金沢蓄音器館

館長ブログ ほっと物語

2019年2月

その286針の太さで音が変わる

「この針だけですが寄贈します。家にあっても使えませんから」と金沢市内の女性が蓄音器針1箱を大事に持参された。

見ればビクター社の500本入りの蓄音器針で、中身は錆もなくきれいなものだった。ありがたく受け取った。

 その中には「ビクター鋼鉄針の使用に当たって」と小さな紙が封入されていた。片面毎に針を交換すること、一度音溝を痛めると以後は良い音で再生できないことなどの注意書だ。

針先の「尖頭顕微鏡拡大図」が描かれており、針先端のR角度は0.0650.055㎜が音溝にぴったりすると書かれている。ビクター社製なら間違いはないとPRしている。

 1本の鉄針の径をノギスで測ってみると1.45mmだった。通常の針の径は1.40mmが多いので、やや太いほうだろうか。針の長さは12.65mmで通常の1.4mmよりやや短い。短いということは音が大きく再生される。

針の径をいくつか調べてみた。

(国名)(会社名・マーク) (針の径 mm) (針の種類・特徴)
日本  ビクター    1.45    針先は砲弾型
日本  コロムビア   1.45        針先は尖る
日本  タイヘイ    1.60    針先は尖る
日本  JICO    1.40    当館使用針
日本  犬が握手マーク   1.45    LOUD TONE
独   God & Baby      1.40        針先は砲弾型
英   Trex            1.55        金メッキ、10回針
英   Gallotone    1.50       金メッキ、10回針
上海  ビクター    1.60        針先は砲弾型、短い針

 針は太ければいいというわけではない。かえって音が割れたりする場合もあるからだ。鉄針に含まれる炭素の量の大小で針が硬い、柔らかいが変わる。
硬いと長く演奏できるが,盤には強くあたる。柔らかいと盤には優しいが、早く消耗し片面演奏時間が短くなる。
まずは針先が減った針は使わないことだ。音が良くないだけでなく盤が間違いなく傷む。二度と良い音には戻らない。

針一つでも奥が深い。




500本入りのビクター針

きれいな新品だった

封入されていた針先の「尖頭顕微鏡拡大図」

ノギス
その28563年前の自分との出会い

全国から当館に多くの蓄音器、SPレコードなどが寄贈されてくる。うれしく、ありがたいことだ。その中に、「これは!?」と思われるものが時々混じっている。

 年末に関西から送られてきたレコードのなかに、幼稚園の卒園記念で作られた盤が混じっていた。こんな記念品を作るなんて随分と進んだハイカラな幼稚園だ。

その盤はアセテート盤だった。1956(昭和31)年と書かれているので63年前のものだ。

アセテート盤は個人録音用に11枚個別に作られたもので、昔のものは盤に塗られたアセテート材料が剥離してボロボロになり、再生することが難しいものが多い。
しかしこの盤は汚れてはいるもののすこぶる状態がよかった。ゆっくりと丁寧に磨いて、78回転がかかるピックアップの軽いいわゆる「電蓄」で再生を試みた。

なんと幼児の可愛い歌声がしっかりと甦った。

 
盤が入っていた紙袋にある幼児の名前は、送られた寄贈者と苗字が同じだった。まずは寄贈者本人に連絡してみようと思い立った。

当館の寄贈者用紙に記載された電話番号に連絡したところ、3歳年上のお姉さまが歌ったものだとわかった。お姉さまはご健在とのこと。

当館で保存するよりご本人が持たれたほうがよいのではと伝えた。とても喜んでいただいた。

きれいに磨かれたレコードはこうして本人のところに戻っていった。お姉さんは63年前の自分に出会えた。




卒園児が吹き込んだアセテート盤
曲は「さよなら幼稚園」、裏面は「ヒバリの
赤ちゃん」




レコード袋の裏面
レコード盤が空回り(盤が軽いため)する時は、ボール紙かラシャ布を引くよう書かれている


その284音楽産業に情熱はあるか

 恒例の日本レコード協会新年賀詞交換会が平成3117日、東京・紀尾井町のホテルニューオータニで開かれた。集まったのは関係団体、販売流通業界、会員各社、マスコミなど1,000名を超えた。

この会では多くの音楽産業関係者に会え、情報や意見交換が出来るので、小生は毎年参加している。

 CDやDVDは、音楽ビデオの大躍進でプラス成長、音楽配信もネットで聴き放題の「ストリーミング」の伸長で5年連続の成長だという。
日本はここ10年、CD,DVDなどのパッケージ売上は世界一の座を維持しているとのこと。
TPPによって著作権保護期間が70年に延長されたこと、国別の一人当たりの音楽支出金額は日本がトップなどと指摘されていたが、実は肌で感じていることと随分ちがう。

 

かつて人口1万人に1軒のレコード店を作ろうと目指した小売店も、今や日本レコード商業組合員数は支店含めて300店、法人数250店までに減少している。
街にレコード店はなくなったとも言える。

レンタル店も減少の一途をたどっている。
音楽商品を求めるにはネットでの通信販売、また音楽配信があればそれで充分でCDなどのパッケージはいらないという見方まである。

 

当館にある「北海ブギウギ」(唄:笠置シズ子、コロムビアA447)は昭和23年に発売、レーベルに「北海道蓄音器商組合創立15周年記念」と記載されている。
戦後間もない食うにも困る時代に一世を風靡していた笠置シズ子(裏面は「北海おこさ節」、唄:久保幸江)が歌っている。
メーカー応援もあり蓄音器商が集まってヒット曲を狙った行動に脱帽する。
同じ動きは「函館港まつり」(唄:伊藤久男、音丸)、「博多ブギウギ」(唄:笠置シズ子)などにも見られ、全国に広がっていた。
今となっては売れたかどうかというよりも、その熱意に驚く。

ひるがえって細分化された昨今の音楽状況を見ると骨太の音楽への情熱がなくなったのか、音楽そのものに価値がなくなったのか、悩ましい新年のスタートである。


日本レコード協会重村博文会長あいさつ

木村三郎元日レ協専務理事、西山千秋テイチク元社長、㈱伊藤楽器賢二会長、門倉
昭一日レ商理事長(右から)


山野井真澄テイチク取締役、小生、
日本コロムビアアーカイビング部斉藤徹氏、
飯田浩司明治学院大経済学部教授
(左から)

「北海ブギウギ」(唄:笠置シズ子、
コロムビア、レコード番号A447)

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