金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2021年8月

その352長時間レコードの登場

SP盤は1分間で78回転するので、10インチ(25㎝)盤片面で約3分、12インチ(30㎝)盤で約4分の演奏時間が普通だ。だが、短い時間ですぐに盤を取り換えねばならず、ずいぶんと面倒くさい。
演奏時間の長いクラシック、純邦楽などの曲などは何度もひっくり返さなければならずたいへんだ。

そのため、少しでもその手間を省くいくつかのレコードが作られた。

その1つが「ニットー長時間レコード」だ。

当館にある長唄「勧進帳」(1)(レコード番号L24)は片面で915秒(A面)の録音時間とレーベル記載されている。
通常の12インチ盤の2倍以上の録音時間になる。

これは音溝の長さがレコードの外側と内側では違うため、一定の速度で回転させると音質は違ってくる。
そこで針の速度を曲の頭の部分でゆっくり、終わりに近くなるにつれ早くすれば音質は一定になる。

そんな速度調整器具を取り付ければ音質をUPし、演奏時間も長くなるわけだ。

イギリスでは1921年ごろから「ウオルド・レコード(World Record Ltd.)」が画期的な長時間レコードを発売した。
これを1923(大正12)年日本に入ってきてその翌年、さらに国内盤が制作された。しかし2年未満で解散してしまった。

その後、関西の大手のニットー(日東蓄音器(株))は、大正151926)年10月に「速度調節機」と長時間レコードを発売している。(クリストファ・N・野澤著「SPレコード」より)

蓄音器に取り付けるには、上部にあるインジケーター(回転スピードを指示するつまみ)でスピードをコントロールする。

この速度調節機には回転スピードを一定にするガバナーがついている。


こんな装置とレコードを考案するとは、レコード交換を面倒がっていたのだろう。
人類は、ベートーベン第9の盤を取りかえずに聴けるにはCD登場まで60年ほど待たねばならなかったのだ。


(当館所有のニットー長時間盤(以下を収蔵、全て赤レーベル)
  価格、1枚:赤レーベル:2円50銭、黒レーベル:350銭、紫レーベル:2

L8  筑前琵琶 「宇治川先陣」秋根旭恵 録音時間記載なし
L15稽古用長唄 「供奴」  杵屋登美  12分3秒(A)、11分50秒(B)
L24,25長唄  「勧進帳」1~4 2セット芳村伊四郎 9分15秒、8分2秒、
                         8分19秒、7分7秒
L26 筝曲長唄 「越後獅子」 美之助    8分56秒、9分20秒
L38  新内   「梅川」   富士松佐賀尾 8分10秒、9分45
L54 清元   「お半」   清元巴栄太夫  9分、9分45秒
L58  筑前琵琶 「大高源吾」 秋根旭恵   8分10秒、9分45秒
    *レコード番号、ジャンル、タイトル、演奏者、録音時間、の順 


ニットー長時間レコード「勧進帳(1)」と
スリーブ

「ニットー速度調節機」と書かれている板の左のつまみがインジケーター


速度調節機を取り付け(ターンテーブルがない状態)


速度調節機を取り付け(盤を設置した状態)

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