金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2023年6月

その390「座右の銘は“KEEP ON”

2023(令和5)年3月中頃、ようやくコロナ禍も収まりかけたころ「五木寛之の新金沢百景」の公開録画講演会が開かれた。

久しぶりに五木さんの話を聞きたく思い、出かけた。参加希望者は新聞告知当日に埋まったという。会場は満席だった。

そんな中で立って講演された。そのよどみない話しぶりとも相まって、90歳の卒寿を迎えたとは思えない。

座右の銘はKEEP ON“(続けること)だという。つらいことがあっても、しんどいことがあっても歩き続けねばならない。生き続けねばならない。続けることに値打ちがあると語る。

五木さん自身も「流されゆく日々」と題した新聞記事を11話、54年間続けて11,582回書いたことを紹介された。

 東日本大震災のあとを1人の年老いた女性ががれきの中何かをさがしながら海辺を彷徨(さまよ)っていたのを五木さんは映像見た
「お位牌(いはい)」を探しているという。「位牌」は「依り代(よりしろ)」だ。記憶を呼び起こせるものだ。大事なのは位牌に込められた記憶であり、思い出であり回想でもある。
地震のために明日の生活さえままならない婦人がそれを探している姿に感動したことがあるという。

 前向きの希望や将来の計画は大切だが、昔のことを考え懐かしい感慨や思い出に浸る、あるいはセンチメンタルな気持ちに浸ることは恥ずかしいこと、後ろ向きのことでなく、今の現実、人生を支える大きな力となる。これから先、生きていく支えにしたいと結んだ。

 
音楽も同じではないだろうか。若き日に聞いた音を、再び聞いてみると、そのころの自分に出会える。あの時の大変だったこと、苦労したこと、そして楽しかったこと、嬉しかったこと等ふつふつと思い出されることがある。それが大きなパワーとなるのだ。

古いものを捨て去り断捨離が勧められている時代だが、捨ててしまえば思い出までも捨てることになる。記憶まで捨てることはない。音楽もこれからのパワーを作っていく一因になることがあるのだ。


テレビ金沢制作「五木寛之の新金沢百景」
(テレビ金沢より)





金沢駅前のアートホールでの講演会は
満席だった
(テレビ金沢より)




1日1話、54年間続けた「流されゆく日々」11,582回目の掲載記事
(テレビ金沢より)


ページ