』第44回泉鏡花文学賞受賞)の講演会で こんな言葉がありました。「小説作りは辛いものです。でもそんな時に助けられることが あります。『登場人物が勝手に動き出す』ことです。」と。この言葉に私自身『はっ』と させられました。」 小説入門講座の第一回目は、創作活動に不安を覚えながらも「小説を書きたい」という 受講生の気持ちがあふれる講座となりました。さっそく出た課題(試作作文7月12日 (土)提出〆切日)にチャレンジしようとする姿に感嘆するばかりでした。 小西護先生、ありがとうございました。今年度一年間、小西護先生、小網春美先生、 受講生のみなさん、これからよろしくお願いいたします。 次回講座は、6月14日(土)小網春美先生(小説家)による「小説作りの基本とは①」 です。貴重なお話を伺う講座になるかと思います。 受講生のみなさんの受講を心よりお待ちしています。 |
小西 護先生 |